説明

緑色野菜の加工方法

【課題】 ブランチング後の緑色野菜の緑色を維持し、かつ保存性も良好な緑色野菜を得るための加工方法を提供する。
【解決手段】 緑色野菜を酢酸ナトリウム、アミノ酸および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、pHが6.0〜7.0の水溶液中でブランチングする第一工程、
次いで、酢酸ナトリウムおよび糖類を含有し、さらに有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有する、pHが4.5〜6.5の水溶液中に浸漬する第二工程を含む緑色野菜の加工方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色野菜の変色や退色を防止し、且つ保存性にも優れた緑色野菜の加工方法に関する。本発明はまた、本発明の加工方法に好適に用いられる緑色野菜加工用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリーンピースや絹さやなどの緑色野菜は、具材や付け合せ等の目的で様々な加工食品に用いられている。加工に際して、野菜に含有される酵素の働きに起因する変質、例えば退色、変色、異臭発生などを防止するため、野菜を熱湯または蒸気で短時間加熱、酵素を失活させるブランチング処理が通常行われている。ここで緑色野菜の緑色は組織中に含まれるクロロフィルによるものであるが、クロロフィルは熱や酸に弱い。従って、従来から加工食品に用いられてきた緑色野菜はブランチングによってその緑色が退色し、鮮やかさが失われ、褐色に変色するなど価値が著しく低下したものが多かった。
【0003】
また加熱調理後の緑色野菜は保存性が悪く、弁当などの加工食品に用いるには不向きであるため、保存性を向上させるために酸性薬剤への浸漬等により処理することが多かった。しかしながら、従来の酸性薬剤で処理すると保存性は改善されるものの緑色野菜中のクロロフィルが酸によりフェオフィチンやフェオホルバイドといった褐色成分に変化するため、緑色の退色がより一層顕著なものとなっていた。
【0004】
このような緑色野菜の変色や退色を防止する手段として、特許文献1が提案されている。特許文献1に記載の方法は、緑色野菜に凍結・解凍等の前処理をした後、アルカリ性溶液に浸漬し、その後多価陽イオンを含む溶液に浸漬する方法である。しかしながら該方法は前処理後アルカリ性溶液に浸漬するものであり、食味上好ましくない風味が付く、処理後の緑色野菜の保存性が悪い、などの問題点があった。また、特許文献1では緑色野菜の組織の軟化が無いとしているが、その効果は必ずしも十分とは言えないものであった。
【0005】
また別の手段として特許文献2が提案されている。特許文献2に記載の方法は、緑黄色野菜に塩基性アミノ酸及びそれを主成分とするオリゴペプチドの少なくとも1種の化合物を添加し、加熱処理する方法である。しかしながら、該方法は処理後の緑色野菜の保存性が悪いという問題点を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開2000−004821号
【特許文献2】特開2003−210130号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ブランチング後の緑色野菜の緑色を維持し、かつ保存性も良好な緑色野菜を得るための加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ブランチング工程およびその後の浸漬工程をそれぞれ特定組成の酸性水溶液中で処理することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、緑色野菜を酢酸ナトリウム、アミノ酸および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、pHが6.0〜7.0の水溶液中でブランチングする第一工程、
次いで、酢酸ナトリウムおよび糖類を含有し、さらに有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有する、pHが4.5〜6.5の水溶液中に浸漬する第二工程を含む緑色野菜の加工方法に関する。
【0010】
本発明はまた、酢酸ナトリウム、アミノ酸および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、水へ溶解乃至希釈することによりpH6.0〜7.0の溶液を提供する第一組成物、および
酢酸ナトリウムおよび糖類を含有し、さらに有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、水へ溶解乃至希釈することによりpH4.5〜6.5の溶液を提供する第二組成物
を別個の容器に格納して含有する、緑色野菜加工用組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の緑色野菜の加工方法によれば、ブランチング後も鮮やかな緑色が失われず、且つ保存性も良好な加工食品に適した緑色野菜を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一工程は、酢酸ナトリウム、アミノ酸および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、pHが6.5〜7.0の水溶液中で緑色野菜のブランチングを行う工程である。
第一工程において使用するアミノ酸としてはグリシン、アラニン、グルタミン酸が挙げられるが、その中でもグリシンおよび/またはアラニンが調味の点で好ましい。
【0013】
第一工程で使用する酢酸ナトリウム以外の有機酸塩としては、食品に使用可能なものであれば特に限定されないが、フマル酸、クエン酸、乳酸およびグルコン酸のナトリウム塩またはカルシウム塩が好適に用いられる。これらの中でもフマル酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよび乳酸カルシウムが処理済み野菜の保存性向上の点で特に好ましい。またこれら有機酸塩は2種以上を併用してもよい。
【0014】
第一工程で用いる水溶液には上記成分以外に所望により、食塩、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウム等の成分を含有させてもよい。
【0015】
上記第一工程で用いる水溶液は、水100重量部に対して酢酸ナトリウムを好ましくは1〜5重量部、より好ましくは2〜3重量部、アミノ酸を好ましくは0.5〜3重量部、より好ましくは1〜1.5重量部および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を好ましくは0.5〜2重量部、より好ましくは1〜1.5重量部溶解して調製する。
【0016】
食塩、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウム等の成分を含有させる場合、水100重量部に対する各成分の量は限定的ではないが、食塩の配合量は好適には0.5〜2重量部、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムの配合量は好適には0.05〜0.25重量部である。
【0017】
水溶液のpHは6.0〜7.0の範囲となるように調製する。特にpH6.3〜6.7の範囲に調製するのが処理後の緑色野菜の色調と保存性のバランスが良く好ましい。pHが6.0未満では緑色の退色が顕著となり、7.0を超えると緑色野菜の組織が軟化し保存性が悪化するため好ましくない。
【0018】
第一工程の緑色野菜のブランチングは、上記に従って調製した第一工程用水溶液を90〜105℃に加温し、加温した水溶液中に野菜を投入することによって行えばよい。
【0019】
ブランチング処理条件は緑色野菜のブランチング処理において知られている条件に準じればよい。ブランチング時間は水溶液の温度や緑色野菜の種類によっても異なるが、野菜投入後、水溶液の温度が90℃以上となった時点より0.5〜10分間が好ましく、より好ましくは1〜3分間である。
【0020】
第一工程の水溶液の液量としては、処理する野菜に水溶液が十分にいき渡る量であれば特に限定されない。目安としては野菜重量の1.5〜3倍量程度である。水溶液の液量が少ない場合には、処理対象野菜に水溶液が十分に行き渡らない可能性がある。一方、液量が多くとも処理上問題となることはないが、水溶液の調製、加熱等により多くの成分およびエネルギーが必要となる。
【0021】
第一工程終了後、水溶液から取り出した野菜を液切りし、第二工程へ供する。第二工程に供する前に冷却することは必須ではないが、一旦冷却後に第二工程へ供した方が緑色保持の点で好ましい。
【0022】
次いで行う第二工程は、第一工程にて処理した後の緑色野菜を、酢酸ナトリウム、糖類に加え、有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、pHが4.5〜6.5の水溶液中に浸漬する工程である。
【0023】
第二工程において使用する糖類としては、マルチトール、ソルビトール、還元水あめ等の糖アルコール、ショ糖、ブドウ糖、水あめ等の糖類が挙げられる。これらの中でもマルチトール、ソルビトールおよび還元水あめ等の糖アルコールが緑色野菜への浸透性および褐変を生じない点で好ましい。これら糖類は2種以上を併用してもよい。
ここで「水あめ」とは澱粉を糖化したもの、「還元水あめ」は「水あめ」に水素添加したものであり、市販のものいずれも好適に用いられる。
【0024】
第二工程で使用する有機酸としては、フィチン酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸等が挙げられ、その中でもフィチン酸またはクエン酸が緑色保持の点で好ましい。
【0025】
第二工程で使用する酢酸ナトリウム以外の有機酸塩としては、乳酸、フマル酸、クエン酸、グルコン酸等のナトリウム塩、カルシウム塩が挙げられる。その中でも乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびグルコン酸ナトリウムが緑色保持の点で好ましい。
【0026】
また第二工程の水溶液は、無機酸および/または無機酸塩を含有してもよい。無機酸としては、リン酸が好ましく採用される。無機酸塩としてはリン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、ピロリン酸2水素2ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムおよびピロリン酸4ナトリウムが挙げられる。その中でもメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが緑色保持の点で好ましい。
【0027】
第二工程で用いる水溶液には上記成分以外に所望により食塩、アミノ酸等の成分を含有させてもよい。アミノ酸としては、グリシン、アラニンおよびグルタミン酸が好適に用いられる。
【0028】
上記第二工程で用いる水溶液は、水100重量部に対して酢酸ナトリウムを好ましくは0.5〜5.0量部、より好ましくは1.0〜1.5重量部、糖類を好ましくは0.1〜3.0重量部、より好ましくは0.2〜1.0重量部、有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を好ましくは0.1〜3.0重量部、より好ましくは0.2〜1.0重量部溶解して調製する。
【0029】
第二工程で用いる水溶液はpHが4.5〜6.5の範囲となるように調製すればよく、特にpH5.0〜6.0の範囲に調製するのが好ましい。pHの調節は、配合される物質の量比を調節することによって達成可能である。水溶液のpHが4.5未満では退色が顕著となるため好ましくなく、6.5を超えると保存性が低下するため好ましくない。
【0030】
無機酸および/または無機酸塩を含有させる場合には、その配合量は水100重量部に対して0.2〜1.0重量部とするのが好ましい。
【0031】
また、食塩を配合する場合には、その配合量は好適には水100重量部に対し0.2〜1.0重量部とする。アミノ酸を配合する場合には、その配合量は水100重量部に対し0.2〜1.0重量部とするのが好ましい。
【0032】
第二工程は上記条件に従って調製した水溶液に、第一工程処理後の野菜を浸漬すればよい。第二工程の浸漬時間は10〜120分間が好ましく、より好ましくは30〜90分間である。浸漬時の水溶液の温度は0〜30℃、好ましくは5〜15℃である。また、浸漬時の水溶液の液量は処理する野菜が浸かる量であれば特に限定されず、目安としては野菜重量の1〜2倍量程度である。
【0033】
本発明の加工方法により処理可能な緑色野菜としては特に限定されず、クロロフィルを含有している野菜であればよい。具体的に、これらには限定されないが、さやえんどう(グリーンピース)、絹さや、ほうれんそう、ブロッコリ、キャベツ、ピーマン、アスパラガス、枝豆、さやいんげん、小松菜、チンゲンサイ等が例示される。
【0034】
処理される緑色野菜は、収穫後、洗浄のみ行った生のものでも、一旦冷凍した後に解凍されたものであってもよい。また、野菜は適当な大きさにカットされたものであっても、そのままの形状のものであってもよい。
【0035】
本発明はさらに、本発明の第一工程および第二工程に用いられる水溶液を提供するための組成物を提供する。即ち本発明は、酢酸ナトリウム、アミノ酸および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、水へ溶解乃至希釈することによりpH6.0〜7.0の溶液を提供する第一組成物、および、酢酸ナトリウムおよび糖類を含有し、さらに有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、水へ溶解乃至希釈することによりpH4.5〜6.5の溶液を提供する第二組成物を別個の容器に格納して含有する、緑色野菜加工用組成物を提供する。
【0036】
第一組成物および第二組成物の組成は、水に溶解乃至希釈した際に、上に説明した第一工程用水溶液および第二工程用水溶液が提供されるものとする。第一組成物および第二組成物は、水に溶かして水溶液を得るための粉状、顆粒状、タブレットとして提供されても、各成分の原液もしくは高濃度溶液を混合した液体状のものとして提供されてもよい。
【0037】
各組成物を収容する容器としては、組成物の態様にあわせ、従来公知の容器から適宜選択すればよい。以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0038】
実施例1および比較例1〜3
表1に示す処方のブランチング用水溶液(第一工程用)および表2に示す処方の浸漬用水溶液(第二工程用)をそれぞれ調製した。尚、浸漬用水溶液は実施例および比較例ともに共通の組成のものを使用した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
外観観察
方法:表1に示すブランチング用水溶液を沸騰させ、そこに冷凍グリーンピース80gを投入した。1分30秒間ブランチングした後、液切りし、表2に示す浸漬用水溶液に、15℃の冷蔵庫内で1時間浸漬した後、液切りし、外観を対照と比較した。
【0042】
評価基準−
○:対照と同等
×:対照より劣る
【0043】
結果:本発明の加工方法で処理したグリーンピースは対照と同等の鮮やかな緑色が維持されていた。外観観察の結果を表3に示す。
【0044】
保存性試験
方法:上記外観観察試験で得られた処理済のグリーンピース10gを無菌袋に入れ、25℃の恒温器内で保存し、40時間後の菌数を測定した。
【0045】
評価基準−
○:<1.0×10
△:1.0×10〜1.0×10
×:≧1.0×10
【0046】
結果:本発明の加工方法で処理したグリーンピースは40時間保存後も菌数が少なく、保存性に優れていた。保存性試験の結果を表3に示す。
【0047】
【表3】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑色野菜を酢酸ナトリウム、アミノ酸および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、pHが6.0〜7.0の水溶液中でブランチングする第一工程、
次いで、酢酸ナトリウムおよび糖類を含有し、さらに有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有する、pHが4.5〜6.5の水溶液中に浸漬する第二工程を含む緑色野菜の加工方法。
【請求項2】
アミノ酸がグリシンおよび/またはアラニンである請求項1記載の加工方法。
【請求項3】
第一工程で使用する酢酸ナトリウム以外の有機酸塩が、フマル酸、クエン酸、乳酸およびグルコン酸のナトリウム塩またはカルシウム塩から選択される1種以上である請求項1または2記載の加工方法。
【請求項4】
第一工程のブランチング時間が、0.5〜10分間である請求項1〜3いずれかに記載の加工方法。
【請求項5】
第二工程で使用する糖類がマルチトール、ソルビトールおよび還元水あめから選択される1種以上である請求項1〜4いずれかに記載の加工方法。
【請求項6】
第二工程で使用する有機酸がフィチン酸、クエン酸、乳酸およびグルコン酸から選択される1種以上である請求項1〜5いずれかに記載の加工方法。
【請求項7】
第二工程で使用する酢酸ナトリウム以外の有機酸塩が乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびグルコン酸ナトリウムから選択される1種以上である請求項1〜6いずれかに記載の加工方法。
【請求項8】
第二工程の浸漬時間が、10〜120分間である請求項1〜7いずれかに記載の加工方法。
【請求項9】
酢酸ナトリウム、アミノ酸および酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、水へ溶解乃至希釈することによりpH6.0〜7.0の溶液を提供する第一組成物、および
酢酸ナトリウムおよび糖類を含有し、さらに有機酸および/または酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、水へ溶解乃至希釈することによりpH4.5〜6.5の溶液を提供する第二組成物
を別個の容器に格納して含有する、緑色野菜加工用組成物。
【請求項10】
アミノ酸がグリシンおよび/またはアラニンである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
第一組成物に含まれる酢酸ナトリウム以外の有機酸塩が、フマル酸、クエン酸、乳酸およびグルコン酸のナトリウムまたはカルシウム塩から選択される1種以上である、請求項9または10記載の組成物。
【請求項12】
第二組成物に含まれる糖類が、マルチトール、ソルビトールおよび還元水あめから選択される1種以上である、請求項9〜11いずれかに記載の組成物。
【請求項13】
第二組成物に含まれる有機酸が、フィチン酸、クエン酸、乳酸およびグルコン酸から選択される1種以上である請求項9〜12ずれかに記載の組成物。
【請求項14】
第二組成物に含まれる酢酸ナトリウム以外の有機酸塩が乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびグルコン酸ナトリウムから選択される1種以上である、請求項9〜13いずれかに記載の組成物。

【公開番号】特開2006−158293(P2006−158293A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354248(P2004−354248)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000146423)株式会社上野製薬応用研究所 (30)
【Fターム(参考)】