説明

緊急時指揮支援サーバ、シナリオ実行方法、コンピュータプログラム

【課題】緊急対応シナリオを実行中に有用な実行履歴を提供し、進捗状況の把握が容易な緊急時指揮支援技術を提供する。
【解決手段】クライアント端末3の各利用者に一連の処理を指示するための複数のメッセージ毎に、当該メッセージによる処理以降のすべての処理を終了するまでの残りの処理時間、及びメッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には選択肢毎の選択される確率が設定されるシナリオに沿って、緊急対応シナリオ実行エンジン22がクライアント端末3に順次メッセージを表示する。メッセージにより指示される処理にかかった実際の時間及び選択肢の選択結果を実行履歴情報として保持しておき、実際の時間に基づいて残りの処理時間を更新し、選択肢の選択結果に基づいて確率を更新する。残りの処理時間及び確率は、メッセージとともにクライアント端末3に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や火災等の災害に対して企業や行政体が危機管理対応を行う際に、危機管理用のワークフローに沿ったシナリオの実行を支援するための緊急時指揮支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークフローに応じて、各々が役割を持つ複数の利用者に対し、適切なタイミングで必要な指示や情報を提示したり、判断を求めたりする緊急時指揮支援システムが提案されている。特許文献1〜3には、このような従来の緊急時指揮支援システムについての技術が開示されている。また、本出願人もAgADIS(登録商標)、NoKeos(登録商標)といった緊急時指揮支援システムを従来から提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−334078号公報
【特許文献2】特開平11−15875号公報
【特許文献3】特開2002−259887号公報
【0004】
緊急時指揮支援システムでは、災害の発生した現場や各方面から収集された情報等を用いて、ワークフローに応じて予め策定されたシナリオに沿って、対応方針が決定される。「シナリオ」は、緊急時の対応や行動が規定されており、事前に想定される事態の推移に応じて、緊急対応に必要な対応方針、マニュアル、経験・ノウハウ等と時間の概念を組み合わせて作成されている。利用者は、自身がなすべき対応のみを適宜指示されるために、全体の処理手順が分からない場合でも、緊急時に適切な処理を適切なタイミングで実行することができる。
【0005】
このようなシステムでは、緊急時に、過去、どのような対応がなされたか、どのくらい時間がかかったのか、といった過去の情報(以下、「実行履歴情報」という。)が参考になることがあり、シナリオだけでなく実行履歴情報を参照することが有用なことがある。また、緊急時の対応を全体的に統括するような責任者(以下、「統括責任者」という。)は、自身のなすべき処理の他に、シナリオ全体の進捗状況(実施済み処理や残処理とその所要時間)を把握する必要がある。
【0006】
利用者が実行履歴や実行中のシナリオの進捗状況を把握し易くするために、従来の緊急時指揮支援システムには、類似の事例を検索して表示する機能や、ワークフローでの実施位置や残処理を表示する機能が提供されている。これらの機能により、(1)実行時に類似の事例を検索して、過去の実行履歴情報を表示する、(2)現在の実行位置をワークフロー上でハイライトする、(3)現在の実施位置における実行済み処理、実行待ち処理、未実行処理の処理数及び一覧を表示する、等が行われる。
【0007】
しかし、例えば上記(1)のように、過去の事例を検索する場合、実行履歴をどのように活用すればよいのか、具体的な方法が不明である。選択肢の履歴等が参考になる場合もあるが、状況に応じて選択は変わることから、一概に参考にはできない。また、上記(2)、(3)のように全体のシナリオの中での実行位置や現在の実行位置における実行済み処理、実行待ち処理、未実行処理の処理数で表現したとしても、作業終了までの対応時間の予測は立てることが困難である。
さらに、過去の履歴の参照や、作業終了までの時間の予測に実行履歴情報を活用しようとしても、訓練や実際の緊急事態の発生が頻繁ではないために、統計的な処理をするための履歴数を蓄積するためには長期間が必要になり、活用の機会が限られるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、上記の問題に鑑み、実際にシナリオを実行中に有用な実行履歴を提供し、進捗状況の把握が容易な緊急時指揮支援技術を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する本発明の緊急時指揮支援サーバは、1以上のクライアント端末との間でデータの送受信が可能であって、前記1以上のクライアント端末の各利用者に一連の処理を指示するための複数のメッセージ毎に、当該メッセージによる処理以降のすべての処理を終了するまでの残りの処理時間、及び前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には選択肢毎の選択される確率、が設定されるシナリオを記憶する第1記憶手段と、前記シナリオに設定される前記メッセージ及び当該メッセージに設定される前記残りの処理時間に基づくシナリオ終了までの予測時間を所定のクライアント端末に表示させるとともに、当該メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の前記確率を当該クライアント端末に表示させ、前記所定のクライアント端末から当該メッセージに対する回答がある場合にこれを受信して、受信した前記回答、前記クライアント端末への当該メッセージの表示開始時刻、及び当該処理の終了時刻を含む実行履歴情報を第2記憶手段に記憶するシナリオ実行手段と、前記実行履歴情報に含まれる前記メッセージの表示開始時刻及び前記終了時刻から、当該メッセージにより指示される処理にかかった実際の時間を算出して、その算出結果に基づいて当該メッセージに設定される前記残りの処理時間を更新し、前記実行履歴情報に含まれる回答が複数の選択肢から選択されたものである場合には、その回答に基づいて前記選択肢毎の前記確率を更新する履歴分析手段と、を備える。
【0010】
本発明の緊急時指揮支援サーバは、利用者に対して処理を指示するメッセージをクライアント端末に表示させるときに、シナリオ終了までの予測時間を表示させる。また、メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の選択される確率を当該クライアント端末に表示させることも可能である。これらの情報を利用者に支援情報として提供され、利用者は、シナリオ全体の進捗状況を把握して、選択肢がある場合にはどの選択肢が選択されているかが容易にわかるようになる。また、実行履歴情報により残り処理時間及び選択肢毎の選択される確率が更新されるので、これらの支援情報を、実行履歴が反映されたものとすることができ、シナリオの実行履歴を有効活用できる。
このように、実行履歴が反映された確率を提示することで、シナリオ実行時の判断の参考となるような情報を提供し、適切なシナリオ進行を促すことができる。また、シナリオの進捗状況を終了までの予測時間という具体的な数値で把握することで、今後の対応指示や体制整備に役立てる事ができる。
【0011】
前記シナリオには、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎に、前記残りの処理時間が設定されていてもよい。この場合、例えば、前記シナリオ実行手段は、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎の前記残りの処理時間に基づく前記予測時間を前記クライアント端末に表示させるように構成することができる。選択される選択肢により後の処理内容が変わる場合には、残りの処理時間が選択肢毎に変わることになる。その場合でも、このような構成であれば適切な支援情報を提供可能である。
前記シナリオは、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎に、過去に選択された回数が記録されていてもよい。この場合、例えば、前記シナリオ実行手段は、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎の過去の選択された回数を前記クライアント端末に表示させるように構成することができる。過去の選択肢毎の選択の回数を利用者に提供することで、実際の処理の実行回数が少なく、選択肢毎の確率の信頼度が高くない場合でも、利用者に対して参考となる情報を提供することができる。
【0012】
本発明のシナリオ実行方法は、1以上のクライアント端末との間でデータの送受信が可能であり、前記1以上のクライアント端末の各利用者に一連の処理を指示するための複数のメッセージ毎に、当該メッセージによる処理以降のすべての処理を終了するまでの残りの処理時間、及び前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には選択肢毎の選択される確率が設定されるシナリオを記憶する緊急時指揮支援サーバにより実行される。緊急時指揮支援サーバは、前記シナリオに設定される前記メッセージ及び当該メッセージに設定される前記残りの処理時間に基づくシナリオ終了までの予測時間を所定のクライアント端末に表示させるとともに、当該メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の前記確率を当該クライアント端末に表示させる段階と、前記所定のクライアント端末から当該メッセージに対する回答がある場合にこれを受信して、受信した前記回答、前記クライアント端末への当該メッセージの表示開始時刻、及び当該処理の終了時刻を含む実行履歴情報を所定の記憶手段に記憶させる段階と、前記実行履歴情報に含まれる前記メッセージの表示開始時刻及び前記終了時刻から、当該メッセージにより指示される処理にかかった実際の時間を算出して、その算出結果に基づいて当該メッセージに設定される前記残りの処理時間を更新する段階と、前記実行履歴情報に含まれる回答が複数の選択肢から選択されたものである場合には、その回答に基づいて前記選択肢毎の前記確率を更新する段階と、を含む。
【0013】
本発明のコンピュータプログラムは、1以上のクライアント端末との間でデータの送受信が可能なコンピュータに、前記1以上のクライアント端末の各利用者に一連の処理を指示するための複数のメッセージ毎に、当該メッセージによる処理以降のすべての処理を終了するまでの残りの処理時間、及び前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には選択肢毎の選択される確率、が設定されるシナリオを記憶する第1記憶手段、前記シナリオに設定される前記メッセージ及び当該メッセージに設定される前記残りの処理時間に基づくシナリオ終了までの予測時間を所定のクライアント端末に表示させるとともに、当該メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の前記確率を当該クライアント端末に表示させ、前記所定のクライアント端末から当該メッセージに対する回答がある場合にこれを受信して、受信した前記回答、前記クライアント端末への当該メッセージの表示開始時刻、及び当該処理の終了時刻を含む実行履歴情報を第2記憶手段に記憶するシナリオ実行手段、前記実行履歴情報に含まれる前記メッセージの表示開始時刻及び前記終了時刻から、当該メッセージにより指示される処理にかかった実際の時間を算出して、その算出結果に基づいて当該メッセージに設定される前記残りの処理時間を更新し、前記実行履歴情報に含まれる回答が複数の選択肢から選択されたものである場合には、その回答に基づいて前記選択肢毎の前記確率を更新する履歴分析手段、を形成させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、利用者に対して処理を指示するメッセージをクライアント端末に表示させるときに、当該処理以降のすべての処理を終了するまでの残り処理時間を表示させる。また、メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の選択される確率を当該クライアント端末に表示させる。これらの情報により、利用者は、シナリオ全体の進捗状況を把握して、選択肢がある場合にはどの選択肢が選択されているかが容易にわかるようになる。また、実行履歴情報により残り処理時間及び選択肢毎の選択される確率が更新されるので、これらの支援情報を、実行履歴が反映されたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】緊急時指揮支援システムの全体構成図である。
【図2】緊急対応リポジトリに格納される雛形の例示図である。
【図3】緊急対応シナリオの例示図であり、図3(a)はシナリオ概要テーブル、図3(b)は担当情報テーブル、図3(c)は大項目テーブル、図3(d)はノード情報テーブルを表す。
【図4】実行履歴情報の例示図である。
【図5】緊急時指揮支援サーバにおいて実行される処理のフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートによる一連の処理を表す図である。
【図7】シナリオ実行画面の例示図である。
【図8】履歴情報画面の例示図である。
【図9】処理が分岐するノード情報における「残りの対応時間」の算出を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の緊急時指揮支援システムの全体構成図である。
緊急時指揮支援システム1は、緊急時指揮支援サーバ2及び1以上のクライアント端末3がネットワークLを介して接続されて構成される。ネットワークLは、緊急時指揮支援サーバ2とクライアント端末3との間でデータの送受信が可能であれば、公衆回線、LAN(Local Area Network)のような構内回線、或いはこれらを組み合わせたもの等どのような構成でもよく、また、有線、無線を問わない。
【0017】
クライアント端末3は、利用者毎に設けられておりネットワークLを介して、緊急時指揮支援サーバ2との間でデータの送受信を行う。この実施形態では、クライアント端末3が、本部、消火班、救護班の各利用者に対して設けられている。クライアント端末3は、緊急時指揮支援サーバ2から送られてくるデータを表示するためのディスプレイ及び利用者によるデータの入力を可能にするためのキーボード、マウスなどの入力装置が接続された、パーソナルコンピュータやPDA、携帯電話機等の情報処理装置である。クライアント端末3は、シナリオの策定時には策定用のデータを入力するためのシナリオ編集用端末として用いられ、緊急対応時にはシナリオの実行に伴って緊急時指揮支援サーバ2からの様々な情報を利用者に提供するとともに利用者からの入力を緊急時指揮支援サーバ22に送信するための緊急対応支援用端末として用いられ、緊急対応計画分析時には履歴分析用端末として用いられる。
【0018】
緊急時指揮支援サーバ2は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び本発明のコンピュータプログラムを記憶する記憶装置を備えており、起動時に、コンピュータプログラムを実行するようになっている。緊急時指揮支援サーバ2は、大容量記憶装置が内蔵或いは外付けされている。緊急時指揮支援サーバ2は、上記のようなハードウェア構成でコンピュータプログラムを実行することにより、緊急対応時のシナリオ(緊急対応シナリオ)の策定を行うための緊急対応シナリオエディタ部21、緊急対応シナリオを実行するための緊急対応シナリオ実行エンジン22、緊急対応シナリオの実行結果を分析するための緊急対応履歴分析部23を形成するとともに、大容量記憶装置にデータベース24を構築する。
データベース24は、緊急対応シナリオ作成を容易にするための一般的な緊急対応計画の雛形を格納する緊急対応リポジトリ241と、策定した緊急対応シナリオを蓄積するための緊急対応シナリオライブラリ242と、報告書の作成及び対応履歴の分析を行うために実行履歴情報を記録する緊急対応履歴データベース(以下、DBを記す。)243とを含んでいる。
【0019】
図2は、緊急対応リポジトリ241に格納される雛形の例示図である。緊急対応リポジトリ241は、緊急時のワークフローに応じて規定された緊急対応シナリオを構成するためのノード情報の雛形を、大項目、中項目、小項目で分けられる分類毎に記憶している。ここでいうノード情報は、対応の項目及び回答タイプなど基本的な事項についてそれぞれ設定されている。これらの雛形を利用して、利用者が緊急対応時に実施する具体的な作業を洗い出し、作業手順を決めて、緊急対応シナリオを作成する。
【0020】
図3(a)〜(d)は、緊急対応シナリオの例示図である。緊急対応シナリオは、図3(a)に示すシナリオ概要テーブル、図3(b)に示す担当情報テーブル、図3(c)に示す大項目テーブル、図3(d)に示すノード情報テーブル、の4つのテーブルから構成される。
シナリオ概要テーブルには、緊急対応シナリオのシナリオ名、バージョン、作成日、編集日、作成者が記録される。
担当情報テーブルには、利用者(担当者)の所属と、利用者が使用するクライアント端末3のアカウントとして例えばクライアント端末3のIPアドレスと、が記録される。緊急時指揮支援サーバ2は、アカウントによりクライアント端末3を識別可能になっており、データを送受信する場合に、アカウントにより送受信先のクライアント端末3及びその利用者(担当者)が特定可能になっている。
大項目テーブルには、この緊急対応シナリオで実行される一連の作業をまとめた大項目の項目名が記録される。大項目を記録することで、緊急対応シナリオをいくつかの意味のあるまとまりに整理することができる。項目名を、例えば小項目まで1つ1つ羅列したものでは、シナリオ作成時、実行時、分析時のすべてにおいて状況の把握がしにくいためである。
【0021】
ノード情報テーブルには、利用者により緊急対応シナリオに沿って実行される具体的な一連の処理の単位をノードとし、その内容がノード情報として記録される。1つ1つのノード情報には項目IDが振られ、属する大項目名、メッセージの種別(質問、作業指示、参考情報等)、実施する利用者(担当)、当該利用者のクライアント端末3に表示されるメッセージ、回答タイプ、次のフローの遷移先の項目ID、遷移先の選択確率、選択確率の変更可否、過去の遷移先の選択回数、緊急対応シナリオによる処理をすべて終了するまでの残りの対応処理時間、メッセージのクラス、ノード情報の処理を実行するのに要する所要時間、が記録される。
【0022】
「選択確率」は、項目ID1−3や項目ID2−5のように、遷移先に複数の選択肢があって処理ルートが分岐するものに対して、各処理ルートが選択される確率を表している。なお、並列処理の分岐は対象外である。「選択確率」は、初期値が、例えば予め発生確率が予想できるような場合には具体的な数値、不明な場合には等分で設定される。
「所要時間」は、フローを制御するためのノード情報には基本的に必要とされないが、例外的にタイマーノードのように時間を制御するためのノード情報には設定される。
メッセージの「クラス」は、各ノード情報による処理を、例えば、素早い対応を必要とする処理(所要時間5分)、要確認の対応を必要とする処理(所要時間15分)、重大決定事項の対応を必要とする処理(所要時間未定)の3つに分類する。ノード情報をクラス分けすることで、利用者に各ノード情報の処理時間を意識させることができる。「所要時間」は、例えばこのクラスに基づいて設定される。
遷移先の選択確率や、ノード情報毎の処理の所要時間は、緊急対応シナリオの実行履歴情報により更新される。そのために、実作業の結果を反映したものとなる。
【0023】
「残りの対応処理時間」は、属するノード情報による処理以降のすべての処理を終了するまでの時間を表す。「残りの対応処理時間」は、単純に、属するノード情報以降に処理されるすべてのノード情報の所要時間を加算したものでもよい。但し、項目ID1−3や項目ID2−5のように遷移先に複数の選択肢がある場合には、選択肢毎に以降の処理のノード情報の所要時間を加算して表される。
また、この他に、緊急対応シナリオの作成時に設定された各ノード情報の「所要時間」と「選択確率」を用いて、「残りの対応処理時間」が算出されてもよい。この場合、選択肢の「選択確率」を用いて、各処理ルートを選択した場合の所要時間に「選択確率」を乗じて足しあわせることで、期待値として「残りの対応処理時間」を算出する。また、定期的に連絡を入れる、一定時間毎に繰り返し確認する、等のノードに対応する処理を行うことがシナリオの進行に関連しないものについては、緊急対応シナリオ全体の終了と同期しているので、予測に使う処理ルートとしては無視する。
【0024】
図4は、実行履歴情報の例示図である。
実行履歴情報は、緊急対応シナリオのノード情報毎の履歴を記録する。各ノード情報の項目IDは、緊急対応シナリオの各ノード情報の項目IDと同じであり、それぞれにメッセージの表示開始時刻、処理の実行終了時刻、メッセージに回答した利用者(実施者)、及びメッセージへの回答内容が記録される。表示開始時刻及び実行終了時刻により、当該ノード情報の実際の処理時間がわかるようになっている。
【0025】
<処理手順>
このような緊急時指揮支援システム1では、以下のようにして、緊急時の指揮に用いられる緊急対応シナリオの作成、緊急対応シナリオによる訓練時や実際の緊急時の対応指示、緊急対応シナリオの分析処理が行われる。
【0026】
・緊急対応シナリオの作成
緊急対応シナリオの作成は、クライアント端末3からの指示に応じて、緊急時指揮支援サーバ2の緊急対応シナリオエディタ部21により実行される。緊急対応シナリオエディタ部21は、シナリオ編集用端末として機能するクライアント端末3から、シナリオ作成要求を受信することで緊急対応シナリオの作成を開始する。シナリオ作成の際には、緊急対応シナリオエディタ部21により、クライアント端末3のディスプレイにシナリオ作成を支援するための作成画面が表示される。シナリオ編集用端末として機能するクライアント端末3は、本部、消火班、救護班のいずれのものでもよいが、通常は本部のクライアント端末3を用いる。
【0027】
利用者は、緊急対応リポジトリ241の雛形を参考としながら、少なくとも、ノード情報に示される処理を行う利用者の所属(担当)及び遷移すべきノード情報を表す遷移情報、各ノード情報のクラス、ノード情報に示される処理に要する所要時間、ノード情報の遷移先が分岐する場合には各分岐の選択確率を含む必要事項を入力する。なお、シナリオ作成時の所要時間は、個別に設定してもよく、また、設定したクラスにあわせて設定してもよい。これらの入力事項により、図3に示すような緊急対応シナリオが作成されて、緊急対応シナリオライブラリ242に登録される。この際、複数のノード情報のつながりを1つの雛形として緊急対応リポジトリ241に登録しておき、これを編集する事としてもよい。
作成された緊急対応シナリオは、図3(d)のような表形式或いはフローチャート形式でクライアント端末3により印刷可能である。印刷物は、緊急対応マニュアルとして利用することができる。
【0028】
・緊急対応シナリオによる訓練時や実際の緊急時の対応指示
このようにして作成された緊急対応シナリオを用いて、訓練或いは実際の緊急時の対応指示が行われる。
この場合、緊急対応シナリオ実行エンジン22は、緊急対応シナリオライブラリ242から読み出した緊急対応シナリオのノード情報テーブルに記録された各メッセージをノード情報順に読み出して、処理を実行することになる利用者のクライアント端末3に適宜表示させる。また、緊急対応シナリオ実行エンジン22は、対応状況をクライアント端末3から受け取って、緊急対応履歴243の実行履歴情報の該当する項目IDに関連付けて記録する。
【0029】
図5はこれらの処理を含む緊急時指揮支援サーバ2において実行される処理のフローチャートであり、図3の緊急対応シナリオを実行する場合を示す。図5の一連の処理における緊急時指揮支援サーバ2及び各クライアント端末3の動作は図6で表される。
【0030】
緊急時指揮支援サーバ2は、緊急対応シナリオ実行エンジン22により緊急対応シナリオライブラリ242の「火災対応」の緊急対応シナリオから、ノード情報を項目IDの順に読み出して、該当する利用者のクライアント端末3に、当該ノード情報のメッセージを図7のような画面により表示させる(ステップS10)。なお、読み出した緊急対応シナリオのノード情報が終了を表すノード(項目ID10−1)になると、処理は終了する。
図7は、本部のクライアント端末3に表示されるシナリオ実行画面の例示図である。画面には、緊急対応シナリオのシナリオ名等のシナリオ情報、利用者についての利用者情報の他に、質問、作業指示、参考情報等のメッセージが表示される。
【0031】
緊急対応シナリオ実行エンジン22は、緊急対応シナリオの実行時の支援情報として、「シナリオ終了までの予測時間」及び過去の選択結果や選択肢毎の所要時間を表示するための「履歴」ボタンをシナリオ実行画面に表示する。
「シナリオ終了までの予測時間」は、ノード情報の「残りの対応処理時間」に基づいて緊急対応シナリオ実行エンジン22により導出される。具体的には、シナリオ実行画面に表示されるメッセージのノード情報に設定された「残りの対応処理時間」のうち、最長の時間が「シナリオ終了までの予測時間」になる。利用者が複数の場合には、その中で最長の「残りの対応処理時間」が「シナリオ終了までの予測時間」になる。ノード情報が選択肢を含む質問の場合には、各選択肢による処理の分岐毎の予測終了時間が算出される。また、緊急対応シナリオ実行エンジン22は、シナリオ実行画面に質問を表示する場合に、過去の選択回数により選択割合を算出する(ステップS20)。
算出された「シナリオ終了までの予測時間」は、図7のシナリオ実行画面に表示される。また、シナリオ実行画面の「履歴」ボタンが選択されると、図8に示す履歴情報画面がクライアント端末3に表示される。履歴情報画面には、選択肢毎の過去の選択割合及び選択回数が「過去の選択結果」として表示され、選択肢毎に、当該選択肢を選択した場合の予測終了時間が「予測終了時間」に表示される(ステップS30)。
なお、「シナリオ終了までの予測時間」は、メッセージと同時にシナリオ実行画面に表示されるようにしてもよい。その場合、ステップS10でノード情報をノード情報テーブルから読み出した後に、ステップS20を実行し、ステップS30でメッセージとともに「シナリオ終了までの予測時間」をシナリオ実行画面に表示させる。
【0032】
利用者は、クライアント端末3に表示されるシナリオ実行画面及び履歴情報画面により、緊急対応シナリオの終了までの予測時間を知ることができる。また、質問に対する回答の履歴を知ることができる。利用者は、これらの支援情報を参考としながら、緊急対応シナリオにより指示される処理を実行し、クライアント端末3を用いて質問に対する回答を行う。
緊急対応シナリオ実行エンジン22は、クライアント端末3から送られるノード情報のメッセージに対する回答を受信すると、実行履歴情報を作成する。緊急対応シナリオ実行エンジン22は、当該ノード情報の項目IDと、シナリオ実行画面の表示開始時刻、処理の終了時刻、利用者(実施者)、及び受信した回答により、実行履歴情報を作成して緊急対応履歴DB243に記録する(ステップS40)。実行履歴情報の記録が終了するとステップS10に戻り、次のノード情報による処理が行われる。
【0033】
・緊急対応シナリオの分析処理
緊急対応シナリオの分析処理は、以下のように行われる。
分析処理では、緊急対応履歴分析部23が緊急対応履歴DB243に記憶された実行履歴情報を用いて、ノード情報テーブルの各ノード情報の「選択確率」、「過去選択回数」、「所要時間」、「残りの対応処理時間」を更新する。緊急対応履歴分析部23は、外部からの入力を必要とせず、ノード情報テーブルの更新を行う。
【0034】
「選択確率」は、1回の実行履歴しかない場合にそのときに選択された遷移先への確率が100%に更新されないように、下記の式のように係数αで重み付けして、極端な確率になることを避ける必要がある。
選択確率(n)=選択確率(n−1)+α×{選択割合(n)−選択割合(n−1)}
n:1未満の少数
質問メッセージの過去選択回数は、履歴を用いて選択したメッセージのカウントを「1」増やす。
【0035】
各ノード情報の所要時間の履歴は、実行履歴情報の表示開始時刻から実行終了時刻までの時間で表される。この所要時間の履歴を、各ノード情報に設定されるクラス毎に平均する。これによりクラスの所要時間が算出され、各ノード情報の「所要時間」が更新される。
【0036】
各ノード情報の「残りの対応時間」は、以降のフロー中に選択肢が含まれている可能性もあるために、一意には処理ルートが決まらない。従って、選択肢の部分では各遷移先に選択確率が設定されているので、それぞれの処理ルートを選択した場合の所要時間に選択確率を乗じて足しあわせることで、期待値としての「残りの対応時間」を算出することになる。
例えば、図9のように各ノード情報には項目ID(i〜l)と所要時間が割り当てられており、利用者への質問であるノード情報iには選択確率がそれぞれ60%と40%に設定された分岐がある場合には、ノード情報iの「残りの対応処理時間」は下記の式により算出される。
残りの対応処理時間(ノードi)=0.6×90分+0.4×30分=66分
【0037】
また、定期的に連絡を入れる、一定時間毎に繰り返し確認する、等のノードに対応する処理を行うことがシナリオの進行に関連しないものについては、緊急対応シナリオ全体の終了と同期しているので、予測に使う処理ルートとしては無視する。
【符号の説明】
【0038】
1…緊急時指揮支援システム、2…緊急時指揮支援サーバ、3…クライアント端末、21…緊急対応シナリオエディタ部、22…緊急対応シナリオ実行エンジン、23、緊急対応履歴分析部、24…データベース、241…緊急対応リポジトリ、242…緊急対応シナリオライブラリ、243…緊急対応履歴データベース、L…ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のクライアント端末との間でデータの送受信が可能な緊急時指揮支援サーバであって、
前記1以上のクライアント端末の各利用者に一連の処理を指示するための複数のメッセージ毎に、当該メッセージによる処理以降のすべての処理を終了するまでの残りの処理時間、及び前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には選択肢毎の選択される確率、が設定されるシナリオを記憶する第1記憶手段と、
前記シナリオに設定される前記メッセージ及び当該メッセージに設定される前記残りの処理時間に基づくシナリオ終了までの予測時間を所定のクライアント端末に表示させるとともに、当該メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の前記確率を当該クライアント端末に表示させ、前記所定のクライアント端末から当該メッセージに対する回答がある場合にこれを受信して、受信した前記回答、前記クライアント端末への当該メッセージの表示開始時刻、及び当該処理の終了時刻を含む実行履歴情報を第2記憶手段に記憶するシナリオ実行手段と、
前記実行履歴情報に含まれる前記メッセージの表示開始時刻及び前記終了時刻から、当該メッセージにより指示される処理にかかった実際の時間を算出して、その算出結果に基づいて当該メッセージに設定される前記残りの処理時間を更新し、前記実行履歴情報に含まれる回答が複数の選択肢から選択されたものである場合には、その回答に基づいて前記選択肢毎の前記確率を更新する履歴分析手段と、を備える、
緊急時指揮支援サーバ。
【請求項2】
前記シナリオは、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎に、前記残りの処理時間が設定されており、
前記シナリオ実行手段は、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎の前記残りの処理時間に基づく前記予測時間を前記クライアント端末に表示させる、
請求項1記載の緊急時指揮支援サーバ。
【請求項3】
前記シナリオは、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎に、過去に選択された回数が記録されており、
前記シナリオ実行手段は、前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合に、選択肢毎の過去の選択された回数を前記クライアント端末に表示させる、
請求項1又は2記載の緊急時指揮支援サーバ。
【請求項4】
1以上のクライアント端末との間でデータの送受信が可能であり、前記1以上のクライアント端末の各利用者に一連の処理を指示するための複数のメッセージ毎に、当該メッセージによる処理以降のすべての処理を終了するまでの残りの処理時間、及び前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には選択肢毎の選択される確率が設定されるシナリオを記憶する緊急時指揮支援サーバにより実行される方法であって、
前記シナリオに設定される前記メッセージ及び当該メッセージに設定される前記残りの処理時間に基づくシナリオ終了までの予測時間を所定のクライアント端末に表示させるとともに、当該メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の前記確率を当該クライアント端末に表示させる段階と、
前記所定のクライアント端末から当該メッセージに対する回答がある場合にこれを受信して、受信した前記回答、前記クライアント端末への当該メッセージの表示開始時刻、及び当該処理の終了時刻を含む実行履歴情報を所定の記憶手段に記憶させる段階と、
前記実行履歴情報に含まれる前記メッセージの表示開始時刻及び前記終了時刻から、当該メッセージにより指示される処理にかかった実際の時間を算出して、その算出結果に基づいて当該メッセージに設定される前記残りの処理時間を更新する段階と、
前記実行履歴情報に含まれる回答が複数の選択肢から選択されたものである場合には、その回答に基づいて前記選択肢毎の前記確率を更新する段階と、を含む、
シナリオ実行方法。
【請求項5】
1以上のクライアント端末との間でデータの送受信が可能なコンピュータに、
前記1以上のクライアント端末の各利用者に一連の処理を指示するための複数のメッセージ毎に、当該メッセージによる処理以降のすべての処理を終了するまでの残りの処理時間、及び前記メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には選択肢毎の選択される確率、が設定されるシナリオを記憶する第1記憶手段、
前記シナリオに設定される前記メッセージ及び当該メッセージに設定される前記残りの処理時間に基づくシナリオ終了までの予測時間を所定のクライアント端末に表示させるとともに、当該メッセージに対する回答が複数の選択肢から選択される場合には、選択肢毎の前記確率を当該クライアント端末に表示させ、前記所定のクライアント端末から当該メッセージに対する回答がある場合にこれを受信して、受信した前記回答、前記クライアント端末への当該メッセージの表示開始時刻、及び当該処理の終了時刻を含む実行履歴情報を第2記憶手段に記憶するシナリオ実行手段、
前記実行履歴情報に含まれる前記メッセージの表示開始時刻及び前記終了時刻から、当該メッセージにより指示される処理にかかった実際の時間を算出して、その算出結果に基づいて当該メッセージに設定される前記残りの処理時間を更新し、前記実行履歴情報に含まれる回答が複数の選択肢から選択されたものである場合には、その回答に基づいて前記選択肢毎の前記確率を更新する履歴分析手段、
を形成させるためのコンピュータプログラムである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−204713(P2010−204713A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46399(P2009−46399)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000102728)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ (438)