説明

緑色植物粉末の製造方法

【課題】緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を調整する技術を提供することを課題とした。
【解決するための手段】水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加したpHを6.8以上8.0以下の液に、酸性物質を添加混合してpHを6.0以上6.8未満に調整し、噴霧乾燥することによって、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の緑色植物は、特有の色調や風味或いは有効成分などを生かして嗜好食品や健康食品の原料として用いられている。代表的なものとしては、茶、ケール、麦、キャベツなどである。中でも、抹茶や煎茶粉などの粉砕茶葉は、家庭では主に飲料用として、加工食品分野では製菓、乳製品などに風味付けや色づけを目的に利用されている。しかし、これらの緑色植物粉末粉砕茶葉は、光や温度の影響によって香味や色調あるいは成分が変化しやすく、また流動性が悪いために加工食品分野での計量や粉末混合等の操作性が悪い、水やお湯に対する分散性が悪いなどの問題がある。その為、様々な方法が工夫され提案、実施されてきた。
【0003】
特許文献1では、抹茶にサイクロデキストリンと水を加えて混練したのち混合物を噴霧乾燥することにより、保存性にすぐれ、変質や変色を防止する方法が提案されている。
【0004】
特許文献2では、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって、抹茶の退色および変色防止効果に優れた抹茶組成物が提案されている。
【0005】
特許文献3では、抗酸化剤を含む水溶液中で、茶葉(a)を粉砕抽出並びに微粒化して水中粉砕茶葉(A)を含む微粒化液に、茶葉(b)を粉砕乃至磨砕して得られた乾式粉砕茶葉(B)と、乾燥助剤とを加えて混合した後乾燥させることで、茶葉含有成分の変質を防ぎ、水に手軽に溶解させることができる分散茶を製造する方法が提案されている。
【0006】
特許文献4では、乾燥助剤を含む水性溶媒中に粉砕茶葉を分散させ、得られた茶葉分散液のpHを6.0〜7.2に調整した後に噴霧乾燥することにより、耐光性、保存性、流動性に優れた加工粉砕茶を製造する方法が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、ケールの乾燥粉末及びケールの搾汁液を一定割合で混合後、流動層によって造粒することで取扱いの優れた乾燥物を得る方法が紹介されている。
【特許文献1】特公平7−46969号公報
【特許文献2】特開2006−217856号公報
【特許文献3】特開2007−289115号公報
【特許文献4】特許第3627185号
【特許文献5】特開2008−72974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の、抹茶にサイクロデキストリンと水を加えて混練したのち混合物を噴霧乾燥する方法は、抹茶の香気成分はサイクロデキストリンに包接され安定化するが、抹茶自体は包接されない為、耐光性、保存性が劣るという問題点がある。
【0009】
また、先述の、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られた抹茶組成物は、抗酸化物質を含有するだけでは、抹茶の変色防止効果は十分ではないという問題点がある。
【0010】
また、先述の、抗酸化剤を含む水溶液中で、茶葉(a)を粉砕抽出並びに微粒化して水中粉砕茶葉(A)を含む微粒化液に、茶葉(b)を粉砕乃至磨砕して得られた乾式粉砕茶葉(B)と、乾燥助剤とを加えて混合した後乾燥させる方法は、水への分散性向上の効果は大きいが、耐光性、保存性改善効果は十分ではないという問題点がある。
【0011】
また、前述の、乾燥助剤を含む水性溶媒中に粉砕茶葉を分散させ、得られた茶葉分散液のpHを6.0〜7.2に調整した後に噴霧乾燥する方法は、耐光性、保存性、流動性および水への分散性向上の効果はみられるが、その効果は十分ではなく、更に耐光性及び保存性の改善が求められる。
【0012】
また、前述の流動層を利用したケール乾燥物の調製方法により調製された造粒品は取扱の便宜性は増すが、流動層において、半乾燥物が比較的長時間温風に晒されることによって、成分が酸化作用を受けやすく、風味や栄養成分の劣化の恐れがある。
【0013】
そこで、本発明者は、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を調整する技術を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を製造する技術を提供することを目的として鋭意検討を行った結果、粉末化前にpH調整を行うことで課題を解決できることを知るに至り、さらに最適条件を求めた結果として、本課題を解決するための具体的な手段の各態様として以下の通り提供した。
【0015】
まず、水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加したpHを6.8以上8.0以下の液に、酸性物質を添加混合してpHを6.0以上6.8未満に調整し、噴霧乾燥することによって、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を製造する技術を本課題を解決するための手段の第1の態様とした。
【0016】
さらに、前記第1の態様において、水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加した液に、ナトリウム又はカリウム又はカルシウム又はマグネシウムの、重炭酸塩又は炭酸塩又はクエン酸塩又は酢酸塩又は乳酸塩又は水酸化化合物から成る群の中の1種以上の物質を含むアルカリ性物質を添加してpH6.8以上8.0以下に調整することによっても、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を製造する技術を本課題を解決するための手段の第2の態様とした。
【0017】
さらに又、前記第1の態様において、酸性物質がアスコルビン酸であることによっても、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を製造する技術を本課題を解決するための手段の第3の態様とした。
【0018】
さらに又、前記第1乃至3のいずれかの態様において、緑色植物粉砕物が、緑茶粉砕物であることによっても、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を製造する技術を本課題を解決するための手段の第4の態様とした。
【0019】
さらに又、前記第1乃至4のいずれかの態様において、噴霧乾燥前に、粉末化基材を添加することによっても、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を製造する技術を本課題を解決するための手段の第5の態様とした。
【0020】
さらに又、前記第1乃至5のいずれかの態様において製造された緑色植物粉末も本発明の1つとして本課題を解決するための手段の第6の態様とした。
【0021】
そして最後に、前記第6の態様において製造された緑色植物粉末を含有する食品又は飲料を本発明の1つとして本課題を解決するための手段の第7の態様とすることによって本課題を具体的に解決する手段を提供し本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0022】
本発明者が、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性のよい緑色植物粉末を製造する技術を提供することを目的として鋭意検討を行い、課題を解決するために提供した各手段によりもたらされた効果は次の通りである。
【0023】
本発明において、水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加したpH6.8以上8.0以下の液に、酸性物質を添加混合してpHを6.0以上6.8未満に調整し、噴霧乾燥することにより、緑色が濃く、耐光性、保存性が改善されるという効果がもたらされる。pHを6.8以上にすることで葉緑素が安定化され緑色が濃くなるとともに、製造工程中の退色が抑制されるという効果がもたらされる。さらに、pHを6.0以上6.8未満に調整した後、噴霧乾燥することで粉末化後の耐光性、保存性が改善されるという効果がもたらされる。
【0024】
或いは、本発明において、水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加した液に、ナトリウム又はカリウム又はカルシウム又はマグネシウムの、重炭酸塩又は炭酸塩又はクエン酸塩又は酢酸塩又は乳酸塩又は水酸化化合物から成る群の中の1種以上の物質を含むアルカリ性物質を添加してpH6.8以上8.0以下に調整することによっても、緑色が濃く、耐光性、保存性が改善されるという効果ももたらされる。
【0025】
或いは又、本発明において、酸性物質がアスコルビン酸であることによって、アスコルビン酸により葉緑素が安定化するという効果ももたらされる。
【0026】
或いは又、本発明において、緑色植物粉砕物が緑茶粉砕物であることによって、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性が改善された、飲料、加工食品、製菓などでの取り扱いのよい緑色植物粉末が得られるという効果ももたらされる。
【0027】
或いは又、本発明において、噴霧乾燥前に、粉末化基材を添加することによっても、緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性が改善された緑色植物粉末を提供するという効果ももたらされる。
【0028】
或いは又、本発明により得られた緑色植物粉末を提供することにより、幅広い用途に使用可能な緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性が改善された緑色植物粉末を提供するという効果も達成された。
【0029】
そして最後に、本発明により得られた緑色植物粉末を含有する食品又は飲料を提供することにより、緑色が濃く、耐光性、保存性に優れた緑色植物粉末含有食品又は飲料を提供するという効果も達成された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本説明は本発明を具体的に説明し、発明の内容の的確な理解に資するという趣旨に基づいて行うものであり、本説明の記述内容は本発明の一例に過ぎず、かつ本説明により本発明の範囲を限定する趣旨でもない。
【0031】
まず、本発明の緑色植物とは、葉緑素をもち光合成を行う藻類、コケ類、種子植物、裸子植物及びその加工品などが挙げられる。緑色植物粉末とは、100μ以下のサイズの緑色植物及びその加工品のことを指し、藻類及びその加工品などは原態のままのサイズで使用できるし、コケ類、種子植物、裸子植物及びその加工品などは、原料に適した方法で粉砕する。粉砕の方法は特に限定するものではなく、石臼、ボールミル、ジェットミルなど公知の方法で行えばよい。
【0032】
緑茶粉砕物とは、緑茶葉を石臼あるいはボールミル、ジェットミルなどの粉砕機により粉砕したものであり、特に限定するものではないが、1〜15μのサイズが好ましい。本発明で使用できる緑茶葉とは特に限定するものではないが、例えば、煎茶、玉露、碾茶(碾茶を粉砕したものを抹茶という)、かぶせ茶などである。これらの茶葉は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
水性溶媒としては、単なる水道水、脱イオン水、蒸留水でもよく、これらに糖類、ゼラチン、カゼイン、植物蛋白質、アラビアガム、乳化剤、アルコール類、アスコルビン酸などの抗酸化剤などを、適宜添加したものでもよい。水温は特に限定するものではないが、好ましくは1℃以上30℃以下、更に好ましくは1℃以上20℃以下の範囲である。この範囲であれば、分散工程中における緑色植物粉砕物の風味劣化や退色の度合いが小さくなる。
【0034】
水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加したpHを6.8以上8.0以下の液に、酸性物質を添加混合してpHを6.0以上6.8未満に調整することで、緑色が濃く、耐光性、保存性が改善される。緑色植物粉砕物を添加した後のpHが6.8未満では緑色が薄く、8.0を超えると色調が黒っぽく変化するとともに風味も変化する。酸性物質を添加混合した後、つまり、噴霧乾燥前のpHが6.0未満では得られる緑色植物粉末の緑色が薄く、保存時の色調変化も大きかった。噴霧乾燥前のpHが6.8を超えると得られる緑色植物粉末の色調が黒っぽくなるとともに、アルカリ臭が生じ好ましくない。
【0035】
アルカリ性物質としては、特に限定するものではないが、好ましくは、ナトリウム又はカリウム又はカルシウム又はマグネシウムの、重炭酸塩又は炭酸塩又はクエン酸塩又は酢酸塩又は乳酸塩又は水酸化化合物から成る群の中の1種以上の物質である。
【0036】
酸性物質としては、特に限定するものではないが、アスコルビン酸であることが好ましい。
【0037】
粉末化基材としては、澱粉、加工澱粉、デキストリン、環状デキストリン、還元水飴、水飴、難消化性デキストリン、トレハロースなど周知の粉末化基材を使用することができる。粉末化基材は単独で使用してもよいし、2種以上の粉末化基材を使用してもよい。粉末化基材を用いることで、得られる緑色植物粉末の流動性および水やお湯に対する分散性が改善される。粉末化基材は、水性溶媒に予め添加しておいてもよいし、緑色植物粉砕物を添加した後に添加してもよい。
【0038】
噴霧乾燥工程は特に限定するものではないが、茶葉分散液中に炭酸ガスを0.005以上2.5%(W/W)以下の範囲で溶解することにより、流動性および水やお湯に対する分散性が更に改善される。
【0039】
本発明において製造された緑色植物粉末を含有する食品又は飲料は特に限定するものではないが、キャンディー、グミ、ゼリー、ババロア、ムース、羊羹、クッキー、ケーキ、スナック菓子などの菓子類、ヨーグルト、アイスクリームなどの乳製品、調味料類、スープ類、茶飲料、発酵飲料、健康飲料、酒類などが例示できる。また、茶エキス類、粉末スープ類、ホットケーキミックスなどのプレミックス類などの粉末食品に使用することにより、本発明において製造された緑色植物粉末の有する緑色が濃く、耐光性、保存性、流動性および水やお湯に対する分散性がよいという特徴が顕著にみられる。
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
【0040】
デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)300gを15℃の冷水1000gに溶解後、炭酸水素ナトリウム9.8gと抹茶200gを添加混合して、pHを7.0に調整した。その後、アスコルビン酸10.6gを添加混合してpHを6.6に調整し、噴霧乾燥を行い、抹茶粉末を得た。
[比較例1]
【0041】
デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)300gを15℃の冷水1000gに溶解後、炭酸水素ナトリウム9.8gと抹茶200gを添加混合して、pHを7.0に調整し、噴霧乾燥を行い、抹茶粉末を得た。
[比較例2]
【0042】
デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)300gを15℃の冷水1000gに溶解後、炭酸水素ナトリウム3.0gと抹茶200gを添加混合して、pHを6.6に調整し、噴霧乾燥を行い、抹茶粉末を得た。
【0043】
【表1】


【0044】
得られた抹茶粉末の色調、風味、耐光性及び保存性を評価した(表1参照)。pHを7.0に調整した後、pHを6.6に下げて噴霧乾燥した実施例1は、原料抹茶より緑色が濃く、耐光性、保存性も優れていた。pHを7.0に調整した後噴霧乾燥した比較例1は、暗緑色となり原料抹茶より色調が劣っており、風味変質もみられた。pHを6.6に調整した後噴霧乾燥した比較例2は、実施例1より色調が薄く、耐光性、保存性がやや劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加したpH6.8以上8.0以下の液に、酸性物質を添加混合してpHを6.0以上6.8未満に調整し、噴霧乾燥することを特徴とする緑色植物粉末の製造方法
【請求項2】
水性溶媒中に緑色植物粉砕物を添加した液に、ナトリウム又はカリウム又はカルシウム又はマグネシウムの、重炭酸塩又は炭酸塩又はクエン酸塩又は酢酸塩又は乳酸塩又は水酸化化合物から成る群の中の1種以上の物質を含むアルカリ性物質を添加してpH6.8以上8.0以下に調整することを特徴とする請求項1記載の緑色植物粉末の製造方法
【請求項3】
酸性物質がアスコルビン酸であることを特徴とする請求項1記載の緑色植物粉末の製造方法
【請求項4】
緑色植物粉砕物が、緑茶粉砕物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法
【請求項5】
噴霧乾燥前に、粉末化基材を添加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法によって製造された緑色植物粉末
【請求項7】
請求項6記載の緑色植物粉末を含有する食品又は飲料

【公開番号】特開2010−29170(P2010−29170A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215966(P2008−215966)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(596076698)佐藤食品工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】