説明

網袋を用いた石詰め藻場礁

【課題】簡易に製作でき、小型船を含む漁船或いは作業船により少人数で設置できると共に、回収や再設置で基質更新や除掃など人為的な管理が可能であり、引揚げて定量調査が可能であり、且つ、太い網地に着生・生育しやすいコンブ類や他の海藻を着生・生育させることができる、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供する。
【解決手段】網袋2と、網袋2内に詰めた石材3と、石材3を詰めた網袋2の外周を締め付け、又は、網袋2を引張して緊張させるロープ4を備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、更に、網袋2の上面、上下面、上下面及び側面、側周面、その他の所定面、又は、全周面に張設され、目的海藻の種別に対応させて網袋2の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網袋に小型石材を収容して、人力で運べるように形成した、網袋を用いた石詰め藻場礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の藻場造成は国が定める計算式によって耐久性や安定性を満足する大型石材や藻場礁などで造成され、このうちコンクリート構造物の藻場礁では数トンから十数トンの重量を有するため、大型工事船により設置されるものであった。
【0003】
藻場礁は当初の設置水深が海藻の生育帯にあっても、大型の時化などで藻場礁が移動して地形の低い場所に傾斜したり滑落や転倒などにより、海藻の生育に適さない設置状況に陥ることがあった。
【0004】
このような状況に陥った海藻礁は、目的の有用海藻が着生・生育し難いばかりか時間と共に有用海藻が減少して低位の海藻種が優占することや、多くの場合はサンゴ藻が優先する磯焼け状態に遷移・安定して持続するため、著しい藻場の減少により沿岸での魚類資源の涵養場が消失することなどが問題となっている。
【0005】
こうした問題に対し平成20年から着手された沿岸の藻場づくりは、NPO法人、一般市民、漁業者、学生、研究者等が参加する国の補助事業として各地で藻場づくりが実施されている。この事業を推進するにあたり「小型で関係者が設置や管理可能な藻場基質」が求められているが、小型の藻場基質は沿岸での施設保全と安定性の問題から解決が困難と考えられてきた。
【0006】
此種技術の先行文献としては、例えば、特許文献1「小型多孔質基質、小型多孔質基質を設置する台座、小型多孔質基質を組み込んだ構造体および藻場造成方法」、特許文献2「海藻養殖用ブロック」、特許文献3「海藻移植ブロックによる藻場造成構造」がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−24541号公報
【特許文献2】特開2001−86888号公報
【特許文献3】実用新案登録第3039192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1は持ち運べる小型多孔基質であるが、多孔質基質は底面が平坦で強度をもった固体の形成品であって、海底の凹凸に追従し変形して馴染むことがないため海底との摩擦抵抗が少ない構造である。従ってこの小型礁を単体又は複数個連結設置してもその固定力は重量固定であって、波あたりの強い漁場では(固定力不足から)施設の保全や安定性を維持できず、藻場礁を取り付けるための大型礁や固定資材、あるいは固定工事などが必要であった。
【0009】
また特許文献2は金網で形成した容器に石材を収容したものであるが、石材を入れた金網容器は海底の凹凸に対し追従し変形して馴染むことがないため固定力が減少するばかりか、細い金網材と海底との間に発生する摩擦が少ないため、自重の固定力では移動・滑動しやすい問題がある。
さらに収容した石材は波浪の振動を受けて金網の容器内で沈み込むため、天蓋金網との間に空間が生じ収容した石材が不安定化して、生息する魚類や動物が潰されるなど減耗しやすい環境が形成されていた。また天蓋の金網に海藻類が生育しても細い金網線材では海藻の付着面積が狭いため費用対効果の問題があった。
【0010】
特許文献3は核藻場を造成する方法として開発されたが、潜水作業を行う場合、削岩機やエアコンプレッサーなど特殊工具による固定と機材を搭載できる作業船が必要で、更に基質へ海藻の着生を行い着生が確認されてから漁場へ搬入あるいは転地するなど、数回にわたる専門的な作業を伴って施工されるため、一般市民や学生ボランティアなどの参加は部分的な関与に留まっていた。
【0011】
又、従来の藻場造成された漁場において、海藻類の着生基質は付着する生物膜などにより、海藻類の着生量が減少する傾向が発生することがあった。このような問題から海藻類の着生を促すための一方法として、物理的に基質表面の生物膜を削り取る基質更新法が開発されているが、費用が高いことや専用機械類が必要なことから、どこでも行える基質更新の方法ではなかった。
【0012】
以上の現状に鑑み、本発明は、誰でも何処でも、漁網と石材が入手できれば簡易に製作でき、増殖目的とする母藻の成熟時期に、町民や学生、漁業者が人力で持ち運んで、小型船を含む漁船或いは作業船により少人数で設置でき、沿岸漁場で施設保全と安定性を維持しながら、回収や再設置で基質更新や除掃など人為的な管理と、引揚げて定量調査が可能な、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供することを目的とする。
又、目的海藻の種別に対応させて網袋の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体を備えることにより、太い網地の場合は、太い網地に着生・生育しやすいコンブ類など大型海藻類を強固に網地に着生・生育させることができ、細い網地の場合は、石詰め礁に収容した石材表面を海藻類の着生基質として利用できる、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決すべく、本発明は以下の構成を提供する。
請求項1に係る発明は、網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋の上面、上下面、上下面及び側面、側周面、その他の所定面、又は、全周面に張設され、目的海藻の種別に対応させて前記網袋の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体を備えたことを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供するものである。
【0014】
請求項2に係る発明は、網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋を用いた石詰め藻場礁の揚収又は移設を容易にすべく、前記ロープに付帯させて、前記網袋を用いた石詰め藻場礁の側面外方にループ空間を形成するループロープ又は揚収用係止部材を備えたことを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供するものである。
【0015】
請求項3に係る発明は、網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有する、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋内には、前記網袋内下部に比較的大型の石材を投入し、前記比較的大型の石材上に、前記網袋よりも小さな小網袋に前記比較的大型の石材よりも小さなサイズの石材を詰めた複数の石詰め礁を、互いに連結し、又は連結しない状態で投入することを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供するものである。
【0016】
請求項4に係る発明は、網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋を用いた石詰め藻場礁は、前記網袋内に比較的大きなサイズの石材を詰めた大型石詰め藻場礁と、前記網袋内に比較的小さなサイズの石材を詰めた小型石詰め藻場礁とを交互に1乃至複数列に連接又は連結して成る複数の石詰め藻場礁であることを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供するものである。
【0017】
請求項5に係る発明は、網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋を用いた石詰め藻場礁は、前記網袋の網地が比較的太く形成された太網地石詰め藻場礁と、前記網袋の網地が比較的細く形成された細網地石詰め藻場礁とを交互に1乃至複数列に連接又は連結して成る複数の石詰め藻場礁であることを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供するものである。
【0018】
請求項6に係る発明は、前記網袋を用いた石詰め藻場礁の揚収又は移設を容易にすべく、前記ロープに付帯させて、前記網袋を用いた石詰め藻場礁の側面外方にループ空間を形成するループロープを備えたことを特徴とする、請求項1,4又は5記載の網袋を用いた石詰め藻場礁を提供するものである。
【0019】
請求項7に係る発明は、前記網袋の上面、上下面、上下面及び側面、側周面、その他の所定面、又は、全周面に張設され、目的海藻の種別に対応させて前記網袋の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体を備えたことを特徴とする、請求項2乃至6のうちいずれか一に記載の網袋を用いた石詰め藻場礁を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1記載の発明によれば、誰でも何処でも、漁網と石材が入手できれば簡易に製作でき、増殖目的とする母藻の成熟時期に、町民や学生、漁業者が人力で持ち運んで、小型船を含む漁船或いは作業船により少人数で設置でき、沿岸漁場で施設保全と安定性を維持しながら、回収、移設、反転や再設置で基質更新や除掃など人為的な管理と、引揚げて定量調査が可能な、網袋を用いた石詰め藻場礁を提供することができる。
又、前記目的海藻の種別に対応させて前記網袋の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体により、太い網地の場合は、太い網地に着生・生育しやすいコンブ類など大型海藻類を強固に網地に着生・生育させることができ、細い網地は、石詰め礁に収容した石材表面を海藻類の着生基質として利用できる。
更に、本発明の網袋を用いた石詰め藻場礁は、漁場において反転させることが容易であるため、反転により着生面の基質更新が容易に行なえ、漁場において毎年繰り返し海藻類を良好に着生させることができる。
【0021】
請求項2記載の発明によれば、ループロープ又は揚収用係止部材によって、網袋を用いた石詰め藻場礁の揚収、移設及び基質更新を容易に行うことができる。
【0022】
請求項3記載の発明によれば、本発明の網袋を用いた石詰め藻場礁は、網袋内下部に比較的大型の石材を投入し、前記比較的大型の石材上に、前記網袋よりも小さな小網袋に前記比較的大型の石材よりも小さなサイズの石材を詰めた複数の石詰め礁が、互いに連結され、又は連結されることなく投入される構造の大型藻場であり魚類増殖礁としても利用できるので、次のような効果が期待できる。
(1)大型礁を造成する方法であって、周囲に網袋を用いて側面を形成し、比較的大型の石材を収容して、その上部を石詰め藻場礁で覆うことで大型礁を海底に安定に保持できる。
(2)石材の安定した積み重ね状態が保持できる。
(3)耐波浪性を増大させ、施設の安定性を確保できる。
(4)下層の石材間に大・中の空間を造成できるため岩礁性の稚魚から成魚まで魚類が利用できる空間を形成できると共に、上部の石詰め藻場礁には海藻と小型動物類を育成することで、魚類の保護、生息、餌場空間を造成することができる。
(5)上面を覆う小型石材は小型空隙を形成するため、小型動物類が生息し、これらの動物が魚類の餌料として供給・利用され易い形状が得られる。
【0023】
請求項4記載の発明によれば、網袋内に比較的大きなサイズの石材を詰めた大型石詰め藻場礁と、網袋内に比較的小さなサイズの石材を詰めた小型石詰め藻場礁とを交互に1乃至複数列連接又は連結するので、大小サイズの石材を詰めた石詰め藻場礁が海底の起伏に沿うように載置されることにより、施設が海底に安定に保持されると共に、複数の石詰め藻場礁によって大小の空間を任意の大きさで造成できるため、岩礁性の稚魚から成魚まで魚類が利用できる保護・育成・餌場空間を造成することができる。
【0024】
請求項5記載の発明によれば、網袋の網地が比較的太く形成された太網地石詰め藻場礁と、網袋の網地が比較的細く形成された細網地石詰め藻場礁とを交互に1乃至複数列に連接又は連結して成るので、太網地石詰め藻場礁の太い網地は変形性や柔軟性が悪く、海底の凹凸に追従・変形し難いが、細い網地で形成された細網地石詰め藻場礁を太網地石詰め藻場礁と交互に施工することで、細網地石詰め藻場礁を海底の凹凸に追従させ、海底との摩擦抵抗を増大させて固定力を高め施設の安定性を向上させることができる。
【0025】
請求項6記載の発明によれば、請求項1,4又は5記載の発明の効果に加え、ループロープによって、船上からの鉤竿により引っ掛ける方法で網袋を用いた石詰め藻場礁の揚収又は移設又は石詰め藻場礁を反転して基質更新を容易に行うことができる。
【0026】
請求項7記載の発明によれば、請求項2乃至6のうちいずれか一に記載の発明の効果に加え、目的海藻の種別に対応させて前記網袋の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体により、太い網地の場合は、太い網地に着生・生育しやすいコンブ類など大型海藻類を強固に網地に着生・生育させることができ、細い網地の場合は、小型海藻類を着生・生育させることができると共に石詰め礁に収容した石材表面を海藻類の着生基質として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)本発明の、網袋の上面に網体を張設した、網袋を用いた石詰め藻場礁の斜視図である。(b)本発明の、網袋の上下面及び一側面に網体を張設した、網袋を用いた石詰め藻場礁の斜視図である。(c)本発明の、網袋の全周面に網体を張設した、網袋を用いた石詰め藻場礁の斜視図である。
【図2】(a)本発明の具体例として、石詰め藻場礁の四隅の側面外方にループ空間を形成するループロープを備えた、網袋を用いた石詰め藻場礁の斜視図である。(b)本発明の具体例として、石詰め藻場礁の両側面外方にループ空間を形成するループロープを備えた、網袋を用いた石詰め藻場礁の斜視図である。
【図3】(a)本発明の、網袋内下部に大きなサイズの石材を配設し、網袋内上部に小さなサイズの石材を配設した、網袋を用いた石詰め藻場礁の斜視図である。(b)前図3(a)の網袋を用いた石詰め藻場礁の施工方法を説明する説明図である。
【図4】(a)本発明の具体例として、大型石詰め藻場礁と小型石詰め藻場礁とを交互に1列に連接又は連結して成る複数の石詰め藻場礁の斜視図である。(b)本発明の具体例として、大型石詰め藻場礁と小型石詰め藻場礁とを交互に2列に連結して成る複数の石詰め藻場礁の斜視図である。
【図5】本発明の、太網地石詰め藻場礁と細網地石詰め藻場礁とを交互に連結して成る複数の石詰め藻場礁の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施例を示した図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
図1に於いて、1は、本発明の網袋を用いた石詰め藻場礁であり、網袋を用いた石詰め藻場礁1は、網袋2と、網袋2内に詰めた石材3と、網袋2内に詰めた石材3の移動を阻止すべく石材3を詰めた網袋2の外周を1乃至複数方向に1乃至複数個所で締め付け、又は、例えば網袋2の上面中央部から下面中央部まで網袋2の内部を貫通し、網袋2を貫通方向に引張して緊張させるロープ4を備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、更に、網袋の上面、上下面、上下面及び側面、側周面、その他の所定面、又は、全周面に張設されると共に、目的海藻の種別に対応させて網袋2の網地と異なる網地の太さ又は目相(網目の形状)に形成された網体5を備えたものである。
図1(a)に示す網袋を用いた石詰め藻場礁1Aは、一例として、網袋2の上面に網体5を張設したものであり、図1(b)に示す網袋を用いた石詰め藻場礁1Bは、一例として、網袋2の上下面及び側面に網体5を張設したものである。図1(c)に示す網袋を用いた石詰め藻場礁1Cは、一例として、網袋2の全周面に網体5を張設したものである。
尚、網袋を用いた石詰め藻場礁1Cの場合は、網袋2を無くし、網体5内に直接石材3を詰めても良い。
【0029】
前記網袋を用いた石詰め藻場礁1は、ロープ4により、網袋2を締め付け、又は、網袋2の内部を貫通し、網袋2を貫通方向に引張して緊張させるので、網袋2に収容した石材3が相互の摩擦により動きにくく保形性を持ち、一方、海底では石材3が合成する礁自体の自重と波で発生する断続的な振動で、石詰め藻場礁が海底の凹凸に追従・変形する性質をもって海底との摩擦抵抗を増大するため、底面が平坦な固体の形成品では得られかった自重以外の固定力を得ることができる。
【0030】
又、目的海藻の種別に対応させて前記網袋2の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体により、太い網地の場合は、太い網地に着生・生育しやすいコンブ類など大型海藻類を強固に網地に着生・生育させることができ、細い網地の場合は、石詰め礁に収容した石材表面を海藻類の着生基質として利用できる。
漁場に設置された、前記網袋を用いた石詰め藻場礁1は、細網、太網に関らず、母藻の成熟時期に(石詰め藻場)礁を反転して着生面の基質更新が実施できるため、漁場において毎年繰り返し海藻類を着生させることが可能となる。
【0031】
図2に示す網袋を用いた石詰め藻場礁11は、網袋2と、網袋2内に詰めた石材3と、網袋2内に詰めた石材3の移動を阻止すべく石材3を詰めた網袋2の外周を1乃至複数方向に1乃至複数個所で締め付け、又は、網袋2の内部を貫通し、網袋2を貫通方向に引張して緊張させるロープ4を備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、更に、網袋2を用いた石詰め藻場礁1の揚収又は移設を容易にすべく、ロープ4に付帯させて、網袋を用いた石詰め藻場礁11の側面外方にループ空間を形成するループロープ12を備えたものである。
尚、ループロープ12は、変形しにくく、或いは、復元力があり、形成されたループ空間を維持できるものが望ましい。又、ループロープ12に代えて、鉤竿等で引っ掛けられるものであれば、ロープ4に付帯させたその他の揚収用係止部材であっても良く、金属やプラスチック製のものであっても良い。
図2(a)は、石詰め藻場礁11の四隅の側面外方にループ空間を形成するループロープ12を備えた石詰め藻場礁11Aを示し、図2(b)は、石詰め藻場礁11の両側面外方にループ空間を形成するループロープ12を備えた石詰め藻場礁11Bを示している。
この構成によると、船上から鉤竿で前記ループロープ12を引っ掛けることにより、ループロープ12を船の舷側まで持上げて、ループ空間にロープ等を通し、船上に固定することで、一作業あたりに多数の網袋を用いた石詰め藻場礁11を揚収又は移設し易くすることができると共に、石詰め藻場礁11のループロープ12を引っ掛けて、その場で礁を反転させることにより海藻が着生する基質面を更新することができる。
尚、前記ループロープ12を、前記網袋を用いた石詰め藻場礁(図1に於いて1)に適用して設けることも可能である。
尚、前記石詰め藻場礁11に、前記網体(図1に於いて5)を配設することも可能である。
【0032】
図3(a)に示す網袋を用いた石詰め藻場礁21は、網袋2と、網袋2内に詰めた石材3と、網袋2内に詰めた石材3の移動を阻止すべく石材3を詰めた網袋2の外周を1乃至複数方向に1乃至複数個所で締め付け、又は、網袋2の内部を貫通し、網袋2を貫通方向に引張して緊張させるロープ4を備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有する、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、網袋2内には、網袋2内下部に比較的大型の石材を投入し、比較的大型の石材上に、網袋2よりも小さな小網袋に前記比較的大型の石材よりも小さなサイズの石材3を詰めた複数の石詰め礁を、互いに連結し、又は、連結しない状態で投入したものである。
前記網袋を用いた石詰め藻場礁21は、網袋2内下部に投入した石材3が網袋2内上部に投入した石材3よりも大きなサイズの石材であるので、次のような効果が期待できる。
(1)網袋を用いた石詰め藻場礁を海底に安定に保持できる。
(2)石材の安定した積み重ね状態が保持できる。
(3)耐波浪性を有し安定性を確保できる。
(4)比較的大型の、網袋を用いた石詰め藻場礁を造成できる。
(5)石材間に大・中の空間を造成できるため岩礁性の稚魚から成魚まで魚類が利用できる保護・生育・餌場空間などを造成することができる。
(6)上面を覆う小型石材は小型空隙を形成するため、小型動物類が生息し、これらの動物が魚類の餌料として供給・利用され易い形状が得られる。
尚、前記網袋を用いた石詰め藻場礁21は、比較的小型にすれば、反転により着生面の基質更新が行なえる。
【0033】
図3(b)は、前記網袋を用いた石詰め藻場礁21の施工方法の一例を示したものであり、先ず、海底の適地に大型の網袋2を敷設し、網袋2内の四隅を含む内側に石材3を入れて網袋2を海底に保持し、水面に浮球22を数個浮かべて網袋2の複数の端部を持上げると共に、浮球22を石材3の投入の目印とし、網袋2内下部に比較的大型の石材3を投入し、比較的大型の石材3上に、網袋2よりも小さな小網袋に前記比較的大型の石材よりも小さなサイズの石材を詰めた、必要により互いに連結された(必要がない場合は、連結されない)複数の石詰め礁を投入する。
これにより、網袋2内の下部(下層)に比較的大型の石材3が積層され、網袋2内の上部(上層)に小さなサイズの石材が積層される。
石材3の投入が終了したら、浮球22を取り外し、網袋2の上端部を潜水作業者により巾着状にすぼめて上端部を閉じ、ロープ4によって石材3を詰めた網袋2の外周を1乃至複数方向に1乃至複数個所で締め付けると共に、網袋2の上部にロープ4を張り巡らせ、網袋2を上部方向から引張して緊張させる。潜水作業が不可能な場合は、船上からの遠隔操作により各ロープ類を緊張して玉結びを作ることもできる。
尚、ロープ4は、網袋2の敷設前に、予め網袋2に組み込んでおくか、或いは、網袋2を海底に敷設する前に予め設置しておく。
又、前記網袋を用いた石詰め藻場礁21に前記網体(図1に於いて5)を配設することも可能である。
【0034】
前記網袋を用いた石詰め藻場礁21は、実海域試験を行ったところ、沿岸転石場の水深2〜2.5mにおいて若干の移動はあったものの、5mを越える波高で数日を経過しても安定して存在していた。これは、従来、コンクリート藻場礁では10t前後の重量を必要とする条件に相当するものであり、本発明の網袋を用いた石詰め藻場礁21は、網地により海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質をもつ構造体が形成され、この構造体の中を水流が通過できることにより、このような効果が達成されたものと考えられる。
【0035】
図4に示す網袋を用いた石詰め藻場礁31は、網袋2と、網袋2内に詰めた石材3と、網袋2内に詰めた石材3の移動を阻止すべく石材3を詰めた網袋2の外周を1乃至複数方向に1乃至複数個所で締め付け、又は、網袋2の内部を貫通し、網袋2を貫通方向に引張して緊張させるロープ4を備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、網袋2内に比較的大きなサイズの石材3を詰めた大型石詰め藻場礁31Aと、網袋31内に比較的小さなサイズの石材3を詰めた小型石詰め藻場礁31Bとを連結ロープ32によって交互に1乃至複数列(図4は1又は2列を示す)に連結又は連接して成る複数の石詰め藻場礁である。
【0036】
網袋を用いた石詰め藻場礁31は、比較的小さなサイズの石材3を詰めた小型石詰め藻場礁31Bが比較的に海底の細かな起伏に沿うように変形して載置されることにより、底面が自重以外の固定力(である摩擦抵抗)を得ることができ、複数の石詰め藻場礁(即ち施設)が海底に安定に保持されると共に、複数の石詰め藻場礁によって大小の空間を造成できるため、(甲殻類をはじめとする小型動物類や)岩礁性の稚魚から成魚まで魚類が利用できる保護・育成・餌場空間を造成することができる。
尚、前記大型石詰め藻場礁31Aに用いる小型石詰め藻場礁31Bに、前記網体(図1に於いて5)及び/又は前記ループロープ(図2に於いて12)を配設することも可能である。
【0037】
図5に示す網袋を用いた石詰め藻場礁41は、網袋2と、網袋2内に詰めた石材3と、網袋2内に詰めた石材3の移動を阻止すべく石材3を詰めた網袋2の外周を1乃至複数方向に1乃至複数個所で締め付けると共に、網袋2の内部を貫通し、網袋2を貫通方向に引張して緊張させるロープ4を備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、網袋2の網地が比較的太く形成された太網地石詰め藻場礁41Aと、網袋2の網地が比較的細く形成された細網地石詰め藻場礁41Bとを連結ロープ(図示せず)によって交互に1乃至複数列に連結して成る複数の石詰め藻場礁である。
【0038】
太網地石詰め藻場礁41Aの太い網地は海底の凹凸に追従し難いため、細い網地で形成された細網地石詰め藻場礁41Bを太網地石詰め藻場礁41Aと交互にそれぞれ単体で施工することで、細網地石詰め藻場礁41Bを海底の凹凸に追従させ、施設の安定性を向上させることができる。
尚、前記太網地石詰め藻場礁41Aや細網地石詰め藻場礁41Bに、前記網体(図1に於いて5)及び/又は前記ループロープ(図2に於いて12)を配設することも可能である。
【0039】
尚、前述した本発明の網袋を用いた石詰め藻場礁1,11,31,41は、細網、太網に関らず、母藻の成熟時期に(石詰め藻場)礁を容易に反転して着生面の基質更新が実施できるため、漁場において毎年繰り返し海藻類を着生させる効果が期待できる。
【符号の説明】
【0040】
1,11,21,31,41 網袋を用いた石詰め藻場礁
2 網袋
3 石材
4 ロープ
5 網体
12 ループロープ
31A 大型石詰め藻場礁
31B 小型石詰め藻場礁
41A 太網地石詰め藻場礁
41B 細網地石詰め藻場礁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋の上面、上下面、上下面及び側面、側周面、その他の所定面、又は、全周面に張設され、目的海藻の種別に対応させて前記網袋の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体を備えたことを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁。
【請求項2】
網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋を用いた石詰め藻場礁の揚収又は移設を容易にすべく、前記ロープに付帯させて、前記網袋を用いた石詰め藻場礁の側面外方にループ空間を形成するループロープ又は揚収用係止部材を備えたことを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁。
【請求項3】
網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有する、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋内には、前記網袋内下部に比較的大型の石材を投入し、前記比較的大型の石材上に、前記網袋よりも小さな小網袋に前記比較的大型の石材よりも小さなサイズの石材を詰めた複数の石詰め礁を、互いに連結し、又は連結しない状態で投入することを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁。
【請求項4】
網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋を用いた石詰め藻場礁は、前記網袋内に比較的大きなサイズの石材を詰めた大型石詰め藻場礁と、前記網袋内に比較的小さなサイズの石材を詰めた小型石詰め藻場礁とを交互に1乃至複数列に連接又は連結して成る複数の石詰め藻場礁であることを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁。
【請求項5】
網袋と、前記網袋内に詰めた石材と、前記石材を詰めた網袋の外周を締め付け、又は、前記網袋を引張して緊張させるロープとを備え、海底の凹凸に追従し変形して馴染む性質を有し、且つ、反転により着生面の基質更新が容易に行なえる、網袋を用いた石詰め藻場礁であって、
前記網袋を用いた石詰め藻場礁は、前記網袋の網地が比較的太く形成された太網地石詰め藻場礁と、前記網袋の網地が比較的細く形成された細網地石詰め藻場礁とを交互に1乃至複数列に連接又は連結して成る複数の石詰め藻場礁であることを特徴とする、網袋を用いた石詰め藻場礁。
【請求項6】
前記網袋を用いた石詰め藻場礁の揚収又は移設を容易にすべく、前記ロープに付帯させて、前記網袋を用いた石詰め藻場礁の側面外方にループ空間を形成するループロープを備えたことを特徴とする、請求項1,4又は5記載の網袋を用いた石詰め藻場礁。
【請求項7】
前記網袋の上面、上下面、上下面及び側面、側周面、その他の所定面、又は、全周面に張設され、目的海藻の種別に対応させて前記網袋の網地と異なる網地の太さ又は目相に形成された網体を備えたことを特徴とする、請求項2乃至6のうちいずれか一に記載の網袋を用いた石詰め藻場礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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