説明

継手装置および試験装置

【課題】 構造が簡単で交換やメンテナンスのための作業が容易な継手装置、およびこの継手装置を用いた試験装置の提供。
【解決手段】 被試験体の第一回転軸と負荷装置の第二回転軸とを連結すべく一端部側が第一回転軸に連結可能とされるとともに他端部側が第二回転軸に連結され、少なくとも一部が第一回転軸と第二回転軸を連結する軸連結方向に移動することで、被試験体のサイズに応じた第一回転軸の端部位置に対応するよう伸縮可能に構成され、第一回転軸と第二回転軸とを両回転軸の軸心回りに一体回転するように連結する回転伝達軸と、回転伝達軸の挿通を許容して回転伝達軸と軸連結方向に相対的に移動可能なスペーサとを着脱可能に有し、スペーサは回転伝達軸とともに回転可能に構成された継手装置、およびこの継手装置を用いた試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のパワートレイン(例えば、トランスミッション、エンジン)等の被試験体の回転軸と負荷装置の回転軸とを連結するための継手装置、および被試験体の回転軸の回転に伴う該被試験体の状態を試験するための試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動装置等の被試験体の回転軸の回転に伴う該被試験体の状態、例えば発生音やトルクを試験するための試験装置として、下記特許文献1に示す試験装置が開示されている。
この試験装置では、試験室の一例としての半無響音室内に被試験体を設置し、被試験体の回転軸を回転させた際に、例えば該回転軸の回転に負荷を与えるダイナモ等の負荷装置を、試験室外に配置している。
また、被試験体の回転軸と負荷装置の回転軸とを連結軸部によって連結しており、この連結軸部は、その一部が試験室内と試験室外とを隔てる壁を挿通している。そして連結軸部は、被試験体のサイズに応じたその回転軸の位置に適応させて両回転軸を連結すべく横方向に伸縮可能な構成とされている。
下記特許文献1に示すものでは、壁を挿通する部分がスライド軸とされて、被試験体のサイズに応じたその回転軸の位置に適応させて両回転軸を連結できるように構成されている。
【0003】
下記特許文献2には、被試験体を車両とし、該車両の走行試験路面の代わりとして車両の前後車輪を載せて該車輪の回転に伴って回転する前後の回転ドラムを用い、この回転ドラムに回転を制動する負荷をかけることで実際の車両走行環境に近い環境下で試験をするようにした試験装置が開示されている。
この試験装置では、車種によって異なる車両のホイールベース長に合わせるように、回転ドラムの一方を車両の前後方向に移動自在に構成している。この場合では、ダイナモの回転軸と一方の回転ドラムの回転軸とを一方のギヤ機構を介して連結して該一方の回転ドラムに負荷を付与するように構成し、フライホイールの回転軸と他方の回転ドラムの回転軸とを他方のギヤ機構を介して連結し、該ギヤ機構を車両の前後方向に移動自在に構成している。
そして、該ギヤ機構を車両の前後方向に移動自在とすべく、各回転ドラムの回転軸と直交する方向に配置してある両ギヤ機構の回転軸どうしを、伸縮自在なギヤカップリング(継手装置)で一体回転するよう連結している。加えて、フライホイールの回転軸と他方のギヤ機構の回転軸とを、さらに、伸縮自在なギヤカップリングで一体回転するよう連結している。
【0004】
【特許文献1】特開2006−3123号公報
【特許文献2】特開平7−120355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の試験装置では、連結軸部において壁を挿通する部分がスライド軸とされているから、スライド軸のメンテナンスのための作業がしにくいという課題がある。特に、スライド軸としてスプライン軸を用いる場合において、使用に伴ってスプライン溝が変形したり、軸そのものの捩れ等が生じたりした場合には、交換する必要がある。しかしながら、この試験装置では、スライド軸を、壁を挿通する部分に配置しているから、交換作業を含むメンテンンス作業がしにくい。
【0006】
特許文献2に記載の試験装置では、両ギヤ機構の回転軸どうしをギヤカップリングで連結し、且つフライホイールの回転軸と他方のギヤ機構の回転軸とをギヤカップリングで連結した構成であり、したがって二箇所に伸縮軸機構を設けているから、その分だけ構造が複雑になり、メンテナンス作業に手間を要するといった課題がある。
上記のような課題は、試験装置に限らず、離間距離が変化する異なる回転軸どうしを一体回転するように連結する継手装置全般に指摘される課題であった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、構造が簡単で交換やメンテナンスのための作業が容易な継手装置、およびこの継手装置を用いた試験装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の継手装置は、被試験体の第一回転軸と負荷装置の第二回転軸とを連結すべく、一端部側が第一回転軸に連結可能とされるとともに他端部側が第二回転軸に連結され、少なくとも一部が第一回転軸と第二回転軸を連結する軸連結方向に移動することで、被試験体のサイズに応じた第一回転軸の端部位置に対応するよう伸縮可能に構成され、前記第一回転軸および第二回転軸を該両回転軸の軸心回りに一体回転するように連結する回転伝達軸と、該回転伝達軸の挿通を許容して該回転伝達軸に対して前記軸連結方向に相対的に移動可能なスペーサとを着脱可能に有し、該スペーサは回転伝達軸とともに回転可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成の継手装置によれば、第一回転軸の端部位置に応じて、回転伝達軸を第一回転軸と第二回転軸との間に取付けて両回転軸を連結することで、第一回転軸と第二回転軸とが一体回転可能となる。また、第一回転軸と第二回転軸とが大きく離れる場合では、スペーサを取付けることで、長尺の回転伝達軸を準備することなく第一回転軸と第二回転軸とを一体回転させることが可能となる。さらに、スペーサは回転伝達軸の挿通を許容するから、スペーサを取付けた場合であってもこれに回転伝達軸を挿通することで、第一回転軸の端部位置から第二回転軸までの距離に応じるよう無段階で長さ調節が可能な継手装置となる。
さらに、上記継手装置では、被試験体のサイズによって変わる第一回転軸の端部位置と第二回転軸の端部位置間の離間距離に対して、回転伝達軸と該回転伝達軸の挿通を許容するスペーサとで対応可能とした構成であるから、継手装置そのものの構成の複雑化が抑えられ、したがって、継手装置を構成する部材の交換やメンテナンスのための作業性が向上する。
なお、前記負荷装置とは、第一回転軸の回転に負荷を付与させる装置、および第一回転軸の回転によって負荷を付与させられる装置の双方を含む概念であり、前者の例としてダイナモ、後者の例として発電機が挙げられる。
【0010】
本発明の継手装置では、回転伝達軸はスプライン軸であり、該スプライン軸は第一回転軸側に着脱可能とされるとともに軸連結方向に沿って移動可能であり、スペーサはスプライン軸に対して第二回転軸側に着脱可能とされるとともにスプライン軸を挿通可能とされ、第二回転軸の第一回転軸側の内周面にスプライン軸の端部外周部をスライド可能に嵌合する嵌合部が設けられていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、スプライン軸を取付けてその端部外周部を嵌合部に嵌合してスライドさせることで、第一回転軸の端部位置に適応した位置で第一回転軸と第二回転軸とを連結することが可能であり、また、スペーサを取付けて、スペーサによってその分の長手方向の距離を確保しつつ第一回転軸と第二回転軸とを連結させることが可能である。
そして、スプライン軸の端部外周部を嵌合部に嵌合してスライドさせることで、スプライン軸の端部外周部と嵌合部とがスライドする範囲において継手装置の長手方向長さを無段階での調節が可能となる。
【0012】
本発明の継手装置では、スプライン軸およびスペーサは、第一回転軸の径方向外方に突出する第一回転軸用フランジおよび第二回転軸の径方向外方に突出する第二回転軸用フランジに着脱可能なフランジ部を長手方向両側にそれぞれ有し、スプライン軸の第二回転軸側のフランジ部とスペーサの第一回転軸側のフランジ部とが着脱可能とされ、スプライン軸の第二回転軸側のフランジ部はスプライン軸に一体回転するように設けられるとともにスプライン軸の軸線に沿って移動可能に設けられていることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、スプライン軸に第二回転軸側のフランジ部およびスペーサの第一回転軸側のフランジ部どうしを連結し、スプライン軸の第一回転軸側のフランジ部および第一回転軸用フランジどうしを連結し、スペーサの第二回転軸側のフランジ部および第二回転軸用フランジどうしを連結し、第一回転軸の端部位置に応じて、スプライン軸をその第二回転軸側のフランジ部に対して軸線に沿って移動させ、あるいはスプライン軸をスペーサに挿通させる。
【0014】
本発明の継手装置は、第二回転軸の第一回転軸側に連結した中間軸受装置を介して第一回転軸と第二回転軸とが一体回転するよう連結されることを特徴としている。
上記構成によれば、第一回転軸の回転が中間軸受装置を介して第二回転軸に伝達されるから、負荷装置に不要な負荷が働くのが抑制される。
【0015】
本発明の継手装置は、試験室内に配置された被試験体のその第一回転軸と、試験室外に配置された負荷装置のその第二回転軸とを、試験室内に配置して連結するものであることを特徴としている。
上記構成によれば、継手装置は第一回転軸と負荷装置の第二回転軸とを連結すべく試験室内に配置されているから、試験室の壁に挿通させる場合や試験室外に配置する継手装置に比べて、交換やメンテナンスのための作業性を向上させ得る継手装置となる。
【0016】
本発明の試験装置は、試験室内に配置された被試験体のその第一回転軸と、試験室外に配置された負荷装置のその第二回転軸とが、前記試験室内において上記何れかに記載の継手装置で連結されていることを特徴としている。
【0017】
上記構成において、試験室内に配置されて回転伝達軸とスペーサとを着脱可能に有しているから、継手装置を試験室の壁に挿通させる場合や試験室外に配置する場合に比べて、継手装置の交換やメンテナンスのための作業性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の継手装置によれば、第一回転軸の端部位置に応じて、回転伝達軸を第一回転軸と第二回転軸との間に取付けて両回転軸を連結することで、第一回転軸と第二回転軸とを一体回転させることができ、スペーサを取付けることで、第一回転軸と第二回転軸とが大きく離れている場合であっても、回転伝達軸を長尺に形成することなく第一回転軸と第二回転軸とを一体回転させることができ、スペーサは回転伝達軸の挿通を許容するから、スペーサを取付けた場合であってもこれに回転伝達軸を挿通することで、第一回転軸の端部位置から第二回転軸までの距離に応じるよう長さ調節ができ、さらに、被試験体のサイズによって変わる第一回転軸の端部位置と第二回転軸の端部位置間の離間距離に対して、回転伝達軸と該回転伝達軸の挿通を許容するスペーサとで対応する構成であるから、継手装置そのものの構成の複雑化を抑えることができ、したがって、継手装置を構成する部材の交換やメンテナンスのための作業性を向上させることができる。
本発明の試験装置によれば、継手装置は試験室内に配置されて回転伝達軸とスペーサとを着脱可能に有しているから、試験室の壁に継手装置を挿通させる場合や試験室外に配置する場合に比べて、交換やメンテナンスのための作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る試験装置を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、被試験体の回転軸と負荷装置の回転軸とを継手装置で連結して両回転軸どうしを軸心回りに一体に回転させつつ、前記被試験体の回転軸の回転状態を検査するための試験装置に係る。
なお、被試験体としてパワートレインが挙げられ、さらに詳しくは、車両のトランスミッション、エンジン等である。また、負荷装置として被試験体の回転軸の回転に負荷を付与させる装置、および該回転軸の回転によって負荷を付与させられる装置の双方を含み、前者の例としてダイナモ、後者の例として発電機が挙げられる。
図1は本発明の実施形態を示す試験装置の全体概略平面図、図2は一部拡大平面図、図3は継手装置の詳細を示す正面図、図4は拡大正面図、図5は継手装置の別の使用方法を示す正面図、図6は拡大正面図である。
【0020】
これらの図に示す試験装置Tは、壁1に囲まれることで形成される半無響音室2(試験室の一例であって、無響音室であってもよい)内に被試験体3としてのトランスミッションを配置し、半無響音室2外に負荷装置5としてのダイナモを配置し、被試験体3の第一回転軸4と負荷装置5の第二回転軸6とを半無響音室2内において継手装置10で連結し、第二回転軸6から継手装置10を介して第一回転軸4の回転駆動に対して負荷装置5の駆動による負荷を付与しつつ第一回転軸4を回転させて、被試験体3の状態、この場合は回転トルクを試験するためのものである。なお、被試験体3の第一回転軸4に負荷を付与する理由は、実機に近い環境を設定するためである。
【0021】
負荷装置5の第二回転軸6は、半無響音室2外から壁1を挿通するようにして半無響音室2内へ導入されて、その導入側先端部に、第二回転軸6と同心の中間軸受装置7を、半無響音室2内に配置して、連結している。
中間軸受装置7は、載置台8上に設置されることで横方向すなわち第一回転軸4と第二回転軸6の端部どうしを連結する軸線方向には不動とされており、また、負荷装置5の回転駆動力(制動力)を第一回転軸4側に伝達して第一回転軸4の回転に負荷を付与するよう構成されている。
【0022】
この種の被試験体3では、搭載される車両の種類によってサイズが異なる。そのため、半無響音室2内での被試験体3の設置位置が同一であれば、被試験体3の第一回転軸4の中間軸受装置7側の端部4cの位置が、被試験体3によって異なることになる。
そこで、中間軸受装置7における第一回転軸4(被試験体3)側端部と第一回転軸4の中間軸受装置7側端部とを、第一回転軸4および第二回転軸6の軸心どうしを連結する軸連結方向に伸縮自在な継手装置10によって連結し、第一回転軸4および中間軸受装置7をそれぞれ軸心4a,7b回りに一体回転させるようにしている。
【0023】
ここで継手装置10の構成を説明する。継手装置10は、第一回転軸4の中間軸受装置7側の端部4cと、中間軸受装置7における後述の回転内軸体7Aの端部とを結ぶ軸線上で、軸連結方向に伸縮自在且つ移動自在に構成されている。継手装置10は、少なくともその一部が第一回転軸4と中間軸受装置7(第二回転軸6)とを連結する方向に移動自在に構成されている。
この実施形態では、図3ないし図6に示すように、継手装置10は載置台8上に組付けられた敷設レール部材11に前記軸心4aに沿って往復動可能に設置される可動部分10Aと、中間軸受装置7の端部に着脱自在に取付けられる非可動部分10Bとを有する。
【0024】
敷設レール部材11には移動台部13が取付けられており、敷設レール部材11は、載置台8に設けた回転操作ハンドル12を、軸心4a,7b方向と直角な方向の軸心回りに回転させることで、不図示のラック・ピニオン機構によって、移動台部13を軸心4a,7bに沿うよう往復移動させることができるよう構成されている。
移動台部13にはトルクメータ14が載置固定されており、トルクメータ14は、移動台部13とともに軸心4a,7bに沿う方向に往復動するよう構成されている。なお、回転操作ハンドル12は軸心4a,7b方向と直角な方向の軸心回りに回転させるものを、載置台8を介してその何れか一方または双方の何れに設けてもよく、双方に設けることで、載置台8の一方位置、その向かい位置の何れにおいてであっても、トルクメータ14を移動台部13とともに軸心4a,7bに沿う方向に往復動させるよう構成することができる。
【0025】
トルクメータ14の両側には、トルクメータ用回転軸15の端部が軸心4a,7b方向に両側に突出されており、トルクメータ用回転軸15の一端側である第一回転軸4側に、継手装置10の可動部分10Aの一部を構成する第一フランジ部材16が外装嵌着され、トルクメータ用回転軸15の他端側である第二回転軸6側(中間軸受装置7側)に、継手装置10の可動部分10Aの一部を構成する第二フランジ部材17が外装嵌着されている。第一フランジ部材16には、第一回転軸4の端部4cに設けたフランジ部材が、ボルト孔30aに挿通される取付ボルト30によって着脱自在に取付けられる。
このように、トルクメータ14は、被試験体3にできるだけ近い側に配置することで、被試験体3の正確なトルクを測ることができる。
【0026】
第二フランジ部材17の中間軸受装置7側に、回転伝達軸として可動部分10Aの一部を構成するスプライン軸20が着脱可能に設けられる。スプライン軸20の一端側、すなわち第一回転軸4側には、第二フランジ部材17に横方向で重ねられるスプライン軸用第一フランジ部材20Bが一体的に形成されている。スプライン軸用第一フランジ部材20Bは、軸本体20Aから径方向外方に順次拡径される円錐台形状部を有している。このようにスプライン軸用第一フランジ部材20Bを軸本体20Aから径方向外方に順次拡径するよう形成することで、所定の剛性を確保することができる。
なお、スプライン形状としては、インボリュートスプライン(インボリュートセレーションでもよい)、角形状スプライン、その他のスプライン形状であってもよい。
【0027】
また、スプライン軸20の軸本体20A側、すなわち中間軸受装置7(第二回転軸6)側には、第二回転軸用フランジに着脱されるフランジ部に相当するスプライン軸用第二フランジ部材22を有している。このスプライン軸用第二フランジ部材22は、スプライン軸20のスプライン部20aに嵌合してスプライン軸20と回転一体に構成され、しかもスプライン部20aに沿って摺動可能に嵌合している。
スプライン軸用第二フランジ部材22は、必要な剛性を確保すべく、所定の長さの本体部22aを有するとともに、後述のスペーサ23と組付けられる鍔部分は、本体部22aからさらに径方向外方に突出するよう一体的に形成されている。
【0028】
スプライン軸用第二フランジ部材22の本体部22aの内周面でグリス供給ポート22cの第一回転軸4側に、Oリング22dが設けられている。このOリング22dは軸本体20Aのスプラインの外周面に接触して、グリス供給ポート22cから供給されるグリスをできるだけ外部へ漏らさないようシールする機能を有する。
但し、Oリング22dは初期段階ではスプラインの断面形状に沿いにくいから、グリス漏れは考えられるものの、使用(スプラインとの摺動)に伴ってスプラインの断面形状に沿うよう変形ないし磨耗し、グリス漏れを抑制することができる。なお、スプライン軸20の軸本体20Aにおける中間軸受装置7側には、クッション材24が設けられている。
上記のように、継手装置10の可動部分10Aは、前記第一フランジ部材16、第二フランジ部材17、およびスプライン軸20(スプライン軸用第二フランジ部材22を含む)から構成されている。
【0029】
継手装置10の非可動部分10Bは、前記回転内軸体7Aの第一回転軸4側端部に外嵌嵌着された中間軸受用フランジ部材25と、中間軸受用フランジ部材25の第一回転軸4側に着脱可能な前記スペーサ23(図5、図6参照)とを有する。
なお、回転内軸体7Aは中間軸受装置7の外筒部材内に軸心7b回りに回転自在に設けられている。また、回転内軸体7Aの第一回転軸4側の端部には、スプライン軸20の先端部側がスライド可能に挿入される凹部7aが回転内軸体7Aの軸心7bに沿って形成されている。
【0030】
スペーサ23には、その軸心方向両側端部に径方向外方へ突出するスペーサ用フランジ23a,23bが一体的に形成されている。
スペーサ23は、そのスペーサ本体23Aが筒状(例えば円筒状)であって、その内径d1はスプライン軸20の軸本体20Aの外径d2に比べて大きく設定されていて、スプライン軸20がスペーサ本体23A内に挿入された場合に、軸本体20Aの外周面とスペーサ本体23Aの内周面との間には所定の隙間が生じるように構成されている。
このようなスペーサ本体23Aの厚みは、必要な剛性やイナーシャ等の仕様によって適宜決定される。
【0031】
第二フランジ部材17、スプライン軸用第二フランジ部材22の本体部22a、第二回転軸6側のスペーサ用フランジ23bのそれぞれの中間軸受装置7側の端面には、中間軸受装置7側に突出する側面視矩形、円形等の位置決め用の膨出部17a,22b,23cが一体的に形成されている。
スプライン軸20、スペーサ23、中間軸受用フランジ部材25の第一回転軸4側の端面には、中間軸受装置7側に凹となって膨出部17a,22b,23cが嵌合する位置決め用の嵌合凹部20b,23d,25aがそれぞれ形成されている。
【0032】
上記構成の継手装置10を有した試験装置Tでは、被試験体3のサイズによって異なる第一回転軸4の端部位置に応じて、継手装置10を第一回転軸4と中間軸受装置7(第二回転軸6の端部)どうしを連結する軸連結方向に移動あるいは伸縮させて、両軸どうしを連結することができる。
【0033】
例えば、スプライン軸20、スペーサ23の何れも用いない場合が考えられる。この場合では、回転操作ハンドル12を回転させて、移動台部13を中間軸受装置7側に移動させ、第二フランジ部材17と中間軸受用フランジ部材25の端面どうしを当接させ、フランジ部材どうしに取付ボルト30を挿通して固定する。このとき、膨出部17aと嵌合凹部25aとが嵌合し合ってトルクメータ用回転軸15と中間軸受装置7の回転内軸体7Aとが心合わせされる。
【0034】
また、図3および図4に示すように、第一回転軸4の端部位置に応じて、継手装置10にスプライン軸20を取付けることができる。
この場合では、取り扱う被試験体3に対応させるべく、必要に応じて回転操作ハンドル12を回転させて、第二フランジ部材17を中間軸受装置7から離間させておき、膨出部17aと嵌合凹部20bとを嵌合させるようにして、第二フランジ部材17にスプライン軸20のスプライン軸用第一フランジ部材20Bを当接させ、フランジ部材どうしを取付ボルト30によって固定する。
【0035】
また、スプライン軸用第二フランジ部材22の膨出部22bと中間軸受用フランジ部材25の嵌合凹部25aとを嵌合させるようにして、スプライン軸用第二フランジ部材22と中間軸受用フランジ部材25の端面どうしを当接させ、取付ボルト30によって固定する。
このようにすることで、第一回転軸4と第二回転軸6とを回転一体に連結することができ、被試験体3の第一回転軸4に負荷装置5で負荷を付与しつつ、実機の環境下で被試験体3の試験ができる。
また、スプライン軸20の軸本体20Aの途中部分がスプライン軸用第二フランジ部材22にスライド可能で、スプライン軸20の軸本体20Aの先端部分が凹部7aに対してスライド可能な状態となり、軸本体20Aの先端部分が凹部7aに嵌合した最短の状態と、軸本体20Aの先端部分が凹部7aから離脱して軸本体20Aがスプライン軸用第二フランジ部材22にのみ嵌合した最長の状態との間で、継手装置10の長さを無段階で調節することができる。
継手装置10を伸縮させるには、回転操作ハンドル12を回転させて、移動台部13を敷設レール部材11に沿って移動させることで、容易に行うことができる。
【0036】
また、仮に第一回転軸4の端部位置が、スプライン軸20の先端部分を凹部7aから離脱させなければならない位置にあったとしても、スプライン軸用第二フランジ部材22はスプライン軸20とスプライン嵌合しているから、第一回転軸4と第二回転軸6とを一体的に回転させることができる。
スプライン軸用第二フランジ部材22は、その本体部22aに必要な剛性を付与するために所定のボリュームをもたせることが好ましく、このためには、径方向の肉厚をできるだけ多くし、スプライン軸20とスプライン嵌合する軸心方向での範囲を、適用する被試験体3の種類に合わせて適宜設定しておく。特に、スプライン軸20とスプライン嵌合する範囲を多くすることで、両者が接触する面積が大きなり、したがって、接触部分の面圧を低くすることができ、捩れに対するスプラインの変形を抑制することができる。
【0037】
図5および図6に示すように、第一回転軸4の端部位置に応じて、継手装置10にスペーサ23を取付けることができる。この場合、必要に応じて回転操作ハンドル12を回転させて、第二フランジ部材17を中間軸受装置7から離間させておき、スペーサ23の膨出部23cと中間軸受用フランジ部材25の嵌合凹部25aとを嵌合させるようにし、スペーサ用フランジおよび中間軸受用フランジ部材25の端面どうしを当接させて取付ボルト30によって固定する。
【0038】
また、スプライン軸用第二フランジ部材22の膨出部22bとスペーサ23の嵌合凹部23dとを嵌合させるようにして、スプライン軸用第二フランジ部材22とスペーサ用フランジ23aの端面どうしを当接させて取付ボルト30によって固定する。
このようにすることで、スプライン軸20およびスペーサ23を介して、第一回転軸4および第二回転軸6が一体回転するように連結することができ、しかも第一回転軸4、スプライン軸20、スペーサ23および第二回転軸6が一体回転し、被試験体3の第一回転軸4に負荷装置5で負荷を付与しつつ、実機に近い環境下で被試験体3の試験ができる。
【0039】
スペーサ23とスプライン軸20の双方を取付けた継手装置10とした場合には、スプライン軸20はその軸本体20Aがスペーサ23を挿通してしかも軸本体20Aの先端部分が凹部7aに嵌合した最短の姿勢と、軸本体20Aの先端部分が凹部7aにもスペーサ23内にもなく、スプライン軸用第二フランジ部材22のみとスライド自在に嵌合した最長の姿勢との間で、無段階で長さ調節することができる。
【0040】
スペーサ23を取付けた場合では、その分だけ第一フランジ部材16を第一回転軸4側に近付けることができる。したがって、第一回転軸4の端部位置が中間軸受装置7から大きく離間する場合に特に有効であり、しかもスプライン軸20はスプライン軸用第二フランジ部材22とスプライン嵌合しつつスライドすることができるから、第一フランジ部材16を第一回転軸4側にできるだけ近付けた状態としたうえで、回転操作ハンドル12を回転させて継手装置10の伸縮量を微調整することができる。
【0041】
スペーサ23とスプライン軸20の双方を取付けた継手装置10とした場合には、継手装置10の長さがスペーサ23を取付けない場合に比べて長くなるから、継手装置10の回転時に回転中心軸と径方向重心とのズレによるアンバランス振動が発生し易い状態となる。しかしながら、第二フランジ部材17とスプライン軸20のスプライン軸用第一フランジ部材20B、スプライン軸用第二フランジ部材22と中間軸受用フランジ部材25は、それぞれ膨出部17a,22b,23cと嵌合凹部20b,23d,25aとを嵌合することで容易に位置決めすることができ、よって、各部を組付けた状態でバランス調整を行うことにより、前記アンバランス振動が発生する状態を効果的に防止することができる。
【0042】
継手装置10は半無響音室2内にあるから、仮に継手装置10を、壁1を挿通するように設けた場合に比べて、継手装置10のメンテナンス、スプライン軸20の交換、あるいは使用によって変形や破損がし易い部品の交換を、容易に行うことができる。
【0043】
さらに、スペーサ23を使用する場合では、スペーサ23の軸方向長さをできるだけ長くし、スプライン軸20はその軸方向長さをできるだけ短いものを使用することにより、スプラインの風切音を最小限に抑えることができるから、半無響音室2内において被試験体3の第一回転軸4の回転に伴って発生する騒音測定試験も、正確に行うことができる。
また、スペーサ23は、スプライン軸20の軸本体20Aが挿通することで軸本体20Aを覆うことになるから、その分だけスプライン軸20が回転する際に発生し易い風切音の発生を抑えることができ、騒音測定試験をいっそう正確に行うことができる。さらに、スペーサ23は、スプライン軸20の軸本体20Aが挿通することで軸本体20Aを覆うことになるから、スプライン軸20のうちスペーサ23に覆われた領域では、グリス供給ポート22cからスプライン軸20に供給されたグリスがスプライン軸20回転によって飛び散りを効果的に防止することができ、したがって、周囲の部品にグリスが付着するのを抑えることができる。
【0044】
なお、上記実施形態における試験装置Tでは、被試験体3を車両に搭載するトランスミッションとし、負荷装置5として第一回転軸4の回転に負荷を付与するダイナモとし、継手装置10の軸線上にトルクメータ14を配置してトランスミッションのトルクを計測する場合を示したがこれに限定されるものではなく、試験対象物としての被試験体3を他のパワートレインの例であるエンジンとし、負荷装置5として被試験体3の第一回転軸4の回転によって負荷が付与されることで発電する発電機としたりすることもまた、本発明の範囲内である。
また、第一回転軸4、第二回転軸6が、被試験体3、負荷装置5の入力軸あるいは出力軸の何れの場合であってもよく、第一回転軸4および第二回転軸6を上記構成の継手装置10を用いて一体回転となるよう連結する試験装置Tもまた、本発明の範囲内である。
【0045】
上記実施形態では、スプライン軸20を第一回転軸4側に配置して、スプライン軸20を、継手装置10の可動部分10Aの構成部品とし、スペーサ23を第二回転軸6側に配置して、継手装置10の非可動部分10Bの構成部品としたが、これに限定されるものではなく、スプライン軸20を第二回転軸6側に配置し、スペーサ23を第一回転軸4側に配置する構成とすることで、スペーサ23を継手装置10の可動部分10Aの構成部品とし、スプライン軸20を継手装置10の非可動部分10Bの構成部品とすることもできる。
この場合では、中間軸受用フランジ部材25とスプライン軸用第一フランジ部材20Bとを連結し、スプライン軸用第二フランジ部材22とスペーサ用フランジ23bとを連結し、第二フランジ部材17とスペーサ用フランジ23aとを連結することで、第一回転軸4と第二回転軸6とを、第一回転軸4および第二回転軸6の軸心回りに一体回転させることができる。
また、回転内軸体7Aの第一回転軸4側の端部にスプライン軸20の先端部側がスライド可能に挿入される凹部7aを設ける代わりに、好ましくはトルクメータ用回転軸15にスプライン軸20の先端部側がスライド可能に挿入される凹部を設けることにより、継手装置10は、スプライン軸20の軸本体20Aがスペーサ23を挿通してしかも軸本体20Aの先端部分が凹部に嵌合した最短の姿勢と、軸本体20Aの先端部分が凹部にもスペーサ23内にもなく、スプライン軸用第二フランジ部材22のみとスライド自在に嵌合した最長の姿勢との間で、無段階で長さ調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態を示す試験装置の全体概略平面図
【図2】同じく一部拡大平面図
【図3】同じく継手装置の詳細を示す正面図
【図4】同じく拡大正面図
【図5】同じく継手装置の別の使用方法を示す正面図
【図6】同じく拡大正面図
【符号の説明】
【0047】
1…壁、2…半無響音室、3…被試験体、4…第一回転軸、5…負荷装置、6…第二回転軸、7…中間軸受装置、10…継手装置、10A…可動部分、10B…非可動部分、20…スプライン軸、20B…スプライン軸用第一フランジ部材、22…スプライン軸用第二フランジ部材、23…スペーサ、23a,23b…スペーサ用フランジ、T…試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験体の第一回転軸と負荷装置の第二回転軸とを連結すべく、一端部側が第一回転軸に連結可能とされるとともに他端部側が第二回転軸に連結され、少なくとも一部が第一回転軸と第二回転軸を連結する軸連結方向に移動することで、被試験体のサイズに応じた第一回転軸の端部位置に対応するよう伸縮可能に構成された継手装置であって、
前記第一回転軸および第二回転軸を該両回転軸の軸心回りに一体回転するように連結する回転伝達軸と、該回転伝達軸の挿通を許容して該回転伝達軸に対して前記軸連結方向に相対的に移動可能なスペーサとを着脱可能に有し、該スペーサは回転伝達軸とともに回転可能に構成されていることを特徴とする継手装置。
【請求項2】
回転伝達軸はスプライン軸であり、該スプライン軸は第一回転軸側に着脱可能とされるとともに軸連結方向に沿って移動可能であり、スペーサはスプライン軸に対して第二回転軸側に着脱可能とされるとともにスプライン軸を挿通可能とされ、第二回転軸の第一回転軸側の内周面にスプライン軸の端部外周部をスライド可能に嵌合する嵌合部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の継手装置。
【請求項3】
スプライン軸およびスペーサは、第一回転軸の径方向外方に突出する第一回転軸用フランジおよび第二回転軸の径方向外方に突出する第二回転軸用フランジに着脱可能なフランジ部を長手方向両側にそれぞれ有し、スプライン軸の第二回転軸側のフランジ部とスペーサの第一回転軸側のフランジ部とが着脱可能とされ、スプライン軸の第二回転軸側のフランジ部はスプライン軸に一体回転するように設けられるとともにスプライン軸の軸線に沿って移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の継手装置。
【請求項4】
第二回転軸の第一回転軸側に連結した中間軸受装置を介して第一回転軸と第二回転軸とが一体回転するよう連結されることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の継手装置。
【請求項5】
試験室内に配置された被試験体のその第一回転軸と、試験室外に配置された負荷装置のその第二回転軸とを、試験室内に配置して連結するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の継手装置。
【請求項6】
試験室内に配置された被試験体のその第一回転軸と、試験室外に配置された負荷装置のその第二回転軸とが、前記試験室内において請求項1ないし請求項4の何れかに記載の継手装置で連結されていることを特徴とする試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−276211(P2009−276211A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128001(P2008−128001)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】