説明

線巻式圧力容器

【課題】熱間等方圧加圧装置の耐圧部を構成する線巻式圧力容器において、従来の鍛造鋼の製造限界を取り払い、大型化を図り得る線巻式圧力容器を提供する。
【解決手段】円筒状内筒2と、この円筒状内筒2の外周面に張力を付与して高耐力線材を巻き付けてなる高耐力線材巻層3と、前記円筒状内筒2の過熱防止用の冷却水通路5とが備えられ、被処理物を高温高圧処理するための線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒2が軸方向に複数に分割された分割内筒部材2aから構成されると共に、これら分割内筒部材2aを軸方向に締め付け自在な締付部材9が備えられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、セラミックス、樹脂、食品等の被処理物を加熱しつつ、効率良く等方圧加圧処理する熱間等方圧加圧装置の圧力容器に関し、特には、圧力容器の外周に高耐力線材を巻き付けて構成される線巻式圧力容器の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間等方圧加圧装置の圧力容器内に装填される加熱装置には断熱層が配設されるものの、昇温及び高温保持には、前記圧力容器の特に内周面に過熱防止のため水冷することが必要であり、更には、冷却時の冷却速度向上のためには、圧力容器内周面と内部ガスとの熱交換により、その熱を圧力容器外へ排出するためにも、効率良く圧力容器を冷却することが必要である。
【0003】
この様な目的のため、従来より前記圧力容器の内面近傍に冷却水流路を設ける構造が用いられているが、これらのうち、線巻式圧力容器構造のものとして代表的な従来例に関し以下説明する。
【0004】
即ち、この従来例に係る線巻式圧力容器は、軸心に沿って圧力容器が配設されると共に、その周囲に冷却水流路を確保するための棒状のスペーサが配置され、更にその外周にピアノ線を予張力を持って巻き付けられるため、構成部材中、昇圧・降圧による応力振幅が最も大きい圧力容器には残留圧縮応力が付与される結果、容器としての疲労寿命が延長されることになる(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、前記圧力容器は、ピアノ線による残留圧縮応力とその後の高圧の圧力振幅に耐えるため、高強度部材を用いるのが通常である。前記特許文献1に示される通り、前記圧力容器は溶接接合されていない一体物で構成され、通常は高強度、高靭性の鍛造材から形成される。従って、本構造での圧力容器の最大寸法は、この鍛造材の製作限界で制限されることになる。その結果、大型の被処理物を処理可能な熱間等方圧加圧装置が求められる現下にあって、ニーズに合致した装置を提供できないという問題があった。
【0006】
次に、他の従来例に係る線巻式圧力容器につき、添付図8,9を参照しながら説明する。図8は他の従来例の実施の形態に係り、プレス枠内に組み込まれてなる高温高圧容器の縦断面図、図9は他の従来例の実施の形態に係る高温高圧容器の横断面の一部分を示す図である。
【0007】
筒体51に圧縮残留応力を付与するために、張力を付与したピアノ線52が前記筒体51の外周に巻回され、前記筒体軸方向の開口が嵌脱可能な上下蓋81,82で密閉されると共に、内部に入れられた被処理物Wを高温高圧処理する高温高圧容器において、前記筒体51は、内筒51aと、この内筒51aの外周面に沿って配設された複数のスペーサ54を介して外嵌される外筒51bとからなる2層筒体の一端側から他端側に連通する冷却水流路53が形成されている(特許文献2参照)。
【0008】
この様な熱間等方圧加圧装置における被処理物Wは、液晶関連部材やエネルギー関連部材等多岐に亘る用途に関するものであるが、これらの用途における部材の大型化が進んでおり、熱間等方圧加圧装置もこれに伴って大型化が求められている。一方、熱間等方圧加圧装置は高圧に耐え得るため、耐圧部材には高強度の鍛造鋼が使用されるが、上記従来例に係る構造では、各部材は溶接乃至は一体構造となっており、耐圧部における最大部材である加圧容器(上記従来例における内筒51a)に用いる鍛造鋼の製造限界が、そのまま本装置の最大寸法の決定要因となっていた。しかしながら現実には、前記用途において、この鍛造鋼の製造限界を超える寸法のニーズがある。
【特許文献1】特開平2−293585号公報
【特許文献2】特開2004−37054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、熱間等方圧加圧装置の耐圧部を構成する線巻式圧力容器において、従来の鍛造鋼の製造限界を取り払い、大型化を図り得る線巻式圧力容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る線巻式圧力容器が採用した手段は、円筒状内筒と、この円筒状内筒の外周面に張力を付与して高耐力線材を巻き付けてなる高耐力線材巻層と、前記円筒状内筒の過熱防止用の冷却水通路とが備えられ、被処理物を高温高圧処理するための線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒が軸方向に複数に分割された分割内筒部材から構成されると共に、これら分割内筒部材を軸方向に締め付け自在な締付部材が備えられてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項2に係る線巻式圧力容器が採用した手段は、請求項1に記載の線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒内に、その外周部に冷却水通路用凹部を有する円筒状ライナーが嵌脱可能に嵌入され、前記円筒状内筒の内周面と前記冷却水通路用凹部との間に前記冷却水通路が形成されてなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項3に係る線巻式圧力容器が採用した手段は、請求項2に記載の線巻式圧力容器において、前記円筒状ライナーが、その外周面に、長手方向に沿って延びる複数の狭幅長尺部材を円周方向に所定間隔を隔てて接合したものであって、隣り合う前記狭幅長尺部材同士の隙間部分によって長手方向に沿って延びる前記冷却水通路用凹部が形成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項4に係る線巻式圧力容器が採用した手段は、請求項1乃至3の何れか一つの項に記載の線巻式圧力容器において、前記分割円筒部材の分割面が、軸方向に同心となる様な半径方向の段差を有して嵌脱可能に嵌合されてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項5に係る線巻式圧力容器が採用した手段は、請求項1乃至4の何れか一つの項に記載の線巻式圧力容器において、前記締付部材が、前記円筒状内筒の両端に配置された両端フランジと、これら両端フランジ間を締め付ける上下締付ボルトとを備えてなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項6に係る線巻式圧力容器が採用した手段は、請求項1乃至5の何れか一つの項に記載の線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒の外周に、前記冷却水通路からの漏水を防止するための防水ライナーが配設されてなることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項7に係る線巻式圧力容器が採用した手段は、請求項6に記載の線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒の両端面と前記両端フランジとの接触面に、前記冷却水通路からの漏水を防止するためのシール部が設けられてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に係る線巻式圧力容器によれば、円筒状内筒と、この円筒状内筒の外周面に張力を付与して高耐力線材を巻き付けてなる高耐力線材巻層と、前記円筒状内筒の過熱防止用の冷却水通路とが備えられ、被処理物を高温高圧処理するための線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒が軸方向に複数に分割された分割内筒部材から構成されると共に、これら分割内筒部材を軸方向に締め付け自在な締付部材が備えられてなるので、鍛造鋼を用いる前記円筒状内筒の製作限界が大幅に向上し、従来構造では不可能であった超大型の圧力容器が製作可能となった。
【0018】
また、本発明の請求項2に係る線巻式圧力容器によれば、前記円筒状内筒内に、その外周部に冷却水通路用凹部を有する円筒状ライナーが嵌脱可能に嵌入され、前記円筒状内筒の内周面と前記冷却水通路用凹部との間に前記冷却水通路が形成されてなり、前記円筒状ライナーは溶接構造とすることができるので元より大型化が可能である。また、これらの円筒状ライナーは冷し嵌めした場合でも、前記冷却水通路に油圧等を負荷する等により抜取りできるため、ライナーの交換が可能となる上、内筒の接水部を露出させて外観検査は勿論のこと、非破壊検査も可能である。
【0019】
更に、本発明の請求項3に係る線巻式圧力容器によれば、前記円筒状ライナーが、その外周面に、長手方向に沿って延びる複数の狭幅長尺部材を円周方向に所定間隔を隔てて接合したものであって、隣り合う前記狭幅長尺部材同士の隙間部分によって長手方向に沿って延びる前記冷却水通路用凹部が形成されてなるので、この円筒状ライナーの肉厚を最小限に抑制して線巻式圧力容器の全体寸法に殆ど影響を与えることがない。
【0020】
また更に、本発明の請求項4に係る線巻式圧力容器によれば、前記分割円筒部材の分割面が、軸方向に同心となる様な半径方向の段差を有して嵌脱可能に嵌合されてなるので、複数の前記分割円筒部材によって前記円筒状内筒を組立てる際、各分割円筒部材の芯合わせ作業が不必要な上、簡便に組立できる。
【0021】
また更に、本発明の請求項5に係る線巻式圧力容器によれば、前記締付部材が、前記円筒状内筒の両端に配置された両端フランジと、これら両端フランジ間を締め付ける上下締付ボルトとを備えてなるので、簡素な部材の組合せによって前記締付部材を構成し得る。
【0022】
一方、本発明の請求項6に係る線巻式圧力容器によれば、前記円筒状内筒の外周に、前記冷却水通路からの漏水を防止するための防水ライナーが配設されてなるので、ジャケットカバーが不必要な上、前記高耐力線材巻層側への漏水が防止され、この巻層を形成する高耐力線材の長寿命化が可能となった。
【0023】
また、本発明の請求項7に係る線巻式圧力容器によれば、前記円筒状内筒の両端面と前記両端フランジとの接触面に、前記冷却水通路からの漏水を防止するためのシール部が設けられてなるので、前記高耐力線材巻層側への漏水が完全に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態1に係る線巻式圧力容器を、添付図1〜4を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る線巻式圧力容器の立断面図、図2は図1に示す線巻式圧力容器の軸方向任意位置において、締付部材とジャケットカバーを省略して示す平断面図、図3は図2に示す線巻式圧力容器の水平断面図の一部を拡大して示す部分拡大断面図、図4は図1に示す線巻式圧力容器の円筒状ライナーを説明するための図である。
【0025】
図1〜図4において、符号1は容器胴である。本実施の形態1による線巻式圧力容器は、円筒状をなす円筒状内筒2の外周面に張力を付与した高耐力線材を巻き付けてなる容器胴1と、容器胴1の円筒状内筒2内に嵌脱可能に嵌入され、その外周部に冷却水通路用凹部4bを有し、円筒状内筒1の過熱防止用の冷却水通路5を形成する円筒状ライナー4とを備えており、前記容器胴1は、前記円筒状内筒2と、この円筒状内筒2の外周面に張力を付与して高耐力線材としてのピアノ線を巻き付けてなるピアノ線巻層3とにより構成されている。
【0026】
そして、前記円筒状内筒2は、軸方向に複数に分割された高強度の低合金鋼、あるいは高強度のステンレス鋼を用いた鍛造材からなる分割内筒部材2aから構成されている。この円筒状内筒2の両端外周には、円環状をなし、内筒径方向外方へ突出する端面フランジ2bが焼嵌めにより嵌合されると共に、前記両端の端面フランジ2bは、複数本の上下締付ボルト(締付部材)9によって前記分割内筒部材2aを軸方向に締め付けて、前記円筒状内筒2を形成して固定されている。
【0027】
また、前記ピアノ線巻層3は、円筒状内筒2外周面における両端面フランジ2b間にピアノ線を層状に巻き付けられてなり、円筒状内筒2内側に加わる高圧力に抗するように円筒状内筒2に残留圧縮力が付与される。前記端面フランジ2bは、前記ピアノ線巻層3の軸方向ずれを防止するにも有効である。
【0028】
円筒状をなす前記円筒状ライナー4は、複数の狭幅長尺部材としてのフラットバー4aを有している。即ち、円筒状ライナー4の外周面に、ライナー長手方向に沿って延びる複数のフラットバー4aがライナー円周方向に所定間隔を隔てて溶接にて接合されており(図4参照)、これにより、隣り合うフラットバー4a同士の隙間部分によってライナー長手方向に沿って延びる冷却水通路用凹部4bが形成されている。
【0029】
そして、この円筒状ライナー4が、容器胴1の円筒状内筒2内に後述の様に嵌脱可能に嵌入されており、円筒状内筒2の内周面と前記冷却水通路用凹部4bとの間に冷却水通路5が形成されている(図3参照)。円筒状ライナー4は、その内側に負荷される高圧力によって静的に破損されないだけの強度を満たすことが必要であるものの、基本的には、消耗部材として一定期間使用後に交換することを前提とされており、長期の疲労強度を満たすことは要しないものである。
【0030】
符号6は、容器胴1の下端部に取り付けられたライナー抜止め部材である。符号7は、冷却水供給源からの冷却水が供給される冷却水室7aを有し、冷却水室7aから冷却水を各冷却水通路5に分配して供給する円環状の下部マニホールドである。また、符号8は、各冷却水通路5を通過してきた冷却水が集水される冷却水室8aを有し、各冷却水通路5を通過してきた冷却水を、冷却水室8aから外部へ排出する円環状の上部マニホールドである。
【0031】
また、本実施の形態1では、フラットバー4aを有する円筒状ライナー4は、その外径寸法が容器胴1の内径寸法よりも僅かに小さくなるように製作されており、隙間嵌めにより容器胴1の円筒状内筒2内に円筒状ライナー4を嵌入し(図4参照)、次いで、円筒状内筒2の上端部に、シールリングによるシール部8b,8cを介して上部マニホールド8を着脱可能に固定している。
【0032】
ここで、隙間嵌めによって円筒状内筒2内に円筒状ライナー4を嵌入するようにした構造の場合、円筒状ライナー4のフラットバー4a表面と円筒状内筒2内周面との間に嵌脱可能な程度の微小間隙が存在することになるが、熱間等方圧加熱装置の運転中は、円筒状ライナー4は、その内周面に高圧が加わること、被処理物を加熱するヒーターの放熱のため温度上昇して熱膨張することにより、円筒状内筒2の内周面に押し付けられることになる。また、前記上部マニホールド8のシール部8b,8c、及び前記下部マニホールド7のシール部7b,7cも、熱間等方圧加熱装置の運転中は、より強くシールされる。
【0033】
そして、前記円筒状内筒2を構成する分割円筒部材2aの分割面は、軸方向に同心となる様な半径方向の段差を有して嵌脱可能に嵌合されている(図1参照)。即ち、軸方向に同心となる様な半径方向の前記段差の内径側と外径側の分割面には隙間嵌めが形成されると共に、軸方向に垂直な各分割面は研磨して低粗度に形成されるのが好ましい。そして、複数本の前記上下締付ボルト9によって、前記分割内筒部材2aが軸方向に締め付けられ、夫々の分割面が相互に密着状態を形成する様に構成されている。
【0034】
ところが、前記円筒状ライナー4と容器胴1を構成する円筒状内筒2との間には、冷却水通路5が形成されている。前記円筒状内筒2を構成する分割円筒部材2aの分割面には、前記上下締付ボルト9の締付による面圧が負荷されるものの、この分割面からの漏水を完全に防止することはできず、前記ピアノ線巻層3は冷却水に浸ることとなる。
【0035】
この冷却水の漏洩防止のため、前記線巻式圧力容器の最外層部に、ジャケットカバー10を設けるのが好ましい(図1参照)。このジャケットカバー10は、ステンレス薄板等の金属により形成して、前記圧力容器の組立最終段階で溶接により取り付けたり、特に大きな力が加わる部材ではないので、金属以外の水密性を有する材質、例えば樹脂板を円筒状に形成して、端面フランジ2bに接着剤により取り付けても良い。
【0036】
次に、この様な上記実施の形態1に係る線巻式圧力容器の製作における線巻工程について、以下添付図5を参照しながら説明する。図5は本発明の実施の形態1に係り、線巻式圧力容器の製作における線巻工程を説明するための図である。
【0037】
上記実施の形態1に係る線巻式圧力容器の線巻工程においては、分割円筒部材2aからなる円筒状内筒2を図示しない回転軸に固定して、この回転軸により前記円筒状内筒2を回転させながら、ピアノ線(高耐力線材)3aに張力を付与しつつ前記円筒状内筒2に巻きつけて行く。
【0038】
しかしながら、図1に示した様に上下締付ボルト9を取り付けた状態では巻線作業ができないので、その中心に前記回転軸用を通すための貫通孔が形成されると共に、その周囲に複数のボルト孔が形成された線巻用補助フランジ11を、両端面フランジ2bの外側に配置する。
【0039】
次いで、線巻用補助ボルト12を円筒状内筒2の中空部を貫通させて、前記線巻用補助フランジ11のボルト孔に通した後、前記線巻用補助ボルト12を締め付けて円筒状内筒2を構成する分割円筒部材2aを締付固定した状態で、線巻作業を行う。線巻作業完了後、正規の上下締付ボルト9によって両端面フランジ2bを締め付けて、前記円筒状内筒2を構成する分割円筒部材2aを締結し、その後、前記線巻用補助ボルト12と線巻用補助フランジ11を除去する。
【0040】
この様に、本実施の形態1による線巻式圧力容器は、円筒状内筒2と、この円筒状内筒2の外周面に張力を付与して高耐力線材3aを巻き付けてなる高耐力線材巻層3と、前記円筒状内筒2の過熱防止用の冷却水通路5とが備えられ、被処理物を高温高圧処理するための線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒2が軸方向に複数に分割された分割内筒部材2aから構成されると共に、これら分割内筒部材2aを軸方向に締め付け自在な締付部材9が備えられている。
【0041】
従って、鍛造鋼にて製作される前記円筒状内筒2は、分割内筒部材2aとして複数に分割されており、その他の部材はピアノ線巻層及び溶接構造物等により構成されるため、特に、前記円筒状内筒2の製作限界が大幅に向上し、従来構造では製造不能であった超大型の容器胴が製作可能となった。
【0042】
ここで、前記円筒状ライナー4自体は、容器胴1(円筒状内筒2及びピアノ線巻層3)に比べれば、疲労強度は相当に劣ることから、一定頻度で新品との交換が必要となる。この交換は、予め疲労解析等で寿命予測を行い、円筒状ライナー4の寿命がくる前に行う様にする。
【0043】
尚、円筒状ライナー4が破損する場合、円筒状ライナー4は比較的薄肉の構造であるので、円筒状ライナー4には厚み方向に貫通する亀裂が生じ、その亀裂を通って冷却水通路5に圧力媒体ガスが漏れ出ることになる。そこで、万一の円筒状ライナー4の破損に備えて、冷却水通路5に十分な噴出し容量を有する安全弁を設けておけば、大規模破損にまで進行する前に、圧力媒体ガスのリークという安全な状態にて前記亀裂の発生を検知して、装置運転を非常停止することが可能である。
【0044】
前記の実施の形態1では、円筒状ライナー4と円筒状内筒2とは隙間嵌めを行うようにしたが、これに代えて、円筒状ライナー4を低温に保持して冷し嵌めを行って、円筒状内筒2内に円筒状ライナー4を嵌入するようにしてもよい。冷し嵌め構造とした場合、円筒状ライナー4は、冷却水通路5に油圧を負荷する等により、その抜き取りが可能である。
【0045】
次に、本発明の実施の形態2に係る線巻式圧力容器を、添付図6,7を参照しながら以下に説明する。図6は本発明の実施の形態2に係る線巻式圧力容器の立断面図、図7は図6に示す線巻式圧力容器の軸方向任意位置において、締付部材を省略して示す平断面図である。
【0046】
尚、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、冷却水の漏洩防止構造に一部相違があり、その他は全く同構成であるから、この冷却水漏洩防止構造についての説明に止めるものとする。
【0047】
即ち、本発明の形態1に係る冷却水の漏洩防止構造においては、前記線巻式圧力容器の最外層部に、ジャケットカバー10が設けられたのに対し、本発明の実施の形態2に係る冷却水の漏洩防止構造においては、円筒状内筒2の外周に防水ライナー13を配置する一方、前記円筒状内筒2の両端面と端面フランジ2bとの接触面に、冷却水通路5の冷却水の漏洩を防止するためのシール部14が設けられている。
【0048】
前記防水ライナー13としては、鉄鋼等の金属薄板を円筒状に巻き付けて、前記円筒状内筒2の外周に装着可能な内径に溶接接合したものが良い。そして、前記分割内筒部材2aを軸方向に締結された円筒状内筒2の外周に装着した後、上記実施の形態1において説明した線巻式圧力容器の線巻工程と同様、前記線巻用補助フランジを両端面フランジ2bの外側に配置し、前記線巻用補助ボルトを締結して分割円筒部材2aを固定した状態で、前記防水ライナー13の外周から線巻作業を行う。
【0049】
すると、前記防水ライナー13は、巻線の圧縮力により円筒状内筒2の外周に密着するので、冷却水通路の冷却水が前記分割内筒部材2aの分割面に浸入したとしても、それ以上前記防水ライナー13の外周側へ漏洩することはない。但し、前記防水ライナー13の両端は巻線層3から外れるため、前記円筒状内筒2の両端面と端面フランジ2bとの接触面からの半径方向への漏水が考えられる。これを防止するための前記シール部14としては、前記両端面フランジ2bの内面側に円周溝を形成し、この円周溝にシールリングを装着したものが好ましい。
【0050】
実施の形態2に係るこの様な構成をなすことによって、上記実施の形態1において要したジャケットカバー10が不要となる。更に、圧縮力が作用するピアノ線層3が冷却水に浸るのを防止できるので、ピアノ線3a自体の疲労による寿命短縮を防げる。一方、強度部材である円筒状内筒2の内周は冷却水と接するが、巻線により予圧縮応力が作用し、加圧運転の繰り返しにおいても圧縮応力下の範囲での応力振幅であり、ピアノ線と比較して元より長い疲労寿命となるので、冷却水と接することによる寿命低下は、容器胴1としての寿命には影響しない。また、円筒状ライナー4は、取替え可能なライナーであって消耗部品である。
【0051】
以上説明した様に、本発明に係る線巻式圧力容器によれば、円筒状内筒と、この円筒状内筒の外周面に張力を付与して高耐力線材を巻き付けてなる高耐力線材巻層と、前記円筒状内筒の過熱防止用の冷却水通路とが備えられ、被処理物を高温高圧処理するための線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒が軸方向に複数に分割された分割内筒部材から構成されると共に、これら分割内筒部材を軸方向に締め付け自在な締付部材が備えられてなるので、鍛造鋼を用いる前記円筒状内筒の製作限界が大幅に向上し、超大型の容器が製作可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態1に係る線巻式圧力容器の立断面図である。
【図2】図1に示す線巻式圧力容器の軸方向任意位置において、締付部材とジャケットカバーを省略して示す平断面図である。
【図3】図2に示す線巻式圧力容器の水平断面図の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図4】図1に示す線巻式圧力容器の円筒状ライナーを説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係り、線巻式圧力容器の製作における線巻工程を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る線巻式圧力容器の立断面図である。
【図7】図6に示す線巻式圧力容器の軸方向任意位置において、締付部材を省略して示す平断面図である。
【図8】他の従来例の実施の形態に係り、プレス枠内に組み込まれてなる高温高圧容器の縦断面図である。
【図9】他の従来例の実施の形態に係る高温高圧容器の横断面の一部分を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…容器胴
2…円筒状内筒, 2a…分割内筒部材, 2b…端面フランジ
3…ピアノ線巻層, 3a…ピアノ線
4…円筒状ライナー, 4a…フラットバー, 4b…冷却水通路用凹部
5…冷却水通路
6…ライナー抜止め部材
7…下部マニホールド, 7a…冷却水室, 7b,7c…シール部
8…上部マニホールド, 8a…冷却水室, 8b,8c…シール部
9…上下締付ボルト
10…ジャケットカバー
11…線巻用補助フランジ
12…線巻用補助ボルト
13…防水ライナー
14…シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状内筒と、この円筒状内筒の外周面に張力を付与して高耐力線材を巻き付けてなる高耐力線材巻層と、前記円筒状内筒の過熱防止用の冷却水通路とが備えられ、被処理物を高温高圧処理するための線巻式圧力容器において、前記円筒状内筒が軸方向に複数に分割された分割内筒部材から構成されると共に、これら分割内筒部材を軸方向に締め付け自在な締付部材が備えられてなることを特徴とする線巻式圧力容器。
【請求項2】
前記円筒状内筒内に、その外周部に冷却水通路用凹部を有する円筒状ライナーが嵌脱可能に嵌入され、前記円筒状内筒の内周面と前記冷却水通路用凹部との間に前記冷却水通路が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の線巻式圧力容器。
【請求項3】
前記円筒状ライナーが、その外周面に、長手方向に沿って延びる複数の狭幅長尺部材を円周方向に所定間隔を隔てて接合したものであって、隣り合う前記狭幅長尺部材同士の隙間部分によって長手方向に沿って延びる前記冷却水通路用凹部が形成されてなることを特徴とする請求項2に記載の線巻式圧力容器。
【請求項4】
前記分割円筒部材の分割面が、軸方向に同心となる様な半径方向の段差を有して嵌脱可能に嵌合されてなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つの項に記載の線巻式圧力容器。
【請求項5】
前記締付部材が、前記円筒状内筒の両端に配置された両端フランジと、これら両端フランジ間を締め付ける上下締付ボルトとを備えてなることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つの項に記載の線巻式圧力容器。
【請求項6】
前記円筒状内筒の外周に、前記冷却水通路からの漏水を防止するための防水ライナーが配設されてなることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つの項に記載の線巻式圧力容器。
【請求項7】
前記円筒状内筒の両端面と前記両端フランジとの接触面に、前記冷却水通路からの漏水を防止するためのシール部が設けられてなることを特徴とする請求項6に記載の線巻式圧力容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−91172(P2010−91172A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260653(P2008−260653)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】