説明

継手リンクユニット付き無給油チェーン

【課題】プレート強度の低下を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減し、継手ピンとブシュとの間に封入された潤滑油および連結ピンとブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止する継手リンクユニット付き無給油チェーンを提供すること。
【解決手段】チェーン本体110と継手リンクユニット120とからなり、ブシュ112と継手ピン121および連結ピン115との間に潤滑油を封入し、ブシュ突出端部112aが、圧入プレート122および遊嵌プレート123に形成されたブシュ軸支用環状凹部122a、123aでそれぞれ囲繞支持され、シール環状体130が遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部123aとブシュ突出端部112aの対向面間に介在した状態で継手ピン121の外周面に圧嵌される継手リンクユニット付き無給油チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動用ローラチェーン、搬送用コンベヤチェーンなどに用いるチェーン本体が継手リンクユニットによって無端状に連結されてなる継手リンクユニット付き無給油チェーンに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前後一対のブシュの両端部を内プレートに圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対のピンの両端部を外プレートに圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、該チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと該継手ピンの基端部を圧入嵌合する外プレートと前記継手ピンの先端部を遊嵌する継手プレートと該継手プレートの外側面から突出したピンを継手プレートに締結するクリップとから構成されて前記チェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクとからなるシールチェーンが知られている。そして、従来のシールチェーンでは、チェーン本体の両端に位置するブシュと該ブシュ内に貫通する継手ピンとの間に注入された潤滑油の外部漏出を防止するシール手段として、シールリングが継手リンクの外プレートおよび継手プレートと該外プレートおよび継手プレートに対向するチェーン本体の内プレートとの間に配設されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−205545号公報(特許請求の範囲、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、前述したような従来のシールチェーンでは、継手リンクの外プレートおよび継手プレートと該外プレートおよび継手プレートに対向するチェーン本体の内プレートとの間を密封して継手ピンとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果を持続させるために、シールリングが押圧状態で配置されており、このような押圧状態の押圧力によって、外プレートおよび継手プレートと内プレートとの間の相対的な屈曲抵抗、すなわち、チェーン自体の屈曲抵抗が大きくなるという問題があった。
【0004】
また、シールリングが外プレートや継手プレートや内プレート等に対して摺接摩耗することに起因してシール効果が低下することを防止するために、シールリングと接触する外プレートおよび継手プレートの内側面と内プレートの外側面の表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があり、その表面仕上げ加工の加工負担が増加するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、プレート強度の低下を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における継手リンクユニットの継手ピンとチェーン本体のブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、チェーン本体の連結ピンとブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止する継手リンクユニット付き無給油チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、該チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと該継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと前記継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと該遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する締結手段とで構成されて前記チェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、前記ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて、前記チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されているとともに、前記遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止するシール環状体が、前記遊嵌プレートのブシュ軸支用環状凹部とブシュ突出端部の対向面間に介在した状態で継手ピンの外周面に圧嵌されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0007】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記遊嵌プレートが圧印加工により形成された環状圧印部を継手ピン孔の周囲に有していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記遊嵌プレートが前記継手ピンの先端部に形成されたプレート遊嵌用小径段部に遊嵌されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0009】
請求項4に係る本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構成に加えて、前記チェーン本体の内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記チェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0010】
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンで言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部とそれ以外のプレート部分とがプレート厚み方向にずれて段差状を呈している状態を意味している。
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンで言うところの「圧印加工」とは、材料を部分的に圧縮することで圧縮部分の強度を向上させる加工を意味している。
【発明の効果】
【0011】
そこで、本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと該遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する締結手段とで構成されてチェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなることにより、外部からの無給油状態で長期に亘ってチェーン駆動できるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0012】
すなわち、請求項1に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、このようなブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュと継手ピンとの間に封入された潤滑油が内プレートの外側面と圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体のブシュの内周面と継手リンクユニットの継手ピンの外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーン摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0013】
また、ブシュ軸支用環状凹部が圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されていることにより、ブシュ軸支用環状凹部の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部を形成することによる圧入プレートおよび遊嵌プレートの強度低下を抑制でき、また、圧入プレートおよび遊嵌プレートのプレス打ち抜き加工を行う際に、圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、圧入プレートおよび遊嵌プレートの打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部の形成加工とを同時に行うことができるので、圧入プレートおよび遊嵌プレートの打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部を形成する研削やミーリングなどの機械加工を圧入プレートおよび遊嵌プレートに施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0014】
そして、シール環状体が遊嵌プレートのブシュ軸支用環状凹部とブシュ突出端部の対向面間に介在した状態で継手ピンの外周面に圧嵌されていることにより、このようなブシュ軸支用環状凹部とブシュ突出端部との間に形成された潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュと継手ピンとの間に封入された潤滑油が遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間から外部漏出することを阻止するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体のブシュの内周面と継手リンクユニットの継手ピンの外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0015】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、外プレートおよび継手プレートの内側面と内プレートの外側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンでは、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0016】
さらに、内プレートの外側面と圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面との間には、従来のシールチェーンのようにシールリングを押圧状態で配設していないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行できる。
【0017】
請求項2に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、遊嵌プレートが圧印加工により形成された環状圧印部を継手ピン孔の周囲に有していることにより、チェーン引張力が継手ピンを介して遊嵌プレートに作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上できるので、長期にわたってチェーン寿命を維持できる。
【0018】
請求項3に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、遊嵌プレートが継手ピンの先端部に形成されたプレート遊嵌用小径段部に遊嵌されていることにより、このような継手ピンと遊嵌プレートとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して、遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からブシュの内周面と継手ピンの外周面との間までの潤滑油の漏出径路および外部塵埃の侵入径路がより複雑な構造を呈するので、油溜り用ラビリンス構造による潤滑油の外部漏出の阻止効果および外部塵埃の内部侵入の阻止効果をより一層向上できる。
【0019】
請求項4に係る本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーンが奏する効果に加えて、チェーン本体の内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、チェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、このようなブシュ突出端部とブシュ軸支用環状凹部との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュと連結ピンとの間に封入された潤滑油が内プレートの外側面と外プレートの内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体のブシュの内周面とチェーン本体の連結ピンの外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0020】
また、ブシュ軸支用環状凹部がチェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されていることにより、ブシュ軸支用環状凹部の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部を形成することによる外プレートの強度低下を抑制でき、また、外プレートのプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレートの内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレートの打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部の形成加工とを同時に行うことができるので、外プレートの打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部を形成する研削やミーリングなどの機械加工を外プレートに施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0021】
また、チェーン本体の外プレートの内側面と内プレートの外側面との間には、従来のシールチェーンのような押圧状態で配置されたシールリングを別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともにチェーン部品点数の増加を回避できる。
【0022】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、シールリングと摺接する部材の表面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンでは、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクとブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する締結手段とから構成されてチェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて、チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されているとともに、遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止するシール環状体が、遊嵌プレートのブシュ軸支用環状凹部とブシュ突出端部の対向面間に介在した状態で継手ピンの外周面に圧嵌されて、プレート強度の低下を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における継手リンクユニットの継手ピンとチェーン本体のブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、チェーン本体の連結ピンとブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止するものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0024】
例えば、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンは、ローラチェーン、ブシュチェーンのいずれのものがその対象であっても差し支えないが、ローラチェーンの場合には、スプロケットとの噛み合いが円滑となるため、チェーンの摩耗を防止するので、より好ましい。
【0025】
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンに用いるシール環状体の具体的な態様については、遊嵌プレートのブシュ軸支用環状凹部とブシュ突出端部の対向面間に介在した状態で継手ピンの外周面に圧嵌されて、複雑に屈曲した油溜り用ラビリンス構造をブシュ軸支用環状凹部とブシュ突出端部との間に形成し得るものであれば、例えば、ピン圧入孔を中心に有した扁平状の金属製円板、合成ゴム等からなるOリングなどのいずれであっても良く、金属製円板を採用した場合には、耐摩耗性および耐負荷性能を発揮して遊嵌プレートおよびブシュ突出端部との接触に起因して生じがちなシール環状体の摩耗損傷を抑制でき、Oリングを採用した場合には、チェーン組み付け時における継手ピンの外周面へのシール環状体の圧嵌を容易に達成して組み付け作業負担を低減できる。
【0026】
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンに組み込まれる継手リンクユニットの継手ピンを遊嵌プレートに締結する具体的な締結手段は、継手ピンの先端部に形成されたクリップ嵌着用溝部に嵌着されるクリップ、継手ピンの先端部に形成された貫通孔に貫通させる割りピン、継手ピンの先端部に形成された貫通孔に貫通させるスプリングピンなどのいずれであっても良い。
【0027】
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンに組み込まれるチェーン本体のブシュの具体的な態様については、何らの加工を施していない通常のブシュ、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されたブシュなどのいずれであっても構わないが、焼結含油金属材料からなるブシュを採用した場合には、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュの内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に徐々に滲み出すので、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間の摺接摩耗を低減でき、特に、前述した焼結含油金属材料が、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されている場合には、ブシュがチェーン張力に起因する剪断力および衝撃力を受けるための強靱性能や多くの潤滑油を含浸させて長期に亘ってブシュと継手ピンおよび連結ピンとの間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮できる。
【0028】
また、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて用いられる潤滑油の具体的な種類については、潤滑性や耐劣化性を備えたものであれば如何なるものであって良く、特に、ポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用した場合には、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュの内部に形成された気孔に目詰まりを生じさせることなくブシュの気孔から長期に亘ってブシュと継手ピンおよび連結ピンとの間に滲み出て摺接摩耗を抑制できる。
【0029】
また、チェーン本体のブシュの内周面とチェーン本体の連結ピンの外周面との間、および、チェーン本体のブシュの内周面と継手リンクユニットの継手ピンの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、継手ピンおよび連結ピンの外周面、または、ブシュの内周面、または、継手ピンおよび連結ピンの外周面およびブシュの内周面に刻設されている場合には、より多くの潤滑油を封入して継手ピンおよび連結ピンとブシュとの間に潤滑油を継続的に供給するので、継手ピンおよび連結ピンの外周面とブシュの内周面の摺動摩耗を長期に亘って低減してチェーン摩耗伸びをより一層防止することができる。
【0030】
また、チェーン本体の外プレートの内側面と継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面と、チェーン本体の内プレートの外側面とが相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面、いわゆる、ラビリンス構造を形成し得る粗面を備えている場合には、これら内側面と外側面との間には油溜り用ラビリンス構造が形成されているので、継手ピンおよび連結ピンとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ブシュと継手ピンおよび連結ピンとの間に注入された潤滑油が外部に漏れ出すことを防止できるとともに外部から塵埃が侵入することを防止できる。
【0031】
そして、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて用いられる遊嵌プレート、圧入プレート、および外プレートに形成されるブシュ軸支用環状凹部の具体的な態様については、その膨出面が座面よりも大きな外径を有していることにより、各プレートに形成された段差部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるように設計されているのが好ましく、また、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンクが外リンクおよび継手リンクユニットに対してチェーン進行方向に偏在した際に、ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面とが接触して、ブシュ突出端部の外周面と内プレートのブシュ軸支用環状凹部の内周面とが相互に接触することを完全に阻止するとともにシール環状体の外周面と遊嵌プレートのブシュ軸支用環状凹部の内周面とが相互に接触することを完全に阻止するように設計されているのがより好ましく、さらに、チェーン稼動時に内リンクが外リンクおよび継手リンクユニットに対してチェーン幅方向にスキュー、揺動、若しくは、片寄りを生じた際にも、ブシュ突出端部がブシュ軸支用環状凹部から外れることを回避するように設計されているのが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンの全体概要図であり、図2は、図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの分解組み付け図であり、図3は、図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの断面図であり、図4は、継手リンクユニットの変形例を示す斜視図であり、図5は、シール環状体の変形例を示す断面図である。
【0033】
まず、本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン100は、図1および図2に示すように、チェーン本体110と、このチェーン本体110の両端を相互に連結する継手リンクユニット120とから構成されている。
チェーン本体110は、図1および図2に示すように、ローラ111を外嵌した前後一対のブシュ112の両端部を左右一対の内プレート113のブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンク114と、ブシュ112内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピン115の両端部を左右一対の外プレート116のピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンク117とが、チェーン長手方向に交互に連結されることで構成されている。
また、継手リンクユニット120は、図1乃至図3に示すように、チェーン本体110の両端に位置するブシュ112内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピン121と、継手ピン121の基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレート122と、継手ピン121の先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレート123と、遊嵌プレート123の外側面から突出した継手ピン121の先端部に形成されたクリップ嵌着用溝部に嵌着されて継手ピン121の先端部を遊嵌プレート123の外側面に位置決めして締結する締結手段124としてのクリップとから構成されている。
なお、前述した遊嵌プレート123は、一般に継手プレートと称されている。
そして、チェーン本体110のブシュ112の内周面とチェーン本体110の連結ピン115の外周面との間、および、チェーン本体110のブシュ112の内周面と継手リンクユニット120の継手ピン121の外周面との間には、潤滑油が封入されている。
【0034】
なお、前述した継手ピン121を遊嵌プレート123に締結する締結手段124として、図4に示すように、継手ピン121の先端部に形成された貫通孔に貫通させる割りピンを採用しても良く、また、継手ピン121の先端部に形成された貫通孔に貫通させるスプリングピンを採用しても良い。
【0035】
そこで、本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100が最も特徴とするチェーン本体110のブシュ112および外プレート116、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123、シール環状体130の具体的な形態について図1乃至図5により詳しく説明する。
まず、図1および図2に示すように、チェーン本体110の外プレート116は、内側面を凹陥させて、すなわち、凹ませて陥らせてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部116aを備えており、このブシュ軸支用環状凹部116aが、チェーン本体110の内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
また、図1乃至図3に示すように、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123は、内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部122a、123aをそれぞれ備えており、このブシュ軸支用環状凹部122a、123aが、前述したチェーン本体110の両端に位置する内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
【0036】
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100で言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部116a、122a、123aとそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態を意味している。
【0037】
また、図2および図3に示すように、ピン圧入孔を中心に有した扁平状の金属製円板からなるシール環状体130が、遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部123aとブシュ突出端部112aの対向面間に介在した状態で継手ピン121の外周面に圧嵌されている。
このシール環状体130と遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部123aの座面との間には隙間が設けられており、また、シール環状体130とブシュ突出端部112aとの間には隙間が設けられている。
また、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンク114が継手リンクユニット120に対してチェーン進行方向に偏在した際に、ブシュ112の内周面と継手ピン121の外周面とが接触して、シール環状体130の外周面と遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部123aの内周面とが相互に接触することを完全に回避できるように設計されている。
【0038】
なお、このシール環状体130として図5に示すような合成ゴムからなるOリングを採用しても良く、このOリングからなるシール環状体130aは、遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部123aとブシュ突出端部112aの対向面間に介在した状態で継手ピン121の外周面に圧嵌されている。
【0039】
また、継手リンクユニット120の遊嵌プレート123は、圧印加工により形成された環状圧印部123bを継手ピン孔の周囲に有しており、チェーン引張力が継手ピン121を介して遊嵌プレート123に作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上するようになっている。
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100で言うところの「圧印加工」とは、材料を部分的に圧縮することで圧縮部分の強度を向上させる加工を意味している。
【0040】
このようにして得られた本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン100は、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123が内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部122a、123aを備えているとともに、このブシュ軸支用環状凹部122a、123aがチェーン本体110の両端に位置する内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
したがって、このようなブシュ突出端部112aとブシュ軸支用環状凹部122a、123aとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L1となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ112と継手ピン121との間に封入された潤滑油が内プレート113の外側面と圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体110のブシュ112の内周面と継手リンクユニット120の継手ピン121の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーン摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0041】
また、ブシュ軸支用環状凹部122a、123aが、継手リンクユニット120の圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部122a、123aの断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部122a、123aを形成することによる圧入プレート122および遊嵌プレート123の強度低下を抑制でき、また、圧入プレート122および遊嵌プレート123のプレス打ち抜き加工を行う際に、圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、圧入プレート122および遊嵌プレート123の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部122a、123aの形成加工とを同時に行うことができるので、圧入プレート122および遊嵌プレート123の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部122a、123aを形成する研削やミーリングなどの機械加工を圧入プレート122および遊嵌プレート123に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0042】
そして、シール環状体130が遊嵌プレート123のブシュ軸支用環状凹部123aとブシュ突出端部112aの対向面間に介在した状態で継手ピン121の外周面に圧嵌されていることにより、このようなブシュ軸支用環状凹部123aとブシュ突出端部112aとの間に形成された潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L2となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ112と継手ピン121との間に封入された潤滑油が遊嵌プレート123の継手ピン孔の内周面と継手ピン121の外周面との間から外部漏出することを阻止するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体110のブシュ112の内周面と継手リンクユニット120の継手ピン121の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0043】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、外プレートおよび継手プレートの内側面と内プレートの外側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0044】
また、内プレート113の外側面と圧入プレート122および遊嵌プレート123の内側面との間には、従来のシールチェーンのようにシールリングを押圧状態で配設していないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行できる。
【0045】
また、チェーン本体110の外プレート116が内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部116aを備えているとともに、ブシュ軸支用環状凹部116aがチェーン本体110の内プレート113の外側面から一部突出したブシュ突出端部112aを囲繞支持している。
したがって、このようなブシュ突出端部112aとブシュ軸支用環状凹部116aとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L3となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ112と連結ピン115との間に封入された潤滑油が内プレート113の外側面と外プレート116の内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体110のブシュ112の内周面とチェーン本体110の連結ピン115の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0046】
また、ブシュ軸支用環状凹部116aが、チェーン本体110の外プレート116の内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部116aの断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部116aを形成することによる外プレート116の強度低下を抑制でき、また、外プレート116のプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレート116の内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレート116の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部116aの形成加工とを同時に行うことができるので、外プレート116の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部116aを形成する研削やミーリングなどの機械加工を外プレート116に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0047】
また、チェーン本体110の外プレート116の内側面と内プレート113の外側面との間には、従来のシールチェーンのような押圧状態で配置されたシールリングを別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともにチェーン部品点数の増加を回避できる。
【0048】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、シールリングと摺接する部材の表面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン100では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0049】
そして、遊嵌プレート123が、圧印加工により形成された環状圧印部123bを継手ピン孔の周囲に有している。
したがって、チェーン引張力が継手ピン121を介して遊嵌プレート123に作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上できるので、長期にわたってチェーン寿命を維持できるなど、その効果は甚大である。
【0050】
つぎに、本発明の第2実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン200について、図6および図7に基づいて説明する。
まず、本発明の第2実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーン200は、図6および図7に示すように、チェーン本体210と、このチェーン本体210の両端を相互に連結する継手リンクユニット220とから構成されている。
チェーン本体210は、図6および図7に示すように、ローラ211を外嵌した前後一対のブシュ212の両端部を左右一対の内プレート213のブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンク214と、ブシュ212内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピン215の両端部を左右一対の外プレート216のピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンク217とが、チェーン長手方向に交互に連結されることで構成されている。
また、継手リンクユニット220は、図6および図7に示すように、チェーン本体210の両端に位置するブシュ212内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピン221と、継手ピン221の基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレート222と、継手ピン221の先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレート223と、遊嵌プレート223の外側面から突出した継手ピン221の先端部に形成されたクリップ嵌着用溝部に嵌着されて継手ピン221の先端部を遊嵌プレート223の外側面に位置決めして締結する締結手段224としてのクリップとから構成されている。
なお、前述した遊嵌プレート223は、一般に継手プレートと称されている。
そして、チェーン本体210のブシュ212の内周面とチェーン本体210の連結ピン215の外周面との間、および、チェーン本体210のブシュ212の内周面と継手リンクユニット220の継手ピン221の外周面との間には、潤滑油が封入されている。
【0051】
なお、前述した継手ピン221を遊嵌プレート223に締結する締結手段224として、継手ピン221の先端部に形成された貫通孔に貫通させる割りピンを採用しても良く、また、継手ピン221の先端部に形成された貫通孔に貫通させるスプリングピンを採用しても良い。
【0052】
そこで、本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン200が最も特徴とするチェーン本体210のブシュ212および外プレート216、継手リンクユニット220の圧入プレート222および遊嵌プレート223、シール環状体230の具体的な形態について図6および図7により詳しく説明する。
まず、図6および図7に示すように、チェーン本体210の外プレート216は、内側面を凹陥させて、すなわち、凹ませて陥らせてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部216aを備えており、このブシュ軸支用環状凹部216aが、チェーン本体210の内プレート213の外側面から一部突出したブシュ突出端部212aを囲繞支持している。
また、図6および図7に示すように、継手リンクユニット220の圧入プレート222および遊嵌プレート223は、内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部222a、223aをそれぞれ備えており、このブシュ軸支用環状凹部222a、223aが、前述したチェーン本体210の両端に位置する内プレート213の外側面から一部突出したブシュ突出端部212aを囲繞支持している。
【0053】
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン200で言うところの「オフセット状態」とは、ブシュ軸支用環状凹部216a、222a、223aとそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態を意味している。
【0054】
また、図6および図7に示すように、ピン圧入孔を中心に有した扁平状の金属製円板からなるシール環状体230が、遊嵌プレート223のブシュ軸支用環状凹部223aとブシュ突出端部212aの対向面間に介在した状態で継手ピン221の外周面に圧嵌されている。
このシール環状体230と遊嵌プレート223のブシュ軸支用環状凹部223aの座面との間には隙間が設けられており、また、シール環状体230とブシュ突出端部212aとの間には隙間が設けられている。
また、チェーン進行方向に引張力を受けるチェーン稼動時、すなわち、内リンク214が継手リンクユニット220に対してチェーン進行方向に偏在した際に、ブシュ212の内周面と継手ピン221の外周面とが接触して、シール環状体230の外周面と遊嵌プレート223のブシュ軸支用環状凹部223aの内周面とが相互に接触することを完全に阻止できるように設計されている。
【0055】
なお、このシール環状体230として合成ゴムからなるOリングを採用しても良く、このOリングからなるシール環状体230aは、遊嵌プレート223のブシュ軸支用環状凹部223aとブシュ突出端部212aの対向面間に介在した状態で継手ピン221の外周面に圧嵌されている。
【0056】
また、継手リンクユニット220の遊嵌プレート223は、圧印加工により形成された環状圧印部223bを継手ピン孔の周囲に有しており、チェーン引張力が継手ピン221を介して遊嵌プレート223に作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上するようになっている。
なお、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン200で言うところの「圧印加工」とは、材料を部分的に圧縮することで圧縮部分の強度を向上させる加工を意味している。
【0057】
そして、遊嵌プレート223は、継手ピン221の先端部に形成されたプレート遊嵌用小径段部221aに遊嵌されている。
【0058】
このようにして得られた本実施例の継手リンクユニット付き無給油チェーン200は、継手リンクユニット220の圧入プレート222および遊嵌プレート223が内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部222a、223aを備えているとともに、このブシュ軸支用環状凹部222a、223aがチェーン本体210の両端に位置する内プレート213の外側面から一部突出したブシュ突出端部212aを囲繞支持している。
したがって、このようなブシュ突出端部212aとブシュ軸支用環状凹部222a、223aとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L1となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ212と継手ピン221との間に封入された潤滑油が内プレート213の外側面と圧入プレート222および遊嵌プレート223の内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体210のブシュ212の内周面と継手リンクユニット220の継手ピン221の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーン摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0059】
また、ブシュ軸支用環状凹部222a、223aが、継手リンクユニット220の圧入プレート222および遊嵌プレート223の内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部222a、223aの断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部222a、223aを形成することによる圧入プレート222および遊嵌プレート223の強度低下を抑制でき、また、圧入プレート222および遊嵌プレート223のプレス打ち抜き加工を行う際に、圧入プレート222および遊嵌プレート223の内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、圧入プレート222および遊嵌プレート223の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部222a、223aの形成加工とを同時に行うことができるので、圧入プレート222および遊嵌プレート223の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部222a、223aを形成する研削やミーリングなどの機械加工を圧入プレート222および遊嵌プレート223に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0060】
そして、シール環状体230が遊嵌プレート223のブシュ軸支用環状凹部223aとブシュ突出端部212aの対向面間に介在した状態で継手ピン221の外周面に圧嵌されていることにより、このようなブシュ軸支用環状凹部223aとブシュ突出端部212aとの間に形成された潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L2となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ212と継手ピン221との間に封入された潤滑油が遊嵌プレート223の継手ピン孔の内周面と継手ピン221の外周面との間から外部漏出することを阻止するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体210のブシュ212の内周面と継手リンクユニット220の継手ピン221の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0061】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、外プレートおよび継手プレートの内側面と内プレートの外側面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン200では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0062】
また、内プレート213の外側面と圧入プレート222および遊嵌プレート223の内側面との間には、従来のシールチェーンのようにシールリングを押圧状態で配設していないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行できる。
【0063】
また、チェーン本体210の外プレート216が内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部216aを備えているとともに、ブシュ軸支用環状凹部216aがチェーン本体210の内プレート213の外側面から一部突出したブシュ突出端部212aを囲繞支持している。
したがって、このようなブシュ突出端部212aとブシュ軸支用環状凹部216aとの間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造L3となって、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力などに起因してブシュ212と連結ピン215との間に封入された潤滑油が内プレート213の外側面と外プレート216の内側面との間から外部漏出することを抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン本体210のブシュ212の内周面とチェーン本体210の連結ピン215の外周面との間で生じがちな摩耗損傷を低減してチェーンの摩耗伸びを長期に亘って防止できる。
【0064】
また、ブシュ軸支用環状凹部216aが、チェーン本体210の外プレート216の内側面を凹陥させて外側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ブシュ軸支用環状凹部216aの断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ブシュ軸支用環状凹部216aを形成することによる外プレート216の強度低下を抑制でき、また、外プレート216のプレス打ち抜き加工を行う際に、外プレート216の内側面を凹陥させて外側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、外プレート216の打ち抜き加工とブシュ軸支用環状凹部216aの形成加工とを同時に行うことができるので、外プレート216の打ち抜き加工とは別途にブシュ軸支用環状凹部216aを形成する研削やミーリングなどの機械加工を外プレート216に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0065】
また、チェーン本体210の外プレート216の内側面と内プレート213の外側面との間には、従来のシールチェーンのような押圧状態で配置されたシールリングを別部品として設けていないので、チェーン稼動時に円滑に屈曲して周回走行するとともにチェーン部品点数の増加を回避できる。
【0066】
また、従来のシールチェーンでは、シールリングの摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、シールリングと摺接する部材の表面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の継手リンクユニット付き無給油チェーン200では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0067】
また、遊嵌プレート223が、圧印加工により形成された環状圧印部223bを継手ピン孔の周囲に有している。
したがって、チェーン引張力が継手ピン221を介して遊嵌プレート223に作用した際に疲労破壊を生じがちな継手ピン孔の周囲の疲労強さを向上できるので、長期にわたってチェーン寿命を維持できる。
【0068】
そして、遊嵌プレート223が、継手ピン221の先端部に形成されたプレート遊嵌用小径段部221aに遊嵌されている。
したがって、このような継手ピン221と遊嵌プレート223との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して、遊嵌プレート223の継手ピン孔の内周面と継手ピン221の外周面との間からブシュ212の内周面と継手ピン221の外周面との間までの潤滑油の漏出径路および外部塵埃の侵入径路がより複雑な構造を呈するので、油溜り用ラビリンス構造L2による潤滑油の外部漏出の阻止効果および外部塵埃の内部侵入の阻止効果をより一層向上できるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンの全体概要図。
【図2】図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの分解組み付け図。
【図3】図1に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの断面図。
【図4】継手リンクユニットの変形例を示す斜視図。
【図5】シール環状体の変形例を示す断面図。
【図6】本発明の第2実施例である継手リンクユニット付き無給油チェーンの分解組み付け図。
【図7】図6に示す継手リンクユニット付き無給油チェーンの断面図。
【符号の説明】
【0070】
100、 200 ・・・ 継手リンクユニット付き無給油チェーン
110、 210 ・・・ チェーン本体
111、 211 ・・・ ローラ
112、 212 ・・・ ブシュ
112a、212a ・・・ ブシュ突出端部
113、 213 ・・・ 内プレート
114、 214 ・・・ 内リンク
115、 215 ・・・ 連結ピン
116、 216 ・・・ 外プレート
116a、216a ・・・ ブシュ軸支用環状凹部
117、 217 ・・・ 外リンク
120、 220 ・・・ 継手リンクユニット
121、 221 ・・・ 継手ピン
122、 222 ・・・ 圧入プレート
122a、222a ・・・ ブシュ軸支用環状凹部
123、 223 ・・・ 遊嵌プレート
123a、223a ・・・ ブシュ軸支用環状凹部
123b、223b ・・・ 環状圧印部
124、 224 ・・・ 締結手段
130、 230 ・・・ シール環状体
221a ・・・ プレート遊嵌用小径段部
L1、L2、L3 ・・・ 油溜り用ラビリンス構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対のブシュの両端部を左右一対の内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合してなる内リンクと前記ブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の連結ピンの両端部を左右一対の外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合してなる外リンクとがチェーン長手方向に交互に連結されたチェーン本体と、該チェーン本体の両端に位置するブシュ内にそれぞれ貫通する前後一対の継手ピンと該継手ピンの基端部を前後一対の継手ピン圧入孔に圧入嵌合する圧入プレートと前記継手ピンの先端部を前後一対の継手ピン孔に遊嵌する遊嵌プレートと該遊嵌プレートの外側面から突出した継手ピンの先端部を遊嵌プレートの外側面に位置決めして締結する締結手段とで構成されて前記チェーン本体の両端を相互に連結する継手リンクユニットとからなり、前記ブシュの内周面と継手ピンおよび連結ピンの外周面との間に潤滑油を封入してなる継手リンクユニット付き無給油チェーンにおいて、
前記チェーン本体の両端に位置する内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記継手リンクユニットの圧入プレートおよび遊嵌プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されているとともに、
前記遊嵌プレートの継手ピン孔の内周面と継手ピンの外周面との間からの潤滑油の外部漏出を阻止するシール環状体が、前記遊嵌プレートのブシュ軸支用環状凹部とブシュ突出端部の対向面間に介在した状態で継手ピンの外周面に圧嵌されていることを特徴とする継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項2】
前記遊嵌プレートが、圧印加工により形成された環状圧印部を継手ピン孔の周囲に有していることを特徴とする請求項1記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項3】
前記遊嵌プレートが、前記継手ピンの先端部に形成されたプレート遊嵌用小径段部に遊嵌されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。
【請求項4】
前記チェーン本体の内プレートの外側面から一部突出したブシュ突出端部が、前記チェーン本体の外プレートの内側面を凹陥させてオフセット状態で外側面に膨出させたブシュ軸支用環状凹部によりそれぞれ囲繞支持されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の継手リンクユニット付き無給油チェーン。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−210017(P2009−210017A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53246(P2008−53246)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】