緑青防止剤及び緑青防止方法
【課題】ヒドラジンを含まず、作業上の取扱い性が向上した緑青防止剤及び緑青防止方法を提供する。
【解決手段】カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法。該緑青防止剤によれば、例えば、銅母材へのダメージを抑制しつつ、緑青を除去することができる。該緑青防止剤によれば、例えば、除去された緑青の付着を抑制できるという効果を奏しうる。さらに、カルボヒドラジドはPRTRの対象物質ではないため、該緑青防止剤は安全度が高く、作業上の取扱い性を向上できる。
【解決手段】カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法。該緑青防止剤によれば、例えば、銅母材へのダメージを抑制しつつ、緑青を除去することができる。該緑青防止剤によれば、例えば、除去された緑青の付着を抑制できるという効果を奏しうる。さらに、カルボヒドラジドはPRTRの対象物質ではないため、該緑青防止剤は安全度が高く、作業上の取扱い性を向上できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅基材の緑青防止剤及び緑青防止方法に関する。さらに詳しくは、空調機、冷凍機等の熱交換器や配管等の水に接する銅製機器をはじめとする、銅製物品や銅合金製物品(部材を含む)に発生した緑青を除去するための緑青防止剤及び緑青防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラ水系などの各種工業水系には、熱交換器等といった系内に銅基材を有する機器を備える。これらの機器は水と接触するため、長期間使用すると孔食等の腐食が生じうる。腐食は時間の経過とともに進行し、装置に重大な欠陥を与えるとともに安全運転を阻害する要因となる。特に、DHC(地域熱供給;District Heating & Cooling)の冷凍機などでは熱交換器に銅配管が使用されおり、この銅配管の腐食(緑青)が大きな問題となっている。
【0003】
この問題を解決するために、従来、ヒドラジンと銅用防食剤とを併用した薬剤処理を定期的に実施することによって、銅基材表面に生成する酸化銅を含む腐食生成物を除去し、銅管の腐食を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1)。また、開放点検時等で銅管に緑青が見つかった場合であっても、ヒドラジンと銅用防食剤とを併用することによって緑青を改質処理し、腐食の進行を抑制し、孔食の発生を抑制できることが知られている。
【0004】
しかしながら、ヒドラジンには発ガン性等といった安全性の疑いがあり、また、PRTR(環境汚染物質排出移動登録)の対象物質であること等から、ヒドラジンの使用を避けたいとの要望が近年強くなっている。このため、ヒドラジンを使用せず、より安全度の高い緑青防止剤や緑青防止方法が求められている。
【0005】
上記問題を解決するために、チオグリコール酸又はその塩とアゾール系銅防食剤とを用いた孔食抑制剤及び孔食抑制方法が提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、チオグリコール酸は、硫化水素が発生する可能性や独特の臭気を有することから、作業上の取扱いの点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−272392号公報
【特許文献2】特開2008−248303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、ヒドラジンを含まず、作業上の取扱い性が向上した緑青防止剤及び緑青防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤に関する。
【0009】
本発明は、その他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒドラジンを含まず、作業上の取扱い性が向上した緑青防止剤又は緑青防止方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤によれば、例えば、空調機や冷凍機等における熱交換器や配管等といった水に接する銅製機器をはじめとする銅製物品及び銅合金製物品(部材を含む)に発生した緑青を除去でき、該緑青の除去を健康上又は作業上において安全に行うことができるという知見に基づく。さらに、本発明は、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤によれば、除去した緑青の再付着を長期的に防止でき、また、銅母材の変色を長期間抑制できるという知見に基づく。
【0012】
カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を併用することによって上記効果が得られる理由は定かではないが、アゾール系銅防食剤が銅表面に選択的に反応することによって、カルボヒドラジドの緑青除去、緑青発生抑制等の効果を向上させているものと考えられる。但し、これらは推定であって、本発明はこれらメカニズムに限定されない。なお、アゾール系銅防食剤を含む溶液を緑青が発生した銅製機器に接触させた場合、アゾール系銅防食剤の濃度が減少し、その結果、十分に銅の腐食を防止できないことが知られているが、本発明者らは、アゾール系銅防食剤をカルボヒドラジドと組み合わせて使用することによって、アゾール系銅防食剤の濃度減少が抑制されることを見いだした。したがって、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む本発明の緑青防止剤によれば、上記の緑青防止効果に加えて、効果的に銅の腐食を抑制できるとともに、長期的に銅の腐食を抑制できるという効果を奏しうると考えられる。
【0013】
本明細書において「緑青防止」とは、例えば、熱交換器や配管等の銅基材に付着している緑青の除去、除去した緑青の付着抑制(二次腐食)及び緑青の発生抑制を含み、好ましくは銅基材(銅母材)表面の損傷が抑制された緑青の除去、長期的な緑青の付着及び/又は発生の抑制を含みうる。
【0014】
[緑青防止剤]
すなわち、本発明は、一つの態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤に関する。本発明の緑青防止剤によれば、例えば、銅母材へのダメージを抑制しつつ、緑青を除去することができる。本発明の緑青防止剤によれば、例えば、除去された緑青の付着を抑制できるという効果を奏しうる。さらに、カルボヒドラジドはPRTRの対象物質ではないため、本発明の緑青防止剤は安全度が高く、作業上の取扱い性を向上できる。
【0015】
アゾール系銅防食剤は、銅防食剤として使用される公知のアゾール化合物が使用できる。アゾール系銅防食剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、アミノトリアゾール等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0016】
カルボヒドラジドに対するアゾール系銅防食剤の重量比(アゾール系銅防食剤/カルボヒドラジド)は、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、0.0025〜5が好ましく、より好ましくは0.0025〜1、さらに好ましくは0.0025〜0.5である。
【0017】
本発明の緑青防止剤は、濃縮液として製造されてもよい。濃縮液の場合は、例えば、水によって希釈して使用すればよい。濃縮液を希釈する場合、その希釈倍率は特に制限されず、濃縮液における各成分の濃度、使用方法等に応じて適宜決定できる。
【0018】
本発明の緑青防止剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、当該分野で使用される他の薬剤を含んでいてもよい。他の薬剤としては、例えば、上記以外の他の防食剤、スケール防止剤及びスライム除去剤等が挙げられる。
【0019】
他の防食剤としては、シクロヘキシルアミン、アルキルアミン、アルカノールアミン、ポリアミンなどの水溶性アミン類;エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ケチミンなどのイミン類;ホルムヒドロキサム酸、アセトヒドロキサム酸、ペンズヒドロキサム酸などのヒドロキサム酸類;カテコール類;タンニン類;リグニン類;ホスホン酸類;オキシカルボン酸類などの有機化合物や亜硝酸塩、各種リン酸塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ニッケル塩、アルミニウム塩、アルミン酸塩、バナジウム塩などの無機塩類等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0020】
スケール防止剤としては、1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン−ペンタメチレンホスホン酸等のホスホン酸化合物;ホスフィン酸系化合物;ポリアクリル酸系化合物;スルホン酸系化合物;マレイン酸系化合物;正リン酸塩;重合リン酸塩;モリブデン酸塩;タングステン酸塩;亜鉛塩;ポリアスパラギン酸;亜硝酸塩;クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸類;アルミン酸塩等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0021】
スライム除去剤としては、モノクロログリオキシム、ジクロログリオキシム、メチレンビスチオシアネート、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3オン、α−クロロベンズアルドキシム、ビス(トリブロモメチル)スルホン、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1−プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−ジアセトキシプロパン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)プロパン、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2,3−トリス(ブロモアセトキシ)プロパン、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル、6−クロロ−2,4−ジフルオロ−6−メトキシイソフタロニトリル、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、β−ブロモ−ニトロスチレン、5−ブロモ−5−ニトロ−1,3−ジオキサン、ビス(トリクロロメチル)スルホン、4,5−ジクロロ−2−n−イソチアゾリン−3−オンなどの有機化合物;過酸化水素、過酢酸、次亜塩素物、オゾン等の無機化合物が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0022】
[緑青防止方法]
本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法に関する。本発明の緑青防止方法によれば、例えば、銅母材へのダメージを抑制しつつ、緑青を除去することができる。本発明の緑青防止方法は、例えば、本発明の緑青防止剤を用いて行うことができる。
【0023】
本発明の緑青防止方法は、対象水系に、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を同時又は別々に添加することを含む。対象水系としては、例えば、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラ水系等といった緑青が発生した又は発生しうる水系であれば特に制限されない。
【0024】
本発明の緑青防止方法は、例えば、下記のように行うことができる。
【0025】
対象水系に、カルボヒドラジドとアゾール系銅防食剤と(以下、「緑青防止剤」ともいう)を添加する。
【0026】
カルボヒドラジドとアゾール系銅防食剤とは同時に添加してもよく、別々に添加してもよい。同時に添加する場合は、カルボヒドラジドとアゾール系銅防食剤とを予め混合した後に添加してもよいし、別の容器を用いてそれぞれを同時に添加してもよい。一方、別々に添加する場合は、添加順序は特に制限されず、いずれを先に添加してもよい。また、予め対象水系にアゾール系銅防食剤が添加されている場合は、カルボヒドラジドを添加してもよい。
【0027】
カルボヒドラジドは、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水量に対して10〜500mg/Lとなるように添加することが好ましく、より好ましくは10〜300mg/Lである。「対象水系の保有水量に対して所定の濃度となるように添加する」とは、対象水系中の供給水においてカルボヒドラジンが上記濃度となるように添加することをいう。また、カルボヒドラジドは、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水におけるアゾール系銅防食剤との重量比(アゾール系銅防食剤/カルボヒドラジド)が、0.0025〜5となるように添加することが好ましく、より好ましくは0.0025〜1、さらに好ましくは0.0025〜0.5である。
【0028】
アゾール系銅防食剤は、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水量に対して1〜50mg/Lとなるように添加することが好ましく、より好ましくは5〜40mg/Lである。
【0029】
緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水量に対して、カルボヒドラジドを10〜500mg/L添加し、かつ、アゾール系銅防食剤を1〜50mg/L添加することが好ましく、より好ましくはカルボヒドラジドを10〜300mg/L添加し、かつ、アゾール系銅防食剤を5〜40mg/L添加することである。
【0030】
ついで、対象水系の運転を開始し、対象水系の冷却水等を循環させる。これにより、対象水系中において、例えば、緑青の除去、緑青の発生防止等を行うことができる。
【0031】
運転は、緑青防止処理のための運転であってもよいし、空調機や冷凍機等の稼動のための運転であってもよい。上記例は、運転前に緑青防止剤を添加したが、これに限られず、運転中に添加してもよい。また、緑青防止剤の添加は、連続的であってもよいし、回分的に行ってもよい。
【0032】
処理中の水系内の水温は、特に制限されず、例えば、常温であればよく、好ましくは10〜40℃程度である。
【0033】
本発明の緑青防止方法において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤に加えて、例えば、上記の他の防食剤、スケール防止剤、スライム除去剤等を添加してもよい。スケール防止剤を添加することによりスケール障害の発生を抑制することができる。一方、スライム除去剤は添加してもよいし、しなくてもよい。本発明の緑青防止方法において使用するカルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤は微生物の栄養源とはならないため、スライム障害が拡大する可能性が小さいからである。
【0034】
上記例では、水系に緑青防止剤を添加し水系内を循環させることによって緑青防止を行う方法を例にとり説明したが、本発明はこれに限られず、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を銅基材に接触させることによって行うことができる。例えば、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む水溶液を、水系内で循環させることによって行うことができる。銅基材に接触させるその他の方法としては、例えば、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む容器内に銅基材を浸漬させたり、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を銅基材に吹き付けること等が挙げられる。
【0035】
[緑青防止用キット]
本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジドを含む薬剤と、アゾール系銅防食剤を含む薬剤とを、それぞれ別々の容器に収納された状態で含む緑青防止用キットに関する。本発明のキットによれば、例えば、本発明の緑青防止剤を容易に調製することができる。また、本発明のキットによれば、例えば、本発明の緑青防止方法を簡便に行うことができる。
【0036】
本発明のキットにおいて、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤は、例えば、水溶液の形態で含み得る。
【0037】
本発明のキットは、さらに、説明書を含んでいてもよい。説明書には、本発明の緑青防止用キットの使用方法、及び/又は、本発明の緑青防止剤の調製するための説明を含んでいてもよい。本発明のキットは、例えば、上記以外の防食剤、スケール防止剤及びスライム除去剤等の他の薬剤を含んでいてもよい。これらの薬剤は、別個独立の容器に収納されていてもよい。
【0038】
[本発明のさらにその他の態様]
本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む冷却水を用いた熱交換方法に関する。本発明の熱交換方法によれば、例えば、熱交換器や配管等の水に接する銅製機器における緑青の除去や緑青発生を抑制しつつ、熱交換を行うことができる。また、本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む薬剤を用いた対象水系の洗浄方法に関する。本発明の洗浄方法によれば、例えば、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラ水系等の対象水系内の緑青を除去して対象水系を洗浄することができる。
【0039】
以下に、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0040】
〔銅管テストチューブ/銅テストピースの作製〕
1Lの水に過硫酸ナトリウム50gを溶解し、そのpHを水酸化ナトリウムを用いてpH8に調整した。得られた溶液を銅管(長さ100cm、直径15.9mm、厚さ1.0mm)及び銅ピース(30mm×50mm×1.0mm)表面に吹き付けた。高湿環境(>95%相対湿度)に2時間放置後に乾燥させ、ついで表面を純水で洗浄した。この吹き付け・乾燥・洗浄作業を2度繰り返し行うことによって、表面上に所望の緑青が発生した銅管テストチューブ及び銅テストピースを作製した。以下、単に「銅管テストチューブ」及び「銅テストピース」とは、上記の方法で表面に緑青を生成させた緑青つきのものをいう。
【0041】
[緑青改質試験1]
下記表1に示す成分を含有する緑青防止剤を調製した。緑青防止剤中の各成分が下記表1の濃度となるように各緑青防止剤を下記表2に示す水質の試験水に添加し、上記銅管テストチューブを用いて下記条件で二重管試験による緑青改質効果を評価した。緑青改質効果は、試験前後における緑青の変化、テストチューブの重量変化(試験前の重量−試験後の重量)及びチューブ外観の変化で評価した。その結果を下記表1に示す。なお、カルボヒドラジドは、ELIMIN−OX(商品名、NALCO製)を使用した。ベンゾトリアゾールは、ミラクル HP−16(商品名、(株)片山化学工業研究所製)を使用した。
(二重管試験の条件)
水温 :40℃
温水温度:80℃
流速 :0.5m/s
伝熱量 :56000kcal/m2/hr
試験期間:1日
保有水量:10L
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
上記表1に示すように、ヒドラジンとベンゾトリアゾールとを含む比較例1の緑青防止剤は、緑青を除去できたが、テストチューブの表面(銅母材)が赤く変色したことから、テストチューブに悪影響を与えることがわかった。一方、カルボヒドラジドとベンゾトリアゾールとを含む実施例1及び2の緑青防止剤によれば、テストチューブの外観に変化がなかったことから、チューブ自身(銅母材)にダメージを与えることなく緑青を除去することができた。
【0045】
[緑青改質試験2]
下記表3に示す成分(カルボヒドラジド(CH)及びベンゾトリアゾール(BZT))を含有する緑青防止剤を調製した。試験水として、上記表2に示す水質の試験水A、試験水Bの2種類の試験水を準備した。ビーカーに試験水と各緑青防止剤を加え、そこにモータと連動した撹拌棒の先端に上記の銅テストピースを懸吊して銅テストピースを試験水中に浸漬させた。サーモスタットを付設し、マントルヒーターによってビーカー内の水温を40℃に保ち、上記のテストピースを100rpmの速度で回転させた。18時間後、テストピースを取り出し、酸洗、水洗及び乾燥後、テストピースの重量を測定した。試験前後の重量変化(浸漬前の重量−浸漬後の重量)から一日当たりの腐食減量を算出した。得られた腐食減量及び試験前後における緑青の色の変化に基づき緑青改質効果を評価した。その結果を下記表3に示す。下記表3において、腐食減量及び試験前後における緑青の色の変化に基づき十分な緑青改質効果が得られた場合を○、得られなかった場合を×とした。
【0046】
【表3】
【0047】
上記表3に示すように、カルボヒドラジド(CH)とベンゾトリアゾール(BZT)とを含む実施例3〜13の緑青防止剤によれば、銅母材にダメージを抑制しつつ緑青を除去することができ、十分な緑青改質効果が得られた。特に、カルボヒドラジドを10〜490mg/Lとし、ベンゾトリアゾールを1.25〜40mg/Lとすることによって、さらに優れた緑青改質効果が得られた。
【0048】
[アゾール系銅防食剤の残留率確認試験]
緑青防止剤中の各成分が下記表4の濃度となるように各緑青防止剤を表2に示す水質の試験水A(大阪市水)に添加し、そこに緑青が発生した実機吸収式冷凍器の銅管を3cm長に切断し、さらに横方向から半円状となるように切断した試験片を浸漬させて室温で緑青防食処理を行った。なお試験片については、各条件でほぼ均等に緑青が付着した部分を採用した。上記緑青防食処理済みの各銅管試験片を、表2に示す試験水B(DHC実機水の5倍濃縮水)に対しベンゾトリアゾール3mg/Lを添加した水中にて、室温で5日間浸漬し、スターラーで攪拌した。浸漬攪拌5日目に、各銅管試験片を浸漬した試験水中のベンゾトリアゾール濃度をHPLCにより測定し、試験水中のアゾールの残留率を測定した。その結果を下記表4に示す。なお、比較例9は、上記緑青防食処理に替えて銅管試験片の塩酸洗浄を行った以外は実施例14と同様にした。塩酸洗浄は、10%硫酸を用いて室温で緑青が除去されるまで行った。比較例10は、緑青防食処理を行わない以外は実施例14と同様にした。対照は、緑青が発生した実機吸収式冷凍器の銅管試験片に替えて未使用の実機吸収式冷凍器の銅管を3cm長に切断し、さらに横方向から半円状となるように切断した試験片を使用し、緑青防食処理を行わない以外は実施例14と同様にした。
【0049】
【表4】
【0050】
上記表4に示すように、ヒドラジンとベンゾトリアゾールとを用いて緑青防食処理を行った比較例8、緑青防食処理に替えて塩酸洗浄を行った比較例9及び緑青防食処理を行わなかった比較例10では、試験水のアゾール残留率がそれぞれ3.3%、7.5%及び0.9%となり、試験水のアゾールが大幅に減少した。これに対し、カルボヒドラジドとベンゾトリアゾールとを含む緑青防止剤を用いて緑青防食処理を行った実施例14では、試験水のアゾール残留率が34.1%となり、試験水のアゾールの減少が大幅に抑制され、また、チューブ自身(銅母材)にダメージを与えることなく緑青の発生を抑制でき、十分な緑青防止効果効果が得られた。よって、カルボヒドラジドとベンゾトリアゾールとを含む緑青防止剤を用いることにより、効果的に緑青の発生を防止できるとともに、銅の腐食を持続的に防止できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば、銅基材を含む循環冷却水系に効果的に使用可能であり、例えば、一般的なプラントの循環冷却水系の銅熱交換器、或いはターボ冷凍機、吸収式冷凍機の銅熱交換器チューブ、その他循環冷却水系の銅建材等の緑青防止処理に極めて有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅基材の緑青防止剤及び緑青防止方法に関する。さらに詳しくは、空調機、冷凍機等の熱交換器や配管等の水に接する銅製機器をはじめとする、銅製物品や銅合金製物品(部材を含む)に発生した緑青を除去するための緑青防止剤及び緑青防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラ水系などの各種工業水系には、熱交換器等といった系内に銅基材を有する機器を備える。これらの機器は水と接触するため、長期間使用すると孔食等の腐食が生じうる。腐食は時間の経過とともに進行し、装置に重大な欠陥を与えるとともに安全運転を阻害する要因となる。特に、DHC(地域熱供給;District Heating & Cooling)の冷凍機などでは熱交換器に銅配管が使用されおり、この銅配管の腐食(緑青)が大きな問題となっている。
【0003】
この問題を解決するために、従来、ヒドラジンと銅用防食剤とを併用した薬剤処理を定期的に実施することによって、銅基材表面に生成する酸化銅を含む腐食生成物を除去し、銅管の腐食を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1)。また、開放点検時等で銅管に緑青が見つかった場合であっても、ヒドラジンと銅用防食剤とを併用することによって緑青を改質処理し、腐食の進行を抑制し、孔食の発生を抑制できることが知られている。
【0004】
しかしながら、ヒドラジンには発ガン性等といった安全性の疑いがあり、また、PRTR(環境汚染物質排出移動登録)の対象物質であること等から、ヒドラジンの使用を避けたいとの要望が近年強くなっている。このため、ヒドラジンを使用せず、より安全度の高い緑青防止剤や緑青防止方法が求められている。
【0005】
上記問題を解決するために、チオグリコール酸又はその塩とアゾール系銅防食剤とを用いた孔食抑制剤及び孔食抑制方法が提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、チオグリコール酸は、硫化水素が発生する可能性や独特の臭気を有することから、作業上の取扱いの点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−272392号公報
【特許文献2】特開2008−248303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、ヒドラジンを含まず、作業上の取扱い性が向上した緑青防止剤及び緑青防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤に関する。
【0009】
本発明は、その他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒドラジンを含まず、作業上の取扱い性が向上した緑青防止剤又は緑青防止方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤によれば、例えば、空調機や冷凍機等における熱交換器や配管等といった水に接する銅製機器をはじめとする銅製物品及び銅合金製物品(部材を含む)に発生した緑青を除去でき、該緑青の除去を健康上又は作業上において安全に行うことができるという知見に基づく。さらに、本発明は、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤によれば、除去した緑青の再付着を長期的に防止でき、また、銅母材の変色を長期間抑制できるという知見に基づく。
【0012】
カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を併用することによって上記効果が得られる理由は定かではないが、アゾール系銅防食剤が銅表面に選択的に反応することによって、カルボヒドラジドの緑青除去、緑青発生抑制等の効果を向上させているものと考えられる。但し、これらは推定であって、本発明はこれらメカニズムに限定されない。なお、アゾール系銅防食剤を含む溶液を緑青が発生した銅製機器に接触させた場合、アゾール系銅防食剤の濃度が減少し、その結果、十分に銅の腐食を防止できないことが知られているが、本発明者らは、アゾール系銅防食剤をカルボヒドラジドと組み合わせて使用することによって、アゾール系銅防食剤の濃度減少が抑制されることを見いだした。したがって、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む本発明の緑青防止剤によれば、上記の緑青防止効果に加えて、効果的に銅の腐食を抑制できるとともに、長期的に銅の腐食を抑制できるという効果を奏しうると考えられる。
【0013】
本明細書において「緑青防止」とは、例えば、熱交換器や配管等の銅基材に付着している緑青の除去、除去した緑青の付着抑制(二次腐食)及び緑青の発生抑制を含み、好ましくは銅基材(銅母材)表面の損傷が抑制された緑青の除去、長期的な緑青の付着及び/又は発生の抑制を含みうる。
【0014】
[緑青防止剤]
すなわち、本発明は、一つの態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤に関する。本発明の緑青防止剤によれば、例えば、銅母材へのダメージを抑制しつつ、緑青を除去することができる。本発明の緑青防止剤によれば、例えば、除去された緑青の付着を抑制できるという効果を奏しうる。さらに、カルボヒドラジドはPRTRの対象物質ではないため、本発明の緑青防止剤は安全度が高く、作業上の取扱い性を向上できる。
【0015】
アゾール系銅防食剤は、銅防食剤として使用される公知のアゾール化合物が使用できる。アゾール系銅防食剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、アミノトリアゾール等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0016】
カルボヒドラジドに対するアゾール系銅防食剤の重量比(アゾール系銅防食剤/カルボヒドラジド)は、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、0.0025〜5が好ましく、より好ましくは0.0025〜1、さらに好ましくは0.0025〜0.5である。
【0017】
本発明の緑青防止剤は、濃縮液として製造されてもよい。濃縮液の場合は、例えば、水によって希釈して使用すればよい。濃縮液を希釈する場合、その希釈倍率は特に制限されず、濃縮液における各成分の濃度、使用方法等に応じて適宜決定できる。
【0018】
本発明の緑青防止剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、当該分野で使用される他の薬剤を含んでいてもよい。他の薬剤としては、例えば、上記以外の他の防食剤、スケール防止剤及びスライム除去剤等が挙げられる。
【0019】
他の防食剤としては、シクロヘキシルアミン、アルキルアミン、アルカノールアミン、ポリアミンなどの水溶性アミン類;エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ケチミンなどのイミン類;ホルムヒドロキサム酸、アセトヒドロキサム酸、ペンズヒドロキサム酸などのヒドロキサム酸類;カテコール類;タンニン類;リグニン類;ホスホン酸類;オキシカルボン酸類などの有機化合物や亜硝酸塩、各種リン酸塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ニッケル塩、アルミニウム塩、アルミン酸塩、バナジウム塩などの無機塩類等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0020】
スケール防止剤としては、1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン−ペンタメチレンホスホン酸等のホスホン酸化合物;ホスフィン酸系化合物;ポリアクリル酸系化合物;スルホン酸系化合物;マレイン酸系化合物;正リン酸塩;重合リン酸塩;モリブデン酸塩;タングステン酸塩;亜鉛塩;ポリアスパラギン酸;亜硝酸塩;クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸類;アルミン酸塩等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0021】
スライム除去剤としては、モノクロログリオキシム、ジクロログリオキシム、メチレンビスチオシアネート、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3オン、α−クロロベンズアルドキシム、ビス(トリブロモメチル)スルホン、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1−プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−ジアセトキシプロパン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)プロパン、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2,3−トリス(ブロモアセトキシ)プロパン、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル、6−クロロ−2,4−ジフルオロ−6−メトキシイソフタロニトリル、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、β−ブロモ−ニトロスチレン、5−ブロモ−5−ニトロ−1,3−ジオキサン、ビス(トリクロロメチル)スルホン、4,5−ジクロロ−2−n−イソチアゾリン−3−オンなどの有機化合物;過酸化水素、過酢酸、次亜塩素物、オゾン等の無機化合物が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0022】
[緑青防止方法]
本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法に関する。本発明の緑青防止方法によれば、例えば、銅母材へのダメージを抑制しつつ、緑青を除去することができる。本発明の緑青防止方法は、例えば、本発明の緑青防止剤を用いて行うことができる。
【0023】
本発明の緑青防止方法は、対象水系に、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を同時又は別々に添加することを含む。対象水系としては、例えば、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラ水系等といった緑青が発生した又は発生しうる水系であれば特に制限されない。
【0024】
本発明の緑青防止方法は、例えば、下記のように行うことができる。
【0025】
対象水系に、カルボヒドラジドとアゾール系銅防食剤と(以下、「緑青防止剤」ともいう)を添加する。
【0026】
カルボヒドラジドとアゾール系銅防食剤とは同時に添加してもよく、別々に添加してもよい。同時に添加する場合は、カルボヒドラジドとアゾール系銅防食剤とを予め混合した後に添加してもよいし、別の容器を用いてそれぞれを同時に添加してもよい。一方、別々に添加する場合は、添加順序は特に制限されず、いずれを先に添加してもよい。また、予め対象水系にアゾール系銅防食剤が添加されている場合は、カルボヒドラジドを添加してもよい。
【0027】
カルボヒドラジドは、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水量に対して10〜500mg/Lとなるように添加することが好ましく、より好ましくは10〜300mg/Lである。「対象水系の保有水量に対して所定の濃度となるように添加する」とは、対象水系中の供給水においてカルボヒドラジンが上記濃度となるように添加することをいう。また、カルボヒドラジドは、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水におけるアゾール系銅防食剤との重量比(アゾール系銅防食剤/カルボヒドラジド)が、0.0025〜5となるように添加することが好ましく、より好ましくは0.0025〜1、さらに好ましくは0.0025〜0.5である。
【0028】
アゾール系銅防食剤は、緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水量に対して1〜50mg/Lとなるように添加することが好ましく、より好ましくは5〜40mg/Lである。
【0029】
緑青除去及び銅母材の変色抑制の点から、対象水系の保有水量に対して、カルボヒドラジドを10〜500mg/L添加し、かつ、アゾール系銅防食剤を1〜50mg/L添加することが好ましく、より好ましくはカルボヒドラジドを10〜300mg/L添加し、かつ、アゾール系銅防食剤を5〜40mg/L添加することである。
【0030】
ついで、対象水系の運転を開始し、対象水系の冷却水等を循環させる。これにより、対象水系中において、例えば、緑青の除去、緑青の発生防止等を行うことができる。
【0031】
運転は、緑青防止処理のための運転であってもよいし、空調機や冷凍機等の稼動のための運転であってもよい。上記例は、運転前に緑青防止剤を添加したが、これに限られず、運転中に添加してもよい。また、緑青防止剤の添加は、連続的であってもよいし、回分的に行ってもよい。
【0032】
処理中の水系内の水温は、特に制限されず、例えば、常温であればよく、好ましくは10〜40℃程度である。
【0033】
本発明の緑青防止方法において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤に加えて、例えば、上記の他の防食剤、スケール防止剤、スライム除去剤等を添加してもよい。スケール防止剤を添加することによりスケール障害の発生を抑制することができる。一方、スライム除去剤は添加してもよいし、しなくてもよい。本発明の緑青防止方法において使用するカルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤は微生物の栄養源とはならないため、スライム障害が拡大する可能性が小さいからである。
【0034】
上記例では、水系に緑青防止剤を添加し水系内を循環させることによって緑青防止を行う方法を例にとり説明したが、本発明はこれに限られず、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を銅基材に接触させることによって行うことができる。例えば、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む水溶液を、水系内で循環させることによって行うことができる。銅基材に接触させるその他の方法としては、例えば、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む容器内に銅基材を浸漬させたり、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を銅基材に吹き付けること等が挙げられる。
【0035】
[緑青防止用キット]
本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジドを含む薬剤と、アゾール系銅防食剤を含む薬剤とを、それぞれ別々の容器に収納された状態で含む緑青防止用キットに関する。本発明のキットによれば、例えば、本発明の緑青防止剤を容易に調製することができる。また、本発明のキットによれば、例えば、本発明の緑青防止方法を簡便に行うことができる。
【0036】
本発明のキットにおいて、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤は、例えば、水溶液の形態で含み得る。
【0037】
本発明のキットは、さらに、説明書を含んでいてもよい。説明書には、本発明の緑青防止用キットの使用方法、及び/又は、本発明の緑青防止剤の調製するための説明を含んでいてもよい。本発明のキットは、例えば、上記以外の防食剤、スケール防止剤及びスライム除去剤等の他の薬剤を含んでいてもよい。これらの薬剤は、別個独立の容器に収納されていてもよい。
【0038】
[本発明のさらにその他の態様]
本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む冷却水を用いた熱交換方法に関する。本発明の熱交換方法によれば、例えば、熱交換器や配管等の水に接する銅製機器における緑青の除去や緑青発生を抑制しつつ、熱交換を行うことができる。また、本発明は、さらにその他の態様において、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む薬剤を用いた対象水系の洗浄方法に関する。本発明の洗浄方法によれば、例えば、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラ水系等の対象水系内の緑青を除去して対象水系を洗浄することができる。
【0039】
以下に、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0040】
〔銅管テストチューブ/銅テストピースの作製〕
1Lの水に過硫酸ナトリウム50gを溶解し、そのpHを水酸化ナトリウムを用いてpH8に調整した。得られた溶液を銅管(長さ100cm、直径15.9mm、厚さ1.0mm)及び銅ピース(30mm×50mm×1.0mm)表面に吹き付けた。高湿環境(>95%相対湿度)に2時間放置後に乾燥させ、ついで表面を純水で洗浄した。この吹き付け・乾燥・洗浄作業を2度繰り返し行うことによって、表面上に所望の緑青が発生した銅管テストチューブ及び銅テストピースを作製した。以下、単に「銅管テストチューブ」及び「銅テストピース」とは、上記の方法で表面に緑青を生成させた緑青つきのものをいう。
【0041】
[緑青改質試験1]
下記表1に示す成分を含有する緑青防止剤を調製した。緑青防止剤中の各成分が下記表1の濃度となるように各緑青防止剤を下記表2に示す水質の試験水に添加し、上記銅管テストチューブを用いて下記条件で二重管試験による緑青改質効果を評価した。緑青改質効果は、試験前後における緑青の変化、テストチューブの重量変化(試験前の重量−試験後の重量)及びチューブ外観の変化で評価した。その結果を下記表1に示す。なお、カルボヒドラジドは、ELIMIN−OX(商品名、NALCO製)を使用した。ベンゾトリアゾールは、ミラクル HP−16(商品名、(株)片山化学工業研究所製)を使用した。
(二重管試験の条件)
水温 :40℃
温水温度:80℃
流速 :0.5m/s
伝熱量 :56000kcal/m2/hr
試験期間:1日
保有水量:10L
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
上記表1に示すように、ヒドラジンとベンゾトリアゾールとを含む比較例1の緑青防止剤は、緑青を除去できたが、テストチューブの表面(銅母材)が赤く変色したことから、テストチューブに悪影響を与えることがわかった。一方、カルボヒドラジドとベンゾトリアゾールとを含む実施例1及び2の緑青防止剤によれば、テストチューブの外観に変化がなかったことから、チューブ自身(銅母材)にダメージを与えることなく緑青を除去することができた。
【0045】
[緑青改質試験2]
下記表3に示す成分(カルボヒドラジド(CH)及びベンゾトリアゾール(BZT))を含有する緑青防止剤を調製した。試験水として、上記表2に示す水質の試験水A、試験水Bの2種類の試験水を準備した。ビーカーに試験水と各緑青防止剤を加え、そこにモータと連動した撹拌棒の先端に上記の銅テストピースを懸吊して銅テストピースを試験水中に浸漬させた。サーモスタットを付設し、マントルヒーターによってビーカー内の水温を40℃に保ち、上記のテストピースを100rpmの速度で回転させた。18時間後、テストピースを取り出し、酸洗、水洗及び乾燥後、テストピースの重量を測定した。試験前後の重量変化(浸漬前の重量−浸漬後の重量)から一日当たりの腐食減量を算出した。得られた腐食減量及び試験前後における緑青の色の変化に基づき緑青改質効果を評価した。その結果を下記表3に示す。下記表3において、腐食減量及び試験前後における緑青の色の変化に基づき十分な緑青改質効果が得られた場合を○、得られなかった場合を×とした。
【0046】
【表3】
【0047】
上記表3に示すように、カルボヒドラジド(CH)とベンゾトリアゾール(BZT)とを含む実施例3〜13の緑青防止剤によれば、銅母材にダメージを抑制しつつ緑青を除去することができ、十分な緑青改質効果が得られた。特に、カルボヒドラジドを10〜490mg/Lとし、ベンゾトリアゾールを1.25〜40mg/Lとすることによって、さらに優れた緑青改質効果が得られた。
【0048】
[アゾール系銅防食剤の残留率確認試験]
緑青防止剤中の各成分が下記表4の濃度となるように各緑青防止剤を表2に示す水質の試験水A(大阪市水)に添加し、そこに緑青が発生した実機吸収式冷凍器の銅管を3cm長に切断し、さらに横方向から半円状となるように切断した試験片を浸漬させて室温で緑青防食処理を行った。なお試験片については、各条件でほぼ均等に緑青が付着した部分を採用した。上記緑青防食処理済みの各銅管試験片を、表2に示す試験水B(DHC実機水の5倍濃縮水)に対しベンゾトリアゾール3mg/Lを添加した水中にて、室温で5日間浸漬し、スターラーで攪拌した。浸漬攪拌5日目に、各銅管試験片を浸漬した試験水中のベンゾトリアゾール濃度をHPLCにより測定し、試験水中のアゾールの残留率を測定した。その結果を下記表4に示す。なお、比較例9は、上記緑青防食処理に替えて銅管試験片の塩酸洗浄を行った以外は実施例14と同様にした。塩酸洗浄は、10%硫酸を用いて室温で緑青が除去されるまで行った。比較例10は、緑青防食処理を行わない以外は実施例14と同様にした。対照は、緑青が発生した実機吸収式冷凍器の銅管試験片に替えて未使用の実機吸収式冷凍器の銅管を3cm長に切断し、さらに横方向から半円状となるように切断した試験片を使用し、緑青防食処理を行わない以外は実施例14と同様にした。
【0049】
【表4】
【0050】
上記表4に示すように、ヒドラジンとベンゾトリアゾールとを用いて緑青防食処理を行った比較例8、緑青防食処理に替えて塩酸洗浄を行った比較例9及び緑青防食処理を行わなかった比較例10では、試験水のアゾール残留率がそれぞれ3.3%、7.5%及び0.9%となり、試験水のアゾールが大幅に減少した。これに対し、カルボヒドラジドとベンゾトリアゾールとを含む緑青防止剤を用いて緑青防食処理を行った実施例14では、試験水のアゾール残留率が34.1%となり、試験水のアゾールの減少が大幅に抑制され、また、チューブ自身(銅母材)にダメージを与えることなく緑青の発生を抑制でき、十分な緑青防止効果効果が得られた。よって、カルボヒドラジドとベンゾトリアゾールとを含む緑青防止剤を用いることにより、効果的に緑青の発生を防止できるとともに、銅の腐食を持続的に防止できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば、銅基材を含む循環冷却水系に効果的に使用可能であり、例えば、一般的なプラントの循環冷却水系の銅熱交換器、或いはターボ冷凍機、吸収式冷凍機の銅熱交換器チューブ、その他循環冷却水系の銅建材等の緑青防止処理に極めて有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤。
【請求項2】
カルボヒドラジドに対するアゾール系銅防食剤の重量比(アゾール系銅防食剤/カルボヒドラジド)は、0.0025〜5である、請求項1記載の緑青防止剤。
【請求項3】
カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法。
【請求項4】
対象水系に、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を同時又は別々に添加することを含む、請求項3記載の緑青防止方法。
【請求項5】
対象水系の保有水量に対して、カルボヒドラジドを10〜500mg/Lと、アゾール系銅防食剤を1〜50mg/Lとを添加することを含む、請求項3又は4に記載の緑青防止方法。
【請求項1】
カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を含む緑青防止剤。
【請求項2】
カルボヒドラジドに対するアゾール系銅防食剤の重量比(アゾール系銅防食剤/カルボヒドラジド)は、0.0025〜5である、請求項1記載の緑青防止剤。
【請求項3】
カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を用いて、対象水系において緑青を防止する緑青防止方法。
【請求項4】
対象水系に、カルボヒドラジド及びアゾール系銅防食剤を同時又は別々に添加することを含む、請求項3記載の緑青防止方法。
【請求項5】
対象水系の保有水量に対して、カルボヒドラジドを10〜500mg/Lと、アゾール系銅防食剤を1〜50mg/Lとを添加することを含む、請求項3又は4に記載の緑青防止方法。
【公開番号】特開2012−12698(P2012−12698A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265174(P2010−265174)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(505112048)ナルコジャパン株式会社 (8)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(505112048)ナルコジャパン株式会社 (8)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】
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