説明

緑内障を処置するためのJUNN末端キナーゼの阻害剤の使用

IOPを低下させるおよび/または神経保護をもたらすための組成物および方法を開示する。該組成物および方法は、詳細には、IOPを低下させおよび/または神経保護をもたらすためにJun N末端キナーゼ(JNK)の阻害剤の使用を対象とするものである。本発明の一局面において、このJNK阻害剤は、SP600125、または本明細書に記載のいくつかの化合物から選択される。本発明は、Jun N末端キナーゼ(JNKi)の阻害が、ヒト小柱網(TM)細胞株によるトランスホーミング増殖因子β2(TGFβ2)誘導のフィブロネクチン発現を相当に減少させることの発見に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2006年3月31日に出願された米国出願第11/394,893号(これは、2004年10月29日に出願された米国仮出願第60/623,755号の利益を主張する、2005年10月26日に出願された第11/259,566号の一部継続出願である)への優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は一般に、緑内障の分野に関し、より具体的には、緑内障を患う患者に対して、眼圧を低下させ、神経保護をもたらすために、Jun N末端キナーゼ(JNK)阻害剤を使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
多くの眼の病理学的変化、例えば緑内障、急性虚血性視神経障害(optic neuropathy)、黄斑変性、網膜色素変性、網膜剥離、網膜裂傷または網膜裂孔、および他の虚血性網膜症または視神経障害は、網膜神経細胞の損傷または死の原因であり、失明を起こし得る。例えば原発性開放隅角緑内障(POAG)は、視神経の損傷および最終的には失明に至る進行性疾患である。この疾患の原因は、長年にわたり広範な研究の対象であったが、なお完全には理解されていない。緑内障は、網膜および視神経の神経変性を招く。最適な医療および外科治療の下でさえも、緑内障は網膜神経節細胞(RGC)が徐々に失われることをなお伴っており、視覚機能の低下の原因である(Van Buskirkら(1993年);Schumerら(1994年))。
【0004】
眼圧(IOP)の異常な上昇は、緑内障の主な危険因子である。現在、唯一利用可能な緑内障の処置は、投薬、手術のいずれかによりIOPを低下させることである。IOPの低下は、POAGの発症を遅らせ、その損傷作用を遅延するのに効果的である。それにもかかわらず、緑内障患者における視野の喪失は常にIOPに関係するとは限らず、IOPを低下させるだけではその疾患の進行を完全に止めることはない。
【0005】
緑内障患者に通常観察される病理学的変化の広い範囲およびパターンを説明するのに、単独で十分と思われる1つの機序があるわけではない。おそらく緑内障には複数の病因が関与しており、異なる患者および/または異なる疾患段階には、異なる機序が現れる。より重要な提案のいくつかは、神経栄養因子の欠乏、血管異常(虚血)およびグルタミン酸毒性である。これらの機序は最終的にRGCのアポトーシスを起こす(Clark & Pang(2002年))。
【0006】
同じ機序が別の眼疾患に関与することが提案されてきた。例えば神経栄養因子の減少は網膜色素変性のラットモデルと関係する(Amendolaら(2003年))。ある種の神経栄養因子を網膜に導入すると、網膜色素変性(Taoら(2002年))、網膜剥離(Hisatomiら(2002年);Lewisら(1999年))、実験的黄斑変性(Yamadaら(2001年))に関連する網膜損傷を減らすことができる。網膜虚血は、急性虚血性視神経障害、黄斑変性(Harrisら(1999年))および他の虚血性網膜症または視神経障害に関与する。同様に、グルタミン酸毒性は網膜剥離に見られる網膜損傷の一因となり得る(Sherry & Townes−Anderson(2000年))。
【0007】
特許文献1には、JNK遺伝子発現の測定が緑内障を診断する手段として記載されているが、緑内障を患っている患者に対して眼圧を低下させるか、または神経保護をもたらすためにJNKの阻害剤を使用することには言及していない。
【0008】
現在のところ、利用可能な緑内障の治療法で、眼組織が疾患の過程で損傷を受ける機序を遮断しようとする治療法はない。その上、様々な治療薬が高眼圧症を低下させる能力を有するものとして提案されてきたが、これらの薬剤の多くは、眼の治療薬として望ましくないものにさせる恐れがある副作用を伴っていた。必要なことは、緑内障の根本的な病因に対処し、それにより、IOPの低下に用いる薬剤に通常伴う望ましくない副作用を生じずに、IOPを低下させ、神経保護をもたらす緑内障の処置である。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0069893号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、緑内障を患う患者に対して、高眼圧症を減少させ、神経保護をもたらすための組成物および方法を提供することにより、これらおよび他の先行技術の欠点を克服する。該組成物および方法は、IOPを低下させ、神経保護をもたらす少なくとも1つのJNK阻害剤を含む。
【0010】
以下の図は本明細書の一部を形成し、本発明のある種の態様を更に明示するために含まれている。本発明は、本明細書に提示された特定の実施形態の詳細な説明とあわせてこれらの図を参照することによって、よりよく理解され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、緑内障を患う患者に対して、高眼圧症を減らし、眼圧を低下させおよび/または神経保護をもたらす組成物および方法を対象とする。該組成物は、医薬として許容できるビヒクル中に1種または複数のJNK阻害剤を含む。
【0012】
Jun N末端キナーゼ(JNK)は、ストレス活性化タンパクキナーゼのファミリーであり、3つの遺伝子:JNK1、JNK2およびJNK3に由来するmRNA転写物の選択的スプライシングにより作り出される少なくとも10種のアイソフォームを含んでいる(Guptaら(1996年))。JNKの活性化は、特定の形態のストレス誘導アポトーシスに必要とされ(Tournierら(2000年))、このアポトーシスは多くの転写因子および細胞タンパク質、特にアポトーシスと関連するもの(例えばBcl2、Bcl−X、p53など)をリン酸化に導く。細胞培養物において、JNKの活性化は、様々な損傷によって誘導される神経細胞のアポトーシスと関係している(Xiaら(1995年);Le−Niculescuら(1999年))。JNK3は、栄養因子除去(trophic factor withdrawal)に続く交感神経ニューロンの死に必要とされる(Brucknerら(2001年))。JNK3欠損マウスは、カイニン酸により誘導される海馬の神経毒性に対し抵抗性がある(Yangら(1997年))。このような神経保護作用のために、JNK阻害剤がアルツハイマー病、パーキンソン病、卒中および虚血により誘導される脳機能障害などの脳変性疾患に対する処置として提案されてきた。加えて、JNKシグナル伝達経路はまた、炎症に関与する分子の一部の活性および代謝も制御しているので(Manning & Mercurio(1997年))、JNK阻害剤は、関節リウマチ、ぜんそく、慢性の移植拒絶反応、炎症性腸疾患および多発性硬化症などの免疫疾患の処置として提案された。更に他の研究で、JNK阻害剤は肥満や2型糖尿病(Hirosumiら(2002年))および癌(Adjei(2001年))に対する潜在的治療剤として有用であり得ることが示された。
【0013】
上に列挙した多数の薬理作用がありながらも、JNK阻害剤が、眼圧を下げてかつ神経保護をもたらすに有用であるかは明らかではない。上記疾患のいずれも、緑内障とも眼圧上昇とも視神経保護とも関係しないことが示されている。その上、脳の変性疾患に有用な治療剤が、RGCまたは他の眼疾患の緑内障のアポトーシス死から必ずしも保護するわけではないので、脳における薬剤の有用性から眼における有用性は予測されない。炎症、免疫異常、糖尿病、肥満または癌が、緑内障、眼圧上昇、視神経保護の病因として広く受け入れられているわけではない。
【0014】
意外にも本発明者らは、Jun N末端キナーゼ(JNKi)の阻害が、ヒト小柱網(TM)細胞株によるトランスホーミング増殖因子β2(TGFβ2)誘導のフィブロネクチン発現を相当に減少させることを発見した(図1および図2)。フィブロネクチンはTMの細胞外マトリックス(ECM)の成分として知られており、TM領域でのECMも過剰蓄積は多くの型の緑内障の顕著な特徴である。そのような増加は房水流出(aqueous outflow)に対する抵抗性を増大させ、それによって眼圧(IOP)を上昇させると考えられている。JNKはまた、結合組織増殖因子(CTGF)のTGFβ介在性の産生に対するシグナル伝達経路とも関係がある(Utsugiら2003年)。CTGFは、フィブロネクチンを含む様々なECM成分の蓄積を増大することで知られている、IOP上昇の一端を担い得る。
【0015】
非ペプチドJNK阻害剤であるSP−600125は、培養中のラット網膜神経細胞であるRGCのグルタミン酸塩誘導死または栄養因子除去誘導死から保護することが示された(同時係属米国出願第11/259,566号参照)。該化合物は、ラットにおいて虚血/再灌流誘発性視神経障害から保護することも判明した。栄養因子の欠乏、虚血およびグルタミン酸塩の毒性は、緑内障および様々な眼疾患の潜在的な機序として提案されているので、これらのデータは、非ペプチドJNK阻害剤が眼組織に神経保護をもたらすための治療剤として有用であることを示している。
【0016】
本明細書で用いる場合、「JNK阻害剤」とは、対照値の50%またはそれ未満にまでJNKの活性を低下させることができる化合物を指す。JNK活性に対する化合物の潜在的阻害効果は、当業者によって容易に評価できる。例えばStratageneカタログ#205140、Upstateカタログ#17−166など、多くのJNK活性アッセイキットが市販されている。好ましい態様では、本発明の組成物および方法に使用するJNK阻害剤は低分子、ペプチド、ペプチド模倣物(peptidomimetic)、抗体などであってもよい。最も好ましくは、JNK阻害剤が低分子である。
【0017】
本発明の方法および組成物に有用と期待されるJNK阻害剤の例は、これらに限らないが、SP600125、およびそのすべてが参照として本明細書に援用される特許出願第WO200035906号、第WO200035909号、第WO200035921号、第WO200064872号、第WO200112609号、第WO200112621号、第WO200123378号、第WO200123379号、第WO200123382号、第WO200147920号、第WO200191749号、第WO2002046170号、第WO2002062792号、第WO2002081475号、第WO2002083648号、第WO2003024967号で開示されている薬理活性化合物が挙げられる。
【0018】
本発明の方法および組成物に有用と期待されるその他の好ましいJNK阻害剤には
【0019】
【化4】

が挙げられる。
【0020】
該方法は、高眼圧症を減らすか、または眼圧を低下させ、神経保護をもたらすためにヒト患者に1種または複数のJNK阻害剤を投与することを含む。
【0021】
本発明のJNK阻害剤は、当業者に知られている製剤技術に従って様々なタイプの医薬組成物中に含まれ得る。一般にJNK阻害剤は、局所的な眼投与または眼内投与用の液剤または懸濁液に、あるいは全身投与(例えば経口または静脈内)用の錠剤、カプセル剤または液剤として製剤化される。
【0022】
投与のし易さのためには、経口製剤のJNK阻害剤が好ましい。経口製剤は液体でも固形でもよい。一般に、経口製剤は、活性JNK阻害剤と不活性賦形剤を含むであろう。一般に固体錠剤またはカプセルの製剤(dosage)は、増量剤、結合剤、徐放用コーティングなどの様々な賦形剤を含む。液体製剤には、担体、緩衝剤、等張化剤(tonicity agent)、可溶化剤などを含む。
【0023】
一般に上記目的のために利用する用量は変化しようが、網膜神経障害を阻害または改善するのに有効な量になろう。本明細書で用いる場合、「医薬として有効量」の用語とは、眼圧を低下させ、網膜神経障害を阻害または改善する量を指す。JNK阻害剤は通常これらの製剤の中に約0.01〜約10.0重量/%の量で含まれる。好ましい濃度は約0.1〜約5.0重量/%の範囲である。局所投与に関しては、熟練した臨床医の日常的判断に応じて、これらの製剤を疾患部位へ1日1〜6回送達する。例えば、治療のために有用な錠剤または液体の形態での全身投与は、約10〜1000mgのJNK阻害剤を含有すると見込まれ、熟練した臨床医の判断に応じて1日1〜4回服用することができる。
【0024】
本明細書で用いる場合、「医薬として許容できる担体」とは、安全で、かつ本発明の少なくとも1つのJNK阻害剤の有効量を所望の投与経路に対して適切に送達する任意の製剤を指す。
【0025】
以下の実施例は本発明の好ましい実施形態を示すために含められている。以下の実施例で開示される技術は、本発明の実施によく機能することを本発明者が発見した技術であり、したがって実施のための好ましい方式を構成すると考えることができることを当業者であれば認識されたい。しかし、本発明の趣旨および範囲から乖離することなく、開示される特定の実施形態において、多くの変更をなし、それでもなお同様または類似の結果を得ることができることを、本開示に照らして、当業者であれば認識されたい。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
フィブロネクチンアッセイ
培養し、形質転換したヒトTM細胞をこれらの試験に用いた。GTM−3形質転換細胞株の生成および特性決定は以前に記載されている(Pang IHら、Curr Eye Res.1994年13巻:51〜63頁)。維持成長培地は、10%ウシ胎仔血清(Hyclone、ローガン、ユタ州)および50μg/mLゲンタマイシン(Gibco/BRL)を補充した、Glutamax I入りダルベッコ変法イーグル培地(Gibco/BRL、グランドアイランド、ニューヨーク州)から構成された。アッセイのために、培養物をトリプシン処理し、24ウェルプレート(Corning Costar、アクトン、マサチューセッツ州)に播種し、単層が約90%の集密度になるまで増殖させた。次いで、適切な試験化合物を含み、血清および抗生物質を含まない培地0.25mLで培養培地を置き換えた。細胞を5%COおよび37℃で24時間インキュベートした。次いで培養上清のアリコートをELISAによるフィブロネクチン含有量についてアッセイした。
【0027】
JNK阻害剤であるSP600125の影響を評価する実験では、この化合物とTGFβ2(5ng/mL)とを同時に用いて細胞を培養した。TGFβ2は、TM細胞によるフィブロネクチン産生の誘導因子として知られている。SP600125は、TGFβ2処理したGTM−3細胞の上清中のフィブロネクチンレベルを用量依存的に減少させた。この結果を図1に図示する。JNKの役割を、JNKの細胞透過性の選択的ペプチド阻害剤を用いることにより更に解明した。SP600125と同様に、該ペプチド阻害剤と共インキュベーションすると、TGFβ2処理したGTM−3細胞の上清中のフィブロネクチンレベルが用量依存的に減少した。こうした結果は、細胞透過性の陰性対照ペプチド(スクランブル配列)の効果がないことと対照的であり、したがってこれらの試験においてJNKの中心的な役割を裏付けている。これらペプチドの結果を図2に図示する。
【0028】
(実施例2)
以下の実施例は、網膜細胞への細胞傷害性損傷に対するJNK阻害剤の保護効果を示す。
【0029】
ラット網膜神経節細胞の生存アッセイ
成体のSprague−DawleyラットをCO窒息により安楽死させた。その眼を摘出し、ダルベッコ変法イーグル培地:Nutrient mixture F12(1:1;DMEM/F12)の中に入れた。パパイン(34単位/mL)、DLシステイン(3.3mM)およびウシ血清アルブミン(0.4mg/mL)をDMEM/F12中に含むパパイン溶液中でその網膜を25分間37℃でインキュベートした。次いで網膜部分を細胞が分散するまですりつぶした。細胞懸濁物(1.5mL;細胞約4.5×10個含有)をポリ−D−リジンコーティングガラス底の各培養皿中へ入れた。Barresら(1988年)により以前記載された培地中で、3日間95%空気/5%CO2中、37℃でその細胞を培養した。
【0030】
細胞生存に対するグルタミン酸塩の毒性を評価する実験では、細胞を100μMのグルタミン酸塩と共に3日間培養した。細胞生存に対する神経栄養因子除去の有害な影響を評価する実験では、塩基性線維芽細胞増殖因子、脳由来栄養因子および毛様体由来神経栄養因子を培地から除き、細胞を3日間培養した。JNK阻害剤であるSP600125の潜在的な保護効果を評価する実験では、グルタミン酸塩が存在するか、または指示した栄養因子が存在しない中で、該化合物と共に3日間細胞を培養した。3日間の培養期間の終わりに、RGCの細胞表面マーカーであるThy−Iで細胞を免疫染色し、蛍光顕微鏡下で観察した。Thy−I陽性の細胞を計数し、平均した。その結果を図3に図示してある。
【0031】
RGCの生存が、指示した神経栄養因子の存在に依存し、その結果、培養培地からその神経栄養因子を除去(TF除去)すると、RGCが対照群の約50%まで死んだことを図3は図示している。SP600125と共に細胞を培養すると、そのような損傷から顕著かつ完全に細胞を保護した。図3はまた、100μMのグルタミン酸塩を培養培地に加えると細胞生存が約50%減少するので、グルタミン酸塩がRGCに有毒であったことも示している。再びその細胞をSP600125と培養すると、この細胞毒性からも顕著かつ完全に細胞を保護した。
【0032】
(実施例3)
以下の実施例は、ラットにおける虚血誘発性視神経障害に対するJNK阻害剤の保護効果を示している。
【0033】
ラットにおける虚血/再灌流誘発性の視神経障害
ウィスター系成体ラットを麻酔し、各動物の一方の眼の前房にカニューレを挿入した。カニューレは高所に配置した生理食塩水タンクに接続した。その高さはラットの収縮期圧より高い眼圧を生じるように調整されており、網膜の血流を止めることで、網膜虚血を生じた。虚血から60分後、前房内のカニューレを除いて網膜を再灌流させた。2週間後、ラットを安楽死させ、その視神経を分離し、0.1Mのカコジル酸緩衝液中2%のパラホルムアルデヒド、2.5%のグルタルアルデヒドで固定し、切片にして、HollanderおよびVaaland(1968年)により記載されたように調製したイソプロパノール:メタノール(1:1)中に1%p−フェニレンジアミンで染色した。各視神経切片中の視神経の損傷をPangら(1999年)が以前報告したように、視神経損傷スコア(Optic Nerve Damage Score)によって順位付けした。この順位付け方式では、スコア1が損傷なしを示し、スコア5が完全損傷を示した。
【0034】
SP600125の潜在的保護効果を試験するために、虚血を誘導する2日前から連続16日間、選択した動物にSP600125の毎日の腹腔内注射で処置をした(30mg/kg)。その結果を図4に図示する。
【0035】
視神経損傷スコアが劇的に増加することで示されるように、虚血/再灌流は相当な損傷を視神経に与えたことを図4は示している。また、視神経損傷スコアが相当減少することにより示されるように、SP600125の全身投与は、網膜に対するこの虚血損傷から保護できたことも示されている。
【0036】
(実施例4)
JNK阻害剤であるSP600125を培養成体ラット網膜神経節細胞(RGC)中で試験した。グルタミン酸塩誘導細胞毒性および栄養因子除去誘導細胞毒性の両方から保護することが示された。
【0037】
方法
A.RGC培養
Sprague−Dawley成体ラットをCO窒息により安楽死させた。その眼を摘出し、網膜を分離した。網膜細胞をパパイン溶液で25分間37℃にて処理した後、5mLのRGC培養培地(様々な栄養補充物と1%ウシ胎仔血清を加えたNeurobasal培地)で3回洗浄した。網膜細胞をすりつぶすことにより分散させた。細胞懸濁物をポリ−D−リジンおよびラミニン被覆の8ウェルチャンバー付き培養スライドに入れた。次いで95%大気/5%CO中、37℃でその細胞を培養した。
【0038】
B.細胞傷害性の損傷
グルタミン酸誘導毒性試験のために、細胞をビヒクルまたは指示した化合物で30分間前処理し、その後3日間100μMのグルタミン酸塩で処理した。
【0039】
栄養因子除去試験のために、3つの栄養因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子を培養培地から取り除いた。指示した化合物と共に3日間細胞をこの培地中で培養した。
【0040】
C.細胞生存の定量
インキュベーション期間終了時に、細胞を固定し、免疫細胞化学法によりRGCマーカーであるThy−1で標識した。各ウェル中のThy−1陽性の健常細胞を手作業で数えることにより細胞生存を定量した。
【0041】
結果
A.ラットRGCにおけるグルタミン酸塩誘導毒性へのSP600125の影響
グルタミン酸塩はラットRGCに対して有毒であり、100μMのグルタミン酸塩で3日間処理した後には、50〜70%の細胞しか生存しなかったことが以前から示されている。これらの細胞におけるグルタミン酸塩誘導毒性は、MK801の前処理によって防ぐことができる。SP600125はこの損傷に対して用量依存的な方法で保護的であった(図5)。
【0042】
B.RGCにおける栄養因子除去誘導毒性へのSP600125の影響
3つの栄養因子を3日間除去すると、細胞の約40〜50%が死ぬことは以前に示された。SP600125はこの損傷に対して用量依存的な方式で保護的であった(図6)。
【0043】
(実施例5)
緑内障および他の眼疾患を処置するのに有用な局所組成物
【0044】
【表1】

最初に、精製水の一部をビーカーに入れて90℃に加熱することによって、上記製剤を調製する。次いでヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を温水に加えて、HPMCがすべて分散するまで激しく渦流撹拌することにより混合する。次いで、HPMCを水和させるために混合しながら、生じた混合物を冷却する。次いで、液体の入り口と疎水性で無菌の換気口フィルタとを有する容器の中で、オートクレーブの手段により生じた溶液を滅菌する。
【0045】
次いで塩化ナトリウムおよびエデト酸二ナトリウムを精製水の第2の部分に加えて溶解する。次いで塩化ベンザルコニウムをその溶液に加え、溶液のpHを0.1M NaOH/HClで7.4に調整する。次いでろ過によってその溶液を滅菌する。
【0046】
SP600125は乾熱またはエチレンオキシドで滅菌する。エチレンオキシド滅菌を選択した場合、50℃で少なくとも72時間の通気が必要である。滅菌した化合物は無菌的に秤量し、加圧型ボールミル容器の中に入れる。次いでその容器の中に滅菌したガラスボールを加え、その容器の中身を225rpmで16時間か、またはすべての粒子が約5ミクロンの範囲になるまで無菌で粉砕する。
【0047】
次いで無菌条件下で、先のステップの手段で形成された微粉化した薬剤懸濁液または溶液をHPMC溶液に混ぜながら注ぐ。次いでボールミル容器およびその中に含まれるボールを、塩化ナトリウム、エデト酸二ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウムを含んでいる溶液の一部ですすぐ。次いでそのすすぎ液を無菌的にHPMC溶液に加える。溶液の最終容量を精製水で調整し、必要であれば溶液をNaOH/HClでpH7.4に調整する。
【0048】
(実施例6)
局所投与用の好ましい処方
【0049】
【表2】

(実施例7)
経口投与用の処方
錠剤:
1〜1000mgのJNK阻害剤と、デンプン、乳糖およびステアリン酸マグネシウムなどの非活性成分とを、錠剤の製剤分野における当業者に既知の手順に従って製剤化することができる。
【0050】
本明細書で開示および主張するすべての組成物および/または方法は、過度の実験をすることなく、本開示に照らして作製および実行することができる。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態に関して記載してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から乖離することなく、該組成物および/または方法、ならびに本明細書に記載の方法のステップまたは一連のステップに変更を加え得ることは当業者にとって明白であろう。より具体的には、化学的にも構造的にも関連性したある種の薬剤が、同様の結果を達成するために、本明細書に記載の薬剤の代替となり得ることは明らかであろう。当業者にとって明白なそのような代替および変更はすべて、付属する特許請求の範囲により規定されるような本発明の趣旨、範囲および概念に入るとみなされる。
【0051】
参考文献
以下の参考文献は、本発明を説明するものに対し、実験的手法または他の詳細な補足事項を提供する限度において、参照として本明細書中に特に組み込まれている。
【0052】
特許および公開された特許出願
【0053】
【化5】

他の刊行物
【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】培養したヒト小柱網(GTM−3)細胞の上清における、フィブロネクチンレベルのTGFβ2刺激(24時間)増大に対するSP600125の用量依存的影響。
【図2】細胞透過性の陰性(スクランブル配列)対照ペプチド(Calbiochemカタログ#420131)に対する反応と比較した、細胞透過性の選択的ペプチド阻害剤(JNKi−III;Calbiochemカタログ#420130)の反応。両薬剤は、培養ヒト小柱網(GTM−3)細胞からの上清中でのフィブロネクチンレベルのTGFβ2刺激(24時間)増大への影響を試験した。
【図3】栄養因子の有無、グルタミン酸塩(100μM)の有無によるラットRGC生存に対するSP600125の影響。細胞は各条件で3日間培養した。生存はThy−1陽性の健常細胞の計数により定量した。
【図4】虚血/再灌流誘発性視神経障害に対するSP600125の影響。視神経損傷スコア1は損傷なしを示し、スコア5は完全損傷を示す。*:スチューデントt−検定によるビヒクル処理群に対するp<0.005。
【図5】培養した成体ラットRGCの生存に対するSP600125の影響。細胞はSP600125と共に、またはそれなしで3日間グルタミン酸塩(100μM)で処理した。
【図6】培養した成体ラットRGCの生存に対するSP600125の影響。対照を除くすべてのウェルから選択した栄養因子(bFGF、BDNF、CNTF)を除いた。指示された濃度のSP600125で3日間細胞を処理した(TF=栄養因子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑内障を患う患者において眼圧を低下させるための組成物であって、有効量の1種または複数のJun N末端キナーゼ(JNK)阻害剤および医薬として許容できるビヒクルを含む、組成物。
【請求項2】
前記JNK阻害剤がSP600125、
【化1】

からなる群より選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口製剤である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
局所点眼薬(topical ophthalmic)、手術用洗浄液または眼内製剤である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
高眼圧症を低下させるための方法であって、有効量の1種または複数のJNK阻害剤および医薬として許容できるビヒクルを含む組成物をヒト患者に投与することを含む方法。
【請求項6】
前記JNK阻害剤がSP600125、
【化2】

からなる群より選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が経口製剤である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が局所点眼薬、手術用洗浄液または眼内製剤である請求項5に記載の方法。
【請求項9】
眼圧を低下させ、神経保護をもたらすための方法であって、有効量の1種または複数のJNK阻害剤および医薬として許容できるビヒクルを含む組成物をヒト患者に投与することを含む方法。
【請求項10】
前記JNK阻害剤がSP600125、
【化3】

からなる群より選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が経口製剤である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が局所点眼薬、手術用洗浄液または眼内製剤である請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−532373(P2009−532373A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503137(P2009−503137)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/063961
【国際公開番号】WO2007/117849
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】