説明

絹不織布の製造方法

この発明は、蚕の繭から純粋な絹繊維素を抽出し、この絹繊維素束を精錬してシート状にした後、その表面または両面に黄蜀葵根の糊を染み込ませて絹不織布を製造する方法に関し、従来より数千年間に亘って織物用としてのみ使用されてきた絹繊維の新規な利用方法を開発している。
このような試みは、蚕の繭そのものを構成している自然状態での不織布を解体し、これを人間の必要性に合わせて再構成する技術的な課題を解決することにより行われる。
その結果、本発明者らは、環境に優しくて人体に有益であり、衣類などでの縫製、裁断、充填(衣類の裏地用である場合)加工性に優れていると共に、火が付いても燃え移ることのない、防寒衣類の裏地、壁紙、ろ過材などとして使用可能な天然素材としての絹不織布を得るに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絹不織布の製造方法に係り、さらに詳しくは、蚕の繭を切断し、高温高圧の条件下で蚕の繭からワックス成分を除去して純粋な絹繊維素であるフィブロインのみを分離・打綿して1次成形した後、接着剤であるトロロアオイロによりその成形を仕上げることにより絹不織布を機械的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、絹織物の開発は大よそ数千年前に遡る。すなわち、蚕が作った蚕の繭を煮込んで、手作業や機械作業によりその糸を紡ぎ出して原糸を得た後、これを手作業や機械作業により織って織物を得るといった方法が数千年前からこれまで続いてきた絹織物の製造方法である。
このような伝統的な絹織物の生産方法の他に、蚕の繭から織物ではない不織布を得ようとするという発想は、理論的にはさておいても、実際にこれを試みたケースは極めてまれである。
【0003】
大韓民国特許庁の管轄下にある特許情報院の自動検索システムに「絹不織布」という検索後を入れて絞り検索してみたところ、下記の如き2種類の特許が登録されていることが分かった。
1.出願番号特1980−0000358(1980年1月31日付出願)の絹不織布の製造方法
その特許の要旨は、合計約26日間の5齢の終わった吐糸直前の蚕を縦壁が形成されていない蚕網に載せ、人間の監視下で通常の楕円状の蚕の繭の代わりに平面の蚕の繭を紡がせて1種の絹不織布を得る方法である。
2.出願番号10−2003−7011871(2003年9月9日付け出願)の絹及び/または絹類似材料の極細繊維よりなる不織布及びその製造方法
この特許の要旨は、絹フィブロイン及び/または絹類似材料の極細よりなる不織布及び絹フィブロイン及び/または絹類似材料をヘキサフルオロアセトン水和物またはそれを主成分とする溶媒に溶解した後、得られた溶液からエレクトロスピニング、放射して不織布を得る方法である。
【0004】
それらの他に、この発明の発明者が出願している「難燃性不織布の製造方法」(出願番号20−2003−0039912、2003年12月23日付け出願)がある。この特許の要旨は、蚕の繭を細かく切断し、高圧高温の条件下で煮込んで純粋な絹繊維素を得、これを洗浄して打綿した後、さらに粉砕して水に解き、接着性糊を加えた後、その溶解を簾にかけて韓紙状に捗いて乾燥することにより不織布を得ているが、これは、かなり手作業のかかる絹不織布の製造方法である。
以上から明らかなように、本発明は、従来のいかなる製造方法よりも効率よく、しかも、手間をあまりかけずに絹不織布が得られる方法であり、絹不織布の製造を産業化できる最適な1方法であるといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蚕の繭は、幾分のワックス成分と、全体の約77%を占めるフィブロインという純粋なタンパク質よりなる絹繊維素とにより構成されている。すなわち、自然の状態で、蚕の繭は、自らの絹繊維素を自分の方式により一定の形状に固定して天然不織布を作っているというわけである。この状態では、我々の実用に供されないため、この自然の不織布を解体し、我々の要求に応じて再構成する必要性がでてくる。これらを基本的な前提として、本発明が解決しようとする技術的な課題としては、下記の3つが挙げられる。
【0006】
先ず、第1の課題は、蚕の繭を構成している2種類の主成分の完璧な分離技術である。この課題のために、本発明が採っている方式が、高圧の高温水中でワックス成分を溶解して除去する工程を行うことである。
第2の課題は、分離された純粋な絹繊維素を1次的に形成する技術である我々は、この課題のために、従来の木綿加工に使われていた打綿機を応用し、新たな材料の加工にぴったりな打綿装置を開発している。
第3の課題は、打綿工程を経て1次形成された絹繊維素を安定した繊維組織の固着する技術である。この課題は、結局、韓国の伝統的な韓紙の製作過程に使われていたトロロアオイ(黄蜀葵の根などにより作られた植物性の接着剤)を応用することにより解決することができた。
以上のごとき技術的な課題を解決することにより、天然の絹不織布とは全くその形態と成分の異なる新規な絹不織布を作り出すことが可能になった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のごとき課題を解決するために、本発明による絹不織布の製造方法は、蚕の繭を切断して絹繊維素材料を用意する切断工程10と、切断工程程10により得られた絹繊維素材料を高温高圧の圧力タンクにおいて所定定の時間煮込んで汚染物とワックス成分を完全に除去することにより絹繊維素を得る煮込み工程20と、煮込み工程20により得られた絹繊維素を工業用の洗濯機と流れる蒸留水を用いて洗浄する洗浄工程30と、洗浄工程30により洗浄された絹繊維素を熱い空気により乾燥する乾燥工程40と、乾燥工程40により乾燥された絹繊維素を3回に亘って縦横に叩く打綿工程50と、打綿工程50により1次形成された絹繊維素にトロロアオイを霧状に吹き付けて安定した繊維組織を形成する接着剤噴射工程60と、接着剤工程60により最終的に形成された不織布を熱板に通させて乾燥する乾燥工程70と、乾燥工程70により乾燥された不織布にアイロンをかけるアイロンがけ工程80と、アイロンがけ工程80の行われた不織布を仕上げるトリミング工程90とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
天然素材製であることから環境にやさしくて人体に有益であり、火が付いても燃え移ることがないと共に、人類にとっては、衣類の裏地用に用いたときの縫製、裁断、充填加工性が他の同種の裏地、すなわち、木綿、羊毛、鴨の毛、ガチョウ毛などとは匹敵できない優れた新素材を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面に基づき、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
蚕の繭としては、等級のあるもの、等級のないもの、あるいは、その他の副蚕糸を用いるが、繭状のものについては、半分に切り分けた後、その中のさなぎと保護皮膜を除去して用いる。
【0010】
次いで、上記の如き切断工程10により切断された蚕の繭の欠片を3トンないし3.5トンの高圧タンクに入れて、約135℃の水中で2時間30分間煮込む工程20を経るが、この工程により蚕の繭の欠片から汚染物質とワックス成分が完全に除去された純粋な絹繊維素が得られる。これが、いわゆるアミノ酸タンパク質のみよりなるフィブロインである。このフィブロインは、ナノレベルの数多くのフィブリルという超極細糸よりなり、電子顕微鏡により観察すると、数え切れない空隙が見られると言われているが、このような構造が環境にやさしく、且つ、人体に有益な性質の一因となるといえる。
【0011】
このようにして蚕の繭を煮込んだ後、掬い上げると、絹繊維素が綿状に固まるが、この絹繊維素の固まりを工業用の洗濯槽に入れて、100℃の熱水中で30分間さらに煮込んだ後に取り出し、次いで、蒸留水レベルの浄水が流れるように24時間放置して清潔にする洗浄工程30を経ることになる。
【0012】
この洗浄工程30により洗浄された絹繊維素の固まりを熱風乾燥器によりよく乾燥させる乾燥工程40を行うことにより、絹繊維素の固まりは密に固まった繊維組織状をなすことになる。
この後、このような絹繊維素を打綿機の入口に均一に繰り広げると、打綿機が3回に亘って絹繊維素を縦横に叩き伸ばし、柔らかな綿状にする打綿工程50が行われる。
【0013】
さらに、後続する重要な工程である接着剤噴射工程60を行うが、これは、打綿工程50により一定の幅と厚さに1次成形された絹繊維素シートを黄蜀葵の根などよりなるトロロアオイ噴射装置に通させ、霧状のトロロアオイを絹繊維素シートの表面(フィルター用の絹不織布や壁紙用の絹不織布の場合)または両面(衣類の裏地用の不織布の場合)に満遍なく噴霧して染み込ませて最終的な成形を行い、不織布としての安定した繊維組織を形成する工程である。
【0014】
この後、接着噴射工程60によりほとんど完成された絹不織布を熱管に通させて乾燥する乾燥工程70と、この乾燥されて結果物にアイロンをかけて外観と形状を仕上げるアイロンがけ工程80と、周縁を揃うトリミング工程90と、を順次に行うことにより、絹不織布の製作を終了する。
以上の工程を経て得られた絹不織布は、その接着剤の噴射方式に応じて、平面シート状のものと、厚目で且つうぶげの触感があるシート状のものという2種に大別でき、その形状に応じてそれぞれフィルター類、壁紙、衣類用の裏地などに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による絹不織布の製造方法の工程手順書である。
【図2】本発明による絹不織布の製造のための専用機械設計図である。
【符号の説明】
【0016】
10:切断工程
20:煮込み工程
30:洗浄工程
40:乾燥工程
50:打綿工程
60:接着剤噴射工程
70:乾燥工程
80:アイロンがけ工程
90:トリミング工程
▲1▼、▲2▼:打綿装置
▲4▼:接着剤噴射装置
▲5▼:乾燥装置
▲6▼:アイロンがけ装置
▲7▼、▲8▼:トリミング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絹不織布を製造する方法であって、蚕の繭を切断してさなぎとその保護皮膜を除去する切断工程(10)と、切断工程(10)により得られた絹繊維素材料を高圧(3トンないし3.5トン)の高温(135℃)水中で2.5時間煮込んで汚染物とワックス成分を完全に除去することにより絹繊維素を得る煮込み工程(20)と、煮込み工程(20)により得られた絹繊維素を100℃水の洗濯槽に入れて30分間煮込んだ後、流れる蒸留水レベルの水により24時間洗浄する洗浄工程(30)と、洗浄工程(30)により洗浄された絹繊維素を熱い空気により乾燥する乾燥工程(40)と、乾燥工程(40)により乾燥された絹繊維素を3回に亘って1.5mmの厚さになるように縦横に叩く打綿工程(50)と、打綿工程(50)により1次成形された絹繊維素に霧状のトロロアオイを表面(フィルターや壁紙用の不織布の場合)または両面(衣類の裏地用の不織布の場合)に吹き付けて2次成形することにより安定した繊維組織を得る接着剤噴射工程(60)と、接着剤噴射工程(60)により成形された絹不織布を熱板により乾燥する乾燥工程(70)と、乾燥工程(70)により乾燥された絹不織布にアイロンをかけるアイロンがけ工程(80)と、アイロンがけ工程(80)の行われた絹不織布を仕上げるトリミング工程(90)と、を含むことを特徴とする絹不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−510903(P2008−510903A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533397(P2007−533397)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002658
【国際公開番号】WO2006/109905
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(507093802)ザ ノン ウーベン シルク ファブリック カンパニーリミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】The Non Woven Silk Fabric Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】Saemmaeul Apt.114−2602 1121 Hogye−dong Dongan−gu Anyang−city Gyeonggi−prefecture Republic of Korea431−080
【Fターム(参考)】