説明

緑化用コンクリートおよびその製造方法

【課題】従来に比べ、垂直面や斜面の緑化に適した緑化用コンクリート技術を提供する。
【解決手段】コケ類を含む生コンクリートが硬化され、コンクリート表面にコケ類が植生されてなる緑化用コンクリートとする。好ましくは、コケ類を含まないコンクリート基部と、コンクリート基部に積層されており、コケ類を含む生コンクリートが硬化され、表面にコケ類が植生されてなる緑化部とを有する緑化用コンクリートとすると良い。コケ類としては、ハイゴケ等を好適に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化用コンクリートおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、壁面緑化、屋上緑化等の建物緑化に用いて好適な緑化用コンクリートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、社会問題化している都市特有の気候として、都市部の気温がその周辺地域に比べて上昇するというヒートアイランド現象が挙げられる。ヒートアイランド現象の原因は、建物の高層化・高密度化、道路の舗装化、緑地や水域の減少、エネルギーの大量消費に伴う排熱の増大等、多岐にわたっている。
【0003】
中でも、都市部における緑地の減少は、ヒートアイランド現象をもたらすだけではなく、都市の防災機能の低下や、生活にゆとりと潤いを与える良好な自然環境の喪失、大気の汚染、生物の棲息域の減少等の要因にもなっている。
【0004】
都市部での緑地の確保は、都市化の進展とともに年々困難な状況となってきている。そのため、新たな緑地を確保する手段として、屋上緑化や壁面緑化等の建物緑化の必要性が増大している。
【0005】
従来、コンクリート構造物に緑を取り入れる技術の一つとして、緑化用コンクリートが知られている。代表的な緑化用コンクリートとしては、植物(ヘデラ、セダム、芝等)の根を伸長させ、かつ、水を透水させる連続空隙をコンクリート内部に形成し、この空隙部分に培養土、保水材、肥料等を充填したもの等がある。場合によっては、表層に客土層が設けられることもある。
【0006】
本願に先行する技術としては、例えば、珪藻土、パーライト等の軽量骨材、竹材、やし材、ピートモス等の保水助材、植物種子を添加混入してなる緑化用コンクリートに関する技術がある(特許文献1参照)。
【0007】
また例えば、ポーラスコンクリートに金属硫酸塩の水溶液を含浸させ、硬化したセメントの上に被膜を形成した後、人工培養土、増粘剤、水からなるスラリーを空隙部に充填し、さらに、人工培養土、植物種子、流出防止剤、水を主成分とするスラリーを吹き付けて薄層を形成する緑化用コンクリートに関する技術がある(特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2002−12479号公報
【特許文献2】特開平8−191625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術は、以下の点で問題があった。
【0010】
すなわち、従来知られる代表的な緑化用コンクリートは、垂直面や斜面に設置すると、空隙部分に充填した培養土、保水材、肥料等が風雨等により流出してしまい、植物を生育させることが困難であった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来に比べ、垂直面や斜面の緑化に適した緑化用コンクリート技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る緑化用コンクリートは、コケ類を含む生コンクリートが硬化され、コンクリート表面にコケ類が植生されてなることを要旨とする。
【0013】
また、本発明に係る緑化用コンクリートは、コケ類を含まないコンクリート基部と、上記コンクリート基部に積層されており、コケ類を含む生コンクリートが硬化され、表面にコケ類が植生されてなる緑化部とを有することを要旨とする。
【0014】
ここで、上記緑化用コンクリートは、上記生コンクリートが、高炉スラグ、フライアッシュ、および、もみ殻灰から選択される1種または2種以上の混和材を含んでいると良い。
【0015】
また、上記生コンクリートは結合材を含み、上記結合材に占める上記混和材の混入率が40%以上であると良い。
【0016】
また、上記緑化用コンクリートは、パネル状またはブロック状であると良い。
【0017】
また、上記コケ類は、ハイゴケ、スナゴケ、ギンゴケ、ホソウリゴケ、および、ハマキゴケから選択される1種または2種以上であると良い。
【0018】
本発明に係る緑化用コンクリートの製造方法は、コケ類を含む生コンクリートを硬化させ、コンクリート表面にコケ類を植生させる工程を有することを要旨とする。
【0019】
本発明に係る緑化用生コンクリートは、コケ類を含むことを要旨とする。
【0020】
本発明に係る緑化用セメントは、コケ類を含むことを要旨とする。
【0021】
本発明に係る緑化用コンクリート製造キットは、コケ類が入った入れ物と、この入れ物とは別物であり、少なくともセメントが入った入れ物とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0022】
コケ類は、茎葉に養分や水分を送るための根がなく、葉や茎についた水分を直接吸収している。もっとも、コケ類は、いわゆる仮根を有するが、この仮根は、主に茎葉を支え固定するもので、草花や木の根のように、養分や水分を吸って茎葉に運ぶ能力はほとんどない。
【0023】
本発明に係る緑化用コンクリートは、このようなコケ類を含む生コンクリートが硬化され、コンクリートにコケ類が植生されている。そのため、植物を生育させるためにコンクリート中に培養土や肥料等を充填する必要がなくなる。それ故、垂直面や斜面等に設置した場合に、従来のように、風雨等による培養土や肥料等の流出によって緑化作用が妨げられ難く、垂直面や斜面等の緑化を効率良く行うことができる。
【0024】
また、根を有する植物は、生育を維持するために定期的な灌水作業が必要となり、大掛かりな灌水設備等が必要になる。これに対し、コケ類は、茎葉で空気中の水分を直接吸収できるため、根を有する植物に比べて灌水作業を大幅に省略、あるいは、なくすことができる。そのため、本発明に係る緑化用コンクリートによれば、設置後のメンテナンス性に優れる。また、メンテナンスに伴うコストを低減させることもできる。
【0025】
ここで、本発明に係る緑化用コンクリートが、コケ類を含まないコンクリート基部と、コンクリート基部に積層されており、コケ類を含む生コンクリートが硬化され、コケ類が植生されてなる緑化部とを有している場合には、主にコンクリート基部により必要強度を確保し、緑化部に緑化作用を持たせる等、機能分離を行うことができる。そのため、コンクリート設計の自由度を向上させることができる。また、コンクリート基部は、緑化に関与しないため、この部分のコケ類をなくすことで、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0026】
また、上記生コンクリートが、高炉スラグ、フライアッシュ、および、もみ殻灰から選択される1種または2種以上の混和材を含んでいる場合には、コンクリートのpHを下げやすくなる。そのため、コケ類を植生させやすくなる。
【0027】
この際、上記生コンクリートの結合材に占める混和材の混入率が40%以上である場合には、一層コケ類を植生させやすくなる。
【0028】
また、上記緑化用コンクリートの形状がパネル状またはブロック状である場合には、建築部材として緑化用コンクリートを供給することができる。そのため、現場打ちに比較して、コケ類の植生を安定させやすくなる。
【0029】
また、ハイゴケ、スナゴケ、ギンゴケ、ホソウリゴケ、ハマキゴケ等のコケ類を用いた場合には、これらコケ類は、比較的乾燥に対して高い耐性を有するので、緑化作用を維持しやすくなる利点がある。
【0030】
本発明に係る緑化用コンクリートの製造方法は、コケ類を含む生コンクリートを硬化させ、コンクリートにコケ類を植生させる工程を有する。そのため、垂直面や斜面等に設置した場合でも、従来のように、風雨等による培養土や肥料等の流出によって緑化作用が妨げられ難く、垂直面や斜面等の緑化を効率良く行うことが可能な緑化用コンクリートが得られる。
【0031】
本発明に係る緑化用生コンクリートは、コケ類を含んでいる。そのため、本発明に係る緑化用コンクリートの製造に好適に用いることができる。
【0032】
本発明に係る緑化用セメントは、コケ類を含んでいる。そのため、本発明に係る緑化用生コンクリートの製造に好適に用いることができる。また、例えば、工事現場等で緑化用生コンクリートが不足した場合の継ぎ足しや、家庭用途等における少量での使用等にも有用である。
【0033】
本発明に係る緑化用コンクリート製造キットは、コケ類が入った入れ物と、この入れ物とは別物であり、少なくともセメントが入った入れ物とを有している。そのため、コケ類と、セメント等のその他のコンクリート材料とを、生コンクリート調製直前まで別々にしておくことができ、セメント等のコンクリート材料によるコケ類への負荷を少なくすることができる。それ故、コケ類の植生に有利である。また、工事現場等で緑化用生コンクリートが不足した場合の継ぎ足しや、家庭用途等における少量での使用等にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本実施形態に係る緑化用コンクリート(以下、「本コンクリート」ということがある。)およびその製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)について詳細に説明する。
【0035】
1.本コンクリート
図1は、本コンクリートの断面を模式的に示したものである。図1(a)は、1層構造のものを、図1(b)は、2層構造のものを例示している。
【0036】
図1(a)に示す本コンクリート10Aは、コケ類12を含む生コンクリートが硬化され、コンクリート表面にコケ類12が植生されている。本コンクリート10Aに示すように1層構造とした場合には、当該コンクリートの製造性を向上させることができる。
【0037】
本コンクリート10Aの厚みは、用いられる箇所、要求される強度等を考慮して選択することが可能である。本コンクリート10Aの厚みは、取扱い性、強度、成形性等の観点から、好ましくは、10mm〜100mm、より好ましくは、30mm〜50mm程度であると良い。
【0038】
一方、図1(b)に示す本コンクリート10Bは、コンクリート基部14と、コンクリート基部14に積層された緑化部16とを有している。この場合、コンクリート基部14は、コケ類12を含んでいない。緑化部16は、コケ類12を含む生コンクリートが硬化され、その表面にコケ類12が植生されている。
【0039】
本コンクリート10Bに示すように2層構造とした場合には、主にコンクリート基部14により必要強度を確保し、緑化部16に緑化作用を持たせることが可能となる。そのため、コンクリート設計の自由度を向上させることができる。また、コンクリート基部14は、緑化に関与しないため、この部分のコケ類12をなくすことで、製造コストをより低廉にすることができる。
【0040】
本コンクリート10Bにおけるコンクリート基部14の厚みは、要求される強度等を考慮して選択することが可能である。コンクリート基部14の厚みは、取扱い性、強度、成形性等の観点から、好ましくは、10mm〜100mm、より好ましくは、20mm〜70mm程度であると良い。また、緑化部16の厚みは、成形性、経済性等を考慮して選択することが可能である。緑化部16の厚みは、成形性、経済性等の観点から、好ましくは、2.5mm〜30mm、より好ましくは、5mm〜15mm程度であると良い。
【0041】
なお、図示はしないが、本コンクリートは、2層以上の複数層から構成されていても構わない。
【0042】
ここで、上記コケ類を含む生コンクリートは、生コンクリート材料として使用される結合材、骨材、混和材、水、化学混和剤(必要に応じて)や補強用繊維(必要に応じて)等以外に、さらに、コケ類が添加された混練物である。上記コケ類を含む生コンクリートは、例えば、骨材、結合材、混和材、水とを適当な時間練り混ぜ、その後、これにコケ類を添加し、さらに適当な時間練り混ぜる等して製造することができる。
【0043】
結合材としては、例えば、ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等のセメント類、舗装用石油アスファルト、改質アスファルト、天然アスファルト等のアスファルト類などを例示することができる。
【0044】
骨材としては、各種の粗骨材あるいは粗骨材および細骨材を用いることができる。粗骨材の粒径としては、空隙形成性、強度や成形性等の観点から、好ましくは、5mm〜40mm、さらに好ましくは、5mm〜13mmであると良い。一方、細骨材の粒径としては、空隙形成性、強度や成形性等の観点から、好ましくは、0.15mm〜5mm、さらに好ましくは、2.5mm〜5mmであると良い。
【0045】
なお、結合材/骨材の容積比は、強度や空隙形成性等の観点から、好ましくは、0.1〜0.5、より好ましくは、0.125〜0.25の範囲内にあると良い。
【0046】
混和材としては、アルカリ存在下で結合材として機能可能な混和材を好適に用いることができる。結合材に起因するコンクリートのpHを下げやすくなり、コケ類を植生しやすくなるからである。この種の混和材としては、具体的には、例えば、高炉スラグ、フライアッシュ、もみ殻灰等を例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0047】
この際、コケ類を含む生コンクリートの結合材に占める混和材の混入率の下限は、コケ類を植生させやすくなる等の観点から、好ましくは、40%以上、より好ましくは、50%以上、さらに好ましくは、60%以上であると良い。
【0048】
一方、コケ類を含む生コンクリートの結合材に占める混和材の混入率の上限は、本コンクリートの層構造等を考慮して決定することができる。例えば、図1(a)に示すように、本コンクリートを1層構造とした場合には、コケ類を含む生コンクリートの硬化部分で必要な強度を確保することになる。そのため、上記混入率の上限は、好ましくは、60%以下、より好ましくは、50%以下、さらに好ましくは、40%以下であると良い。また、図1(b)に示すように、本コンクリートを2層構造とした場合には、コンクリート基部14により必要な強度を確保することができ、上記混入率の上限を1層構造の場合よりも高めに設定することが可能である。上記混入率の上限は、好ましくは、90%以下、より好ましくは、80%以下、さらに好ましくは、70%以下であると良い。
【0049】
化学混和剤は、コンクリートの単位水量低減等の目的で必要に応じて添加することができる。化学混和剤としては、例えば、AE剤、高性能減水剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0050】
コケ類としては、比較的乾燥に対して高い耐性を有するものが好ましい。緑化作用を維持しやすくなるからである。このようなコケ類としては、例えば、ハイゴケ、スナゴケ、ギンゴケ、ホソウリゴケ、ハマキゴケ等を例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、ハイゴケ、スナゴケであると良い。ハイゴケは、這うように成長する。そのため、ハイゴケを原料とした場合には、土、腐食土等の付着が少ないものを入手しやすい。それ故、生コンクリート中における余計な不純物を少なくすることができる。一方、スナゴケは、自重の20倍もの保水力を有している。そのため、緑化作用の向上に寄与しやすい。
【0051】
上記コケ類を含む生コンクリートは、デザイン性等の観点から着色料(顔料)等を含有させることもできる。
【0052】
なお、コンクリート基部を構成するコンクリート材料としては、コケ類を除く上述したコンクリート材料を用いることができる。このコンクリート材料は、水密性もしくはポーラスのいずれにも調整することも可能である。また、保水性となるように石粉(鉱物質微粉末等)等を少量混入しても良い。
【0053】
本コンクリートにおいて、コケ類を含む生コンクリートの硬化部位は、成長したコケ類が仮根により定着しやすくなる等の観点から、多数の空隙を有していると良い。もっとも、コンクリート表面は通常、微細な凹凸があることが多い。そのため、コケ類を含む生コンクリートの硬化部位が水密に形成されていてもコケ類の仮根が絡むことは可能である。
【0054】
上記空隙は、連続空隙であっても良いし、不連続空隙であっても良い。空隙が不連続であっても良いのは、従来のように根の成長空間を確保する必要性が必ずしもないからである。上記空隙率は、コケ類の仮根による定着性とコンクリート強度とのバランス等の観点から、好ましくは、5%〜30%、より好ましくは、15%〜25%の範囲内にあると良い。
【0055】
本コンクリートの形状は、特に限定されるものではないが、予め作製した建築部材として緑化用コンクリートを供給しやすくなる等の観点から、好ましくは、パネル状、ブロック状等の形状であると良い。
【0056】
本コンクリートは、壁面緑化用、屋上緑化用等として使用することができる。好ましくは、本発明の効果を発揮しやすい観点から、壁面緑化用として好適に使用することができる。
【0057】
2.本製造方法
本製造方法は、コケ類を含む生コンクリートを硬化させ、コンクリートにコケ類を植生させる工程を有している。
【0058】
準備する生コンクリートとしては、既に上述しているため、詳細な説明は省略する。
【0059】
ここで、上記工程では、コケ類を含む生コンクリートを硬化させた後、硬化後のコンクリートを湿潤養生することが好ましい。生コンクリート中に含まれるコケ類からの発芽が良くなり、コンクリートにコケ類を植生させやすくなるからである。
【0060】
この際、湿潤環境の温度としては、好ましくは、5℃〜35℃、より好ましくは、15℃〜25℃程度であると良い。また、湿潤環境の湿度としては、相対湿度で、好ましくは、60%以上、より好ましくは、80%〜100%程度であると良い。
【0061】
また、新芽発芽までの湿潤環境での養生日数としては、確実な発芽を促す等の観点から、好ましくは、2週間〜5週間程度、より好ましくは、3週間〜4週間程度であると良い。
【0062】
また、養生中は、直射日光に曝されないようにすると良い。コケ類の発芽を促すためである。
【0063】
また、上記工程では、コケ類を含む生コンクリートを硬化させた後、硬化後のコンクリート表面を水洗することが好ましい。生コンクリートの混練時にコケ類に付着したセメント分等が洗い流されるため、コケ類が枯死し難くなり、コンクリートにコケ類を植生させやすくなるからである。
【0064】
この際、上記水洗は、上記湿潤養生を開始する前に行うと良い。両者の相乗効果により、コンクリートに一層コケ類を植生させやすくなるからである。
【0065】
3.その他
本実施形態に係る緑化用セメントは、セメント中にコケ類を含んでいる。セメント、コケ類については、既に上述したものを適用することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る緑化用コンクリート製造キットは、コケ類が入った入れ物と、この入れ物とは別物であり、少なくともセメントが入った入れ物とを有している。
【0067】
上記セメントが入った入れ物には、セメント以外にも、さらに、骨材、混和材、補強用繊維等のコンクリート材料が1種または2種以上入れられていても良い。これらが混合されている場合には、これら混合体に適当な量の水を加えて練り混ぜることで、即席でコンクリート材料を混練することができ、その後、この混練物に別の入れ物に保存されていたコケ類を添加することができる。
【0068】
上記入れ物としては、典型的には、ビニール袋、紙袋などの袋状物を挙げることができるが、それ以外にも、プラスチックケース、木箱等の容器等であっても良い。
【0069】
また、本実施形態に係る緑化用コンクリート製造キットは、コケ類、セメント、骨材、混和材、補強用繊維等がそれぞれ別の入れ物に入れられていても良い。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0071】
1.各材料の準備
表1に示した各材料を準備した。
【0072】
【表1】

【0073】
なお、表1中、混和材の高炉スラグ微粉末は、アルカリ存在下で結合材として取り扱うことができるものである。
【0074】
2.試験用ブロックの作製
先ず、表2に示した各配合割合となるように各材料を混練し、コケ類を含む生コンクリートを準備した。
【0075】
各材料の混練手順は次の通りである。すなわち、先ず、容器に骨材(S)を投入する。次いで、セメント(C)を投入する。次いで、混和材(BS)、水(W)および化学混和剤(SP)を投入する。次いで、ホバート型ミキサーを用いて、これらを60秒間練り混ぜた。次いで、群生状態のままコケ類(M)を投入し、同ミキサーを用いて20秒間練り混ぜた。これにより、1cm程度に適度に切断されたコケ類を含む生コンクリートを得た。
【0076】
なお、コケ類は、乾燥状態により質量が変化する。そのため、一定容量の容器にコケ類を軽く入れ、嵩容積によりコケ類の混入率を計量した。
【0077】
【表2】

【0078】
次に、得られた各生コンクリートを用いて、直径7cm、厚み3cm程度の試験用ブロックを作製した。なお、試験用ブロック1個の容積は、115cm程度とした。
【0079】
試験用ブロックの作製手順は次の通りである。すなわち、先ず、固定した型枠内に、上記にて作製した生コンクリートを投入する。次いで、投入した生コンクリート上に、ハンマーによる打撃に対して変形しない(十分な剛性を持った)蓋を載せ、ハンマーにて5回打撃を加えた。次いで、型枠を取り外し、試験用ブロックとした。なお、図2に示すように、試験用ブロック表面にはコケ類が適度に分散されていた。次いで、得られた試験用ブロックを以下の(1)〜(9)の履歴で養生した。この際、各試験用ブロックのサンプル数は、5体ずつとした。
【0080】
(1)0日目(試験用ブロックの作製)〜6日目
風雨を避けることのできる自然環境の屋内に作製した試験用ブロックを放置した。なお、試験用ブロックは、1日目を経過した時点で、ほぼ完全に硬化している。
(2)7日目
試験用ブロック表面を水道水で洗浄した。これにより、ブロック表面のコケ類に付着していたセメント粒子を洗い流した。図3に、洗浄前のコケ類の状況、洗浄後のコケ類の状況を示す。
(3)7日目〜17日目
上記(2)の洗浄後、試験ブロックを屋内に放置した。なお、1日に2回程度、試験ブロックに霧吹きによる散水を行った。
(4)18日目(湿潤養生初日)
蓋付き半透明容器内に試験ブロックを移し、湿度80%以上の状態とした。また、容器内の温度を15〜30℃の範囲に保持した。また、1日に2回朝夕、試験ブロックに霧吹きによる散水を行った。
(5)28日目(湿潤養生10日目)
試験ブロックの新芽の確認を行った後、再度、(4)の養生を継続した。
(6)31日目(湿潤養生13日目)
試験ブロックの新芽の確認を行った後、再度、(4)の養生を継続した。
(7)33日目(湿潤養生15日目)
試験ブロックの新芽の確認を行った後、再度、(4)の養生を継続した。
(8)41日目(湿潤養生23日目)
試験ブロックの新芽の確認を行った後、再度、(4)の養生を継続した。図4に、湿潤養生23日目におけるNo.4の試験ブロックの発芽状況を示す。図5に、湿潤養生23日目におけるNo.5の試験ブロックの発芽状況を示す。
(9)46日目(湿潤養生28日目)
試験ブロックの新芽の確認を行い、上記養生を終了した。
【0081】
3.結果
(発芽状況)
各試験ブロックについて調査したコケ類の新芽の発芽状況をまとめて表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
(pHの測定)
材齢7日の試験ブロックを用い、ガラス電極法によりpHの測定を行った。具体的には、試験ブロックを500cmの水に24時間浸漬させた後、浸漬させた水のpHをpHメータにて測定し、これを試験ブロックのpHとした。
【0084】
(空隙率の測定)
材齢7日の試験ブロックを用い、ポーラスコンクリートの空隙率測定方法により空隙率の測定を行った。具体的には、空隙が全くないものとして配合より計算したコンクリートの単位容積質量と試験ブロックの質量と寸法を用いて算定したコンクリートの単位容積質量により空隙率を算定した。
【0085】
(曲げ強度の測定)
1配合につき40×40×160mmの角柱試験体を3体作製し、JIS R 5201に準拠し、3点曲げ試験を実施した。なお、角柱試験体の材齢は7日とした。
【0086】
pH、空隙率、曲げ強度の測定結果をまとめて表4に示す。なお、No.5の配合は、中性近傍雰囲気でのコケ類の発芽状況を確認するため、セメント(C)を用いず混和材(BS)のみを使用している。このため、実用的な強度に乏しく、曲げ強度および空隙率の測定は省略した。
【0087】
【表4】

【0088】
4.考察
上記結果から以下のことが分かる。すなわち、上記結果によれば、コンクリート材料の混練時にコケ類を添加し、この生コンクリートを硬化させることで、コンクリート表面にコケ類を植生させることができ、コンクリート中に培養土や肥料等を充填することなく緑化用コンクリートを製造可能なことが確認できた。
【0089】
また、コンクリート材料として、高炉スラグ等のアルカリ存在下で結合材として機能可能な混和材の混入量が多いほど、コンクリートのpHを下げやすくなり、コケ類を植生させやすくなることが分かる(No.1〜5)。この際、結合材に占める混和材の混入率は40%以上であると、コケ類の発芽が促進され、コケ類を植生させやすくなることが分かる(No.3〜5)。
【0090】
5.2層ブロックの作製
以下の手順により、平面寸法20cm×10cm、厚み5cmの水密なコンクリート基層の表面に、平面寸法20cm×10cm、厚み1cmの多孔性コンクリートよりなる緑化層が積層された2層ブロックを作製した。なお、コンクリート基層材料には、コケを混入していない生コンクリートを使用した。また、緑化層材料には、配合No.4の生コンクリートを使用した。
【0091】
具体的には、十分な剛性を有する型枠とテーブルバイブレーター(振幅1.5mm、振動数90Hz)とを用いて、ブロックの成形を行った。上記型枠内にコンクリート基層材料を投入し、30kN/mのプレス圧と振動(振幅0.3mm、振動数110Hz)を2秒間加え、引き続き、緑化層材料として配合No.4の生コンクリートを投入し、上記プレス圧と振動を6秒間加え、合計8秒間の振動締固めを行った後、即時脱型した。その後、得られた成形体を上述した養生履歴にて硬化・養生した。
【0092】
これにより、水密なコンクリート基層と、表面にコケ類が植生された緑化層とを有する2層ブロックを得た。
【0093】
以上、本発明の一実施形態、一実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明に係る緑化用コンクリートの断面の一例を模式的に示した図である。
【図2】実施例にて作製した成形直後の試験用ブロック(No.1〜No.5)の外観を示した写真である。
【図3】試験用ブロックの洗浄前後におけるコケ類の状況を示した写真である。
【図4】湿潤養生23日目におけるNo.4の試験ブロックの発芽状況を示した写真である。
【図5】湿潤養生23日目におけるNo.5の試験ブロックの発芽状況を示した写真である。
【符号の説明】
【0095】
10A 緑化用コンクリート
10B 緑化用コンクリート
12 コケ類
14 コンクリート基部
16 緑化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コケ類を含む生コンクリートが硬化され、コンクリート表面にコケ類が植生されてなることを特徴とする緑化用コンクリート。
【請求項2】
コケ類を含まないコンクリート基部と、
前記コンクリート基部に積層されており、コケ類を含む生コンクリートが硬化され、表面にコケ類が植生されてなる緑化部とを有することを特徴とする緑化用コンクリート。
【請求項3】
前記生コンクリートは、高炉スラグ、フライアッシュ、および、もみ殻灰から選択される1種または2種以上の混和材を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の緑化用コンクリート。
【請求項4】
前記生コンクリートは結合材を含み、
前記結合材に占める前記混和材の混入率が40%以上であることを特徴とする請求項3に記載の緑化用コンクリート。
【請求項5】
パネル状またはブロック状であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の緑化用コンクリート。
【請求項6】
前記コケ類は、ハイゴケ、スナゴケ、ギンゴケ、ホソウリゴケ、および、ハマキゴケから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の緑化用コンクリート。
【請求項7】
コケ類を含む生コンクリートを硬化させ、コンクリート表面にコケ類を植生させる工程を有することを特徴とする緑化用コンクリートの製造方法。
【請求項8】
コケ類を含むことを特徴とする緑化用生コンクリート。
【請求項9】
コケ類を含むことを特徴とする緑化用セメント。
【請求項10】
コケ類が入った入れ物と、前記入れ物とは別物であり、少なくともセメントが入った入れ物とを有することを特徴とする緑化用コンクリート製造キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−104271(P2010−104271A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278177(P2008−278177)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000245852)矢作建設工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】