説明

網膜外縁部障害の処置に有用な5−HT1A活性を有する化合物

【課題】眼の急性もしくは慢性の変性状態または変性疾患から生じる網膜外縁部の障害を処置すること。
【解決手段】5−HT1Aアゴニスト活性を有する化合物を用いて、網膜外縁部の障害を処置するための組成物および方法が開示される。本発明は、網膜外縁部の障害の処置、特に:AMD;RPおよび遺伝性変性網膜疾患の他の形態;網膜剥離および涙液;黄斑の皺;網膜外縁部に影響する虚血;糖尿病網膜症;光治療(PDT)を含むレーザー治療関連の傷害(格子、焦点、および網膜全体);傷害;外科的(網膜転移、中隔網膜手術、または硝子体切除)網膜症または光誘導性網膜症;ならびに網膜移植物の保存に有用であることが発見された5−HT1Aアゴニストに関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼の急性もしくは慢性の変性状態または変性疾患から生じる網膜外縁部(outer retina)の障害を処置するために有用な5−HT1Aアゴニスト活性を有する化合物に関連する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
年齢に関連した黄斑変性(AMD)は、初老の失明を引起す原因であり、発生率は65歳の成人で約20%、75歳以上の個体で37%まで増加する。非滲出性ADMは、網膜外縁部、網膜色素上皮(RPE)、Bruchの膜および脈絡毛細管におけるドルーゼ蓄積および杆体および錐体光受容体の萎縮によって特徴付けられる;一方、滲出性AMDは、脈絡膜の新血管形成を引起す(GreenおよびEnger、Ophthalmol、100:1519〜35、1993;Greenら、Ophtaomol、92:615〜27、1985;GreenおよびKey、Trans Am Ophthalmol、Soc、75:180〜254、1977;Bresslerら、Retina、1:130〜42、1994;Scheiderら、Retina、18:242〜50、1998;GreenおよびKuchle(1997):Yannuzzi、L.A.、Flower,R.W.、Slakter,J.S.(編)Indocyanine green angiography.St.Louis:Mosby、151〜6頁)。網膜色素変性(RP)は、錐体光受容体および下層色素上皮の二次的な萎縮を伴なう杆体の変性によって特徴付けられる遺伝性のジストロフィーのグループを示す。(Pruett、Trans Am Ophtalmol Soc、81:693〜735、1983;Heckenlively、Trans Am Ophthalmol Soc、85:438〜470;Pagon、Sur Ophthalmol、33:137〜177、1988;Berson、Invest Ophthalmol Vis Sci、34:1659〜1676、1993;NickellsおよびZack、Ophthalmic Genet、17:145〜65、1996)。AMDおよびRPのような網膜変性疾患の病因は、多面的であり、そして正常個体または遺伝的な素因のある個体において環境因子またはによって引起され得る。現在までに、種々の網膜外縁部変性に関連し得る100を超える遺伝子が、マッピングまたはクローン化されている。
【0003】
光への暴露が、AMDのような網膜変性障害の進行に寄与する因子として同定されている環境因子である(Yong、Sur Ophtal、32:252〜269、1988;Taylorら、Arch Ophthal、110:99〜104、1992;Cruickshankら、Arch Ophtal、111:514〜518、1993)。網膜細胞への光損傷を引起す光酸化ストレスが、以下の理由で網膜変性疾患を研究するための有用なモデルであることが示されている:損傷が、主に網膜外縁部の光受容体および網膜色素上皮(RPE)であり、遺伝性変性疾患において影響される細胞と同一である(Noellら、Invest Ophthal Vis Sci、5、450〜472、1966;Brisslerら、Sur Ophthal、32、375〜413、1988;Curcioら、Invest Ophthal Vis Sci、37、1236〜1249、1996);アポトーシスは、細胞死メカニズムであり、それによってAMDおよびRPにおける光受容体細胞およびRPE細胞が失われ、そして光酸化誘発細胞傷害がそれに引き続く(Ge−Zhiら、Trans AM Ophthal Soc,94、411〜430、1996;Ablerら、Res Commun Mol Pathol Pharmacol、92、177〜189、1996;NickellsおよびZack、Ophthalmic Genet、17:145〜65、1996);光は、AMDおよびRPの進行についての環境的な危険因子として関係付けられてきた(Taylorら、Arch Ophthalmol、110、99〜104、1992;Naashら、Invest Ophthal Vis Sci、37、775〜789、1996);ならびに光酸化傷害を阻害する治療的介入はまた、遺伝的変性網膜疾患の動物モデルにおいて効果的であることが示されている(LaVailら、Proc Nat Acad Sci、89、11249〜11253、1992;Fakforovichら、Nature、347、83〜86、1990;Frassonら、Nat.Med.5、1183〜1187、1990)。
【0004】
網膜の光酸化傷害を最小化する多数の異なる化合物のクラスが、種々の動物モデルにおいて同定されている。これらとして以下が挙げられる:アスコルビン酸のような抗酸化剤(Organisciakら、Invest Ophthal Vis Sci、26:1589〜1598、1985)、ジメチルチオウレア(Organisciakら、Invest Ophthal Vis Sci、33:1599〜1609、1992;Lamら、Arch Ophthal、108:1751〜1752。1990)、α―トコフェロール(Kozakiら、Nippon Ganka Gakkai Zassi、98:948〜954、1994)およびβカロチン(Rappら、Cur Eye Res、15:219〜232、1995);フルナリジンのようなカルシウムアンタゴニスト(Liら、Exp Eye Res、56:71〜78、1993;Edwardら、Arch Ophthal、109、554〜622、1992;Collierら、Invest Ophthal Vis Sci、36:S516);塩基性繊維芽細胞成長因子のような成長因子、脳由来の神経因子、毛様体神経栄養因子、およびインターロイキン−1−β(LaVailら、Proc Nat Acad Sci、89、11249〜11253、1992);メチルプレドニゾロンのようなグルココルチコイド(Lamら、Graefes Arch Clin Exp Ophthal、231、729〜736、1993)およびデキサメタゾン(Fuら、Exp Eye Res、54、583〜594、1992);デスフェリオキサミンのようなイオンキレート剤(Liら、Cur Eye Res、2、133〜144、1991);エリプロジルおよびMK−801のようなNMDAアンタゴニスト(Collierら、Invest Ophthal Vis Sci、40:S159、1999)。
【0005】
セロトニン作働性の5−HT1A(すなわち、ブスピロン、ジプラシドン、ウラピジル)は、心配性、高血圧、統合失調症、精神病または双極性うつ病の処置について承認されているか、または販売されているかのいずれかである。5−HT1Aアゴニストは、種々の動物モデルにおいて神経保護的であることが示されており、そして脳虚血、頭部損傷、アルツハイマー病、多発性硬化症および筋萎縮性側索硬化症を処置するために臨床において評価されている。5−HT1Aアゴニスト、8−OH−DPAT(8−ヒドロキシ−2−(ジ−n−プロピルアミノ)テトラリン)およびイプサピロンは、ラット巨細胞の核基底におけるNMDA誘導興奮毒性神経障害を阻害することが示された(Oosterinkら、Eur J Pharmacol、358:147〜52、1998)、Bay−x−3702と共に投薬すると、ラットの急性皮下血腫モデルにおける虚血性損傷を有意に減少する(Alessandriら、Brain Res、845:232〜5、1999)。一方、8−OH−DPAT、Bay−x−3702、ウラピジル、ジェピロンおよびCM 57493は、中大脳動脈の閉塞後のラット(BielenbergおよびBurkhardt、Stroke、21(補遺):IV161−3;Semkovaら、Eur J Pharmacol、359:251〜60、1998;Perucheら、J Neural Transm−Park Dis Dement Sect、8:73〜83、1994)およびマウス(Prehnら、Eur J Pharmacol、203:213〜22、1991;Prehnら、Brain Res、630:10〜20、1993)における皮質性梗塞体積を有意に減少する。さらに、SR 57746A(強力な5−HT1Aアゴニスト)を用いたラットの処置は、第4脈管の一過性全虚血、硫酸ビンクリスチン誘導性の中隔海馬損傷、アクリルアミド誘導性の末梢性ニューロパシー、および坐骨神経挫滅後に神経保護的であることが示され(Fournierら、Neurosci、55:629〜41、1993)、そしてpmnマウスにおける運動ニューロンの進行を遅延することが示されている(Fournireら、Br J Pharmacol、124:811〜7、1998)。
【0006】
このクラスの化合物は、緑内障の処置(IOPを低下および制御する)について開示されている(例えば、特許文献1(DeSantisら)および特許文献2(Manoら)を参照のこと)。Osbornら(Ophthalmologica、第210巻:308〜314、1996)は、8−ヒドロキシジプロピルアミノテトラリン(8−OH−DPAT)(5−HT1Aアゴニスト)が、ウサギにおけるIOPを減少することを教示する。Wangら(Current Eye Research、第16(8)巻:769〜775、1997年8月、およびIVOS、第39(4)巻、S488、1998年3月)は、5−メチルウラピジル(α1Aアンタゴニストおよび5−HT1Aアゴニスト)が、サルにおいてIOPを低下するが、そのα1Aレセプターの活性に起因することを開示する。また、5−HT1Aアンタゴニスは、緑内障(亢進されたIOP)の処置に有用であることを開示される(例えば、特許文献3、McLees)。さらに、DeSaiら(特許文献4)およびMacorら(特許文献5)は、5−HTおよび5−HT様アゴニストの緑内障(IOPが上昇)の処置についての使用を開示する。これらの抗片頭痛化合物は、5−HT1B,D、E、Fアゴニスト(例えば、スマトリプタンおよびナラトリプタンならびに関連化合物)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第98/18458号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0771563A2号明細書
【特許文献3】国際公開第92/0338号
【特許文献4】国際公開第97/35579号
【特許文献5】米国特許第5,578,612号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、網膜外縁部の障害の処置、特に:AMD;RPおよび遺伝性変性網膜疾患の他の形態;網膜剥離および涙液;黄斑の皺(macular puker);網膜外縁部に影響する虚血;糖尿病網膜症;光治療(PDT)を含むレーザー治療関連の傷害(格子、焦点、および網膜全体(panretinal);傷害;外科的(網膜転移、中隔網膜手術、または硝子体切除)網膜症または光誘導性網膜症;ならびに網膜移植物の保存に有用であることが発見された5−HT1Aアゴニストに関連する。
【0009】
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) 網膜外縁部の障害を処置するための方法であって、5−HT1Aアゴニスト活性を有する化合物の薬学的に有効な量を投与する工程を包含する、方法。
(項目2) 項目1に記載の方法であって、ここで前記化合物が、タンドスピロン、ウラピジル、ジプラシドン、レピノタン塩酸塩、キサリプロデン塩酸塩(SR−57746A)、ブスピロン、フレシノキサン、EMD−68843、DU−127090、ジェピロン、アルネスピロン、PNU−95666、AP−521、フリバンセリン、MKC−242、レソピトロン、サリゾタン塩酸塩、E−5842、SUN−N4057、Org−13011、Org−12966および8−OH−DPATからなる群より選択される、方法。
(項目3) 項目1に記載の方法であって、ここで前記障害が、AMD;RPおよび遺伝的変性網膜疾患の他の形態;網膜剥離および涙液;黄斑の皺;網膜外縁部に影響する虚血;糖尿病網膜症;光力学的治療(PDT)を含むレーザー治療(格子、焦点および網膜全体)に関連する傷害;外傷;外科的(網膜転移、網膜下手術、または硝子体切除)または光誘導性医原性網膜症;ならびに網膜移植物の保存からなる群より選択される、方法。
(項目4) 前記障害がAMDである、項目3に記載の方法。
(項目5) 項目3に記載の方法であって、ここで前記化合物が、タンドスピロン、ウラピジル、ジプラシドン、レピノタン塩酸塩、キサリプロデン塩酸塩(SR−57746A)、ブスピロン、フレシノキサン、EMD−68843、DU−127090、ジェピロン、アルネスピロン、PNU−95666、AP−521、フリバンセリン、MKC−242、レソピトロン、サリゾタン塩酸塩、E−5842、SUN−N4057、Org−13011、Org−12966および8−OH−DPATからなる群より選択される、方法。
(項目6) 項目5に記載の方法であって、ここで前記障害が、AMD、RP、および糖尿病網膜症からなる郡より選択される、方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】図1Aは、8−OH−DPATを全身に投与され、そして過酷な光酸化侵襲に曝露されたラットにおけるERG a波機能およびb波機能の保存を示す。
【図1B】図1Bは、8−OH−DPATを全身に投与され、そして過酷な光酸化侵襲に曝露されたラットにおけるERG a波機能およびb波機能の保存を示す。
【図2】図2は、8−OH−DPATを全身に投与され、そして過酷な光酸化侵襲に曝露されたラットにおける網膜の形態(受容体およびRPE)の保護を示す。
【図3】図3は、ブスピロンを全身に投与され、そして過酷な光酸化侵襲に曝露されたラットにおける網膜DNAの保護、網膜細胞数(A)の測定、および網膜形態(光受容体)の完全な保護を示す。
【図4A】図4Aは、SR−57746を全身に投与され、そして過酷な光酸化侵襲に曝露されたラットにおけるERG a波機能およびb波機能の保存を示す。
【図4B】図4Bは、SR−57746を全身に投与され、そして過酷な光酸化侵襲に曝露されたラットにおけるERG a波機能およびb波機能の保存を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(好ましい実施形態の詳細)
セロトニン作動性5−HT1Aアゴニストは、中枢神経系への種々の侵襲の後の潜在的な神経保護剤であることが示されてきた。予想外にも、発明者らは、8−OH−DPAT(8−ヒドロキシ−2−(ジ−n−プロピルアミノ)テトラリン)、ブスピロン、およびSR−57746Aが、網膜において強力な神経保護活性を示し、そして光受容体およびRPE細胞の光誘導性アポトーシス細胞死を阻害を示すことを実証した。発明者らは、ブスピロンが、光酸化誘導性網膜症を完全に阻害し得、そして網膜のDNAおよびONLの脆弱化を有意に減少し得ることを見出した。これらの化合物のいくつかの安全上の利点は、それらを急性および慢性の治療の両方について特に望ましいものとしている。このような薬剤は、種々の網膜外縁部変性疾患の処置において利用性を有する。
【0012】
光損傷の実例において、抗酸化剤は、効果がない(αトコフェロール)かまたは高い用量でわずかに効果がある(アスコルビン酸、ビタミンEアナログ)かのいずれかであった。同様に、いくつかのカルシウムアンタゴニスト(フルナリジン、ニカルジピン)は、中程度に効果があったが、その他(ニフェジピン、ニモジピン、ベラパミル)は、光誘導性機能変化または光誘導性形態変化を阻害するという効果はなかった。しかし、5−HT1Aアゴニストが、これらの光損傷の実例において100倍以上強力であり、従って、網膜外縁部の疾患を処置するために有用であることが発見された。
【0013】
本発明は、網膜外縁部の障害を処置するための任意の薬学的に受容可能な5−HT1Aアゴニスト(薬学的に受容可能な塩を含む)(化合物)の使用を意図する。「薬学的に受容可能な」は、網膜外縁部の疾患の処置のために安全に使用され得る化合物を意味する。本明細書中で使用される場合、網膜外縁部は、RPE、光受容体、ミュラー細胞(これらのプロセスが網膜外縁部まで延長される範囲まで)、および外縁部網状層を含む。これらの化合物は、全身性送達または局所眼送達のために処方される。
【0014】
網膜外縁部の疾患は、正常または遺伝的に素因の有る個体における光受容体およびRPE細胞の急性および慢性の環境的に誘導された(外傷、虚血、光酸化ストレス)変性状態を含む。これには、AMD、RPおよび遺伝的変性網膜疾患の他の形態、網膜剥離、涙液、黄斑の皺、網膜外縁部に影響する虚血、糖尿病網膜症、光線力治療法(PDT)を含むレーザー治療関連の傷害(格子、焦点および網膜全体)、温熱療法もしくは寒冷療法、外傷、外科手術(網膜転移、網膜下外科手術、もしくは硝子体切除)または光誘導された医原性網膜症ならびに網膜移植物の保存が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
本発明の化合物は、約500nM(好ましくは100nM未満)までのIC50を有する5−HT1Aレセプターについての強力な親和性を有する。これらの化合物はまた、約1μM(好ましくは500nM未満)までのIC50を有する完全なアゴニストまたは部分的なアゴニストのいずれかである。本発明に従う有用な、代表的な5−HT1Aアゴニストとして以下が挙げられるが、これらに限定されない:タンドスピロン、ウラピジル、ジプラシドン、レピノタン(repinotan)塩酸塩、キサリプロデン塩酸塩(SR−57746A)、ブスピロン、フレシノキサン、EMD−68843、DU−127090、ジェピロン、アルネスピロン、PNU−95666、AP−521、フリバンセリン、MKC−242、レソピトロン、サリゾタン塩酸塩、Org−13011、Org−12966、E−5842、SUN−N4057、および8−OH−DPAT。
【0016】
本発明に従うレセプター結合およびアゴニスト活性は、以下の方法を使用して決定され得る。
【0017】
(方法1)
(5−HT1Aレセプター結合アッセイ)
5−HT1A結合の研究を、(H)8−OH DPATをリガンドとして使用してチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で発現されたヒトクローン化レセプターを用いて行った。クローン化した5−HT1Aレセプター(Biosignal,Inc.、Montreal,CanadaによるMENについて製造された)を発現するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)由来の膜を、約40容量の50mM Tris(pH7.4)に5秒間ホモジェナイズした。薬物の希釈物をBeckman Biomek 2000ロボット(Beckman Instruments、Fullerton,CA)を使用して作製した。膜調製物、試験化合物、および0.25nM (H)8−OH−DPAT(MEN、Boston,MA)を共に同一の緩衝液中で27℃、1時間インキュベーションを行った。アッセイを、0.3%のポリエチレンイミンに予め浸漬したWhatoman GF/Bグラスファイバーでの急速吸引濾過によって終結した。結合した放射活性を、液体シンチレーションスペクトロメトリーを使用して測定した。データを非直線性曲線適合プログラム(Sharifら、J Pharmac Pharmacol、51:685〜694、1999)を使用して解析した。
【0018】
リガンド結合研究をまた、子ウシの脳およびラットの脳(局所的供給源)ならびにヒト皮質膜由来の膜調製物を使用して実施し得る。特定の脳領域を、切開し、10容量の0.32M スクロースにホモジェナイズし、そして700×gで10分間、遠心分離した。生じた上清を、43、500×gで10分間遠心分離し、ペレットを、10秒間のポリトロン処理を使用して、50mMのTris−HCl(pH7.7、25℃)に再懸濁した。アリコートを−140℃で保存した。外因性のセロトニンを除去するために、調製物を実験前に10分間37℃でインキュベートした。アッセイインキュベーションを、Brandel細胞回収器を使用してWhatman GF/Cフィルターでの急速吸引により終結した。K値をCheng−Prusoffの式(De Vryら、J Pharm Exper Ther、284:1082〜1094、1998)を使用して計算した。
【0019】
(方法2)
(5−HT1A機能アッセイ)
本発明の化合物の機能を、5−HT1Aアゴニストの機能的活性を評価するための種々の方法を使用して決定し得た。このようなアッセイの1つを、雄性Sprague−Dawleyラット由来の海馬スライスを使用して実施し、フォルスコリン刺激アデニル化シクラーゼの阻害を測定する(J Med Chem、42:36、1999;J Neurochem、56:1114、1991;J Pharm Exper Ther、284:1082、1998)。ラット海馬の膜を、25倍容量の0.3M スクロース(1mM EGTA、5mM EDTA、5mM ジチオスレイトール、および20mM Tris−HClを含有する)、pH7.4に25℃でホモジェナイズした。ホモジネートを1,000×gで10分間、遠心分離した。上清を引続き39,000×gで10分間遠心分離した。生じたペレットを、タンパク質濃度が約1mg/mlのホモジェナイズ用緩衝液中に再懸濁し、そしてアリコートを−140℃で保存した。使用の前に、膜をPotter−Elvehjemホモジェナイザーで再度ホモジェナイズした。膜懸濁液の50μl(50μgのタンパク質)を、100mM NaCl、2mM 酢酸マグネシウム、0.2mM ATP、1mM cAMP、0.01mM GTP、0.01mM フォルスコリン、80mM Tris−HCl、5mM リン酸クレアチン、0.8U/μlのクレアチンホスホキナーゼ、0.1mM IBMX、1〜2μCi α−[32P]ATPを含有するインキュベーション用緩衝液に添加した。試験化合物とのインキュベーション(30℃で10分間)を、膜溶液のインキュベーション混合物(30℃で5分間、予備加温)への添加によって開始した。[32P]cAMPをSalomonの方法(Adv Cyclic Nucleotide Res、10:35〜55、1979)に従って、測定した。タンパク質をBradford(Anal Biochem、72:248〜254、1976)アッセイを使用して測定した。
【0020】
機能的活性はまた、Schoeffterらの方法(Neuropharm、36:429〜437、1997)に従って組換えヒトレセプターで決定し得る。組換えヒト5−HT1Aレセプターで感染したHeLa細胞を、24ウェルのプレートでコンフルーエンスになるまで増殖させた。細胞を、Hepes緩衝化生理食塩水(NaCl 130mM、KCl 5.4mM、CaCl 1.8mM、MgSO 0.8mM、NaHPO 0.9mM、グルコース 25mM、Hepes 20mM)、pH7.4およびフェノールレッド 5mg/lでリンスした。細胞を、0.5mLの生理食塩水中の6μCi/mlの[H]アデニン(23Ci/mmol,Amersham、Rahn AG、Zurich、Switzerland)を用いて37℃で2時間標識した。プレートを引続いて1mMのイソブチルメチルキサンチンを含有する緩衝化生理食塩水で2回リンスした。細胞を、10μM フォルスコリンおよび試験化合物の存在または非存在下で、この溶液の1ml(37℃)中で15分間インキュベートした。次いで、緩衝液を除去し、そして1mlの5% トリクロロ酢酸(TCA)(0.1mM cAMPおよび0.1mM ATPを含有する)をサンプルを抽出するために加えた。4℃で30分後、TCA抽出物を、Dowex AG 50W−X4およびアルミナカラムでクロマトグラフィー分離に供した(Salmon、Meth Enzymol、195:22〜28、1991)。サイクリックAMP産生を、[H]cAMP/[H]cAMP+[H]ATPの比として計算した。
【0021】
方法1および2に開示された上記手順を使用して、以下のデータを作成した。
【0022】
(表1:5−HT1Aレセプター結合および機能アッセイデータ)
【0023】
【表1】

【0024】
一般的に、変性疾患について、本発明の5−HT1Aアゴニストは、経口的に投与され、そしてこれらの化合物の1日の投薬量は、約0.001〜約500mgの間の範囲である。好ましい1日の全用量は、約1〜約100mgの間の範囲である。非経口投与(例えば、硝子体内、局所的眼、経皮パッチ、皮内、非経口、眼内、結膜下、もしくは視蓋延髄(すなわちテノン内注射)、強膜貫通(イオン泳動を含む)、または徐放性生物崩壊性ポリマー(すなわちリポソーム))は、化合物の治療的に有効な量を提供するために必要な1日の全用量の調整を必要とし得る。5−HT1Aアゴニストはまた、眼の洗浄溶液で送達され得る。濃度は、約0.001μM〜約100μM、好ましくは約0.01μM〜約5μMの範囲であるべきである。
【0025】
5−HT1Aアゴニストは、眼への送達のための種々の型の眼科的処方物に組込まれ得る(例えば、局所的、房内に、または移植物を介して)。これらは、眼科学的に受容可能な、保存剤、界面活性剤、粘度増強剤、ゲル化剤、浸透性増強剤、緩衝液、塩化ナトリウム、および水性の滅菌眼科用懸濁液もしくは溶液を形成するための水、または予備形成されたゲルもしくはインサイチュで形成されるゲルと組み合わせられ得る。眼科的溶液処方物は、生理学的に受容可能な等張性の水性緩衝液に化合物を溶解することによって調製され得る。さらに、眼科的溶液は、化合物の溶解を補助するための眼科的に受容可能な界面活性剤を含み得る。眼科的溶液は、粘性増強剤(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど)を結膜嚢における処方物の保持を改善するために含み得る。滅菌眼科用軟膏処方物を調製するために、活性成分を、適切なビヒクル(例えば、鉱油、液体ラノリン、または白色ペトロラタム)中の保存剤と組合わせる。滅菌眼科用ゲル処方物を、例えば、類似する眼科用調製物について公開された処方に従って、カルボポル−940などとの組合せから調製された親水性塩基中に活性成分を懸濁することによって調製し得る;保存剤および張性剤を組込み得る。
【0026】
局所的に投薬される場合、5−HT1Aアゴニストは好ましくは、約4〜8のpHの局所的な眼科用懸濁液または溶液として処方される。通常、5−HT1Aアゴニストは、0.001重量%〜5重量%でこれらの処方物に含まれるが、好ましくは、0.01重量%〜2重量%の量である。従って、局所的な症状について、これらの処方物の1〜2滴が、熟練した臨床医の裁量に従って1日当たり1〜4回、眼の表面に送達される。
【0027】
以下の局所的な眼科用処方物が、本発明に従って有用であり、熟練した臨床医の裁量に従って1日あたり1〜4回投与される。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
【0029】
【表2】

【0030】
(実施例2)
【0031】
【表3】

【0032】
(実施例3)
【0033】
【表4】

【0034】
(実施例4)
【0035】
【表5】

【0036】
(実施例5)
【0037】
【表6】

【0038】
(実施例6)
【0039】
【表7】

【0040】
(方法3)
(ラットの光酸化誘導性網膜症モデルにおける神経保護効果)
これらの5−HT1Aアゴニストの網膜保護効果を、発明者らの光酸化誘導性網膜症の実例において評価した。
【0041】
(光化学的損傷の誘導)光化学的損傷を、暗順応させたラット(24時間)において、青色光(220fc)(半振幅帯域=435〜475nm)に6時間、曝露することによって誘導した。動物を、5日間暗所で回復させた後に、網膜機能の電気的診断評価を行った。ラットを、この光曝露の間、清潔なポリカーボネートケージに1匹で入れた。
【0042】
(電気的診断評価)電気的網膜造影(ERG)を、24時間の暗順応期間後の麻酔したラットから記録した。ラットを、ケタミン−HCl(75mg/Kg)およびキシラジン(6mg/Kg)を有するIP注射によって麻酔した。角膜に配置されたプラチナ−イリジウムワイヤーループ電極から記録されたフラッシュERGを全体野を観察することによって、引き出した。強度が漸増する一連の光のフラッシュに対する電気的応答をデジタル化し、波形および応答電圧−対数強度(VlogI)相関の一時的な特性を解析した。ERGのa波における変化は、光受容体および網膜色素上皮損傷に関連し、一方、内側網膜に対する損傷は、ERG b波における変化において反映される。
【0043】
(網膜形態の評価)眼組織を、コントロールならびに薬物投与されたラットおよびビヒクル投与されたラットから得、そして2%のパラホルムアルデヒドおよび2%のグルタルアルデヒドの混合物に浸漬することによって固定した。固定された眼球を、連続して漸増するエタノール中で脱水し、JB−4プラスチック樹脂に包埋し、そして1〜1.5ミクロンの薄層切片を顕微鏡に接続した定性的コンピュータ画像解析を使用して解析した。網膜層の厚さ(網膜色素上皮、RPE;外側核層の厚み、ONL;内側核層の厚み、INL;ならびに光受容体の内側および外側セグメント、IS+OS)を測定した。
【0044】
(DNA変化の評価)アルビノラットを、CO吸引によって安楽死させ、そして個々の網膜を別々の試験管中で冷凍した。各網膜を、0.8ml(2.0M NaCl、50mM NaPO、pH7.4、2mM EDTA)中で超音波破砕し、均一なホモジネートを得、そして凍結保存した。各サンプルのアリコート(0.1ml)を、2.0M NaCl、50mM NaPO(pH7.4)、2mM EDTA(1.1μg/mlビスベンズイミダゾール(Hoechst 33258)を含有する)で10倍希釈した。標準曲線を、同じ緩衝液中の0〜25μg/mlの子ウシ胸腺DNAを使用して作成した。各網膜サンプルおよび標準の0.2mlの3つのアリコートを、Cytofluor IIにおける蛍光測定のために96ウェルプレートにピペットで移した。励起波長は360nmであり、そして放射波長は460nmであった。
【0045】
(被験体および投薬)雄Sprague Dawleyラットを、薬物実験グループおよびビヒクル実験グループにランダムに分けた。コントロールラットを、正常周期の光の曝露下でこれらのホームケージに入れた。すべてのラットを、6時間の青色光の曝露の48、24および0時間前に投薬した。投与は以下のとおりであった。
【0046】
1.)8−OH−DPAT(8−ヒドロキシ−2−(ジ−n−プロピルアミノ)テトラリン):ビヒクル(N=10)または8−OH−DPAT(0.5mg/kg(N=5)または1.0mg/kg(N=10))のいずれかを受けたラットに3回の皮内注射を与えた後、光曝露した。5匹のラットをコントロールとして使用した。網膜保護を、EPG応答を解析することおよび網膜形態における変化を測定することにより評価した。
【0047】
2.)ブスピロン:DNA定量化のために、処置群あたり6匹のラットを、光曝露前にビヒクルまたはブスピロン(0.5および1mg/kg)を用いてIP投薬した。7匹の正常ラットからの網膜を、コントロールとして使用した。網膜形態の変化を評価するために、ラットに、ビヒクル(N=8)またはブスピロン(1.0mg/kg(N=9))のいずれかを投薬(IP)した。6匹のラットをコントロールとして使用した。網膜保護を、網膜DNAにおける変化を定量することおよび網膜形態学における変化を測定することによって評価した。
【0048】
3.)SR−57746A:ラットを、ビヒクル(N=15)またはSR−57746A(0.5mg/kgまたは1mg/kg(N=15))で投薬(IP)した。11匹のラットをコントロールとして使用した。ERGを5日間の回復後に解析し、その後網膜保護を評価した。
【0049】
(8−OH−DPAT 評価結果)6時間の青色光曝露は、5日間の回復期の後に測定した場合に、正常と比較してERG応答振幅(ANOVA、p<0.001;Bonferroni t−検定、p<0.05)の有意な減少を生じた(図1AおよびB)。青色光曝露は、コントロールと比較してビヒクル投与されたラットにおいて最大a波およびb波で75%の減少を生じた。さらに、閾値応答はより低くそしてより明るいフラッシュ強度で励起した。
【0050】
8−OH−DPATで投薬されたラットは、外縁部および内側網膜機能のこの光酸化誘導性網膜症に対する用量依存性保護を示した(図1AおよびB)。8−OH−DPAT(0.5mg/kg)を投薬されたラットにおける最大a波およびB波応答の振幅は、ビヒクル投薬されたラットと代わらず、そしてコントロールの振幅の約27%であった。しかし、8−OH−DPAT(1.0mg/kg)を投薬されたラットからの最大a波およびb波応答の振幅は、それぞれ正常の約53%および61%であり、そしてビヒクル投薬ラットで測定された応答よりも有意に高かった(図1Aおよび1B)。
【0051】
これらのERGの変化に一致して、3週間の回復後のこれらの網膜の形態的解析は、受容体細胞の有意な(ANOVA、p<0.01)損失、光受容体内側+外側セグメント長の短縮化、およびビヒクル投薬動物におけるRPEの平坦化を実証した。INLの厚みにおける有意な変化は検出されなかった。コントロールと比較してONLの厚みは73%減少し、内側+外側セグメント長は82%減少し、そしてRPEの厚みは、59%減少した(図2)。8−OH−DPAT(0.5mg/kg)を投薬されたラットにおいて観察される損傷は、ビヒクル投薬されたラットで測定された損傷と有意に異ならなかった。一方、ERGは、約63%減少し、ONLの厚みは53%まで減少し、光受容体セグメント長は、60%減少し、そしてRPEの厚みは34%減少した。しかし、8−OH−DPAT(1.0mg/kg)を投薬されたラットにおいて観察された光損傷は、ビヒクル投薬されたラットとは有意に異なった。一方、ビヒクル投薬されたラットと比較して、ERG応答振幅は、正常よりも50%大きく、ONLの厚みは2.4倍厚く、光受容体セグメント長は、2.9倍長く、そしてRPEの厚みは1.9倍厚かった。
【0052】
(ブスピロン評価結果)図3Aに見られるように、ビヒクル投薬された網膜DNAレベルは、コントロールレベルから約30%、有意に(ANOVA。p=0.017)減少した。有意な差異は、ビヒクルまたは0.1mg/kgのブスピロンで投薬されたグループ間で測定されなかった。網膜保護は、ブスピロン(1mg/kg)を投薬されたラットで測定された。網膜DNAレベルは、ビヒクル投薬ラットで測定されたよりも顕著に高かったが、コントロールとは有意な差異がなかった。
【0053】
6時間の青色光への曝露は、光受容体の数において顕著な減少を生じた(ANOVA、p<0.05)。4週間の回復期後のこれらの網膜の形態学的解析は、コントロールと比較してビヒクル投薬されたラットにおいて、外側の明瞭でない層の54%の薄弱化を示した(図3B)。しかし、ONLの厚みにおける有意な差異は、正常ラットおよびブスピロン処置したラット間で測定されなかった。ブスピロン(1mg/kg)を投薬されたラットにおいて、ONLの厚みは、正常ラットの30.4μと比較して28.3μであった。
【0054】
(SR−57746A評価結果)網膜機能の有意な保護が、光に曝露されたラット(SR−57746A(0.5および1.0mg/kg)を投薬された)において測定された。コントロールと比較して、最大a波およびb波応答の振幅は、ビヒクル投薬されたラットにおいて50%まで減少した(図4AおよびB)。最大応答はSR−57746A(0.5mg/kg)を投薬されたラットにおけるコントロールラットの82%であり、1mg/kgを投与されたラットにおける正常ラットの70%であった。
【0055】
(結論)これらの5−HT1Aアゴニスト(8−OH−DPAT、ブスピロンおよびSR−57746A)は、網膜変性疾患のこの酸化モデルにおける良好な能力および有効性を示した。機能的保護および構造的保護が、1mg/kgという低い用量を3日間連続して投薬されたラットにおいて達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2011−153158(P2011−153158A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−108785(P2011−108785)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【分割の表示】特願2001−568420(P2001−568420)の分割
【原出願日】平成13年2月23日(2001.2.23)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】