説明

網戸用ネット

【課題】 大開口の窓に設置される網戸や強度の弱い網戸でも、歪み防止の支えが必要なく、十分な視界を確保することが可能な網戸用ネットを提供する。
【解決手段】 縦糸と横糸とを製織した網戸用ネットであって、JIS L 1015に準拠して測定した縦糸と横糸の中の少なくとも一方の糸の0Nから1Nまでの弾性率を、0.1MPa以上20MPa以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大開口の網戸や強度の弱い網戸において、歪み防止のための支えがなくても歪まず、さらに光の散乱を抑えることで、網戸を介して景色を見た時に、すっきりした視界を十分確保できる網戸用ネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、網戸は窓やドアなどに設置され、風通しを確保しながら、蚊などの虫が室内に侵入するのを防止することを目的として利用されている。網戸に張る網戸用ネットには、ポリ塩化ビニルやポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートなどの汎用樹脂で構成された1インチあたり20メッシュ程度のモノフィラメントの織物が一般的に用いられている。
【0003】
また近年、窓に対する要求は多様化しており、その大きさも様々で、リビングなどの眺望性が求められる場所には大開口の窓が配置されることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の汎用樹脂で構成された20メッシュ程度の網戸用ネットを大開口の窓に設置した場合には、網戸のサッシがネットの張力に耐えられず歪んでしまい、網戸を閉めてもすき間ができ、そのすき間から虫などが室内に入ってきてしまうため、通常、大開口の網戸の中央部には歪み防止用の支えが付けられており、視界の妨げとなっている。この網戸の歪みに関しては、一般的に、10mm以下、好ましくは5mm以下がよいとされている。また、支えを使わなくても網戸サッシが歪まないように、専用の機械を使う方法も提案されているが、シビアな張力コントロールが必要とされ、専門業者でも苦労するほど困難である。このように、眺望性を必要とする大開口の網戸において、支えがなくても網戸サッシが歪まない網戸用ネットが求められている。
【0005】
さらに近年、材料となる金属の価格が高騰しており、網戸のサッシ部分を薄くし、原料費を削減することも検討されている。しかしながら、サッシ部分を薄くした場合には、網戸自身の強度が低下するため、今まで歪みのなかった網戸でも歪みが発生することが予測でき、ここでも網戸の歪みを軽減できる網戸用ネットが求められる。
【0006】
本発明は、従来の汎用樹脂からなる繊維では実現できなかった、歪みの出やすい大開口の窓や強度の弱い網戸において、歪み防止用の支えが必要なく、十分な視界を確保できる網戸用ネットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の発明は、縦糸と横糸とを製織した網戸用ネットであって、JIS L 1015に準拠して測定した縦糸と横糸の中の少なくとも一方の糸の糸強度が0Nから1Nまでの弾性率が、0.1MPa以上20MPa以下である網戸用ネットを提供するものである。
【0008】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、縦糸及び横糸の各々の強度が1N/本以上である網戸用ネットを提供するものである。
【0009】
また、第3の発明は、上記第1又は2の発明において、糸径が70μm以上150μm以下である網戸用ネットを提供するものである。
【0010】
さらに、第4の発明は、上記第1から3の発明において、開口率が55%以上、73%以下である網戸用ネットを提供するものである。
【0011】
さらに、第5の発明は、上記第1から4の発明において、光の散乱値が0.01%以上10%以下である網戸用ネットを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、網戸用ネットを構成する縦糸と横糸のうち、JIS L 1015に準拠して測定した少なくとも一方の糸の糸強度が0Nから1Nまでの弾性率を0.1MPa以上20MPa以下とすることにより、柔軟性を備えた網戸用ネットとなるため、網戸サッシの歪みを低減でき、従来不可能であった大開口の窓に設置される網戸や強度の弱い網戸でも、歪み防止の支えが必要なく、十分な視界を確保することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態の網戸用ネットは、縦糸と横糸で構成された平織りで製織した織物である。JIS L 1015に準拠して測定した場合の織物を構成する縦糸と横糸の少なくとも一方の糸の糸強度が0Nから1Nまでの弾性率を0.1MPa以上20MPa以下にすることにより、従来の網戸では生じていたサッシの歪みを軽減することを可能としている。
【0014】
ここで、糸強度が0Nから1Nまでの弾性率が20MPaより大きい糸を用いた場合には、網戸サッシの歪みが大きくなり好ましくない。また、糸強度が0Nから1Nまでの弾性率が0.1MPaより小さい樹脂はゴムのような材料しかなく、そもそも糸を形成することが困難であり、例え糸を形成できたとしても織物とすることができないため同様に好ましくない。
【0015】
また、本実施形態の網戸用ネットにおいて、JIS L 1015に準拠して測定した場合の縦糸と横糸の両方の糸の糸強度が0Nから1Nまでの弾性率を0.1MPa以上20MPa以下にすることで、応力分散が可能となり、網戸サッシの歪みをより軽減することができるためより好適である。
【0016】
また、本実施形態の網戸用ネットを構成する合成繊維の例としては、ポリエステル繊維や、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ポリオレフィン繊維、フッソ繊維、ウレタン繊維、またこれら繊維を構成する材料と上記樹脂材料との複合繊維などが挙げられる
【0017】
ここで、網戸の歪みをなくすために、網戸用ネットの強度を小さくして柔軟性をもたせることも考えられるが、網戸用ネットの強度を小さくしすぎた場合には、人が寄りかかるなどのちょっとした衝撃で網戸が破れる場合がある。そのため、破れない強度を確保するために、糸の強度は1N/本以上有することが好ましい。
【0018】
また、網戸用ネットを構成する糸の糸径が150μmより大きい場合には糸が目に入って眺望性を阻害することがあり、網戸用ネットを構成する糸の糸径が70μmより小さい場合には、1N/本の強度を確保することが困難となる。したがって、本実施形態の網戸用ネットを構成する糸の糸径を70μm以上150μm以下とすることにより、本実施形態の網戸用ネットを通して景色を見た場合に、網戸用ネットが目障りにならないため好ましい。
【0019】
さらに、本実施形態の網戸用ネットにおいて、開口率が55%以上73%以下とすることが好ましい。これは、網戸用ネットの開口率が55%未満である場合には、網戸用ネットが視界を遮り眺望性が得られず、開口率が73%より大きい場合には、網戸用ネットを構成することが困難となるからである。
【0020】
ここで網戸用ネットの開口率とは、網戸用ネットのメッシュ面に垂直に平行光線を投射したときの投影面において、投射されたメッシュ面の面積に対する平行光線の透過面積の割合を示す。
【0021】
さらに、より眺望性を得るために、本実施形態の網戸用ネットの光の散乱値を0.01%以上10%以下になるように調整すると良い。調整方法としては、網戸用ネットを構成する糸を例えば黒などの光の散乱を抑える色に染色してもいいし、糸を紡糸する際に黒色などの顔料を混練して着色してもよい。また、光の散乱を抑える材料の糸を用いてもよいし、糸表面に光反射防止膜を形成してもよい。光の散乱値を0.01%以上10%以下とすることで、室内から外の景色を見たときに網戸用ネットが目障りにならない。
【0022】
さらに、本実施形態の網戸用ネットにおいて、屋外で使用することを目的とする場合には、耐光剤が糸に含まれていることが望ましい。
【0023】
用いられる耐光剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、液状紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、HALS、などが挙げられる。
【0024】
また、長期間使用すると網戸用ネットが汚れて眺望性が低下することも考えられるため、眺望性が持続できるように、本実施形態の網戸用ネット表面に光触媒コーティングや防汚処理、無機微粒子を表面に固定することにより防塵性を持たせる加工などを施してもよい。
【実施例】
【0025】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
縦糸及び横糸に、無着色の糸径170μmのポリトリメチレンテレフタレート(PTT)糸をスルザー織機(スルザー社製)により平織りに製織した。織り上がった製品のメッシュ数(本/2.54cm)は40メッシュであった。
【0027】
(実施例2)
縦糸及び横糸に、顔料により黒色に着色された、糸径170μmのポリトリメチレンテレフタレート(PTT)糸を用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製した。織り上がった製品のメッシュ数は40メッシュであった。
【0028】
(実施例3)
縦糸及び横糸に、顔料により黒に着色された、糸径138μmのポリトリメチレンテレフタレート(PTT)糸を用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製した。織り上がった製品のメッシュ数は60メッシュであった。
【0029】
(実施例4)
実施例2において、メッシュ数を35メッシュで織った以外は実施例2と同様にサンプルを作製した。
【0030】
(実施例5)
実施例3において、メッシュ数を35メッシュで織った以外は実施例3と同様にサンプルを作製した。
【0031】
(実施例6)
縦糸に顔料により黒に着色された、糸径125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)糸、横糸に顔料により黒に着色された糸径138μmのポリトリメチレンテレフタレート(PTT)糸を用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製した。織り上がった製品のメッシュ数は35メッシュであった。
【0032】
(実施例7)
縦糸に顔料により黒に着色された、糸径125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)糸、横糸に顔料により黒に着色された糸径150μmのナイロン糸を用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製した。織り上がった製品のメッシュ数は35メッシュであった。
【0033】
(比較例1)
縦糸及び横糸に、顔料によりグレーに着色された、糸径250μmのポリプロピレン(PP)糸を用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製した。織り上がった製品のメッシュ数は18メッシュであった。
【0034】
(比較例2)
縦糸及び横糸に、顔料により黒に着色された、糸径125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)糸を用いた以外は実施例1と同様にサンプルを作製した。織り上がった製品のメッシュ数は35メッシュであった。
【0035】
<糸の強度、伸度及び弾性率の測定>
サンプル糸の強度及び伸度は、JIS L 1015に準拠し、オートグラフを用いて測定した。また得られた強度及び伸度の結果より、糸強度が0Nから1Nの間の弾性率を算出した。
【0036】
<歪み>
開口部が770mmの網戸のサッシに、サンプルを固定し、中央部の開口幅770mmから縮んだ長さを歪みとして測定した。
【0037】
<光の散乱値>
光の散乱値は、ヘーズメーター(NDH2000、日本電色工業(株)製)を用いて、サンプルのヘーズ値を測定した。
【0038】
<眺望性評価>
眺望性は、対象の製品を各々台の上におき、ネットの向こうに絵画を置いたときの見え方について、何も見えない時を0点、ネットが無い時を10点として、20人に評価してもらった。20人の平均が0〜3点を×、4〜6点を△、7〜8点を○、9〜10点を◎とした。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
上記結果より、本実施例1〜7で得られた伸縮性を有する網戸用ネットは、比較例1に記載した最も一般的な網戸用ネットに比べ、縦糸及び横糸の少なくとも一方の糸強度が0Nから1Nまでの弾性率が0.1MPa以上20MPa以下と小さいため、網戸の歪みが10mm以下と、一般的な網戸の条件を満たす結果となった。また、光の散乱値を抑えることによって眺望性が向上し、十分な視界を確保できていると言える。
【0042】
さらに、汎用樹脂であるPETのみで構成される比較例2の網戸用ネットでは、眺望性に優れるものの糸強度が0Nから1Nまでの弾性率が20MPaより大きいため、網戸の歪みが大きい。よって、本実施例1〜7で得られた網戸用ネットは、比較例2と比べても十分な優位性があり、網戸の歪み抑制に効果的であることがわかる。
【0043】
また、眺望性の評価に影響を与える要因としては、糸径が70μm以上150μm以下、開口率が55%以上73%以下、散乱値が0.01%以上10%以下という3つの条件が挙げられ、これら3つの条件を満たす実施例5から7のサンプルは眺望性に優れている。実施例1から4のサンプルでは、眺望性の評価に影響を与える3つの条件の内、条件を満たす数が減少するに従い眺望性が低下する結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦糸と横糸とを製織した網戸用ネットであって、JIS L 1015に準拠して測定した前記縦糸と前記横糸の中の少なくとも一方の糸の、糸強度が0Nから1Nまでの弾性率が0.1MPa以上20MPa以下であることを特徴とする網戸用ネット。
【請求項2】
前記縦糸及び横糸の各々の強度が1N/本以上であることを特徴とする請求項1に記載の網戸用ネット。
【請求項3】
前記縦糸及び横糸の各々の糸径が、70μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の網戸用ネット。
【請求項4】
開口率が55%以上73%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の網戸用ネット。
【請求項5】
光の散乱値が0.01%以上10%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の網戸用ネット。


【公開番号】特開2010−84287(P2010−84287A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255895(P2008−255895)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】