説明

緊急車両経路探索システム

【課題】少しでも早く治療を受けたい患者、受けさせたい患者達に、緊急車両の特権を生かした道路情報を元に経路を探索し、医療施設が受け入れ可能かどうかを明確にした上で治療に取り掛かるまでの時間を探索できる最適経路探索装置を提供する。
【解決手段】 緊急車両の主発地から目的地までの経路を探索する緊急車両経路探索システムであって、緊急車両が、ある道路を通過できるか否かに関して、道路の余裕幅αを考慮して経路選択を行う経路探索機能を具備することを特徴とする緊急車両経路探索システム。但し、余裕度αは、α=W−W×車線数>W+2βで示され、Wは道路の全幅、Wは一般車両の平均又は最大車幅、Wは緊急車両の車幅、βは緊急車両が他の車両を追越したり、または、すれ違うための車間通過に必要な横方向車間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急車両経路探索システムに関し、特に、緊急車両という特徴を生かして、現場まで最短時間で到着するための最適運搬経路を探索するようにした最適運搬経路探索技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、救急運搬経路探索システムとして、例えば、特許文献1に記載のものが知られる。特許文献1は、救急運搬の際の出発位置から最終目的地までの渋滞情報や事故情報を取得して、その経路を避けて経路を探索するシステムを開示している。
【特許文献1】特開2004−46450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、情報のリアルタイム性が十分に確保できていない。すなわち、情報取得時での渋滞情報を用いているため、実際、救急車がその経路に沿って、ある地点を通過しようとする時には実際には渋滞していない可能性も否定できず、場合によっては提示された情報が最適運搬経路ではないという可能性があるなど、緊急車両の特性を十分に検討した上での経路探索技術ではなかった。
【0004】
本発明の目的は、緊急車両の特性を真に生かした最適経路を検索する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一般車両にとっての渋滞と、緊急車両にとっての渋滞との違い、すなわち、仮に一般車両が渋滞していても、緊急車両にとっては、通過できるだけのスペースがあれば渋滞とみなす必要がない点を考慮して最適経路を探索するものである。
【0006】
すなわち、本発明は、患者の容態に関する運搬開始前のデータを基に受け入れ可能な医療施設の検索を行い、検索結果より出力された医療施設と運搬開始場所との運搬時間を算出したり、路肩の幅や斜線数、渋滞情報、事故情報などを保持したりすることが可能な地図情報データ、地図情報データから平均速度を算出する移動情報サブシステム、医療施設構内に侵入してから治療に取り掛かるまでの時間情報を所有している医療施設サブシステムなるものを利用して最適運搬経路を探索する。そして、最短時間で到着かつ治療可能な医療施設を昇順に表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上、説明したように、本発明によれば、緊急車両の特権を生かした運搬経路を最適に求めることができる。特に運搬経路の途中に渋滞、路上駐車等の障害を含む場合における運搬経路を最適に求めることができる。従って、緊急事態に対処する精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施の形態による緊急車両経路探索システムについて、図面を参照して救急車を例にして具体的に説明する。
【0009】
図1は、本実施の形態による緊急車両経路探索システムのシステム構成例を示すブロック図である。図1に示すように、本実施の形態による救急運搬経路探索システムは、入出力装置1−1から、患者の容態情報1bや運搬開始位置情報1aを入力項目に持ち、それらの入力情報を情報センター1−2に送信する。情報センタ1−2は、患者の受け入れ体制(状態)を表示する医療施設データベースP1−2−1と、運搬開始場所から各医療施設までの最適経路を表示する地図情報データベースQ1−2−2と、医療施設データベースP1−2−1と地図情報データベースQ1−2−2とから算出された時間情報をもつ総合情報データベースR1−2−3と、それらを支援するために各医療施設の治療技術レベルや治療可能な医師数を医療施設データベースP1−2−1にリアルタイムで更新する医療施設サブシステムS1−2−4と、地図情報データベースQ1−2−2に最適経路を提供する移動情報サブシステムT1−2−5と、を含んで構成される。
【0010】
このとき、救急運搬経路探索システムの情報センター1−2に付随する医療施設サブシステムP1−2−1は、医療施設構内に入ってから治療に取り掛かるまでの時間のめやすを提供するシステムである。つまり、医療施設構内に進入してから治療室に入室するまでの時間だけでなく、実際の治療が開始されるまでの時間を提供する。また、移動情報サブシステムSは、運搬開始地点から各医療施設までの最適経路を提供するものである。ここでいう最適経路の定義は最短距離で到着するものでなく最短時間で到着するものである。よって、計算式は距離÷平均速度となるので選択する道路状況を把握する必要がある。ここで、平均速度を求める指標としては、車線数、路肩の幅、路上駐車状況、事故情報、渋滞情報などが上げられ、その順序を優先順序とする。この点については後述する。
【0011】
図2は、最適経路探索手順の流れを示すフローチャート図である。図1も適宜参照する。図2に示すように、まず、入出力装置1−1から、探索条件である患者の容態、運搬開始位置に関する情報を入力し、探索指示を行う(ステップS21)。次に、入力された患者の容態に従い、医療施設データベースP1−2−1内の医療施設データ1−2−1aにより、受け入れ可能な医療施設を取得する。取得した医療施設に関する情報には上述のように、医療施設構内に進入してから治療室に入室するまでの時間だけでなく、実際の治療が開始されるまでの時間を表示した情報も付随する。さらに、取得した医療施設と運搬開始位置の経路を探索するために地図情報データベースQ1−2−2内の地図情報データ1−2−2aとを取得する。最後に取得した地図情報データと医療施設侵入後の治療開始時間との合計を取得する。以上のステップで、運搬開始位置から受け入れ可能な各医療施設までの最適経路を取得することができる。この情報は、総合情報データベースR1−2−3内に総合情報データ1−2−3aとして格納される。経路表示は、入出力装置1−1に出力(表示)される。
【0012】
図3は、ある時間帯における道路状況を示した例である。仮定として、図に示す全ての道路が渋滞しているとする。ここで、各通りの特徴を説明すると、道路11aは、1車線であり、かつ、路肩の幅は狭く、路上駐車の数も多く存在する道路である。また、途中の地点21aには踏み切りがある。地点7aから地点(病院)15までの距離は5kmである。
【0013】
通り11bは、対面走行が可能な2車線であり、路肩の幅は狭く、路上駐車の数は、通り11aに比べると少ない。地点7bから地点7eまでの距離は5kmである。
【0014】
通り11cは、対面走行が可能な2車線であり、路肩の幅は広く、路上駐車の数は、通り11bと同等である。地点7cから地点7dまでの距離は5kmである。通り11dと通り11eとは、バイパスで、6車線あり、路肩の幅は広く、路上駐車はほとんど見られない。地点7aから地点7b、地点7eから病院までの距離は互いに2kmで、地点7bから地点7c、地点7dから地点7eまでの距離は互いに1kmである。
【0015】
図7(A)、(B)は、同じ道路31の渋滞状況の例を示す図である。緊急車両35が、この道路を通過できるかどうかの判断基準となる余裕幅αは、以下の式で示すことができる。
α=W−W×車線数>W+2β (1)
【0016】
ここで、Wは道路の全幅、Wは一般車両の平均又は最大車幅、Wは緊急車両の車幅、βは緊急車両が他の車両を追越したり、またはすれ違うための車間通過に必要な横方向車間である。ここで、余裕度αに関しては、W+2βより大きければ、(1)式が成立し、すれちがいが可能である。
【0017】
図7(A)は、道路の全幅がWである一方通行の道路31aに、平均車幅Wの一般車両33が渋滞で停車している状態を示す図である。この際、車幅Wの緊急車両35は、車線数1として上記(1)式に基づいて通過可能であるか否かを判定することができる。
【0018】
図7(B)は、道路の全幅がWである片側一車線の道路31bに、平均車幅Wの一般車両33が両車線内に1台ずつ渋滞で停車している状態を示す図である。この際、車幅Wの緊急車両35は、車線数2として上記(1)式に基づいて通過可能であるか否かを判定することができる。
【0019】
このような条件で、まず、緊急車両の道路通過が可能かどうか、通過が可能であればどの程度の時間で通過が可能であるかを判定する。例えば、その結果、移動情報サブシステムT1−2−5は、通り11aの平均速度を10km/hと、通り11bの平均速度を20km/hと、通り11cの平均速度を40km/hと、通り11d、通り11eの平均速度Vを60km/hと算出する。
【0020】
なお、上記(1)式における横方向車間βを、緊急車両の平均速度Vに対する関数とした場合、緊急車両の平均速度Vを、W、W、W等の既知の値を用いて近似的に以下のように求めることができる。ここで、すれちがいに関連する余裕度は、緊急車の速度に依存すると考えられる。
【0021】
例えば、車両停止時の横方向車間をβ0、速度係数をγとして、
β=β0+γ×V (但し、γ>0) (2)
の関係が成り立つ場合、これを(1)式に代入してVについて求めると、
V<(W−W×車線数−W−2β0)/2γ (3)
【0022】
上記(2)式では、βをVの一次関数として表現したが、他の関数を用いても良い。
その他、車両の道路端からの余裕幅、一般車両間の横方向車間についても適宜考慮して計算しても良い。また、中央分離帯の無い道路の場合、反対方向の車線を含めて計算しても良い。
【0023】
図4は、地図情報データの内容で、運搬開始位置からある特定した医療施設との考えられる経路において運搬時間を昇順に示すテーブルである。まず、経路番号と、経路番号に相当する経路とを見て経路を選択と、目的地まで距離が取得され、その選択経路の平均速度とを取得することができる。図4に示すデータに基づいて、目的地までの運搬時間を算出することができる。ここでは、経路4−1が運搬時間13分30秒、経路4−2が19分00秒、経路4−3が運搬時間30分00秒と算出できる。以上のデータに基づいて、運搬時間が最も短い経路を選択することができ、緊急車両の特質を加味しつつ緊急性を重視した経路を選択することができる。なお、一般車両の場合には、道路が渋滞していない場合であっても、交差点7b、7c、7d、7eを通過する際の平均信号待ち時間を加算して運搬時間を予測する必要があるが、緊急車両の場合は交差点における平均信号待ち時間を除外して、または微小評価して(例えば一般車両の場合に比べて平均信号待ち時間を0.5倍して計算する)運搬時間を求めることができる。
【0024】
次に、本実施の形態による緊急車両経路探索システムにおける他の考慮事項について説明する。図5は、緊急車両が救急車の場合において、患者を医療施設に運搬する場合の医療施設内への受け入れに関するデータを示す図である。図5に示すように、医療施設の入り口に到達したとしても、実際には治療を始められるまでの時間も加味する必要がある。図5は、このデータを昇順に示す図である。図5に示すように、医療施設名と、受け入れ可か否かと、治療開始までに要する推定時間と、医療施設内の運搬時間と、治療開始までの推定待ち時間とが、各医療施設毎に記載されている。この図に基づいて、実際に緊急車両が病院に到達するまでに要する時間に、治療開始までの時間(医療施設内の運搬時間と、治療開始までの推定待ち時間との和で表される)を求めることができる。尚、図5において、受け入れ可能な医療施設のみについてテーブルに表示してもよいし、リアルタイムな情報として現段階では受け入れ不可能な医療施設も表示してもよい。受け入れ可能になると表示されるようにしても良い。
【0025】
図6は、以上に説明した各データをまとめた図であり、医療施設名と、経路と、トータルにかかる時間と、運搬時間と、治療開始までに要する時間と、受け入れ可か否かが一覧表示される(なお、交差点7f、7g、7h、7i、7j、7k病院5−X、5−Y、5−Kの位置は図示していない)。このデータは、医療施設データから取得した情報と地図情報データから取得した情報から、運搬開始から治療開始まで時間を昇順としたテーブルである。緊急車両の責任者は、患者の家族などと相談しつつ、図6に示す表に基づいて、選択すべき医療機関と、最適経路とを迅速に選択することができ、人命救助という簡単からより早期に手当が可能な方法を決定することができる。
【0026】
以上、説明したように、本発明の実施の形態によれば、緊急車両の特権を生かした運搬経路を最適に求めることができ、かつ、治療に取り掛かるまでの時間も探索することが可能なため、一分、一秒を争う患者にとっては、一命と取り留める可能性が高くなるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、緊急車両の経路決定に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態による救急運搬経路探索システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】最適経路探索手順の概要を表すフロ−チャ−ト図である。
【図3】道路状況の一例を地図上に示した例である。
【図4】経路による運搬時間を示す図である。
【図5】医療施設毎の、治療開始までに要する時間を示す図である。
【図6】最適経路探索結果の表示例を示す図である。
【図7】図7(A)、(B)は、同じ道路の渋滞状況の2つの例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急車両の出発地から目的地までの経路を探索する緊急車両経路探索システムであって、緊急車両が、ある道路を通過できるか否かに関して、道路の余裕幅αを考慮して経路選択を行う経路探索機能を具備することを特徴とする緊急車両経路探索システム。
但し、余裕度αは、α=W−W×車線数>W+2βで示され、Wは道路の全幅、Wは一般車両の平均又は最大車幅、Wは緊急車両の車幅、βは緊急車両の車間通過のために必要な横方向車間である。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−184213(P2006−184213A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380309(P2004−380309)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】