説明

総合経腸栄養組成物

【課題】高齢者、入院患者などの栄養補給を必要とする人に対して、たんぱく質、脂肪、糖質、ビタミン、ミネラル等を効率よく補給できる総合経腸栄養組成物の提供。
【解決手段】たんぱく質、糖質、脂肪、ミネラル、ビタミンを含有する総合経腸栄養組成物であって、該組成物100kcal当り、銅含量が0.15mg以下、亜鉛/銅の質量比が10/1〜25/1、ナトリウム含量が185mg以上、ビタミンB1含量が0.30mg以上、及びビタミンB2含量が0.25mg以上であることを特徴とする総合経腸栄養組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者、入院患者などの栄養補給を必要とする人に対して、たんぱく質、脂肪、糖質、ビタミン、ミネラル等を効率よく補給できる総合経腸栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢の入院患者、高齢の在宅療養者で栄養状態の悪化が懸念されている。低栄養状態のなかでも特にたんぱく質、エネルギーの欠乏が複合して生じる栄養失調は、たんぱく質・エネルギー低栄養(Protein Energy Malnutrition;PEM)と呼ばれ、この状態に対しては効率のよい栄養補給の重要性が認識されている。平成7〜10年の「高齢者の栄養管理サービスに関する研究」(主任研究者:松田朗ほか99年厚生省報告)では、栄養指標である血清アルブミン値が3.5g/dL以下のPEMリスク者は、高齢入院患者の約4割、在宅訪問患者の約3割で観察された。食事摂取量の低下などから適切なたんぱく質やエネルギーの供給不足が、重篤な低栄養状態を招き、この結果、免疫低下による感染症、筋力の低下、寝たきりの状態がおこり、最終的に在院日数の延長、医療費の増大の原因につながっている。寝たきりの場合には褥瘡を発症することが多いが、褥瘡発生に関する因子として、エネルギー不足、たんぱく量摂取不足、体たんぱく合成の障害、脂肪摂取不良、亜鉛など微量元素の欠乏などが原因としてあげられている(臨床栄養:103巻,4号,424-431頁,2003年)。また、高齢者の褥瘡発生に関与する特徴的な因子として、血管障害など複数の合併症、食欲不振、低栄養からの免疫能低下があるといわれている(臨床栄養:103巻,4号,424-431頁,2003年)。
【0003】
栄養補給を必要とする対象者のための、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルを総合的に含む経口栄養組成物が知られている(例えば、特許文献1)。これは、これのみで栄養管理を可能とする栄養組成物であって、その配合組成中のたんぱく質原料に乳たんぱく質および大豆たんぱく質を特定の割合で含むことと、脂質中のω−3系脂肪酸とω−6系脂肪酸を特定の比率で含むことを特徴としている。また、たんぱく質、脂質、糖質、乳化剤および水からなり、浸透圧およびアミノ酸スコアを特定した総合経腸栄養剤が知られている(例えば、特許文献2)。
【0004】
特に高齢者や高度な低栄養の患者では胃の容量も大きくなく、摂取できる食物量が限られる。したがって、摂取量当たりのカロリーが高く、しかも各栄養成分をバランスよく含み、かつビタミン、ミネラルなどの成分が高濃度に入っている経腸栄養組成物は重要である。このため、経腸栄養組成物100mLで100kcalが摂取できるものが市販されており、その需要は今後も増大すると予測される。
【0005】
しかし現状においては、栄養指標である血清アルブミン値を改善し、血中の銅、亜鉛、ナトリウム等の濃度を適性に保ち、かつ褥瘡の改善において効果のある経腸栄養剤は未だ知られていない。また、精製された純度の高いたんぱく質、脂質を多く配合し、それらの生体内でのエネルギー産生を円滑にするためのビタミン類を適正に含ませるという総合的な観点で、必要成分を適切に配合した総合経腸栄養組成物はこれまで供給されていない。特に、たんぱく質を多く含む栄養組成物に対してナトリウム含量を増やすことは、これまでたんぱく質沈殿(塩析)が生じることから限界があった。しかし、高齢者の場合には低ナトリウム血症を起こす場合があるので、高エネルギー総合経腸栄養組成物において、たんぱく質含量と同時にナトリウム含量を高めることは極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3102645号公報
【特許文献2】特開2004-51494公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高齢者、入院患者のように、食事によって十分な栄養摂取ができない人に対して、それのみで必要とされる栄養を全て供給できる改善された総合経腸栄養組成物を供給することである。詳しくは、栄養指標である血清アルブミン値の改善および褥瘡の改善に顕著な効果を奏する、たんぱく質、脂肪、糖質、ビタミン、ミネラル、特に亜鉛および銅を適正に配合した総合経腸栄養組成物を提供することである。さらには、たんぱく質配合量を最大限に高めて、たんぱく質が沈殿を起こさないようにナトリウムを配合し、ビタミンB1、ビタミンB2を高含量とした、効率よい栄養状態の回復、低栄養状態の予防、褥瘡の改善および予防効果のある新規な総合経腸栄養組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の総合経腸栄養組成物は、たんぱく質、糖質、脂肪、ミネラル、ビタミンを含み、次の3つの特徴を総合的に組み合わせることによって所期の目的を達成するものである。
(1)組成物100kcalあたり、銅含量を0.15mg以下とし、亜鉛と銅の質量比を10〜25、好ましくは13〜20、特に好ましくは15〜18とすることである。この場合亜鉛含量を1.5mg以上とし、銅含量を0.075〜0.15mgとすることが好ましい。これは、銅の含有量が高いと亜鉛の吸収が阻害されるという知見に基づいて導かれる特徴点である。
【0009】
(2)組成物100kcalあたり、ナトリウムを185mg以上含有し、好ましくは、たんぱく質を4.0g以上、より好ましくは5.0g以上含有することである。これは、ナトリウムの欠乏を防止するためには、高濃度のナトリウムを含有させる必要があることによる。特にこのような高濃度のナトリウムは、たんぱく質を高濃度とした場合においては、塩析によるたんぱく質の沈殿が起きる障害を、主たるナトリウム源として燐酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムなどを用いることによって防止できるのである。
【0010】
(3)組成物100kcalあたり、ビタミンB1を少なくとも0.3mgおよびビタミンB2を少なくとも0.25mg含むことである。これは、糖質からのエネルギー産生に必要なビタミンB1、脂質からのエネルギー産生に必要なビタミンB2を高濃度に入れることによって、エネルギー産生を効率よく出来ることを応用したものである。
【0011】
さらに詳しく説明すれば、組成物100kcalあたり、亜鉛を1.5〜3.0mg、銅を0.075〜0.15mg、ナトリウムを185〜385mg含有することが望ましい。さらに好ましくは、組成物100kcalあたり、亜鉛を1.8〜3.0mg、銅を0.09〜0.12mg、ナトリウムを200〜385mg含有する。
【0012】
糖質、脂肪の体内での燃焼を助長するために、これまで既知のビタミンの使用量よりも高めて、組成物100kcalあたり、ビタミンB1を0.4〜2mg、ビタミンB2を0.25〜2.0mg含有することが望ましい。その他のビタミンとして、ビタミンB6を少なくとも0.30mg、好ましくは0.5〜2.0mg、ビオチンを少なくとも1.0μg、好ましくは1.0〜10μg配合することが望ましい。さらに100kcalあたりビタミンB12を0.20〜0.70μg、葉酸を20〜80μg、β−カロチンを100〜450μg、ビタミンCを10〜70mg添加することがより良い効果を与える。
【0013】
本発明の総合経腸栄養組成物のエネルギー源は、たんぱく質、糖質、脂肪である。たんぱく質、糖質、脂肪によって供給されるエネルギーの比率は、たんぱく質から10〜40%、糖質から40〜80%、脂肪から10〜40%の範囲で調節するのが好ましい。
【0014】
たんぱく質は、組成物100kcalあたり、好ましくは4.0g以上、より好ましくは5.0g以上含有させる。たんぱく源としては、動物性たんぱく質、植物性たんぱく質の如何なるものも利用できるが、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質を混合使用し、その比率を4:1から1:4とすることが望ましい。たんぱく質としてグルタミンあるいはグルタミンペプチドと、大豆たんぱく質あるいはその加水分解物を含むことが望ましい。さらに、組成物100kcalあたり、たんぱく質中の総グルタミンが少なくとも0.6gであることが望ましい。特に好ましくは、グルタミンあるいはグルタミンペプチドと、大豆たんぱく質あるいはこの加水分解物の比率が4:1から1:4である。
【0015】
脂肪源としては、動物性および植物性の吸収可能な脂肪が使用できる。中鎖脂肪酸油を少なくとも脂肪中35重量%含み、かつ脂肪中ω−3系脂肪酸:ω−6系脂肪酸が1:10から1:1であるものが好ましい。さらに、中鎖脂肪酸トリグリセリドが脂肪中40〜65重量%でかつ脂肪中ω−3系脂肪酸:ω−6系脂肪酸が1:4から1:1であることが望ましい。中鎖脂肪酸は炭素数6〜12の脂肪酸であり、消化吸収が早いので高齢者、入院患者の治療食として適している。
【0016】
糖質源としては、デキストリン、オリゴ糖、蔗糖、グルコース、果糖などを単独でもしくは組み合わせて用いる。
【0017】
上記の成分のほかに、必須アミノ酸であるロイシン、イソロイシン、バリン、スレオニン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンを必要に応じて添加する。また、ミネラルとしては、先に特記したナトリウム、亜鉛、銅のほかに、カルシウム、鉄、リン、マグネシウム、カリウム、ヨウ素、マンガン、セレン、クロム、モリブデンなどを必要に応じて添加する。
【0018】
本発明の総合経腸栄養組成物は、経口もしくは経管給与される。そのためには、液状の流動性の良い液状組成物であることが望まれ、その場合組成物の粘度が6〜18mPa・s(25℃)の範囲にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の総合経腸栄養組成物は、たんぱく質・エネルギー低栄養(PEM)のヒトの治療あるいは予防、血清アルブミン値の改善、褥瘡の改善、アルブミン−グロブリン比の改善、低下したナトリウム含量やクロール含量の改善、ヘモグロビン値の改善、ヘマトクリット値の改善、血清中の亜鉛含量の増加、末梢リンパ球数の増加などの顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の総合経腸栄養組成物では、精製された動物性たんぱく質、植物性たんぱく質あるいはこれらの組み合わせをたんぱく源として用いる。特に脳血管障害のある人または高脂血症の人等には、栄養素バランスの1つとして動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の比率を考え摂取することが動脈硬化防止や血中脂肪低下のために重要であり、本発明の総合経腸栄養組成物では、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の比率を1:4から4:1とすることが推奨される。さらに、免疫栄養素材として注目されるグルタミンを豊富に含むと患者の全身や腸管免疫状態がよいことも確認され、必要な状況の人にはグルタミンあるいは小麦グルテン加水分解物由来のグルタミンペプチド、さらにはアラニルグルタミンやグリシルグルタミン等の精製されたグルタミンの配合が推奨される。本発明組成物中の
総グルタミン量は、100kcalあたり0.6g以上が望ましい。
【0021】
本発明の総合経腸栄養組成物に用いる脂肪は、人が摂取できる脂肪源であればよい。とくに、高率のエネルギー供給が必須の場合、グルコースに匹敵する腸管からの吸収速度を有し、エネルギー産生率が大きい中鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸ジグリセリドや中鎖脂肪酸をその構造の中に含む脂肪が推奨される。また、抗炎症作用を有するエイコサペンタエン酸やαリノレン酸などのω−3系脂肪酸を含むことも、炎症を持つ患者や炎症予防が必要な患者など、これらの脂肪が必須な人には積極的な給与が必要である。本発明の総合経腸栄養組成物では、とくに中鎖脂肪酸油を総脂肪の35重量%以上含み、かつ脂肪中ω−3系脂肪酸:ω−6系脂肪酸が1:10から1:1とすることが好ましい。
【0022】
ミネラルの必要量は、第6次改定日本人の栄養所要量を基準に定めることを原則とする。しかし、高齢者では摂取量が低下して低ナトリウム血症が問題となるため、本発明の総合経腸栄養組成物ではナトリウムを強化した。ナトリウム源は、人が摂取または給与されるものであればよくその種類は問われないが、塩析によってたんぱく質を沈殿させないために、クエン酸ナトリウム、燐酸ナトリウムを主たるナトリウム源として用いる。本発明においては、ナトリウム含量が100kcalあたり185mg以上で有効性が示されるが、特に、100kcalあたり200〜385mgで著しい効果を有する。
【0023】
生体の多くの酵素の機能、構造に大きく係る亜鉛は、栄養状態が低い人には不足する。亜鉛の補給は血中の亜鉛濃度を上昇させ、特に褥瘡など創傷をもつ患者あるいはこのリスクのある者に有用である。さらに亜鉛の吸収は2価イオンである銅と競合することから、銅と亜鉛の配合割合と銅の含有量を、亜鉛の吸収に有利なように配合する必要がある。本発明の総合経腸栄養組成物においては、100kcalあたり亜鉛を少なくとも1.5mg、好ましくは1.5〜3.0mg、銅を0.075〜0.15mg配合し、亜鉛と銅の質量比を10〜25、好ましくは13〜20、特に好ましくは15〜18、最も好ましくは15とすることにより、褥瘡などの創傷治癒を促進させる効果が得られる。第6次改定日本人の栄養所要量によれば、亜鉛と銅の質量比は年齢、性別により異なるが、最も高い30〜49歳の男性の場合で約6.7であり、高齢者においては男性で約6.3、女性で約6.4であることを考慮すると、低栄養で亜鉛が不足するときは通常以上に、亜鉛の量を銅の量に比して高く設定することが重要である。さらに、栄養補給が必要な人の炎症状態に応じて、抗酸化作用をもつ微量元素であるセレンを100kcalあたり4.5〜18μg程度本品に添加することは有用である。
【0024】
ビタミンは、エネルギー産生、たんぱく質代謝、皮膚や粘膜の生理機能保持などの多くの生体活動に必須の補酵素として重要である。しかし、低栄養状態の人に対して配合されるべき量の検討はこれまで十分になされていない。本発明の総合経腸栄養組成物においては、100kcalあたりビタミンB1を少なくとも0.3mg、ビタミンB2を少なくとも0.25mg、ビタミンB6を少なくとも0.3mg、ビオチンを少なくとも1.0μg配合する。さらに最も効果的な配合は、100kcalあたりビタミンB1が0.4〜2.0mg、B2が0.25〜2.0mg、ビタミンB6が0.5〜2.0mg、ビオチンが1.0〜10μgである。さらに、その他のビタミンの添加が栄養状態の改善、維持、低栄養状態の予防、褥瘡の治療あるいは予防、貧血の治療あるいは予防のために有効である。本発明の総合経腸栄養組成物では、抗炎症作用、抗酸化作用、褥瘡防止作用のあるビタミンB12、葉酸、β−カロチン、ビタミンCなどを配合することが推奨される。具体的には、本発明の総合経腸栄養組成物100kcalあたり、例えばビタミンB12を0.20〜0.7μg、葉酸を20〜80μg、β−カロチンを100〜450μg、ビタミンCを10〜70mg配合する。これらすべての配合ビタミンは人が摂取できるものであればいずれの原材料でもよくとくに由来等が特定されるものではない。
【0025】
本発明の総合経腸栄養組成物には、経口摂取を容易にするために、適当な香料、アスパルテームなどのノンカロリー甘味料を加えることが可能である。さらに、排便促進のための難消化性食物繊維などの成分、場合によっては経口投与される医薬品なども、本発明の総合経腸栄養組成物の機能を妨げない範囲で必要に応じて添加することができる。
【0026】
低栄養状態の人は、経口摂取が困難なことが多くこの場合にはチューブを使って経管による栄養補給が積極的に実施される。しかし、これまでは、必要なたんぱく質を本発明のように高比率に配合し、さらにミネラルを十分添加すると沈殿が生じたり、液の粘度が高くなり経管給与は不可能であった。成分の配合比率、製造法の研究の結果、低粘度の液状総合経腸栄養組成物を完成し、経管給与を初めて可能とした。すなわちその組成物の粘度は6〜18mPa・s(25℃)の範囲にあり、非常に流動性に優れている。
【0027】
本発明の総合経腸栄養組成物は、栄養状態が低下した人に提供されるが、例えば、たんぱく質・エネルギー低栄養(PEM)、低アルブミン血症、低ナトリウム血症、亜鉛欠乏状態、貧血、ヘモグロビン値およびヘマットクリット値の低下、褥瘡あるいは創傷、免疫能力低下などに苦しむ人には特に有効である。したがって、これまで有効な組成物がなかったこれらの人々には本発明の総合経腸栄養組成物は大きな貢献をするものである。
【実施例】
【0028】
〔実施例1〕
総合経腸栄養組成物の調製(組成物1)
低栄養状態に対する最適栄養効果を熟考し、栄養素組成〔表1〕を組み立てた。これを具現化するための液状物の原料配合表を〔表2〕に示す。乳化安定性に優れ、たんぱく質等の沈殿を起こさない組成物とするため、ナトリウム原材料とたんぱく質原材料および乳化剤を原料配合表に従い配合し、高圧乳化機の圧力を500〜1,000kg/cm2として複数回乳化工程を実施することによって、液状総合経腸栄養組成物を調製した。すなわち、原材料と水とを高圧乳化機を用いて高圧乳化を繰り返し良好な1kcal/mlの濃度の乳化液を調製した。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の比率は1:1.5とした。また、グルタミンペプチドと、大豆たんぱく質あるいはこの加水分解物の比率は1:1.4であり、さらに脂肪酸組成においてω−3系脂肪酸:ω−6系脂肪酸の比率は1:3となるよう配合した。これを通常の充填機を用いてアルミ製袋に充填し、レトルト殺菌機に入れ、通常の条件で滅菌を実施した。この液は1年後においても全成分は安定であり、粘度は9mPa・s(25℃)であった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
〔実施例2〕
総合経腸栄養組成物の調製 (組成物2)
実施例1と同様に〔表3〕に示される栄養素組成を組み立てた。これを具現化するため
の液状物の原料配合表を〔表4〕に示す。実施例1と同様に、ナトリウム原材料とたんぱく質原材料および乳化剤の配合量を組み合わせ、さらに高圧乳化機の圧力を500〜1,000kg/cm2として複数回乳化工程を実施し、液状総合経腸栄養組成物を調製した。すなわち、原材料と水とを高圧乳化機を用いて高圧乳化を繰り返し良好な1kcal/mlの濃度の乳化液を調製した。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の比率は1:2とした。また、グルタミンペプチドと、大豆たんぱく質加水分解物の比率は3:1であり、さらに脂肪酸組成においてω−3系脂肪酸/ω−6系脂肪酸の比率は1:1とした。これを通常の充填機を用いてアルミ製袋に充填し、レトルト殺菌機に入れ、通常の条件で滅菌を実施した。この液は1年後においても全成分は安定であり、粘度は16mPa・s(25℃)であった。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
〔実施例3〕総合経腸栄養組成物の調製(組成物3)
実施例1と同様に〔表5〕に示される栄養素組成を組み立てた。これを具現化するための液状物の原料配合量を〔表6〕に示す。実施例1と同様に、ナトリウム原材料とたんぱく質原料および乳化剤を組み合わせ、さらに高圧乳化機の圧力を500〜1,000kg/cm2として複数回乳化工程を実施し、液状総合経腸栄養組成物を調製した。すなわち、原材料と水とを高圧乳化機を用いて高圧乳化を繰り返し良好な1kcal/mlの濃度の乳化液を調製した。これを通常の充填機を用いてアルミ製袋に充填し、レトルト殺菌機に入れ、通常の条件で滅菌を実施した。この液は1年後においても全成分は安定であり、粘度は10mPa・s(25℃)であった。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
〔実施例4〕
総合経腸栄養組成物の調製(組成物4)
実施例1と同様に〔表7〕に示される栄養組成を組み立てた。これを具現化するための
液状物の原料配合量を〔表8〕に示す。実施例1と同様に、ナトリウム原材料とたんぱく質原料および乳化剤を組み合わせ、さらに高圧乳化機の圧力を500〜1,000kg/cm2として複数回乳化工程を実施し液状総合経腸栄養組成物を調製した。すなわち、原材料と水とを高圧乳化機を用いて高圧乳化を繰り返し良好な1kcal/mlの濃度の乳化液を調製した。これを通常の充填機を用いてアルミ製袋に充填し、レトルト殺菌機に入れ、通常の条件で滅菌を実施した。この液は1年後においても全成分は安定であり、粘度は8mPa・s(25℃)であった。
【0038】
【表7】

【0039】
【表8】

【0040】
〔有効性試験1〕
ヒトに対する試験
実施例1で調製した本発明の液状総合経腸栄養組成物(本発明品)を使用し、高齢PEM患者の栄養状態に対する改善効果の検証を行った。対象は病院に入院しており経管栄養で栄養管理をされている高齢患者でアルブミン値3.5g/dL以下のPEM患者9名で、平均年齢81.3±9.9歳であった。給与期間は8週間とした。本発明品の給与開始前には、市販栄養製品A、Bなど複数のものが給与されていた。市販栄養製品A、Bなどと本発明品の各栄養素の給与量と充足率を〔表9〕に示した。本発明品によって給与されるエネルギー(873±124kcal/日)は、それ以前に市販栄養製品A、Bなどによって給与されていた平均エネルギー(863±133kcal/日)と同等とした。市販栄養製品A、Bなどの給与時と本発明品の給与時における栄養状態を確認した。早朝採血にて開始前、4週間、8週間後に血液学的検査、血液生化学的検査の測定を行った。
【0041】
【表9】

【0042】
この試験の結果、PEM状態とされるアルブミン含量が3.5g/dL以下の患者の場合、本発明品の給与開始前のアルブミン含量3.09±0.28g/dLから給与開始8週間後には3.33±0.31g/dLに有意に上昇した。また、アルブミン−グロブリン比も給与開始前0.8±0.2から給与開始8週間後には0.9±0.2に有意に上昇した。さらに、ナトリウムは給与開始前138±2.6mmol/Lから給与開始8週間後には142±5.6mmol/Lに、クロール濃度は給与開始前102±4.1mmol/Lから給与開始8週間後に107±4.7mmol/Lに、ヘモグロビン濃度は給与開始前12.0±1.5g/dLから給与開始8週間後に12.8±1.2g/dLに、ヘマトクリット値は給与開始前35.4±4.
3%から給与開始8週間後に38.1±3.7%と有意な改善効果が認められた。また、血中亜鉛濃度は、給与開始前64±4μg/dLから8週間目には77±5μg/dLと有意な上昇を示した。亜鉛の血中基準値下限が66μg/dL(臨床検査項辞典、医歯薬出版株式会社)であることから、血中低亜鉛を呈する患者群でも正常値に回復する効果が明らかとなり、本発明品の亜鉛配合量が適正であることが証明された。さらに、褥瘡を持つ患者の褥瘡サイズは本発明品給与後に有意に低値を示した。また、免疫指標である末梢リンパ球数も給与後上昇した。調査期間中、調査対象者9名のうち整腸剤投与で止まる軽度な下痢が1例見られたが、発生率11%でと全体として安定した状態にあり、健康状態には特に問題はみられなかった。下痢は経腸栄養療法の大きな副作用であり、重篤な場合には経腸栄養法による栄養補給の中止に至る。市販栄養剤Cの下痢発生率は34%(当該製品の添付文書の記載)、市販栄養剤Dの下痢発生率は17%(当該製品の添付文書の記載)であることからみて、本発明品が優れていることが判明した。
【0043】
今回の結果から、本発明の総合経腸栄養組成物は、低栄養状態にある人の栄養状態を改善させるに適正なたんぱく量であることが明らかとなった。また本発明の総合経腸栄養組成物は、エネルギー代謝に必要な十分な各ビタミン類、微量元素の補給が可能であり、さらにナトリウムや亜鉛をはじめとする電解質・微量元素も正常になり、従来の栄養剤に多い食塩添加の必要がなくなった。今回使用した本発明の総合経腸栄養組成物は、1日の給与量が平均873kcalであってもたんぱく質、ビタミン類、食塩、微量元素が充足され、低栄養、低アルブミン血症や貧血、褥瘡の改善に非常に有用であることが明らかとなった。
実施例2、3および4で調製した栄養組成物2、3および4でも各指標で有効性が認められた。
【0044】
〔有効性試験2〕
ヒトの褥瘡に対する治療効果
実施例1で調製した本発明の液状総合経腸栄養組成物(本発明品)を使用し、難治療性の褥瘡を発症した高齢患者に対する褥瘡改善効果を検証した。患者は、病院に入院する95歳の超高齢であり、介助が必要な状態であった。栄養評価記録のある平成14年7月からアルブミン3.5mg/dL以下が2年以上つづく低栄養を呈していた。病歴は閉塞性動脈硬化症と診断され(両下肢特に右)、褥瘡が右第1趾根部に発症し、市販経腸栄養製品Aによる栄養補給が行われていた。院内カンファレンスによりこれ以上の処置による褥瘡回復は困難との結論が出た患者であった。この血行不良が基礎疾患としてあり、難治な高齢褥瘡患者に市販経腸栄養製品Aと同カロリーの本発明品を給与し褥瘡の回復を測定した。市販経腸栄養製品Aと本発明品の栄養素給与量は〔表10〕に示した。市販経腸栄養製品Aの給与時と本発明品の給与時におけるエネルギーは同じとした。
【0045】
【表10】

【0046】
褥瘡の大きさは本発明品給与前には縦4cm×横4cmの楕円形であったが、給与後2週間で縦3cm×横3cmの楕円形に小さくなり、明らかな治癒効果がみられた。また、褥瘡の外観観察では、給与前では黄色の柔らかい壊死組織がみられ、肉芽の盛り上がりが少なく、市販栄養製品Aでは外観でも改善が認められなかった。本発明品給与後には良質肉芽の形成が著明に増加し、褥瘡の周縁部はピンクから白色となり改善がみられた。このように95歳の高齢で低栄養状態にある褥瘡発症患者において、本発明品の給与開始後2週間で明らかに褥瘡に対する治療効果が認められたことは、本発明品の組成比率がヒトの褥瘡改善に有効であること示している。
【0047】
さらに、栄養評価の重要な項目であるアルブミンは、市販経腸栄養製品Aの給与時には3.0mg/dLであったのが本発明品給与後には3.3mg/dLと上昇しており栄養改善が認められた。
【0048】
以上のことから、本発明品の亜鉛と銅の含有量とその比率、エネルギー産生の重要因子であるビタミンB群の量、たんぱく質の量が創傷治癒に有効であることが証明される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の総合経腸栄養組成物は、たんぱく質・エネルギー低栄養(PEM)のヒトの治療あるいは予防のために優れた効果を奏し、栄養指標である血清アルブミン値の改善、褥瘡の改善、アルブミン−グロブリン比の改善、低下したナトリウム含量やクロール含量の改善、ヘモグロビン値の改善、ヘマトクリット値の改善、血清中の亜鉛含量の増加、末梢リンパ球数の増加などの顕著な効果を奏する。したがって、本発明の組成物は、特に低アルブミン血症の治療あるいは予防のため、褥瘡あるいは創傷の治癒、予防のために用いることができる。さらに、本発明の組成物は高濃度のナトリウムを含有するので、低ナトリウム血症の治療あるいは予防のために有用である。さらに、本発明の組成物は高濃度の亜鉛を含有するので、亜鉛欠乏状態の患者の治療あるいは予防のために用いられる。さらに、本発明の組成物は、ヘモグロビン値およびヘマトクリット値を改善し低下を防止するために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質、糖質、脂肪、ミネラル、ビタミンを含有する総合経腸栄養組成物であって、該組成物100kcal当り、銅含量が0.15mg以下、亜鉛/銅の質量比が10/1〜25/1、ナトリウム含量が185mg以上、ビタミンB1含量が0.30mg以上、及びビタミンB2含量が0.25mg以上であることを特徴とする総合経腸栄養組成物。
【請求項2】
該組成物100kcal当り、たんぱく質含量が4.0g以上である請求項1に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項3】
該組成物100kcal当り、たんぱく質含量が5.0g以上である請求項2に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項4】
該組成物100kcal当り、亜鉛含量が1.5mg以上、銅含量が0.075mg〜0.15mgである請求項1〜3のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項5】
該組成物100kcal当り、亜鉛含量が1.5〜3.0mg、銅含量が0.075〜0.15mg、ナトリウム含量が185〜385mg、ビタミンB1含量が0.4〜2.0mg、ビタミンB2含量が0.25〜2.0mg、亜鉛/銅の質量比が10/1〜20/1である請求項1〜4のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項6】
亜鉛/銅の質量比が13/1から20/1である請求項1〜5のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項7】
亜鉛/銅の質量比が15/1から18/1である請求項1〜6のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項8】
該組成物100kcal当り、亜鉛含量が1.8〜3.0mg、銅含量が0.09〜0.12mg、ナトリウム含量が200〜385mgである請求項1〜7のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項9】
該組成物100kcal当り、ビタミンB6含量が0.3〜2.0mg、ビオチン含量が1.0〜10μgである請求項1〜8のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項10】
該組成物100kcal当り、ビタミンB12含量が0.20〜0.70μg、葉酸含量が20〜80μg、β−カロチン含量が100〜450μg、ビタミンC含量が10〜70mgである請求項1〜9のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項11】
該組成物100kcal当り、セレン含量が4.5〜18μgである請求項1〜10のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項12】
動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の比率が4:1から1:4である請求項1〜11のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項13】
たんぱく質としてグルタミンあるいはグルタミンペプチドと、大豆たんぱく質あるいはその加水分解物を含有する請求項1〜12のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項14】
該組成物100kcal当り、たんぱく質中の総グルタミンが少なくとも0.6gである請求項13に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項15】
グルタミンペプチドと、大豆たんぱく質あるいはこの加水分解物の比率が4:1から1:4である請求項13または14項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項16】
脂肪源として中鎖脂肪酸油を少なくとも脂肪中35重量%含有し、かつ脂肪中ω−3系脂肪酸:ω−6系脂肪酸が1:10から1:1である請求項1〜15のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項17】
中鎖脂肪酸トリグリセリドが脂肪中40〜65重量%でかつ脂肪中ω−3系脂肪酸:ω−6系脂肪酸が1:4から1:1である請求項16に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項18】
該組成物の粘度が6〜18mPa・s(25℃)の範囲にある請求項1〜17のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。

【公開番号】特開2012−197293(P2012−197293A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128479(P2012−128479)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【分割の表示】特願2006−536393(P2006−536393)の分割
【原出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】