説明

継目無金属管の製造方法

【課題】内面割れを抑制できる継目無金属管の製造方法を提供する。
【解決手段】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金ビレットBLを加熱炉F1で加熱する工程(S2)と、加熱炉F1で加熱された高合金ビレットBLを、穿孔機P1を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程(S3)と、中空素管を冷却した後、加熱炉F1で再び加熱する工程(S4)と、加熱された中空素管HSを、穿孔機P1を用いて延伸圧延する工程(S5)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無金属管の製造方法として、プレス方式のユジーン法と、傾斜圧延方式のマンネスマン法とがある。
【0003】
ユジーン法では、機械加工又は穿孔プレスにより軸心に貫通孔が形成された中空の丸ビレットを準備する。そして、押出装置を利用して、中空の丸ビレットを熱間押出加工して継目無金属管を製造する。
【0004】
マンネスマン法では、穿孔機を用いて丸ビレットを穿孔圧延して中空素管(Hollow Shell)を製造する。製造された中空素管を圧延機で延伸圧延して中空素管を小径化及び/又は薄肉化し、継目無金属管を製造する。圧延機は例えば、プラグミル、マンドレルミル、ピルガーミル、サイザ等である。
【0005】
ユジーン法は、丸ビレットに高加工度を加えることが可能であり、製管性に優れる。高合金は一般的に高い変形抵抗を有する。そのため、高合金からなる継目無金属管は通常、ユジーン法により製造される。
【0006】
しかしながら、ユジーン法は、マンネスマン法と比較して、生産効率が低い。さらに、ユジーン法は、大径管及び長尺の管を製造しにくい。これに対して、マンネスマン法は、生産効率が高く、大径管、長尺管も製造可能である。したがって、高合金の継目無金属管を製造するために、ユジーン法よりも、マンネスマン法を利用できる方が好ましい。
【0007】
しかしながら、マンネスマン法により製造された高合金の継目無金属管の内面には、溶融割れに起因する内面疵が発生する場合がある。溶融割れは、中空素管の肉中(肉厚の中心部)の粒界が溶融することにより発生する。上述のとおり高合金は高い変形抵抗を有し、さらに、高合金のNi含有量が高い場合、状態図における固相線温度が低い。このような高合金を穿孔機により穿孔圧延する場合、変形抵抗が高い分、加工発熱が大きくなる。穿孔圧延中のビレット内において、加工発熱により、温度がビレットの融点近傍又は融点を超える部分が生じる。このような部分では、粒界が溶融し、割れが発生する。このような割れを溶融割れという。したがって、高合金からなる継目無金属管では、溶融割れに起因した内面疵が発生しやすい。
【0008】
内面疵の発生を抑制する技術は、特開2002−239612号公報(特許文献1)、特開平5−277516号公報(特許文献2)、特開平4−187310号公報(特許文献3)に提案されている。
【0009】
特許文献1及び2は次の事項を開示する。特許文献1及び2は、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼からなる継目無鋼管の製造を目的とする。特許文献1及び2では、素材を機械加工により中空素管にして加熱炉に装入する。そして、加熱された中空素管を穿孔機により延伸圧延する。中空素管を穿孔圧延する場合の加工量は、中実の丸ビレットと比較して低い。そのため、加工発熱量が低減し、溶融割れが低減されるため、内面疵の発生が抑制される。
【0010】
特許文献3は次の事項を開示する。特許文献3は、マンネスマン法において、2つの穿孔機(第1及び第2穿孔機)を利用する、いわゆる「ダブル・ピアシング」方式の製造方法を採用する。特許文献3は、第2穿孔機(エロンゲータ)において中空素管内面疵の発生を抑制することを目的とする。特許文献3では、エロンゲータのロール傾斜角と延伸比とを調整して、エロンゲータの圧延負荷を低減する。これにより、内面疵の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−239612号公報
【特許文献2】特開平5−277516号公報
【特許文献3】特開平4−187310号公報
【特許文献4】特開昭64−27707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2ではいずれも、機械加工によりビレットを中空素管にする。機械加工による中空素管の製造コストは高いため、継目無金属管の製造コストが高くなる。さらに、機械加工により中空素管を製造する場合、生産効率が低下する。
【0013】
特許文献3では、第2穿孔機のロール傾斜角と延伸比とを調整して、第2穿孔機の圧延負荷を低減する。しかしながら、依然として溶融割れに起因する内面疵が発生する場合がある。さらに、特許文献3では、SUS316等に代表されるオーステナイトステンレス鋼を対象としており、Ni含有量及びCr含有量が低い。
【0014】
本発明の目的は、内面疵の発生を抑制できる高合金の継目無金属管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金ビレットを加熱炉で加熱する工程と、加熱された高合金ビレットを、穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、中空素管を冷却した後、上記加熱炉で再び加熱する工程と、加熱された中空素管を上記穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える。
【0016】
本実施の形態による高合金の継目無金属管の製造方法は、内面疵の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施の形態による継目無金属管の製造ラインの全体構成図である。
【図2】図2は、図1中の加熱炉の模式図である。
【図3】図3は、図1中の穿孔機の模式図である。
【図4】図4は、本実施の形態による継目無金属管の製造工程を示すフロー図である。
【図5】図5は、第1穿孔機による穿孔圧延後、再加熱せずに第2穿孔機により延伸圧延を実施した場合の、各工程での中空素管の内面、外面、肉中の温度の推移を示す図である。
【図6A】図6Aは、従来のダブル・ピアシング方式の継目無金属管の製造工程を示す模式図である。
【図6B】図6Bは、本実施の形態による継目無金属管の製造工程を示す模式図である。
【図7】図7は、本実施形態の製造方法で製造された本発明例の継目無金属管の横断面写真と、本実施形態と異なる製造方法で製造された比較例の継目無金属管の横断面写真とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
高合金の継目無金属管をマンネスマン法により製造する場合、ダブル・ピアシング方式が適する。高合金は変形抵抗が高い。そのため、1回の穿孔圧延当たりの加工度が高ければ、一般的な鋼(低合金鋼等)と比較して、穿孔機への負荷が過剰に高くなる。さらに、加工度が高ければ加工発熱も大きくなるため、溶融割れが発生しやすくなる。ダブル・ピアシング方式を利用すれば、1回の穿孔圧延(延伸圧延)当たりの加工度を低く抑えることができる。
【0020】
従来のダブル・ピアシング方式の製造ラインは、特許文献3に示すとおり、加熱炉と第1及び第2穿孔機(エロンゲータ)とを備える。加熱炉で加熱された丸ビレットは、第1穿孔機で穿孔圧延され中空素管に製造される。第1穿孔機で製造された中空素管は速やかに第2穿孔機まで搬送され、第2穿孔機で延伸圧延される。
【0021】
上述のとおり、このような従来のダブル・ピアシング方式では、第2穿孔機において中空素管に内面割れが発生する場合がある。そこで、本発明者らは、ダブル・ピアシング方式により高合金の継目無金属管を製造する場合の加工発熱の抑制方法について検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
【0022】
穿孔圧延後の中空素管は肉厚方向に温度分布を持つ。穿孔圧延中の中空素管の内面はプラグと接触して抜熱され、中空素管の外面は傾斜ロールと接触して抜熱される。一方、中空素管の肉中(中空素管の肉厚の中心部)の温度は加工発熱により上昇する。したがって、中空素管内面及び外面の温度が低下し、肉中の温度が最も高くなる。特に、傾斜ロールのサイズは大きいため、中空素管外面温度は抜熱により内面温度よりも低くなる。したがって、中空素管の肉中と外面との温度差が最も大きくなる。以降、中空素管の肉中と外面との温度差を「偏熱」と称する。
【0023】
偏熱が大きい中空素管を延伸圧延すれば、溶融割れが発生しやすくなる。その理由として、次の事項が推定される。偏熱は、延伸圧延中の中空素管の肉中において、局所的な歪みの集中を引き起こす。このような歪みの集中は、肉中での加工発熱を顕著に高め、その結果、溶融割れを引き起こす。偏熱は、第1穿孔機による穿孔圧延時に発生し、中空素管が第1穿孔機から第2穿孔機に搬送された後も残る。
【0024】
そこで、本実施の形態では、穿孔圧延により製造された中空素管を、十分に冷却する。そして、冷却された中空素管を加熱炉に再び装入し、加熱する。この場合、冷却された中空素管では、偏熱が消滅又は顕著に小さくなる。そのため、中空素管を再加熱しても、中空素管の偏熱は抑制される。したがって、従来のダブル・ピアシング方式のように、偏熱に起因した溶融割れの発生が抑えられる。
【0025】
中空素管の冷却において、穿孔圧延により製造された中空素管の肉中温度が、再加熱時の加熱温度よりも低くなるまで中空素管を冷却すれば足りる。中空素管の外面温度が900℃以下であれば、中空素管の肉中温度は1100℃以下になり、再加熱時の加熱温度以下になる。そのため、偏熱は消滅する。したがって、再加熱前において、外面温度が900℃以下になるまで中空素管を冷却すれば足りる。
【0026】
冷却された中空素管を加熱炉で再加熱する場合、中空素管の内面及び外面にスケールが生成される可能性がある。内面にスケールが付着したままの中空素管を延伸圧延すれば、内面のスケールに起因した内面疵(かぶれ疵といわれる)が形成される可能性がある。しかしながら、中空素管の化学組成が20〜30%のCrと、22%よりも高く60%以下のNiとを少なくとも含有すれば、中空素管の耐酸化性が非常に高い。そのため、加熱中の中空素管の内面にスケールが生成しにくい。したがって、上述の化学組成を有する中空素管であれば、スケールに起因した内面疵の発生が抑制される。
【0027】
以上の知見に基づいて、本発明者らは次に示す継目無金属管の製造方法を完成した。
【0028】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金ビレットを加熱炉で加熱する工程と、加熱された高合金ビレットを穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、中空素管を冷却した後、加熱炉で再び加熱する工程と、加熱された中空素管を、穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える。
【0029】
本実施の形態では、冷却された中空素管を加熱炉にて再加熱する。冷却された中空素管では偏熱が小さい、又は消滅している。そのため、再加熱された中空素管では、偏熱がほぼ抑えられている。そのため、延伸圧延において、溶融割れが発生しにくい。さらに、中空素管のCr含有量及びNi含有量が高く、耐酸化性に優れるため、再加熱時に中空素管内面にスケールが生成しにくい。そのため、製造された継目無金属管に内面疵が発生するのを抑制できる。
【0030】
好ましくは、中空素管を加熱する工程では、外面温度が900℃以下に冷却された中空素管を加熱する。
【0031】
この場合、中空素管内の偏熱を実質的に消滅することができる。
【0032】
好ましくは、穿孔圧延する工程では、式(1)で定義される穿孔比が1.1〜2.0以下であり、延伸圧延する工程では、式(2)で定義される延伸比が1.05〜2.0以下であり、式(3)で定義される総延伸比が2.0よりも高い。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【0033】
この場合、高い加工度(総延伸比)で高合金の継目無金属管を製造できる。
【0034】
以下、本実施の形態による継目無金属管の製造方法の詳細を説明する。
【0035】
[製造設備]
図1は、本実施の形態による継目無金属管の製造ラインの一例を示すブロック図である。
【0036】
図1を参照して、製造ラインは、加熱炉F1と、穿孔機P1と、圧延機(本例では延伸圧延機10及び定径圧延機20)とを備える。各設備の間には、搬送装置50が配置される。搬送装置50は例えば、搬送ローラ、プッシャ、ウォーキングビーム式搬送装置等である。延伸圧延機10はたとえば、マンドレルミルである。定径圧延機20はたとえば、サイザ又はレデューサである。
【0037】
加熱炉F1は、丸ビレットを収納して加熱する。加熱炉F1はさらに、穿孔機P1により製造された中空素管を収納して加熱する。要するに、加熱炉F1は、丸ビレットだけでなく、中空素管も加熱する。加熱炉F1は周知の構成を有する。加熱炉F1はたとえば、図2に示すロータリーハース炉であってもよいし、ウォーキングビーム炉であってもよい。
【0038】
穿孔機はP1は、加熱炉F1から抽出された丸ビレットBL(図2参照)を穿孔圧延して中空素管を製造する。穿孔機P1はさらに、加熱炉F1により加熱された中空素管をさらに延伸圧延する。穿孔機P1は要するに、従来のダブル・ピアシング方式における第1及び第2穿孔機の役割を有する。
【0039】
図3は穿孔機P1の構成図である。図3を参照して、穿孔機P1は、一対の傾斜ロール1と、プラグ2とを備える。一対の傾斜ロール1は、パスラインPLを挟んで互いに対向して配置される。各傾斜ロール1は、パスラインPLに対して、傾斜角及び交叉角を有する。プラグ2は一対の傾斜ロール1の間であって、パスラインPL上に配置される。図3では一対の傾斜ロールが配置されているが、3以上の複数の傾斜ロールが配置されてもよい。傾斜ロールは、コーン型でもよいし、バレル型でもよい。
【0040】
[製造フロー]
図4は、本実施の形態による継目無金属管の製造工程を示すフロー図である。本実施の形態による継目無金属管の製造方法では次の工程を実施する。初めに、高合金の丸ビレットBLを準備する(S1:準備工程)。準備した丸ビレットBLを加熱炉F1に装入し、加熱する(S2:初期加熱工程)。加熱された丸ビレットBLを穿孔機P1で穿孔圧延して中空素管HSを製造する(S3:穿孔圧延工程)。中空素管HSを冷却し、冷却された中空素管HSを加熱炉F1で再加熱する(S4:再加熱工程)。加熱された中空素管HSを穿孔機P1で延伸圧延する(S5:延伸圧延工程)。延伸圧延された中空素管HSを、延伸圧延機10及び定径圧延機20で圧延し、継目無金属管にする(S6)。以下、各工程について詳述する。
【0041】
[準備工程(S1)]
初めに、高合金からなる丸ビレット(高合金ビレット)を準備する。丸ビレットは、20〜30%のCrと、22%よりも高く60%以下のNiとを少なくとも含有する。好ましくは、丸ビレットは、C:0.005〜0.04%以下、Si:0.01〜1.0%以下、Mn:0.01〜5.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:20〜30%、Ni:22%を超えて60%以下、Cu:0.01〜4.0%、Al:0.001〜0.3%、N:0.005〜0.5%を含有し、残部はFe及び不純物からなる。また、必要に応じて、Feの一部に代えて、Mo:11.5%以下及びW:20%以下の1種以上を含有してもよい。さらに、Feの一部に代えて、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、Ti:0.001〜1.0%、V:0.001〜0.3%、Nb:0.0001〜0.5%、Co:0.01〜5.0%及びREM:0.2%以下の1種以上を含有してもよい。
【0042】
丸ビレットは例えば、次の周知の方法で製造される。上記化学組成の溶鋼を製造する。溶鋼を造塊法によりインゴットにする。又は、溶鋼を連続鋳造法によりスラブ、ブルームにする。インゴット、スラブ又はブルームを熱間加工して、丸ビレットを製造する。熱間加工は例えば、熱間鍛造である。連続鋳造法により、高合金の丸ビレットを製造してもよい。また上述以外の他の方法により、高合金の丸ビレットを製造してもよい。
【0043】
本実施の形態の継目無金属管は、上述の化学組成を有する高合金を対象とする。上記化学組成の高合金は、高いCr及びNi含有量を有するため、耐酸化性に優れる。したがって、加熱炉F1内で加熱されたときにスケールが生成しにくい。
【0044】
[初期加熱工程(S2)]
準備された丸ビレットBLを加熱炉F1装入し、加熱する。好ましい加熱温度は1150℃〜1250℃である。この温度範囲で丸ビレットBLを加熱すれば、穿孔圧延時中の丸ビレットBLで粒界溶融が発生しにくい。好ましい加熱温度の上限は1220℃以下である。加熱時間は特に限定されない。
【0045】
[穿孔圧延工程(S3)]
加熱炉F1で加熱された丸ビレットBLを、穿孔機P1を用いて穿孔圧延する。具体的には、加熱炉F1から丸ビレットBLを抽出する。抽出された丸ビレットBLを、搬送装置50(搬送ローラ、プッシャ等)により、速やかに穿孔機P1の入側に搬送する。そして、穿孔機P1を用いて丸ビレットBLを穿孔圧延して中空素管HSを製造する。
【0046】
穿孔圧延における好ましい穿孔比は、1.1〜2.0以下である。穿孔比は、次の式(1)で定義される。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
【0047】
上述の穿孔比の範囲で穿孔圧延を実施すれば、溶融割れが発生しにくい。なお、加熱炉F1での加熱温度が1100℃未満であれば、穿孔機P1での負荷が大きくなりすぎるため、穿孔圧延が困難である。
【0048】
加熱温度が高い程、低い穿孔比で溶融割れが発生する。丸ビレットの加熱温度と穿孔圧延による加工発熱の合算値が、材料固有の粒界溶融温度を上回った場合、溶融割れが発生する。加工発熱は、穿孔比が低いほど低くなる。したがって、加熱温度が高い程、穿孔比を低くする方が好ましい。
【0049】
[再加熱工程(S4)]
穿孔圧延直後の中空素管の肉中温度は、中空素管の外面温度よりも顕著に高い。上述のとおり、中空素管の横断面(中空素管の軸方向に垂直な断面)における中肉(肉厚の中心位置)の温度から、中空素管の外面の温度を差分した値を「偏熱」(℃)と定義する。
【0050】
図5は、第1及び第2穿孔機を用いた従来のダブル・ピアシング方式における各工程(加熱炉抽出時、第1穿孔機での穿孔圧延直後、第2穿孔機での延伸圧延直前)での中空素管の内面温度、外面温度、肉中温度の推移を示す図である。図5は次の数値解析により得られた。
【0051】
図6Aは、図5の数値解析で用いた従来のダブル・ピアシングの製造工程の模式図である。図6Aを参照して、従来のダブル・ピアシング方式では、ビレットBLを加熱炉F1に装入し、加熱する。加熱されたビレットBLを第1穿孔機P1で穿孔圧延し、中空素管HSを製造する。中空素管HSを加熱することなく、速やかに第2穿孔機P2まで搬送し、第2穿孔機P2で延伸圧延する。以上の製造工程における、丸ビレット及び中空素管の温度推移を求めた。
【0052】
より具体的には、上述の化学組成を満たす高合金からなる丸ビレットBLを想定した。丸ビレットBLの外径は70mm、長さは500mmとした。加熱炉F1の加熱温度は1210℃とした。穿孔機P1を用いた穿孔圧延により製造される中空素管HSの外径は75mm、肉厚は10mm、長さは942mmとした。穿孔比は1.88とした。中空素管HSが穿孔機P1から穿孔機P2に搬送されるまでの搬送時間は60秒とした。
【0053】
以上の製造条件に基づいて、数値解析モデルを構築した。そして差分法により、中空素管HS(又は丸ビレットBL)の外面温度OT、内面温度IT、肉中温度(肉厚の中心位置での温度)MTを求めた。求めた各温度に基づいて、図5を作成した。
【0054】
図5中のMT(「▲」印)は、肉中温度を示す。IT(「■」印)は、内面温度を示す。OT(「●」印)は、外面温度を示す。図5を参照して、穿孔圧延直後の偏熱(肉中温度MTと外面温度OTとの差分値)は200℃以上であり、肉中温度MTは1280℃以上であった。そして、延伸圧延直前、つまり、第2穿孔機の入側での偏熱量は230℃以上であり、かつ、肉中温度MTは1230℃以上であった。つまり、加工発熱により、肉中温度MTは加熱炉F1の加熱温度よりも高くなった。
【0055】
以上の解析より、従来のダブル・ピアシング方式における穿孔圧延後の中空素管の偏熱は100〜230℃程度になると推定される。従来のダブル・ピアシング形式の場合、このような大きな偏熱を有する中空素管を第2穿孔機で延伸圧延する。この場合、偏熱に起因して肉中に局所的に歪みが集中し、加工発熱が顕著に増大する。加工発熱の増大は、偏熱が大きいほど顕著になる。したがって、中空素管の偏熱が大きいまま、第2穿孔機P2で延伸圧延を実施すれば、中空素管で溶融割れが発生しやすくなる。
【0056】
そこで、本実施の形態では、図6Bに示すとおり、穿孔機P1により製造された中空素管HSを十分に冷却し(S4)、中空素管HSの偏熱を消滅又は小さく抑える。そして、冷却された中空素管HSを再度加熱炉F1に装入し、ステップS2での初期加熱工程と同様に加熱する(S4)。この場合、加熱された中空素管HS内には偏熱が生じにくい。そのため、次工程の延伸圧延において、加工発熱による溶融割れの発生が抑制され、内面疵の発生が抑制される。再加熱工程(S4)における、好ましい加熱温度は、1100℃〜1250℃である。再加熱工程(S4)におけるさらに好ましい加熱温度は、1150℃以上である。
【0057】
中空素管の冷却方法は、放冷でもよいし、水冷でもよい。冷却速度は特に制限されない。
【0058】
中空素管の冷却において、穿孔圧延により製造された中空素管HSの肉中温度が、再加熱工程(S4)での加熱温度よりも低くなれば、中空素管HS内の偏熱は消滅する。中空素管の好ましい冷却停止温度は、外面温度で900℃以下である。中空素管の外面温度が900℃以下であれば、肉中温度は1100℃以下になる。したがってこの場合、肉中温度が、再加熱工程(S4)における加熱温度(1100℃〜1250℃)以下になる。
【0059】
再加熱工程(S4)での加熱時間は、初期加熱工程(S2)での加熱時間と同じであってもよい。再加熱工程において、素管が所望の温度に加熱されれば、加熱時間は特に制限されない。
【0060】
上述のとおり、本実施の形態の中空素管は、高いCr含有量及びNi含有量を含む高合金からなる。したがって、再加熱工程(S4)により中空素管を加熱しても、中空素管の内面及び外面にスケールが生成しにくい。したがって、次工程の延伸圧延において、スケールに起因した内面疵の発生が抑制される。
【0061】
[延伸圧延工程(S5)]
加熱炉F1から中空素管を抽出し、穿孔機P1に再び搬送する。図6Bに示すとおり、穿孔機P1を再び用いて中空素管HSを延伸圧延する。
【0062】
延伸圧延における好ましい延伸比は、1.05〜2.0以下である。穿孔比は、次の式(2)で定義される。
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
【0063】
加熱炉F1での加熱温度と、延伸比との関係は、穿孔圧延工程(S3)における加熱炉F1と穿孔比との関係と同じである。好ましい延伸比は1.05〜2.0である。
【0064】
さらに、式(3)で定義される総延伸比の好ましい値は、2.0よりも高く、4.0以下である。
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【0065】
本実施の形態では、図6Bに示すとおり、穿孔圧延により製造された中空素管HSを冷却し、偏熱を消滅又は小さくする。そして、冷却された中空素管HSを加熱炉F1に再び装入し、再加熱する。再加熱された中空素管を、穿孔機P1を再度利用して、延伸圧延する。以上の工程の場合、図6Aに示す従来のダブル・ピアシング工程と比較して、延伸圧延前の中空素管HSの偏熱を抑制できる。そのため、延伸圧延により溶融割れが発生するのを抑制できる。さらに、中空素管HSのCr含有量及びNi含有量は高いため、中空素管を加熱炉F1で再加熱したときに、中空素管HSの内面にスケールが生成しにくい。したがって、中空素管HSを再加熱しても、延伸圧延時に、スケールに起因した内面疵が発生しにくい。
【実施例】
【0066】
種々の製造方法に基づいて複数の継目無金属管を製造し、内面割れの発生有無を調査した。
【0067】
[本発明例]
本発明例の継目無金属管を、次の方法で製造した。質量%で、C:0.02%、Si:0.3%、Mn:0.6%、Cr:25%、Ni:31%、Cu:0.8%、Al:0.06%、N:0.09%及びMo:3%を含有し、残部はFe及び不純物からなる高合金の丸ビレットを3本準備した。各丸ビレットの外径は70mmであり、長さは500mmであった。各丸ビレットを加熱炉F1に装入し、1210℃で60分加熱した。加熱後、加熱炉F1から丸ビレットを抽出し、穿孔機P1で穿孔圧延して中空素管にした。中空素管の外径は75mm、肉厚は10mm、長さは942mmであり、穿孔比は1.88であった。
【0068】
穿孔圧延後の中空素管を放冷した。中空素管の表面温度が常温(25℃)になった後、中空素管を加熱炉F1に装入して再加熱した。再加熱時の加熱温度は1200℃であり、中空素管の温度が1200℃になるまで十分な時間で加熱した。
【0069】
上記加熱後、中空素管を加熱炉F1から抽出し、穿孔機P1で延伸圧延して継目無金属管を製造した。製造された継目無金属管の外径は86mm、肉厚は7mm、長さは1107mmであり、延伸比は1.18であった。総延伸比は、2.21であった。
【0070】
製造された各継目無金属管の溶融割れの有無を調査した。具体的には、各継目無金属管を軸方向と垂直に切断し、内面の溶融割れの有無を目視観察した。溶融割れが1つでも観察された場合、その継目無金属管では溶融割れが発生したと判断した。
【0071】
さらに、製造された各継目無金属管の全長の内面において、スケールに起因したかぶれ疵(内面疵)の有無を目視観察により調査した。
【0072】
[比較例1]
比較例1の継目無金属管を、次の方法で製造した。本発明例と同じ化学組成及び寸法の丸ビレットを3本準備した。本発明例と同じ条件で、丸ビレットを加熱炉F1で加熱した。加熱後、穿孔機P1を用いて穿孔圧延して本発明例と同じ寸法(外径86mm、肉厚7mm、長さ1107mm)の継目無金属管を製造した。穿孔比は、本発明例の総延伸比と同じであり、2.21であった。要するに、比較例1では、穿孔比を2.0よりも高くして、1回の穿孔圧延により継目無金属管を製造した(シングル・ピアシング)。
【0073】
製造された継目無金属管の溶融割れ及びかぶれ疵の有無を、本発明例と同じ方法で調査した。
【0074】
[比較例2]
比較例2の継目無金属管を、次の方法で製造した。本発明例と同じ化学組成及び寸法の丸ビレットを3本準備した。本発明例と同じ条件で、丸ビレットを加熱炉F1で加熱し、穿孔機P1を用いて穿孔圧延して中空素管とした。製造された中空素管の寸法は本発明例と同じであった。製造された中空素管を加熱炉F1に再装入せず、そのまま穿孔機P2に搬送した。そして、穿孔機P2を用いて本発明例と同じ条件で延伸圧延して継目無金属管を製造した。要するに、比較例2では、図6Aと同じ製造工程(従来のダブル・ピアシング方式)により、継目無金属管を製造した。穿孔機P2の入側での中空素管の外面温度は990℃であった。製造された継目無金属管の溶融割れ及びかぶれ疵の有無を、本発明例と同じ方法で調査した。
【0075】
[比較例3]
比較例3の継目無金属管を、次の方法で製造した。JIS規格に規定されたSUS304に相当するオーステナイト系ステンレス鋼からなる丸ビレットを3本準備した。丸ビレットの寸法は、本発明例と同じであった。本発明例と同じ製造工程(つまり、図6Bの製造工程)及び同じ製造条件で、継目無金属管を製造した。要するに、比較例3では、本発明例と異なる素材を用いて、本発明例と同じ製造方法により、継目無金属管を製造した。製造された継目無金属管の溶融割れ及びかぶれ疵の有無を、本発明例と同じ方法で調査した。
【0076】
[調査結果]
表1に、調査結果を示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1中の「溶融割れ」欄において、「NF」は、溶融割れが観察されなかったことを示す。「F」は、溶融割れが観察されたことを示す。「かぶれ疵」欄において、「NF」は、かぶれ疵が観察されなかったことを示し、「F」は、かぶれ疵が観察されたことを示す。
【0079】
また、図7の右欄は本発明例の継目無金属管の横断面写真であり、左欄は、比較例1の継目無金属管の横断面写真である。
【0080】
表1及び図7を参照して、本発明例では、溶融割れ及びかぶれ疵が観察されず、内面疵が発生しなかった。一方、比較例1では、図7に示すとおり、内面近傍部分に溶融割れが観察された。比較例2においても、溶融割れが観察された。比較例3においては、溶融割れは観察されなかった。しかしながら、かぶれ疵が観察された。比較例3では、本実施形態による高合金ビレットよりもCr含有量及びNi含有量が低い化学組成からなる丸ビレットを利用した。そのため、中空素管を再加熱したとき、中空素管内面にスケールが形成され、そのスケールに起因して継目無金属管の内面にかぶれ疵が発生したと考えられる。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 延伸圧延機
20 定径圧延機
50 搬送装置
F1 加熱炉
HS 中空素管
P1,P2 穿孔機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金ビレットを加熱炉で加熱する工程と、
加熱された前記高合金ビレットを、穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、
前記中空素管を冷却した後、前記加熱炉で再加熱する工程と、
加熱された前記中空素管を、前記穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える、継目無金属管の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記中空素管を加熱する工程では、外面温度が900℃以下に冷却された前記中空素管を加熱する、継目無金属管の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記穿孔圧延する工程では、式(1)で定義される穿孔比が1.1〜2.0以下であり、前記延伸圧延する工程では、式(2)で定義される延伸比が1.05〜2.0以下であり、式(3)で定義される総延伸比が2.0よりも高い、継目無金属管の製造方法。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−94826(P2013−94826A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240611(P2011−240611)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)