説明

緑化基盤用コンクリート多孔体及び構造物

【目的】 土壌を用いずに植物の育成が可能で壁面につる性植物以外の植物を育成する。
【構成】 緑化コンクリート多孔体10には、スポンジ状の多孔質変形材16が混入されている。多孔質変形材16はそれぞれ連続されており、透水性があるため、外部から供給される水分を全ての多孔質変形材16へ浸みわたらせことができる。また、この多孔質変形材16は、保水性を有しているため、しみ込んだ水は保持され、植物の養分として適用される。このように形成された緑化コンクリート多孔体10は、外壁20へ貼付けられている。この外壁20に貼付けられた緑化コンクリート多孔体10には、種子入りのモルタルが吹きつけられ、発芽後の根張りに応じて、前記多孔質変形材16が変形することにより、根張りの空間26が生じるようになっている。このため、根24は何ら制限を受けることなく、緑化コンクリート多孔体10内で成長する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は土壌を必要としない植物の育成基盤として適用される緑化基盤用コンクリート多孔体及び構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、建設空間を緑化するために、建物の壁面に植物を育成させることが考えられている。
【0003】建物のコンクリート外壁を植物で緑化するには、つる性植物を這わせることが一般的に成されている。このつる性植物によれば、地面の土壌から栄養分を補給できるため、壁面のコンクリートが従来のままであっても支障はない。
【0004】ところで、近年、このつる性植物に限らず、花や樹木で壁面を緑化することも研究されつつある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、壁面を形成するコンクリートには、透水性、保水性がなく、また根張りスペースがないため、コンクリート上に盛土をする(土壌を形成する)必要があった。
【0006】この盛土は、少なくとも30〜50cmは必要とされるのが一般的であり、場合によってそれ以上必要となる。
【0007】このような盛土は、構造物の死荷重として大きなものであり、建築物が高層化すればするほど、また、緑化を進めようとすればするほど、盛土の荷重が死荷重として問題となる。
【0008】このため、壁面への盛土には限度があり、これにより、植物の育成が制限されるという問題点があった。
【0009】本発明は上記事実を考慮し、土壌を用いずに植物の育成が可能な緑化基盤用コンクリート及びこの緑化コンクリート多孔体が適用され壁面につる性植物以外の植物を育成することができる構造物を得ることが目的である。
【0010】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、コンクリート混練時に骨材の他に保水性を有するスポンジ状の多孔質変形材が混入され、前記多孔質変形材の変形によって連続した根張空間が確保されることを特徴としている。
【0011】請求項2に記載の発明は、前記請求項1記載の緑化基盤用コンクリート多孔体を用いた構造物であって、通常のソリッドコンクリートで形成された外壁を有し、この外壁の施工後における外面に前記緑化基盤用コンクリート多孔体が貼付けられたことを特徴としている。
【0012】請求項3に記載の発明は、前記請求項1記載の緑化基盤用コンクリート多孔体を用いた構造物であって、前記緑化基盤用コンクリート多孔体を通常のソリッドコンクリートの打設時の型枠として適用し、かつ施工後に設置状態が保持されたことを特徴としている。
【0013】
【作用】請求項1に記載の発明によれば、コンクリート混練時に骨材の他に多孔質変形材を混入させる。この多孔質変形材は、スポンジ状で保水性を有しているため、植物の育成に必要な水分をコンクリート内に保持しておくことができる。
【0014】また、植物の根が成長するにつれスポンジ状の多孔質変形材は変形する。この変形によって、根張空間が確保される。
【0015】このように、本発明のコンクリート多孔体は、緑化基盤として必要な保水性、透水性を有し、かつ根張空間を確保することができる。
【0016】本発明の緑化基盤用のコンクリートを作成するセメントとしては、普通のセメントでもよいが、pHが高くなると植物の区制を妨げることになる。このため、以下で説明する混合セメントを用いるのがよい。
【0017】第1は、高炉スラグ、アルカリ刺激材及びシリカヒュームを混合した混合物からなるセメントである。
【0018】第2は、高硫酸塩スラグセメントとシリカヒュームとを混合した混合物からなるセメントである。
【0019】第3は、高炉スラグ、アルカリ刺激材及びシリカヒュームを混合した混合物及び高硫酸塩スラグセメントとシリカヒュームとを混合した混合物の少なくとも一方とポルトランドセメント及びアルミナセメントの少なくとも一方とを混合した混合物からなるセメントである。
【0020】シリカヒュームは、フェローニッケル等を精錬する過程で産出される粒径0.1μm以下のガラス質のシリート(SiO2 )であり、セメントの水和反応により生成される水酸化カルシウムCa(OH)2 と反応して次式のようにカルシウムシリケートを生成すると考えられている。
2SiO2 +3Ca(OH)2 →3CaO2 ・SiO2 ・3H2 O・・・(1)
アルカリ刺激材としては、例えば水酸化カルシウムが使用され、スラグを固める作用をする。
【0021】高炉スラグ、アルカリ刺激材及びシリカヒュームを混合し、これをセメントとしてコンクリート又はモルタルを作成する上記反応によりCa(OH)2 が現象するので、普通のポルトランドセメントを用いるよりも硬化体のpHを低下させることができる。
【0022】高炉スラグに対するアルカリ刺激材の配合比率は0.5 〜10重量%が適当である。すなわち、0.5 重量%に達しないとスラグが固まり難く、10重量%を越えるとアルカリ性が強くなりすぎ、目的に適合しなくなるからである。
【0023】高炉スラグをシリカヒュームで置換する際の置換率は10〜90重量%が好適である。
【0024】置換率が10重量%に達しないとシリカヒューム置換による中性化の効果がなく、また90重量%を越えると強度が低下すると共に高炉スラグを成分の1つとして加えることがほとんどできなくなり、経済性に劣るので採用できない。
【0025】高硫酸塩スラグセメントには、アルカリ刺激材、石膏等が混入されている。従って、高硫酸塩スラグセメントとシリカヒュームとを混合し、これをセメントとしてコンクリート又はモルタルを作成することにより、上記と同様に水酸化カルシウムの少ない、すなわちpHを低下させた硬化体を得ることができる。
【0026】アルミナセメントは、アルミナ資原料と石灰石とを粉砕、調合して、電気炉やローラリキルン等で溶融或いは焼成して得られるクリンカを粉砕することによって作られる水硬性セメントの一種である。早強性、耐火性に優れかつ耐硫酸塩性、科学薬品に対する抵抗性が大きい等の特徴を有する。
【0027】アルミナセメントは、カルシウムアルミネート(3CaO/Al2 3 )を主成分とするセメントであり、その水和反応は次式のように表現されると考えられている。従って、普通ポルトランドセメントのように強アルカリ性を示す水酸化カルシウムを生成しないのでpHが低くなる。
3CaO・Al2 3 +6H2 O→3CaO・Al2 3 ・6H2 O・・(2)
従って、アルカリ刺激材が混合されている混合物、すなわち高炉スラグ、アルカリ刺激材及びシリカヒュームを混合した混合物、高硫酸塩スラグセメントとシリカヒュームとを混合した混合物の少なくとも一方と、ポルトランドセメント及びアルミナセメントの少なくとも一方とを混合し、これをセメントとしてコンクリート又はモルタルを作成することにより、上記と同様に水酸化カルシウムの少ない硬化体を得ることができる。
【0028】請求項2に記載の発明によれば、前記緑化基盤用コンクリート多孔体を通常のソリッドコンクリートで形成された構造物の外壁の外面へ貼付けることにより、構造物の周囲に植物を育成可能な疑似の土壌を得ることができ、つる性植物以外の植物を構造物の壁面等に栽培することができる。
【0029】請求項3に記載の発明によれば、構造物の壁面へ通常のソリッドコンクリートを打ち込む場合、型枠が必要となる。通常、この型枠は、ソリッドコンクリート打ち込み後には、撤去するようになっている。そこで、本発明では、緑化基盤用コンクリート多孔体を前記型枠として適用し、ソリッドコンクリートの打ち込み後においても、そのまま設置状態を保持しておくことにより、ソリッドコンクリートの外面に植物栽培を施すことができる。
【0030】
【実施例】図1には、本実施例に係る緑化コンクリート多孔体10が示されている。
【0031】この緑化コンクリート多孔体10は、コンクリート骨材12にコンクリートペースト14(ポルトランドセメント)及び水、飽和材を所定の割合で混合し混練されて形成されている。
【0032】ここで、緑化コンクリート多孔体10には、スポンジ状の多孔質変形材16が混入されている。この多孔質変形材16には、前記緑化コンクリート多孔体10の混練未硬化状態で三次元的に混合され、図示しない所定の型枠を用いて養生して硬化されている(本実施例では、パネル状に形成)。
【0033】三次元的に混入された多孔質変形材16はそれぞれ連続されており、透水性があるため、外部から供給される水分を全ての多孔質変形材16へ浸みわたらせことができる。また、この多孔質変形材16は、保水性を有しているため、しみ込んだ水は保持され、植物の養分として適用される。
【0034】このように形成された緑化コンクリート多孔体10は、図2に示される如く、構造物18の外壁20へ貼付けられている。構造物18としては、ビルや橋脚等が挙げられるが、本実施例ではビルを示した。
【0035】外壁20は、通常のソリッドコンクリートによって形成されており、この構造物18は、通常の工程を経て施工されたものである。
【0036】この外壁20に貼付けられた緑化コンクリート多孔体10には、種子入りのモルタルが吹きつけられており、種子の発芽によって植物22の根24が緑化コンクリート多孔体10へ張られることになる。
【0037】ここで、図3に示される如く、この根張りに応じて、前記多孔質変形材16が変形することにより、根張りの空間26が生じるようになっている。このため、根24は何ら制限を受けることなく、緑化コンクリート多孔体10内で成長する。
【0038】以下に本実施例の作用を説明する。コンクリート骨材12にコンクリートペースト14及び水、飽和材を所定の割合で混合し混練する。次に、硬化前にこの混練された中にスポンジ状の多孔質変形材16を混入し、所定の型枠へ流し込んで硬化させ、所定の形状の緑化コンクリート多孔体10を形成する。本実施例では、パネル状のコンクリート多孔体10を複数個形成する。
【0039】次に、通常のソリッドコンクリートによって外壁20が形成された構造物18の外面、すなわち外壁20へ前記パネル状の緑化コンクリート多孔体10を貼付けていく。
【0040】貼付けられた緑化コンクリート多孔体10へ水分を供給する。供給された水分は、多孔質変形材16が連続されているため、全域に亘って浸透する。また、浸透された水分は、多孔質変形材16の保水性によって保持される。
【0041】次に、この緑化コンクリート多孔体10へ種子入りのモルタルを吹きつけると、種子が多孔質変形材16に保持されている水分から養分を取り、その後、種子が発芽して根24を張ることになる。
【0042】根24は、緑化コンクリート多孔体10方向へ張ることにあるが、このとき、多孔質変形材16が変形することにより、根張り空間26が形成される。このため、根24は何ら制限を受けることなく成長することができる。
【0043】このように、本実施例ではコンクリートにスポンジ状の多孔質変形材16を混入させることにより、透水性、保水性を持ち、かつ根張り空間を形成することができるので、構造物18の壁面でつる性植物以外の植物を育成することができようになる。
【0044】なお、本実施例では、緑化コンクリート多孔体10をパネル状として通常のソリッドコンクリートで形成された外壁20へ後工程で貼付けるようにしたが、図4に示される如く、型枠28として緑化コンクリート多孔体10を用い、外壁20を形成するための未硬化のコンクリート30をホース32から流し込み、硬化後、すなわち外壁20の施工終了後、この型枠28を撤去せずにそのままにしておくことにより、後工程(上記貼付工程)を省くことができる。
【0045】
【発明の効果】以上説明した如く本発明に係る緑化基盤用コンクリート多孔体及び構造物は、土壌を用いずに植物の育成が可能な緑化基盤用コンクリート及びこの緑化コンクリート多孔体が適用され壁面につる性植物以外の植物を育成することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】緑化コンクリート多孔体の断面図である。
【図2】緑化コンクリート多孔体が構造物に貼付けられた状態を示す概略構成図である。
【図3】図2の拡大図である。
【図4】緑化コンクリート多孔体を型枠として適用した場合の施工状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
10 緑化コンクリート多孔体
12 コンクリート骨材
14 コンクリートペースト
16 多孔質変形材
18 構造物
20 外壁
22 植物
24 根
26 空間
28 型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンクリート混練時に骨材の他に保水性を有するスポンジ状の多孔質変形材が混入され、前記多孔質変形材の変形によって連続した根張空間が確保されることを特徴とする緑化基盤用コンクリート多孔体。
【請求項2】 前記請求項1記載の緑化基盤用コンクリート多孔体を用いた構造物であって、通常のソリッドコンクリートで形成された外壁を有し、この外壁の施工後における外面に前記緑化基盤用コンクリート多孔体が貼付けられたことを特徴とする構造物。
【請求項3】 前記請求項1記載の緑化基盤用コンクリート多孔体を用いた構造物であって、前記緑化基盤用コンクリート多孔体を通常のソリッドコンクリートの打設時の型枠として適用し、かつ施工後に設置状態が保持されたことを特徴とする構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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