説明

絹靴下

【課題】柿渋による抗菌効果を長きに亘って持続させることができるとともに、絹繊維に撥水性を付与して吸湿を抑え、さらに、絹繊維の強度を向上させた抗菌性を有する絹靴下を提供する。
【解決手段】表面に抗菌性の付着膜を形成した絹繊維を用いて編んだ絹靴下であって、前記抗菌性の付着膜は、柿渋の成分を樹脂化合物で架橋して形成することとした。また、靴下形状に編んだ絹繊維に抗菌処理を施した絹靴下であって、前記抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うことを特徴とすることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌加工を施した絹靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絹は、古くから利用されている繊維の一つとして知られており、肌触りが良く、しかも、吸湿性や放湿性に優れていることから、多くの衣類に利用されている。
【0003】
しかし、絹製の衣類には、これらのような利点がある一方で、タンパク質で構成されている繊維であることから、抗菌効果に乏しいという問題があった。
【0004】
特に、絹で形成した靴下(以下、絹靴下ともいう。)は、絹靴下の使用者が長時間に亘って靴を着用すると、靴の内部で高温多湿条件下にさらされることとなる。
【0005】
それゆえ、絹靴下は微生物の温床となりやすく、絹靴下から蒸れ臭が発生したり、使用者の足に水虫などの皮膚疾患が生じるおそれがあった。
【0006】
そこで、絹靴下を構成する絹繊維に柿渋を浸透させ、絹繊維に抗菌効果を付与することで、防臭効果を生起させるようにした防臭絹靴下が知られている。(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
この防臭絹靴下によれば、微生物の繁殖を抑えることができるので、蒸れ臭の発生を防止することができる。
【特許文献1】実願2005-008543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の防臭絹靴下では、絹靴下の使用者が着用と洗濯とを繰り返すうちに、柿渋による抗菌効果が比較的早期に減衰して蒸れ臭が顕著に表れる場合があった。
【0009】
これは、絹繊維が吸湿すると耐久性が低下するという性質に由来するものと考えられる。すなわち、絹靴下を着用して靴を履いた際に、絹繊維が汗の水分を吸収し、さらに、歩行した際の靴との摩擦で絹繊維表面が摩耗して柿渋が削り取られるのが、柿渋による抗菌効果の減衰を早めているのである。
【0010】
また、洗濯によっても、絹繊維の表面が徐々に摩耗して柿渋が徐々に流出し、絹靴下の抗菌効果を減衰することとなっていた。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、柿渋による抗菌効果を長きに亘って持続させることができるとともに、絹繊維に撥水性を付与して吸湿を抑え、さらに、絹繊維の強度を向上させた抗菌性を有する絹靴下を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明に係る絹靴下では、表面に抗菌処理した絹繊維を用いて編んだ絹靴下であって、前記抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うこととした。
【0013】
また、本発明に係る絹靴下では、靴下形状に編んだ絹繊維に抗菌処理を施した絹靴下であって、前記抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うこととした。
【0014】
さらに本発明に係る絹靴下では、以下の点にも特徴を有する。
(1)前記抗菌処理は、柿渋の成分よりなる処理液で処理した後に、樹脂化合物の処理液で処理すること。
(2)前記抗菌処理は、樹脂化合物の処理液で処理した後に、柿渋の成分よりなる処理液で処理すること。
(3)前記樹脂化合物は、エポキシ化合物であること。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る本発明では、表面に抗菌処理した絹繊維を用いて編んだ絹靴下であって、抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うこととしたため、長きに亘って抗菌効果を持続させることができ、しかも、耐摩耗性を向上させた抗菌絹靴下を提供することができる。
【0016】
また、請求項2に係る本発明では、靴下形状に編んだ絹繊維に抗菌処理を施した絹靴下であって、抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うこととしたため、柿渋の成分をより確実に絹靴下に定着させることができる。
【0017】
また、請求項3に係る本発明では、抗菌処理は、柿渋の成分よりなる処理液で処理した後に、樹脂化合物の処理液で処理することとしたため、柿渋の成分による抗菌効果を長きに亘って生起させることができる。
【0018】
また、請求項4に係る本発明では、抗菌処理は、樹脂化合物の処理液で処理した後に、柿渋の成分よりなる処理液で処理することとしたため、絹繊維の強度をより向上させながら抗菌効果を生起させることができる。
【0019】
さらに、請求項5に係る本発明では、樹脂化合物は、エポキシ化合物であることとしたため、柿渋の成分とエポキシ基とを結合させることができ、絹繊維に柿渋の成分をさらに強固に結着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る絹靴下では、表面に抗菌処理した絹糸(絹繊維)を用いて編んだ絹靴下であって、抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うこととしている。
【0021】
したがって、編成した絹靴下を構成する絹糸に、柿渋の成分と、樹脂化合物とが結合してなる強固な抗菌性の付着膜が形成されるため、絹靴下から柿渋の成分が失われにくく、長きに亘って抗菌効果を持続させることができる。
【0022】
それゆえ、靴内部の高温多湿条件下において増殖する微生物の繁殖を抑えて、防臭効果を生起させることができる。
【0023】
また、樹脂化合物は、耐水性を有し、柿渋と混合可能であって、常温において絹繊維上に付着膜を形成可能であれば特に限定されるものではないが、エポキシ化合物が好ましい。柿渋の成分と結合反応(架橋反応)しやすいため、エポキシ樹脂と柿渋とで強固な付着膜を形成することができる。
【0024】
すなわち、柿渋の成分(例えばタンニン)を構成するベンゼン環が有するヒドロキシル基と、エポキシ化合物のエポキシ基とが反応して結合を形成し、柿渋の成分同士をエポキシ化合物が架橋することにより抗菌性の付着膜を形成することができる。
【0025】
エポキシ化合物は、水溶性多官能エポキシ化合物が好ましい。具体的には、ジグリシジールエーテル又はポリグリシジールエーテルであってエポキシ等量が500以下のものが好ましく、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ポリグリセロール、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,4ブタンジオール、フェノールエチレンオキサイド、ラウリルアルコールエチレンオキサイドのジグリシジールエーテル又はポリグリシジールエーテルが挙げられる。
【0026】
抗菌性の付着膜を形成するための柿渋は、青い未熟の渋柿を粉砕し、搾って発酵させた後、2〜5年熟成させた濃褐色の液体で、水溶性ポリフェノールの一種であるタンニンを多く含むものが好ましい。一般的な柿渋の原液には、3重量%程度の柿タンニンが含まれ、90重量%以上が水分である。
【0027】
本発明において使用する柿渋は、タンニン酸類が出やすいように、柿渋を砕いた未発酵のものでも、またそれを発酵させ、熟成することにより溶液状の柿渋液としたものを用いることができる。
【0028】
また、柿渋液は、予め水分を飛ばした乾燥状態のものを水などの溶媒に溶解して調製したものであっても良い。
【0029】
柿渋の成分は、絹糸の絹繊維を構成するフィブロインや、フィブロインの周囲に存在するセリシンと結合しやすい性質を有しているため、絹靴下から抗菌性の付着膜が剥離するのを防止することができる。
【0030】
さらに、エポキシ化合物が有するエポキシ基もまた、フィブロインやセリシンを構成するアミノ酸の官能基と良好な結合性を有しているため、絹靴下から抗菌性の付着膜が剥離するのを防止することができる。
【0031】
この抗菌性の付着膜は、柿渋の成分と、エポキシ化合物との両方を含有する混合液を絹繊維に接触させて形成しても良く、また、柿渋の成分を含む第1の溶液と、エポキシ化合物を含む第2の溶液とを調製し、それぞれ別個に絹繊維に接触させることで形成するようにしても良い。なお、第1の溶液と第2の溶液とを調製して付着膜を形成する場合において、第1の溶液→第2の溶液の順で絹繊維に接触させても良く、第2の溶液→第1の溶液の順で絹繊維に接触させるようにしても良い。
【0032】
抗菌性を有する付着膜は、エポキシ化合物を含むため、絹繊維の表面で付着膜を形成した際に分繊化を防ぐ役割を担うこととなり、絹繊維の強度を向上させることができる。
【0033】
しかも、この付着膜は、絹繊維が吸湿するのを適度に妨げるため、絹靴下の使用者が靴を履いて歩行する際に、汗などの水分によって絹糸の絹繊維が脆弱化するのを防止することができる。
【0034】
抗菌性の付着膜を形成する前の絹靴下は、絹糸を編織して形成したものであっても良く、また、織物や不織布などの繊維構造物を裁断し縫製したものであっても良い。
【0035】
また、絹靴下の形状を成形した後に精錬するいわゆる後練りの絹靴下であっても良く、また、生糸の状態で精錬して絹糸とし、この絹糸で絹靴下を編成する先練りであっても良い。なお、精錬は、セリシンを全て除去せず、いわゆる半練り状態とするのが好ましい。
【0036】
また、抗菌性付着膜を形成する前の絹靴下は、予め染色を施したものであっても良く、染色を施していない状態のものであっても良い。
【0037】
また、絹繊維を精錬して半練り状態とした半練り絹繊維の表面に、付着膜を形成して抗菌性絹糸を調製し、この抗菌性絹糸を用いて絹靴下を形成するようにしても良い。
【0038】
以下、具体的な実施形態について図面を用いて詳説する。
【0039】
図1は、精錬前の状態にある絹糸の絹繊維10を示した模式図である。この絹繊維10は、断面視略三角形状のフィブロイン14と、その周囲を囲繞するセリシン16とで構成されている。なお、この絹繊維10は、絹糸を編織して既に絹靴下を形成した状態の絹繊維10と理解しても良く、また、絹靴下を形成していない絹糸の状態における絹繊維10と理解しても良い。
【0040】
通常、絹繊維10は、2本のフィブロイン14を有しており、このフィブロイン14は、更に微細な繊維のミクロフィブリル15が200〜300本程度集合して構成されている。
【0041】
また、フィブロイン14の周囲に存在するセリシン16は、水への溶解度が異なる三種類の層からなり、最外層からセリシン(I)11、セリシン(II)12、セリシン(III)13を有している。これら3つの層のうち、最外層のセリシン(I)11が最も水に溶け易く、水分を含んだ状態では接着し易い性質を持っている。また、最内層のセリシン(III)13が3つのセリシン16からなる層のうち、最も水に溶けにくい性質を有している。そして、セリシン(II)12は、セリシン(I)11とセリシン(III)13との中間程度の水への溶解性を示す性質を有している。
【0042】
ここでまず、絹繊維10の表面に存在するセリシン(I)11とセリシン(II)12を除去する。すなわち、図2に示すように、絹繊維10を精錬してセリシン(I)11とセリシン(II)12とを除去し、最も疎水性の高いセリシン(III)13を残存させた半練り絹繊維20とする。これにより、後述の柿渋に含まれる抗菌効果を呈する成分が有する疎水基が、半練り絹繊維20に結合しやすくすることができる。
【0043】
次いで、柿渋の成分に半練り絹繊維20を接触させる柿渋処理と、エポキシ化合物に半練り絹繊維20を接触させるエポキシ処理とを行う。
【0044】
この柿渋処理と、エポキシ処理とは、各々別個に行うことで抗菌性付着膜を形成しても良く、また、柿渋の成分とエポキシ化合物との両方を含有する溶液に浸漬させて抗菌性付着膜を形成するようにしても良い。
【0045】
このように処理を行うことで、図3に示すように、柿渋の成分をエポキシ化合物で架橋しながら半練り絹繊維20の表面で固化させて、半練り絹繊維20を抗菌性付着膜31を有する抗菌絹繊維30とすることができる。
【0046】
この抗菌性付着膜31は、エポキシ化合物が重合してなるエポキシ樹脂に特徴的な強固な結合力と、抗菌効果を生起する柿渋の成分とを有するため、絹糸に長きに亘って防臭効果を生起させることができる。
【0047】
また、柿渋の成分は、撥水効果も有しているため、抗菌絹繊維30の吸湿性を抑えることができ、抗菌絹繊維30の耐摩擦性をさらに向上させることができる。
【0048】
なお、図3では、抗菌性付着膜31を鹿の子状(斑状)に付着させた状態を示しているが、抗菌絹繊維30の表面に一様に付着させるようにしても良い。
【0049】
以下、本実施形態に係る絹靴下を形成し、さらに比較試験を行った例を示す。
【0050】
〔抗菌靴下形成試験1〕
水道水に博多輸出絹織株式会社製柿パウダー(乾燥柿渋)を溶解して10%柿渋液を調製し、同柿渋液に絹靴下(博多輸出絹織株式会社製絹靴下・黒色)4本(2組)を室温で20分間浸漬した(柿渋処理)。浸漬中は、5分おきに軽く撹拌を行った。
【0051】
次いで、洗濯機にて20〜30秒間脱水を行い、室温にて放置乾燥した。このようにして柿渋を付着させた絹靴下の重量を測定し、柿渋を付着させる前の重量と比較して柿渋の付着量を算出した。
【0052】
次に、ステンレス容器に分注した1400mlの水道水に、エチレングリコールジグリシジルエーテル70gを撹拌しながら添加した。この溶液に、350gの無水硫酸ナトリウムを撹拌しながら少しずつ加え、溶解させた。この溶液を1NのNaOHにてpHが11となるように調整し、3500mlに水道水でフィルアップした。なお、この3500mlは、靴下の乾燥重量(約70g)の50倍量とした。再度、1NのNaOHにてpHを11に調整し、エポキシ溶液とした。
【0053】
そして、このエポキシ溶液を恒温乾燥機に入れ、液温が70℃になったことを確認し、柿渋を付着させた靴下を同エポキシ溶液に浸漬した(エポキシ処理)。この際、10〜15分毎に撹拌しながら、恒温乾燥機中で90分間浸漬処理を行った。
【0054】
90分経過後、エポキシ溶液から靴下を取り出してバットに移し、水道水の流水下で20分間水洗した。次に、50℃の湯に靴下を浸漬し、20分間洗浄を行った(湯洗浄)。この湯洗浄は湯を取り替えて3回繰り返し行った。続いて、水道水の流水下で20分間、濯ぎながら水洗し、洗濯機で25秒間脱水した後に、室内にて1日間放置乾燥し、抗菌絹靴下Aを得た。
【0055】
〔抗菌靴下形成試験2〕
ステンレス容器に分注した1400mlの水道水に、エチレングリコールジグリシジルエーテル70gを撹拌しながら添加し、この溶液に、350gの無水硫酸ナトリウムを撹拌しながら少しずつ加え、溶解させた。
【0056】
次いで、柿パウダー350gを溶解し、この溶液を1NのNaOHにてpHが11となるように調整し、3500mlに水道水でフィルアップした。再度、1NのNaOHにてpHを11に調整し、エポキシ−柿渋溶液とした。
【0057】
そして、このエポキシ−柿渋溶液を恒温乾燥機に入れ、液温が70℃になったことを確認し、柿渋を付着させた靴下を同エポキシ−柿渋溶液に浸漬した。この際、10〜15分毎に撹拌しながら、恒温乾燥機中で90分間浸漬処理を行った。
【0058】
90分経過後、エポキシ溶液から靴下を取り出してバットに移し、水道水の流水下で20分間水洗した。次に、50℃の湯に靴下を浸漬し、20分間洗浄を行った(湯洗浄)。この湯洗浄は湯を取り替えて3回繰り返し行った。続いて、水道水の流水下で20分間、濯ぎながら水洗し、洗濯機で25秒間脱水した後に、室内にて1日間放置乾燥し、抗菌絹靴下Bを得た。
【0059】
〔抗菌靴下形成試験3〕
水道水に博多輸出絹織株式会社製柿パウダー(乾燥柿渋)を溶解して10%柿渋液を調製し、同柿渋液に半練り状態とした絹糸(以下、半練り絹糸という。)を室温で20分間浸漬した(柿渋処理)。浸漬中は、5分おきに軽く撹拌を行った。
【0060】
次いで、洗濯機にて20〜30秒間脱水を行い、室温にて放置乾燥した。このようにして柿渋を付着させた半練り絹糸の重量を測定し、柿渋を付着させる前の重量と比較して柿渋の付着量を算出した。
【0061】
次に、ステンレス容器に分注した1400mlの水道水に、エチレングリコールジグリシジルエーテル70gを撹拌しながら添加した。この溶液に、350gの無水硫酸ナトリウムを撹拌しながら少しずつ加え、溶解させた。この溶液を1NのNaOHにてpHが11となるように調整し、3500mlに水道水でフィルアップした。なお、この3500mlは、半練り絹糸の乾燥重量(約70g)の50倍量とした。再度、1NのNaOHにてpHを11に調整し、エポキシ溶液とした。
【0062】
そして、このエポキシ溶液を恒温乾燥機に入れ、液温が70℃になったことを確認し、柿渋を付着させた半練り絹糸を同エポキシ溶液に浸漬した(エポキシ処理)。この際、10〜15分毎に撹拌しながら、恒温乾燥機中で90分間浸漬処理を行った。
【0063】
90分経過後、エポキシ溶液から絹糸を取り出してバットに移し、水道水の流水下で20分間水洗した。次に、50℃の湯に半練り絹糸を浸漬し、20分間洗浄を行った(湯洗浄)。この湯洗浄は湯を取り替えて3回繰り返し行った。続いて、水道水の流水下で20分間、濯ぎながら水洗し、洗濯機で25秒間脱水した後に、室内にて1日間放置乾燥し、抗菌絹糸を得た。
【0064】
そして、この抗菌絹糸を用いて靴下形状に編み、抗菌絹靴下A'を得た。
【0065】
〔着用試験〕
前述の抗菌靴下形成試験1で得られた抗菌靴下Aと、抗菌靴下形成試験2で得られた抗菌靴下Bと、エポキシ処理のみを施した絹靴下Cと、柿渋処理のみを施した絹靴下Dと、処理を施していない絹靴下Eとのそれぞれについて、着用試験を行って官能評価した。本試験では、被験者にA〜Eの各靴下を着用させ、日常生活における蒸れ臭の強さ、耐久性について比較を行った。本試験の結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

表1は、最大15日間に亘り、蒸れ臭の強さと耐久性について官能評価した結果を示している。
【0067】
蒸れ臭の評価における値は、「0 : 無臭, 1 : 僅かに臭気を感じる, 2 : 少し臭気を感じる 3 : 臭気を感じる, 4 : 強い臭気を感じる, 5 : 強烈な臭気を感じる」の6段階で評価した。
【0068】
また、擦れの評価における値は、「0 : 無傷, 1 : 僅かに擦れが見られる, 2 : 少し擦れが見られる 3 : 顕著な擦れが見られる」の4段階で評価した。
【0069】
表1から分かるように、エポキシ処理と柿渋処理との両方を行った靴下A及びBは、15回の着用にも耐えうる耐久性を備えていることが分かる。このことは、絹繊維に抗菌付着膜やエポキシ樹脂のみからなる付着膜を形成したため、絹繊維自体が補強されるとともに、水分の吸収を抑制しているためであると考えられる。
【0070】
靴下Cは、靴下A及び靴下Bに比して耐久性がやや劣るものの、着用15回目に破れが生じるまで着用は可能であった。しかしながら、着用1回目より防臭効果はなく、被験者は悪臭に悩まされることとなった。また、この靴下Cを着用した被験者は、「破れが生じるまで絹靴下をできるだけ多い回数着用したい」という感情と、「悪臭がする靴下は捨ててしまいたい」という感情との板挟みにあうこととなった。これは、耐久性を備えているが、防臭効果を有していない絹靴下の短所であるといえる。
【0071】
また、靴下Dは、着用3回目あたりまで蒸れ臭に対する顕著な防臭効果を有しているものの、繰り返しの着用により徐々に効果が薄れているのが分かる。また、10回目の着用で踵部分の生地がほつれて破れが生じた。
【0072】
靴下Eは、着用1回目から防臭効果は見られず、しかも、7回目の着用で踵部分の生地がほつれて破れが生じた。
【0073】
すなわち、これらの結果から、靴下A及び靴下Bは、15回の繰り返しの着用にも耐えうる耐久性を有し、しかも、顕著な防臭効果を生起していることが分かる。靴下A及び靴下Bには、エポキシ処理のみを行った靴下Cと異なり柿渋成分を混入させているため、抗菌効果とともに、更なる耐久性を獲得するに至ったものと考えられる。
【0074】
特に、靴下Bは、靴下Aに比して防臭効果と耐久性との両方で勝ることが示唆された。これは、エポキシ化合物と、柿渋の成分とが互いにネット状に結合して抗菌性付着膜が形成されていることを示していると思われる。
【0075】
上述のように、本発明によれば、柿渋による防臭効果を長きに亘って持続させることができるとともに、絹繊維に撥水性を付与して吸湿を抑え、さらに、絹繊維の強度を向上させた抗菌性を有する絹靴下を提供することができる。すなわち、衛生的で耐久性が高く、長きに亘って絹の風合いを楽しむことのできる絹靴下を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】生糸の構造を示した模式図である。
【図2】精錬した絹繊維の構造を示した模式図である。
【図3】抗菌付着膜を有する絹繊維の構造を示した模式図である。
【符号の説明】
【0077】
10 絹繊維
11 セリシン(I)
12 セリシン(II)
13 セリシン(III)
14 フィブロイン
15 フィブリル
16 セリシン
20 半練り絹繊維
30 抗菌絹繊維
31 付着膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に抗菌処理した絹繊維を用いて編んだ絹靴下であって、
前記抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うことを特徴とする絹靴下。
【請求項2】
靴下形状に編んだ絹繊維に抗菌処理を施した絹靴下であって、
前記抗菌処理は、柿渋の成分と樹脂化合物とを含有した処理液により行うことを特徴とする絹靴下。
【請求項3】
前記抗菌処理は、柿渋の成分よりなる処理液で処理した後に、樹脂化合物の処理液で処理することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絹靴下。
【請求項4】
前記抗菌処理は、樹脂化合物の処理液で処理した後に、柿渋の成分よりなる処理液で処理することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絹靴下。
【請求項5】
前記樹脂化合物は、エポキシ化合物であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の絹靴下。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−144301(P2008−144301A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332245(P2006−332245)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(501493060)博多輸出絹織株式会社 (1)
【Fターム(参考)】