説明

綿・アクリル系繊維材料の改質加工法

【課題】アクリル系繊維材料をヒドラジン処理した後、アルカリ処理する事によって、吸放湿性に優れたアクリル繊維を製造する方法が公知であるが、抗ピリング性を初めとする強度、形態安定性、染色性、保温性等は不充分であった。
【解決手段】本発明者等は上記諸問題を解決し、肌に優しい綿・アクリル系繊維材料の改質加工法の実用化研究を進めた結果、ヒドラジンによって処理した後、多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤を用いて架橋反応とカチオン化を同時に行う事によってこれらの諸問題が一挙に解決する事を見出した。
本発明は、特に湿潤発熱性、抗ピリング性並びに染色性が優れており、着用快適性にも優れた綿・アクリル系機能性繊維材料を提供する事が出来る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は綿・アクリル系混紡交織繊維に親水性置換基を導入すると同時に、架橋反応させる事によって、湿度変化に伴う水分の吸着が発熱源になる湿潤発熱性機能と、抗ピリングを初めとする形態安定性並びに良好な染色性を兼ね備えた綿・アクリル系繊維を提供する改質加工法である。
更に詳しくは本発明は、綿・アクリル系混紡・交織繊維にヒドラジンを作用させてアクリル繊維サイドにアミノトリアゾール基を導入した後、多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤を反応させて両繊維に架橋反応とカチオン化を同時に起こさせる事によって湿潤発熱機能性を有すると共に、抗ピリング性を初めとする形態安定性と、良好な染色性を兼ね備えた綿・アクリル混繊維を提供する改質加工法である。
【背景技術】
【0002】
近年、生活の質の向上と環境・安全・健康問題への関心の高まりに伴って、形状記憶繊維、難燃・防炎繊維、紫外線遮蔽繊維、防虫・防ダニ繊維、抗菌繊維、消臭繊維、高質感・高風合繊維、皮膚障害予防繊維、湿潤発熱性繊維等の機能性繊維が次々と開発されており、繊維業界の注目を集めている。
一方、中国に席捲されつつある日本の繊維産業が生き残り、中国と共生する為には、繊維に付加価値をつけた機能性繊維の開発が不可欠と考えられ、そのような観点からも機能性繊維の開発と実用化は日本の繊維業界にとって極めて重要な課題となっている。
綿はソフトな肌触り感を有しており、吸水性も優れている天然繊維であるが、綿にアクリル系繊維を混紡・交織した綿・アクリル混繊維は、価格が安くなる事と、ソフト感が一層高まることから、靴下、インナー、セーター等によく用いられる。
【0003】
しかしながら、綿・アクリル混繊維の欠点は、アクリル系繊維に起因する抗ピリング性や形態安定性が良くない、保温性と保湿性に改善の余地がある等、問題点が残っており、改良特許も多く出されている。
例えば特開平5−132858号公報には、アクリル系繊維のニトリル基の一部をヒドラジンで処理して架橋反応させたあと、苛性ソーダで残余のニトリル基を加水分解してカルボキシル基とし、更に該カルボキシ基を塩型に変える事による高吸放湿性繊維の製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記特開平5−132858号公報に記載された方法で製造された繊維には問題点が多い事は、特開2001−159073号公報や、特開平9−158040号公報に指摘されている通りである。
即ち、特開2001−159073号公報には、特開平5−132858号公報によって作られたアクリル系繊維は形態保持性に劣る問題があり、形態安定性が求められる用途には使用できないと記載され、また、繊維が脆化して強度が小さいので紡糸や混紡が困難で、これらの繊維を用いて衣類などを製造する事は実際上困難であると記載されている。この特許はこれらの問題点を改良する方法として苛性ソーダの代わりに炭酸ナトリウムを使用してマイルドに加水分解する事を提案しているのである。
特開平9−158040号公報もこれらの問題点(繊維強度が低い。繊維に濃いピンクや濃い茶色の着色が生じる)を改良する方法として酸処理Aを加える等の改良法が提案されている。
しかしながら、これらの改良特許は、第2工程に於いてアクリル系繊維のニトリル基を加水分解してカルボキシル基を導入する点は同じであり、ニトリル基をカルボキシル基に変換する事によって起きる問題点、即ち、多かれ少なかれ染色性が低下する事、強度が低下する事、及びピリング性を初めとする形態安定性が不充分である事などの問題点を有する事は否めない。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した様に、アクリル系繊維の吸放湿性を改善し、抗菌性や難燃性を付与する特許が公開されており、更にその改良特許も公開されているが、これらの特許に記載された方法でアクリル系繊維を処理すると、多かれ少なかれ繊維強度が低下したり、ピリングが発生したり、染色性が低下することは避けて通ることは出来ない。
本発明者等はこれらの課題の解決、即ち抗ピリング性を初めとする形態安定性を付与すること、染色性を改善する事、湿潤発熱性を付与する事によって保温性を高める事を目標に研究を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は経済性、加工製品の風合・着用快適性、抗ピリング性、耐洗濯性、加工効果等、品質に優れた肌に優しい機能性繊維の製造法に関する開発研究を推進した結果、綿・アクリル混繊維材料に、適量のヒドラジン処理を施した後、架橋型カチオン化剤で処理する事によって、抗ピリング性を初めとする形態安定性、強度、湿潤発熱性並びに染色性の良好な綿・アクリル系繊維材料を製造する事ができる事を見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は綿とアクリル系繊維の混紡・交織繊維にヒドラジン系化合物を反応させてアクリル系繊維にポリアミノトリアゾール基を部分的に導入した後、多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤を作用させて、アクリル−アクリル間、アクリル−綿間、綿−綿間に架橋結合を作り、同時にカチオン基を導入する事によって湿潤発熱性を備えさせると共に、抗ピリング性を初めとする形態安定性と、良好な染色性を兼ね備えた綿・アクリル系繊維を提供する改質加工法である。
【0008】
本発明の実施形態をより詳しく具体的に説明する。
例えば、チーズ染色機を用い、浴比1:10〜1:30の水の中に、5〜20%owfのヒドラジン系化合物を加え、更に1〜3%owfの脱気剤及び均染剤を加え、綿・アクリル系繊維(C/A比=90/10〜10/90%)をセットして液を循環しながら2℃/min.で昇温する。110〜130℃に30分〜1時間程度加熱・循環する。次いで50〜80℃まで冷却して、苛性ソーダ10g/L及び多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤を10〜20%owf加え、1℃/min.で100℃に昇温して2時間保温する。次いで水洗、ソーピング、洗浄すればよい。
【0009】
本発明で使用可能なヒドラジン系化合物は、アクリル系繊維のシアノ基と反応してアミノトリアゾール環を形成する事ができる化合物で、アミノ基を複数有する化合物が使用できる。ヒドラジン系化合物の具体例をあげると、次のような化合物を例示出来る。
例えば、水加ヒドラジン、中性硫酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、燐酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン等のヒドラジン系化合物を具体例として挙げる事ができる。
【0010】
本発明で使用される多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤は、特公昭39−5985号公報2頁目、参考例1及び2に記載がある合成法に準じて、多官能グリシジルエーテル1モルと3級アミン1モルとを50〜100℃で数十分〜数時間反応させて4級化する事によって合成する事ができる。
このカチオン化反応で原料として使用可能な多官能グリシジルエーテルとしては次のような化合物を挙げる事ができる。
例えば、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等を具体例として挙げる事ができるが、要は多数のエポキシ基を有するポリグリシジルエーテルであれば良いのであって、これらの例に限定されるものではない。
また、3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等、置換又は非置換トリアルキルアミンが利用できる。
【0011】
本発明で多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤の架橋反応に使用されるアルカリ剤とは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、燐酸塩、珪酸塩、水酸化物等で、例えば炭酸ソーダ、炭酸カリ、重炭酸ソーダ、重炭酸カリ、炭酸リチウム、第3燐酸ソーダ、第2燐酸ソーダ、珪酸ソーダ、苛性ソーダ、カセイカリ、水酸化マグネシューム等の単独或いは混合物である。
【0012】
本発明の加工対象繊維材料とは、アクリル系繊維と綿との混紡・交織繊維であり、混合比率は、10:90〜90:10(%)の範囲が好ましく用いられる。綿の中には再生セルロース系繊維を含んでいても良い。また、アクリル繊維の中にはアクリル酸メチルなどのアクリレートとの共重合繊維であっても良いし、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン等、その他の合成繊維を数%含んでいてもよい。
【0013】
本発明方法によって加工・改質された綿・アクリル系繊維材料は、湿潤発熱性、抗ピリング性、形態安定性、風合良好性、着用怏適性、良好な染色性等、優れた機能性繊維となり、皮膚に優しい暖かみのある風合いが付与され、強度、しなやかさにも優れ、繰り返し洗濯耐久性にも優れた機能性繊維が得られる。
【実施例】
【0014】
以下実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。なお、例中、部及び%は重量部及び重量%を意味する。
【0015】
実施例1
綿:アクリル=70:30%のチーズ巻き混紡糸(60/−)1kgを容量12Lのチーズ染色機にセットし、水12Lを仕込む。
次いで液を循環しながら、ALBEGAL FFA(CIBA社製、脱気剤)1%owf、ALBEGAL BF(CIBA社製、均染剤)3%owf、98%ヒドラジン水溶液10%owfを加える。2℃/min.で130℃まで昇温して30分間保温循環する。次いで80℃まで徐冷して、苛性ソーダ10g/L及びカチオノンUK(一方社製、多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤)を20%owf加え、1℃/min.で100℃に昇温し、2時間保温循環する。次いで冷却して排水、水洗したあと、60℃で湯洗する。更に水洗して常法によりカチオン染料と反応染料を用いて染色を行ったところ良好な染色性を示した。このようにして改質加工した綿・アクリル混の糸を編み機で編みたてて、下記の通り試験した。
(1)抗ピリング試験[JIS−L−1076 A法(ICI法)]:
本発明品=4〜5級
未加工品=2〜3級
上記試験結果から明らかなように、本発明加工品は抗ピリング性が著しく優れており、強度及び形態安定性も優れている事が確認された。
(2)湿潤発熱性試験
[サーモグラフィ表面温度解析:試験品の環境温度を変化させ、生地の表面温度を 観察した。
試験時の室温:23.0±2℃
湿度を30%RHに安定(約30分)→90%RHまで上昇させた湿度90%の み90%に達した時点と、そこから10分後の温度も測定した]:
その結果、未加工品に比べて加工品は2℃高い湿潤発熱性を示した。
この値は羊毛に匹敵する値である。
【0016】
実施例2
実施例1に於けるカチオノンUKの代わりに、ソルビトールポリグリシジルエーテルとトリメチルアミンの各1モルを反応させて4級化した多官能グリシジルエーテルのカチオン化剤を使用する以外は同様に処理して得た綿・アクリル混の糸を編み機で編みたてて、実施例1と同様に試験した結果、抗ピリング性、強度、湿潤発熱性並びに染色性とも実施例1と同様に優れていた。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば綿・アクリル混繊維材料に架橋反応と同時にカチオン基を付与する事ができるので、その結果、羊毛に匹敵する湿潤発熱性を付与できるだけでなく、抗ピリング性、形態安定性、しなやかさ、強度、風合の耐久性並びに染色性にも優れた綿・アクリル混繊維材料を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿・アクリル混紡・交織繊維をヒドラジンで熱処理する事によってアクリル繊維サイドにアミノトリアゾール基を導入した後、架橋型カチオン化剤を加えて熱処理する事により、両繊維にカチオン基を付与すると同時に架橋反応を行う事を特徴とする湿潤発熱性、抗ピリング性並びに染色性の優れた綿・アクリル混紡・交織繊維及びその製法。
【請求項2】
請求項1において、ヒドラジンを用いてアクリル繊維サイドにアミノトリアゾール基を導入するに当って、ヒドラジンの使用量を、5〜20%owf使用することを特徴とする湿潤発熱性、抗ピリング性並びに染色性の優れた綿・アクリル混紡・交織繊維の製法。
【請求項3】
請求項1における架橋とカチオン化を同時に行う反応条件として、アルカリ性で多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤を用いて熱処理することを特長とするカチオン化と架橋反応を同時に行う事を特徴とする湿潤発熱性、抗ピリング性並びに染色性の優れた綿・アクリル混紡・交織繊維の製法。
【請求項4】
請求項1における架橋型カチオン化剤として、末端に第4級アンモニューム基を有し、アルカリ性の下で複数のエポキシ基を生成する事が可能な多官能グリシジルエーテル型カチオン化剤を使用する事を特徴とする湿潤発熱性、抗ピリング性並びに染色性の優れた綿・アクリル混紡・交織繊維の製法。
【請求項5】
請求項1における改質加工対象繊維材料として、綿とアクリル系繊維の混合比率を綿10〜90%、アクリル系繊維90〜10%の範囲とし、場合によっては他の天然繊維、再生繊維或いは合成繊維を含んでいてもよい繊維材料を対象とする事を特徴とする湿潤発熱性、抗ピリング性並びに染色性の優れた綿・アクリル混繊維並びにその製法。

【公開番号】特開2007−297759(P2007−297759A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154036(P2006−154036)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(595067419)
【Fターム(参考)】