説明

緑膿菌の血清型E型リポ多糖に対する抗体

緑膿菌に対して優れた抗菌活性を有する新規な抗体を提供する。慢性緑膿菌肺感染の嚢胞性線維症患者由来の形質芽球を出発材料として、緑膿菌の血清型E型LPSに結合し、in vitroおよびin vivoにおいて優れた抗菌活性を有する抗体を取得することに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緑膿菌の血清型E型リポ多糖に対する抗体およびその用途に関する。より詳しくは、本発明は、緑膿菌の血清型E型リポ多糖に特異的に結合する抗体、並びに、これら抗体を含んでなる医薬組成物、緑膿菌感染症診断剤、および緑膿菌の検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、土壌、水中など自然環境中に広く一般的に分布しているグラム陰性好気性桿菌であり、緑膿菌に対する適度な抗体力価と十分な免疫機能を有する健常者に対しては、通常、病原性を示さない弱毒性の細菌である。しかし、体力のない衰弱した患者は、一度、緑膿菌に感染すると、重篤な症状を引き起こして、死に至る場合がある。このため、緑膿菌は、院内感染や日和見感染の主要な原因菌の一つとして注目されており、緑膿菌の感染症に対する予防や治療は、医療上、重要な課題となっている。
【0003】
緑膿菌の感染症の予防や治療においては、主に、抗生物質や合成抗菌剤が用いられている。しかし、緑膿菌がこれら薬剤に対して耐性を獲得することから、これら薬剤では、十分な治療効果が得られない場合が多い。特に、多剤耐性を獲得した緑膿菌(MDRP)の感染症では、抗生物質等による治療は困難で、限界がある。このため、これに代わる方法として、免疫グロブリン製剤による治療も行われている。
【0004】
一方、緑膿菌に対する抗体による緑膿菌の感染症の予防や治療も検討されている。例えば、特定の血清型の緑膿菌に特異的に結合する抗体の開発が行われている(特許文献1から5および非特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、これまでに開発されてきた緑膿菌に対する各種の抗体は、緑膿菌の感染症の予防や治療において十分に効果をあげているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−178688号公報
【特許文献2】特開平6−178689号公報
【特許文献3】特開平7−327677号公報
【特許文献4】国際公開第2004/101622号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2006/084758号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】The Journal of Infectious Diseases, 152, 6, 1985, 1290-1299.
【非特許文献2】Journal of General Microbiology, 133, 1987, 3581-3590.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、緑膿菌に対して優れた抗菌活性を有する新規な抗体を提供することにある。本発明の主要な目的の一つは、緑膿菌の血清型E型リポ多糖に特異的に結合する抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、まず、慢性緑膿菌肺感染の嚢胞性線維症患者および健康志願者から血液サンプルを採取し、リポ多糖(以下、単に「LPS」と称することがある)抗原に特異的な形質芽球の割合が高いドナー検体を、1)循環血液中の形質芽球および形質細胞の量を測定するFACS解析、2)特定のLPS抗原に特異的な循環血液中の抗体産生細胞の量を測定するELISPOT解析、および3)特定のLPS抗原に対する特異的免疫グロブリンの有無を判定するELISA解析、により同定した。次いで、こうして同定したドナー検体から、LPSを認識する各種抗体の調製を行った。
【0010】
具体的には、生存能力のある形質芽球を、CD19、CD38、λ軽鎖、および死細胞の染色により選抜し、選抜した形質芽球上で、マルチプレックス重複伸長RT-PCR(multiplex overlap-extension RT-PCR)およびその後のネストPCR(nested PCR)の2段階PCRで、同じB細胞に由来する重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)をコードするDNA配列の対合を行った(図1)。次いで、増幅されたDNAをスクリーニングベクターに挿入して、大腸菌に形質転換し、増幅したベクターのレパートリーを大腸菌から精製した。得られた抗体ライブラリーを動物培養細胞で発現させ、精製LPS分子と結合する抗体をコードするクローンをELISAによりスクリーニングし、LPS特異的なクローンを選抜し、その塩基配列を決定した。そして、これにより得られたクローンがコードする抗体について、種々の活性を検討するとともに、血清型特異性およびエピトープの検討を行った。
【0011】
その結果、同定した抗体が、緑膿菌の血清型E型LPSに結合し、in vitroおよびin vivoにおいて優れた抗菌活性を有することを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、緑膿菌の血清型E型LPSに結合し、単独あるいは組み合わせで、優れた抗菌活性を示す抗体および該抗体の用途に関し、より詳しくは、以下の項目の発明を提供するものである。
[1] 緑膿菌のリポ多糖のBバンドLPSを認識する抗体であって、血清型E型の緑膿菌の表面に実質的に結合し、A型、B型、C型、D型、F型、G型、H型、I型、およびM型の緑膿菌の表面に実質的に結合しない抗体。
[2] 血清型E型の緑膿菌に対してオプソニン活性を有する、項目1に記載の抗体。
[3] ATCC 29260で特定される緑膿菌に対するオプソニン活性のEC50が1μg/ml以下である、項目2に記載の抗体。
[4] 血清型E型の緑膿菌に対して凝集活性を有する、項目1から3のいずれかに記載の抗体。
[5] ATCC 29260で特定される緑膿菌に対するIgG量(μg)当たりの凝集価が100以上である、項目4に記載の抗体。
[6] 血清型E型の緑膿菌の全身感染に対して抗菌効果を有する、項目1から5のいずれかに記載の抗体。
[7] ATCC 29260で特定される緑膿菌を全身感染させた好中球減少マウスモデルにおける抗菌効果のED50が、ベニロンと比較して30分の1以下である、項目6に記載の抗体。
[8] 血清型E型の緑膿菌の肺感染に対して抗菌効果を有する、項目1から7のいずれかに記載の抗体。
[9] ATCC 29260で特定される緑膿菌を肺感染させたマウスモデルにおける抗菌効果が、下記群から選択される少なくとも一の特性を有する、項目8に記載の抗体。
(a) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した直後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して500分の1以下である
(b) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した8時間後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して3000分の1以下である
[10] 血清型E型の緑膿菌の熱傷感染に対して抗菌効果を有する、項目1から9のいずれかに記載の抗体。
[11] ATCC 29260で特定される緑膿菌を熱傷感染させたマウスモデルにおける抗菌効果が、下記群から選択される少なくとも一の特性を有する、項目10に記載の抗体。
(a) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した直後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して1500分の1以下である
(b) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した25時間後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して2000分の1以下である
[12] 下記(a)または(b)のいずれかに記載の特徴を有する抗体。
(a)配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4から6に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する。
(b)配列番号:9から11に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12から14に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する。
[13] 下記(a)または(b)に記載の特徴を有する抗体。
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する。
(b)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する。
[14] 下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:9から11に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
[15] 下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
[16] 下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:4から6に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:12から14に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
[17] 下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
[18] 血清型E型の緑膿菌のリポ多糖のBバンドLPSにおける、下記(a)または(b)に記載の抗体のエピトープに結合する抗体。
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する抗体。
(b)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する抗体。
[19] 項目1から18のいずれかに記載の抗体またはペプチドをコードするDNA。
[20] 項目1から13、18のいずれかに記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
[21] 項目1から13、18のいずれかに記載の抗体と、場合によっては1種以上の薬学的に許容される担体、および/または希釈剤とを含んでなる、緑膿菌に関連する疾患に用いられる医薬組成物。
[22] 緑膿菌に関連する疾患が、緑膿菌感染に起因する全身感染疾患である、項目21に記載の医薬組成物。
[23] 緑膿菌に関連する疾患が、緑膿菌感染に起因する肺感染疾患である、項目21に記載の医薬組成物。
[24] 緑膿菌に関連する疾患が、緑膿菌感染に起因する熱傷感染疾患である、項目21に記載の医薬組成物。
[25] 項目1、12、13、および18のいずれかに記載の抗体を含んでなる緑膿菌を検出する診断用薬。
[26] 項目1、12、13、および18のいずれかに記載の抗体を含んでなる緑膿菌を検出するキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、緑膿菌の血清型E型LPSに結合し、優れた抗菌活性を示す抗体が提供された。本発明の抗体は、優れたオプソニン効果や緑膿菌の全身感染、肺感染、あるいは熱傷感染に対する抗菌効果を示すことができる。また、慢性緑膿菌肺感染の嚢胞性線維症患者に由来するものであるため、臨床上見出される緑膿菌に対して優れた効果が期待できる。本発明の抗体は、ヒト抗体として調製することができ、安全性も高い。本発明の抗体を用いれば、多剤耐性緑膿菌を含む、緑膿菌によるHAP/VAP、菌血症、敗血症、熱傷などの緑膿菌感染症を効果的に治療または予防することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の抗体をコードするDNAを取得するために実施した2段階PCRを示す図である。
【図2】同じB細胞に由来する重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)コード配列の対合に用いたOO-VP-002ベクターを示す図である。
【図3】「2459」抗体と「1656」抗体の相加効果をSPR測定により解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、緑膿菌の血清型E型LPSに結合する新規な抗体を提供する。本発明における「抗体」は、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスを含む。「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体が含まれ、また、抗体の機能的断片の形態も含む意である。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明におけるポリクローナル抗体には、複数のモノクローナル抗体の組合せにより、抗原における複数のエピトープを認識することができる抗体も含まれる。本発明の抗体は、単離された抗体、すなわち、自然環境の成分から分離され、および/または回収された抗体である。
【0016】
本発明の抗体が結合する「リポ多糖(LPS)」は、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であり、脂質および多糖から構成される物質(糖脂質)である。糖鎖部分は、コア多糖(またはコアオリゴ糖)と呼ばれる部分と、O抗原(O側鎖多糖)と呼ばれる部分から構成される。「AバンドLPS」とは、O抗原を構成する多糖における、D-ラムノースがα-1,2およびα-1,3で結合した「3)-α-D-Rha-(1→2)-α-D-Rha-(1→3)-α-D-Rha-(1」の繰返し構造を有するLPSである(以下に、その構造式を示すが、α-1,2結合したD-ラムノースおよびα-1,3結合したD-ラムノースの分岐の様式については、下記のみに限定されるものではない)。
【0017】
【化1】

【0018】
一方、「BバンドLPS」とは、O抗原を構成する多糖における2〜5個の糖の結合が繰り返し構造を有する血清型特異的なLPSである。BバンドLPSは下記に例示する通り、緑膿菌の血清型によって繰返し構造が異なる(Microbiol. Mol. Biol. Rev. 63 523-553(1999)参照)。
【0019】
【化2】

【0020】
本発明において「血清型」とは、緑膿菌の任意の公知の血清型を意味する。異なる緑膿菌血清型に対して現在用いられている、緑膿菌研究会血清型別検討委員会の群別およびIATS(International Antigenic Typing System)による型別の対応を表1に示す。緑膿菌の血清型は、市販の緑膿菌群別用の免疫血清を用いて判別することができる。
【0021】
【表1】

【0022】
本発明において同定された抗体のうち、「1656」抗体および「1640」抗体は、血清型E型の緑膿菌への優れた特異性を示した。従って、本発明の抗体の他の一つの態様は、血清型E型の緑膿菌のリポ多糖に特異的に結合する抗体(以下、「抗E型LPS抗体」と称する)である。本発明の抗E型LPS抗体は、好ましくは、緑膿菌のリポ多糖を認識する抗体であって、E型の緑膿菌の表面に実質的に結合し、A型、C型、D型、F型、G型、H型、I型、およびM型の緑膿菌の表面に実質的に結合しないことを特徴とする抗体である。本発明の抗E型LPS抗体において「実質的に結合する」とは、例えば、本願実施例に記載のwhole cell ELISA法により検出した場合において、結合性の指標となる吸光度が0.25以上であることを意味する。一方、「実質的に結合しない」とは、例えば、本願実施例に記載のwhole cell ELISA法により検出した場合において、結合性の指標となる吸光度が0.25未満であることを意味する。
【0023】
血清型がA型の緑膿菌としては、例えば、ATCCアクセション番号27577、33350などが挙げられ、B型の緑膿菌としては、例えば、27578、33349、BAA-47、33352、33363、43732などが挙げられ、C型の緑膿菌としては、例えば、33353、27317、33355などが挙げられ、D型の緑膿菌としては、例えば、27580、33356などが挙げられ、E型の緑膿菌としては、例えば、29260、33358などが挙げられ、F型の緑膿菌としては、例えば、27582、33351などが挙げられ、G型の緑膿菌としては、例えば、27584、33354などが挙げられ、H型の緑膿菌としては、27316、33357などが挙げられ、I型の緑膿菌としては、例えば、27586、33348などが挙げられ、J型の緑膿菌としては、例えば、33362などが挙げられ、K型の緑膿菌としては、例えば、33360、33361などが挙げられ、L型の緑膿菌としては、例えば、33359などが挙げられ、M型の緑膿菌としては、例えば、21636などが挙げられ、N型の緑膿菌としては、例えば、33364などが挙げられ、それ以外の型の緑膿菌(O18型、O19型)としては、例えば、43390、43731などが挙げられる。
【0024】
血清型がE型の緑膿菌としては、例えば、明治製菓株式会社が保有する血清型E/O11型の多剤耐性緑膿菌(MDRP:Multi-drug resistant P.aeruginosa) MSC 06120、MSC 17660、MSC 17661、MSC
17662、MSC 17667、MSC 17671、MSC 17693、MSC 17727、MSC
17728、などが挙げられる。なお、多剤耐性とはClinical
and Laboratory Standards Institute (CLSI)のbreakpointsに基づきimipenem (≧16 μg/ml)、ceftazidime (≧32 μg/ml)、tobramycin (≧16 μg/ml)、ciprofloxacin (≧4 μg/ml)のうち3剤以上に対する耐性と定義する(参考非特許文献:National Surveillance of Antimicrobial Resistance in Pseudomonas aeruginosa
Isolates Obtained from Intensive Care Unit Patients from 1993 to 2002, Marilee
D. Obritsch, Douglas N. Fish, Robert MacLaren, and Rose Jung, ANTIMICROBIAL
AGENTS AND CHEMOTHERAPY, 48, 12, 2004, 4606-4610)。
【0025】
本発明の抗E型LPS抗体は、好ましくは、上記例示したATCCアクセション番号で特定される緑膿菌において、E型の緑膿菌にのみ実質的に結合し、それ以外の血清型の緑膿菌には実質的に結合しない抗体である。また、本発明の抗E型LPS抗体は、好ましくは、明治製菓株式会社が保有する血清型E/O11型のMDRPに実質的に結合する抗体である。より好ましくは、上記例示したATCCアクセション番号で特定される緑膿菌において、E型の緑膿菌のすべてに実質的に結合し、それ以外の血清型の緑膿菌には実質的に結合しない抗体である。
【0026】
本発明の抗E型LPS抗体の好ましい態様は、緑膿菌に対してオプソニン活性を有するものである。本発明の抗E型LPS抗体は、E型の緑膿菌への結合活性を反映して、E型の緑膿菌に対してオプソニン活性を有しうる。特に、本発明の「1656」抗体および「1640」抗体は、いずれもE型の緑膿菌に対して、高いオプソニン活性を示した。特に注目すべきことに、本発明の「1656」抗体および「1640」抗体は、本願実施例に記載の通り、FITC標識緑膿菌を取り込んだヒト多形核白血球の蛍光強度を指標に検出する手法で、E型の緑膿菌(ATCC 29260)を用いてオプソニン活性を評価した場合におけるEC50が、それぞれ0.11、0.64μg/mlを示した。本発明の抗E型LPS抗体は、このような優れたオプソニン活性を有するものであることが好ましく、例えば、E型の緑膿菌(ATCC 29260)に対するオプソニン活性のEC50が1μg/ml以下(例えば、0.8μg/ml以下、0.6μg/ml以下、0.4μg/ml以下、0.3μg/ml以下、0.2μg/ml以下)を示す抗体である。
【0027】
本発明の抗E型LPS抗体は、また、本願実施例に記載の通り、FITC標識緑膿菌を取り込んだヒト多形核白血球の蛍光強度を指標に検出する手法で、血清型E型の緑膿菌(ATCC 29260)を用いてオプソニン活性を評価した場合における30μg/mlでの平均蛍光強度(MFI)値が、ベニロン1000μg/mlの場合の平均蛍光強度(MFI)値と比較して0.5倍以上(例えば、0.8倍以上、1倍以上、1.2倍以上)であることが好ましい。
【0028】
本発明の抗E型LPS抗体の他の好ましい態様は、緑膿菌の全身感染、肺感染、および熱傷感染に対して抗菌効果を有するものである。本発明の「1656」抗体および「1640」抗体は、E型の緑膿菌の肺感染に対して抗菌活性を示した。驚くべきことに、「1656」抗体および「1640」抗体の抗菌効果のED50値は、E型の緑膿菌(ATCC 29260)で特定される緑膿菌をマウスに接種した直後に前記抗体を該マウスに投与した、肺感染マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、いずれもベニロンのED50値の500分の1以下であった。特に「1656」抗体は、ベニロンを対照として比較した場合、1000分の1以下であった。従って、該肺感染マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して500分の1以下(例えば、600分の1以下、800分の1以下、1000分の1以下)である。また、驚くべきことに、「1656」抗体の抗菌効果のED50値は、E型の緑膿菌(ATCC 29260)で特定される緑膿菌をマウスに接種した8時間後に「1656」抗体を該マウスに投与した、肺感染マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、ベニロンのED50値の3000分の1以下であった。従って、該肺感染マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して3000分の1以下(例えば、4000分の1以下、5000分の1以下)である。
【0029】
さらに、驚くべきことに、「1656」抗体の抗菌効果のED50値は、E型の緑膿菌(MSC 06120)で特定されるMDRPをマウスに接種した直後に「1656」抗体を該マウスに投与した、肺感染マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、ベニロンのED50値の500分の1以下であった。従って、該肺感染マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して500分の1以下(例えば、600分の1以下、700分の1以下)である。また、驚くべきことに、E型の緑膿菌(MSC 06120)で特定されるMDRPをマウスに接種した8時間後に「1656」抗体を該マウスに投与した、肺感染マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、いずれもベニロンのED50値の50分の1以下という優れた効果を発揮した。従って、該肺感染マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して50分の1以下(例えば、60分の1以下、70分の1以下)である。
【0030】
本発明の「1656」抗体および「1640」抗体は、さらに、E型の緑膿菌の全身感染に対しても抗菌活性を示した。驚くべきことに、これら抗体の抗菌効果のED50値は、E型の緑膿菌(ATCC 29260)で特定される緑膿菌を全身感染させた好中球減少マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、いずれもベニロンのED50値の30分の1以下という優れた効果を発揮した。特に、「1656」抗体は、ATCC 29260で特定される緑膿菌を全身感染させたマウスモデルにおいては、ベニロンのED50値の140分の1以下という優れた効果を発揮した。従って、全身感染させた好中球減少マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して30分の1以下(例えば、40分の1以下、70分の1以下、100分の1以下、130分の1以下、140分の1以下)である。また、驚くべきことに、「1656」抗体の抗菌効果のED50値は、E型の緑膿菌(MSC 06120)で特定されるMDRPを全身感染させた好中球減少マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、ベニロンのED50値の120分の1以下という優れた効果を発揮した。従って、MDRPを全身感染させた好中球減少マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して120分の1以下(例えば、150分の1以下、180分の1以下)である。
【0031】
本発明の「1656」抗体は、E型の緑膿菌の熱傷感染に対して抗菌活性を示した。驚くべきことに、「1656」抗体の抗菌効果のED50値は、E型の緑膿菌(ATCC 29260)で特定される緑膿菌をマウスに接種した直後に前記抗体を該マウスに投与した、熱傷感染マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、ベニロンのED50値の1500分の1以下であった。従って、該熱傷感染マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して1500分の1以下(例えば、2000分の1以下、2500分の1以下)である。また、驚くべきことに、「1656」抗体の抗菌効果のED50値は、E型の緑膿菌(ATCC 29260)で特定される緑膿菌をマウスに接種した25時間後に「1656」抗体を該マウスに投与した、熱傷感染マウスモデルを用い、ベニロンを対照として比較した場合、ベニロンのED50値の2000分の1以下であった。従って、該熱傷染マウスモデルを用いた場合における、本発明の抗E型LPS抗体のED50値は、好ましくは、ベニロンと比較して2000分の1以下(例えば、2500分の1以下、3000分の1以下)である。
【0032】
本発明の抗E型LPS抗体は、上記のいずれか活性を単独でもつことも可能であるが、複数の活性を併せ持つことが好ましい。
【0033】
本発明の抗E型LPS抗体の他の好ましい態様は、本発明において同定された抗体(1656、1640)の軽鎖CDR1〜CDR3を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3を含む重鎖可変領域を保持する抗体である。具体的には、下記(i)または(ii)に記載の抗体が挙げられる。
【0034】
(i)軽鎖CDR1〜CDR3(配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列)を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3(配列番号:4から6に記載のアミノ酸配列)を含む重鎖可変領域を保持する抗体、例えば、軽鎖可変領域が配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなり、重鎖可変領域が配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる抗体
(ii)軽鎖CDR1〜CDR3(配列番号:9から11に記載のアミノ酸配列)を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3(配列番号:12から14に記載のアミノ酸配列)を含む重鎖可変領域を保持する抗体、例えば、軽鎖可変領域が配列番号:15に記載のアミノ酸配列からなり、重鎖可変領域が配列番号:16に記載のアミノ酸配列からなる抗体
【0035】
本発明は、また、本発明の抗体(1656、1640)において同定されたCDRを含む、抗体の軽鎖もしくは重鎖またはそれらの可変領域からなるペプチドを提供する。
【0036】
1656抗体のCDRを含む、抗体の軽鎖もしくは重鎖またはそれらの可変領域からなるペプチドとしては、下記(i)または(ii)に記載のペプチドが挙げられる。
【0037】
(i)配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド、例えば、配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むペプチド
(ii)配列番号:4から6に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド、例えば、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含むペプチド
【0038】
1640抗体のCDRを含む、抗体の軽鎖もしくは重鎖またはそれらの可変領域からなるペプチドとしては、下記(i)または(ii)に記載のペプチドが挙げられる。
【0039】
(i)配列番号:9から11に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド、例えば、配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含むペプチド
(ii)配列番号:12から14に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド、例えば、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含むペプチド
これらペプチドを、例えば、リンカー等により連結することで、機能的な抗体を作製することが可能である。
【0040】
一旦、具体的な抗E型LPS抗体(1656、1640)が得られた場合、当業者であれば、その抗体が認識するエピトープを特定して、そのエピトープに結合する種々の抗体を作製することができる。本発明は、「1656」抗体または「1640」抗体と同一のエピトープを認識する抗体をも提供するものである。このような抗体は、「1656」抗体または「1640」抗体における上記特性(結合活性を示す緑膿菌の血清型の特異性、オプソニン活性、凝集活性、全身感染および肺感染に対する抗菌活性)を保持すると考えられる。
【0041】
抗体の緑膿菌への結合は、例えば、本願実施例に記載の通り、Whole cell ELISA法により評価することができ、これにより、当該抗体が結合活性を示す緑膿菌の血清型の範囲を判定することができる。オプソニン活性は、例えば、本願実施例に記載の通り、FITC標識緑膿菌を取り込んだヒト多形核白血球の蛍光強度を指標に検出する手法により評価することができる。また、凝集活性は、例えば、本願実施例に記載の通り、段階的に希釈した菌体に対する抗体の凝集能を検出し、IgG量当たりの凝集価として評価することができる。また、全身感染および肺感染に対する抗菌活性は、例えば、本願実施例に記載の通り、抗体を投与したモデルマウスの生存率により評価することができる。
【0042】
本発明の抗体は、典型的にはヒト抗体である。しかしながら、本発明において同定されたエピトープ情報を利用して、あるいは本発明において同定されたヒト抗体のCDR領域や可変領域を利用して、当業者であれば、ヒト抗体の他、種々の抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、マウス抗体、あるいは、これら抗体の機能的断片を調製することが可能である。本発明の抗体を医薬としてヒトに投与する場合は、副作用低減の観点から、ヒト抗体であることが最も望ましい。
【0043】
本発明において、「ヒト抗体」とは、すべての領域がヒト由来の抗体である。ヒト抗体の作製においては、本実施例に記載の方法を用いることができるが、その他の方法として、例えば、免疫することで、ヒト抗体のレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を利用することが可能である。ヒト抗体の作製手法は、公知である(例えば、Nature, 362:255-258(1992)、Intern. Rev. Immunol, 13:65-93(1995)、J. Mol. Biol, 222:581-597(1991)、Nature Genetics, 15:146-156(1997)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:722-727(2000)、特開平10-146194号公報、特開平10-155492号公報、特許2938569号公報、特開平11-206387号公報、特表平8-509612号公報、特表平11-505107号公報)。
【0044】
本発明において「キメラ抗体」とは、ある種の抗体の可変領域とそれとは異種の抗体の定常領域とを連結した抗体である。キメラ抗体は、例えば、抗原をマウスに免役し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する抗体可変部(可変領域)をコードする部分を切り出して、ヒト骨髄由来の抗体定常部(定常領域)遺伝子と結合し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入して産生させることにより取得することができる(例えば、特開平8-280387号公報、米国特許第4816397号公報、米国特許第4816567号公報、米国特許第5807715号公報)。また、本発明において「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体の抗原結合部位(CDR)の遺伝子配列をヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)した抗体であり、その作製方法は、公知である(例えば、EP239400、EP125023、WO90/07861、WO96/02576参照)。 本発明において抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、その由来する抗体の抗原を特異的に認識する能力を保持しているものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
【0045】
ここで「Fab」とは、1つの軽鎖および重鎖の一部からなる免疫グロブリンの一価の抗原結合断片を意味する。抗体のパパイン消化によって、また、組換え方法によって得ることができる。「Fab'」は、抗体のヒンジ領域の1つまたはそれより多いシステインを含めて、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端でのわずかの残基の付加によって、Fabとは異なる。「F(ab’)2」とは、両方の軽鎖と両方の重鎖の部分からなる免疫グロブリンの二価の抗原結合断片を意味する。
【0046】
「可変領域断片(Fv)」は、完全な抗原認識および結合部位を有する最少の抗体断片である。Fvは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである。「一本鎖Fv(sFv)」は、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖に存在する。「sc(Fv)2」は、2つの重鎖可変領域および2つの軽鎖可変領域をリンカー等で結合して一本鎖にしたものである。「ダイアボディー」とは、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片であり、この断片は、同一ポリペプチド鎖の中に軽鎖可変領域に結合した重鎖可変領域を含み、各領域は別の鎖の相補的領域とペアを形成している。「多特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。例えば、二つの重鎖が異なる特異性を持つ2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現により調製することができる。
【0047】
本発明の抗体には、望ましい活性(緑膿菌への結合活性とその広範性や特異性、オプソニン活性、凝集活性、全身感染や肺感染に対する抗菌活性、および/または他の生物学的特性)を減少させることなく、そのアミノ酸配列が修飾された抗体が含まれる。本発明の抗体のアミノ酸配列変異体は、本発明の抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、またはペプチド合成によって作製することができる。そのような修飾には、例えば、本発明の抗体のアミノ酸配列内の1もしくは複数の残基の置換、欠失、付加および/または挿入を含む。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖または軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域およびCDR)であってもよい。CDR以外のアミノ酸の改変は、抗原との結合親和性への影響が相対的に少ないと考えられるが、現在では、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法が公知である(PNAS, 102:8466-8471(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:485-493(2008)、国際公開第2002/051870号、J. Biol. Chem., 280:24880-24887(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:345-351(2008))。
【0048】
改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。本発明において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・トレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)で分類することができる。
【0049】
また、本発明の抗体の改変は、例えば、グリコシル化部位の数または位置を変化させるなどの抗体の翻訳後プロセスの改変であってもよい。これにより、例えば、抗体のADCC活性を向上させることができる。抗体のグリコシル化とは、典型的には、N-結合またはO-結合である。抗体のグリコシル化は、抗体を発現するために用いる宿主細胞に大きく依存する。グリコシル化パターンの改変は、糖生産に関わる特定の酵素の導入または欠失などの公知の方法で行うことができる(特開2008-113663、米国特許第5047335号、米国特許第5510261号、米国特許第5278299号、国際公開第99/54342号)。さらに、本発明においては、抗体の安定性を増加させる等の目的で脱アミド化されるアミノ酸もしくは脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより脱アミド化を抑制してもよい。また、グルタミン酸を他のアミノ酸へ置換して、抗体の安定性を増加させることもできる。本発明は、こうして安定化された抗体をも提供するものである。
【0050】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(LPSやその部分構造からなる分子、それらが表面に露出している緑膿菌など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、本実施例に記載した方法の他、一般的なハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0051】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラーおよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(LPSあるいはその部分構造からなる分子、それらが表面に露出している緑膿菌など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、LPS抗原特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。LPS抗原に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0052】
組換えDNA法は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves, Antibody Production: Essential Techniques, 1997 WILEY、P.Shepherd and C. Dean Monoclonal Antibodies, 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M. et al., Eur. J. Biochem. 192:767-775(1990))。本発明の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523号公報参照)。本発明の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0053】
本発明は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNA、該DNAを含むベクター、該DNAを保持する宿主細胞、および該宿主細胞を培養し、抗体を回収することを含む抗体の生産方法をも提供するものである。
【0054】
本発明の抗体は、上記の活性を有することから、緑膿菌に関連する疾患の予防または治療に利用することができる。従って、本発明は、本発明の抗体を有効成分とする、緑膿菌に関連する疾患の予防または治療に用いられる医薬組成物、および、本発明の抗体の治療上または予防上の有効量を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、緑膿菌に関連する疾患の予防または治療の方法をも提供するものである。本発明の治療または予防の方法は、ヒト以外にも、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含各種哺乳動物に応用することが可能である。
【0055】
緑膿菌に関連する疾患としては、多剤耐性緑膿菌を含む緑膿菌感染に起因する全身感染疾患、例えば、敗血症、髄膜炎、心内膜炎等が挙げられる。耳鼻科領域では、中耳炎、副鼻腔炎、呼吸器科領域では、肺炎、慢性気道感染症、カテーテル感染症、外科領域では、術後腹膜炎、術後胆道などの炎術後感染症、眼科領域では、眼瞼膿瘍、涙嚢炎、結膜炎、角膜潰瘍、角膜膿瘍、全眼球炎、眼窩感染、泌尿器科領域では、複雑性尿路感染症を含む尿路感染症、カテーテル感染症、肛門周辺膿瘍等が挙げられる。この他にも、重症熱傷、気道熱傷を含む熱傷や褥瘡感染症、嚢胞性繊維症等が挙げられる。
【0056】
本発明の医薬組成物または用剤は、本発明の抗体を有効成分として用い、好ましくは、精製した抗体組成物と任意の成分、例えば生理食塩液、葡萄糖水溶液または燐酸塩緩衝液などを含有する組成物の形態で使用しても良い。
【0057】
本発明の医薬組成物は必要に応じて液体または凍結乾燥した形態で製剤化しても良く、任意に薬学的に許容される担体、例えば、安定化剤、防腐剤、等張化剤(isotonic agent)などを含有させることもできる。薬学的に許容される担体としては、凍結乾燥した製剤の場合、マンニトール、ラクトース、サッカロース、ヒトアルブミンなどを例として挙げることができ、液状製剤の場合には、生理食塩液、注射用水、燐酸塩緩衝液、水酸化アルミニウムなどを例として挙げることができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0058】
投与は、投与対象の年齢、体重、性別、一般的な健康状態により異なるが、経口投与、非経口投与(例えば、静脈投与、動脈投与、局所投与)のいずれかの投与経路で投与することができるが、好ましくは非経口投与である。
【0059】
医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、性別、一般的な健康状態、緑膿菌感染症の程度および投与する抗体組成物の成分により多様である。本発明の抗体組成物は、一般的に静脈内投与の場合、成人には体重1kg当たり1日0.1から1000mg、好ましくは1から100mgを投与する。
【0060】
本発明の医薬組成物は、緑膿菌による感染のおそれがある患者に対してあらかじめ投与しておくことが好ましい。
【0061】
本発明の抗体は、緑膿菌の細胞表面に露出するLPSと結合することから、緑膿菌感染症診断剤として用いることもできる。
【0062】
本発明の抗体を診断剤として調剤するには、合目的な任意の手段を採用して任意の剤型でこれを得ることが出来る。たとえば腹水、目的抗体を含む培養液、または精製した抗体についてその抗体価を測定し、適当にPBS(生理食塩を含むリン酸緩衝液)等で希釈した後、0.1%ナトリウムアジド等を防腐剤として加える。またはラテックス等に本発明の抗体を吸着させたものも抗体価を求め適当に希釈し、防腐剤を添加して用いる。前記のように本発明の抗体をラテックス粒子に結合させたものは、診断薬として好ましい剤型の一つである。この場合のラテックスとしては適当な樹脂材料たとえばポリスチレン、ポリビニールトルエン、ポリプタジエン等のラテックスが適当である。
【0063】
本発明によれば、本発明の抗体を用いる緑膿菌感染の診断方法が提供される。本発明の診断方法は、緑膿菌感染のおそれのあるヒトを含む哺乳動物から喀痰、肺洗浄液、膿、涙、血液、尿等の生体試料を採取し、次いで、採取した試料と本発明の抗体とを接触させ、抗原抗体反応が生じたか否かを判断することにより実施することができる。
【0064】
本発明によれば、緑膿菌の存在を検出するためのキットであって、本発明の抗体を少なくとも含んでなるキットが提供される。
【0065】
本発明の抗体は、標識したものであってもよい。この検出用キットは抗原抗体反応を検出することにより緑膿菌の存在を検出する。
【0066】
従って本発明の検出キットは、所望により、抗原抗体反応を実施するための種々の試薬、例えばELISA法等に用いる2次抗体、発色試薬、緩衝液、説明書、および/または器具などをさらに含むことができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0068】
[実施例1] 抗LPS抗体のクローニング
(1)血液ドナーの募集
慢性緑膿菌肺感染の嚢胞性線維症患者および健康志願者から血液サンプル250mlを採取した。ドナーは全般的に良好な健康状態にあり、ドナーの年齢、慢性緑膿菌感染年数、免疫応答状態は広い範囲に及んでいた。さらなる、ドナーの選択基準は、年齢18歳以上であること、体重が50kgを上回っていること、ならびにヘモグロビン値が正常であることであった。すべての献血は、The Danish National Committee on Biomedical Research Ethicsの承認を受けた。
【0069】
各血液サンプルに対し、i)循環血液中の形質芽球および形質細胞の量を測定するFACS解析、ii)特定のLPS抗原に特異的な循環血液中の抗体産生細胞の量を測定するELISPOT解析、ならびにiii)特定のLPS抗原に対する特異的免疫グロブリンの有無を判定するELISA解析、を実施した。
【0070】
LPS抗原に特異的な形質芽球の割合が高いドナー検体を、後述するSymplex法(WO2005/042774号参照)を行うために選択した。
【0071】
(2)FACSによるヒト形質芽球の分取
本法の出発物質は、MACS精製CD19陽性B細胞であった。通常、これらの細胞は冷凍保存しており、分取の度に一部を解凍した。生存能力のある形質芽球を、CD19、CD38、λ軽鎖、ならびに死細胞について細胞を染色して識別した。
【0072】
新鮮解凍細胞をFACS PBS 4mlで2回洗浄し、FACS PBS 40μlあたり1×106となるよう希釈した。1×106細胞あたり、試薬としてCD19-FITC 10μl、CD38 APC 20μl、およびλ-PE 10μlを4℃で添加し、暗所の氷上で20分間放置した。サンプルをFACS緩衝液 2mlで2回洗浄し、FACS PBS 1mlに再懸濁した後、ヨウ化プロピジウム(1:100)を添加した。この細胞懸濁液を50μmのSyringe falcon(FACSフィルター)で濾過した。この状態で、Symplex PCRプレート(次セクション参照)に直接分取する準備ができていた。分取後、PCRプレートを300×gで1分間遠心し、後に使用するために-80℃で保存した。
【0073】
(3)同源の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の対の連結
同じB細胞に由来する重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)コード配列を対合するために、形質細胞としてゲートした単細胞上でVHおよびVLコード配列の連結を行った。この方法では、multiplex overlap-extension RT-PCRおよびその後のnested PCRからなる2段階PCR法を使用した。本例で使用したプライマーミックスでは、軽鎖はκ鎖のみを増幅する。同源のVHおよびVLの配列の連結の原理を図1に示す。
【0074】
作製した96ウェルPCRプレートを解凍し、分取した細胞をmultiplex overlap-extension RT-PCRの鋳型として使用した。単細胞分取前に各ウェルに添加した分取用緩衝液には反応緩衝液(One Step RT-PCR Buffer、Qiagen)、RT-PCR用プライマー(表2参照)、およびRNase阻害剤(RNasin、Promega)が含まれていた。
【0075】
【表2】

【0076】
この分取用緩衝液にOneStep RT-PCR酵素ミックス(25倍希釈、Qiagen)およびdNTPミックス(各200μM)を加え、20μlの反応量で所定の最終濃度にした。各細胞からのRNAの逆転写を可能にするために、プレートを55℃で30分間インキュベートした。逆転写後、プレートに対して、94℃で10分間、「94℃で40秒、60℃で40秒、72℃で5分」を35回、72℃で10分のPCRサイクルを実施した。
【0077】
ハイスループットを促進するために96ウェルプレート24枚用のPeel Seal Basketを用いたH20BIT Thermalサイクラー(ABgene)内でPCR反応を実施した。サイクルの実施後、PCRプレートを-20℃で保管した。
【0078】
Nested PCRステップでは、各ウェル(20μlの反応物)内で1xFastStart緩衝液(Roche)、dNTPミックス(各200μM)、nestedプライマーミックス(表2参照)、Phusion DNA Polymerase(0.08U、Finnzymes)、ならびにFastStart High Fidelity Enzyme Blend(0.8U、Roche)の混合物(それぞれ最終濃度)を用いて96ウェルPCRプレートを作製した。Nested PCRの鋳型として、multiplex overlap-extension PCR反応から1μlを移した。Nested PCRのプレートに対し、「95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で90秒」を35回、72℃で10分の熱サイクリングを実施した。
【0079】
無作為に選択した反応物を1%アガロースゲル上で解析し、約1050塩基対(bp)のoverlap-extensionフラグメントの存在を検証した。PCRフラグメントをさらに処理するまで、プレートを-20℃で保管した。Nested PCRで得られたVHおよびVLコード配列を連結した対のレパートリーを、ドナーごとにプールし、1%アガロースゲル電気泳動法により精製した。
【0080】
(4)スクリーニングベクターへの同源の重鎖可変領域および軽鎖可変領域コード配列の対の挿入
LPSに対する結合特異性を有する抗体を特定するために、得られたVHおよびVLコード配列を完全長抗体として発現させた。このために、VHおよびVLコード配列の対のレパートリーの発現ベクターへの挿入、ならびに宿主細胞への形質移入を行った。
【0081】
連結したVHおよびVLコード配列の対を含む発現ベクターのレパートリーを作製するために、2段階のクローニング法を採用した。統計的には、発現ベクターのレパートリーに、スクリーニングレパートリーの作製に使用するVHおよびVL同源対合のPCR産物の数より10倍多い組み換えプラスミドが含まれている場合、すべての固有な遺伝子対が再現される尤度は99%である。そのため、400個のoverlap-extension V遺伝子フラグメントが得られた場合、スクリーニングのために少なくとも4000個のクローンからなるレパートリーが作製された。
【0082】
簡単に述べれば、連結したVHおよびVLコード配列の対のレパートリーの精製PCR産物を、PCR産物の末端に導入した認識部位でXhoIおよびNotI DNAエンドヌクレアーゼを用いて切断した。切断および精製されたフラグメントを、XhoI/NotIで切断した哺乳類IgG発現ベクターであるOO-VP-002(図2)に標準的な連結反応法により連結した。得られた連結反応混合物を大腸菌にエレクトロポレーションにより導入し、適切な抗生物質が入っている2xYTプレートに加え、37℃で一晩インキュベートした。標準的なDNA精製法(Qiagen)を用い、プレートから回収した細胞から、増幅したベクターのレパートリーを精製した。
【0083】
AscIおよびNheIエンドヌクレアーゼを用いた切断により、プロモーター−リーダーフラグメントの挿入のためのプラスミドを作製した。それらの酵素の制限酵素認識部位は、VHおよびVLをコードする遺伝子対の間に位置していた。ベクターの精製後、AscI-NheIで切断した二方向哺乳類プロモーター−リーダーフラグメントを標準的な連結反応法によりAscIおよびNheI制限酵素認識部位に挿入した。連結ベクターをE.coliにおいて増幅し、標準法を用いてプラスミドを精製した。作製したスクリーニングベクターのレパートリーを、従来の手順によりE.coliに転換した。得られたコロニーを384ウェルのマスタープレートに移し、保存した。384ウェルプレートに移したコロニーの数は、使用したPCR産物の数を3倍以上も上回っていたため、得られたすべての固有なV遺伝子対が存在する尤度は95%である。
【0084】
M166はキメラIgG抗体として発現させた。M166の可変領域遺伝子のアミノ酸配列は、特許WO2002/064161に記載の緑膿菌PcrVタンパク質に特異的なマウス抗体を起源としている。可変領域の遺伝子はGENEART AG (BioPark,
Josef-Engert-Str. 11, 93053 Regensburg, Germany)にて、その工程の中でマウス軽鎖の可変領域遺伝子をヒトカッパ定常領域遺伝子に連結して合成された。マウス重鎖可変領域遺伝子とキメラ軽鎖遺伝子を哺乳類細胞の中で遺伝子発現するために必要な要素と共にヒト重鎖定常領域遺伝子の残りの部分を内部に持つ発現ベクターに挿入した。
【0085】
(5)Symplexレパートリーの発現
マスタープレートの細菌コロニーを384ウェルプレートの培養液中に植菌し、一晩中培養した。トランスフェクションのためのDNAは、TempliPhi DNA amplification Kit(Amersham Biosciences)を用いて、使用説明書に従って、各々のウェルから調製した。トランスフェクションの前日、384ウェルプレートに、1ウェル当たり3000細胞(培養液20μl中)にて、Flp-InTM-CHO細胞(Invitrogen)を植え付けた。FuGENE 6(Roche)を用い、使用説明書に従って、増幅させたDNAを細胞に導入した。培養3日後、全長の抗体を含有する上清を採取し、抗原特異性スクリーニングの目的のために保管した。
【0086】
(6)LPS結合のスクリーニング
ELISA法により、関連する緑膿菌基準菌株から単離した精製LPS分子の混合物との結合を指標に、抗体ライブラリーのスクリーニングを実施した。Nunc MaxiSorp 384ウェルプレートを、1種類のLPS血清型につき、10μg/mlの精製LPSを含むように50mM Carbonate緩衝液(pH9.6)で希釈したLPSの混合物(1アッセイで最大6種類の血清型)を4℃で一晩被覆した。2%スキムミルク(SM)を含むPBS-T(PBS+0.05% Tween)の50μlで、ウェルプレートをブロックした後、PBS-Tで1回洗浄した。各ウェルに15μlの抗体上清を添加し、室温で1.5時間インキュベートした後、プレートをPBS-Tで1回洗浄した。ウェルに結合した抗体を検出するため、2% SM-PBS-Tで1万倍に希釈した二次抗体(HRP-Goat-anti-human IgG、Jackson)を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS-Tで1回洗浄した後、25μlの基質(Kemen-tec Diagnostics、カタログ番号4390)を各ウェルに添加し、5分間インキュベートした。インキュベーション後、1M硫酸 25μlを添加して反応を停止させた。450nmのELISAリーダーで特異的シグナルを検出した。
【0087】
(7)配列解析およびクローンの選択
ELISAにおいて、LPS特異的であると評価されたクローンを、元のマスタープレート(384ウェル形式)から回収し、新しいプレートに移した。クローンからDNAを分離し、V遺伝子のDNA配列決定のために用いた。得られた配列のアラインメントを行い、すべての固有なクローンを選択した。得られた配列の多重アラインメントを実施した結果、各クローンの唯一性が明らかになり、固有の抗体を識別することができた。遺伝的に明確に異なる複数の抗体配列クラスターが特定された。類縁の配列からなる各クラスターは、おそらく共通の前駆体クローンの体細胞高頻度変異に由来していた。配列および特異性の確証のために各クラスターから1〜2個のクローンを選択した。
【0088】
(8)配列および特異性のバリデーション
抗体をコードするクローンを検証するために、DNAプラスミドを調製し、発現のために、2mlスケールでのFreeStyle CHO-S細胞(Invitrogen)のトランスフェクションを実施した。トランスフェクションの96時間後に上清を採取した。標準的な抗IgG ELISAによって、発現レベルを推定し、LPS特異的ELISAによって、特異性を検討した。
【0089】
(9)同定された抗体
以上の結果、同定された抗LPS抗体と、そのCDRおよび可変領域の配列は、下記の通りである。なお、定常領域は国際公開第2005/042774号に記載の通りである。
【0090】
<抗E型LPS抗体>
「1656」
配列番号:1から3・・・・軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列
配列番号:4から6・・・・重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列
配列番号:7・・・・・・・軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号:8・・・・・・・重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号:25・・・・・・軽鎖可変領域の塩基配列
配列番号:26・・・・・・重鎖可変領域の塩基配列
【0091】
「1640」
配列番号:9から11・・・軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列
配列番号:12から14・・重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列
配列番号:15・・・・・・軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号:16・・・・・・重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号:27・・・・・・軽鎖可変領域の塩基配列
配列番号:28・・・・・・重鎖可変領域の塩基配列
【0092】
<広域反応性抗LPS抗体>
「2459」
配列番号:17から19・・軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列
配列番号:20から22・・重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列
配列番号:23・・・・・・軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号:24・・・・・・重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号:29・・・・・・軽鎖可変領域の塩基配列
配列番号:30・・・・・・重鎖可変領域の塩基配列
【0093】
[実施例2] 抗E型LPS抗体の解析
(1)LPSの精製
表3の各種血清型の緑膿菌をLB培地5mlに懸濁後、この菌体懸濁液を用い10倍系列希釈により1〜10倍希釈液を調製し、これらを37℃で6時間振とう培養した。培養後、菌の増殖が認められたものの中で希釈倍率の一番大きなものから菌液を抜き取り、別に用意したLB培地に1000倍希釈になるように懸濁させ37℃にて一晩振とう培養した。培養後、5000×gで20分間遠心し菌体を回収した。菌体重量を測定後、湿重量換算で120mg/mlになるように精製水を加え、さらに予め68℃に加温した90%フェノール(ナカライテスク)溶液を等量加えて20分間攪拌した。その後、68℃の水浴中で時々攪拌しながら20分間加温し、冷却後5000×gにて20分間遠心した。水層を分取し精製水にて透析後、凍結乾燥したものをLPSとした。
【0094】
(2)AバンドLPSの精製
上記(1)で血清型G型の緑膿菌ATCC 27584株から抽出したLPS Gを原料とした。このLPSを再度注射用水に懸濁させ、超遠心分離(40000rpm、3時間)を2回繰り返して核酸を除去し、回収した沈殿物を凍結乾燥した。ここで得られたLPS Gをゲルろ過カラム(HiPrep 26/60 Sephacryl S-200 HR、GEヘルスケア バイオサイエンス、17-1195-01)に通し、粗分画を行った。精製操作にはAKTA explore 10S(GEヘルスケア バイオサイエンス)を用い、移動相は0.2%デオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク、10712-54)、0.2M NaCl(ナカライテスク、31319-45)および5mM EDTA(ナカライテスク、15105-35)を含む20mM Tris-HCl バッファー(ナカライテスク、35406-75)(pH8.3)を使用し、検出は示差屈折率計(SHIMAZU、RID-10A)を利用した。得られた粗精製画分を精製水で終夜透析をした後、凍結乾燥を行い、0.5M NaCl溶液にて再度懸濁させ、10倍量のエタノールを加えてLPSを沈殿させた。この沈殿物を再度70%エタノールで洗浄し、残存する界面活性剤を除去した。その後、凍結乾燥したLPSを、0.1N NaOH(ナカライテスク、31511-05)および0.2M NaBH4(ナカライテスク、31228-22)溶液に懸濁し、37℃、24時間で反応させ、Eur. J. Bio. Chem. 167,203-209(1987)に記載の方法により、混入しているBバンドLPSのみを分解させた。この反応液を1%酢酸(ナカライテスク、00211-95)で中和後、限外濾過(Amicon Ultra-15、MWCO 10000、ミリポア)にて濃縮し、再度ゲルろ過カラム(Superdex peptide 10/300 GL、GEヘルスケア バイオサイエンス、17-5176-01)に供した。移動相はPBS(-)(シグマアルドリッチ、D1408)を用い、溶出画分を回収した。その後、限外濾過により精製水でバッファー交換および濃縮を行い、凍結乾燥し、精製AバンドLPSを得た。
【0095】
(3)ウェスタンブロッティングおよびWhole cell ELISA
− ウェスタンブロッティング −
上記(1)の各種血清型のATCC菌株由来LPSおよび実施例2の(2)で精製したAバンドLPSは、凍結乾燥品をPBSにて1mg/mlとなるように溶解し、等量のサンプルバッファー(62.5mM Tris-HCL(pH6.8)、5% 2-メルカプトエタノール、2% SDS、20% グリセロール、0.005%ブロモフェノールブルー)と混和して、100℃、10分間加熱したものを用いた。16ウェルタイプの5-20%もしくは15% SDS-PAGE(XV PANTERA Gel、 DRC)の各ウェルに10μlのLPSを添加して15分間電気泳動した。セミドライブロッティング装置(AE-6677, ATTO社)もしくはドライゲルブロッティング装置(iBlotドライゲルブロッティングシステム、Invitrogen)を用いてニトロセルロース膜に転写した後、室温、30分間、ImmunoblockTM(大日本住友製薬)でブロッキングした。抗体サンプルは5% ImmunoblockTM in TBST(0.05% Tween20含有Tris-Buffered Saline)で3μg/mlに希釈し、転写膜と4℃で一昼夜反応させた。TBSTで10分間の洗浄を3回行った後、goat anti-human IgG (Fc) antibody HRP conjugate(Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc.)を5% ImmunoblockTM in TBSTで希釈(1:5000)した反応液に浸し、37℃で1時間反応させた。TBSTで10分間の洗浄を3回行った後、ECL plus Western Blotting Detection System(GE Healthcare、 Code: RPN2132)の説明書に従い、室温で2分間反応させた。FLA-3000 fluorescent image analyzer (Fujifilm)にて化学発光を検出した。
【0096】
その結果、表3に示した。1640抗体あるいは1656抗体を一次抗体として添加した膜上には11種類の血清型のATCC菌株由来LPSのうち、臨床上出現頻度の高いE型LPSの低分子量領域から高分子領域にかけてのみO抗原を含むBバンドLPSと考えられる複数本のバンドが認められた。また代表として1656について別の血清型E型菌株であるATCC 33358由来LPSを用いた場合でも同じ結果であり、さらに精製したAバンドLPSに対しては全く反応性を示さなかった。したがって、これらの抗体は血清型E型LPSのBバンドLPSを特異的に認識する抗体であることが確認された。
【0097】
【表3】

【0098】
− Whole cell ELISA(1) −
Whole cell ELISAはLB培地にて終夜培養した各種血清型の緑膿菌の菌液をPBSにより洗浄し、再懸濁させ、595nmにおける10倍希釈液の吸光度が0.20〜0.23になるよう調整した元の菌液を固定化用菌液として用いた。菌液を96ウェルELISAプレート(MaxiSorp Type、NUNC)に1ウェルあたり100μl加え、4℃、一晩固定化した後、TBS 200μlで1回洗浄し、ブロッキングバッファー(2%ウシ血清アルブミン含有TBS)を加えて30分間、室温でブロッキングした後、サンプルバッファー(1%ウシ血清アルブミン含有TBS)で希釈した抗E型LPS抗体1640および1656(1.0μg/ml)の100μlを各ウェルに加え、37℃で2時間反応させた。その後、200μlの洗浄バッファー(0.05%Tween20含有TBS)で3回洗浄し、サンプルバッファーで10000倍希釈した2次抗体goat anti-human IgG antibody HRP conjugate(Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc.)を100μl添加し、37℃で1時間反応後に、再び洗浄バッファーで3回洗浄した。発色基質(TMB Microwell Peroxidase substrate System、Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc.)を100μl添加して暗所で反応後、1Mリン酸溶液で酵素反応を停止し、450nmにおける吸光度を測定した。その結果を表4に示した。吸光度が0.25より大きい場合を陽性とした場合、1640抗体および1656抗体はE型菌株に対して、特異的に結合することが確認された。
【0099】
【表4】

【0100】
− Whole cell ELISA(2) −
さらに様々な血清型菌株を加えて合計31菌株で抗E型LPS抗体1656(1.0μg/ml)についてwhole cell ELISAを実施した。その結果を表5に示した。クライテリアは、吸光度が0.25より小さい場合を-、0.25以上0.5より小さい場合を+、0.5以上0.75より小さい場合を++、0.75以上を+++とした場合、対照のヒト免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)は検討した31菌株に対して全く結合性を示さなかったのに対し、1656抗体はE型菌株に対してのみ+++および++で、その他の菌株に対しては全て-となり、E型菌株に対する特異性を示した。
【0101】
【表5】

【0102】
− Whole cell ELISA(3) −
明治製菓株式会社が保有する血清型E/O11型の多剤耐性緑膿菌(MDRP:Multi-drug resistant P. aeruginosa)9菌株に対する本発明による抗E型LPS抗体1656の結合性に関し、クライテリアを吸光度が0.25より小さい場合を-、0.25以上0.5より小さい場合を+、0.5以上0.75より小さい場合を++、0.75以上を+++とした場合、対照として設定したヒト免疫グロブリン製剤Venilon(帝人ファーマ、1.0μg/ml)は検討した9菌株に対して全く結合性を示さなかったのに対し、1656(1.0μg/ml)は、+が2、++が5、+++が2、となり、抗菌薬耐性の有無に関係なくMDRPに対しても強い結合性を示した。その結果を表6に示した。
【0103】
【表6】

【0104】
(4)交差反応性試験
抗E型LPS抗体1656(1μg/ml)の交差反応を見るために、グラム陰性菌およびグラム陽性の各種病原性細菌を用いて、上記(1)と同様の方法により、whole cell ELISAを実施した。その結果を表7に示した。抗E型LPS抗体1656は血清型E/O11型のATCC 29260菌株に特異的に強く結合したが、その他の菌種に対して交差反応性は認められなかった。
【0105】
【表7】

【0106】
(5)凝集活性
緑膿菌ATCC 29260菌株(血清型E/O11)用いて1656の凝集活性を測定した。本菌株をトリプチケースソイ寒天培地上にて一晩37℃で培養し、数個のコロニーをLB培地に懸濁後、一晩37℃で振とう培養し、PBSで洗浄、再懸濁した後、4%パラホルムアルデヒド含むリン酸緩衝液(和光純薬)を加え、30分以上不活化処理したものを使用した。不活化ATCC 29260菌株をタンパク濃度が2mg/mlとなるようにPBS(生理食塩を含むリン酸緩衝液)に懸濁し、同溶液で段階希釈した1656抗体(原液のIgG濃度:2.69mg/ml)と8μlずつ96ウェルの丸底プレート上で等量混合し、37℃で1時間以上もしくは室温で一晩以上放置し、菌体凝集を判定した。
【0107】
その結果、1656抗体の凝集価は64、すなわち64倍希釈まで凝集が認められ、凝集価/IgG量(μg)は190だった。一方、対照の免疫グロブリン製剤ベニロン(5.0mg/ml、帝人ファーマ)は、不活化菌株を全く凝集させなかった。
【0108】
(6)オプソニン活性
―試験1―
血清型E型緑膿菌ATCC 29260をLB培地で一晩培養後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、1mMのフルオレセイン-4-イソチオシアネート液(FITC)に懸濁して室温、1時間で標識した。クエン酸採血健常人血液50mlからモノポリ分離溶液(DSファーマバイオメディカル)を使用した密度勾配遠心法によりヒト多形核白血球(polymorphonuclear leukocyte、以下PMNと略す)を精製した。5×10細胞/mlに調整した。血清型E型特異抗体1656を20μlとFITC標識緑膿菌(30μl、5×10)を96穴丸底プレートに添加し37℃で15分インキュベーション後、補体として幼若ウサギ血清(10μl)とPMN(40μl、2×10細胞)を添加しさらに30分インキュベーションして貪食反応を行った。プレートを氷上に移して反応を停止させ、0.2%トリパンブルー含有PBS(100μl)で細胞表面に接着した菌の蛍光を消光させた後、0.5%パラホルムアルデヒドで細胞を固定した。フローサイトメーター(BECKMAN COULTER)を用いて、細胞の蛍光(Mean Fluorescence Intensity、以下MFIと略す)を測定した。オプソニン活性はFITC標識緑膿菌を取り込んだPMNの蛍光強度からPMNの自家蛍光による蛍光強度を差し引いた値として算出した。
【0109】
その結果、血清型E型菌株ATCC 29260に対して抗体無添加群のMFI値は0.32、抗E型LPS抗体1656添加群のMFI値は濃度依存的に上昇し、30μg/mlでのMFI値は122.87、EC50は0.11μg/mlであった。対照として免疫グロブリン製剤ベニロンの1000μg/mlのMFI値は97.77であった。
【0110】
以上から、抗E型LPS抗体1656は、臨床上出現頻度が高いE型の血清型の菌株に対して強いオプソニン活性を有していることが確かめられた。
【0111】
―試験2―
血清型E型緑膿菌ATCC 29260をMueller-Hinton培地で一晩培養後、3コロニーをピックアップしてLuria-Bertani培地に接種し、37°C、16時間振とう(180rpm)培養した。培養液を遠心分離(2,000×g、10分、室温)後、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)で一回洗浄し、1mMのフルオレセイン-4-イソチオシアネート液(FITC)に懸濁して室温、1時間で標識した。クエン酸採血健常人血液50mlからモノポリ分離溶液(DSファーマバイオメディカル)を使用した密度勾配遠心法によりヒト多形核白血球(polymorphonuclear leukocyte、以下PMNと略す)を精製し、5×10細胞/mlに調整した。抗E型LPS抗体1640を20μlとFITC標識緑膿菌(30μl、5×10)を96穴丸底プレートに添加し37℃で15分インキュベーション後、補体として幼若ウサギ血清(10μl)とPMN(40μl、2×10細胞)を添加しさらに30分インキュベーションして貪食反応を行った。プレートを氷上に移して反応を停止させ、0.2%トリパンブルー含有PBS(100μl)で細胞表面に接着した菌の蛍光を消光させた後、0.5%パラホルムアルデヒドで細胞を固定した。フローサイトメーター(BECKMAN COULTER)を用いて、細胞の蛍光(Mean Fluorescence Intensity、以下MFIと略す)を測定した。オプソニン活性はFITC標識緑膿菌を取り込んだPMNの蛍光強度からPMNの自家蛍光による蛍光強度を差し引いた値として算出した。
【0112】
その結果、血清型E型緑膿菌ATCC 29260に対して抗体無添加群のMFI値は0.44、1640抗体添加群のMFI値は濃度依存的に上昇し、30μg/mlでのMFI値は58.37、EC50は0.64μg/mlであった。対照として用いた免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の1000μg/mlのMFI値は27.07だった。
【0113】
以上から、抗E型LPS抗体1640は、血清型E型の緑膿菌に対して、オプソニン活性を有していることが確かめられた。
【0114】
(7)全身感染モデルにおける効果1
好中球減少マウスは、6週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=6)を用い、cyclophosphamide(Sigma-Aldrich)125mg/kgを、感染日をday0としてday-5、-2、0に合計3回腹腔内投与して末梢血液中の好中球を減少させて作製した。そのマウスに生理食塩液250μlに懸濁したATCC 29260菌株(血清型E/O11)の1.8×10cfu/マウス(約46 LD50)を腹腔内に接種して全身感染を惹起させた。直後に抗E型LPS抗体1640を200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の5、50、500、2500μg/マウス投与群の感染7日目の生存率は、0、16.7、33.3、66.7%で推定ED50は985.22μg/マウスであった。一方、抗E型LPS抗体1640の5、10、20、50、100および250μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ0、50、100、16.7、66.7および100%で、強い感染防御活性が認められ、推定ED50は23.06μg/マウスであった。
【0115】
(8)全身感染モデルにおける効果2
好中球減少マウスは、6週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=6)を用い、cyclophosphamide(Sigma-Aldrich)125mg/kgを、感染日をday0としてday-5、-2、0に合計3回腹腔内投与して末梢血液中の好中球を減少させて作製し、ATCC 29260菌株(血清型E/O11)の1.475×10cfu/マウス(約38 LD50)を腹腔内に接種して全身感染を惹起した。直後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の40、200、1000、5000μg/マウス投与群の感染7日目の生存率は、0、16.7、16.7、83.3%で推定ED50は1779.93μg/マウスであった。抗PcrV抗体M166の1.6、8、40、200、400μg/マウス投与群の感染7日目の生存率は、0、0、0、50、16.7%で推定ED50は714.91μg/マウス以上であった。一方、抗E型LPS抗体1656の0.32、1.6、8、40および200μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ0、50、50、66.7および66.7%で、強い感染防御活性が認められ、推定ED50は12.21μg/マウスであった。
【0116】
(9)全身感染モデルにおける効果3
好中球減少マウスは、6週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=6)にcyclophosphamide(以下、CYとする。Sigma-Aldrich)125mg/kgを、感染日をday0としてday-5、-2、0に合計3回腹腔内投与して末梢血中の好中球を減少させて作製した。このマウスに、生理食塩液250μlに懸濁したMSC06120菌株(血清型E/O11、MDRP)を1.575X104 cfu/マウス(>1260 LD50)で腹腔内に接種し、全身感染を惹起した。接種直後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の40、200、1000、5000μg/マウス投与群における感染7日目生存率は、それぞれ16.7、0、33.3、83.3%で、推定ED50は1498.38μg/マウスであった。抗PcrV抗体M166の1.6、8、40、200μg/マウス投与群における感染7日目生存率は、それぞれ0、0、0、16.7%で、推定ED50は257.71μg/マウスであった。一方、1656抗体の0.32、1.6、8、40μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ16.7、50、16.7、83.3%で、強い感染防御活性が認められ、推定ED50は8.05μg/マウスであった。
【0117】
(10)肺感染モデルにおける効果1
正常マウス急性肺感染モデルでの評価は、5週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=6)を用い、生理食塩液で懸濁したATCC 29260菌株(血清型E/O11)を2.64×10CFU/20μl/マウス(約13 LD50)でketamine/xylazine麻酔下、経鼻接種し、直後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、感染対照群は感染後2日目までに全例死亡し、陽性対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の100、500、2500μg/マウス投与群の感染7日目の生存率は、33.3、83.3、100%で推定ED50は163.53μg/マウスであった。抗PcrV抗体M166の0.16、0.8、4、20μg/マウス投与群の感染7日目の生存率は、0、0、16.7、83.3%で推定ED50は8.99μg/マウスであった。一方、抗E型LPS抗体1640の0.032、0.08、0.16、0.8、4および20μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ0、33.3、16.7、100、100および100%で、強い感染防御活性が認められ、推定ED50は0.19μg/マウスであった。また、抗E型LPS抗体1656の0.032、0.08、0.16、0.8、4、20μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ0、0、50、100、100および100%で、強い感染防御活性が認められ、ED50は0.16μg/マウスであった。
【0118】
(11)肺感染モデルにおける効果2
正常マウス急性肺感染モデルでの抗体の感染後投与による感染防御効果の評価は、5週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=12)を用い、ketamine/xylazine麻酔下で、生理食塩液で懸濁したATCC 29260菌株(血清型E/O11)を2.84 または4.49X 105
CFU/20μl/マウス(約14または22 LD50)で経鼻接種し、8時間後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の100、500、2500μg/マウス投与群における感染7日目生存率は、それぞれ0、25、33.3%で、推定ED50は4650.69μg/マウスであった。一方、1656抗体の0.16、0.8、4、20μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ8.3、58.3、83.3、100%で、推定ED50は0.80μg/マウスで、感染後投与によっても強い感染防御活性が認められた。
【0119】
肺の病理組織像を観察した結果、感染後24時間の感染コントロール群およびベニロン投与群では、肺胞、血管壁、気管支および細気管支への好中球浸潤、血管周囲の強い浮腫など出血性化膿性肺炎を呈したのに対し、1656抗体投与群では、気管支内、血管内に好中球浸潤は減少し肺炎が軽減された。またマクロファージの出現がみられ、早期に治癒過程に移行していることが確認された。一方、感染8日目には1656抗体投与群では肺炎は全く認められず治癒していた。
【0120】
(12)肺感染モデルにおける効果3
MDRPによる正常マウス急性肺感染モデルでの感染防御効果の評価は、5週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=6)を用い、ketamine/xylazine麻酔下で、生理食塩液で懸濁したMSC06120菌株(血清型E/O11、MDRP)を4.26X 106 CFU/20μl/マウス(約4.2 LD50)で経鼻接種し、直後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の40、200、1000、5000μg/マウス投与群における感染7日目生存率は、それぞれ0、0、0、33.3%で、推定ED50は>5000μg/マウス、抗PcrV抗体M166の1.6、8、40μg/マウス投与群における感染7日目生存率は、それぞれ0、0、16.7%で、推定ED50は>40μg/マウスであった。一方、1656抗体の0.32、1.6、8、40、200μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ0、16.7、66.7、83.3、100%で、強い感染防御活性が認められ、推定ED50は6.31μg/マウスであった。
【0121】
(13)肺感染モデルにおける効果4
MDRPによる正常マウス急性肺感染モデルでの抗体の感染後投与による感染防御効果の評価は、5週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=6または12)を用い、ketamine/xylazine麻酔下で、生理食塩液で懸濁したMSC06120菌株(血清型E/O11、MDRP)を2.90 または3.78X
106 CFU/20μl/マウス(約2.9または3.7 LD50)で経鼻接種し、8時間後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の40、200、1000、5000μg/マウス投与群における感染7日目生存率は、それぞれ0、8.3、25、0%で、推定ED50は>5000μg/マウス、抗PcrV抗体M166の1.6、8、40、200μg/マウス投与群における感染7日目生存率は、それぞれ0、0、8.3、0%で、推定ED50は>200μg/マウスであった。一方、1656抗体の1.6、8、40、200μg/マウス投与群の感染7日目生存率はそれぞれ25、8.3、58.3、58.3%で、推定ED50は70.22μg/マウスで、感染後投与によっても強い感染防御活性が認められた。
【0122】
(14)熱傷感染モデルにおける効果1
正常マウス熱傷感染モデルにおける感染防御効果の評価には、7週齢のC57BL/6J雄性マウス(日本チャールスリバー、n=8)を用いた。感染前日にisoflurane麻酔下で動物用電動剃毛機(ナショナル)および脱毛クリーム(カネボウ)にて背部を剃毛し、感染当日にketamine/xylazine麻酔下で87℃の湯に剃毛した背部(2X3cm)を8秒間接触させ、直ちに室温滅菌水に8秒間浸け生理食塩液0.5mLを腹腔に投与後、創部皮下に生理食塩液で懸濁したATCC 29260菌株(血清型E/O11)を0.86または1.0X 104
CFU/100μl/マウス(約81または94 LD50)を接種し感染を惹起した。直後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、感染14日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の40、200、1000、5000μg/マウス投与群における感染14日目生存率は、それぞれ37.5、87.5、87.5、87.5%で、推定ED50は37.825μg/マウス、抗PcrV抗体M166の0.8、4、20、100μg/マウス投与群における感染14日目生存率は、それぞれ12.5、50、37.5、50%で、推定ED50は63.30μg/マウスであった。一方、1656抗体の0.0064、0.032、0.16、0.8μg/マウス投与群の感染14日目生存率はそれぞれ37.5、50、100、87.5%で、強い感染防御活性が認められ、推定ED50は0.015μg/マウスであった。
【0123】
(15)熱傷感染モデルにおける効果2
正常マウス熱傷感染モデルにおける抗体の感染後投与による感染防御効果の評価には、7週齢のC57BL/6J雄性マウス(日本チャールスリバー、n=8〜10)を用いた。感染前日にisoflurane麻酔下で動物用電動剃毛機(ナショナル)および脱毛クリーム(カネボウ)にて背部を剃毛し、感染当日にketamine/xylazine麻酔下で87℃の湯に剃毛した背部(2X3cm)を8秒間接触させ、直ちに室温滅菌水に8秒間浸け生理食塩液0.5mLを腹腔に投与後、創部皮下に生理食塩液で懸濁したATCC 29260菌株(血清型E/O11)を1.23 または1.62X 104
CFU/100μl/マウス(約116または153 LD50)を接種し感染を惹起した。25時間後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、感染14日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、対照である免疫グロブリン製剤ベニロン(帝人ファーマ)の200、1000、5000μg/マウス投与群における感染14日目生存率は、それぞれ0、62.5、87.5%で、推定ED50は1059.51μg/マウス、抗PcrV抗体M166の4、20、100μg/マウス投与群における感染14日目生存率は、それぞれ12.5、12.5、22.2%で、推定ED50は>100μg/マウスであった。一方、1656抗体の0.16、0.8、4、20μg/マウス投与群の感染14日目生存率はそれぞれ33.3、66.7、88.9、88.9%で、推定ED50は0.35μg/マウスで、抗体の感染後投与によっても強い感染防御活性が認められた。
【0124】
[実施例3]
抗E型LPS抗体1656と広域反応性抗LPS抗体2459との組み合わせ
− 肺感染モデルにおける効果 −
抗E型LPS抗体1656と広域反応性抗LPS抗体2459(緑膿菌のリポ多糖のAバンドLPSを認識する抗体であって、少なくとも血清型A型、B型、C型、D型、E型、G型、H型、I型、M型、N型、O18、およびO19の緑膿菌の表面に実質的に結合する抗体;軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号:17〜19に、重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を配列番号:20〜22に、軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号:23に、重鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号:24に、軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号:29に、重鎖可変領域の塩基配列を配列番号:30に示す)との併用効果に関しては、正常マウス急性肺感染モデルでの評価を行った。すなわち、5週齢のBALB/c雄性マウス(日本チャールスリバー、n=6)を用い、生理食塩液で懸濁したATCC 29260菌株(血清型E/O11)を3.34×10CFU/20μl/マウス(約9 LD50)でketamine/xylazine麻酔下、経鼻接種し、直後にサンプルを200μl/マウスで尾静脈より投与し、7日後の生死で感染防御活性を判定した。その結果、感染コントロール群は感染後3日目までに全例死亡し、2459の0.2、0.4、0.8μg/マウス投与群の感染7日目生存率は0、16.7、0%で無効であった。抗E型LPS抗体1656の0.2μg/マウス投与群の感染7日目生存率は33.3%であった。一方、両者の併用群、すなわち2459の0.2、0.4、0.8μg/マウスと1656の0.2μg/マウスを併用投与したところ、感染7日目生存率は驚くべきことに66.7、83.3、100%と2459の投与量に依存して改善し、抗E型LPS抗体1656は広域反応性抗LPS抗体2459と併用することにより相乗効果が得られることが確認された。
【0125】
− SPR測定における効果 −
抗E型LPS抗体1656が広域反応性抗LPS抗体2459との併用効果を確認するため、1,2-dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DMPC)(Sigma、P7331)を基質リン脂質とし、実施例2で調製された緑膿菌株ATCC 29260由来のLPS E/O11を含有するリポソームを用いて表面プラズモン共鳴(SPR)測定を実施した。SPR測定は分子間相互作用をノンラベルでリアルタイムに解析できる手法として知られており、抗原―抗体反応の解析に広く用いられている。
【0126】
SPR測定機器としてProteOn XPR 36システム(BioRad)、センサーチップはProteOn GLMチップ(BioRad、176-5012)、移動相はPBSバッファー pH7.4(Sigma、D5652)を用いて測定を実施した。
PBSバッファーもしくはLPS E/O11を0.4mg/mlを含有するPBSバッファーでDMPCを10mMとなるように溶解し、5回の凍結融解操作の後にMini−Extruder(Anti Polar Lipids,Inc)を用いて100nmフィルターを21回通して均一にしたリポソームを作製した。
【0127】
リポソーム固定化に必要な疎水性を創出するため、Undecylamine(Sigma、94200)を1%となるようにDimethyl Sulfoxide(nacalai tesque、13445-74)に溶解し、ProteOn Acetate バッファー pH5.0(BioRad、176-2122)で20倍希釈後、ProteOnアミンカップリングキット(BioRad、176-2410)を用いてセンサーチップにUndecylamineを固定化した。Undecylamineを固定化したチップ上にさらに、リガンドとしてLPS E/O11を含有するリポソームおよびネガティブコントロールとしてLPS非含有リポソームを固定化した。アナライトとしては、2459抗体および実施例2で調製された1656抗体を使用し、移動相にて濃度を200nMに統一して測定に使用した。流速30μl/分、結合時間は2分に設定して2459抗体もしくは1656抗体をセンサーチップにインジェクトし、その後さらにインジェクトしたものと同様、もしくはもう一方の抗体を同様に追添加した。得られたセンサーグラムはLPS非含有リポソームへの吸着で得られた値、および移動相のみ(抗体0濃度)の値を差し引いたダブルリファレンスを実行し、LPS E/O11への特異的結合のみを用いて評価した。
【0128】
得られたセンサーグラムは図3となり、抗E型LPS抗体1656もしくは広域反応性抗LPS抗体2459が結合した後においても、それぞれもう一方の抗体が、単独のときと同様に結合する様子が観察された。
【0129】
以上の結果より、1656抗体は2459抗体と異なるエピトープを認識し、かつ同時に結合可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の抗体は、緑膿菌に対して優れた抗菌活性を有するため、緑膿菌感染症の治療または予防に用いることができる。本発明の抗体は、その組み合わせにより、広範な臨床分離株に対して強力な抗菌活性を示すポリクローナル製剤とすることができ、しかも、ヒト抗体であるため、安全性も高い。従って、本発明の抗体は、医療上極めて有用である。また、本発明のモノクローナル抗体は、緑膿菌感染症の診断や各種血清型緑膿菌の検出や選別などへの応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑膿菌のリポ多糖のBバンドLPSを認識する抗体であって、血清型E型の緑膿菌の表面に実質的に結合し、A型、B型、C型、D型、F型、G型、H型、I型、およびM型の緑膿菌の表面に実質的に結合しない抗体。
【請求項2】
血清型E型の緑膿菌に対してオプソニン活性を有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ATCC 29260で特定される緑膿菌に対するオプソニン活性のEC50が1μg/ml以下である、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
血清型E型の緑膿菌に対して凝集活性を有する、請求項1から3のいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
ATCC 29260で特定される緑膿菌に対するIgG量(μg)当たりの凝集価が100以上である、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
血清型E型の緑膿菌の全身感染に対して抗菌効果を有する、請求項1から5のいずれかに記載の抗体。
【請求項7】
ATCC 29260で特定される緑膿菌を全身感染させた好中球減少マウスモデルにおける抗菌効果のED50が、ベニロンと比較して30分の1以下である、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
血清型E型の緑膿菌の肺感染に対して抗菌効果を有する、請求項1から7のいずれかに記載の抗体。
【請求項9】
ATCC 29260で特定される緑膿菌を肺感染させたマウスモデルにおける抗菌効果が、下記群から選択される少なくとも一の特性を有する、請求項8に記載の抗体。
(a) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した直後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して500分の1以下である
(b) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した8時間後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して3000分の1以下である
【請求項10】
血清型E型の緑膿菌の熱傷感染に対して抗菌効果を有する、請求項1から9のいずれかに記載の抗体。
【請求項11】
ATCC 29260で特定される緑膿菌を熱傷感染させたマウスモデルにおける抗菌効果が、下記群から選択される少なくとも一の特性を有する、請求項10に記載の抗体。
(a) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した直後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して1500分の1以下である
(b) ATCC 29260で特定される緑膿菌をマウスに接種した25時間後に抗体を投与した際の、前記マウスにおける抗菌効果のED50がベニロンと比較して2000分の1以下である
【請求項12】
下記(a)または(b)のいずれかに記載の特徴を有する抗体。
(a)配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4から6に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する。
(b)配列番号:9から11に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12から14に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する。
【請求項13】
下記(a)または(b)に記載の特徴を有する抗体。
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する。
(b)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する。
【請求項14】
下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:9から11に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
【請求項15】
下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
【請求項16】
下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:4から6に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:12から14に記載のアミノ酸配列を含むか、またはこれらアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
【請求項17】
下記(a)または(b)に記載の特徴を有する、抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド。
(a)配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
(b)配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む。
【請求項18】
血清型E型の緑膿菌のリポ多糖のBバンドLPSにおける、下記(a)または(b)に記載の抗体のエピトープに結合する抗体。
(a)配列番号:7に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持する抗体。
(b)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する抗体。
【請求項19】
請求項1から18のいずれかに記載の抗体またはペプチドをコードするDNA。
【請求項20】
請求項1から13、18のいずれかに記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項21】
請求項1から13、18のいずれかに記載の抗体と、場合によっては1種以上の薬学的に許容される担体、および/または希釈剤とを含んでなる、緑膿菌に関連する疾患に用いられる医薬組成物。
【請求項22】
緑膿菌に関連する疾患が、緑膿菌感染に起因する全身感染疾患である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
緑膿菌に関連する疾患が、緑膿菌感染に起因する肺感染疾患である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
緑膿菌に関連する疾患が、緑膿菌感染に起因する熱傷感染疾患である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項25】
請求項1、12、13、および18のいずれかに記載の抗体を含んでなる緑膿菌を検出する診断用薬。
【請求項26】
請求項1、12、13、および18のいずれかに記載の抗体を含んでなる緑膿菌を検出するキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−520159(P2013−520159A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538101(P2012−538101)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【国際出願番号】PCT/JP2011/054223
【国際公開番号】WO2011/102551
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000006091)Meiji Seikaファルマ株式会社 (180)
【出願人】(505257682)シムフォゲン・アクティーゼルスカブ (24)
【氏名又は名称原語表記】SYMPHOGEN A/S
【Fターム(参考)】