説明

緑化マウンド築造方法

【課題】従来よりも狭い用地面積で従来と同等の高さの緑化マウンドを築造することができる緑化マウンド築造方法を提供する。
【解決手段】鉄鋼製造において銑鉄から鋼へ精錬する際に発生するスラグを分離し、分離したスラグを冷却し粉砕してスラグ砕石13を作製し、作製したスラグ砕石13を積み上げて、緑化に適したマウンド11に築造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化マウンドの築造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、緑地面積の確保や減風対策や景観対策といった観点から緑化マウンドが造成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その際に、従来の緑化マウンドは山砂を用いて構築されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−360058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の緑化マウンドのように、山砂を用いて構築した場合、山砂は内部摩擦角が25度程度と小さいので、マウンドの傾斜角を大きくすると崩れて傾斜角が小さくなり、大きな緑化マウンドを築造するためには、広い面積が必要であった。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも狭い用地面積で従来と同等の高さの緑化マウンドを築造することができる緑化マウンド築造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有している。
【0008】
[1]鉄鋼製造において銑鉄から鋼へ精錬する際に発生するスラグを分離し、分離したスラグを冷却し粉砕してスラグ砕石を作製し、作製したスラグ砕石を積み上げて、緑化に適したマウンドに築造することを特徴とする緑化マウンド築造方法。
【0009】
[2]築造したマウンドの垂直断面積の1/2以上をスラグ砕石とすることを特徴とする前記[1]に記載の緑化マウンド築造方法。
【0010】
[3]マウンドの傾斜角を15度以上とすることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の緑化マウンド構築方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、内部摩擦角が山砂より大きいスラグ砕石を積み上げて、緑化に適したマウンドに築造するようにしているので、マウンドの傾斜を急にすることができることから、従来よりも狭い用地面積で従来と同等の高さの緑化マウンドを築造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示す垂直断面図である。
【図2】本発明例の円弧すべり検討モデルを示す図である。
【図3】本発明例の斜面安定検討モデルを示す図である。
【図4】従来例の円弧すべり検討モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、鉄鋼製造において銑鉄から鋼へ精錬する際に発生するスラグを分離し、分離したスラグを冷却し粉砕してスラグ砕石を作製し、作製したスラグ砕石を積み上げて、緑化に適したマウンドに築造するようにしている。
【0014】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(1)基本構造
図1は、本発明の一実施形態における緑化マウンドの基本構造を示す垂直断面図である。
【0016】
図1に示すように、この実施形態における緑化マウンド10では、基礎マウンド11の中心部は盛土基盤材12として土工用製鋼スラグ砕石13(JSTM H 8001:2008)を使用している。このスラグ砕石13は、非常に締め固め特性が良好で、従来から仮設路盤材等に使用されてきたが、2008年9月に(財)建材試験センターの団体企画(JSTM)で改めてその規格が制定された。このスラグ砕石13は、その成分にカルシウムを含有することから、水と触れ合うとアルカリ性を示すことが知られている。そのため、このスラグ砕石13(盛土基盤材12)を遮水シート14で覆い、水の浸入を防止する。また、万が一にも水が浸入した場合に備えて、スラグ砕石13(盛土基盤材12)の底面も遮水シート14で覆い、一般の雨水排水系統とは別に排水系統を整備し、アルカリ性の排水があった場合には適切な水処理を施せるようにしている。
【0017】
このような堅固に造られた構造体(盛土基盤材)12の上部に、高木19が十分健全に生育できるよう被覆土(植生土)15を2〜3m程度設置し、法面はフトンカゴをひな壇状に設置して表土の流失をおさえようにしている。
【0018】
ここで、上記のようなフトンカゴ工法を採用している理由は、以下の如くである。
(ア)日本の治山事業で古くから用いられてきた実績がある。
(イ)段状に造成するため表土の流失が少ない。
(ウ)地表面を締め固めず盛土できるので、植物の生育が良い。
(エ)植物の生長と共にカゴの存在が薄れて自然の起伏に近い状態に戻る。
(オ)表面が粗野で、野生の生き物の移動を阻害せず生息の拠点ともなる。
【0019】
なお、築造した基礎マウンド11の最も高い位置における垂直断面積の1/2以上をスラグ砕石13とすることが好ましい。また、基礎マウンド11の傾斜角を15度以上とすることが好ましい。より好ましくは25度以上とするとよい。
【0020】
(2)使用材料
(2.1)盛土基盤材の性状
上述したように、盛土基盤材12には、土工用製鋼スラグ砕石13(JSTM H8001:2008)の規格品を使用する。なお、JSTMは、(財)建材試験センターの団体企画である。
【0021】
土工用製鋼スラグ砕石13は以下のような特徴をもつことが知られている。
(a)内部摩擦角φ’が35度程度と大きい。
(b)溶出水は含有するカルシウムに起因しアルカリ性を示す。
【0022】
この実施形態で使用するスラグ砕石13の性状は表1の通りである。
【0023】
【表1】

【0024】
(2.2)被覆土(植生土)の性状
この実施形態で使用する被覆土(植生土)15については、表層土は赤土、下層土は透水性のある山砂とする。カゴの内部に詰める土壌の表層は、完熟堆肥等の有機質土壌改良材を混合した植栽用土を施用する。
【0025】
(3)緑化マウンドの安全性
この実施形態における緑化マウンド10(基礎マウンド11)は、道路築造などで使用される土工用製鋼スラグ13を使用して、現地盤1と切り離した形で堅固な構造体12を築造し、その上に植生土15を設置して植栽する。
【0026】
このようにして築造される緑化マウンド10(基礎マウンド11)は、以下にその一例を示す通り、円弧滑りと斜面の安定において十分な安全性を有す。
【0027】
(3.1)構造計算(円弧すべり)
円弧すべりの計算方法は、「道路土工 のり面工・斜面安定工指針((社)日本道路協会)」による。
【0028】
盛土基盤材の力学的特性:港湾工事用鉄鋼スラグ利用手引書[(財)沿岸開発技術研究センター、鉄鋼スラグ協会]より、スラグ砕石13に関しては下記の通りとする。
【0029】
単位体積重量 20kN/m
粘着力 C 0kN/m
内部摩擦角 φ’ 35度
【0030】
以下に、この実施形態における緑化マウンド10(基礎マウンド11)の円弧すべり検討モデルと検討結果の一例を示す。
【0031】
図2に、この実施形態(本発明例)の基礎マウンド11の円弧すべり検討モデルを示す。
【0032】
そして、その検討結果(計算結果)は以下の如くである。
【0033】
円弧半径 26000m
抵抗モーメント 65952.063(kN・m)
滑動モーメント 57941.574(kN・m)
安全率 1.14>1.00 → OK
【0034】
上記の計算結果により、本発明例の基礎マウンド11は、円弧すべりに関する安全率が1.00以上であるから、円弧滑りについて十分な安全性を有している。
【0035】
(3.2)構造計算(斜面の安定計算)
斜面(法面)の安定計算の方法は、宅地防災マニュアルによる。
【0036】
設計条件は、以下の如くである。
【0037】
土と土の摩擦係数 0.6
遮水シートと土の摩擦係数 0.5
設計水平震度 0.18
【0038】
以下に、この実施形態における緑化マウンド10(基礎マウンド11)の斜面の安定検討モデルと検討結果を示す。
【0039】
図3に、この実施形態(本発明例)の基礎マウンド11の斜面の安定検討モデルを示す。
【0040】
そして、その検討結果(計算結果)は以下の如くである。
【0041】
抵抗力 65.1(kN)
常時滑動力 38.3(kN)
常時安全率 1.7>1.50 → OK
地震時滑動力 52.1(kN)
地震時安全率 1.25>1.00 → OK
【0042】
上記の計算結果により、本発明例の基礎マウンド11は、斜面の安定に関する安全率が1.00以上であるから、斜面の安定についても十分な安全性を有している。
【0043】
(3.4)従来の緑化マウンドの構造計算(円弧すべり)
比較のために、従来例として、図4に示すような、盛土基盤材22として山砂23を用い、その上に被覆土(植生土)25を設置して、基礎マウンド21を構築した場合について、その構造計算(円弧すべり)を行った結果を以下に示す。ちなみに、この従来例の基礎マウンド21の寸法、形状は、図2に示した本発明例の基礎マウンド11と同じである。
【0044】
盛土基盤材の力学的特性:山砂23については以下の通りである。
【0045】
単位体積重量 19kN/m
粘着力 C 0kN/m
内部摩擦角 φ’ 25度
【0046】
以下に、従来例の基礎マウンド21の円弧すべり検討モデルと検討結果を示す。
【0047】
図4に、従来例の基礎マウンド21の円弧すべり検討モデルを示す。
【0048】
そして、その検討結果(計算結果)は以下の如くである。
【0049】
円弧半径 50000m
抵抗モーメント 37380.414(kN・m)
滑動モーメント 37380.539(kN・m)
安全率 0.90<1.00 → OUT
【0050】
上記の計算結果により、従来例の基礎マウンド21は、円弧すべりに関する安全率が1.00未満であるから、円弧滑りについて十分な安全性を有していない。
【0051】
以上のように、同一形状での円弧すべり安全率が、本発明例では1.14%、従来例では0.90%となり、本発明例は従来例に比べて27%向上している。
【0052】
したがって、本発明においては、従来と同一高さの緑化マウンド築造にあたって、工事に必要な材料の数量を従来に比べて27%程度低減することができる。
【0053】
言い換えれば、本発明においては、緑化マウンドの傾斜を急にすることができることから、従来よりも狭い用地面積で従来と同一高さの緑化マウンドを築造することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 現地盤
10 緑化マウンド
11 基礎マウンド
12 盛土基盤材
13 スラグ砕石
14 遮水シート
15 被覆土(植生土)
21 基礎マウンド
22 盛土基盤材
23 山砂
25 被覆土(植生土)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼製造において銑鉄から鋼へ精錬する際に発生するスラグを分離し、分離したスラグを冷却し粉砕してスラグ砕石を作製し、作製したスラグ砕石を積み上げて、緑化に適したマウンドに築造することを特徴とする緑化マウンド築造方法。
【請求項2】
築造したマウンドの垂直断面積の1/2以上をスラグ砕石とすることを特徴とする請求項1に記載の緑化マウンド築造方法。
【請求項3】
マウンドの傾斜角を15度以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載の緑化マウンド構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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