説明

網膜幹細胞由来の合成角膜

単為生殖的に活性化されたヒト卵母細胞に由来する網膜幹細胞(rSC)から分化した合成角膜を産生する方法を開示する。本方法には、そのような合成角膜を3-D足場の非存在下で産生させることが含まれる。開示する方法によって産生される、単離された合成角膜も同様に記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、胚性幹細胞(ES)に関し、より具体的には合成角膜を得るための過程に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
ヒト胚性幹細胞(hES)は、数多くの細胞型に分化することができる多能性細胞である。免疫不全マウスに注射した場合、胚性幹細胞は、分化した腫瘍(奇形腫)を形成する。しかしながら、胚様体(EB)を形成するようにインビトロで誘導した胚性幹細胞は、ある成長条件下で、幾つかの組織の特徴を示す複数の細胞型に分化させやすい胚性幹細胞株の源を提供する。例えば、hESは、内胚葉、外胚葉、および中胚葉派生物に分化させられている。
【0003】
ヒトES細胞およびそれらの分化した子孫は、治療的移植用ならびに薬物の試験および開発用のヒト細胞の重要な源である。これらの目的の両方によって必要とされているのは、患者の必要性または適当な薬理学的検査に好適な組織型に分化させる十分な細胞の提供である。これに関連するのは、胚性幹細胞株から分化した細胞を産生する効率的でかつ信頼できる方法に対する必要性である。
【0004】
hESおよびhEG細胞は、より特化した細胞または組織を作製するための潜在的可能性を伴う、際立った科学的かつ治療的な可能性を提供している。しかしながら、hESおよびhEG細胞の源に関する倫理的懸念、ならびに研究のための核移植(NT)の使用が、人間を生み出すためのNTの使用につながる可能性があるという恐怖は、大いなる公的議論および討論を助長した。
【0005】
胚性幹細胞株作製用の卵母細胞を調製するために、哺乳動物卵母細胞の単為生殖的な活性化を精子/NTによる受精の代替として用いる場合がある。単為生殖的な活性化とは、雄性配偶子からの任意の寄与の非存在下での雌性配偶子からの、最終的な成体への発生を伴うかまたは伴わない、胚細胞の産生である。
【0006】
現在、幹細胞研究の焦点は、天然の身体組織を交換するための人工臓器、リハビリテーション装置、またはプロステーシスの開発である。この開発は通常、拡大/分化を制御するために幹細胞を人工的に作製するための生体適合性の材料の使用、すなわち、増殖のための機械的支持体を提供することによって組織様の機能を模倣する装置を創出するための3-D足場(例えば、PLG足場、キトサン足場、PCL/PEG足場)の使用を想定している。
【0007】
あるいは、培養した幹細胞または分化した幹細胞の移植を治療方法(modality)として構想している。これらの方法は通常、インビボ組織工学またはインサイチュー作製として公知である。この領域の仕事の多くは、培養細胞の直接的な移植を、実際問題として、目論んでいるが、そのような方法は多くの場合、分化した幹細胞を多孔性の足場生体材料(例えば、幹細胞に由来する心筋細胞およびゲルまたは多孔性アルギネート)の中に播種する工程を必要とする。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、単為生殖的に活性化したヒト卵母細胞に由来する幹細胞から得られる3次元感覚系器官を産生する方法の独創的な知見に関する。本発明の方法は、外部の足場の使用を必要としない。ある態様で開示したように、感覚器官は合成角膜である。
【0009】
ある態様において、網膜幹細胞由来の単離された合成角膜を開示する。関連する局面において、網膜幹細胞を単為生殖的に活性化したヒト卵母細胞から得る。別の関連する局面において、角膜を最終分化させる。別の局面において、角膜は、角膜が同質性ミトコンドリアDNAを含み、かつヒトに移植可能であることを含めて、卵母細胞ドナーと組織適合性である。
【0010】
別の態様において、以下の工程を含む、合成角膜を産生する方法を開示する:活性化に、卵母細胞をイオノフォアと高いO2圧で接触させることおよび卵母細胞をセリン-スレオチンキナーゼ阻害剤と低いO2圧下で接触させることが含まれる、ヒト卵母細胞を単為生殖的に活性化する工程、活性化された卵母細胞を低いO2圧で胚盤胞形成まで培養する工程、胚盤胞をフィーダー細胞の層に移し、かつ移した胚盤胞を高いO2圧下で培養する工程、胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を機械的に単離して、ICMの細胞をフィーダー細胞の層の上で高いO2圧下で培養する工程であって、ここで網膜幹細胞が培養中でヒト胚性幹細胞マーカー(hES)およびニューロン特異的マーカーで同定され、かつ同定された網膜幹細胞が任意で単離される、工程、単離された幹細胞を、血清代替物(M/SR)と、プラスモネート(plasmonate)と、DNA合成阻害剤で処理した繊維芽細胞フィーダー層でgp130/STAT経路および/またはMAPキナーゼ経路を活性化する少なくとも1つのマイトジェンとを含む培地中で培養する工程、マイトジェン処理した細胞を、プラスモネートを含むM/SR(M/SRP)中で、マイトジェンを添加せずに、コンフルエンスの近くまで培養する工程であって、ここでコンフルエント近くの細胞が色素沈着およびドーム形の外観を生じるまでM/SRPの約1/2容量がM/SRと周期的に交換される、工程、ならびにM/SR中の色素沈着した細胞をゼラチンコーティングした基材に移す工程であって、ここで合成角膜が発生するまでM/SRの約1/2容量がM/SRと周期的に交換される、工程。任意で、網膜細胞を単離された細胞の集団ではなく、濃縮された細胞の集団として培養することができる。
【0011】
ある局面において、マイトジェンは、白血病阻害因子(LIF)、bFGF、およびそれらの組み合わせより選択される。別の局面において、DNA合成阻害剤は、マイトマイシンCを含むが、これに限定されない、アルキル化剤である。関連する局面において、フィーダー細胞はヒトである。
【0012】
ある態様において、対象の角膜を合成角膜と交換する工程を含む、それを必要とする対象を処置する方法を開示する。ある局面において、対象は、角膜炎、角膜潰瘍、角膜剥離、雪盲、弧眼(arc eye)、タイゲソン表層性点状角膜症、フックス変性症、円錐角膜、乾性角結膜炎、角膜感染、または角膜変性症などの角膜に変化をもたらす疾患を有する。別の局面において、対象は損傷した角膜を有する。
【0013】
別の態様において、網膜幹細胞由来の合成角膜を作用物質と接触させる工程と、角膜に影響を及ぼす作用物質であること示す角膜に対する変化を、作用物質の存在下および非存在下で観察する工程とを含む、目の角膜に影響を及ぼす作用物質を同定する方法を開示する。
【0014】
ある局面において、作用物質は、角膜に対する治療効果を有する。別の局面において、作用物質は、角膜に対する有害効果を有する。関連する局面において、角膜に対する変化には、遺伝子発現の変調、タンパク質発現の変調、混濁の変化、可塑性の変化、硬度の変化、光位相速度の変化、および形の変化が含まれる。
【0015】
ある態様において、目から角膜を外科的に切除する工程、除去した角膜の部分に合成角膜を挿入する工程、および合成角膜を切除の下にある組織と繋ぎ合わせて合成角膜を目に固定する工程を含む、合成角膜と目の角膜の交換のための方法を開示する。
【0016】
関連する局面において、本方法はさらに、角膜の外面の一部を分離し、それによって前面および後面を有する角膜弁と成形された前面を有する角膜床とを形成させる工程、前面および後面を有する合成角膜を角膜床の上に移植する工程、ならびに分離された角膜の部分を交換する工程を含む。
【0017】
別の態様において、対象の目に有効量の作用物質を送達する方法を開示し、本方法は、合成角膜を含む細胞の少なくとも一部を、作用物質をコードする核酸ビヒクルで形質転換する工程、核酸によってコードされる作用物質を発現する合成角膜を含む細胞の集団を同定する工程、および形質転換された合成角膜の細胞と対象の角膜細胞を交換する工程を含み、交換した細胞は作用物質を対象の目に送達する。
【0018】
関連する局面において、交換する工程は、対象の角膜を合成角膜と交換することを含む。
【0019】
本発明による例示的な方法および組成物を以下でより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】単為発生によって誘導されたhES細胞についてのアルカリホスファターゼの表面マーカー発現の顕微鏡写真を示す。
【図1B】表面マーカーOct4の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1C】表面マーカーSSEA-1の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1D】表面マーカーSSEA-3の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1E】表面マーカーSSEA-4の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1F】表面マーカーTRA-1-60の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1G】表面マーカーTRA-1-81の発現の顕微鏡写真を示す。
【図2A】単為発生によって誘導されたhES細胞についてのテロメラーゼ活性の解析を示す。500、1000、および10000(単位)の抽出物を用いて解析を行なった。ΔH-熱処理した被検抽出物(陰性対照);陽性対象-テロメラーゼ陽性細胞;CHAPS-溶解緩衝剤;TSR8-対照鋳型。
【図2B】単為発生によって誘導されたhES細胞、9日培養、からの胚様体形成の顕微鏡写真を示す。
【図2C】単為発生によって誘導されたhES細胞、10日培養、からの胚様体形成の顕微鏡写真を示す。
【図2D】単為発生によって誘導されたhES細胞の核型を例証する。
【図2E】単為発生によって誘導されたhES細胞のDNAフィンガープリンティング解析からの結果を示す。1-卵母細胞ドナーの血液由来のDNA;2-同じドナーに由来する単為発生hES細胞由来のDNA;3-ヒトフィーダー線維芽細胞由来のDNA。
【図3】ゲノムインプリンティングと関連する遺伝子の発現を特徴付けするためのノザンブロットを示す。DNAプローブ:SNRPN、Pegl_2、Peg1_A、Hl9、および(内部対照としての)GAPDH。NSF、新生児皮膚繊維芽細胞;hES、受精した卵母細胞に由来するヒト胚性幹細胞株;1、phESC-1;2、phESC-3、3、phESC-4、4、phESC-5;5、phESC-6;6 phESC-7。NSF RT-、hES RT-、1 RT-は陰性対照である。
【図4】phESCの3つ全ての生殖層派生物への分化を示す。外胚葉分化は、ニューロン特異的マーカー68(A)、NCAM(B)、βIII-チューブリン(C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(D、M)についての陽性免疫細胞化学染色で示されている。分化した細胞は、中胚葉マーカー:筋肉特異的アルファアクチニン(G)およびデスミン(J)、内皮マーカーPECAM-1(E)およびVE-カドヘリン(F)について陽性であった。内胚葉分化は、アルファ-フェトタンパク質(H、L)についての陽性染色で示されている。phESCは、色素沈着した上皮様細胞を産生する(I、K)。倍率(I)x 100;(A〜H、J〜M)x 400。
【図5】特異的マーカーについてのphESC株の特徴付けを示す。ヒトフィーダー層細胞上のphESCの未分化コロニー(A〜F)、SSEA-1(G〜L)についての陰性染色、細胞表面マーカーSSEA-3(M〜R)、SSEA-4(S〜X)の発現。倍率(A)〜(E)x 100;(F)x 200;(G)〜(X)x 400。フィーダー細胞上のphESCコロニーのアルカリホスファターゼ陽性染色(A〜F)、OCT-4(G〜L)、TRA-1-60(K〜R)、およびTRA-1-81(S〜X)。倍率(A、B、O、R)x 100;(C〜F、M、S、X)x 200;(G〜L、N、P、Q、T〜W)x 400。
【図6】陽性対照細胞との比較によってphESC細胞は高レベルのテロメラーゼ活性を保有することを示す:「+」-500細胞からの抽出物;「-」-不活性化したテロメラーゼを含む熱処理した細胞抽出物;「対照+」-テロメラーゼ陽性の細胞抽出物(TRAPEZEキットと共に適用される);「B」-CHAPS溶解緩衝剤、プライマーダイマー/PCR汚染対照;TSR8-テロメラーゼ定量的対照鋳型(0.1および0.2 amole/μl);「M」-マーカー、DNAラダー。
【図7】phESC株のGバンド法による核型分析を示す。phESC-1(A)、phESC-3(B)、phESC-4(C)、phESC-5(D)、およびphESC-6(E)株は、正常な46本の、XX核型を有する。phESC-7株は、47本の、XXX核型を有する(F)。
【図8】単為生殖的に活性化されたヒト卵母細胞に由来する幹細胞から得られた合成角膜を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本組成物、方法、および培養方法論を記載する前に、本発明は、記載した特定の組成物、方法、および実験条件に限定されるものではなく、そのようなものとして組成物、方法、および条件は様々に変わり得ることが理解されるべきである。本発明の範囲は付随する特許請求の範囲でのみ限定されると考えられるので、本明細書で用いる術語は特定の態様のみを記載する目的のためのものであり、かつ限定的であることが意図されないことも理解されるべきである。
【0022】
本明細書および付随する特許請求の範囲で用いる場合、単数形の「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the」には、文脈上そうでないよう明瞭に指示されない限り、複数への言及が含まれる。したがって、例えば、「方法」への言及には、本開示などを読めば当業者に明白であると考えられる本明細書で記載した種類の1つもしくは複数の方法、および/または工程が含まれる。
【0023】
そうでないよう規定されない限り、本明細書で用いる全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の専門家によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。修正および変形が本開示の精神および範囲の中に包含されると理解されるであろうことことから、本明細書で記載したものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または検討で用いることができる。本明細書で言及された刊行物は全て、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
「分化」は、それらの細胞にある種の特殊化した機能を負わせかつある種のその他の特殊化した機能単位へと変化する能力を失わせるよう、細胞内で生じる変化を指す。分化できる細胞は、全能性細胞、多能性細胞、複能性細胞のいずれかであってもよい。分化は、成熟成体細胞に関して部分的または完全であってもよい。
【0025】
雌性発生とは、認識できる栄養外胚葉および全ての雌起源、好ましくはヒト雌起源の、哺乳動物DNA、例えば、ヒトまたは非ヒト霊長類の卵母細胞DNAを含む、卵母細胞またはその他の胚細胞型など、細胞の活性化によって結果的に生じる内部細胞塊を含む胚の産生を指す。そのような雌の哺乳動物のDNAは、例えば、少なくとも1つのDNA配列の挿入、欠失、または置換によって遺伝子改変されていてもよいし、または改変されていなくてもよい。例えば、DNAは、所望のコード配列または胚発生を促進もしくは阻害する配列の、挿入または欠失によって改変されていてもよい。典型的には、そのような胚は、全て雌起源のDNAを含む卵母細胞のインビトロ活性化によって得られると考えられる。雌性発生は、以下で定義する単為発生を含める。それには、精子DNAが活性化された卵母細胞中のDNAに寄与しない活性化方法も含まれる。
【0026】
関連する局面において、卵母細胞を、IVF用に用意された過剰排卵している対象から得る。IVFで用いる、ホルモンによる雌対象の処理などの「過剰排卵」技術は、卵巣を刺激して、自然周期と同様の普通の1個の卵ではなく、数個の卵(卵母細胞)を産生するよう設計されている。
【0027】
卵産生を高めるのに必要とされる医用薬剤として、以下のものが含まれてもよいが、これらに限定されない:ルプロン(ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト)、オルガルトラン、アンタゴン、またはセトロタイド(ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト)、フォリスチム、ブラベル(Bravelle)、またはゴナール-F(FSH、濾胞刺激ホルモン)、レプロネクス(FSHと黄体形成ホルモンであるLHとの組み合わせ)、ならびにプレグニールまたはノバレル(Novarel)(hCG、ヒト絨毛性ゴナドトロピン)。
【0028】
関連する局面において、卵の採集を経腟超音波誘導の下で行なうことができる。これを遂行するために、(例えば、IV鎮静下で)膣壁を通して卵巣の中に針を挿入し、超音波を用いて各々の濾胞を位置付ける。濾胞液を試験チューブに引き込み、卵を得る。
【0029】
「単為発生」(「単為発生的に活性化した」および「単為生殖的に活性化した」を互換的に用いる)は、精子侵入の非存在下で卵母細胞の活性化が起こる過程であり、かつ全て雌起源のDNAを含む卵母細胞または胚細胞(例えば卵割球)の活性化によって得られる栄養外胚葉および内部細胞塊を含む初期胚の発生を指す。関連する局面において、「単為生殖体」は、そのような活性化によって得られる結果として生じる細胞を指す。別の関連する局面において、「胚盤胞」は、外部栄養外胚葉細胞および内部細胞塊(ICM)から構成された細胞の空洞のボールを含む、受精したかまたは活性化された卵割期の卵母細胞を指す。さらに関連する局面において、「胚盤胞形成」は、卵母細胞の受精または活性化の後の過程を指し、この過程では、卵母細胞を、その後外部栄養外胚葉細胞およびICMから構成された細胞の空洞のボールに発生するまでの間(例えば、5〜6日)、培地中で培養する。
【0030】
「多能性細胞」は、長期、理論的には無限の期間、インビトロで未分化状態で維持することができ、異なる分化した組織型、すなわち、外胚葉、中胚葉、および内胚葉を生み出すことができる、全て雌または雄起源のDNAを含む細胞の活性化によって産生された胚に由来する細胞を指す。細胞の多能性状態を好ましくは、適当な条件下での雄性発生または雌性発生法によって産生された胚の内部細胞塊または内部細胞塊に由来する細胞を培養することによって、例えば、繊維芽細胞フィーダー層または別のフィーダー層または白血病阻害因子(LIF)を含む培養上で培養することによって維持する。そのような培養細胞の多能性状態を、様々な方法、例えば(i)多能性細胞に特徴的なマーカーの発現を確認すること;(ii)多能性細胞の遺伝子型を発現する細胞を含むキメラ動物の産生;(iii)インビボでの異なる分化した細胞型の産生を伴う、動物、例えば、SCIDマウスへの細胞の注射;および(iv)(例えば、フィーダー層またはLIFの非存在下で培養した場合の)インビトロでの胚様体およびその他の分化した細胞型への細胞の分化の観察によって確認することができる。
【0031】
「二倍体細胞」は、全て雄または雌起源の二倍体DNA内容物を有する細胞、例えば、卵母細胞または卵割球を指す。
【0032】
「一倍体」は、一倍体DNA内容物を有する細胞、例えば、卵母細胞または卵割球を指し、その場合、一倍体DNAは、全て雄または雌起源である。
【0033】
「活性化」は、例えば、限定されないが減数分裂の第II中期の受精したまたは未受精の卵母細胞が、典型的には染色分体対の分離、第二極体の放出を含む過程を経て、各々1本の染色分体を持つ一倍数の染色体を有する卵母細胞を結果的に生じる過程を指す。活性化には、全て雄または雌起源のDNAを含む細胞を誘導して、多能性細胞を産生するのに有用であるが、それ自体は生存可能な子孫に発生することができない可能性が高い、識別できる内部細胞塊および栄養外胚葉を有する胚に分化させる方法が含まれる。例えば、以下の1つの条件下で活性化を実行してもよい:(i)第二極体放出を引き起こさない条件;(ii)極体放出を引き起こすが、極体放出を阻害する条件;または(iii)一倍体卵母細胞の最初の細胞分裂を阻害する条件。
【0034】
「第II中期」は、細胞のDNA内容物が、各染色体が2本の染色分体によって表される一倍数の染色体からなる細胞発生の段階を指す。
【0035】
ある態様において、卵母細胞を様々なO2圧ガス環境下でインキュベートすることによって、第II中期卵母細胞を活性化/培養する。関連する局面において、約2%、3%、4%、または5%のO2濃度を含むガス混合物によって低いO2圧ガス環境を作り出す。さらに関連する局面において、ガス混合物は約5% CO2を含む。さらに、ガス混合物は、約90% N2、91% N2、または93% N2を含む。このガス混合物は、大体約5% CO2、20% O2、および75% N2である5% CO2大気と区別されるべきである。
【0036】
「O2圧」は、流体(すなわち、液体またはガス)中の酸素の分圧(ガス混合物の1つの成分によって加えられる圧力)を指す。低圧は酸素の分圧(pO2)が低い場合であり、高圧はpO2が高い場合である。
【0037】
「規定された培地条件」は、最適な成長に必要とされるその中の成分の濃度が詳細に述べられている細胞を培養するための環境を指す。例えば、細胞の使用法(例えば、治療用途)によって、異種タンパク質を含む条件から細胞を除去することが重要であり;すなわち、培養条件は動物を含まない条件であるかまたは非ヒト動物タンパク質を含まない。関連する局面において、「インビトロ受精(IVF)培地」は、受精した卵母細胞がその上かまたはその中で成長することができる化学的に規定された物質を含む栄養系を指す。
【0038】
「細胞外マトリックス(ECM)基材」は、最適な成長を支持する細胞下表面を指す。例えば、そのようなECM基材には、マトリゲル、ラミニン、ゼラチン、およびフィブロネクチン基材が含まれるが、これらに限定されない。関連する局面において、そのような基質は、様々な成長因子(例えば、bFGF、上皮成長因子、インスリン様成長因子-1、血小板由来成長因子、神経成長因子、およびTGF-β-1)を含むよう、コラーゲンIV、エンタクチン、ヘパリン硫酸プロテオグリカンを含んでもよい。
【0039】
「胚」は、任意で修飾されていてもよい細胞、例えば卵母細胞、または全て雄もしくは雌起源のDNAを含むその他の胚細胞の活性化によって結果的に生じる胚を指し、生存可能な子孫を生み出すことができずかつDNAは全て雄もしくは雌起源である、識別できる栄養外胚葉および内部細胞塊を含む。内部細胞塊またはその中に含まれる細胞は、先に定義したような多能性細胞の産生に有用である。
【0040】
「内部細胞塊(ICM)」は、胎児組織を生み出す胚の内側の部分を指す。本明細書では、これらの細胞を用いて、多能性細胞の連続的な源をインビトロで提供する。さらに、ICMは、雄性発生または雌性発生から結果として生じる胚、すなわち、全て雄または雌起源のDNAを含む細胞の活性化によって結果的に生じる胚の内側の部分を含む。そのようなDNAは、例えばヒトDNA、例えばヒト卵母細胞または精子DNAであると考えられ、それは遺伝子改変されていてもよいしまたは改変されていなくてもよい。
【0041】
「栄養外胚葉」は、雄性発生または雌性発生から結果として生じる胚、すなわち、全て雄または雌起源、例えばヒトの卵巣または精子のDNAを含む細胞の活性化から結果として生じる胚の組織を含む、胎盤組織を生み出す初期胚の別の部分を指す。
【0042】
「分化した細胞」とは、特定の分化した、すなわち、非胚性の状態を保有する非胚細胞を指す。最も初期の3つの分化した細胞型は、内胚葉、中胚葉、および外胚葉である。
【0043】
「実質的に同一」とは、(例えば、HLAタイプ分け、SNP解析などで)相違を測定する能力の範囲内で本質的に同じであるほど近似している、特定の特徴に関して同一の質を指す。
【0044】
「組織適合性」とは、生物が外来組織の移植片に耐えると考えられる程度を指す。
【0045】
「ゲノムインプリンティング」とは、ゲノム全体にわたる多くの遺伝子が、それらの元の起源によって単一アレル性に発現される機構を指す。
【0046】
「合成」とは、その産生が規定の人工的操作によるものである対象物の特徴を指す。
【0047】
その文法的変化形を含む「同質性」とは、細胞または個体内での同じ型のミトコンドリアDNA(mtDNA)の存在を指す。
【0048】
その文法的変化形を含む「異質性」とは、細胞または個体内での1つより多くの型のミトコンドリアDNA(mtDNA)の混合物の存在を指す。
【0049】
「片親性」とは、それから別のものが生じかつそれは従属を維持する1つまたは複数の細胞または個体を指す。
【0050】
「機械的に単離する」とは、物理的な力によって細胞凝集体を分離する工程を指す。例えば、そのような過程は、非ヒト物質を含み得る酵素(またはその他の細胞切断製品)の使用を除外する。
【0051】
ある態様において、当技術分野において公知の方法、例えば限定されないが、参照により本明細書に組み入れられる、Thomson(例えば、米国特許第7,029, 913号;米国特許第6,200,806号;米国特許第6,887,706号;米国特許第5,843,780参照)、Uchida(例えば、米国特許第7,083,977号;米国特許第7,049,141参照)、Carpenter(例えば、米国特許第6,777,233参照)、Andersonら(例えば、米国特許第5,589,376参照)、Hogan(例えば、米国特許第5,453,357参照)、Naktsujiら(例えば、米国特許第7,083,977参照)、およびKhilian(例えば、米国特許第5,449,620参照)によって記載された方法によって、幹細胞を作製することができる。ある局面において、当技術分野において公知の方法(例えば、米国特許第6,117,675号参照)によって網膜幹細胞を得る。
【0052】
別の態様において、単為生殖的に活性化されたヒト卵母細胞から幹細胞を作製する。ある局面において、単為生殖的に活性化されたヒト卵母細胞に由来する幹細胞から分化した網膜幹細胞から合成角膜を得る。
【0053】
別の局面において、本発明の合成角膜を、近視であるか、遠視であるか、または乱視を有する対象など、屈折誤差を有する対象用の代用品として用いることができる。屈折誤差は、角膜の曲面が不規則な形をしている(急勾配過ぎるかまたは平ら過ぎる)場合に生じる。
【0054】
角膜は、虹彩、瞳孔、および前房を覆う独特の透明な構造体であり、目の視力の大部分を提供している。水晶体と共に、角膜は光を屈折させ、結果として、焦点を合わせる手助けをしている。角膜は、全体的な屈折に対して水晶体が寄与するよりも大きく寄与するが、水晶体の湾曲が焦点を「合わせる」よう調整することができるのに対し、角膜の湾曲は固定されている。角膜は血管を有さず、その栄養を涙液、房水、およびそれを神経支配する神経線維によって供給されるニューロトロフィンからの拡散を通じて得る。したがって、例えば、これらの体液の循環の乱れまたは炎症過程は、角膜異常の発病に大きな役割を果たす。
【0055】
角膜は、大部分は密度の濃い結合組織から構成されている。しかしながら、コラーゲン繊維が平行なパターンで配置されていて、光の波が構造的に干渉するのを可能にし、したがって光を比較的阻害を受けずに通過させる。
【0056】
角膜の加齢と関連する変化には、不透明性の増加、前面湾曲の増加、および屈折率分布の起こり得る変化が含まれる。矯正レンズの必要性を減らすかまたは別の方法で目の屈折状態を改善するために、様々な屈折目の手術技術によって角膜の形を変化させる。多くの技術において、エキシマレーザーを用いる光学切除(photoablation)によって角膜の再成形を行なう。
【0057】
角膜の間質が、見た目に著しい不透明性、不規則性、または浮腫を発生させる場合には、死体ドナー角膜を移植することができる。角膜には血管がないので、それは免疫応答から比較的守られており、したがって供与された角膜の拒絶の発生率は比較的低い(およそ20%)。
【0058】
合成角膜(人工角膜(keratoprothese))もあるが、これらは典型的にはプラスチックの挿入物であるか、または組織の合成角膜への内方成長を促し、その結果バイオインテグレーションを促進する生体適合性の合成材料から構成されていてもよい。あるいは、目の屈折状態を改善するかまたは眼鏡およびコンタクトレンズの必要性を減らすために、角膜矯正治療は、特殊化したハードまたは硬質の気体透過性コンタクトレンズの使用を提供して、一時的に角膜を再成形する。
【0059】
角膜は、接触、温度、および化学物質に感受性のある、非ミエリン化神経終末を有しており、角膜の接触によって不随意の反射が引き起こされ、眼瞼を閉じる。透明性が最も重要であるので、角膜は血管を有しておらず、それは、外側の涙液、内側の房水からの拡散、および同様にそれを神経支配する神経線維によって供給されるニューロトロフィンからの拡散を通じて栄養物を受容している。ヒトでは、角膜は、約11.5 mmの直径と、中心で約0.5 mm〜0.6 mmおよび周辺部で約0.6 mm〜0.8 mmの厚さとを有する。ヒトでは、角膜の屈折力は、およそ43ジオプターであり、目の全体の屈折力の大体4分の3である。透明性、無血管性、および免疫学的特権は、角膜を特別な組織にしている。
【0060】
角膜組織は、各々が別々の機能を有する5つの基礎層:上皮、ボーマン層、間質、デメス膜、および内皮に配置されている。上皮は、組織の厚さの約10%を含む、角膜の最も外側の層である。上皮は主に、(1)埃、水、および細菌など外来物質の、目およびその他の角膜の層への通過を遮断し;かつ(2)涙から酸素および細胞栄養物を吸収し、その後これらの栄養物を角膜の残りの部分に分布させる滑面を提供するよう機能する。上皮は、擦られるかまたは引っ掻かれた場合に、角膜を痛みに対して極端に敏感にさせる何千もの小さい神経終末で満たされている。上皮細胞がそれら自身を固定および組織化する土台としての役割を果たす上皮の部分を、基底膜と呼ぶ。
【0061】
上皮の基底膜の直下にあるのは、ボーマン層として知られる透明なシートである。それは、強い層状のタンパク質(コラーゲン)繊維から構成される。ひとたび損傷すると、ボーマン層は、それが治癒する間に瘢痕を形成する可能性がある。これらの瘢痕が大きくてかつ中央に位置する場合、多少の視力喪失が生じる可能性がある。
【0062】
ボーマン層の下には、角膜の厚さの90%を含む間質がある。それは主に水(78%)およびコラーゲン(16%)からなり、かつ血管を全く含まない。コラーゲンは角膜にその強度、弾力性、および形状を与える。コラーゲンの独特の形、配置、および間隔は、角膜の光を伝導する透明性を生み出すのに不可欠である。
【0063】
間質の下には、感染および損傷に対する防護壁としての役割を果たす、薄いが強い組織のシートである、デメス膜がある。デメス膜は、(ストローマのものとは異なる)コラーゲン繊維から構成されかつその下にある内皮細胞によって作られる。デメス膜は、損傷後に容易に再生される。
【0064】
内皮は、極端に薄い、角膜の最も内側の層である。内皮細胞は、角膜を透明に保つのに不可欠である。通常、流動体は目の内部から中央部の角膜層(間質)にゆっくりと漏出する。内皮の主要な仕事は、この細胞外液を間質から汲み出すことである。この汲み出し作用がなければ、間質は水で腫脹し、かすむようになり、最終的には不透明になる。ひとたび内皮細胞が疾患または外傷によって破壊されれば、それらは永久に失われる。非常に多くの内皮細胞が破壊された場合、角膜浮腫および失明が結果として生じ、角膜移植が唯一の利用可能な治療である。
【0065】
ヒトの角膜プロテオームが特徴付けられている。同定された免疫グロブリン鎖および補体C3を含めた場合、角膜の細胞外タンパク質の約52%(54のうちの28)は、一般的な血漿タンパク質である。この群の角膜タンパク質は、異なるセルピン(α-1-アンチキモトリプシン、α-1-アンチトリプシン、およびアンチスロンビンIII)、α-1-ミクログロブリン、異なるアポリポタンパク質、フィブリノーゲン、ハプトグロビン、ヘモペキシン、アルブミン、アミロイドP-成分、テトラネクチン、トランスフェリン、トランスサイレチン、およびビタミンD結合タンパク質も含む。したがって、これらのタンパク質は、角膜細胞によって合成されるか、または血液に由来しかつ角膜強膜縁部位に位置する毛様体動脈からの大きな流れと共に角膜に入るかのいずれかである。
【0066】
角膜が曲がり過ぎている場合、それらが網膜の前で焦点が合わされるので、遠方の物体はぼやけて見えると考えられる;すなわち、近視または近眼である。近視は、全ての成人のうちの25%超に影響を及ぼしている。遠視、すなわち遠眼は、近視の反対である。遠くの物体が明瞭であり、物体はぼやけた拡大図のように見える(すなわち、像が網膜の向こう側の点に焦点を合わせる)。乱視は、不均一な角膜の湾曲が遠くの物体および近くの物体の両方をぼやけさせかつゆがめる状態である。乱視では、角膜は、スプーンの裏のような形をしており、一方の方向が他方よりも曲がっている。これによって、光線は複数の焦点を有し、かつ網膜の2つの別々の部位に焦点を合わせ、これにより視像がゆがむ。近視を有する成人のうちの3分の2は、乱視も有する。
【0067】
屈折誤差は通常、眼鏡またはコンタクトレンズで補正される。一方屈折矯正手術がますます人気のある選択になりつつある。
【0068】
角膜に影響を及ぼすさらなる疾患には、アレルギー、結膜炎、角膜感染、ドライアイ、フックス変性症、帯状疱疹、虹彩角膜内皮症候群、円錐角膜、格子状変性症、地図状斑点状指紋萎縮症、眼ヘルペス、スティーブンス-ジョンソン症候群、翼状片、角膜炎、角膜潰瘍、角膜擦過傷、雪盲、弧眼、タイゲソン表層性点状角膜症、および乾性角結膜炎が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
本明細書で用いる場合、「角膜移植(corneal transplant)」、「角膜移植(corneal graft)」、または「全層角膜移植(penetrating keratoplasty)」とは、損傷しているかまたは罹患している角膜を角膜組織によって交換する外科手術を指す。角膜移植手術において、外科医は、罹患しているかまたは負傷している角膜の中心部を除去し、それを透明な角膜と交換する。新しい角膜を開口部に置き、目に縫合する(例えば、Rapuano et al. Anterior Segment, The Requisites (Requisites in Ophthalmology), 1999, Mosby社, Philadelphia, PA参照)。角膜移植患者のおよそ20%が、ドナー角膜を拒絶する。本発明のある局面において、合成角膜のレシピエントは、角膜が由来する卵母細胞のドナーである。そのような場合、組織拒絶の可能性は最小限に抑えられる。
【0070】
ある態様において、合成角膜を用いた目の角膜の交換のための方法は、目から角膜を外科的に切除する工程、除去した角膜の部位に合成角膜を挿入する工程、および合成角膜を切除の下にある組織と繋ぎ合わせて合成角膜を目に固定する工程を含む。
【0071】
関連する局面において、本方法は、角膜の外面の一部を分離し、それによって、前面および後面を有する角膜弁と成形された前面を有する角膜床とを形成させる工程、前面および後面を有する合成角膜を角膜床の上に移植する工程、ならびに分離した角膜の部分を交換する工程を含む。
【0072】
別の態様において、本発明の合成角膜を用いて対象の目に有効量の作用物質を送達する方法は、合成角膜を含む細胞の一部を、作用物質をコードする核酸ビヒクルで形質転換する工程、核酸によってコードされる作用物質を発現する合成角膜を含む細胞の集団を同定する工程、および形質転換された合成角膜の細胞と対象の角膜細胞を交換する工程を含み、交換した細胞が対象の目に作用物質を送達する。
【0073】
関連する局面において、交換する工程は、対象の角膜を合成角膜と交換する工程を含む。さらなる関連する局面において、対象は、ネコおよびイヌを含む家畜動物であることができる。さらに、対象はヒトであってもよい。
【0074】
自然環境において、卵巣由来の未成熟卵母細胞(卵)は、減数分裂を通じて減数分裂の第II中期への進行を結果的にもたらす成熟の過程を経る。卵母細胞はその後、第II中期で休止する。第II中期において、細胞のDNA内容物は、各々2つの染色分体によって表される一倍数の染色体からなる。
【0075】
そのような卵母細胞を、例えば、糖のマイクロインジェクションによるものを含むが、これらに限定されない、凍結保存によって永久に維持してもよい。
【0076】
ある態様において、凍結保存剤を卵母細胞の細胞質にマイクロインジェクトする工程、卵母細胞を極低温度まで凍結させ、それを休止状態にする工程、休止状態の卵母細胞を保管する工程、卵母細胞を融解する工程、高いO2圧で卵母細胞を単為生殖的に活性化する工程、活性化された卵母細胞から内部細胞塊(ICM)を単離する工程、およびICMの細胞をヒトフィーダー細胞の層の上で培養する工程であって、培養が低いO2圧で実行される、工程を含む、凍結保存した卵母細胞からヒト幹細胞を産生するための方法を提供する。
【0077】
ある局面において、記載したように得られる卵母細胞を、胚で検査したミネラルオイル(Sigma)で覆われた改変された等張IVF、または任意のその他の好適な培地に移す。望ましい場合、卵母細胞を、マイクロインジェクション用に計画された量と同じ濃度の細胞外糖と共にインキュベートしてもよい。例えば、0.1 M 糖を注入するために、卵母細胞を0.1 M 糖を含むDMEM/F-12で平衡化してもよい。ある局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度(すなわち、低Na+培地)を含む。関連する態様において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも高いK+濃度(すなわち、高K+培地)を含む。さらに関連する態様において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度および標準的なDMEMよりも高いK+濃度の両方(すなわち、低Na+/高K+培地)を含む。ある局面において、凍結保存剤は、HEPESを含むが、これに限定されない、有機緩衝剤を含む。別の局面において、凍結保存剤は、アポトーシス性タンパク質(例えば、カスパーゼ)を阻害する部分を含む。
【0078】
あるいは、任意で卵母細胞を、NaClなど任意のその他の実質的に非透過性の溶質で平衡化し、マイクロインジェクション前にそれらの細胞容量を減少させてもよい。この最初の細胞容量の減少は、マイクロインジェクション前に高張培地中でインキュベートしなかった卵母細胞と比較して、より少ない最終容量のマイクロインジェクトされた卵母細胞を結果としてもたらす可能性がある。このより少ない最終容量は、卵母細胞の腫脹からの任意の潜在的な有害効果を最小限に抑える可能性がある。マイクロインジェクション用の細胞の調製についてのこの一般的手順をその他の細胞型(例えば、活性化された卵母細胞、hES細胞など)に用いてもよい。
【0079】
卵母細胞にその後、凍結保存剤をマイクロインジェクトする。マイクロインジェクション装置および手順は、当技術分野において十分に特徴付けされており、小分子を細胞に注入する際に用いることで知られているマイクロインジェクション装置を本発明と共に用いてもよい。例示的なマイクロインジェクション工程において、卵母細胞を、10 psiの圧力で30ミリ秒間、マイクロインジェクトすることができる。標準的なマイクロインジェクション技術の別の例は、NakayamaおよびYanagimachiによって記載された方法である(Nature Biotech. 16:639-642, 1998)。
【0080】
この過程で有用な凍結保存剤には、凍結防止特性を有しかつ通常は非透過性である任意の化学物質が含まれる。特に、凍結保存剤は、単独かまたはその他の従来の凍結保存剤と組み合わせて混合されているかのいずれかの糖を含むことができる。トレハロース、スクロース、フルクトース、およびラフィノースなど、炭水化物糖を、約1.0 Mより少ないかまたは約1.0 Mと等しい、より好ましくは、約0.4 Mより少ないかまたは約0.4 Mと等しい濃度までマイクロインジェクトしてもよい。ある局面において、濃度は、包括的に0.05〜0.20 Mである。さらに、細胞外糖または従来の凍結保存剤を、保管前に添加してもよい。マイクロインジェクション前に細胞を高張溶液中でインキュベートした場合、実質的に非透過性の溶質を、マイクロインジェクション後に培地中に残したままにしてもよく、またはより低い濃度のこの溶質を含むかもしくはこの溶質を全く含まない培地で、細胞を洗浄することによって培地から除去してもよい。
【0081】
それらが膜を通過するには大き過ぎるという理由で、通常は細胞膜を透過しないある種の糖または多糖は、凍結保存目的のために優れた物理化学的および生物学的特性を有する。これらの糖は通常、それら自体で細胞膜を透過しないが、記載したような方法を用いて、これらの通常は非透過性の糖を細胞内にマイクロインジェクトし、有益な効果を結果的にもたらし得る。
【0082】
本方法における凍結保存剤としてとりわけ有用である、細胞に対する安定化または保存の効果を有する非透過性の糖には、スクロース、トレハロース、フルクトース、デキストラン、およびラフィノースが含まれる。これらの糖の中で、グルコースの非還元二糖であるトレハロースは、低濃度で細胞構造を安定化するのに並外れて有効であることが示されている。細胞外の糖脂質または糖タンパク質の添加も細胞膜を安定化する場合がある。
【0083】
凍結保存剤のマイクロインジェクション後、細胞を保管用に調製する。凍結および/または乾燥のための種々の方法を利用して、保管用の細胞を調製してもよい。特に、3つのアプローチ:真空乾燥または空気乾燥、凍結乾燥、および凍結融解のプロトコルを、本明細書で記載する。乾燥工程は、安定化した生物学的材料を周囲温度で輸送および保管し得るという利点を有する。
【0084】
典型的には、1〜2 M DMSOを用いて充填した卵母細胞を、保管用の液体窒素に入れる前に、非常にゆっくりとした冷却速度(0.3〜0.5℃/分)で中間温度(-60℃〜-80℃)まで冷却する。試料はその後、この温度で保管することができる。
【0085】
懸濁材料はその後、例えば、バイアルを所望の時間、液体窒素(LN2)中に置いておくことよって、凍結保存温度で保管することができる。
【0086】
タンパク質を真空乾燥または空気乾燥するためのおよび凍結乾燥するためのプロトコルは、当技術分野において十分に特徴付けされており(Franks et al.,「Materials Science and the Production of Shelf-Stable Biologicals」, BioPharm, October 1991, p. 39; Shalaev et al.,「Changes in the Physical State of Model Mixtures during Freezing and Drying: Impact on Product Quality」, Cryobiol. 33, 14-26 (1996))、そのようなプロトコルを用いて、記載したような方法により保管用の細胞懸濁を調製してもよい。空気乾燥に加えて、細胞懸濁から水分を除去するのに使用し得るその他の対流乾燥法は、窒素またはその他のガスの対流を含む。
【0087】
本発明の方法と共に有用な例示的な蒸発真空乾燥プロトコルは、各々20 μlを12ウェルプレート上のウェルに置く工程と、2時間周囲温度で真空乾燥する工程とを含んでもよい。勿論、細胞をバイアル中で乾燥させることを含む、その他の乾燥法を用いることができる。この方法で調製された細胞を乾燥状態で保管し、DMEMまたは任意のその他の好適な培地中で希釈することによって再水和してもよい。
【0088】
凍結乾燥を用いて保管用の細胞を調製する本発明の方法は、細胞懸濁を凍結する工程から始まる。先行技術の凍結法を利用してもよいが、凍結融解法について本明細書で記載した簡単なプランジ(plunge)凍結法も、凍結乾燥プロトコルにおける凍結工程に用いてもよい。
【0089】
凍結後、2段階の乾燥過程を利用してもよい。第一段階で、昇華のエネルギーを加えて凍結した水分を蒸発させる。試料中の純粋な結晶氷が昇華した後、第二の乾燥を行なう。凍結乾燥した細胞を、真空乾燥について上で記載したものと同じやり方で保管および再水和することができる。生きた細胞をその後、回復させてもよい。
【0090】
凍結状態または乾燥状態からの細胞の回復後、任意の外部の凍結保存剤を培養培地から任意で除去してもよい。例えば、培地を、より低い濃度の凍結保存剤を含む対応する培地の添加によって希釈してもよい。例えば、回復した細胞を、細胞保管に用いた濃度よりも低い濃度の糖を含む培地中で、およそ5分間インキュベートしてもよい。このインキュベーション用に、培地は、凍結保存剤として用いたのと同じ糖;ガラクトースなど異なる凍結保存剤;または任意のその他の実質的に非透過性の溶質を含んでもよい。培地の浸透圧の減少によって誘導される任意の浸透圧ショックを最小限に抑えるために、この希釈工程を毎回より低い濃度の凍結保存剤で、複数回行なうことによって、細胞外の凍結保存剤の濃度をゆっくりと減少させてもよい。細胞外の凍結保存剤が存在しなくなるまで、または凍結保存剤の濃度もしくは培地の浸透圧が所望のレベルに低下するまで、これらの希釈工程を繰り返してもよい。
【0091】
単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および自己幹細胞を、将来必要な時に細胞が復活するのを可能にするやり方で保管するか、または「銀行に預ける」ことができる。単為生殖的に活性化された卵母細胞および自己幹細胞のアリコートを、任意の時点で取り出し、多くの未分化細胞の培養物へと成長させ、その後特定の細胞型または組織型に分化させることができ、その後疾患を処置するかまたは対象における機能不全の組織を交換するために用いてもよい。細胞はドナーから単為生殖的に得られるので、個人または親戚が、長期間にわたって、細胞を入手することができるように細胞を保管することができる。
【0092】
ある態様において、単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を保管するための細胞銀行を提供する。別の態様において、そのような細胞銀行を管理するための方法を提供する。その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第20030215942号は、幹細胞銀行システムの例を提供している。
【0093】
上で記載した方法などの方法を用いて、単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および自己幹細胞試料の単離およびインビトロ繁殖、ならびにそれらの凍結保存は、移植可能なヒト幹細胞の「銀行」の設立を促す。より少ないアリコートの細胞を保管することが可能であるので、バンキング手順が要するのは比較的小さいスペースとなるだろう。そのため、多くの個人の細胞を、比較的少ない費用で、短期または長期ベースで保管するか、または「銀行に預ける」ことができる。
【0094】
ある態様において、処理および保管の前かまたは後かのいずれかに、試料の一部を検査に利用できるようにする。
【0095】
本発明はまた、試料を探し出す必要がある場合に、それを容易に検索することができるように、単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を記録する方法を提供する。任意の索引および検索システムを用いて、この目的を達成することができる。単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を保管することができるように、任意の好適な種類の保管システムを用いることができる。試料は、個々の試料を保管するよう設計することができるか、または数百、数千、および数百万さえもの異なる細胞試料を保管するよう計画することができる。
【0096】
保管された、単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を、信頼できる正確な検索のために索引を付けることができる。例えば、各々の試料を、英数字コード、バーコード、もしくは任意のその他の方法、またはそれらの組み合わせで印を付けることができる。また、各々の単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料、ならびにバンク内でのそれらの保存場所の特定を可能にし、かつ銀行の外部にある細胞試料の供給源および/または種類の特定を可能にする、情報のアクセス可能かつ読み取り可能なリストがあってもよい。この索引システムを、当技術分野において公知の任意の方法で、例えば、手動でまたは非手動で、運用することができ、例えば、コンピュータおよび従来のソフトウェアを用いることができる。
【0097】
ある態様において、必要な場合には何時でもドナーの使用のために試料が利用可能であるように、索引システムを用いて細胞試料を整理する。その他の態様において、細胞試料は元のドナーに関係のある個人によって利用可能である。一旦索引システムに記録されれば、細胞試料をマッチング目的のために利用可能にでき、例えば、マッチングプログラムは一致するタイプの情報を持つ個人を識別すると考えられ、かつ個人は一致する試料を得る選択権を有すると考えられる。
【0098】
保存バンキングシステムは、複数の個人および複数の細胞試料と関連する複数の記録を保存するためのシステムを含むことができる。各々の記録は、細胞試料または特定の個人と関連するタイプ情報、遺伝子型情報、または表現型情報を含んでもよい。ある態様において、システムには、試料を受けたい個人のタイプと試料のタイプを一致させるクロスマッチ表が含まれると考えられる。
【0099】
ある態様において、データベースシステムは、各々の単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料についての情報を銀行に保管する。ある種の情報を各々の試料と関連させて保管する。例えば、ドナーの素性およびドナーの医療歴など、情報を特定のドナーと関連させてもよい。例えば、各々の試料をHLAタイプ分けしてもよく、HLAタイプ情報を各々の試料と関連させて保管してもよい。保管される情報はまた、利用可能性に関する情報であってもよい。各々の試料と共に保管される情報は探索可能であり、この情報はそれを探し出して、すぐに依頼者に供給することができるように試料を特定する。
【0100】
したがって、本発明の態様は、ドナー、提出の日付、提出された細胞の種類、存在する細胞表面マーカーの種類、ドナーに関する遺伝子情報などの情報、またはその他の関連情報、ならびに保存された試料の維持記録および場所などの保管の詳細、ならびにその他の有用な情報を含むコンピュータに基づくシステムを利用する。
【0101】
「コンピュータに基づくシステム」という用語は、保管された細胞に関する情報を保管し、探索し、かつ検索するのに用いられるハードウェア、ソフトウェア、および任意のデータベースを指す。コンピュータに基づくシステムは好ましくは、上記の保管媒体、およびデータにアクセスしかつデータを操作するためのプロセッサーを含む。本態様のコンピュータに基づくシステムのハードウェアは、中央処理装置(CPU)およびデータベースを含む。当業者は、現在利用可能なコンピュータに基づくシステムのうちのいずれか1つが好適であることを容易に正しく理解することができる。
【0102】
ある態様において、コンピュータシステムは、(好ましくはRAMとして履行される)メインメモリならびにハードドライブおよび取り出し可能媒体の保管装置など、種々の二次保管装置に接続されているバスに接続されたプロセッサーを含む。取り出し可能媒体の保管装置は、例えば、フロッピーディスクドライブ、DVDドライブ、光学ディスクドライブ、コンパクトディスクドライブ、磁気テープドライブなどに相当することができる。制御論理を含む、フロッピーディスク、コンパクトディスク、磁気テープなど、取り出し可能な媒体および/またはその中に記録されたデータを、取り出し可能な保管装置に挿入することができる。コンピュータシステムは、一旦取り出し可能媒体の保管装置に挿入された制御論理および/またはデータを、取り出し可能媒体の保管装置から読み取るための適当なソフトウェアを含む。単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞に関する情報を、メインメモリ、二次保管装置のいずれか、および/または取り出し可能な保管媒体に、周知の方法で保管することができる。(探索ツール、比較ツールなど)これらのデータにアクセスしかつこれらのデータを処理するためのソフトウェアは、実行中はメインメモリ内にある。
【0103】
本明細書で用いる場合、「データベース」は、単為生殖的に活性化された卵母細胞および/または自己幹細胞収集物、ならびにドナーに関する任意の有用な情報を保管することができるメモリを指す。
【0104】
保管された、単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞に関するデータを、種々のデータプロセッサープログラムにおいて種々の形式で、保管および操作することができる。例えば、データを、DB2、SYBASE、またはORACLEなど、当業者に周知の種々のデータベースプログラム中のMicrosoft WORDもしくはWORDPERFECTなど、ワープロファイル、ASCIIファイル、htmlファイル、またはpdfファイルにテキストとして保管することができる。
【0105】
「探索プログラム」は、データベース内の凍結保存試料に関する詳細を探索するか、またはデータベース内の凍結保存試料に関する情報を比較するために、コンピュータに基づくシステムに実装されている、1つまたは複数のプログラムを指す。「検索プログラム」は、データベース中の関心対象のパラメーターを同定するために、コンピュータに基づくシステムに実装することができる、1つまたは複数のプログラムを指す。例えば、検索プログラムを用いて、特定のプロファイルに適合する試料、特異的なマーカーもしくはDNA配列を有する試料を見つけるか、または特定の個人に対応する試料の場所を見つけることができる。
【0106】
1つの細胞銀行に保管することができる細胞試料の数に関する上限はない。ある態様において、異なる個人由来の何百もの産物が、1つの銀行または保管施設に保存されると考えられる。別の態様において、何百万までの産物が、1つの保管施設に保存されてもよい。単為生殖的に活性化された卵母細胞および/または自己幹細胞試料を保管するために、1つの保管施設が用いられてもよく、または複数の保管施設が用いられてもよい。
【0107】
本発明の幾つかの態様において、保管施設は、例えば、自動化されたロボットによる検索メカニズムおよび細胞試料操作メカニズムなど、保管された細胞試料を整理しかつ保管された細胞試料に索引を付ける任意の方法のための手段を有してもよい。施設には、細胞試料を処理するためのマイクロマニピュレーション装置が含まれてもよい。公知の従来の技術を細胞試料の効率的な保管および検索に用いることができる。例示的な技術として、Machine Vision、Robotics、Automated Guided Vehicle System、Automated Storage and Retrieval Systems、Computer Integrated Manufacturing、Computer Aided Process Planning、Statistical Process Controlなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
試料を必要とする個人と関連するタイプ情報またはその他の情報を、例えば、データベースシステム、検索システムなどのような、適当な一致する産物を特定することができるシステムに記録してもよい。一旦システムに記録されれば、個人のタイプとドナー細胞試料を一致させることができる。好ましい態様において、ドナー試料は、試料を必要とする個人と同じ個人由来である。しかしながら、同様ではあるが同一ではないドナー/レシピエントの一致も用いることができる。一致する試料は、一致するタイプの識別子を保有する個人に利用可能である。本発明のある態様において、個人の識別情報を細胞試料と関連させて保管する。幾つかの態様において、一致させる過程は、試料を採取する時の前後に生じるか、または処理中、保管中、もしくは必要性が生じた時の任意の時点で生じる可能性がある。したがって、本発明の幾つかの態様において、一致させる過程は、個人が細胞試料を実際に必要とする前に生じる。
【0109】
単為生殖的に活性化された卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞が個人によって必要とされる場合、それを研究、移植、またはその他の目的のために、望ましい場合、数分以内に、検索しかつ利用できるようにしてもよい。また、試料をさらに処理し、移植またはその他の必要性のために調製してもよい。
【0110】
通常、卵母細胞をこの段階で排卵させかつ精子によって受精させる。精子は、活性化と呼ばれる過程で減数分裂の完了を開始させる。活性化の間、染色分体の対が分離し、第二極体が放出され、卵母細胞は、各々1つの染色分体を持つ一倍数の染色体を保持する。精子は、染色体のもう一方の一倍体の相補物を与え、1つの染色分体を持つ完全な二倍体細胞を作る。染色体はその後、最初の細胞周期の間のDNA合成を通じて進行する。これらの細胞はその後、胚へと発生する。
【0111】
対称的に、本明細書で記載した胚は、細胞、典型的には全て雄または雌起源のDNAを含む哺乳動物の卵母細胞または卵割球の、人為的活性化によって発生させられる。本発明の背景で考察したように、多くの方法が、未受精卵母細胞の人為的活性化に関する文献で報告されている。そのような方法には、物理的方法、例えば、穿刺などの機械的方法、培養での卵母細胞の操作、冷却および加熱などの熱による方法、繰り返しの電気パルス、トリプシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼなどの、酵素処理、浸透圧処理、二価陽イオンならびにイオノマイシンおよびA23187などの、イオノフォアによるようなイオン処理、エーテル、エタノール、テトラカイン、リグノカイン、プロカイン、フェノチアジンなどの麻酔剤の使用、チオリダジン、トリフルオペラジン、フルフェナジン、クロルプロマジンなどの鎮静剤の使用、シクロヘキシミド、ピューロマイシンなどのタンパク質合成阻害剤の使用、リン酸化阻害剤、例えば、スタウロスポリン、2-アミノプリン、シンゴシン(shingosine)、およびDMAPなどのタンパク質キナーゼ阻害剤の使用、それらの組み合わせだけでなく、その他の方法も含まれる。
【0112】
そのような活性化法は当技術分野において周知でありかつ参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,945,577号で考察されている。
【0113】
ある態様において、第II中期のヒト細胞、典型的には全て雄または雌起源のDNAを含む卵母細胞または卵割球を、卵母細胞の人為的活性化をもたらすために人為的に活性化する。
【0114】
関連する局面において、二倍体である活性化された細胞、例えば、卵母細胞を、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む胚へと発生させる。これは、胚盤胞発生を促進する公知の方法および培養培地を用いて達成することができる。
【0115】
雌性発生胚を培養して識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を産生した後、次に内部細胞塊の細胞を用いて所望の多能性細胞株を産生する。これは、分化を阻害する培地の上に、内部細胞塊由来の細胞または内部細胞塊全体を移すことによって遂行することができる。これは、分化を阻害するフィーダー層、例えば、出生後のヒト組織に由来する繊維芽細胞など、繊維芽細胞もしくは上皮細胞、またはLIFを産生するその他の細胞の上に内部細胞塊を移すことによって達成することができる。その他の因子/成分を利用して、馴化培地(Amit et al., Developmental Biol (2000) 227:271-278)、bFGFおよびTGF-β1(LIFありまたはなし)(Amit et al., Biol Reprod (2004) 70:837-845)、gpl30/STAT3経路を活性化する因子(Hoffman and Carpenter, Nature Biotech (2005) 23(6):699-708)、PI3K/Akt、PKB経路を活性化する因子(Kim et al., FEBS Lett (2005) 579:534-540)、骨形成タンパク質(BMP)スーパーファミリーのメンバーである因子(Hoffman and Carpenter (2005), 前記)、ならびにカノニカル(canonical)/β-カテニンWntシグナル伝達経路を活性化する因子(例えば、GSK-3特異的阻害剤;Sato et al., Nat Med (2004) 10:55-63)の添加を含むが、これらに限定されない、細胞を未分化状態に維持するための適当な培養条件を提供してもよい。関連する局面において、そのような因子は、フィーダー細胞および/またはECM基材を含む培養条件を含んでもよい(Hoffman and Carpenter (2005), 前記)。
【0116】
ある局面において、ヒトの出生後の包皮もしくは真皮繊維芽細胞もしくは白血病阻害因子を産生するその他の細胞の上で、または白血病阻害因子の存在下で、内部細胞塊を培養する。関連する局面において、フィーダー細胞をICMと共に播種する前に不活性化する。例えば、抗生物質を用いてフィーダー細胞の有糸分裂を不活性化することができる。関連する局面において、抗生物質は、マイトマイシンCであることができるが、これに限定されない。
【0117】
細胞を長期間の間、理論的には永久に、未分化で、多能性の状態に維持する条件下で、培養は行われると考えられる。ある態様において、卵母細胞をカルシウムイオノフォアによって高いO2圧下で単為生殖的に活性化し、それに続いて卵母細胞をセリン-スレオニンキナーゼ阻害剤と低いO2圧下で接触させる。結果として生じた単為生殖的に活性化された卵母細胞由来のICMを高いO2圧下で培養し、その場合、細胞を例えば、20% O2を含むガス混合物を用いて維持する。ある局面において、培養可能とは、培養することができるか、または培養するのに適していることを指す。関連する局面において、フィーダー細胞上で行う胚盤胞培養の4日後に、ICM単離を機械的に実施する。そのような培養によって、例えば、免疫手術の場合のように、動物供給源に由来する材料を用いる必要性が除かれる。
【0118】
関連する局面において、ICM用の培養培地に、ヒト臍帯血清を含むがこれに限定されない非動物血清を補充し、その場合、血清は規定された培地(例えば、MediCult A/S, Denmark;Vitrolife, Sweden;またはZander IVF社, Vero Beach, FLから入手可能な、IVF)中に存在する。別の局面において、提供されるような培地および過程は、動物製品を含まない。関連する局面において、動物製品とは、非ヒト供給源由来である、血清、インターフェロン、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン、および成長因子を含む製品である。
【0119】
本発明によって産生される細胞の多能性状態を様々な方法によって確認することができる。例えば、細胞を特徴的なES細胞マーカーの存在または不在について検査することができる。ヒトES細胞の場合、そのようなマーカーの例は前記で特定されており、SSEA-4、SSEA-3、TRA-1-60、およびTRA-1-81を含み、当技術分野において公知である。
【0120】
また、細胞を好適な動物、例えば、SCIDマウスに注射し、分化した細胞および組織の産生を観察することによって、多能性を確認することができる。多能性を確認するまた別の方法は、本多能性細胞を用いてキメラ動物を作製し、導入された細胞の異なる細胞型への寄与を観察することである。キメラ動物を産生するための方法は当技術分野において周知であり、かつ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,642,433号に記載されている。
【0121】
多能性を確認するさらに別の方法は、分化に有利に働く条件(例えば、繊維芽細胞フィーダー層の除去)下で培養した場合に胚様体およびその他の分化した細胞型へのES細胞分化を観察することである。この方法は利用されており、本多能性細胞が組織培養で胚様体および異なる分化した細胞型を生じることが確認されている。
【0122】
完全に雌起源のDNAに由来する、結果として得られる多能性細胞および細胞株、好ましくはヒト多能生細胞および細胞株は、数多くの治療的および診断的適用を有する。そのような多能性細胞を、数多くの疾患状態の処置における細胞移植治療または遺伝子治療(遺伝子を改変する場合)に用いてもよい。
【0123】
この点に関して、マウス胚性幹(ES)細胞は、ほとんど全ての細胞型、例えば造血幹細胞に分化することができることが知られている。したがって、本発明によって産生されるヒト多能性(ES)細胞は、同様の分化能を保有するはずである。本発明による多能生細胞を、所望の細胞型を得るために公知の方法に従って誘導し、分化させる。例えば、本発明によって産生されるヒトES細胞を、分化培地中で細胞分化をもたらす条件下でそのような細胞を培養することによって誘導し、造血幹細胞、筋細胞、心筋細胞、肝細胞、島細胞、網膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞、尿管細胞などに分化させてもよい。ES細胞の分化を結果的にもたらす培地および方法は、好適な培養条件と同様に当技術分野において公知である。
【0124】
例えば、Palacios et al, Proc. Natl Acad. Sci., USA, 92:7530-7537 (1995)は、最初にそのような細胞の凝集体をレチノイン酸を欠く懸濁培養培地中で培養し、その後レチノイン酸を含む同じ培地中で培養し、その後細胞凝集体を細胞接着を提供する基材へ移動させることを含む誘導手順に幹細胞を供することによる、胚細胞株からの造血幹細胞の産生を教示している。
【0125】
さらに、Pedersen, J. Reprod. Fertil. Dev., 6:543-552 (1994)は、とりわけ、造血細胞、筋肉、心筋、神経細胞を含む様々な分化した細胞型を産生するための胚性幹細胞のインビトロ分化のための方法を開示する数多くの論文を参照している概説論文である。
【0126】
さらに、Bain et al, Dev. Biol., 168:342-357 (1995)は、ニューロンの特性を保有する神経細胞を産生するための胚性幹細胞のインビトロ分化を教示している。これらの参考文献は、胚細胞または幹細胞から分化した細胞を得るための報告された方法を例示するものである。これらの参考文献および特に胚性幹細胞を分化させるための方法に関するその中の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。したがって、公知の方法および培養培地を用いて、当業者は、遺伝子改変されたES細胞またはトランスジェニックES細胞を含む、本ES細胞を培養し、所望の分化した細胞型、例えば、神経細胞、筋細胞、造血細胞などを得てもよい。本明細書で記載した方法によって産生される多能性細胞を用いて、任意の所望の分化した細胞型を得てもよい。分化したヒト細胞の治療的使用は他に比べるものがない。例えば、ヒト造血幹細胞を、骨髄移植を必要とする医療的処置で用いてもよい。そのような手順を用いて、多くの疾患、例えば、卵巣癌および白血病などの末期癌だけでなく、AIDSなど免疫系を危険にさらす疾患も処置する。例えば、男性または女性の癌またはAIDS患者に由来する男性または女性のDNAを除核した卵母細胞と合併し、上記のような多能性細胞を得て、そのような細胞を分化に有利に働く条件下で、造血幹細胞が得られるまで培養することによって、造血幹細胞を得ることができる。そのような造血細胞を癌およびAIDSを含む疾患の処置で用いてもよい。
【0127】
あるいは、本多能性細胞を用いて、神経細胞株を産生する分化条件下でそのような細胞を培養することによって、神経学的障害を持つ患者を処置してもよい。そのようなヒト神経細胞の移植によって処置可能な具体的な疾患には、一例として、特にパーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、および脳性麻痺が含まれる。パーキンソン病の特別な症例では、移植された胎児脳神経細胞が周囲の細胞と適切に接続し、ドーパミンを産生することが証明されている。これは、パーキンソン病症状の長期の逆転を結果的にもたらすことができる。
【0128】
本発明の1つの目的は、卵母細胞ドナーのための自己移植に好適な分化した細胞を産生するのに用いることができる多能性のヒト細胞を、本質的に無限に供給することである。不妊治療後に残る、またはNTを用いて作り出された、胚盤胞に由来するヒト胚性幹細胞およびそれらの分化した子孫は、同種異系細胞移植治療で用いる場合、レシピエントの免疫系によって拒絶される可能性が高いと考えられる。単為生殖的に得られる幹細胞は、現在の移植法と関連する重大な問題、すなわち、卵母細胞ドナーに対する宿主対移植片または移植片対宿主拒絶が原因で起こり得る移植された組織の拒絶を緩和し得る分化した細胞を、結果的に生じるはずである。従来拒絶は、シクロスポリンなどの抗拒絶薬物の投与によって防がれているかまたは低減されている。しかしながら、そのような薬物は、重大な有害副作用、例えば、免疫抑制、発癌特性を有するだけでなく、非常に高額でもある。開示したような方法によって産生される細胞は、卵母細胞ドナーに対する抗拒絶薬物の必要性を除くか、または少なくとも大いに減らすはずである。
【0129】
本発明の別の目的は、卵母細胞ドナーの家族のメンバーへの同種異系移植に好適な分化した細胞を産生するのに用いることができる多能性のヒト細胞を、本質的に無限に供給することである。細胞は、卵母細胞ドナーの直接の家族メンバーの細胞と免疫学的かつ遺伝的に類似しており、したがってドナーの家族メンバーによって拒絶される可能性はあまり高くない。
【0130】
本方法の別の目的は、哺乳動物卵母細胞の単為生殖による活性化が、SCNTと比較した場合に比較的単純な手順であり、結果的により少ない細胞操作で幹細胞の作製をもたらすことである。
【0131】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖による活性化は、卵母細胞または胚盤胞の操作を必要とする方法よりも、幹細胞の作製が効率的であることが示されている。
【0132】
SCNTの1つの短所は、欠損したミトコンドリア呼吸鎖活性を持つ対象が、SCNTの胎児および子に一般に見られる異常との著しい類似性がある表現型を提示することである(Hiendleder et al, Repro Fertil Dev (2005) 17(1-2):69-83)。細胞は通常、たった1種類のミトコンドリアDNA(mtDNA)を含み、これは同質性と呼ばれるが、多くの場合異質性が、通常突然変異体および野生型mtDNA分子の組み合わせとして存在するか、または野生型変異体の組み合わせを形成する(Spikings et al., Hum Repro Update (2006) 12(4):401-415)。異質性はミトコンドリア病を結果としてもたらす可能性があるので、母親からのみの伝搬を保証する様々なメカニズムが存在する。しかしながら、同質性維持のための正常なメカニズムを迂回するプロトコル(例えば、細胞質移動(CT)およびSCNT)の使用が増加すると共に、混乱したミトコンドリア機能が、これらの供給源に由来する幹細胞に本来備わっている可能性がある。
【0133】
ある局面において、単為生殖体が片親性であるので、異質性の可能性は最小限に抑えられている。
【0134】
細胞治療によって処置可能なその他の疾患および状態には、一例として、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、糖尿病、急性疾患(ウイルス性肝炎、薬物過剰摂取(アセトアミノフェン)など)、慢性疾患((通常肝硬変をもたらす)慢性肝炎など)、遺伝性肝障害(B型血友病、第IX因子欠乏、ビリルビン代謝欠陥、尿素サイクル欠陥、リソソーム貯蔵疾患、a1-アンチトリプシン欠損など)を含む肝疾患、心疾患、軟骨交換、火傷、足部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎疾患、網膜疾患、角膜疾患、尿管疾患、ならびに加齢と関連する疾患および状態が含まれる。
【0135】
この方法論を用いて、欠陥のある遺伝子、例えば、欠陥のある免疫系遺伝子、嚢胞性線維症遺伝子を交換するか、または成長因子、リンホカイン、サイトカイン、酵素などの治療的に有益なタンパク質の発現を結果的にもたらす遺伝子を導入することができる。
【0136】
例えば、脳由来成長因子をコードする遺伝子を、本発明によって産生されるヒト多能性細胞に導入し、細胞を神経細胞に分化させ、細胞をパーキンソンの患者に移植して、そのような疾患過程での神経細胞の喪失を遅らせてもよい。
【0137】
また、本多能性ヒトES細胞を、特に初期発生の調節に関与する遺伝子の研究のための分化のインビトロモデルとして用いてもよい。また、本ES細胞を用いて産生される分化した細胞の組織および器官を薬物研究で用いてもよい。
【0138】
さらに、本ES細胞またはそれに由来する分化した細胞を、その他のES細胞および細胞コロニーの産生用の核ドナーとして用いてもよい。
【0139】
またさらに、本開示によって得られる多能性細胞を用いて、胚発生に関与するタンパク質および遺伝子を同定してもよい。差次的発現によって、すなわち、本発明によって提供される多能性細胞で発現されるmRNAを、これらの細胞が異なる細胞型、例えば、神経細胞、心筋細胞、その他の筋細胞、皮膚細胞などに分化する時に発現されるmRNAと比較することによって、これを達成することができる。したがって、どの遺伝子が特定の細胞型の分化に関与するかを決定することが可能である場合もある。
【0140】
さらに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーをもたらす遺伝子欠陥など、特定の遺伝子欠陥を有するES細胞およびまたはそれらの分化した子孫をモデルとして用いて、遺伝子欠陥と関連する特定の疾患を研究してもよい。
【0141】
また、所望の分化した細胞型の産生および増殖を誘導する条件を同定するために、記載された方法によって産生される多能性細胞株を、異なる成長因子のカクテルに、異なる濃度でかつ異なる細胞マトリックス上で培養するなどの異なる細胞培養条件下かまたは異なるガスの分圧下で曝露させることが、本開示の別の目的である。
【0142】
ある態様において、インビトロで、分化および/または増殖の制御のための機械的支持体の不在(すなわち、3-D足場の不在)下で産生される、合成角膜を開示する。ある局面において、インビトロで最終分化した角膜を含むが、これに限定されない、合成角膜を開示する。
【0143】
別の態様において、単為生殖的に活性化されたヒト卵母細胞から角膜を産生し、その場合、単為生殖的に活性化された卵母細胞から誘導体化された幹細胞を人為的に操作して角膜を産生する。
【0144】
ある局面において、単為生殖的に活性化された卵母細胞由来の単離された幹細胞を、血清代替物(M/SR)と、プラスモネートと、DNA阻害剤で処理した繊維芽細胞フィーダー層でgp130/STAT経路および/またはMAPキナーゼ経路を活性化する少なくとも1つのマイトジェンとを含む培地中で培養する工程、マイトジェン処理された細胞を、プラスモネートを含むM/SR(M/SRP)中で、マイトジェンを添加せずに、コンフルエンスの近くまで培養する工程であって、コンフルエント近くの細胞が色素沈着およびドーム形の外観を発生させるまでM/SRPの1/2容量がM/SRと周期的に交換される工程、ならびにM/SR中の色素沈着した/ドーム形の細胞をゼラチンコーティングした基材に移す工程であって、合成角膜である浮遊細胞塊が発生するまでM/SRPの1/2容量がM/SRと周期的に交換される工程を含めて、合成角膜を産生する。関連する局面において、M/SRには、KO高グルコースDMEM、ストレプトマイシン、非必須アミノ酸、Glutamax-I、β-メルカプトエタノール、および血清代替物が含まれる。別の関連する局面において、M/SRPは、M/SRおよびプラスモネートの成分を含む。
【0145】
以下の実施例は、本発明を例証することが意図されるが、本発明を限定することは意図されない。
【0146】
実施例1
ヒト単為発生胚性幹細胞の産生
材料および方法
ドナーは、金銭的な支払いを受けずに卵および(DNA解析用の)血液を自発的に供与した。ドナーは、包括的なインフォームドコンセント文書に署名し、供与された材料は全て研究用に用いられかつ生殖目的には用いられないことを通知された。卵巣刺激前に、卵母細胞ドナーは、ヒトの細胞、組織、ならびに細胞および組織に基づく産物に関するFDA適格性決定ガイドライン(食品医薬品局。(草案)2004年5月付けのGuidance for Industry: Eligibility Determination for Donors of Human Cells, Tissues, and Cellular and Tissue Based Products(HCT/P))およびロシア保健省の指令N 67(02.26.03)に従って適切性についての健康診断を受けた。それには、X線、血液、および尿の解析、ならびに肝機能検査が含まれた。ドナーは、梅毒、HIV、HBV、およびHCVについてもスクリーニングされた。
【0147】
本ドナーで過剰排卵をもたらすための標準的なホルモン刺激を用いて卵母細胞を得た。各々のドナー卵は、彼女らの月経周期の3日から13日までFSHによる卵巣刺激を受けた。合計1500 IUのFSHを与えた。ドナーの月経周期の10日から14日まで、ゴナドリベリンアンタゴニストであるオルガルトラン(Orgalutran)(Organon, Holland)を0.25 mg/日で注射した。ドナーの月経周期の12日から14日まで、75 IU FSH + 75 IU LH(Menopur, Ferring GmbH, Germany)の毎日の注射を行なった。超音波検査により直径18〜20 mmの濾胞が示された場合、1回の 8000 IU用量のhGC(Choragon, Ferring GmbH, Germany)をドナーの月経周期の14日に投与した。およそ16日目のhCG注射の35時間後に経腟穿刺を行なった。超音波ガイド下での針吸引によって麻酔されたドナーの胞状濾胞から濾胞液を滅菌チューブに採集した。
【0148】
卵丘卵母細胞複合体(COC)を濾胞液から採取し、Flushing Medium(MediCult)中で洗浄し、その後Universal IVF培地(MediCult、表1参照)中で液体パラフィン(MediCult)を重層して2時間、20% O2、5% CO2、37℃の湿気のある大気中でインキュベートした。
【0149】
(表1)IVF培地
組成
塩化カルシウム
EDTA
グルコース
ヒト血清アルブミン
硫酸マグネシウム
ペニシリンG
塩化カリウム
リン酸二水素カリウム
重炭酸ナトリウム
塩化ナトリウム
乳酸ナトリウム
ピルビン酸ナトリウム

【0150】
活性化前に、卵丘-卵母細胞複合体(COC)をSynVitro Hyadase(MediCult)で処理し、卵丘細胞を除去し、それに続いてUniversal IVF培地中でパラフィンを重層して30分間インキュベーションを行なった。
【0151】
この点以降、卵母細胞および胚の培養を、イオノマイシン処理を例外として、O2を減らしたガス混合物(90% N2 + 5% O2 + 5% CO2)を用いて、湿気のある大気中で37℃で行なった。卵母細胞を5 μM イオノマイシン中で5分間、CO2インキュベーター中で37℃で20% O2、5% CO2のガス環境でのインキュベーションによって活性化し、それに続いて1 mM 6-ジメチルアミノプリン(DMAP)で4時間IVF培地中で、パラフィンを重層して、90% N2、5% O2、5% CO2のガス環境で37℃で培養を行なった。活性化および培養を4ウェルプレート(Nunclon, A/S, Denmark)中で500 μlの培地中で液体パラフィンオイル(MediCult, A/S, Denmark)を重層して実行した。
【0152】
活性化された卵母細胞をIVF培地中で5% O2、5% CO2、および90% N2を含むガス環境で培養し、活性化された卵母細胞から発生した胚を同じガス混合物中で培養した。
【0153】
Blastocyst Scoring Modificationの1AAまたは2AA(Shady Grove Fertility Center, Rockville, MD, and Georgia Reproductive Specialists, Atlanta, GA)の内部細胞塊(ICM)を含む完全に拡大した胚盤胞が観察されるまで、活性化された卵母細胞を上記の条件下でIVF中でインキュベートした。
【0154】
透明体を0.5% プロナーゼ(Sigma, St. Louis)処理によって除去した。胚盤胞をヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清とインキュベートし、その後モルモット補体に曝露させる免疫手術によって胚盤胞由来のICMを単離した。処理された胚盤胞を穏やかにピペッティングすることによって栄養外胚葉細胞をICMから除去した。
【0155】
胚盤胞全体からphESCを得るために、phESCの培養用に考案された培地(すなわち、4 ng/ml hrbFGF、5 ng/ml hrLIF、および10% ヒト臍帯血血清を補充したVitroHES(Vitrolife))中のフィーダー層の上に胚盤胞を置いた。胚盤胞が接着しかつ栄養膜細胞が広がった時、ICMが目に見えるようになった。3〜4日のさらなる培養を経て、極細に引き延ばしたガラスピペットを用いて栄養外胚葉生成物からICMを機械的に薄切りすることによってICMを単離した。さらに、有糸分裂が不活性化された出生後のヒト真皮繊維芽細胞のフィーダー細胞層の上で、10% ヒト臍帯血血清、5 ng/ml ヒト組換えLIF(Chemicon Int'l社, Temecula, CA)、4 ng/ml 組換えヒトFGF(Chemicon Int'l社, Temecula, CA)、およびペニシリン-ストレプトマイシン(100 U/100 μg)を補充したVITROHES(商標)培地(例えば、DMEM/高グルコース培地、VitroLife, Sweden)中で、96-ウェルプレート中、5% CO2および20% O2で37℃で、IMC細胞を培養した。このガス混合物を用いて、幹細胞を培養した。非動物材料を用いてヒト繊維芽細胞培養を作製した。繊維芽細胞の不活性化を、10 μg/ml マイトマイシンC(Sigma, St. Louis, MO)を用いて3時間実行した。
【0156】
別個の方法において、胚盤胞をヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清とインキュベートし、その後ウサギ補体に曝露させることによって免疫手術を行なった。処理された胚盤胞を穏やかなピペッティングを通じて栄養外胚葉細胞をICMから除去した。単離されたICMのさらなる培養を、ヒト臍帯血血清を含む培地を用いて得られた遺伝的に無関係な個人から(親の合意を得て)取得した新生児ヒト皮膚繊維芽細胞(HSF)のフィーダー層上で行なった。HSFフィーダー層の有糸分裂を、マイトマイシンCを用いて不活性化した。
【0157】
HSFの培養用の培地は、90% DMEM(高グルコース、L-グルタミン(Invitrogen)を含む)、10% ヒト臍帯血血清、およびペニシリン-ストレプトマイシン((100 U/ml)Invitrogen)からなった。
【0158】
ICMおよびphESCの培養のために、4 ng/ml hrbFGF、5 ng/ml hrLIF、および10% ヒト臍帯血血清を補充したVitroHES(Vitrolife)を用いた。ICMを機械的に新鮮なフィーダー層の上にプレーティングし、3〜4日間培養した。最初のコロニーを機械的に切り、5日間の培養の後に再プレーティングした。その後の継代は全て、培養して5〜6日後に行なった。初期の継代については、コロニーを機械的に塊に分け、再プレーティングした。phESCのさらなる継代は、コラゲナーゼIV処理および機械的解離で行なった。phESCの繁殖を、37℃、5% CO2で、湿気のある大気中で行なった。
【0159】
卵母細胞活性化
最初の4人のドナーから、活性化された卵母細胞をIVF培地中で、5% O2、5% CO2、および90% N2を含むガス環境で培養し、5日間にわたって続けた。表2は、活性化された卵母細胞の成熟の進行を示している。各々の卵母細胞を4ウェルプレート中に分離した。
【0160】
(表2)培養された活性化卵母細胞*

*細胞は、初日はM1培地(MediCult)中で、2〜5日目はM2培地(Medicult)中で培養した。培地は毎日変えた。M1およびM2は、ヒト血清アルブミン、グルコース、および派生代謝物、生理学的塩、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、ヌクレオチド、重炭酸ナトリウム、ストレプトマイシン(40 mg/l)、ペニシリン(40,000 IU/l)、およびフェノールレッドを含む。
【0161】
内部細胞塊をN4から単離し、上で概説したようにヒト繊維芽細胞フィーダー細胞に移した。N1およびN2は6日目に退化した。さらに、6日目に、N3はICM 2ABの完全に拡大した胚盤胞を産生した。N3をその後、6日目にヒト繊維芽細胞フィーダー細胞に移した。N4由来のICMは変化しなかった。N3を用いて幹細胞を単離した。
【0162】
ICM細胞をNitroHES培地中で、5% CO2および95% N2を含むガス環境で培養し、45日間にわたって続けた。表2aは、N3 ICM細胞培養の進行を示している。
【0163】
(表2a)N3-ICM培養の進行*

*細胞はM2培地(MediaCult)で成長させた。
**これらの継代はプロナーゼ消化で行なった。
【0164】
幹細胞単離
5人のドナー由来の卵母細胞について、MediCult培地の使用後に、減らした酸素下での培養を行ない、培養の5または6日目の23個の胚盤胞の産生を可能にした。胚盤胞のうちの11個は、目に見えるICMを有した(表3)。
【0165】
(表3)単為生殖体および単為生殖による胚性幹細胞の作製

1-2個の卵母細胞は活性化されなかった;2-1個の卵母細胞は活性化後に退化した;3-1個の卵母細胞は活性化されなかった;4-2個の卵母細胞は第I中期で、廃棄された。
【0166】
これらの結果は、単為生殖的に活性化された卵母細胞由来の胚盤胞の形成におけるおよそ57.5%の成功率を示している。
【0167】
免疫組織化学染色
免疫染色のために、フィーダー層上のhES細胞コロニーおよびphESC細胞をマイクロカバーガラス上に播種し、PBSで2回洗浄し、100% メタノールで5分間、-20℃で固定した。細胞をPBS + 0.05% Tween-20で2回洗浄し、PBS + 0.1% Triton X-100で10分間、室温で透過処理した。細胞洗浄後、30分間、室温(RT)でのブロッキング溶液(PBS + 0.05% Tween-20 + 4パーセントヤギ血清と3パーセントヒト臍帯血血清)とのインキュベーションによって非特異的結合をブロッキングした。モノクローナル抗体をブロッキング溶液中で希釈し、1時間、RTで用いた:ChemiconからのSSEA-1(MAB4301)(1:30)、SSEA-3(MAB4303)(1 :10)、SSEA-4(MAB4304)(1:50)、OCT-4(MAB4305)(1:30)、TRA-1-60(MAB4360)(1:50)、およびTRA-1-81(MAB4381)(1:50)。細胞を洗浄した後、二次抗体Alexa Fluor 546(オレンジ色の蛍光)および488(緑色蛍光)(Molecular Probes, Invitrogen)を 1:1000でPBS + 0.05% Tween-20中で希釈し、1時間、RTで適用した。細胞を洗浄し、PBS + 0.05% Tween-20中に0.1 μg/mlのDAPI(Sigma)で10分間RTで核を染色した。細胞を洗浄し、Mowiol(Calbiochem)を用いてスライド上に載せた。蛍光画像を蛍光顕微鏡で可視化した。
【0168】
3週齢の胚様体または収縮胚様体における中胚葉マーカーの検出用に、筋肉特異的マーカーとしてのモノクローナルマウス抗デスミン抗体、抗ヒトアルファアクチニン抗体(Chemicon)および 内皮マーカーとしての抗ヒトCD31/PECAM-1抗体(R&D Systems)、抗ヒトVEカドヘリン(CD144)抗体(R&D Systems)を用いた。
【0169】
胚様体における内皮マーカーの検出用に、モノクローナルマウス抗ヒトアルファ-フェトタンパク質抗体(R&D Systems)を用いた。
【0170】
アルカリホスフォターゼおよびテロメラーゼ活性
アルカリホスフォターゼおよびテロメラーゼ活性を、製造業者の仕様に従ってAPキットおよびTRAPEZEキット(Chemicon)を用いて行なった。
【0171】
核型分析
核型を解析するために、hES細胞を10 μg/ml デメコルシン(Sigma)で2時間処理し、0.05% トリプシン/EDTA(Invitrogen)を用いて採取し、700 x rpmで3分間遠心分離した。ペレットを5 mlの0.56% KClに再懸濁し、15分間RTでインキュベートした。繰り返しの遠心分離の後、上清を除去し、細胞を再懸濁し、5 mlの氷冷したメタノール/酢酸(3:1)の混合物で5分間、+4℃で固定した。細胞の固定を2回繰り返し、その後に細胞懸濁を顕微鏡スライド上に置き、プレラパートをGiemsa Modified Stain(Sigma)で染色した。このやり方で調製した細胞からの中期を標準的なGバンド法で解析した。5/1000の数量の中期スプレッド(metaphase spread)が明らかになり、63の中期を解析した。
【0172】
胚様体形成
hESおよびphESC細胞コロニーを機械的に塊に分け、85% Knockout DMEM、15% ヒト臍帯血血清、1 x MEM NEAA、1 mM Glutamax、0.055 mM β-メルカプトエタノール、ペニシリン-ストレプトマイシン(50 U/50 mg)、4 ng/ml hrbFGF(血清を除き、全てInvitrogenから)を含む培地中の1.5% アガロース(Sigma)でプレコーティングした24ウェルプレートのウェル中に置いた。ヒトEBを14日間懸濁培養で培養し、培養ディッシュの上に置き、生成物を生じさせるかまたは懸濁でさらに1週間培養した。
【0173】
分化培地:DMEM/F12、B27、2 mM Glutamax、ペニシリン-ストレプトマイシン(100 U/100 μg)、および20 ng/ml hrbFGF(全てInvitrogenから)中で1週間にわたって培養ディッシュ表面に付着した2週齢の胚様体の培養によって神経分化を誘導した。ある胚様体は、神経の形態を持つ分化した細胞を生じ、また別の胚様体は、ばらばらにされてさらに培養され、ニューロスフィアを産生した。
【0174】
律動的に拍動する胚様体は、胚様体生成に用いたのと同じ培地中で付着性表面にプレーティングした後の5日間の培養の後に出現した。
【0175】
角膜形成
hESをマイトジェン、LIF、およびbFGFを含む成長培地中で(>40% コンフルエントのマイトマイシンC処理したヒト繊維芽細胞フィーダー層の上で)成長させた。コンフルエント近くで(すなわち、ESが明瞭なコロニー境界を失った時)、培養培地をマイトジェンの添加のない成長培地と交換する。その後、2〜3日毎に最低3週間、培地の50%をEB培地と交換した。この時、色素沈着した細胞は、培養において小さいボールまたは大きいドームおよび柱の中で発生する。
【0176】
その後、培地を培養から除去し、細胞をEB培地で激しく洗浄して所望の細胞を取り除いた。その後、EB培地洗浄液および採取した細胞を、0.1% ゼラチンをコーティングした別々の培養槽に移した。2日後、移した培養中の培地の50%をEB培地と交換した。次いで、油滴に似ている小さい浮遊細胞塊が目に見えるようになるまで3〜4日毎に最低3週間、移した培養中の培地の50%をEB培地と交換した。この時点で、培地を交換する時に、浮遊細胞塊またはレンズを乱さないように注意を払った。培地の50%を除去し、成長中の角膜が培地に完全に浸かるのを確実にするのに十分な量のEB培地と3〜4日毎に交換した。
【0177】
成長培地
KO高グルコースDMEM
500 U/ml ストレプトマイシン
1% 非必須アミノ酸
2 mM Glutamax-I
0.1 mM β-メルカプトエタノール
8% 血清代替物
8% プラスモネート(Beyer, Res Triangle Park)
マイトジェン:
10 ng/ml LIF
5 ng/ml bFGF
【0178】
EB培地
KO高グルコースDMEM
500 U/ml ストレプトマイシン
1% 非必須アミノ酸
2 mM Glutamax-I
0.1 mM β-メルカプトエタノール
13% 血清代替物
【0179】
組織学的検討
中性緩衝ホルマリン(NBF)中で固定した後、標本(10 mmの明瞭で/白い半透明の組織半球)を70% エタノール中に置いた。半球を二等分し、一部を大体の描写のために調べ、一部を顕微鏡で調べた。
【0180】
ムチン染色剤(例えば、過ヨウ素酸シッフ[PAS])、生体アミン染色剤、メラニン染色剤、リポクローム色素染色剤、鉄およびカルシウムの染色剤、尿酸染色剤、脂肪染色剤、結合組織染色剤、ギムザ染色剤、微生物染色剤(例えば、抗酸菌、ゴモリメテナミン(gomori methenamine)銀染色など)を含む、一連の組織学的色素で標本を染色した。染色の後で、標本を光学顕微鏡下で調べた。
【0181】
HLAタイプ分け
DynalからのDynabeads DNA Direct Blood(Invitrogen)でドナー血液、hES、phESC細胞、およびヒト新生児皮膚繊維芽細胞(NSF)からゲノムDNAを抽出した。HLAタイプ分けを、アレル特異的シークエンシングプライマーを用いたPCR(PCR-SSP, Protrans)によって製造業者の仕様に従って行なった。HLAクラスI遺伝子(HLA A*、B*、Cw*) を、A*01〜A*80, B*07〜B*83, Cw*01〜Cw*18領域を規定するPROTRANS HLA A* B* Cw*でタイプ分けした。HLAクラスII遺伝子(HLA DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*、DQB1*)を、DRB1*O1〜DRB1*16(DR1〜DR18)、DRB3*、DRB4*、DRB5*領域を規定するPROTRANS HLA DRB1*と、DQB1*02〜DQB1*06(DQ2〜DQ9)、DQA1*0101〜DQA1*0601領域を規定するPROTRANS HLA DQB1* DQA1*とで解析した。94℃で2分;94℃で10秒間、65℃で1分間を10サイクル;94℃で10秒間、61℃で50秒間、72℃で30秒間を20サイクルで:PCR増幅を達成した。増幅産物を2% アガロースゲルで検出した。
【0182】
Affimetrix SNPマイクロアレイ解析
血液、卵丘細胞、phESC、およびNSFからフェノール/クロロホルム抽出法によってゲノムDNAを単離した。4人の白人対象から得られたこれらのDNA試料を、Affimetrix Mapping 5OK Hind 240 Array(Affimetrix GeneChip Mapping 10OKキットの一部)で遺伝子型決定した。当初、データセットは、57,244バイナリーSNPマーカーを含んだ。マーカーの数は、ゲノム試料と等量のものを同定しかつヘテロ接合性を検討するのに必要であると考えられるよりも多いので、22本の常染色体のうちの15本(第1番〜第15番染色体)を選んだ。無作為抽出の間にマーカーが選択されないか、または所与の染色体について1つのマーカーしか選ばれない可能性を減らすために、より短い第7番染色体を除外した。1,459個のマーカーをRelcheck(バージョン0.67,(著作権)2000 Karl W. Broman, Johns Hopkins University, Licensed under GNU General Public Licenseバージョン2(1991年6月))によって解析した。
【0183】
ゲノムインプリンティング解析
全核酸を、Liら(J Biol Chem (2002) 277(16): 13518-13527)に記載されたように調製した。RNAおよびDNAを、Tri-reagent(Sigma)を用いるかまたはQiagen(Valencia, CA)からのRNA調製キットを用いて細胞から抽出した。
【0184】
様々な試料由来のRNAを含むノザンブロット(図3参照)を、標準的な方法(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, 第2版, Cold Spring Harbor Press参照)で濾紙にブロッティングした。ノザンの濾紙を、mRNAに特異的にハイブリダイズする一本鎖のオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。オリゴヌクレオチドプローブは、[γ32P]ATP(Amersham Biosciences)で末端標識した。各々0.1% SDSを含む0.2 X SSC(1 X SSC = 0.15 M NaClおよび0.015 M クエン酸ナトリウム)を用いて60℃で10分間3回、濾紙を洗浄し、Phosphorlmager(Molecular Dynamics)で解析した。オリゴヌクレオチドプローブの配列は、以下のアクセッション番号に基づく配列から得られた:NP002393(Peg1_2およびPeg1_A;これらの遺伝子について、ヒトPEG1は2つの択一的なプロモーターから転写され、2つのアイソフォームの転写を結果的にもたらし、そのうちの1つ(アイソフォーム1_2)のみがインプリンティングされている。父性発現アイソフォーム1が父親アレルのエキソン1における非メチル化CpG島と関連して生じる一方で、母性遺伝子(アイソフォーム1_A)における対応するCpG島は完全にメチル化されている。例えば、Li et al. (2002), 前記;CAG29346(SNRPN);AF087017(H19);NR_001564(不活性X特異的転写物-XIST);およびP04406(GAPDH)を参照されたい。
【0185】
DNAフィンガープリンティング解析
血液、hES細胞、およびNSFからフェノール/クロロホルム抽出によってゲノムDNAを単離し、HinfI制限酵素(Fermentas)で消化し、0.8% アガロースゲルに充填した。電気泳動後、変性したDNAを、サザンブロッティングによってナイロン膜(Hybond N, Amersham)に移し、32P-標識(CAC)した5つのオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。Cronex 増感スクリーンを用いてX線フィルム(Kodak XAR)上で膜を感光させた後、mDataを解析した。
【0186】
単一座PCR遺伝子型決定
3'アポリポタンパク質B超可変ミニサテライト座(3'ApoB VNTR)
染色体位置:2p23-p23
GenBank座および座定義:APOB、(Ag(x)抗原を含む)アポリポタンパク質B非翻訳領域
反復配列5'-3':

アレルのラダーサイズ範囲(塩基):450 + 10 + 2プライマー + 連結部
VNTRラダーサイズ範囲(Ludwig et al, 1989による、反復の数):30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52
その他の公知のアレル(反復の数):25、27、28、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、54、55
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):36/36
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0187】
Verbenko et al., Apolipoprotien B 3'-VNTR polymorphism in Eastern European populations. Eur J Hum Gen (2003) 11(1):444-451に記載されたように解析を行なってもよい。表4を参照されたい。
【0188】
(表4)ロシア人の集団についてのアレル頻度

【0189】
D1S80(pMCT118)超可変ミニサテライト座(D1S80 VNTR)
染色体位置:1p35-p36
GenBank座および座定義:ヒトD1S80およびMCT118遺伝子
反復配列5'-3':

アレルのラダーサイズ範囲(塩基):387〜762
VNTRラダーサイズ範囲(反復の数):16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、34、35、36、37、40、41
その他の公知のアレル(反復の数):13、14、15、38、39、>41
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):18/29
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 60℃、30秒
伸長 72℃、45秒
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0190】
Verbenko et al., Allele frequencies for D1S80 (pMCTl 18) locus in some Eastern European populations. J Forensic Sci (2003) 48(1):207-208に記載されたように解析を行なってもよい。表5を参照されたい。
【0191】
(表5)ロシア人の集団についてのアレル頻度

【0192】
D6S366
染色体位置:6q21-q末端
GenBank座および座定義:NA
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):150〜162
STRラダーサイズ範囲(反復の数):12、13、15
その他の公知のアレル(反復の数):10、11、14、16、17
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):13/14
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0193】
Efremov et al., An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36に記載されたように解析を行なってもよい。表6を参照されたい。
【0194】
(表6)ロシア人の集団についてのアレル頻度

【0195】
D16S539
染色体位置:16q24-q末端
GenBank座および座定義:NA
反復配列5'-3':(AGAT)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):264〜304
STRラダーサイズ範囲(反復の数):5、8、9、10、11、12、13、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):11/12
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0196】
GenePrint(登録商標)STR Systems (Silver Stain Detection) Technical Manual No. D004. Promega Corporation, Madison, WI USA: 1993-2001に記載されたように解析を行なった。表7を参照されたい。
【0197】
(表7)白人のアメリカ人についてのアレル頻度

【0198】
D7S820
染色体位置:7q11.21-22
GenBank座および座定義:NA
反復配列5'-3':(AGAT)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):215〜247
VNTRラダーサイズ範囲(反復の数):6、7、8、9、10、11、12、13、14
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):9/11
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0199】
GenePrint(登録商標)STR Systems (Silver Stain Detection) Technical Manual No. D004. Promega Corporation, Madison, WI USA: 1993-2001に記載されたように解析を行なった。表8を参照されたい。
【0200】
(表8)異なる集団におけるD7S820のアレル頻度

【0201】
ヒトフォンヴィレブランド因子遺伝子超可変マイクロサテライト座II(vWFII)
染色体位置:12p13.3-12p13.2
GenBank座および座定義:HUMvWFII、ヒトフォンヴィレブランド因子遺伝子
反復配列5'-3':(ATCT)n/(AGAT)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):154〜178
STRラダーサイズ範囲(反復の数): 9、11、12、13
その他の公知のアレル(反復の数):8、10、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):13/13
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0202】
Efremov et al., An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36に記載されたように解析を行なった。表9を参照されたい。
【0203】
(表9)ロシア人の集団についてのアレル頻度

【0204】
D13S317
染色体位置:13q22-q31
GenBank座および座定義:NA
反復配列5'-3':(AGAT)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):165〜197
STRラダーサイズ範囲(反復の数): 8、9、10、11、12、13、14、15
その他の公知のアレル(反復の数):7
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):8/8
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0205】
GenePrint(登録商標)STR Systems (Silver Stain Detection) Technical Manual No. D004. Promega Corporation, Madison, WI USA: 1993-2001に記載されたように解析を行なった。表10を参照されたい。
【0206】
(表10)異なる集団におけるD13S317についてのアレル頻度

【0207】
ヒトフォンヴィレブランド因子遺伝子超可変マイクロサテライト座(vWA)
染色体位置:12p12p末端
GenBank座および座定義:HUMVWFA31、ヒトフォンヴィレブランド因子遺伝子
反復配列5'-3': (AGAT)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):139〜167
STRラダーサイズ範囲(反復の数): 14、16、17、18
その他の公知のアレル(反復の数):11、12、13、15、19、20、21
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):16/16
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0208】
GenePrint(登録商標)STR Systems (Silver Stain Detection) Technical Manual No. D004. Promega Corporation, Madison, WI USA: 1993-2001に記載されたように解析を行なった。表11を参照されたい。
【0209】
(表11)異なる集団におけるHUMVWFA31についてのアレル頻度

【0210】
CSF-1受容体遺伝子に対するヒトc-fms癌原遺伝子マイクロサテライト座(CSF1PO)
染色体位置:5q33.3-34
GenBank座および座定義:HUMCSF1PO、ヒトc-fms癌原遺伝子
反復配列5'-3':(AGAT)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):295〜327
STRラダーサイズ範囲(反復の数): 7、8、9、10、11、12、13、14、15
その他の公知のアレル(反復の数):6
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):9/10
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0211】
GenePrint(登録商標)STR Systems (Silver Stain Detection) Technical Manual No. D004. Promega Corporation, Madison, WI USA: 1993-2001に記載されたように解析を行なった。表12を参照されたい。
【0212】
(表12)白人のアメリカ人についてのアレル頻度

【0213】
ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子マイクロサテライト座(TPOX)
染色体位置:2p25.1-p末端
GenBank座および座定義:HUMTPOX、ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):224〜252
STRラダーサイズ範囲(反復の数):6、7、8、9、10、11、12、13
その他の公知のアレル(反復の数):なし
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):8/9
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0214】
GenePrint(登録商標)STR Systems (Silver Stain Detection) Technical Manual No. D004. Promega Corporation, Madison, WI USA: 1993-2001に記載されたように解析を行なった。表13を参照されたい。
【0215】
(表13)白人のアメリカ人についてのアレル頻度

【0216】
ヒトチロシンヒドロキシラーゼ遺伝子マイクロサテライト座(TH01)
染色体位置:5q33.3-34
GenBank座および座定義:HUMTHO1、ヒトチロシンヒドロキシラーゼ遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
アレルのラダーサイズ範囲(塩基):179〜203
STRラダーサイズ範囲(反復の数):5、6、7、8、9、10、11
その他の公知のアレル(反復の数):9.3
Promega K562 DNA(登録商標)アレルサイズ(反復の数):9.3/9.3
PCRプロトコル:
サーマルサイクラー:DNA Technology社, Russia
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルの循環:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
延長工程: 72℃、5分
保留工程: 4℃、無制限の時間
【0217】
GenePrint(登録商標)STR Systems (Silver Stain Detection) Technical Manual No. D004. Promega Corporation, Madison, WI USA: 1993-2001に記載されたように解析を行なった。表14を参照されたい。
【0218】
(表14)白人のアメリカ人についてのアレル頻度

【0219】
結果
本方法由来のhES細胞は、胚性幹細胞に典型的である多くの特色:細胞質脂肪体、小さい細胞質/核比、および明瞭に識別できる核小体を示す。hES細胞コロニーは、インビトロ受精後に得られるヒト胚性幹細胞について先に報告された形態と類似の形態を示す。細胞は、アルカリホスファターゼ(図1A)、オクタマー結合転写因子4 mRNA(Oct-4)(図1B)、時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(図1C)、時期特異的胚抗原3(SSEA-3)(図1D)、時期特異的胚抗原4(SSEA-4)(図1E)、腫瘍拒絶抗原1-60(TRA-1-60)(図1F)、腫瘍拒絶抗原1-81(TRA-1-81)(図1G)について免疫反応が陽性であり、かつ時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(図1C)について陰性である(マウス胚性幹細胞では陽性であるが、ヒトでは陽性ではない)。テロメラーゼ活性は多くの場合、複製の不死性と関連付けられ、生殖細胞、癌細胞、および幹細胞を含む、種々の幹細胞で典型的に発現されているが、大部分の体細胞型では存在しない。本方法によって3か月後にインビトロ増殖で調製された細胞は、それらの未分化形態を維持し、高レベルのテロメラーゼ活性を示した(図2A)。細胞の多能性を、インビトロで胚様体形成によって検討し(図2B、2C)、Gバンド法による核型分析により、細胞が正常なヒトの46XX核型を有することが示されている(図2D)。
【0220】
卵母細胞ドナーの血液、ES細胞、HNSFフィーダー細胞に対して、サザンブロッティングおよび32P標識(CAC)オリゴヌクレオチドプローブ(図2E)とのハイブリダイゼーション、ならびに異なる座と同時の単一座ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってDNAフィンガープリンティング解析を行なった。
【0221】
単一座PCRについて、遺伝子型決定により、血液(ドナー)DNAとOL1 DNAの間で(D7S820、1つを除く)全ての座について同一アレルであることが明らかとなった。表15を参照されたい。
【0222】
(表15)単一座PCR遺伝子型決定

【0223】
(D7S820、1つを除く)全てのヘテロ接合ドナー座のヘテロ接合性(異型接合性)は、hES座では変化していなかった。hES DNAにおけるD7S820座のヘテロ接合性(異型接合性)は、DNA複製およびDNA修復の間のスリップ鎖誤対合(slipped-strand mispairing)による突然変異(マイクロサテライト反復におけるAGATモノマーの挿入)の結果である。
【0224】
これらの結果は、(ドナーDNAおよびhES DNAについて実質的に同一のフィンガープリンティングパターンが見出された場合の)多座DNAフィンガープリンティングで得られる結果と一致している。
【0225】
図2Eは、hES細胞のヘテロ接合性およびそれらの卵母細胞ドナーの血液との同一性を示したが、hES細胞とフィーダー細胞の間の類似性はなかった。hES細胞株のDNAプロファイルを、MHCクラスIおよびクラスII内の多型遺伝子を用いたPCRに基づくハプロタイプ解析で確認した。卵母細胞ドナー血液細胞、hES細胞、およびフィーダーHNSF由来の全ゲノムDNA を遺伝子型決定し、比較した。データは、hES細胞およびドナー血液由来の細胞が互いに区別不可能で、それゆえに自己であるとみなされるべきであり、かつ両方ともフィーダー細胞のDNAとは区別されることを示した(表16)。
【0226】
(表16)HLAタイプ分け

【0227】
DNAフィンガープリンティングおよびHLAタイプ分け解析によって、hES細胞がヘテロ接合性でありかつドナーの遺伝物質全部を含むことが確認された。これらの結果は、単為生殖によるサル幹細胞株(Vrana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100(Suppl 1): 11911-11916)からのデータと一致し、ドナーの遺伝物質の半分を含む、単為生殖によるマウス幹細胞株(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:153-161)からの結果とは一致しない。
【0228】
phESC株は、hES細胞で期待される形態を示し、密に詰まった細胞、際立った核小体、および小さい細胞質対核比を持つコロニーを形成する(図4)。これらの細胞は、従来のhESマーカーであるSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4を発現し、かつ未分化なマウス胚性幹細胞の陽性マーカーである、SSEA-1を発現しない(図4)。全ての株に由来する細胞が、高レベルのアルカリホスフォターゼおよびテロメラーゼ活性を示している(図5および図6)。Gバンド法による核型分析は、phESC株が、phESC-7株を例外として、正常ヒトの46本の、XX核型を有することを示した(図7)。phESC-7株由来の細胞のおよそ91%は、47本の、XXX核型を有し、細胞の9%は、48本の、XXX、+6核型を有する。異なる程度のX染色体異形性が本株で観察されており;phESC-1およびphESC-6株のおよそ12%;phESC-5株については42%;細胞株phESC7、phESC-3、およびphESC-4については、それぞれ、70%、80%、86%である(図7)。
【0229】
比較DNAプロファイリングを、全てのphESC株、ドナー体細胞、およびフィーダー細胞に対して行なった。これらの検討は、Affimetrix SNPマイクロアレイ(Mapping 5OK Hind 240 Arrays)を用いて、染色体変化を検討し、ドナーの体細胞に対するphESCの遺伝子の類似性を確認した。phESC株とそれらの関連ドナー体細胞の間の全ての対を成す遺伝子型関係性が「完全な同胞種」と同定され、かつ全てのその他の対の組み合わせが「無関係」と同定された。内部対照は、「一卵性双生児」と同じphESC株に由来する分割培養間の対を成す遺伝子型関係性を同定した(表17、データベースA1)。
【0230】
(表17)データベースS1
データベースS1 phESCおよび関連ドナー由来のDNA試料を同定する

DNA試料を以下のように番号付けした:1-ヒト新生児皮膚繊維芽細胞;2-phESC-7株ドナー;3-phESC-7株;4-phESC-1株;5-phESC-1株;6-phESC-3株;7-phESC-4株;8-phESC-5株;9-phESC-6株;1O-phESC-6株ドナー;11-phESC-3〜phESC-5株ドナー;および12-phESC-1株ドナー。
【0231】
結果は、わずか1対(試料4〜5)のみが一卵性(MZ)双生児として同定されたことを示す。10個のその他の対(試料2〜3、4〜12、5〜12、6〜7、6〜11、7〜8、7〜11、8〜11、9〜10)が完全な同胞種と同定され、全てのその他の対の組み合わせが無関係と同定された。出力中のIBS欄は、対が両方ともタイプ分けされかつ状態によって同一な0個、1個、または2個のアレルを共有するマーカーの数を示す(遺伝子型決定の誤りのない理想的条件下のMZ双生児については、全てのマーカーがIBS=2の下に置かれなければならない)。出力は、P(観察されたマーカー|所与の関係性)を直接示さないが、 それはLODスコア - log10{P(観察されたマーカー|推定の関係性/P(観察されたマーカー|最大尤度が得られ、したがって、コールが行なわれた)}を類似性の大きさとして示す。LODスコアが小さければ小さいほど、2つの試料間の推定の関係性は、あまり可能性が高くない。
【0232】
1,459個のSNPマーカーの比較解析によって、phESCヘテロ接合性が明らかになりかつ関連するドナー体細胞遺伝子型と比較して変化がphESC細胞遺伝子型に生じていたことが示された。もとはヘテロ接合性であった体細胞ゲノムのセグメントには、関連するphESC株ゲノム中でホモ接合性になったものもあった。このヘテロ接合からホモ接合へのパターンは、phESC-1、PhESC-3、phESC-4、phESC-5、およびphESC-6株の11〜15%に生じ、かつphESC7株については19%であった(データベースS2)。さらに、同じ卵母細胞ドナーに由来したphESCおよびphESC-5株の間で遺伝子の相違が観察された(表18、データベースS2)。
【0233】
(表18)



































































【0234】
結果は、得られたphESC株のヘテロ接合性を示しかつ関係のあるドナー遺伝子型との比較により遺伝子型の変化を示している。ドナーゲノムのヘテロ接合セグメントの部分はphESCでホモ接合性になった。染色体-染色体番号;RS ID- dbSNPデータベース中のRS番号;塩基対-Affimetrix GeneChipによって記録されているような塩基対距離;CaucにおけるAの頻度-白人の集団におけるAアレルの頻度。
【0235】
先行研究において、マウス卵母細胞の単為生殖による活性化は、ホモ接合胚性幹細胞株を結果的に生じさせた(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:152)。ヒト卵母細胞では、卵母細胞の単為生殖による活性化後の第二減数分裂の抑制および二倍体胚の発生は、完全にホモ接合性のhES細胞の派生をもたらさない。
【0236】
HLAタイプ分け結果に基づき、全てのphESC株に由来する分化した細胞は、卵母細胞ドナーと完全に組織適合性であり、これを治療的に使用する細胞を作り出すための方法にするはずである(表19)。
【0237】
(表19)phESC細胞株についてのHLAタイプ分け

【0238】
フィーダー細胞として用いられるヒト繊維芽細胞に由来する遺伝物質のDNAプロファイリングによって、ヒト繊維芽細胞由来の物質によるphESC細胞株の汚染がないことが明らかになった(表19)。
【0239】
phESC-1株は、10か月の培養の間、35回の継代にわたって、未分化のままであった。その他の細胞株は、少なくとも21回の継代にわたって首尾よく培養された。全てのphESC株由来の細胞が、懸濁培養で嚢胞性胚様体を形成し、インビトロでの分化後に、3つ全ての生殖層:内胚葉、中胚葉、および外胚葉の派生物を生じた(図4)。phESC-1株由来の胚様体のおよそ5%は、プレーティング5日後に拍動する細胞を生じた。phESC-6株は、色素沈着した上皮様細胞を産生した(図4I、K)。外胚葉分化を、ニューロン特異的マーカーニューロフィラメント68(図4A)、NCAM(図4B)、βIII-チューブリン(図4C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(図4D、M)についての陽性の免疫細胞化学染色により示す。分化した細胞は、筋肉特異的マーカーである、アルファ-アクチニン(図4G)およびデスミン(図4J)を含む中胚葉マーカー、ならびに内胚葉マーカーPECAM-I(図4E)およびVE-カドヘリン(図4F)について陽性であった。内胚葉分化を、アルファ-フェトタンパク質の分化した派生物の陽性染色により示す。これらのデータは、phESCが、ヒトの体の全ての細胞型を生じる3つの生殖層に分化することができることを示している。
【0240】
phESC-7の変化した核型は、それを臨床的使用から除外する理由であってもよい。ヒト胚におけるゲノムインプリンティングの変化は、母性または父性発現遺伝子と関連した障害の発生に寄与する可能性がある(Gabriel et al., Proc Natl Acad Sci USA (1998) 95:14857)。phESC株のその他の特徴を検討するために、および細胞治療での使用のためのそれらの適性を決定するために、インプリンティング解析を行なった。
【0241】
ノザンブロットを作製し、上で概説したようなDNAプローブSNRPN、Peg1_2、Peg1_A、H19、および(内部対照としての)GAPDHでスクリーニングした。ブロッティングした核酸は、NSF、新生児皮膚繊維芽細胞;hES、受精した卵母細胞に由来するヒト胚性幹細胞株;1、phESC-1;2、phESC-3、3、phESC-4、4、phESC-5;5、phESC-6;6 phESC-7から得られた。NSF RT-、hES RT-、1 RT-は、陰性対照である。図3は、インプリンティングブロットの結果を示す。
【0242】
母性インプリンティング遺伝子、Peg1_Aは、検査した細胞株の全てにおいて強い結合を示す。(Peg1_Aと比べて)より弱いが、一貫した結合が、母性インプリンティング遺伝子H19について細胞株の全てにおいて観察された。SNRPNは、主としてNSF、hES、phESC-4、およびphESC-6における結合を示す。Peg1_2は、NSF、hES、phESC-1(より弱いシグナル)、phESC-3、phESC-5、およびphESC-6における結合を示す。GAPDH結合により、全てのレーンにおけるRNAの同じくらいの充填が確認された。
【0243】
角膜形成および組織学
成長中の合成角膜を、記載したような培地に半球を完全に浸すことによって培養した。全体的な目視による半球の検査により、それらが比較的透明な組織の球であり、かつ直径1 cm超まで成長していることが示されている(図8)。
【0244】
全体の検討により、半球は、実質的に中が空洞で、厚さがおよそ0.5 mmの壁を含むように見える。その後の組織学的/顕微鏡的検討により、標本が、所々に繊維芽細胞を含む、2片の主に繊維性の組織からなることが明らかになっている。染色により、PASおよびトリクローム陰性である基底膜の存在が同定され、それによってボーマン層(すなわち、角膜の間質)の存在が示唆されている。繊維性の組織層の上に、内皮ではなく上皮を示唆する核小体を含む1つの細胞層がある。この解析に基づき、組織標本は角膜と互換性があることが結論付けられた。
【0245】
本発明は上記実施例に関連して記載されているが、修正および変形が本発明の精神および範囲の中に包含されることが理解されると考えられる。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0246】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された網膜幹細胞由来の合成角膜。
【請求項2】
網膜幹細胞を、単為生殖的に活性化したヒト卵母細胞から分化させた、請求項1記載の単離された角膜。
【請求項3】
最終分化している、請求項1記載の単離された角膜。
【請求項4】
上皮細胞を含む、請求項1記載の単離された角膜。
【請求項5】
間質細胞を含む、請求項4記載の単離された角膜。
【請求項6】
光位相速度を変化させる能力を有する、請求項1記載の単離された角膜。
【請求項7】
約5 mm〜11.5 mmの横径を有する、請求項1記載の単離された角膜。
【請求項8】
中心で約0.5 mm〜0.6 mmおよび周辺部で約0.6 mm〜0.8 mmの厚さを有する、請求項1記載の単離された角膜。
【請求項9】
ATCCアクセッション番号___として寄託されている、請求項1記載の単離された角膜。
【請求項10】
卵母細胞ドナーと組織適合性である、請求項2記載の単離された角膜。
【請求項11】
同質性ミトコンドリアDNA(mtDNA)を含む、請求項2記載の単離された角膜。
【請求項12】
ヒトに移植可能である、請求項10記載の角膜。
【請求項13】
(a)(i)卵母細胞をイオノフォアと高いO2圧で接触させることと(ii)卵母細胞をセリン-スレオチンキナーゼ阻害剤と低いO2圧で接触させることとを含む、ヒト卵母細胞を単為生殖的に活性化させる工程;
(b)工程(a)の活性化された卵母細胞を低いO2圧で胚盤胞形成まで培養する工程;
(c)胚盤胞をフィーダー細胞の層に移し、かつ移した胚盤胞を高いO2圧下で培養する工程;
(d)工程(c)の胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を機械的に単離する工程;
(e)工程(d)のICMの細胞をヒトフィーダー細胞の層上で高いO2圧下で培養する工程であって、網膜幹細胞が培養中にヒト胚性幹細胞マーカー(hES)およびニューロン特異的マーカーによって同定され、かつ同定された網膜幹細胞がその後単離される、工程;
(f)工程(e)の単離された幹細胞を、血清代替物(M/SR)と、プラスモネート(plasmonate)と、DNA合成阻害剤で処理した繊維芽細胞フィーダー層で上gp130/STAT経路および/またはMAPキナーゼ経路を活性化する少なくとも1つのマイトジェンとを含む培地中で培養する工程;
(g)工程(f)のマイトジェン処理した細胞を、プラスモネートを含むM/SR(M/SRP)中で、マイトジェンを添加せずに、コンフルエンス近くまで培養する工程であって、コンフルエント近くの細胞が色素沈着およびドーム形の外観を生じるまでM/SRPの1/2容量がM/SRと周期的に交換される、工程;ならびに
(h)M/SR中の工程(g)の色素沈着した細胞をゼラチンコーティングした基材に移す工程であって、合成角膜が発生するまでM/SRの1/2容量がM/SRと周期的に交換される、工程
を含む、合成角膜を産生する方法。
【請求項14】
角膜が3-D足場の非存在下で発生する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
マイトジェンが、白血病阻害因子(LIF)、bFGF、およびそれらの組み合わせより選択される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
DNA合成阻害剤がアルキル化剤である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
DNA合成阻害剤がマイトマイシンCである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
フィーダー細胞がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項19】
hESマーカーが、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-91、OCT-4、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項20】
ニューロン特異的マーカーが、ニューロフィラメント68、NCAM、βIII-チューブリン、GFAP、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項21】
請求項13記載の方法によって得られる網膜幹細胞由来の合成角膜。
【請求項22】
対象の角膜を合成角膜と交換する工程を含む、それを必要とする対象を処置する方法。
【請求項23】
対象が損傷した角膜を有する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
対象が角膜に影響を及ぼす疾患を有する、請求項22記載の方法。
【請求項25】
疾患が、角膜炎、角膜潰瘍、角膜剥離、雪盲、弧眼(arc eye)、タイゲソン表層性点状角膜症、フックス変性症、円錐角膜、乾性角結膜炎、角膜感染、および角膜変性症からなる群より選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
(a)網膜幹細胞由来の合成角膜を作用物質と接触させる工程;および
(b)角膜に対する変化を作用物質の存在下および非存在下で観察する工程
を含む、目の角膜に影響を及ぼす作用物質を同定する方法であって、
角膜に対する変化が、角膜に影響を及ぼす作用物質を示す、方法。
【請求項27】
作用物質が角膜に対する治療効果を有する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
作用物質が角膜に対する有害効果を有する、請求項26記載の方法。
【請求項29】
角膜に対する変化が、遺伝子発現の変調、タンパク質発現の変調、混濁の変化、可塑性の変化、硬度の変化、光位相速度の変化、および形状の変化からなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項30】
作用物質が環境化学物質である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
作用物質が薬物である、請求項27記載の方法。
【請求項32】
薬物が局所薬物である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
(a)目から角膜を外科的に切除する工程;
(b)除去した角膜の領域に合成角膜を挿入する工程;および
(c)合成角膜を切除の下にある組織と繋ぎ合わせて合成角膜を目に固定する工程
を含む、請求項1記載の合成角膜と目の角膜の交換のための方法。
【請求項34】
角膜の外面の一部を分離し、それによって前面および後面を有する角膜弁と成形された前面を有する角膜床とを形成させる工程;
前面および後面を有する合成角膜を角膜床の上に移植する工程;ならびに
分離された角膜の部分を交換する工程
をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
(a)請求項1記載の合成角膜を含む細胞の少なくとも一部を、作用物質をコードする核酸ビヒクルで、形質転換する工程;
(b)核酸によってコードされる作用物質を発現する、工程(a)の合成角膜を含む細胞の集団を同定する工程;および
(c)工程(b)の合成角膜の形質転換された細胞と、対象の角膜細胞を交換する工程
を含む、対象の目に有効量の作用物質を送達する方法であって、交換した細胞が作用物質を対象の目に送達する、方法。
【請求項36】
交換する工程が、対象の角膜を工程(b)の合成角膜と交換することを含む、請求項35記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−544313(P2009−544313A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521731(P2009−521731)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/041134
【国際公開番号】WO2008/013557
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(308035276)インターナショナル ステム セル コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】