説明

網目構造を有するセルロース系マスターバッチ、その応用および製造方法

【課題】高紡糸温度に耐える新規のセルロース系繊維およびそれを調製する方法を提供すること。
【解決手段】約80重量%〜約95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約12重量%の範囲内のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の三官能性架橋剤、約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤を含む、セルロース系マスターバッチおよび/または網目構造を有する繊維を生成するための熱可塑性セルロース組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維に関する。更に詳しくは、本発明は、網目構造を有するセルロース系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維(cellulose fiberまたはcellulosic fibers)は、十九世紀末から発展してきた人工繊維である。例えば、銅アンモニア法で知られる複雑なプロセスで天然繊維が処理され、精製(または再生)されたセルロースを生成する。或いは、酢酸セルロースなどのエステル化された繊維を産出するために、天然繊維が化学改質され、その後、セルロース繊維は、得られたセルロースまたはセルロースの誘導物から作成される。二十世紀初頭に、レーヨンや酢酸繊維を含めた人工繊維は既に、市場での地位を得た。
【0003】
しかしながら、二十世紀の中葉において、石油化学技術の急速な発達ゆえに、ナイロンやポリエステル繊維などの低コスト且つ製造が容易な合成繊維は、人工繊維の代わりに、繊維工業の主流の製品になった。
【0004】
最近、資源の激減および石油価格の高騰により、繊維業界は合成繊維以外の繊維の開発に向かっている。こうして、セルロース系繊維は再び研究や開発において注目されている。
【0005】
セルロース系繊維を調製するための従来の方法は、湿式紡糸、乾式紡糸、および溶融紡糸を含む。
湿式紡糸と乾式紡糸との工程は、いずれも二硫化炭素とジクロロメタンなどの有機溶剤を使用する。これらの有機溶剤が環境を損なうのを防止するためには、溶剤を回収しなければならないので、プロセスの複雑さとコストが必然的に増加する。
【0006】
溶融紡糸工程は、後に溶融紡糸されたセルロース系繊維となる溶融紡糸可能な組成物(マスターバッチ)を得るために、エステル化されたセルロースにおいて、大量の低分子量の可塑剤(分子量は1000Daを超えない)を加えることを含む。通常、前記溶融紡糸可能な組成物における前記可塑剤の量は、50〜90重量%であってもよい。しかしながら、低分子量の可塑剤は、普通、紡糸の高温に耐えられないので、従来の紡糸温度は、260℃以下に制御される。そうしなければ、セルロース分子は黄褐色になる。
【0007】
溶融紡糸工程中、紡糸温度は溶融体の流動性と正の相関があり、前記溶融体の流動性はさらに紡糸速度と正の相関がある。よって、紡糸温度の制限ゆえに、前記セルロース系繊維の紡糸速度は商業上の期待より低い。また、大量の可塑剤(50〜90重量%)は、よく可塑剤とセルロースとの間に相分離を起こすので、結果の繊維の破断強度を低下させる。上記に述べられた不都合は、溶融紡糸されるセルロース系繊維の商業化を妨げる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に鑑みて、かかる分野における急務は、高紡糸温度に耐える新規のセルロース系繊維およびそれを調製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に、読者に基本的な理解をしてもらうため、本開示の簡略された概要を示す。この概要は、本開示の広範な概観ではなく、本発明の重要または決定的な要素を特定せず、本発明の範囲も明示しない。その唯一の目的は、ここに開示しているいくつかの概念を、簡略化された形式で示して、後に示される詳細な説明の前置きとすることである。
【0010】
一態様において、本発明は、熱可塑性セルロース組成物に関する。本発明の実施態様によれば、このような組成物の可塑剤の量は実質上従来技術の量より少なく、それにより、得られた前記セルロース系繊維の物性の向上を促進することができる。更に、このような組成物から調製されたマスターバッチは、より高い熱分解活性化エネルギーを有するので、より優れた耐熱性を有する。従って、前記マスターバッチは、より高い紡糸温度と紡糸速度を有する溶融紡糸工程に好適に用いられる。
【0011】
本発明の実施態様により、熱可塑性セルロース組成物は、約80重量%〜約95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約12重量%の範囲内のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の三官能性架橋剤、約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤を含む。
【0012】
他の態様において、本発明は、網目構造を有するセルロース系マスターバッチに関する。前記セルロース系マスターバッチは、上記に述べられた態様および/または実施態様による熱可塑性セルロース組成物から調製されており、より高い紡糸温度と紡糸速度を有する溶融紡糸工程において好適に用いられる。
【0013】
本発明の一実施態様により、前記マスターバッチは、約80重量%〜約95重量%のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約12重量%のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の三官能性架橋剤、約0.01重量%〜約0.15重量%の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の分散剤を含む。前記三官能性架橋剤分子は、いずれも三つの官能基を有し、少なくとも一部の三官能性架橋剤は、その三つの官能基を、前記エステル化されたセルロース分子の分子鎖と、前記ポリエチレングリコール分子とそれぞれ架橋させるので、網目構造を形成する。
【0014】
本発明の実施態様によると、前記セルロース系マスターバッチは、下記のステップを含む方法により調製される。まず、上記に述べられた態様/実施態様による熱可塑性セルロース組成物が調製される。その次に、前記組成物は、約160〜220℃の温度で合成される。前記合成される組成物は、前記セルロース系マスターバッチを形成するように粒状化される。
【0015】
更に他の態様において、本発明は、網目構造を有するセルロース系繊維に関する。前記網目構造がポリマーの剛性を改良するので、前記セルロース系繊維は、より優れた破断強度を示す。
【0016】
本発明の一つの選択的な実施態様により、前記高破断伸度を有するセルロース系繊維は、少なくとも0.7〜1.4gf/denの破断強度を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の様々な実施態様により、前記網目構造を有するセルロース系繊維は、本発明の上記に述べられた態様/実施態様によるマスターバッチから生成され、および/または本発明の上記に述べられた態様/実施態様による前記方法により生成される。
本発明において、熱可塑性セルロース組成物における可塑剤の量は、従来技術の量より実質上少ないので、得られた前記セルロース系繊維の物性の向上を促進することができる。また、このような組成物から調製されたマスターバッチは、より高い熱分解活性化エネルギーを有するので、より優れた耐熱性を有し、より高い紡糸温度と紡糸速度を有する溶融紡糸工程に好適に用いられる。更に、本発明の網目構造を有するセルロース系繊維は、その網目構造がポリマーの剛性を改良するので、より優れた破断強度を示す。
多くの従属する特徴は、下記の詳細な説明を参照することにより、迅速且つ容易に理解される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
下記に提示されている詳細な説明は、本発明の実施例の説明として意図されるものであり、本発明の実施例は、構築されて利用される唯一の形式を代表するように意図されるものではない。この説明は、実施例の機能、および実施例を構築して操作するためのステップの順序を述べる。しかし、異なる実施例によって、同じまたは均等な機能および順番に達成することもある。
【0019】
溶融紡糸工程中、紡糸温度は、よくマスターバッチの耐熱性に依存するのに対して、紡糸速度は溶融体の流動性に依存する。背景技術に検討されているように、従来のセルロース系マスターバッチの耐熱性は望ましくないので、前記マスターバッチの紡糸温度を高くすることは実行不可能である。紡糸温度は溶融体の流動性と正の相関があるので、より低い紡糸温度は、紡糸速度に制限をつける可能性がある。よって、セルロース系マスターバッチの耐熱性を改良することは、前記セルロース系繊維の商業化を助ける可能性がある。
【0020】
上記に述べられた目標のため、また、その目的で、一態様において、本発明は熱可塑性セルロース組成物、およびそれから成る網目構造を有するセルロース系マスターバッチを調製するための方法に関する。このような網目構造を有するセルロース系マスターバッチは、より高い活性化熱分解エネルギーを有する(少なくとも約180kJ/mol)ので、紡糸工程の時のセルロース系マスターバッチの耐熱性を改良する。従って、紡糸温度も増加され、さらに、溶融体の流動性の向上、それに従った紡糸速度の向上を促進できる。
【0021】
本発明の実施態様により、熱可塑性セルロース組成物は、約80重量%〜約95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約12重量%の範囲内のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の三官能性架橋剤、約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤を含む。
【0022】
本発明の実施態様により、このような熱可塑性セルロース組成物を用いてマスターバッチを調製するための方法は、下記のステップを含む。まず、上記に述べられた態様/実施態様による熱可塑性セルロース組成物が調製される。その次に、前記組成物は、約160〜220℃の温度で合成される。前記合成される組成物は、前記網目構造を有するセルロース系マスターバッチを形成するように粒状化される。
【0023】
特に、前記組成物における成分は、特定された重量比に従って混合される。その次に、混合された組成物は合成される。本発明の様々な実施態様によれば、合成温度は、慎重に約160〜220℃の範囲内、好ましくは約180〜200℃の範囲内に制御されるべきである。その後、前記合成された組成物は、セルロース系マスターバッチを得るようにペレット化(pelletize)される。
【0024】
上記に討論されているように、前記ポリエチレングリコールの耐熱性は十分ではない。よって、前記熱可塑性セルロース組成物を220℃より高い温度で合成することは、結果のマスターバッチの処理能力を危険にさらすかもしれない。例えば、前記合成温度は約160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、または220℃であってもよい。
【0025】
一般には、前記合成するステップは、約180〜220℃、好ましくは約180〜200℃の合成温度で行う。例えば、前記合成温度は約180、185、190、195、200、205、210、215、または220℃であってもよい。
【0026】
幾つかの実施態様において、混合ステップ、合成ステップ、およびペレット化ステップは、押出機で行われる。マスターバッチを調製するためのいずれの慣用的押出機および押出す技術も、本発明の実施態様に従って実行されることができる。周知の合成装置は、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、ブラベンダー(brabender)、および混練機(kneader)を含むことができるが、それに限定されない。
【0027】
或いは、前記混合ステップ、合成ステップ、および/またはペレット化ステップは、独立した設備において行われてもよい。一実施例において、前記混合ステップは、いずれの好適な容器または攪拌器においても実行されることができ、その次に、前記混合されている組成物は、合成およびペレットをするための押出機に供給される。
【0028】
本発明の本質と技術思想によると、前記熱可塑性セルロース組成物は、三官能性架橋剤を採用する。合成ステップにおいて、前記三官能性架橋剤における三つの官能基(アリル基など)は、エステル化されたセルロース分子および/または前記ポリエチレングリコール分子の官能基と反応することができ、それによって、架橋されているエステル化されたセルロースとポリエチレングリコール網目構造を形成する。溶融紡糸工程において用いられる前記ポリマーについて、このような網目構造は、前記ポリマーの耐熱性を向上させるよう促進することができるので、有利な性質である。
【0029】
従来技術において、可塑剤(ポリエチレングリコール)の凝集、およびポリエチレングリコールとエステル化されたセルロース間の相分離などの問題はよく見られる。本発明によるマスターバッチを調製する方法は、このような問題を有利に改善できる。一般には、ここに提供されている網目構造を有するマスターバッチにおいて、一部の可塑剤分子は、架橋剤を介して、エステル化されたセルロースの分子鎖に接合する。いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、一部の可塑剤分子を、エステル化されたセルロース分子と接合することにより、相分離と凝集の可能性が減少できると思量される。また、従来技術と比べると、望まれたマスターバッチの熱処理能力を達成するのに必要な可塑剤は、より少量である。例えば、本発明の実施態様により、前記熱可塑性セルロース組成物における可塑剤の量は、約4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、または12重量%であってもよい。
【0030】
ここに提供されている網目構造を有するマスターバッチにおいて、ポリマーの内部における分子の分子鎖は、もう一つの分子に接合しているので、ポリマーにわたる不連続相を生じることに留意されたい。従って、ポリマーの内部の可塑剤(ポリエチレングリコール)の移動性が制限される結果となる。よって、本発明の実施態様による可塑剤は、より低い分子量を有してもよい。例えば、約600〜10,000Daの分子量を有するポリエチレングリコールが用いられることができる。10,000Daを超える分子量を有する可塑剤の場合には、その可塑剤が均一にポリマーにわたって分布していないことがある。具体的には、前記ポリエチレングリコールの分子量は、約600、700、800、900、1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、または10,000Daであってもよい。
【0031】
本発明の本質と技術思想によると、いずれの好適なエステル化されたセルロースも、組成物に用いられることができる。前記エステル化されたセルロースの例示として、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、酢酸酪酸セルロース(CAB)、酢酸ペンタン酸セルロース、プロピオン酸n−酪酸セルロース、酢酸ラウリン酸セルロース、および酢酸ステアリン酸セルロースを含むが、それらに限定されない。また、前記組成物は、少なくとも二つのエステル化されたセルロースからなる混合物を含んでもよい。
【0032】
本発明の一実施態様により、前記エステル化されたセルロースは、少なくとも約50%のエステル化率(esterification ratio)を有する酢酸プロピオン酸セルロースであってもよい。酢酸プロピオン酸セルロースは、セルロースの水酸基がアセチル基とプロピオニル基に置換されたセルロースエステルである。前記用語「少なくとも約50%のエステル化率」とは、前記アセチル基とプロピオニル基が、少なくとも約50%の前記水酸基を置換することである。少なくとも約50%のエステル化率を有するエステル化されたセルロースは、熱加工に好適に用いられる。好ましくは、前記エステル化されたセルロースのエステル化率は、少なくとも約75%であり、より好ましくは、少なくとも約90%である。例えば、前記エステル化されたセルロースのエステル化率は、約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、98%または更に高いものであってもよい。
【0033】
本発明の本質と技術思想によると、前記熱可塑性セルロース組成物は、セルロース分子および/またはポリエチレングリコール分子と接合できる、三つの官能基を有する架橋剤のいずれを含んでもよい。三官能性架橋剤の例示的実施例は、トリアリルアミン、トリアリルトリメセート(TAM)、トリアリルシアヌレート(TAC)、イソシアヌル酸トリアリル(TAIC)、トリアリルアンモニウムシアヌレート、およびトリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン(TAT)を含むが、それらに限定されない。例えば、後記の実施例において、イソシアヌル酸トリアリルが利用されている。
【0034】
従来の架橋技術が直面する問題の一つは、結果のマスターバッチの架橋レベルが、反復可能な方法で制御されることができない。従って、溶融紡糸工程中、従来のマスターバッチの溶融体は、非常に厚くなり、紡糸工程が進められなくなってしまう。一方では、本発明の実施態様による新規の架橋工程は、少なくとも慎重に三官能性架橋剤の量を制御することにより、上記に述べられた問題に一つの解決策を提供する。特に、ここに提供する合成方法により調製されているマスターバッチは、溶融紡糸工程において、約40〜50bar(約4〜5MPa)の安定な紡糸圧力を示す。
【0035】
本発明の様々な実施態様により、組成物における三官能性架橋剤の重量百分率は、約、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、または3重量%である。
【0036】
前記開始剤の選択は、通常、用いられる三官能性架橋剤に依存する。開始剤の例示的実施例は、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化カリウム、またはベンジルジメチルケタール(BDK)を含むが、それらに限定されない。
【0037】
通常、少量の開始剤のみで、架橋反応を開始させることができる。特に、前記熱可塑性セルロース組成物における前記開始剤の重量百分率は、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、または0.15重量%である。
【0038】
分散剤は、熱可塑性セルロース組成物における組成成分が均一に分布することを助ける。通常、前記分散剤は、C15〜C38のアルカン、C15〜C38のエステル、C15〜C38の有機酸、またはそれらの混合物であってもよい。後記に示される実施例において、前記組成物は、分散剤として約0.01重量%から約5重量%までのパラフィンを含む。特に、前記熱可塑性セルロース組成物における前記分散剤は、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5重量%である。
【0039】
本発明の本質と技術思想によると、ここに示されている前記組成物および/または方法において用いられた可塑剤の量は、従来技術の量より遥かに少なくなる。同様に、相分離および凝集などの問題も、減少されることができる。従って、マスターバッチ/セルロース系繊維の物性は、向上されることができる。例えば、本発明の一実施態様によるセルロース系繊維は、少なくとも約1.2gf/denである。
【0040】
他の態様において、本発明は、網目構造を有するセルロース系マスターバッチに関する。前記セルロース系マスターバッチは、上記に述べられた前記態様および/または実施態様による前記熱可塑性セルロース組成物から調製されており、網目構造を有するセルロース系繊維を調製するための、より高い紡糸温度と紡糸速度を使用する溶融紡糸工程に好適に用いられる。
【0041】
本発明の実施態様により、前記セルロース系マスターバッチは、約80重量%〜約95重量%のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約12重量%のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の三官能性架橋剤、約0.01重量%〜約0.15重量%の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の分散剤を含む。
【0042】
網目構造を有する前記セルロース系マスターバッチにおいて、前記三官能性架橋剤分子は、いずれも三つの官能基を有し、合成工程において、少なくとも一部の三官能性架橋剤は、その三つの官能基が、前記エステル化されたセルロース分子の分子鎖におけるフリーラジカルと、前記ポリエチレングリコール分子とをそれぞれ架橋させ、それにより網目構造を形成する。
【0043】
本発明の実施態様により、網目構造を有する前記セルロース系マスターバッチは、従来のセルロース系マスターバッチ(即ち、網目構造がないもの)と比べると、より高い熱分解活性化エネルギーを有する。一実施例において、網目構造を有するセルロース系マスターバッチは、約240℃を超える熱分解開始温度を有する。他の実施例において、網目構造を有する前記のセルロース系マスターバッチは、約190kJ/molを超える熱分解活性化エネルギーを有する。
【0044】
更に他の態様において、網目構造を有するセルロース系繊維を調製するための溶融紡糸工程に関する。本発明の本質と技術思想によると、本発明の前記に述べられた態様/実施態様の前記セルロース系マスターバッチは、溶融紡糸工程にされており、それに従いに網目構造を有するセルロース系繊維を形成する。
【0045】
特に、溶融紡糸工程において、好適な紡糸温度は、約220〜280℃であり、例えば、約220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275または280℃であり、好適な紡糸速度は、約500〜3000m/minであり、例えば、約500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、または3000m/minである。
【0046】
一般には、約220℃の紡糸温度は、紡糸工程を進めるためには十分である。しかしながら、紡糸温度は紡糸速度と正の相関を有することも周知のことである。背景技術に述べられているように、従来の紡糸温度は260℃以下に制御される。そうしなければ、セルロース分子は黄褐色になる。
【0047】
しかしながら、本発明の実施態様による網目構造を有するセルロース系マスターバッチは、相対的に高い熱分解活性化エネルギー(190kJ/molを超える)と、相対的に高い熱分解開始温度(240℃を超える)を有し、それによって、前記マスターバッチは、相対的に高い紡糸温度を有する溶融紡糸工程に好適に用いられることができる。紡糸温度が約280℃に保持されても、紡糸工程が継続できることを、その結果が示している。
【0048】
更に、本発明の実施態様により、紡糸温度が約230〜240℃に設けられる時、溶融体の見掛け粘度(apparent viscosity)は、約22〜78Pa・sである。通常、溶融紡糸工程中、前記溶融体は40Pa・sを超える見掛け粘度に達すれば、紡糸装置は、溶融体に起こされる圧力により、損害を受ける可能性がある。一方、前記溶融体は、少なくとも20Pa・sの見掛け粘度に達することができなければ、前記紡糸圧力は低すぎて紡糸を実行できない可能性がある。しかしながら、本発明の一実施態様により、従来のものの耐熱性よりも、網目構造を有するセルロース系マスターバッチの耐熱性は優れているので、240℃より高い紡糸温度でも紡糸工程を実行でき、その場合、前記溶融体の見掛け粘度は、約20〜40Pa・sより低い。
【0049】
同様に、網目構造を有するセルロース系マスターバッチの見掛け粘度は、従来のセルロース系繊維の見掛け粘度(230℃での見掛け粘度は約16〜48Pa・sである)より高いので、紡糸条件下の前記溶融体の流動性はより優れている。従って、網目構造を有するセルロース系マスターバッチは、相対的に高い紡糸温度を有する溶融紡糸工程での使用に適している。本発明の実施態様によると、紡糸工程は、約3000m/minの紡糸速度でもフィラメント破断無しに続けられる。それに比べ、従来技術のセルロース系繊維を作成するための最高紡糸速度は、1000m/minである。以上のことを考慮すれば、ここに提供されている網目構造を有する前記セルロース系マスターバッチと前記溶融紡糸工程は、セルロース系繊維の大量生産のための利用に適している。また、前記溶融紡糸工程は、セルロース系繊維の生産率を高めることもできる。
【0050】
また他の態様において、本発明は、網目構造を有するセルロース系繊維に関する。前記セルロース系繊維は、本発明の態様/実施態様による前記方法および/または前記溶融紡糸工程によって、前記マスターバッチから生成されることができる。セルロース系繊維の内部の可塑剤が、架橋剤を介してセルロース分子の分子鎖と接合されるので、前記可塑剤がポリマーにわたって均一に分布されることができる。また、セルロース分子と可塑剤との間の相分離が減少されることができる。よって、結果のセルロース系繊維は、より優れた機械強度を示すことができる。例えば、一実施例において、網目構造を有する前記セルロース系繊維は、少なくとも約1.2gf/denの破断強度を有することができる。
【0051】
本発明の実施態様によると、網目構造を有する前記セルロース系繊維の組成成分は、前記セルロース系マスターバッチの組成成分と類似している。つまり、前記セルロース系繊維は、約80重量%〜約95重量%のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約12重量%のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の三官能性架橋剤、約0.01重量%〜約0.15重量%の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の分散剤を含む。前記三官能性架橋剤分子は、いずれも三つの官能基を有し、少なくとも一部の三官能性架橋剤は、その三つの官能基を、前記エステル化されたセルロース分子の分子鎖または前記ポリエチレングリコール分子にそれぞれ架橋させることにより、網目構造を形成する。
【実施例】
【0052】
ここに提供されるマスターバッチおよび繊維の性質を例示するために、本発明の実施態様によるいくつかの実施例が、以下に提供されている。
様々な実施例の熱可塑性セルロース組成物を得るために、二軸押出機で、表1に明記されている重量比により組成成分が混合された。その次に、前記三官能性架橋剤を前記エステル化されたセルロース分子と反応させるために、前記熱可塑性セルロース組成物は、二軸押出機で、約160〜220℃の温度で合成された。前記合成ステップの後、合成された組成物は、複数のセルロース系マスターバッチを形成するために、粒状化された。
【0053】
例えば、実施例1において、前記熱可塑性セルロース組成物を得るために、約92重量%の酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、約3.5重量%の約600Daの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)、約3.5重量%の約1,000Daの分子量を有するPEG、約0.5重量%のイソシアヌル酸トリアリル(TAIC)、約0.45重量%のパラフィン、および約0.05重量%のベンジルジメチルケタール(BDK)が混合されている。その後、前記組成物が、合成且つ粒状化され、実施例1の前記マスターバッチを生成する。
【0054】
結果のマスターバッチは溶融紡糸工程に使用するのに適しているかどうかを検討するために、前記マスターバッチについて熱重量分析が行われ、熱分解開始温度(Onset Temp.)を測定する。また、各マスターバッチの熱分解活性化エネルギー(Activation Energy)も、熱分解開始温度に基づいて測られる。前記熱重量分析の結果は、表1に要約されている。
【0055】
また、セルロース系繊維は、実施例のマスターバッチから作成され、前記実施例は、紡糸温度が約240℃または250℃、紡糸速度が約1000m/minまたは1500m/minである溶融紡糸工程を有する。
【0056】
前記繊維は、繊維の破断伸度(Elongation)と破断強度(Tenacity)を決定するために、ASTM D2256に設定されている手順(シングルストランド法(Single−Strand Method)による糸の引張特性に対する標準試験方法)に従って引張強度試験機により更に測定された。分析の結果は、表1に要約されている。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示されるように、本発明の実施態様による網目構造を有するセルロース系マスターバッチは、従来の非架橋セルロース系マスターバッチより、高い熱分解活性化エネルギーを有する。つまり、網目構造を有するセルロース系マスターバッチは、より優れた耐熱性を有する。
【0059】
具体的には、比較例のセルロース系マスターバッチは、約177.6kJ/molの熱分解活性化エネルギーと、約170℃の熱分解開始温度とを有する。それに比べ、実施例5の網目構造を有するセルロース系マスターバッチは、約189.6kJ/molの熱分解活性化エネルギーと、約260℃の熱分解開始温度とを有し、いずれも比較例のマスターバッチより実質的に高い。
【0060】
更に、実施例5〜7を対比することによって、三官能性架橋剤の量を増やせば、結果のマスターバッチの熱分解活性化エネルギーもそれに従って増えることが分かる。溶融紡糸工程中、用いられるマスターバッチがより熱に耐えられれば、紡糸温度を上げることができ、それによって紡糸速度も上げることができる。つまり、本発明によるマスターバッチは、大量生産に使用するのに適している。例えば、本発明の一実施例により、網目構造を有するセルロース系マスターバッチの熱分解開始温度は、約260〜280℃であり、それによって、前記マスターバッチは約240〜250℃の紡糸温度を有する紡糸工程に用いられることができる。
【0061】
表1に示されるように、実施例の網目構造を有するセルロース系繊維は、従来のセルロース系繊維の破断強度(約0.72gf/den)より、優れた破断強度(約0.77〜1.21gf/den)を有する。破断伸度についても、実施例1、4および5のセルロース系繊維は、従来のものよりも優れている(約18〜27%対17%)。以上のことを考慮すると、ここに提供されている紡糸方法により作成されたセルロース系繊維の物性は、繊維工業と製織工業に要求されている特性を満たしている。
【0062】
高紡糸温度と高紡糸速度を有する紡糸工程を用いた結果の繊維の、紡糸可能性と物性を更に調査するために、実施例5のセルロース系マスターバッチは、表2に例示されている異なる条件下で溶融紡糸された。また、繊維の破断伸度と破断強度も、ASTM D2256に設定されている手順により測定された。分析の結果は、表2に要約されている。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に見られるように、実施例5−5において、網目構造を有するセルロース系繊維は、約280℃の紡糸温度で溶融紡糸されることができる。更に、実施例5−8において、紡糸速度は約3000m/minに設定されることができる。表2に記入しているすべての製織工程は、破断無しに半時間以上続けられた。
【0065】
実施例5−1〜5−8の繊維の外見は非常に類似している。即ち、表2に設定されているような異なる紡糸速度は、結果の繊維の外見に実質上影響しない。
【0066】
つまり、ここに提供されている網目構造を有するマスターバッチは、約220〜280℃の紡糸温度と、500〜3000m/minの紡糸速度での溶融紡糸工程における使用に適している。更に、結果の網目構造を有するセルロース系繊維は、約0.75gf/denから約1.21gf/denの強度を有する。
【0067】
比較例の従来のマスターバッチは、約260℃の紡糸温度で更に溶融紡糸されており、その結果の繊維のCIE値は、約8である。それに比べ、実施例5−8のセルロース系繊維のCIE値は、約35である。CIE値は相対的な数値であり、より高いCIE値を有するサンプルは、色が白である。網目構造を有する前記セルロース系マスターバッチの、より多くの耐熱特性ゆえに、相対的な高紡糸温度(約260℃)に加熱しても燃えないと思量される。よって、結果の繊維は、従来の繊維より白い。
【0068】
上記の実施態様の説明は、単に例示として提供されており、様々な変化が、当業者により実行されることができる。上記の説明、実施例およびデータは、本発明の代表的実施態様の、構造と用途の詳細な説明を提供している。本発明の様々な実施態様は、ある程度の具体例と共に、または一つ以上の独自の実施態様に言及しながら上記に述べられているが、当業者は、本発明の技術思想および範囲から逸脱せずに、開示されている実施態様に数多くの変更をすることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性セルロース組成物であって、
約80重量%〜約95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、
約4.5重量%〜約12重量%の範囲内のポリエチレングリコール、
約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の三官能性架橋剤、
約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および
約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤
を含む熱可塑性セルロース組成物。
【請求項2】
前記エステル化されたセルロースが、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸ペンタン酸セルロース、プロピオン酸n−酪酸セルロース、酢酸ラウリン酸セルロース、酢酸ステアリン酸セルロースまたはエステル化されたセルロースである請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項3】
前記エステル化されたセルロースが、少なくとも約50%のエステル化率を有する酢酸プロピオン酸セルロースである請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールが、約600〜10,000Daの分子量を有する請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項5】
前記三官能性架橋剤が、トリアリルアミン、トリアリルトリメセート(TAM)、トリアリルシアヌレート(TAC)、イソシアヌル酸トリアリル(TAIC)、トリアリルアンモニウムシアヌレート、またはトリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン(TAT)である請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項6】
前記開始剤が、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化カリウム、またはベンジルジメチルケタールである請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項7】
前記分散剤が、C15〜C38のアルカン、C15〜C38のエステル、C15〜C38の有機酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項8】
網目構造を有するセルロース系マスターバッチであって、
約80重量%〜約95重量%のエステル化されたセルロース、
約4.5重量%〜約12重量%の範囲内のポリエチレングリコール、
約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の三官能性架橋剤、
約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および
約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤
を含み、前記三官能性架橋剤は、いずれも三つの官能基を有し、少なくとも一部の三官能性架橋剤は、その三つの官能基を、前記エステル化されたセルロース分子の分子鎖または前記ポリエチレングリコール分子にそれぞれ架橋させることにより、網目構造を形成するセルロース系マスターパッチ。
【請求項9】
前記セルロース系マスターバッチは、
請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物を調製する工程、
前記組成物を約160〜220℃の温度で合成する工程、および
網目構造を有する前記セルロース系マスターバッチを形成するように、前記合成されている組成物を粒状化する工程
を含む方法により調製される、請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項10】
前記エステル化されたセルロースが、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸ペンタン酸セルロース、プロピオン酸n−酪酸セルロース、酢酸ラウリン酸セルロース、酢酸ステアリン酸セルロースまたはエステル化されたセルロースである請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項11】
前記ポリエチレングリコールが、約600〜10,000Daの分子量を有する請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項12】
前記三官能性架橋剤が、トリアリルアミン、トリアリルトリメセート(TAM)、トリアリルシアヌレート(TAC)、イソシアヌル酸トリアリル(TAIC)、トリアリルアンモニウムシアヌレート、またはトリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン(TAT)である請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項13】
前記開始剤が、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、またはベンジルジメチルケタールである請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項14】
前記分散剤が、C15〜C38のアルカン、C15〜C38のエステル、C15〜C38の有機酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項15】
前記セルロース系マスターバッチが、少なくとも約240℃の熱分解開始温度を有する請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項16】
網目構造を有するセルロース系繊維を作成する方法であって、
請求項8に記載のセルロース系マスターバッチを調製する工程、および
約220〜280℃の紡糸温度と、約500〜3000m/minの紡糸速度で、前記セルロース系マスターバッチを溶融紡糸する工程
を含むセルロース系繊維を作成する方法。
【請求項17】
網目構造を有するセルロース系繊維であって、前記セルロース系繊維が、少なくとも約0.7〜1.4gf/denの破断強度を有するセルロース系繊維。
【請求項18】
前記セルロース系繊維が、請求項8に記載のマスターバッチから作成される、請求項17に記載のセルロース系繊維。
【請求項19】
前記セルロース系繊維が、請求項16に記載の方法から作成される、請求項17に記載のセルロース系繊維。

【公開番号】特開2011−208339(P2011−208339A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219943(P2010−219943)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(504427651)財團法人紡織産業綜合研究所 (10)
【Fターム(参考)】