説明

緑内障を改善するまたは疾患の原因となる眼内過圧を改善する移植可能な眼のマイクロ装置

【課題】緑内障を改善するまたは疾患の原因となる眼内過圧を改善する移植可能な眼のマイクロ装置を開示する。
【解決手段】眼球(13)内に移植可能なマイクロ装置(11)は、インシトゥー環境にある眼圧センサー(23)により指令を与えられる準双安定性マイクロ弁(21)を備えている。マイクロ弁機構は、複合重合体(29)から作られて高度な変形性と生体適合性という2つの性能を示す隔壁(27)を有しており、マイクロ弁機構の容積はそこに設けられている1対の電極(31)により印加される電位に依存している。センサーと作動装置としての弁とは排液管(15)に接続されており、これら構成部材はまず最初に眼球内の眼圧により変形してから、次に屈曲位置にきた場合は通常は排液管を閉鎖する。センサーは弁と同じ2つの特性を有している導電性重合体素材の膜を使用しており、センサー膜のオーム抵抗は眼圧によりもたらされた機械的変形に伴って変動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科外科手術に適用することができるとともに、緑内障に関連する眼内高圧を改善し、または、究極治療を施すことに関するものである。
【0002】
緑内障とは、眼圧の緩慢な上昇、場合によっては、その急上昇が原因で生じて盲目に至る進行性疾患についての包括的表現である。このような眼圧上昇は極めて重要な危険要因であると考えられている。約6千700万人の人が世界中でこの疾患に罹っていると推定されている。
【背景技術】
【0003】
眼圧を降下させるための薬物治療および外科治療は存在している。治療と手術がうまくいかない場合は、眼房水(眼内液)を管およびプレートを通して外部に排液する受動弁と一緒に移植片が併用される(当該技術分野では「バイパス形成」として従来公知である側副路の形態で)。具体例としては、ケー・エス・リム(K.S. Lim)ほか共著の「緑内障排液装置とその過去、現在、未来(Glaucoma Drainage Devices, Past, Present and Future)」という題名の1998年刊のブリティッシュ・ジャーナル・オヴ・オフサルモロジー(British Journal of Ophthalmology)の第82巻1083頁〜1089頁に掲載の論文、および、国際特許公報(PCT)WO99/66871号を参照するとよいが、後者は眼内に移植可能な約1mm長さの装置であって、眼圧を調節するとともに最適値を超過すると圧力放出を行って眼房水を排出して周辺組織に吸収させるストッパーによって眼圧を降下させる装置を記載している。しかしながら、このような移植片は従来では以下のような欠点を呈していた。
【0004】
<欠点1> 移植片寸法が十分な小ささ(1 cm未満)ではないか、または、素材が不適切で繊維増多を回避できない(前述のリムほか共著の「緑内障排液装置とその過去、現在、未来」という題名のブリティッシュ・ジャーナル・オヴ・オフサルモロジー(1998年刊)の第82巻1083頁〜1089頁に掲載の論文を参照のこと)。
【0005】
<欠点2> 外科手術によっては眼圧を最適化することができない、または、眼圧を予想どおりにすることができない結果として、低張状態となる、すなわち、眼房水循環に対して高い抵抗を示す結果となる(キュー・エイチ・グエン(Q.H. Nguyen)著の「緑内障治療法排液移植片の合併症の回避と管理(Avoiding and Managing Complications of Glaucoma Drainage Implants)」という題名の2004年刊のカレント・オピニオン・イン・オフサルモロジー(Current Opinion in Ophthalmology)の第15巻147頁〜150頁に掲載の論文を参照のこと)。
【0006】
<欠点3> 眼圧が1日のうちにいろいろ変動する、すなわち、受動弁によって眼圧変動を補正することができない(ワイ・キタザワ(北澤克明)およびティー・ホリエ(堀江武)共著の「原発性開放隅角緑内障における眼圧の日内変動(Diurnal Variation of Intraocular Pressure in Primary Open-Angle Glaucoma)」という題名の1975年刊のアメリカン・ジャーナル・オヴ・オフサルモロジー(American Journal of Ophthalmology)の第79巻557頁〜566頁に掲載の論文を参照のこと)。
【0007】
<欠点4> 移植片を製造するのに使用されているシリコンの疎水性が原因で粒子(蛋白質または細胞)による閉塞が生じる。ヅィー・ホア(Z. Hua)、オー・スリヴァナヴィット(O. Srivannavit)、ワイ・シャ(Y. Xia)、イー・グラーリ(E. Gulari)共著の「パリレン膜および通気作用を利用した化学物質を通さない小型マイクロ弁配列(A Compact Chemical-Resistant Microvalve Array Using Parylene Membrane and Pneumatic Actuation)」という題名の2004年開催のメムス・ナノ・アンド・スマートシステムズ国際会議(2004 International Conference of MEMS, NANO and Smart SystemsまたはICMENS 2004)発表論文を参照のこと。参照先はICMENS 2004年度議事録のリンク先であるICMENS2004. Proceedings (中略) 2004-ieeexplore.ieee.org.。
【0008】
前述の受動弁の代用として、微小電気機械システム(メムスまたはMEMS)技術を利用した電気化学作動マイクロ弁または電磁作動マイクロ弁を使おうとの試みも既に行われた。この点について、ビー・ビュングーン(B. Byunghoon)著の「緑内障移植片用の眼圧調節弁のインヴィトロ実験(In Vitro Experiment of the Pressure Regulating Valve for a Glaucoma Implant)」という題名の2003年刊のジャーナル・オヴ・マイクロメカニクス・アンド・マイクロエンジニアリング(Journal of Micromechanics and Microengineering)第13巻613頁〜619頁に掲載の論文を引例として挙げることができるが、この論文に示されているのは、緑内障を緩和するための眼内移植片であって、その手段として電磁弁開閉機構および磁力により運動させられる恒久磁石を使って膜を変形する方法を採用している。膜は、弾性率(ヤング係数)が低い変形可能な重合体から製造されている。また、サルタンポア(Soltanpour)ほかに交付された「眼圧を制御するための方法および装置(Method and Apparatus for Controlling Intraocular Pressure)」という名称の米国特許第6,168,575号は、眼内に移植されて余剰の体液を除去するようにした、手動または自動で調節することができる5 mmから15 mmの長さの小型ポンプを記載している。制御はマイクロプロセッサに接続されている圧力センサーによって行われるが、該圧力センサーは眼の外に配置されているセンサーである。前述の米国特許は、筋低張に関連する合併症に対して自動調節を行うことの欠点を論じている。
【0009】
米国特許第6,589,203号は、連続変形を支援することができる素材から製造された変形可能な面と、眼圧変動に対して高感度で眼房水流動を制限する弁を設けた排水管とを備えている眼内移植可能な装置を記載している。より近年の引例としては、サルタンポアほかに交付された「人工筋肉による膜ポンプ装置(Synthetic Muscle-Based Diaphragm Pump Apparatuses)」という名称の米国特許第6,682,500号があり、金属化合物の合成重合体から製造された膜ポンプを備えているとともに圧力センサーが設けられている装置を記載している。この装置には2個の弁が装備されており、そのうちの1個はポンプへの入口導管に設けられており、もう1個は出口導管に設けられており、ポンプへの体液流入を調節している。この文献は、移植片と体外の付属装置との間で信号を伝達するように誘導結合を実装することもできることに言及している。
【0010】
残念なことに、上述の移植片は生体適合性と寸法の点で問題があり、この点では設計要件に適い得なかった先行技術の各装置と同様である。機能不全や閉塞などのような問題点は上述の各特許によっては依然として対処されていない。
【0011】
関連は薄いが、当該技術分野において興味の対象となりそうなものを挙げるとすれば、仏国特許第2,553,658号(緑内障治療のための弁移植片)、米国特許第4,282,882号(眼圧修正装置)、米国特許第4,402,681号(眼圧調節のための移植可能な人工弁)、米国特許第4,585,457号(膨張可能な眼内レンズ)、米国特許第4,886,488号(緑内障涙腺の排液システムおよび排液方法)、米国特許第5,041,081号(緑内障を制御するための眼内移植片)、米国特許第5,127,901号(下結膜円蓋を設けた移植片)、米国特許第5,433,701号(眼圧を降下させる装置)、米国特許第5,454,796号(眼内流体圧を制御する装置および方法)、米国特許第5,520,631号(眼圧降下方法およびその装置)、米国特許第5,704,907号(眼圧降下方法およびその装置)、米国特許第6,102,045号(眼圧降下方法およびその装置)、米国特許第5,523,808号(眼圧測定システムが設けられた眼科装置)、米国特許第5,626,559号(過剰な眼内液を排液する眼科装置)、米国特許第5,651,782号(緑内障外科手術でメッシュ片を移植する方法および装置)、米国特許第5,656,026号(緑内障眼内排液するための弁の一方向勾配を制限する装置のインヴィトロ生検法)、米国特許第5,713,844号(眼圧調整装置およびその方法)、米国特許第5,743,868号(圧力を調整するための角膜に移植可能な装置)、米国特許第5,785,674号(緑内障を治療するための装置および方法)、米国特許第5,807,302号(緑内障の治療)、米国特許第5,868,697号(眼内移植片)、米国特許第5,968,058号(眼内移植片の移植装置および方法)、米国特許第6,077,299号(緑内障で房水を排出するための調節自在弁を設けた非観血移植片)、米国特許第6,083,161号(眼圧測定を改善する装置および方法)、米国特許第6,113,542号(角膜の測定厚さに基づく有効眼圧に調整する診断装置および方法)、米国特許第6,142,990号(眼圧降下に特化した医療装置)、米国特許第6,464,724号(緑内障の治療装置および方法)、米国特許第6,468,283号(眼の移植片を利用して眼圧を調整する方法)、米国特許第6,510,600号(眼内液流調節用移植片の製造方法)、米国特許第6,558,342号(眼内液流の制御装置、導入装置、および、装置の移植方法)、米国特許第6,726,664号(眼内液流の制御装置、導入装置、および、装置の移植方法)、米国特許第6,638,239号(緑内障の治療装置および方法)、米国特許第6,730,056号(緑内障治療用の眼内移植片および移植片製造方法)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許公報(PCT)WO99/66871号
【特許文献2】米国特許第6,168,575号
【特許文献3】米国特許第6,589,203号
【特許文献4】米国特許第6,682,500号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ケー・エス・リム(K.S. Lim)ほか共著、「緑内障排液装置とその過去、現在、未来(Glaucoma Drainage Devices, Past, Present and Future)」、ブリティッシュ・ジャーナル・オヴ・オフサルモロジー(British Journal of Ophthalmology)第82巻1083頁〜1089頁(1998年刊)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述の引例に鑑みて、本発明の目的を以下に列挙する。
<目的1> 微細動が原因で周辺組織が反応(繊維増多)して眼内液排出を閉塞させてしまうのを回避するとともに作動装置やセンサーなどの別な機能部材を追加することができるようにするのに十分なだけ移植片寸法を小型にする微小電気機械システム(メムスまたはMEMS)技術を利用して、移植片を微細化することである。
【0015】
<目的2> 日周期であれ別な周期であれ、移植中の眼圧変動や疾患の変遷パターン等を考慮しながら、眼圧および眼房水排出を能動制御することである。
【0016】
<目的3> 微小電気機械システム(メムスまたはMEMS)技術で加工自在であるとともに、ポリイミドやパリレンなどのような反応性を低減した素材または反応性を最小限に抑えた素材(従来使用されてきたシリコーンに較べて疎水性が少ない)を組入れ、複合重合体などのような低圧作動手段も同様に組入れることにより、耐用年数期間内の移植片の生体適合性を確保することである。
【0017】
<目的4> 繊維増多により低張状態となって眼房水循環に対する抵抗が上昇するのを回避し、低剛性の重合体素材を使うことにより作動装置すなわち弁を大きく変位させることで蛋白質と細胞を通過させることができるようにした開口を達成するとともに、進行性緑内障または進行性閉塞の場合などにおけるように眼房水循環に対して高い抵抗を示す場合には眼房水を汲み上げる様式にする可能性も併せて達成するようにした作動装置とセンサーからなるシステムを利用して粒子閉塞を回避することである。
【0018】
本発明の更に別な目的を以下に列挙する。
<目的5> 移植片の耐用年数を延ばすことができるようにした信頼おける設計を提案すること。
【0019】
<目的6> 治療戦略を修正することができるように遠隔測定による継続管理を行い、例えば、制御眼圧を変化させたり、移植手術を検査するなどの追跡調査を行うこと。
【0020】
<目的7> 移植片の電力消費を最小限に抑えること。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、インシトゥー環境で眼圧センサーによって制御されるマイクロ弁を備えているタイプの、眼内移植可能なマイクロ装置(または、マイクロ移植片)である。上述の目的を達成するにあたり、隔壁または膜もしくはそれ以外の流れ閉塞手段であって、高い変形自在性は元より生体適合性を示すように選択された重合体素材から製造されたものから構成されているマイクロ弁として作動装置を実装し、更に、前述と同じ複数の特性を兼ね合せて有している重合体素材の膜から作られたセンサーからマイクロ弁機構に指令を与えるという方法を採用している。各種構成部材、すなわち、センサーと作動装置である弁とは排液導管に接続されており、これら構成部材は、まず第1に眼球の眼圧によって変形し、次いで屈曲位置になると通常は排液導管を閉鎖して、誤動作の場合に弁が開いたままになって低張の原因となるのを回避する。
【0022】
センサーの重合体素材は導電性であり、センサーのオーム抵抗はその機械的変形に伴って変動し、眼圧を示す信号を生成する。機械的な作動装置である弁の素材は複合重合体であり、電界液媒体(眼内液として)中のイオンを2個の電極間に印加される電圧によって移動させることにより酸化または還元させた場合は、上記素材の体積が変動する。このような素材の相対的な利点を以下に列挙する。
【0023】
<利点1> 低電圧(1ボルト)で相当に変形する。
【0024】
<利点2> 閉状態から開状態に変動させるのに要するエネルギーを最小限に抑える。
【0025】
<利点3> 生体適合性がある(眼房水のような湿った環境でうまく作用する)。
【0026】
<利点4> 微細加工を施すことができる。
【0027】
<利点5> 十分迅速に作動する(数秒)。
【0028】
上述の素材のおかげで、装置を閉塞させる恐れのある粒子を排出するのに十分なだけマイクロ弁の開口部を大きく設けることができる。他の特許文献に開示されている各種素材には見られないが、上述の素材のみが示す1つの特徴である準安定性を有する機構であるため、マイクロ弁の電力消費は最小限で済む(本明細書で使用されている「準安定」という表現は、2つの状態の間で切り替えを行った場合、実際に電流のみが消費されており、例えば、一方の状態である閉状態では電圧も電力消費も起こらず、もう一方の状態である開状態では一定の電位が維持されても、損失によって電流が消費されることは殆どあり得ないことを意味する)。
【0029】
この作動装置である弁機構は、所定の閾値に関連する過剰な眼圧を検出したセンサーが生成する上述の過剰眼圧信号に対する反応である電界によって屈曲を受けると直ぐに変形して、排液導管を開く。両方の隔壁、すなわち、センサー側の隔壁と作動装置である弁側の隔壁との間の接続部が何らかの有用な回路を成しており、眼圧信号が基準閾値を超過している場合には、上述の回路は電子制御装置のように電界を放射する。
【0030】
マイクロ制御装置を使用することでもっと別な機能部材を組入れることができるようになり、例えば、移植片の動力源となる電源に電気エネルギーを伝達するさいに介在する遠隔測定接続によって過圧閾値を体外で調節する機能を組入れることができる。上述の電源は受動的であってもよく、すなわち、それ自体が蓄電機能を装備していなくても動力を移植片の各種構成部材に遠隔測定式に伝達することができるようにしてもよいし、または、電源は能動的であるのが好ましく、遠隔測定式に再充電可能な電池が移植片に内蔵されているようにしてもよく、その場合、誘導結合により再充電するのが好都合である。
【0031】
弁の設計は、故障した場合と電圧が存在しない場合には、弁は通常は閉状態となり、隔壁が弁を閉じて非作動状態にするような態様になっている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】本発明による移植済みマイクロ装置を装着した眼球を例示した等尺図である。
【図1B】図1Aの移植済みマイクロ装置のブロック拡大図である。
【図2】図1の移植片のセンサーまたは作動装置に好適な、膜で作られた構造体の各部を例示した概略斜視図である。
【図3A】図2の膜で作られた構造体の2つの状態のうち、通常は閉じているのを例示した概略断面図である。
【図3B】図2の膜で作られた構造体の2つの状態のうち、作動状態になると開くのを例示した概略断面図である。
【図4A】汲み上げ作用を受けた弁の詳細を例示した断面外略図である。
【図4B】汲み上げ作用を受けた弁の詳細を例示した断面概略図である。
【図5】図1の移植片を装着した眼球と、移植片に電気エネルギーを伝達する遠隔測定装置とを例示した概略横断面図である。
【図6】図5の誘導遠隔測定装置を例示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の目的の上述のような特徴および詳細、ならびに、それ以外の特徴および詳細と、本発明を発展させて実施することができるようにする態様とは、添付の図面に例示されている具体的ではあるが制限するものではない実施例を後段で詳細に説明することで、一層よく理解してもらうことを意図している。本発明の真髄および範囲から逸脱せずに、実施例に対する多様な変更、修正、調整を行うことができる。
【実施例】
【0034】
図1Aは、本発明のマイクロ装置11が外科手術により移植されて眼球13の緑内障を検出して矯正するようにしているのを概略的に例示しており、図1Bにおいては、複数の互いに異なるブロックがマイクロ装置11に該当する。マイクロ装置11はシリコーンゴム管15を使用しており、その入口端17が眼球13の眼房水と流体連絡状態になるよう移植されるが、より詳細に説明すると、鞏膜において、角膜周縁から数ミリメートルの位置に移植される。排液端19は自由端であり、そこから排出された液体は周辺組織に吸収されるようになっている。
【0035】
導管15の排液端19の周囲には、誘電体から作られている膜の一部として構成された弁が隔壁21として設置されており、弁は通常は(すなわち、眼13の正常な眼圧下では)管15を閉鎖している。排液管15の中央部には、導電材から作られたセンサー膜23が設置されて、センサー膜23は、管15の内部の液体圧によって変形を受けたのに伴って、オーム抵抗が変動する。マイクロ制御装置25は、センサー膜23の状態に基づいて弁作動装置21の状態を制御する。
【0036】
図2に例示されているように、眼圧センサー膜23と弁21はいずれもが微小電気機械システム(メムスまたはMEMS)技術を利用して製造されており、それぞれが、生体適合性の重合体の膜27および2個の電極31に挟まれた電気的に活性の重合体29から構成されている1個の構造体であるが、2個の電極31は金から作られてシリカ基板またはカプトン基板(デュポンから入手できるポリイミド)33の上に配置されており、電極の一方はそこに対応する膜27の内側面に固定されている。電極は、溶剤中における回転塗布によって薄層(マイクロ計測級の厚さ)から作られてもよいし、または、浸漬皮膜により、薄さ0.3 mmから0.8 mmのもっと厚い層から作られてもよい。電気的活性の重合体に用いることができる、イオン含有材や各種複合素材などの広範な素材が存在する。センサー膜23については、導電性重合体29はポリイミドであってもよく、作動装置21については、複合重合体はポリピロールとナフィオン(登録商標 Nafion)から成る2重層29(図2に例示されているように)であってもよい。
【0037】
センサー膜23、マイクロ制御装置25、隔膜21、および、各々の最終的な各種付属部材から構成された能動装置は相補型金属酸化物半導体(CMOS)技術により作られたチップに集積されるが、生体適合性と特に疎水性(防湿性)についてシリコーンよりも優れていることが分かっている素材であるパリレン-Cのような重合体蒸着を含む封入成型技術により排液管11も上述のチップに一体化されており、これについてはティー・シュティークリッツ(T. Stieglitz)著の「重合体封入成型の安定性の測定方法(Methods to Determine the Stability of Polymer Encapsulations)」という題名の、2005年7月にカナダのモントリオールで開催された機能的電気刺激協会(FES Society)第10回国際会議における発表論文を参照のこと。
【0038】
約1 cmという、先行技術の装置の寸法は、前述のように、繊維増多を生じる。本発明の移植片は最大寸法(封入カプセルを含む)が3 mmであることから、繊維増多を緩和するように協働する重要な特性を有していることは実証されている。
【0039】
作動装置としての弁21は、図3Aに例示されているように、励起状態でなければ通常は閉じた位置を採って、故障時に低張になるのを回避するよう設計されている。センサー膜23の両電極31は低電流によって分極され、導管15の内部の流体圧が緑内障閾値を超過すると、緑内障閾値の基準値を記憶しているマイクロ制御装置25によりセンサー膜23の抵抗変動が検出される。マイクロ制御装置チップ25はホイートストンブリッジを備えており、不均衡状態はマイクロ制御装置25によって眼圧を表す信号として測定される。
【0040】
眼圧が緑内障閾値を超過している場合、マイクロ制御装置25が活性化して出力を生じることでマイクロ弁21の電極31を分極させ、電界を生成することで弁21の隔壁29を変形させ、図3Bに例示されているように作動装置としての弁21の構造体の膜27を隔壁29と同じ方向に変位させ、導管15を強制的に開かせて余剰眼房水を排出することができるようにする。弁21の圧力範囲は、約1 ml/分から3 ml/分の非常に少ない流量で、大気圧を上回る1 kPaから4 kPaに設定される。
【0041】
導管15の壁は参照番号37で示されているように弁21に隣接した部位で角度付けされており、図4Aおよび図4Bで概略が示されているように、流入側と流出側の両方で収束方向に傾斜しているのが好ましい。このように、流れ抵抗が上昇して、過剰な繊維増多または疾患の進行(重度の緑内障)が原因でマイクロ弁21の開きが不十分である場合は、マイクロ制御装置25は汲み上げを誘起するように開閉周期を増大させることができる。慣性抵抗を示す傾斜角37を設けた流入側壁と流出側壁(ノズルまたは拡散器)によって逆流は低減されている。隔膜と作動装置21との集成装置の2つの状態が観察されるが、1つは図4Aにおけるような小室39内部の容積増加であり、もう1つは図4Bにおけるような小室39内部の容積減少であり、矢印35によって流量が示されている。このような流れの調整は、眼房水を排出する場合などのようにレイノルズ数が低い場合についても実施することができるが、ヴィー・シンガール(V. Singhal)著の「無弁マイクロポンプのノズル拡散器素子を通る低レイノルズ数の流れの数値特性(Numerical Characterization of Low Reynolds Number Flow through the Nozzle-Diffuser Element in a Valveless Micropump)」という題名の2003年にコハラ(Kohala)で開催された第6回米国機械学会・日本機械学会熱工学共同会議(ASME/JSME Thermal Engineering Joint Conference)の議事録に掲載された論文を参照のこと。
【0042】
図5に例示されているように、マイクロ制御装置25は誘導結合すなわちアンテナ41に接続されており、眼圧閾値調節などのような移植手術に関連する遠隔計測データを送信する。アンテナ41はマイクロ装置11の電源にも使用されて、特に、センサー膜23とマイクロ制御装置25を含んでいる電気回路とを分極するとともに、マイクロ弁21の電界発生器29に電力投入する。
【0043】
電源は能動的であり、すなわち、リチウムイオンまたはリチウムマンガンの再充電可能なマイクロ電池などのような、誘導結合41によって再充電されるバッテリー43を備えているようにするとよく、または、電源は受動的であり、すなわち、電池を備えていないようにしてもよいが、その場合は、アンテナ41が外部電荷を受信すると、装置が間欠的に作動状態となる。前述のいずれかのタイプの電源を選択するか、または、それら以外のタイプの電源を選択するかは用途で決まり、マイクロ電池43が恒久的な連続使用に適してはいても需要用途には必要ではないことからも分かるが、恒久的な連続使用時には眼科医はエネルギー伝達に頼ることができる。いずれの場合であれ、アンテナ39を装備した充電装置が設けられて、このようなアンテナ39は、図5に例示されているように、眼鏡アーム47または眼鏡フレーム49の内側に配置されて、内蔵アンテナ41に近接して接続されているとよい。このシステムはまた、上述の米国特許第6,682,500号の装置においても実現されている。
【0044】
図6は、完全な微小システムが移植可能なマイクロ装置11と、アンテナ41、39によってそれぞれに接続されている外部付属マイクロシステム51とを含んでいるのを例示している。眼鏡47、49の内側に配置されている構成部材53はトランスポンダー回路55であり、眼内マイクロ装置11に負荷を送信したり、眼内マイクロ装置11の動作に関連するデータを受信したりするが、前述のデータはマイクロプロセッサ57によって使用される。眼鏡のアーム47の端部にはシリアルインターフェイスRS232接続が存在し、データをパーソナルコンピュータ(PC)59に読込ませる。
【0045】
本発明の範囲から逸脱せずに、本発明の実施例に多数の修正を施すことができるのは明らかである。例えば、ピエゾ抵抗センサー膜23について言及したが、それ以外のタイプのセンサーで、例えば、容量性センサーなどを使用してもよいし、同様に、マイクロ作動装置の素材として上記以外の、例えば、カーボンナノチューブや、導電性重合体または複合重合体を含む各種化合物も使用することができるうえに、マイクロ電池33を使用してもよいが、それら以外の興味のある変形例として、発振を動力源とするマイクロ波発生装置、太陽電池、体温変換装置、生体化学エネルギー変換装置などのうちいずれかを使用することが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内に移植可能であり緑内障を改善するまたは疾患の原因となる眼内過圧を改善するマイクロ装置であって、前記マイクロ装置は、
前記マイクロ装置の一端に設けられて、患者の眼窩と連絡状態にある排液管と、
前記排液管内に配置されて通常は閉じられている弁の形態を呈している作動装置と、
前記一端と前記弁との間で前記排液管内の流体圧を検出することができるとともに、過圧検出に応じて前記弁を開くことができるセンサー手段と、
前記センサーおよび前記作動装置に接続されている電源とを備えていることを特徴とする。
【請求項2】
前記電源は受動受容器回路であり、外部電源に接続することができることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ装置。
【請求項3】
前記電源は内蔵電池であることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ装置。
【請求項4】
前記電池は再充電可能な電池であり、再充電回路によって外部電源に接続することができることを特徴とする、請求項3に記載のマイクロ装置。
【請求項5】
前記回路は誘導無線結合を含んでいることを特徴とする、請求項2または請求項4に記載のマイクロ装置。
【請求項6】
前記回路は内臓アンテナを含んでおり、外部電源に接続されている外部アンテナに接続することができることを特徴とする、請求項2、請求項4、または、請求項5に記載のマイクロ装置。
【請求項7】
前記外部アンテナは、眼鏡フレーム、眼鏡アーム、または、その両方に固着されている付属装置であることを特徴とする、請求項6に記載のマイクロ装置。
【請求項8】
前記作動装置は電気により変形可能な生体適合性重合体素材の閉鎖手段を含んでおり、前記センサーは前記閉鎖手段の周辺の電界発生装置に接続されていることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれかに記載のマイクロ装置。
【請求項9】
前記閉鎖手段は隔壁であり、粒子を閉じ込めてしまうことを回避するようにしたことを特徴とする、請求項8に記載のマイクロ装置。
【請求項10】
前記センサーおよび前記隔壁は、それぞれが、生体適合性重合体素材の膜と2個の電極に挟まれた電気的に活性の重合体とから構成された構造体を有しており、前記2個の電極のうち一方はそれに対応する前記膜の内側面に固定されていることを特徴とする、請求項9に記載のマイクロ装置。
【請求項11】
前記弁の前記隔壁の前記生体適合性重合体素材は、誘電体素材、イオン含有材、複合素材、ナノ化合物素材からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項10に記載のマイクロ装置。
【請求項12】
前記排液導管は前記作動装置に隣接するように、流入側と流出側の両方に、排出する方向に収束するように角度付けされた傾斜壁が設けられており、汲み上げ作用による逆流を回避することを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれかに記載のマイクロ装置。
【請求項13】
前記センサーは、圧力により変形させることができる生体適合性導電性重合体素材のピエゾ抵抗膜を備えており、前記ピエゾ抵抗膜のオーム抵抗は変形するに伴って変化することを特徴とする、請求項1から請求項12のいずれかに記載のマイクロ装置。
【請求項14】
前記センサーは、マイクロプロセッサによって前記電界発生装置に接続されていることを特徴とする、請求項13に記載のマイクロ装置。
【請求項15】
ハウジング内に封入され、前記ハウジングの最大寸法が3ミリメートルであることを特徴とする、請求項1から請求項14のいずれかに記載のマイクロ装置。
【請求項16】
前記封入カプセルは繊維増多抑制素材を含んでいることを特徴とする、請求項15に記載のマイクロ装置。
【請求項17】
前記封入カプセルの前記素材はパリレン-Cであることを特徴とする、請求項16に記載のマイクロ装置。
【請求項18】
前記排液管の第1端は眼窩の鞏膜に挿入されて角膜周縁から数ミリメートルの位置で前記センサーおよび前記作動装置の背後に半接続状態(subconjunctively)で配置されることを特徴とする、請求項1から請求項17のいずれかに記載のマイクロ装置。
【請求項19】
前記排液導管の前記第一端の反対側の端部は周辺組織に排液放散することを特徴とする、請求項1から請求項18のいずれかに記載のマイクロ装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−515476(P2010−515476A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544462(P2009−544462)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2007/055169
【国際公開番号】WO2008/084350
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509191207)コンセホ ナシオナル デ インベスティガシオネス シェンティフィサス イ テクニカス (コニセト) (3)
【出願人】(509191148)イニス バイオテック リミテッド ライアビリティ カンパニー (3)