説明

緊急通報用アンテナ装置

【課題】緊急通報システムにおいて、アンテナによる緊急通報を確実に行わせる。
【解決手段】緊急通報用アンテナ装置は、車両1に搭載され、緊急事態の発生時に所定の通報先に対し該緊急事態に関する緊急通報が可能な緊急通報システムにおけるアンテナ装置であって、前記車両1の前方部又は後方部における第1設置部15に設置され、前記緊急通報に関する所定の緊急信号を送信可能な、少なくとも一つの第1アンテナ410と、前記緊急信号を送信可能に構成され、予め前記車両1において前記緊急事態の発生に際し前記第1アンテナ410とのうち少なくとも一方が正常状態を維持するように定められてなる第2設置部16、17に設置された、少なくとも一つの第2アンテナ510、600とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば緊急時に緊急信号の送受信を行うための緊急通報用アンテナ装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、車両用バンパーの内壁面に、アンテナの着脱が可能なアンテナ取り付け部材を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたアンテナ装置によれば、アンテナが設置されている壁面が破損した場合にもアンテナの再利用が可能であり、またアンテナの壁面に対する角度や壁面に取り付けられたときのアンテナの形状を任意に設定可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−206116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたアンテナ装置では、衝突事故や自損事故等の発生時にアンテナ自体が破損或いは故障してしまった場合には、緊急通報が実質的に不可能となる可能性がある。また、特許文献1には、複数のアンテナを利用して1つの電波を受信する旨の技術思想は開示されるものの、緊急通報の確実性を担保する観点に立ったアンテナの設置方法については何らの示唆もない。即ち、特許文献1に開示された従来の技術には、緊急通報の確実性が不十分であるという技術的問題点がある。
【0005】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、緊急通報を確実に行い得る緊急通報用アンテナ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る緊急通報用アンテナ装置は、車両に搭載され、緊急事態の発生時に所定の通報先に対し該緊急事態に関する緊急通報が可能な緊急通報システムにおけるアンテナ装置であって、前記車両の前方部又は後方部における第1設置部に設置され、前記緊急通報に関する所定の緊急信号を送信可能な、少なくとも一つの第1アンテナと、前記緊急信号を送信可能に構成され、予め前記車両において前記緊急事態の発生に際し前記第1アンテナとのうち少なくとも一方が正常状態を維持するように定められてなる第2設置部に設置された、少なくとも一つの第2アンテナとを具備することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る「緊急通報システム」とは、好適な一形態として、例えば所謂メーデーシステム等のシステムを含み、例えば、衝突事故及び自損事故等の各種事故、急病や怪我等の各種傷病、地震、火事、土砂災害及び津波等の各種災害、並びに、強盗や傷害等の各種犯罪事件等、各種の態様を有する緊急事態の発生に際して、一又は複数設定される所定の通報先、例えば、警察、消防、病院、又は自治体や国の定める施設等の各種公共機関、警備会社、所属会社、緊急管理センタ又はディーラ等の民間機関、自宅、関係者宅、或いはユーザが予め指定した連絡先等に、例えば、自車両の現在位置情報、ユーザの個人情報、車両の登録情報、音声情報或いは画像情報等の各種報知情報を適宜に伴う緊急通報を行うことが可能なシステムである。
【0008】
緊急通報システムに係る物理的、機械的又は電気的構成を含む実践的態様は、上記の作用を実現し得る限りにおいて限定されるものではないが、例えば上記の緊急通報に係る各種情報或いは当該各種情報に対する通報先からの各種応答情報を含み得る所定の緊急信号は、夫々、車両に搭載された、例えば、当該緊急通報システムに特化した、他の用途に特化した、或いは他の用途と併用可能な各種アンテナ装置としての、本発明に係る緊急通報用アンテナ装置を介して、所定の周波数を有する無線信号として、或いは所定の周波数を有する搬送波に重畳される信号として送受信される。
【0009】
ここで、本発明に係る緊急通報用アンテナ装置は、第1設置部に設置された第1アンテナと、第2設置部に設置された第2アンテナを備えており、これら複数のアンテナにより、緊急事態に際しての緊急通報の確実性が担保される構成となっている。
【0010】
ここで特に、複数のアンテナを備える構成によれば、単一のアンテナのみを有する構成よりも緊急通報の確実性は担保され得るものの、これら複数のアンテナが車載アンテナであり、例えば、車両が自損他損を含む各種の交通事故に巻き込まれた場合に、車両において物理的衝撃が加わる部位も、その数も、またその物理的衝撃の規模もケース・バイ・ケースで無尽蔵に変化し得る点まで考慮すると、単に複数のアンテナを備えた構成としたのみでは緊急通報の確実性が不十分である。
【0011】
例えば、複数のアンテナを全て車両後方に備えた構成とすれば、後方から後続車両に追突された際に複数のアンテナの全てが破損、損壊或いは故障する可能性がある。即ち、車両に対し、何らの指針にも基づくことなく無作為に複数のアンテナを設置したとしても、緊急通報の確実性は必ずしも十分に担保されない。
【0012】
そこで、本発明に係る緊急通報用アンテナ装置によれば、第1及び第2アンテナの各々が設置される第1及び第2設置部が、夫々以下の如くに規定され、緊急通報の確実性が担保される。即ち、第1設置部は、車両の前方部又は後方部に一又は複数設定されており、第2設置部は、車両において、緊急事態の発生に際し、第1アンテナと第2アンテナのうち少なくとも一方が正常状態を維持するように設定されている。尚、本発明に係る「正常状態」とは、少なくとも当該緊急事態に係る緊急通報を実践上十分な期間にわたって継続し得る程度にアンテナとしての機能を保持した状態を包括的に意味するものであって、必ずしも外観上の損壊箇所が無い状態や、送受信される緊急信号の劣化が生じていない状態のみを表すものではない。
【0013】
ここで、「少なくとも一方が正常状態を維持するように定められ」とは、事前に想定される範囲内外で発生し得る各種の緊急事態に対し、少なくとも一方が正常状態を維持することを100%保証するものでなくてよく、予め実験的に、経験的に、理論的に又は各種条件設定に対応するシミュレーション等に基づいて、同一の事象に起因する物理的衝撃により第1及び第2アンテナの全てが同時に又は略同時に異常状態(即ち、正常状態と相対する意味である)に陥る可能性が明らかに或いは比較的に小さくなるように定められることを含む趣旨である。係る可能性は、蓄積された経験量が大きい程、消化した実験の回数が多い程、衝突事故発生時の車両運動メカニズムがより精密に解析される程、シミュレーションモデルの精度が高い程、またシミュレーションを行うにあたっての条件設定が多岐にわたる程、夫々より低くなり得ることは明白であろう。
【0014】
このように、本発明に係る緊急通報用アンテナ装置によれば、第1及び第2アンテナを夫々設置するための第1及び第2設置部が、緊急通報の確実性を担保するという明確な指針に基づいて定められている。このため、何らの指針にも基づくことなくやみくもに複数のアンテナが設置される構成と較べれば、例えば前方衝突事故、後方衝突事故、側方衝突事故、或いはそれらが複合した事故等が発生した際に緊急通報に係る緊急信号を送受信するためのアンテナが少なくとも一つは正常状態を維持する可能性が飛躍的に高くなる。従って、緊急通報の確実性を可及的に担保することが可能となるのである。
【0015】
尚、このように緊急事態の発生時における緊急通報の確実性を担保した上では、第1及び第2設置部の位置が、或いは第1及び第2アンテナの構造が、アンテナ装置全体としての電力利得が可及的に向上し得るように最適化されていてもよい。
【0016】
本発明に係る緊急通報用アンテナ装置の一の態様では、前記第2設置部は、前記前方部及び後方部のうち前記第1設置部が設けられた一方と異なる他方と前記車両のルーフ部とのうち少なくとも一方に設けられる。
【0017】
この態様によれば、第2設置部は、車両前方部及び後方部のうち第1設置部が設けられた一方と異なる他方並びに車両のルーフ部のうち少なくとも一方に設けられるため、同時又は略同時に第1及び第2アンテナが異常状態に陥る可能性を可及的に低下せしめられる上、設置上の制約も少なくて済むため実践上非常に有益である。
【0018】
本発明に係る緊急通報用アンテナ装置の他の態様では、前記第1設置部は前記車両のフロントバンパであり、前記第2設置部は前記車両のリアバンパである。
【0019】
車両のフロントバンパ及びリアバンパは、各アンテナを取り付けるにしても収容するにしても、構成上の制約が比較的少ないため、アンテナの設置部位として好適である。尚、第1及び第2アンテナは、夫々一又は複数のアンテナであり、第1及び第2設置部は、必ずしも一個の設置領域に集約されておらずともよい。例えば、第1設置部がフロンとバンパに左右一対に設けられ、第2設置部がリアバンパに左右一対に設けられることにより、車両として前後夫々二つのアンテナが備わる構成としてもよい。
【0020】
本発明に係る緊急通報用アンテナ装置の他の態様では、前記第1及び第2設置部のうち少なくとも一方の設置部は、前記第1及び第2アンテナのうち前記少なくとも一方の設置部に対応するアンテナを収容可能に構成されており、前記少なくとも一方の設置部に対応するアンテナは、前記少なくとも一方の設置部に収容されている。
【0021】
この態様によれば、一方のアンテナが当該一方のアンテナに対応する設置部に収容される構成を採るため、外界からの衝撃に対し比較的高い耐性を付与することが可能であり、第三者による悪戯を防止し、また外観を損なうこともないため実践上有益である。また、「収容可能」とされるように、アンテナは常時一方の設置部に収容されている必要はなく、自動又は手動でなされ得る制御信号等に応じて選択的に収容される構成としてもよい。例えば、車両が一定車速以上で走行中である場合に、アンテナが外界に露出する構成としてもよい。
【0022】
本発明に係る緊急通報用アンテナ装置の他の態様では、前記緊急通報システムは、前記第1及び第2アンテナの各々に対し前記緊急信号を供給する供給手段を備え、前記緊急通報用アンテナ装置は、前記供給手段と前記各々との間に構築される伝送線路の入出力インピーダンスを所定値に整合させるインピーダンス整合手段を更に具備する。
【0023】
この態様によれば、緊急通報システムは、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る供給手段を備える。この供給手段は、例えば、物理的、機械的又は電気的な各種のトリガ信号に応じて上記の各種緊急信号を生成すると共に、第1及び第2アンテナに供給する構成を採る。
【0024】
一方、供給手段から供給される送信用の緊急信号は、所謂高周波信号に類する信号であり、このようにして生成供給される緊急信号を第1及び第2アンテナを介して通報先に送信する、或いは第1及び第2アンテナを介して通報先から応答情報を含む緊急信号を受信するにあたっては、各アンテナと供給手段との間に構築される伝送線路のインピーダンスを考慮する必要がある。より具体的には、各アンテナの設置箇所は夫々異なっており、従って、供給手段と各アンテナとの間に構築される伝送線路の入出力インピーダンスは、当該高周波帯域において一定でない。このため、例えば供給手段の出力インピーダンスが50Ωに整合されていたとしても、伝送線路での損失が大きくなって、緊急通報用アンテナ装置から放射される緊急信号の放射電力が小さくなる可能性がある。
【0025】
この態様によれば、例えば、容量が固定又は可変であるコンデンサや容量が固定又は可変である可変インダクタ等の各種インピーダンス整合用電気素子を適宜に含み得るインピーダンス整合回路等のインピーダンス整合手段が備わっており、供給手段と第1及び第2アンテナとの間に構築される伝送線路の入出力インピーダンスが所定値、例えば50Ωに整合される。このため、供給手段から供給される緊急信号は、伝送線路上での信号劣化が可及的に抑制された状態で各アンテナから放射される。従って、通報先に対する緊急通報をより確実に行わしめることが可能となる。
【0026】
また、このようにインピーダンス整合手段が備わる場合、個々のアンテナの電力利得が比較的小さいとしても、緊急通報用アンテナ装置全体としての電力利得の低下を可及的に抑制することが可能となり、実践上有益である。更には、第1及び第2アンテナの一方が、或いは個々のアンテナを構成するアンテナの一部が異常状態に陥ったとしても、異常状態に陥ったアンテナを物理的に又は電気的に切り離し、伝送線路のインピーダンスを再整合することによって、残存するアンテナに特化した最適な伝送線路を構築することも容易にして可能であり、信頼性の面でも有利である。
【0027】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る緊急通報システムのブロック図である。
【図2】図1の緊急通報システムを構成する左前アンテナの模式的斜視図である。
【図3】図1の緊急通報システムを搭載する車両の模式的な側面図である。
【図4】図1における鎖線枠Aの模式的拡大図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る車両の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係る緊急通報システム10の構成について説明する。ここに、図1は、緊急通報システム10のブロック図である。
【0030】
図1において、緊急通報システム10は、車両1に搭載され、ECU100、送受信部200、整合回路300、フロントアンテナ部400、リアアンテナ部500、ルーフアンテナ600及びカーナビ装置700を備えると共に、車両1における緊急事態の発生に際し、所定の緊急通報センタに対し緊急通報を行うように構成された、本発明に係る「緊急通報システム」の一例である。
【0031】
ECU100は、図示せぬCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、緊急通報システム10の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットである。ECU100は、車両1の動力源たる不図示のエンジン或いは車両1に搭載される他の電気駆動型補機を制御するECUの一部であってもよいし、この種のECUと別体に構成されていてもよい。
【0032】
送受信部200は、後述する緊急信号を送信用の高周波信号に変調する変調回路や、受信された高周波信号を復調する復調回路等を含む、送受信用の信号処理回路であり、本発明に係る「供給手段」の一例である。
【0033】
整合回路300は、送受信部200と、フロントアンテナ部400を構成する後述の各アンテナ、リアアンテナ部500を構成する後述の各アンテナ及びルーフアンテナ600の各々との間の信号伝達経路に設置された、例えばコンデンサ及びインダクタ等を含むインピーダンスマッチング用の回路であり、整合回路の入出力インピーダンスを50Ωに整合するための回路である。
【0034】
送受信部200を介して供給される送信用の緊急信号、或いは各アンテナを介して受信される受信信号は、夫々ギガヘルツ帯の周波数帯域を有する高周波信号であり、各アンテナと送受信部との間の信号伝達経路は、一種の伝送線路となる。一方、これら信号伝達経路は、後述するように各アンテナの配設場所が相互に異なる(即ち、送受信部200との信号伝達距離が異なる)ことに起因して、当該高周波帯域におけるインピーダンス特性がまちまちであり、何らの対策も講じられることがなければ、送信用の緊急信号或いは受信信号が、アンテナ或いは送受信部に到達する以前に大きく減衰し、緊急通報信号の送信或いは緊急通報センタからの応答信号の受信に支障をきたす可能性が高くなる。このような信号の減衰を防ぐため、整合回路300は、各伝送線路の入出力インピーダンスが50Ωとなるように、各伝送線路に挿入された、コンデンサ及びインダクタの静電容量値及びインダクタンス値等が予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて決定されている。このため、各アンテナを介して送信される緊急信号或いは各アンテナを介して受信される受信信号は、その信号減衰が可及的に抑制された状態で送信及び受信される。
【0035】
フロントアンテナ部400は、車両1の後述するフロントバンパ15(即ち、本発明に係る「第1設置部」の一例である)に収納された緊急通報用アンテナ群であり、フロントバンパ15の左側に内蔵された、変形伝送線路型の左前アンテナ410と、同じく右側に内蔵された同じく変形伝送線路型の右前アンテナ420とから構成される。
【0036】
左前アンテナ410及び右前アンテナ420は、夫々が本発明に係る「第1アンテナ」の一例であり、夫々、緊急通報センタに対し、送受信部200から整合回路300を経由して供給される送信用の緊急信号を送信可能に構成されている。尚、左前アンテナ410と右前アンテナ420とは、設置部位が異なるのみであり、その構造において同一である。
【0037】
ここで、図2を参照し、左前アンテナ410の構成について説明する。ここに、図2は、左前アンテナ410(右前アンテナ420も同様である)の模式的な斜視図である。
【0038】
図2において、左前アンテナ410は、共振周波数が目的とする周波数帯域と合致するように設計された伝送線路からなる伝送線路型のアンテナであり、垂直成分及び水平成分の両方を有する構成となっている。左前アンテナ410及び右前アンテナ420に係る実践的態様は様々であってよいが、この種の伝送線路型のアンテナは、その設置搭載性の面において優れており、フロントバンパ15への収納が容易である。
【0039】
リアアンテナ部500は、車両1の後述するリアバンパ16(即ち、本発明に係る「第2設置部」の一例である)に収納された緊急通報用アンテナ群であり、リアバンパ16の左側に内蔵された、変形伝送線路型の左後アンテナ510と、同じく右側に内蔵された同じく変形伝送線路型の右後アンテナ520とから構成される。
【0040】
左後アンテナ510及び右後アンテナ520は、夫々が本発明に係る「第2アンテナ」の一例であり、夫々、緊急通報センタに対し、送受信部200から整合回路300を経由して供給される送信用の緊急信号を送信可能に構成されている。尚、リアアンテナ部500を構成する各アンテナは、図2に示された左前アンテナ410と同様に、共振周波数が、目的とする周波数帯域と合致するように設計された伝送線路からなる伝送線路型のアンテナであり、垂直成分及び水平成分の両方を有する構成となっている。これらアンテナに係る実践的態様は様々であってよいが、この種の伝送線路型のアンテナは、その設置搭載性の面において優れており、リアバンパ16への収納が容易である。
【0041】
ルーフアンテナ600は、車両1の後述するルーフ部17(即ち、本発明に係る「第2設置部」の他の一例である)に収納された、本発明に係る「第2アンテナ」の他の一例である緊急通報用アンテナであり、緊急通報センタに対し、送受信部200から整合回路300を経由して供給される送信用の緊急信号を送信可能に構成されている。ルーフアンテナ600は、図2に示された左前アンテナ410と同様に(即ち、フロントバンパ部400を構成する各アンテナ及びリアアンテナ部500を構成する各アンテナと同様に)変形伝送線路型アンテナとして構成されている。尚、整合回路300、フロントアンテナ部400、リアアンテナ部500及びルーフアンテナ600により、本発明に係る「緊急通報用アンテナ装置」の一例が構築される。
【0042】
カーナビ装置700は、例えば車両1の位置情報、車両1の周辺の道路情報(例えば、道路種別、道路幅、車線数、制限速度及び道路形状等)、車両1の周囲に設置された各種施設の情報、渋滞情報及び環境情報等各種ナビゲーション情報を取得可能に構成された車載型ナビゲーション装置である。
【0043】
GPSアンテナ14は、車両1のリアガラス付近に外付けされた、GPS衛星から供給されるGPS信号を受信可能に構成されたアンテナである。GPSアンテナ14を介して得られたGPS信号は、カーナビ装置700により車両1の位置情報に変換される。
【0044】
一方、緊急通報システム10は、エアバックセンサ11、緊急通報スイッチ12及びROM13を備える。
【0045】
エアバックセンサ11は、車両1の運転席及び助手席或いは他の部分を対象として設置される各種エアバック装置の作動状態を検出するセンサである。エアバックセンサ11は、車両1に搭載されるいずれかのエアバック装置が作動した場合に、その旨を表す電気信号を電気的に接続されたECU100に送信可能に構成されている。
【0046】
緊急通報スイッチ12は、車両1の車室内部において、ドライバにより操作可能に配置されたスイッチである。緊急通報スイッチ12は、例えば、ボタンスイッチ、ダイアルスイッチ或いはレバースイッチ等各種の実践的態様を有していてよいが、緊急通報スイッチ12は、いずれにせよECU100と電気的に接続されており、緊急通報スイッチ12は、その操作時に、緊急通報スイッチ12が操作された旨を表す電気信号をECU100に対し送信可能に構成されている。
【0047】
ROM14は、車両1の車両登録情報(車両ナンバや車両登録番号等)及び車両1の所有者情報等を記憶する不揮発性の記憶装置である。ROM14は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、常時ROM14とアクセス可能に構成されている。
【0048】
<実施形態の動作>
車両1において緊急事態が発生した場合、緊急通報システム10は以下の如くに動作する。
【0049】
例えば、緊急事態として車両1を含む衝突事故が発生したとする。この場合、衝突発生と略同時に、車両1に搭載される各種エアバック装置が作動し、乗員の保護が図られる。一方、エアバック装置の作動と同時に、エアバックセンサ11からエアバック装置が作動した旨を示す電気信号がECU100に対し送信される。
【0050】
ECU100は、この電気信号を受信すると、車両1に緊急事態が発生したものと判断し、先ずROM13から車両情報を取得する。また、その一方で、カーナビ装置700を制御して車両1の現在位置(即ち、GPS信号から解析された緯度、軽度及び高度の三次元情報である)に係る現在位置情報を取得する。尚、車両情報は、必ずしもROM13に格納されている必要はなく、例えば、ECU100と電気的に接続された、ECU100により読み取り可能なカード読み取り装置に、所定のユーザ情報カード等を挿入する形態であってもよい。このようにすれば、ドライバがドライバに固有のカードを携帯してカードを挿入することにより、より正確な情報の提供が可能となり得る。
【0051】
車両情報及び現在位置情報を取得すると、ECU100は、これら取得された情報を含む緊急信号を生成すると共に、送受信部200に供給する。送受信部200では、ECU100からの上位制御により、この供給された緊急信号を送信用の高周波信号に変調し、送信用の緊急信号を生成する。生成された緊急信号は、整合回路300を経由して各アンテナに供給され、各アンテナを介して緊急通報センタに送信される。
【0052】
尚、ここではエアバック装置の作動がトリガとなり半ば自動的に緊急通報がなされるものとしたが、緊急事態の態様は様々であり、例えば、ドライバや搭乗者が急病に陥る或いはトラブルに巻き込まれる等の事態もまた緊急事態の一となる。そのような場合には、適宜、緊急通報スイッチ12が操作されることにより、上記と同様に緊急通報センタに対する緊急通報が実現される。
【0053】
<実施形態の効果>
緊急通報システム10が上述の如き緊急通報を行うにあたっては、整合回路300、フロントアンテナ部400、リアアンテナ部500及びルーフアンテナ600からなるアンテナ装置の配置構造が重要な意味を持つ。ここで、図3を参照し、本実施形態の効果として、緊急通報システム10に備わるアンテナ装置の配置構造について詳細に説明する。ここに、図3は、車両1の模式的な側面図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0054】
図3において、フロンとバンパ15、リアバンパ16及びルーフ部17は、相互いに十分に離れた位置関係を有している。
【0055】
このため、例えば、車両1が、前方障害物(車両を含む)と衝突し、フロントバンパ15の破損又は損壊が生じたとしても、リアバンパ16及びルーフ部17に設置されるリアアンテナ部500及びルーフアンテナ600は、係る衝突の影響を被らずに済み、緊急通報用アンテナとしての機能を全うすることができる。或いは、車両1が、後方障害物(車両を含む)と衝突し、リアバンパ16の破損又は損壊が生じたとしても、フロントバンパ15及びルーフ部17に設置されるフロントアンテナ部400及びルーフアンテナ600は、係る衝突の影響を被らずに済み、緊急通報用アンテナとしての機能を全うすることができる。或いは、車両1が横転する等してルーフ部17の破損又は損壊が生じたとしても、フロントバンパ15及びリアバンパ16に設置されるフロントアンテナ部400及びリアアンテナ部500は、係る横転の影響を被らずに済み、緊急通報用アンテナとしての機能を全うすることができる。或いは、車両1が、側方障害物(車両を含む)と衝突し、フロントバンパ15及びリアバンパ16の各々における左右いずれか一方の側の破損又は損壊が生じたとしても、フロントバンパ15及びリアバンパ16の左右いずれか他方側に収容されるアンテナ及びルーフ部17に設置されるルーフアンテナ600は、係る衝突の影響を被らずに済み、緊急通報用アンテナとしての機能を全うすることができる。
【0056】
ここで、図4を参照し、ルーフアンテナ600の配置構造の詳細について説明する。ここに、図4は、図3における鎖線領域Aの模式的拡大図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0057】
図4において、図2に示されたものと同様に小型低背の変形伝送線路型アンテナたるルーフアンテナ600は、その優れた設置性により、ルーフ部17下部に形成された設置空間17Aに収容されている。このため、ルーフ部17からルーフアンテナ600が突出している場合と較べて、外界からのルーフ部17に加わる物理的な各種衝撃に対し高い耐久性を有している。また、意匠の面からも、ルーフアンテナ600が車両1のデザイン性を損なうことがなく、例えば購入希望者に対する高い訴求力が担保されている。尚、本実施形態においては、緊急通報用のアンテナが全て同様に各部に収容されており、ルーフアンテナ600と同様の高い実践上の利益を提供するものとなっている。尚、図4における設置空間17Aには、GPSアンテナ14が更に収容されていてもよい。
【0058】
以上説明したように、車両1において、緊急通報システム10を構成する各アンテナは、一の緊急事態の発生に際し、同時又は略同時に全てのアンテナが異常状態(緊急通報を実践上十分に行い得ない程度に破損、損壊又は故障した状態)に陥らぬように、その設置位置が決定されており、緊急事態の発生に際して、緊急通報が不可能となる事態の発生を可及的に防止することが可能となり、緊急通報の確実性を好適に担保することが可能となっているのである。
【0059】
即ち、本発明に係る緊急通報用アンテナ装置は、予め想定される内外の緊急事態に対し、少なくとも一つのアンテナが正常状態を維持し得るように複数のアンテナの効率的な配置を決定し、係る効率的なアンテナ配置により、コストの上昇を抑制しつつ緊急通報の確実性を担保することを可能としたものである。従って、単に何らの指針にも基づくことなくやみくもに複数のアンテナを配置した場合と較べて、コスト及び緊急通報の確実性において明らかに秀でるものである。例えば、極端な場合、緊急通報の確実性のみを追及するならば、例えば車両1に間隙無く無数のアンテナを配置すればよいのであるが、そのような配置態様は、甚大なコストの増加と、外観上の訴求力低下とを招き、非現実的であり全く実践的ではないのである。
【0060】
また、本実施形態においては、アンテナが複数存在することにより、一のアンテナの電力利得が小さいとしても、緊急通報システム10全体としての電力利得は十分に担保されており、その分、対衝撃性や車両搭載性を向上させることが可能となっている。
【0061】
また、本実施形態に係る緊急通報システム10は、本発明に係る「インピーダンス整合手段」の一例としての整合回路300を備えている。従って、各アンテナを介して送信される送信用の高周波信号の減衰を可及的に抑制することが可能となっており、緊急通報の確実性を、この種の整合手段を備えない場合と較べてより高く維持することが可能となっている。
【0062】
一方、緊急事態の発生に際して、いずれかのアンテナが電気的に短絡(所謂ショートである)した場合、他のアンテナからの緊急信号の送信に支障をきたす可能性がある。そのような場合に備えて、整合回路300は、アンテナ短絡時に当該アンテナを物理的又は電気的に切り離すことが可能な、例えばスイッチング回路等の切り離し手段を備えていてもよい。この場合、当該切り離し手段の切り離し動作がECU100により制御されるように、電気回路が構築されていてもよい。また、一部のアンテナが電気的に短絡することにより、各アンテナと送受信部200とを繋ぐ伝送線路のインピーダンスが最適値から乖離する場合に備えて、整合回路300を構成するコンデンサ或いはインダクタの一部は、容量可変型とされていてもよい。この場合、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、予測される不具合に対するマッチングパターンをROM等に格納しておき、ECU100が、適宜係るマッチングパターンに従って整合回路300の調整を行ってもよい。
<第2実施形態>
第1実施形態においては、緊急通報用のアンテナは、フロントバンパ15に左右一対で二個、リアバンパ16に左右一対で二個、ルーフ部17に一個の合計五個備えられる構成となっているが、これは、本発明の一実施形態に過ぎず、例えばフロント側のアンテナは、ラジエータグリル、ボンネット裏或いはヘッドライトカバー内部等他の部位に設置されていてもよい。同様に、リア側のアンテナは、リアガラス、リアハッチ、トランクカバー或いはブレーキランプカバー内部等他の部位に設置されていてもよい。また、配置される個数は、各設置部について1個であってもよい。1個である場合、アンテナの無指向性が可及的に担保されるように、アンテナが各設置部の中央に設置される構成としてもよい。
【0063】
ここで、本発明の第2実施形態として、図5を参照し、第1実施形態とは異なる他のアンテナ配置態様について説明する。ここに、図5は、本発明の第2実施形態に係る車両2の模式的側面図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0064】
図5において、車両2は、本発明に係る「第2アンテナ」の一例として、ルーフアンテナ600に替えてルーフアンテナ800を備える点において、第1実施形態に係る車両1と相違する構成となっている。
【0065】
ルーフアンテナ800は、第1実施形態に係る小型低背の変形伝送線路型アンテナとは異なり、ルーフ部17から突出したポールアンテナとして構成される。このようなポールアンテナによれば、伝送線路型アンテナよりも意匠の変更が容易であり、また、ルーフ部への収納を考慮する必要もないため、アンテナ自体の電力利得をより高く構成することが容易にして可能となる。
【0066】
従って、第2実施形態によれば、このルーフアンテナ600をメインアンテナとして使用し、フロント及びリアの各バンパに収容される各伝送線路アンテナをサブアンテナとして緊急通報を行うことが可能となる。緊急事態としては、先に述べたように、各種のものがあり、必ずしも車両に対する物理衝撃を伴うものに限られない。このため、外界からの衝撃に対する耐久性については、各バンパに収納された各アンテナによって対応し、緊急通報の確実性についてはルーフアンテナ800により対応するといった、より柔軟な運用もまた可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば車載用通信装置を備えた各種車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…車両、2…車両(第2実施形態)、10…緊急通報システム、11…エアバックセンサ、12…緊急通報スイッチ、13…ROM、14…GPSアンテナ、15…フロントバンパ、16…リアバンパ、17…ルーフ部、100…ECU、200…送受信部、300…整合回路、400…フロントアンテナ部、410…左前アンテナ、420…右前アンテナ、500…リアアンテナ部、510…左後アンテナ、520…右後アンテナ、600…ルーフアンテナ、700…カーナビ装置、800…ルーフアンテナ(第2実施形態)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、緊急事態の発生時に所定の通報先に対し該緊急事態に関する緊急通報が可能な緊急通報システムにおけるアンテナ装置であって、
前記車両の前方部又は後方部における第1設置部に設置され、前記緊急通報に関する所定の緊急信号を送信可能な、少なくとも一つの第1アンテナと、
前記緊急信号を送信可能に構成され、予め前記車両において前記緊急事態の発生に際し前記第1アンテナとのうち少なくとも一方が正常状態を維持するように定められてなる第2設置部に設置された、少なくとも一つの第2アンテナと
を具備することを特徴とする緊急通報用アンテナ装置。
【請求項2】
前記第2設置部は、前記前方部及び後方部のうち前記第1設置部が設けられた一方と異なる他方と前記車両のルーフ部とのうち少なくとも一方に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の緊急通報用アンテナ装置。
【請求項3】
前記第1設置部は前記車両のフロントバンパであり、
前記第2設置部は前記車両のリアバンパである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の緊急通報用アンテナ装置。
【請求項4】
前記第1及び第2設置部のうち少なくとも一方の設置部は、前記第1及び第2アンテナのうち前記少なくとも一方の設置部に対応するアンテナを収容可能に構成されており、
前記少なくとも一方の設置部に対応するアンテナは、前記少なくとも一方の設置部に収容されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の緊急通報用アンテナ装置。
【請求項5】
前記緊急通報システムは、前記第1及び第2アンテナの各々に対し前記緊急信号を供給する供給手段を備え、
前記緊急通報用アンテナ装置は、
前記供給手段と前記各々との間に構築される伝送線路の入出力インピーダンスを所定値に整合させるインピーダンス整合手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の緊急通報用アンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−35652(P2011−35652A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179782(P2009−179782)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】