線形イオントラップにおけるイオン冷却の方法
イオントラップに保持されるイオンを冷却するための方法について開示する。種々の実施形態では、冷却ガスは、線形イオントラップ内に供給され、トラップの少なくとも一部分において、イオン保持時間未満の持続時間の間、約8x10−5トールを超える非定常状態圧力上昇が引き起こされる。種々の実施形態では、圧力上昇の持続時間は、イオンが所望の量のその運動エネルギーを損失するのに必要な時間に基づくことが可能である。一実施形態において、方法におけるイオン閉じ込め装置は、4重極線形イオントラップを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般的にイオントラップとして知られているイオン閉じ込め器具は、イオン化された原子、分子、または分子断片の研究および分析に有用である。質量分析の分野では、イオントラップは、しばしば1つ以上の質量分析計と組み合わせられ、トラップを使用して、分析のためにイオンを質量分析計内に放出する前に、イオンを保持および冷却することが可能である。質量分析計は、質量に従ってイオンを分離し、質量スペクトルピークを表す信号を生成し、その信号の各々は、特定の質量において検出されるイオンの数に比例する大きさを有する。このように、未知の化学的組成の試料から得られるイオン化ガスに存在する既知の原子、分子、および分子断片の相対存在度および絶対存在度を決定することが可能である。このような情報は、化学、薬理学、生体系、薬物、セキュリティ、および法医学の分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
イオン冷却処理、つまり、イオンがトラップに保持される間に運動エネルギーを損失する処理は、後続の質量分析の分解能を改善する。また、数電子ボルト(eV)を超える平均運動エネルギー値を有するイオンの収集は、運動エネルギー値の分布も有する。運動エネルギーにおけるこの分布または拡散が、質量分析計における質量値の拡散として明示されることは望ましくない。結果として、質量スペクトルピークの幅は広がり、その大きさは、エネルギーイオンについて減少する。ほぼ同等の質量を有する2つの異なるイオンは、その広範なスペクトルピークが実質的に重複する場合、単一のイオンとして誤識別され得る。イオンの冷却により、質量スペクトルピークが鮮明化され、測定分解能が改善され、分析の精度が増す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特定の種類のイオントラップ、つまり線形イオントラップ(LIT)では、イオン冷却時間は、典型的には、50ミリ秒から150ミリ秒持続する。この冷却時間は、データ取得における遅延を表し、イオンが過剰運動エネルギーを損失し、かつ冷却する間に器具の使用は待機しなければならない。動作のいくつかのモードでは、信号対雑音比を所望のレベルまで増加させるために、単一の試料の種類について何百もの走査を行なわなければならない。これらの測定では、イオン冷却時間は、データ入手時間の不要に長い区間を表す。
【課題を解決するための手段】
【0004】
種々の側面では、本教示は、線形イオントラップに保持されるエネルギーイオンを冷却するための方法を提供する。イオンがトラップに保持されている間、中性分子の冷却ガスは、冷却ガスの分子がイオンの運動エネルギーの一部または大部分を吸収できるように、トラップ内に供給される。中性分子とイオンとの間の相互作用により、イオンの冷却速度を加速することが可能である。種々の実施形態では、冷却ガスは、パルスガス弁を使用して、短い持続時間の間供給される。その後、ガスを排出することが可能であり、トラップからのイオンの軸方向放出による質量選択に適切な低い値に、LIT内の圧力を復元することが可能である。
【0005】
種々の実施形態では、イオン閉じ込め装置に保持されるエネルギーイオンを冷却するための方法は、複数のステップを含む。これらのステップは、(1)保持時間の間、イオン閉じ込め装置においてイオンの収集をトラップおよび保持するステップと、(2)イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約8x10−5トールを超えて上昇させるために、保持時間中、冷却ガスをイオン閉じ込め装置内に供給するステップと、(3)保持時間の少なくとも一部分の間、イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップと、(4)保持時間の終了時に、イオン閉じ込め装置からイオンを放出するステップとを含むことが可能であるが、これらに限定されない。
【0006】
種々の実施形態では、イオンを冷却する方法は、中性分子の冷却ガスの供給のための装置に適合する4重極線形イオントラップ(LIT)において実行される。供給装置は、事前選択のノズルを含む1つ以上の高速パルス弁を含むことが可能である。供給装置は、LIT内のイオン閉じ込め領域に作用するガスのプルームを生成することが可能である。ガスのプルームは、イオントラップの少なくとも一部分において供給された中性分子の空間密度分布を生成することが可能である。種々の実施形態では、供給された冷却ガスは、イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、約50ミリ秒未満の所定の持続時間の間に、約8x10−5トールを超えて上昇させる。
【0007】
種々の実施形態では、圧力が所望のレベルを超えて上昇する所定の持続時間は、イオンの質量に依存する。概して、質量の大きいイオンは、軽いイオンよりも長い圧力上昇の持続時間を必要とする。
【0008】
種々の実施形態では、冷却処理中にイオンにより損失される事前に設定された量の運動エネルギーは、その初期運動エネルギーの約99%よりも大きく、圧力上昇の所定の持続時間は、この量の損失エネルギーに必要とされる時間の約85%から約115%の範囲内にあるように選択される。種々の実施形態では、イオンにより損失される事前に設定された量の運動エネルギーは、環境エネルギー値の約115%を超えるエネルギー量であり、圧力上昇の所定の持続時間は、この量の損失エネルギーに必要とされるこの時間の約85%から約115%の範囲内にあるように選択される。
【0009】
種々の実施形態では、供給される冷却ガスは、水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、キセノン、クリプトン、およびメタンのうちの1つ以上から構成可能である。
【0010】
種々の実施形態では、線形イオントラップ内の圧力は、冷却ガスの供給終了後に、より低い値に復元する。次いで、イオンは、質量選択軸方向放出を使用して、イオントラップから効率的に放出可能である。例えば、種々の実施形態では、圧力は、イオン閉じ込め装置からのイオンの放出中に、約2x10−5トールから5.5x10−5トールの範囲に回復する。
【0011】
種々の実施形態では、パルス弁は、イオンが線形イオントラップに付加されている間に断続的にパルス可能である。例えば、衝突ガスは、約50ミリ秒毎に約5ミリ秒の充填持続時間の間、パルス弁を開放することによって、LIT内に導入可能である。種々の実施形態では、ガスは、トラップにより保持されるイオンの数と、弁の開放時間の量との間の実質的に線形の関係を提供するために、断続的にLIT内にパルスされる。
【0012】
本教示の前述のおよび他の側面、実施形態、および特徴は、添付の図面と併用して、以下の説明によってさらに十分に理解可能になる。図面において、同一の参照文字は、概して、種々の図面において同一の特徴および構造的要素を指す。図面は、必ずしも縮尺が一定ではなく、代わりに、教示の原理を図示する際に強調されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
当業者は、本明細書に説明する図面が例示目的のためだけのものであることを理解する。図面は、一定の縮尺であることを意図しない。図面において、本教示は、4重極線形イオントラップを使用して図示されるが、6重極線形イオントラップ、多重極線形イオントラップ、およびイオンサイクロトロン共鳴イオントラップを含むがこれらに限定されない他の種類のイオントラップを使用することが可能である。図面は、本教示の範囲を制限するように決して意図されない。
【図1】図1は、線形イオントラップ(LIT)を有するイオン分析器具のブロック図である。
【図2A】図2Aは、4重極線形イオントラップと、ガスをトラップ内に注入する装置とを示す立面側面図である。
【図2B】図2Bは、図2Aに示す4重極トラップの立面端面図である。種々の実施形態を示すために、3つのガス注入ノズルが図面に追加されている。
【図3A】図3Aは、LIT内に注入された冷却ガスのプルームによって生成される空間変動圧力分布のグラフである。このグラフは、注入された分子の流れに対して横断する方向に対応する。
【図3B】図3Bは、LIT内に注入されたガスのプルームによって生成される空間変動圧力分布のグラフである。このグラフは、注入された分子の流れに共線的な方向に対応する。
【図4A】図4Aは、冷却チャンバ内の2つの圧力についての、時間または冷却時間の関数としてのイオン運動エネルギーのグラフである。本データは、2,800Da、+1電荷状態イオンについて計算した。
【図4B】図4Bは、冷却チャンバ内の2つの圧力についての、時間の関数としてのイオン運動エネルギーの理論的グラフである。本データは、16,950Da、+10電荷状態イオンについて計算した。
【図5A】図5Aは、ガス注入冷却イオン(暗曲線)と従来の冷却イオン(明曲線)についての、時間の関数としての質量スペクトルピークの半値全幅(FWHM)値を比較する例証的グラフである。
【図5B】図5Bは、2つの異なる初期運動エネルギー(黒い記号と白い記号)を有するガス注入冷却イオン(3角形)と従来の冷却イオン(円形)についての、時間の関数としての質量スペクトルピークの半値全幅(FWHM)値を示す実験データのグラフである。
【図6A】図6Aは、冷却ガスの注入中および注入後のイオン閉じ込め空間における非定常状態圧力を表す例証的グラフである。
【図6B】図6Bは、10ミリ秒、20ミリ秒、50ミリ秒の3つの時間について、背圧が150トールのノズルからのガス注入中および注入後の、250リットル/秒の速度で排出される10リットルチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図6C】図6Cは、100L/s、250L/s、500L/s、750L/s、1000L/sの5つの排出速度において、10ミリ秒間、背圧が150トールのノズルからのガス注入中および注入後の、10リットルチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図6D】図6Dは、250L/sの排出速度において、10ミリ秒間、背圧が150トールのノズルからのガス注入中および注入後の、5L、10L、15L、20Lの4つのサイズのチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図6E】図6Eは、250L/sの5つの排出速度において、10ミリ秒間、P=50トール、100トール、150トールである3つの異なる圧力Pの背圧を有するノズルからのガス注入中および注入後の、10リットルチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図7】図7は、LIT内の圧力の関数としての、質量選択軸方向放出(MSAE)効率に関する実験的に決定されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に提示する教示は、種々の側面において、線形イオントラップに保持されるエネルギーイオンを冷却するための方法に関する。種々の実施形態では、イオンの冷却速度は、所定の持続時間に中性分子の冷却ガスをトラップ内に供給することによって加速可能である。供給される中性分子は、エネルギーイオンと相互作用し、イオンの運動エネルギーの一部を吸収することができる。供給されたガスにより、8x10−5トールを超えるトラップ内の圧力上昇が引き起こされ、トラップ内に非定常状態圧力が生成される。種々の実施形態では、中性ガス供給の所定の持続時間は、イオンが所定の量のその運動エネルギーを損失する時間に実質的に一致することが可能である。イオンの運動エネルギーが所望のレベルまで低減すると、中性ガスを排出し、トラップからイオンを放出することが可能である。本明細書に説明する方法は、種々の実施形態では、冷却ガスを供給せずに得られるよりも急速にイオンの冷却を可能にする。
【0015】
イオントラップは、イオンのガスに存在するイオン種の分析および決定に有用である。理解する目的で、種々の実施形態では、4重極線形イオントラップ(LIT)120、イオン前処理要素110、およびイオン後処理要素130を有する一般的なイオン分析器具100を図1に示す。種々の実施形態では、前処理要素110は、イオン源または質量分析計であることが可能であり、後処理要素130は、質量分析計、タンデム量分析計、またはイオン検出装置であることが可能である。
【0016】
イオンは、前処理要素110内において、ガス形態で生成および調製されるか、または選択され、次いで、実質的にイオン通路105に沿って4重極LIT120内に移動可能である。LITを使用して、イオンを空間的に拘束すること、およびイオンをある時間の間保持することが可能である。この保持時間中、1つ以上のイオン関連動作を実行することが可能である。種々の実施形態では、これらの動作には、電気的励起、フラグメンテーション、選択、および冷却が含まれることが可能であるが、これらに限定されない。保持時間の後、イオンは、LITから、例えば、質量分析計であり得るイオン後処理要素130内に放出可能である。LITからのイオンの放出は、例えば、質量選択軸方向放出(MSAE)を介して発生可能である。
【0017】
実際は、LIT120内のチャンバおよび後処理要素130は、典型的には、真空下にあり、イオン通路105は、真空下にある。種々の実施形態では、冷却ガスの注入前にLIT120に存在する定常状態背景圧力は、約5x10−5トール未満である。トラップからイオンが放出される際、圧力は、MSAEを効率的に実行できるように、約2x10−5トールから約5.5x10−5トールの間であることが可能である。
【0018】
図1に関連して4重極線形イオントラップについて説明するが、他の種類のイオントラップを、本明細書に教示する方法または方法の修正とともに使用してもよい。他の種類のイオントラップには、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)トラップ、6重極線形イオントラップ、および多重極線形イオントラップが含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
種々の実施形態における4重極LIT120のいくつかの内部構成要素を、図2A〜図2Bに示す。4つの伝導性ロッド210は、イオン通路105に対して平行にある。DC成分およびAC成分を含む電位は、ロッド210およびエンドキャップ(図示せず)に印加可能であり、イオンをトラップ内のイオン閉じ込め領域205に空間的に閉じ込める電場を生成する。トラップに進入し、かつ経路105に沿って移動するイオンは、捕捉され、イオン閉じ込め領域205において保持時間の間保持されることが可能である。
【0020】
図2A〜図2Bに図示するガス供給要素240、管220、パルス弁230、およびガス注入ノズル222を備える追加の装置を、本明細書に開示する種々の実施形態および方法に従って、LIT内に閉じ込められるイオンの冷却速度を増加させるようにLIT120に追加することが可能である。種々の実施形態では、パルス弁は、Lee Company, Westbrook, Connecticut, U.S.により供給される種類、つまり、0.25ミリ秒の応答時間、0.35ミリ秒の最小パルス持続時間、および250x106周期の稼動寿命を有する型番INKA2437210Hであることが可能である。図2Aを参照すると、種々の実施形態では、ノズルは、ロッド210から距離d1262を置いて位置し、かつイオン閉じ込め領域205の中心から距離d2264を置いて位置することが可能である。種々の好適な実施形態では、d1は約10mmであり、d2は約21mmである。
【0021】
ガス注入ノズル222の設計および位置は、発明者により研究された。ガスをノズル222から放出する際、ガスは、図2Aに示すように、円錐状のプルーム224を生成する。このプルームは、注入されたガス分子の一定のガス密度の境界、すなわち、LIT内における空間密度分布を表す。種々の実施形態では、ガス注入のために追加される装置は、プルーム224がイオン閉じ込め領域205を実質的に重複し、注入された分子とトラップされたイオンとの効率的な混合を可能にするように、LIT120上に位置することが可能である。さらに、ノズル自体は、所定のプルーム形状を供給するように設計され、イオン閉じ込め領域205に可能な限り近くに位置することが可能である。
【0022】
注入された分子の空間密度分布またはプルーム形状224に関する詳細は、図3A〜図3Bに示す圧力の理論的グラフにおいて提供され、ガス注入装置の多くの可能な実施形態のうちの1つを表す。LIT120内に注入された分子の密度は、自由ジェット拡張について確立された数式を使用して推定されている。この推定では、ノズルは、イオン閉じ込め領域205の中心から約d2=25mmに位置する。グラフに示す圧力プロファイルは、注入ガスが標準的な温度、273.15Kであることを前提として、分子の空間密度プロファイルから計算される。図面の点線は、冷却ガスの注入前にLITに存在する背景圧力を表す。
【0023】
図3Aは、ノズル222の開口からd2=25mmの距離にあるこの図示する実施形態について計算される横方向または半径方向圧力プロファイルを示す。圧力は、チャンバの背景圧力の下限に到達するまで、図2Aのプルーム軸215の両側に漸減する。ノズル222からの所与の距離における最高圧力または注入分子の最高密度は、プルーム軸215上にある。種々の実施形態では、プルーム軸215は、イオン閉じ込め領域205の中心を横断する。
【0024】
図3Bは、流れが確立された後の、図3Aの同一の図示する実施形態についての、ノズルから放出されるガスジェットの計算された軸方向圧力プロファイルを示す。横軸は、プルーム軸215に沿った距離に相当する。背景圧力は、約3.7x10−5トールである。この圧力は、低過ぎて、自由ジェット膨張に通常関連する衝撃波構造に対応しない。次いで、背景圧力は、軸方向プロファイルが到達する最小圧力になる。図3Bから、ノズル222が領域205の中心から距離d2=21mmを置いて位置する場合に、イオン閉じ込め領域205におけるピーク圧力が、LIT内の背景圧力の3倍を超えることが可能であることが分かる。
【0025】
図2Bは、冷却ガス注入ノズルを配置するための多くの種々の実施形態のうちの1つを図示する。図示するように、複数のガス注入ノズルが、イオン閉じ込め領域205の周囲に対称的に分散可能である。したがって、ノズルによるイオン閉じ込め電場の任意の歪みは、対称的に発生する。種々の実施形態では、これにより、距離d1262およびd2264が減少し、図3Bに従ってイオン閉じ込め領域内の圧力が増加する。種々の実施形態では、全ての注入ガス分子の平均速度は、ゼロであり、弱くトラップされたイオンをトラップから退出させ得る正味の流速の電位の有害な影響を低減する。
【0026】
中性分子の注入冷却ガスがLIT120に保持されるイオンの冷却速度に与える効果は、以下により理解され得る。エネルギーイオンの冷却速度は、その衝突頻度zに比例し、衝突ガスの圧力にも比例することが可能である。これは、関係式
【0027】
【数1】
から分かり、式中、σは、Å2における衝突断面積であり、N/Vは、注入された中性分子の密度であり、vrelは、イオンおよび中性分子の相対衝突速度である。圧力がN/Vに比例するため、イオン冷却速度は、圧力に比例する。したがって、イオン閉じ込め領域205内の冷却ガスの圧力の増加によって、イオン冷却速度が増加することが可能である。
【0028】
弾性(硬球)散乱では、n衝突後のイオンのエネルギー、E'lab(n)は、
【0029】
【数2】
により求められ、式中、m1およびm2は、衝突相手の質量であり、nは、イオンが受ける衝突の数である。本式は、イオンの熱運動速度分布を無視し、Elabが熱運動エネルギーに近づくにつれて正確でなくなる。この単純なモデルにおいて、イオンの必要な最終運動エネルギーが、各圧力において同数の衝突を有するイオンに依存することが分かる。数式(1)および(2)は、LITにおいて使用する任意の無線周波数閉じ込め電場の効果を無視する。これらの電場は、追加の運動エネルギーをイオン内に与え、その影響は、数値シミュレーションによってより簡単に検査される。
【0030】
水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、キセノン、クリプトン、およびメタンを含むがこれらに限定されない広範な種類のガスは、冷却ガスとしての役割を果たすことが可能である。質量中心計算によると、衝突ガスが重ければ重いほど、イオンからの運動エネルギーの除去に効率的であり、一方、ガスが軽ければ軽いほど、効率的でなくなることが示され、例えば、軽分子の注入ガスは、重分子ガスよりも長い冷却時間を必要とする。
【0031】
中性分子が、LIT内のエネルギーイオンに及ぼす効果は、3.5x10−5トールの背景圧力における中性ガスの冷却と、ガス注入による1x10−4の上昇圧力における冷却との2つの事例について、時間の関数として計算されたイオンの運動エネルギーの変化に関する理論的シミュレーションにより観測可能である。数式(2)に基づくこのようなシミュレーションによる結果は、2つの異なる質量および荷電状態、つまり、2,800Da、荷電状態+1(図4A)と、16,950Da、荷電状態+10(図4B)とのイオンについて、図4A〜図4Bにおいてグラフ化される。低圧力の結果は、白丸でグラフ化され、高圧力の結果は、黒丸でグラフ化される。高圧結果は、中性分子のガスのLIT内への注入に相当する。これらのシミュレーションについて、窒素冷却ガスに対応するパラメータを使用した。
【0032】
図4Bに示す事例では、イオンの初期運動エネルギーは、10eVであり、イオンは、0.12のq値で半径方向トラップ場内に含まれる。マシューパラメータとしても既知であるq値は、特定のイオントラップのイオントラップ電位を表し、比率Vrf/(m/z)に比例し、式中、Vrfは、トラップにおける電極に印加されるRFトラップ電圧の振幅であり、m/zは、トラップされたイオンの質量対電荷比である。図4Aから、圧力を1.0x10−4トールに増加させると、100msの時点における3.5x10−5トールの圧力のイオンの運動エネルギー値を35ミリ秒で達成することが可能であることが分かる。冷却速度における約3倍の増加の結果として生じる因子は、圧力比に対応し、イオン冷却期間における有意な減少を表す。
【0033】
図4Bに示すように、より重い16,950Daのイオンであって、+10電荷状態および100eVの初期運動エネルギーを有するイオンについて、同一の効果が観測される。高電荷状態を有するイオンは、電荷状態とLITへの進入時にイオンが受ける電位エネルギー差とを掛けたものに比例する運動エネルギーを有する。本性質のイオンは、良好なMSAE実行のために許容可能な運動エネルギーに対する冷却のためにより長い時間を必要とする。
【0034】
図4A〜図4Bのシミュレーション事例では、運動エネルギー損失の増加割合、冷却の増加割合は、対応する低圧力事例に高圧力事例を比較すると明白である。両事例では、イオンの運動エネルギーは、点線430a、430bにより示される基準エネルギーレベルまたは環境運動エネルギーレベルまで近づくまで、ピーク値から減少する。環境レベルの値は、特定のイオンのトラップ条件、例えば、背景圧力、温度、ならびにイオントラップ場の振幅および周波数に関連するパラメータにより決定される。実際は、環境レベルは、図4A〜図4Bに示す環境レベルよりも高いまたは低いことが可能である。
【0035】
図4A〜図4Bを参照すると、種々の実施形態では、LIT内の圧力が事前所望値を超えて上昇する所定の持続時間は、環境エネルギーレベルを超えてその運動エネルギーを損失するのにかかる時間にほぼ同等であるように選択可能である。例えば、種々の実施形態では、所定の持続時間は、図4Aの事例では、約30ミリ秒(ガス注入に20ミリ秒、その後、注入後遅延に10ミリ秒)であり、図4Bの重イオンの事例では、約60ミリ秒である。例えば、冷却ガス供給の持続時間を限定することによって、LIT内の圧力上昇の所定の持続時間を限定することによって、より低い背景レベルに圧力を復元することが可能である速度が増加する。低背景レベルへの圧力の急速な復元によって、種々の実施形態では、イオン冷却に関連する時間を減少させることにより、測定のデューティサイクルが増加する。
【0036】
イオン冷却時間は、衝突ガスの圧力、衝突ガスを含む分子の質量、衝突断面積、イオンの質量、イオンの電荷、衝突ガスを含む分子の分極率、およびトラップに印加するトラップ電位のパラメータのうちの1つ以上に依存することが可能である。研究中の特定のイオンでは、イオン冷却時間は、数値シミュレーションから近似的に導出されるか、実験的に決定されるか、または両手法の組み合わせから得られることが可能である。イオン冷却時間が決定されると、イオン閉じ込め領域内の圧力上昇のための所定の持続時間は、イオン冷却時間に基づくことが可能である。例えば、種々の実施形態では、所定の持続時間は、イオン冷却時間にほぼ同等であることが可能である。種々の実施形態では、所定の持続時間は、トラップにおけるイオンの平均運動エネルギーが、トラップ中に到達するそのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔の約85%から115%の間の範囲にあることが可能である。種々の実施形態では、所定の持続時間は、トラップにおけるイオンの平均運動エネルギーが、トラップにおけるイオンの環境運動エネルギー値よりも約15%大きい値未満まで減少する時間間隔の約85%から115%の間の範囲にあることが可能である。
【0037】
イオンの運動エネルギーの減少は、質量分析計内のイオンの後続分析から観測される質量スペクトルピークの狭幅化に寄与することが可能である。過剰イオン運動エネルギーは、質量スペクトルピークのエネルギー分散広幅化を引き起こし、これは、概して、質量分析において望ましくない結果である。スペクトル狭幅化の例を図5Aに図示する。本グラフは、冷却時間の関数として、質量分析計において仮定的に測定されるイオンのスペクトル分布の半値全幅(FWHM)値を示す。概して、イオン冷却がその運動エネルギー分布を狭幅化すると、結果としてFWHM値は減少する。ガス注入冷却を行なわない薄陰影付き曲線512では、結果として生じるFWHM値は、線534により示される最終値まで経時的に減少する。ガス注入冷却を行なう曲線510では、FWHM値は、より急速に減少し、質量分析のためにトラップからイオンをより急速に放出することが可能になる。
【0038】
ガス注入を行なうおよびガス注入を行なわない冷却時間の関数としてのイオンのFWHMスペクトル値の実験的測定は、図5Aに示す傾向を示す。実験結果は、イオン922m/zについて図5Bにおいて報告される。このイオンについて、2eVの軸方向運動エネルギーと、8eVのエネルギーとを有するLITに進入するイオンの2つの事例についてデータを生成した。また、中性分子の冷却ガスの注入を行なって、および行なわずにデータを生成した。丸は、3.5x10−5トールの定圧に関するデータ、すなわち、冷却ガスの注入を行なわないデータを表す。ガス注入を行なわない場合、FWHMスペクトル値がその約最終値まで減少するのに必要な時間は、約75ミリ秒である。ガス注入を行なう場合、同等のFWHM値に到達する時間は、30ミリ秒未満である。実験では、ガス注入は、20ミリ秒続き、その後10ミリ秒の注入後遅延が続いた。10ミリ秒の遅延の終了時に、質量分析のためにMSAEを介してイオンを放出した。イオン閉じ込め領域内のピーク圧力を直接測定しなかったが、器具における平均圧力は、本実験について9.5x10−5トールを超えなかった。実験結果により、少なくとも約45ミリ秒または約60%の器具のイオン冷却段階における減少が、トラップされたイオンのガス注入冷却により可能になることが実証される。
【0039】
また、図5Bは、低運動エネルギーでLITに進入するイオンが速く冷却することを示す。この差異は、8eVイオン(軸方向運動エネルギー、黒丸)と2eVイオン(軸方向運動エネルギー、白丸)とを比較して示される。
【0040】
図5Bでは、ガス注入事例の曲線の前部は測定されなかった。これは、器具全体において結果として生じる時間変動圧力上昇に起因する。高圧でのトラップからのイオンの放出効率は、低くなり得る。図5Bに報告する事例に関し、冷却ガスの注入終了後に発生する遅延を使用して、トラップからのイオンの効率的な放出のために、質量分析計内の圧力を事前所望値に復元した。種々の実施形態では、イオン閉じ込め領域内の所望の圧力上昇のための注入ガスの全量を減少させるように、パルス弁230およびノズル222は、LIT内のイオン閉じ込め領域205に近接近して位置する。
【0041】
冷却ガスの注入中および注入後のLITの少なくとも一部分内において発生する非定常状態圧力は、図6Aにおける曲線610として例証的にグラフ化される。種々の実施形態では、中性分子のガスは、ガス注入持続時間に対し、時間t=0において、LIT内に注入可能である。次いで、圧力は、初期基準圧力P0636からピーク値まで上昇し、次いで、ガスがチャンバから排出されるとP0に戻って減衰する。図2Aのイオン閉じ込め領域205内の圧力は、類似の軌道をたどる。種々の実施形態では、ガス注入持続時間は、約50ミリ秒(ms)未満である。種々の実施形態では、ガス注入持続時間は、約30,000Daを超える質量を有するイオンでは、約50ミリ秒を上回り、約5,000Da未満の質量を有するイオンでは、約50ミリ秒未満である。
【0042】
種々の実施形態では、器具の時間効率の良い動作に関する曲線610について2つの側面、つまり、圧力が事前所望の冷却圧力Pc632を超える持続時間と、圧力がそのピーク値から事前所望の動作圧力Pd634に回復するのにかかる持続時間とが存在する。圧力が事前所望の冷却圧力を超えている持続時間は、線622と線624との間の時間間隔として示すことが可能である。種々の実施形態における器具の時間効率の良い動作では、圧力が事前所望の冷却圧力を超えている持続時間は、イオンがその過剰運動エネルギーの事前所望量を損失するのに必要な時間に実質的に一致するように選択される。例えば、種々の実施形態では、図6Aの線622と線624との間の間隔により示される持続時間は、イオン運動エネルギーが、環境値、例えば、図4の線430aよりも約15%大きくなる時間の量に実質的に同等になるように選択されることが可能である。続けて本例を参照すると、圧力上昇の持続時間は、約30ミリ秒である。
【0043】
圧力回復持続時間、すなわち、事前所望の動作圧力Pd634の復元に必要な時間を、図6Aにおける曲線610のピーク圧力値と線626との間の時間間隔により示すことが可能である。この回復時間は、例えば、器具における感圧検出器が作動した後の注入後遅延、イオンがトラップから放出されたこと等を表す。種々の実施形態では、器具の待機時間を可能な限り回避するために、この遅延を最小化することが望ましい。
【0044】
LIT内の圧力ダイナミクスも発明者により研究された。チャンバにおける非定常状態圧力展開は、数式
【0045】
【数3】
により表され、式中、P(t)は、時間の関数としての圧力であり、Qは、注入ノズルのスループットであり、Sは、ポンプのポンプ速度であり、Vは、チャンバの体積であり、P0は、チャンバの背景圧力である。図2Aにおける弁230が真空チャンバにおける圧力を閉鎖する場合、数式
【0046】
【数4】
により説明することが可能であり、式中、Poffは、弁の閉鎖時におけるチャンバの瞬間圧力である。
【0047】
Q=0.136トールL/s、S=250L/s、V=10L、およびP0=3.7x10−5トールの条件についての、数式(3)および(4)に従って計算された3つの圧力プロファイルを図6Bに示す。ノズルにおける背圧は、150トールとされた。3つの曲線は、パルス弁230が10ミリ秒、20ミリ秒、および50ミリ秒開放する場合にもたらされ得る予測圧力プロファイルを表す。ガス注入時即時間が長くなると、ピークチャンバ圧力が高くなり、回復時間が長くなる。
【0048】
図6C〜図6Dは、ポンプ速度に対する圧力プロファイルの依存(図6C)と、チャンバ体積に対する圧力プロファイルの依存(図6D)を示す。チャンバ圧力は、ポンプ速度が増加するにつれて、およびチャンバ体積が減少するにつれてより急速に回復し、圧力は、体積の小さいチャンバについてより急速に上昇する。図6Cの条件では、弁は、10ミリ秒間開放され、背圧は150トールであり、チャンバの体積は、10Lに設定された。図6Dの条件では、弁は、10ミリ秒間開放され、背圧は150トールであり、ポンプ速度は、250L/sに設定された。
【0049】
ガス注入ノズル230のスループットは、圧力プロファイルの形状に寄与する因子であることが可能である。スループットは、ノズルのオリフィス直径およびその背圧から決定可能である。図6Eは、ノズルの背圧の関数としての圧力プロファイルを示す。この場合、弁は、10ミリ秒間開放し、チャンバ体積は、10Lに設定され、ポンプ速度は、250L/sであった。
【0050】
図3A、図3Bおよび図6B〜図6Eから、LIT領域のイオン閉じ込め領域における圧力が、ノズルの位置、ノズルの開口のサイズ、背圧、ポンプ速度、およびチャンバ体積に依存することが分かる。種々の実施形態では、LITロッドの幾何学的形状およびそのガス伝導性も、イオン閉じ込め領域205内における時間変動および空間変動圧力プロファイルに影響を及ぼし得る。例えば、種々の実施形態では、4重極ロッドのサイズを使用して、イオンがトラップされる領域250に対しパルス弁およびノズルをどの程度近づけるかを決定する。
【0051】
種々の実施形態では、圧力回復持続時間は、例えば、任意の感圧構成要素の安全動作を可能にする器具内における圧力Pdの復元、LITからのイオンの効率的な放出等に必要な時間によって、決定可能である。種々の実験では、イオン放出は、質量選択軸方向放出(MSAE)の方法を使用して実行された。図7は、LIT圧力の関数としてのMSAE抽出効率に関するグラフである。本データセットは、MSAE処理の抽出効率が、約2x10−5トールを超え、かつ最大約5.5x10−5トールである圧力において約30%を超えることを示す。種々の実施形態では、MSAEのための圧力上限は、圧力回復持続時間を決定する支配因子であることが可能である。真空チャンバをこの圧力までポンプで下げるのに必要な時間量は、例えば、注入ノズルからチャンバに導入されるガス負荷、LITチャンバに使用されるポンプのポンプ速度、および真空チャンバの体積の関数である。
【0052】
特許、特許出願、論説、書籍、論文、およびウェブページを含むがこれらに限定されない本出願に引用する全ての文献および類似の資料は、このような文献および類似の資料の形式にかかわらず、参照によりその全体が明示的に組み込まれる。定義された用語、用語の用法、説明する技法、またはその同等物を含むがこれらに限定されない組み込まれた文献および類似の資料のうちの1つ以上が本出願とは異なるか、または本出願に矛盾する場合、本出願が支配する。
【0053】
本明細書に使用する項の表題は、構成目的のためだけのものであり、説明する主題を限定するものとして決して解釈されない。
【0054】
種々の実施形態および実施例に関連して本教示について説明したが、本教示をこのような実施形態および実施例に限定することを意図しない。逆に、本教示は、当業者が理解する種々の代替、修正、および同等物を包含する。
【0055】
請求項は、その趣旨について記述がない限り、説明する順番または要素に限定されるものとして読まれるべきではない。添付の請求項の精神および範囲から逸脱することなく、形式および詳細における種々の変更を当業者が加えてもよいことを理解されたい。以下の請求項の精神および範囲内で生じる全ての実施形態およびその同等物は、請求される。
【技術分野】
【0001】
一般的にイオントラップとして知られているイオン閉じ込め器具は、イオン化された原子、分子、または分子断片の研究および分析に有用である。質量分析の分野では、イオントラップは、しばしば1つ以上の質量分析計と組み合わせられ、トラップを使用して、分析のためにイオンを質量分析計内に放出する前に、イオンを保持および冷却することが可能である。質量分析計は、質量に従ってイオンを分離し、質量スペクトルピークを表す信号を生成し、その信号の各々は、特定の質量において検出されるイオンの数に比例する大きさを有する。このように、未知の化学的組成の試料から得られるイオン化ガスに存在する既知の原子、分子、および分子断片の相対存在度および絶対存在度を決定することが可能である。このような情報は、化学、薬理学、生体系、薬物、セキュリティ、および法医学の分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
イオン冷却処理、つまり、イオンがトラップに保持される間に運動エネルギーを損失する処理は、後続の質量分析の分解能を改善する。また、数電子ボルト(eV)を超える平均運動エネルギー値を有するイオンの収集は、運動エネルギー値の分布も有する。運動エネルギーにおけるこの分布または拡散が、質量分析計における質量値の拡散として明示されることは望ましくない。結果として、質量スペクトルピークの幅は広がり、その大きさは、エネルギーイオンについて減少する。ほぼ同等の質量を有する2つの異なるイオンは、その広範なスペクトルピークが実質的に重複する場合、単一のイオンとして誤識別され得る。イオンの冷却により、質量スペクトルピークが鮮明化され、測定分解能が改善され、分析の精度が増す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特定の種類のイオントラップ、つまり線形イオントラップ(LIT)では、イオン冷却時間は、典型的には、50ミリ秒から150ミリ秒持続する。この冷却時間は、データ取得における遅延を表し、イオンが過剰運動エネルギーを損失し、かつ冷却する間に器具の使用は待機しなければならない。動作のいくつかのモードでは、信号対雑音比を所望のレベルまで増加させるために、単一の試料の種類について何百もの走査を行なわなければならない。これらの測定では、イオン冷却時間は、データ入手時間の不要に長い区間を表す。
【課題を解決するための手段】
【0004】
種々の側面では、本教示は、線形イオントラップに保持されるエネルギーイオンを冷却するための方法を提供する。イオンがトラップに保持されている間、中性分子の冷却ガスは、冷却ガスの分子がイオンの運動エネルギーの一部または大部分を吸収できるように、トラップ内に供給される。中性分子とイオンとの間の相互作用により、イオンの冷却速度を加速することが可能である。種々の実施形態では、冷却ガスは、パルスガス弁を使用して、短い持続時間の間供給される。その後、ガスを排出することが可能であり、トラップからのイオンの軸方向放出による質量選択に適切な低い値に、LIT内の圧力を復元することが可能である。
【0005】
種々の実施形態では、イオン閉じ込め装置に保持されるエネルギーイオンを冷却するための方法は、複数のステップを含む。これらのステップは、(1)保持時間の間、イオン閉じ込め装置においてイオンの収集をトラップおよび保持するステップと、(2)イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約8x10−5トールを超えて上昇させるために、保持時間中、冷却ガスをイオン閉じ込め装置内に供給するステップと、(3)保持時間の少なくとも一部分の間、イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップと、(4)保持時間の終了時に、イオン閉じ込め装置からイオンを放出するステップとを含むことが可能であるが、これらに限定されない。
【0006】
種々の実施形態では、イオンを冷却する方法は、中性分子の冷却ガスの供給のための装置に適合する4重極線形イオントラップ(LIT)において実行される。供給装置は、事前選択のノズルを含む1つ以上の高速パルス弁を含むことが可能である。供給装置は、LIT内のイオン閉じ込め領域に作用するガスのプルームを生成することが可能である。ガスのプルームは、イオントラップの少なくとも一部分において供給された中性分子の空間密度分布を生成することが可能である。種々の実施形態では、供給された冷却ガスは、イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、約50ミリ秒未満の所定の持続時間の間に、約8x10−5トールを超えて上昇させる。
【0007】
種々の実施形態では、圧力が所望のレベルを超えて上昇する所定の持続時間は、イオンの質量に依存する。概して、質量の大きいイオンは、軽いイオンよりも長い圧力上昇の持続時間を必要とする。
【0008】
種々の実施形態では、冷却処理中にイオンにより損失される事前に設定された量の運動エネルギーは、その初期運動エネルギーの約99%よりも大きく、圧力上昇の所定の持続時間は、この量の損失エネルギーに必要とされる時間の約85%から約115%の範囲内にあるように選択される。種々の実施形態では、イオンにより損失される事前に設定された量の運動エネルギーは、環境エネルギー値の約115%を超えるエネルギー量であり、圧力上昇の所定の持続時間は、この量の損失エネルギーに必要とされるこの時間の約85%から約115%の範囲内にあるように選択される。
【0009】
種々の実施形態では、供給される冷却ガスは、水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、キセノン、クリプトン、およびメタンのうちの1つ以上から構成可能である。
【0010】
種々の実施形態では、線形イオントラップ内の圧力は、冷却ガスの供給終了後に、より低い値に復元する。次いで、イオンは、質量選択軸方向放出を使用して、イオントラップから効率的に放出可能である。例えば、種々の実施形態では、圧力は、イオン閉じ込め装置からのイオンの放出中に、約2x10−5トールから5.5x10−5トールの範囲に回復する。
【0011】
種々の実施形態では、パルス弁は、イオンが線形イオントラップに付加されている間に断続的にパルス可能である。例えば、衝突ガスは、約50ミリ秒毎に約5ミリ秒の充填持続時間の間、パルス弁を開放することによって、LIT内に導入可能である。種々の実施形態では、ガスは、トラップにより保持されるイオンの数と、弁の開放時間の量との間の実質的に線形の関係を提供するために、断続的にLIT内にパルスされる。
【0012】
本教示の前述のおよび他の側面、実施形態、および特徴は、添付の図面と併用して、以下の説明によってさらに十分に理解可能になる。図面において、同一の参照文字は、概して、種々の図面において同一の特徴および構造的要素を指す。図面は、必ずしも縮尺が一定ではなく、代わりに、教示の原理を図示する際に強調されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
当業者は、本明細書に説明する図面が例示目的のためだけのものであることを理解する。図面は、一定の縮尺であることを意図しない。図面において、本教示は、4重極線形イオントラップを使用して図示されるが、6重極線形イオントラップ、多重極線形イオントラップ、およびイオンサイクロトロン共鳴イオントラップを含むがこれらに限定されない他の種類のイオントラップを使用することが可能である。図面は、本教示の範囲を制限するように決して意図されない。
【図1】図1は、線形イオントラップ(LIT)を有するイオン分析器具のブロック図である。
【図2A】図2Aは、4重極線形イオントラップと、ガスをトラップ内に注入する装置とを示す立面側面図である。
【図2B】図2Bは、図2Aに示す4重極トラップの立面端面図である。種々の実施形態を示すために、3つのガス注入ノズルが図面に追加されている。
【図3A】図3Aは、LIT内に注入された冷却ガスのプルームによって生成される空間変動圧力分布のグラフである。このグラフは、注入された分子の流れに対して横断する方向に対応する。
【図3B】図3Bは、LIT内に注入されたガスのプルームによって生成される空間変動圧力分布のグラフである。このグラフは、注入された分子の流れに共線的な方向に対応する。
【図4A】図4Aは、冷却チャンバ内の2つの圧力についての、時間または冷却時間の関数としてのイオン運動エネルギーのグラフである。本データは、2,800Da、+1電荷状態イオンについて計算した。
【図4B】図4Bは、冷却チャンバ内の2つの圧力についての、時間の関数としてのイオン運動エネルギーの理論的グラフである。本データは、16,950Da、+10電荷状態イオンについて計算した。
【図5A】図5Aは、ガス注入冷却イオン(暗曲線)と従来の冷却イオン(明曲線)についての、時間の関数としての質量スペクトルピークの半値全幅(FWHM)値を比較する例証的グラフである。
【図5B】図5Bは、2つの異なる初期運動エネルギー(黒い記号と白い記号)を有するガス注入冷却イオン(3角形)と従来の冷却イオン(円形)についての、時間の関数としての質量スペクトルピークの半値全幅(FWHM)値を示す実験データのグラフである。
【図6A】図6Aは、冷却ガスの注入中および注入後のイオン閉じ込め空間における非定常状態圧力を表す例証的グラフである。
【図6B】図6Bは、10ミリ秒、20ミリ秒、50ミリ秒の3つの時間について、背圧が150トールのノズルからのガス注入中および注入後の、250リットル/秒の速度で排出される10リットルチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図6C】図6Cは、100L/s、250L/s、500L/s、750L/s、1000L/sの5つの排出速度において、10ミリ秒間、背圧が150トールのノズルからのガス注入中および注入後の、10リットルチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図6D】図6Dは、250L/sの排出速度において、10ミリ秒間、背圧が150トールのノズルからのガス注入中および注入後の、5L、10L、15L、20Lの4つのサイズのチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図6E】図6Eは、250L/sの5つの排出速度において、10ミリ秒間、P=50トール、100トール、150トールである3つの異なる圧力Pの背圧を有するノズルからのガス注入中および注入後の、10リットルチャンバにおける非定常状態圧力を比較するグラフである。
【図7】図7は、LIT内の圧力の関数としての、質量選択軸方向放出(MSAE)効率に関する実験的に決定されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に提示する教示は、種々の側面において、線形イオントラップに保持されるエネルギーイオンを冷却するための方法に関する。種々の実施形態では、イオンの冷却速度は、所定の持続時間に中性分子の冷却ガスをトラップ内に供給することによって加速可能である。供給される中性分子は、エネルギーイオンと相互作用し、イオンの運動エネルギーの一部を吸収することができる。供給されたガスにより、8x10−5トールを超えるトラップ内の圧力上昇が引き起こされ、トラップ内に非定常状態圧力が生成される。種々の実施形態では、中性ガス供給の所定の持続時間は、イオンが所定の量のその運動エネルギーを損失する時間に実質的に一致することが可能である。イオンの運動エネルギーが所望のレベルまで低減すると、中性ガスを排出し、トラップからイオンを放出することが可能である。本明細書に説明する方法は、種々の実施形態では、冷却ガスを供給せずに得られるよりも急速にイオンの冷却を可能にする。
【0015】
イオントラップは、イオンのガスに存在するイオン種の分析および決定に有用である。理解する目的で、種々の実施形態では、4重極線形イオントラップ(LIT)120、イオン前処理要素110、およびイオン後処理要素130を有する一般的なイオン分析器具100を図1に示す。種々の実施形態では、前処理要素110は、イオン源または質量分析計であることが可能であり、後処理要素130は、質量分析計、タンデム量分析計、またはイオン検出装置であることが可能である。
【0016】
イオンは、前処理要素110内において、ガス形態で生成および調製されるか、または選択され、次いで、実質的にイオン通路105に沿って4重極LIT120内に移動可能である。LITを使用して、イオンを空間的に拘束すること、およびイオンをある時間の間保持することが可能である。この保持時間中、1つ以上のイオン関連動作を実行することが可能である。種々の実施形態では、これらの動作には、電気的励起、フラグメンテーション、選択、および冷却が含まれることが可能であるが、これらに限定されない。保持時間の後、イオンは、LITから、例えば、質量分析計であり得るイオン後処理要素130内に放出可能である。LITからのイオンの放出は、例えば、質量選択軸方向放出(MSAE)を介して発生可能である。
【0017】
実際は、LIT120内のチャンバおよび後処理要素130は、典型的には、真空下にあり、イオン通路105は、真空下にある。種々の実施形態では、冷却ガスの注入前にLIT120に存在する定常状態背景圧力は、約5x10−5トール未満である。トラップからイオンが放出される際、圧力は、MSAEを効率的に実行できるように、約2x10−5トールから約5.5x10−5トールの間であることが可能である。
【0018】
図1に関連して4重極線形イオントラップについて説明するが、他の種類のイオントラップを、本明細書に教示する方法または方法の修正とともに使用してもよい。他の種類のイオントラップには、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)トラップ、6重極線形イオントラップ、および多重極線形イオントラップが含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
種々の実施形態における4重極LIT120のいくつかの内部構成要素を、図2A〜図2Bに示す。4つの伝導性ロッド210は、イオン通路105に対して平行にある。DC成分およびAC成分を含む電位は、ロッド210およびエンドキャップ(図示せず)に印加可能であり、イオンをトラップ内のイオン閉じ込め領域205に空間的に閉じ込める電場を生成する。トラップに進入し、かつ経路105に沿って移動するイオンは、捕捉され、イオン閉じ込め領域205において保持時間の間保持されることが可能である。
【0020】
図2A〜図2Bに図示するガス供給要素240、管220、パルス弁230、およびガス注入ノズル222を備える追加の装置を、本明細書に開示する種々の実施形態および方法に従って、LIT内に閉じ込められるイオンの冷却速度を増加させるようにLIT120に追加することが可能である。種々の実施形態では、パルス弁は、Lee Company, Westbrook, Connecticut, U.S.により供給される種類、つまり、0.25ミリ秒の応答時間、0.35ミリ秒の最小パルス持続時間、および250x106周期の稼動寿命を有する型番INKA2437210Hであることが可能である。図2Aを参照すると、種々の実施形態では、ノズルは、ロッド210から距離d1262を置いて位置し、かつイオン閉じ込め領域205の中心から距離d2264を置いて位置することが可能である。種々の好適な実施形態では、d1は約10mmであり、d2は約21mmである。
【0021】
ガス注入ノズル222の設計および位置は、発明者により研究された。ガスをノズル222から放出する際、ガスは、図2Aに示すように、円錐状のプルーム224を生成する。このプルームは、注入されたガス分子の一定のガス密度の境界、すなわち、LIT内における空間密度分布を表す。種々の実施形態では、ガス注入のために追加される装置は、プルーム224がイオン閉じ込め領域205を実質的に重複し、注入された分子とトラップされたイオンとの効率的な混合を可能にするように、LIT120上に位置することが可能である。さらに、ノズル自体は、所定のプルーム形状を供給するように設計され、イオン閉じ込め領域205に可能な限り近くに位置することが可能である。
【0022】
注入された分子の空間密度分布またはプルーム形状224に関する詳細は、図3A〜図3Bに示す圧力の理論的グラフにおいて提供され、ガス注入装置の多くの可能な実施形態のうちの1つを表す。LIT120内に注入された分子の密度は、自由ジェット拡張について確立された数式を使用して推定されている。この推定では、ノズルは、イオン閉じ込め領域205の中心から約d2=25mmに位置する。グラフに示す圧力プロファイルは、注入ガスが標準的な温度、273.15Kであることを前提として、分子の空間密度プロファイルから計算される。図面の点線は、冷却ガスの注入前にLITに存在する背景圧力を表す。
【0023】
図3Aは、ノズル222の開口からd2=25mmの距離にあるこの図示する実施形態について計算される横方向または半径方向圧力プロファイルを示す。圧力は、チャンバの背景圧力の下限に到達するまで、図2Aのプルーム軸215の両側に漸減する。ノズル222からの所与の距離における最高圧力または注入分子の最高密度は、プルーム軸215上にある。種々の実施形態では、プルーム軸215は、イオン閉じ込め領域205の中心を横断する。
【0024】
図3Bは、流れが確立された後の、図3Aの同一の図示する実施形態についての、ノズルから放出されるガスジェットの計算された軸方向圧力プロファイルを示す。横軸は、プルーム軸215に沿った距離に相当する。背景圧力は、約3.7x10−5トールである。この圧力は、低過ぎて、自由ジェット膨張に通常関連する衝撃波構造に対応しない。次いで、背景圧力は、軸方向プロファイルが到達する最小圧力になる。図3Bから、ノズル222が領域205の中心から距離d2=21mmを置いて位置する場合に、イオン閉じ込め領域205におけるピーク圧力が、LIT内の背景圧力の3倍を超えることが可能であることが分かる。
【0025】
図2Bは、冷却ガス注入ノズルを配置するための多くの種々の実施形態のうちの1つを図示する。図示するように、複数のガス注入ノズルが、イオン閉じ込め領域205の周囲に対称的に分散可能である。したがって、ノズルによるイオン閉じ込め電場の任意の歪みは、対称的に発生する。種々の実施形態では、これにより、距離d1262およびd2264が減少し、図3Bに従ってイオン閉じ込め領域内の圧力が増加する。種々の実施形態では、全ての注入ガス分子の平均速度は、ゼロであり、弱くトラップされたイオンをトラップから退出させ得る正味の流速の電位の有害な影響を低減する。
【0026】
中性分子の注入冷却ガスがLIT120に保持されるイオンの冷却速度に与える効果は、以下により理解され得る。エネルギーイオンの冷却速度は、その衝突頻度zに比例し、衝突ガスの圧力にも比例することが可能である。これは、関係式
【0027】
【数1】
から分かり、式中、σは、Å2における衝突断面積であり、N/Vは、注入された中性分子の密度であり、vrelは、イオンおよび中性分子の相対衝突速度である。圧力がN/Vに比例するため、イオン冷却速度は、圧力に比例する。したがって、イオン閉じ込め領域205内の冷却ガスの圧力の増加によって、イオン冷却速度が増加することが可能である。
【0028】
弾性(硬球)散乱では、n衝突後のイオンのエネルギー、E'lab(n)は、
【0029】
【数2】
により求められ、式中、m1およびm2は、衝突相手の質量であり、nは、イオンが受ける衝突の数である。本式は、イオンの熱運動速度分布を無視し、Elabが熱運動エネルギーに近づくにつれて正確でなくなる。この単純なモデルにおいて、イオンの必要な最終運動エネルギーが、各圧力において同数の衝突を有するイオンに依存することが分かる。数式(1)および(2)は、LITにおいて使用する任意の無線周波数閉じ込め電場の効果を無視する。これらの電場は、追加の運動エネルギーをイオン内に与え、その影響は、数値シミュレーションによってより簡単に検査される。
【0030】
水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、キセノン、クリプトン、およびメタンを含むがこれらに限定されない広範な種類のガスは、冷却ガスとしての役割を果たすことが可能である。質量中心計算によると、衝突ガスが重ければ重いほど、イオンからの運動エネルギーの除去に効率的であり、一方、ガスが軽ければ軽いほど、効率的でなくなることが示され、例えば、軽分子の注入ガスは、重分子ガスよりも長い冷却時間を必要とする。
【0031】
中性分子が、LIT内のエネルギーイオンに及ぼす効果は、3.5x10−5トールの背景圧力における中性ガスの冷却と、ガス注入による1x10−4の上昇圧力における冷却との2つの事例について、時間の関数として計算されたイオンの運動エネルギーの変化に関する理論的シミュレーションにより観測可能である。数式(2)に基づくこのようなシミュレーションによる結果は、2つの異なる質量および荷電状態、つまり、2,800Da、荷電状態+1(図4A)と、16,950Da、荷電状態+10(図4B)とのイオンについて、図4A〜図4Bにおいてグラフ化される。低圧力の結果は、白丸でグラフ化され、高圧力の結果は、黒丸でグラフ化される。高圧結果は、中性分子のガスのLIT内への注入に相当する。これらのシミュレーションについて、窒素冷却ガスに対応するパラメータを使用した。
【0032】
図4Bに示す事例では、イオンの初期運動エネルギーは、10eVであり、イオンは、0.12のq値で半径方向トラップ場内に含まれる。マシューパラメータとしても既知であるq値は、特定のイオントラップのイオントラップ電位を表し、比率Vrf/(m/z)に比例し、式中、Vrfは、トラップにおける電極に印加されるRFトラップ電圧の振幅であり、m/zは、トラップされたイオンの質量対電荷比である。図4Aから、圧力を1.0x10−4トールに増加させると、100msの時点における3.5x10−5トールの圧力のイオンの運動エネルギー値を35ミリ秒で達成することが可能であることが分かる。冷却速度における約3倍の増加の結果として生じる因子は、圧力比に対応し、イオン冷却期間における有意な減少を表す。
【0033】
図4Bに示すように、より重い16,950Daのイオンであって、+10電荷状態および100eVの初期運動エネルギーを有するイオンについて、同一の効果が観測される。高電荷状態を有するイオンは、電荷状態とLITへの進入時にイオンが受ける電位エネルギー差とを掛けたものに比例する運動エネルギーを有する。本性質のイオンは、良好なMSAE実行のために許容可能な運動エネルギーに対する冷却のためにより長い時間を必要とする。
【0034】
図4A〜図4Bのシミュレーション事例では、運動エネルギー損失の増加割合、冷却の増加割合は、対応する低圧力事例に高圧力事例を比較すると明白である。両事例では、イオンの運動エネルギーは、点線430a、430bにより示される基準エネルギーレベルまたは環境運動エネルギーレベルまで近づくまで、ピーク値から減少する。環境レベルの値は、特定のイオンのトラップ条件、例えば、背景圧力、温度、ならびにイオントラップ場の振幅および周波数に関連するパラメータにより決定される。実際は、環境レベルは、図4A〜図4Bに示す環境レベルよりも高いまたは低いことが可能である。
【0035】
図4A〜図4Bを参照すると、種々の実施形態では、LIT内の圧力が事前所望値を超えて上昇する所定の持続時間は、環境エネルギーレベルを超えてその運動エネルギーを損失するのにかかる時間にほぼ同等であるように選択可能である。例えば、種々の実施形態では、所定の持続時間は、図4Aの事例では、約30ミリ秒(ガス注入に20ミリ秒、その後、注入後遅延に10ミリ秒)であり、図4Bの重イオンの事例では、約60ミリ秒である。例えば、冷却ガス供給の持続時間を限定することによって、LIT内の圧力上昇の所定の持続時間を限定することによって、より低い背景レベルに圧力を復元することが可能である速度が増加する。低背景レベルへの圧力の急速な復元によって、種々の実施形態では、イオン冷却に関連する時間を減少させることにより、測定のデューティサイクルが増加する。
【0036】
イオン冷却時間は、衝突ガスの圧力、衝突ガスを含む分子の質量、衝突断面積、イオンの質量、イオンの電荷、衝突ガスを含む分子の分極率、およびトラップに印加するトラップ電位のパラメータのうちの1つ以上に依存することが可能である。研究中の特定のイオンでは、イオン冷却時間は、数値シミュレーションから近似的に導出されるか、実験的に決定されるか、または両手法の組み合わせから得られることが可能である。イオン冷却時間が決定されると、イオン閉じ込め領域内の圧力上昇のための所定の持続時間は、イオン冷却時間に基づくことが可能である。例えば、種々の実施形態では、所定の持続時間は、イオン冷却時間にほぼ同等であることが可能である。種々の実施形態では、所定の持続時間は、トラップにおけるイオンの平均運動エネルギーが、トラップ中に到達するそのピーク平均運動エネルギー値の約1%未満まで減少する時間間隔の約85%から115%の間の範囲にあることが可能である。種々の実施形態では、所定の持続時間は、トラップにおけるイオンの平均運動エネルギーが、トラップにおけるイオンの環境運動エネルギー値よりも約15%大きい値未満まで減少する時間間隔の約85%から115%の間の範囲にあることが可能である。
【0037】
イオンの運動エネルギーの減少は、質量分析計内のイオンの後続分析から観測される質量スペクトルピークの狭幅化に寄与することが可能である。過剰イオン運動エネルギーは、質量スペクトルピークのエネルギー分散広幅化を引き起こし、これは、概して、質量分析において望ましくない結果である。スペクトル狭幅化の例を図5Aに図示する。本グラフは、冷却時間の関数として、質量分析計において仮定的に測定されるイオンのスペクトル分布の半値全幅(FWHM)値を示す。概して、イオン冷却がその運動エネルギー分布を狭幅化すると、結果としてFWHM値は減少する。ガス注入冷却を行なわない薄陰影付き曲線512では、結果として生じるFWHM値は、線534により示される最終値まで経時的に減少する。ガス注入冷却を行なう曲線510では、FWHM値は、より急速に減少し、質量分析のためにトラップからイオンをより急速に放出することが可能になる。
【0038】
ガス注入を行なうおよびガス注入を行なわない冷却時間の関数としてのイオンのFWHMスペクトル値の実験的測定は、図5Aに示す傾向を示す。実験結果は、イオン922m/zについて図5Bにおいて報告される。このイオンについて、2eVの軸方向運動エネルギーと、8eVのエネルギーとを有するLITに進入するイオンの2つの事例についてデータを生成した。また、中性分子の冷却ガスの注入を行なって、および行なわずにデータを生成した。丸は、3.5x10−5トールの定圧に関するデータ、すなわち、冷却ガスの注入を行なわないデータを表す。ガス注入を行なわない場合、FWHMスペクトル値がその約最終値まで減少するのに必要な時間は、約75ミリ秒である。ガス注入を行なう場合、同等のFWHM値に到達する時間は、30ミリ秒未満である。実験では、ガス注入は、20ミリ秒続き、その後10ミリ秒の注入後遅延が続いた。10ミリ秒の遅延の終了時に、質量分析のためにMSAEを介してイオンを放出した。イオン閉じ込め領域内のピーク圧力を直接測定しなかったが、器具における平均圧力は、本実験について9.5x10−5トールを超えなかった。実験結果により、少なくとも約45ミリ秒または約60%の器具のイオン冷却段階における減少が、トラップされたイオンのガス注入冷却により可能になることが実証される。
【0039】
また、図5Bは、低運動エネルギーでLITに進入するイオンが速く冷却することを示す。この差異は、8eVイオン(軸方向運動エネルギー、黒丸)と2eVイオン(軸方向運動エネルギー、白丸)とを比較して示される。
【0040】
図5Bでは、ガス注入事例の曲線の前部は測定されなかった。これは、器具全体において結果として生じる時間変動圧力上昇に起因する。高圧でのトラップからのイオンの放出効率は、低くなり得る。図5Bに報告する事例に関し、冷却ガスの注入終了後に発生する遅延を使用して、トラップからのイオンの効率的な放出のために、質量分析計内の圧力を事前所望値に復元した。種々の実施形態では、イオン閉じ込め領域内の所望の圧力上昇のための注入ガスの全量を減少させるように、パルス弁230およびノズル222は、LIT内のイオン閉じ込め領域205に近接近して位置する。
【0041】
冷却ガスの注入中および注入後のLITの少なくとも一部分内において発生する非定常状態圧力は、図6Aにおける曲線610として例証的にグラフ化される。種々の実施形態では、中性分子のガスは、ガス注入持続時間に対し、時間t=0において、LIT内に注入可能である。次いで、圧力は、初期基準圧力P0636からピーク値まで上昇し、次いで、ガスがチャンバから排出されるとP0に戻って減衰する。図2Aのイオン閉じ込め領域205内の圧力は、類似の軌道をたどる。種々の実施形態では、ガス注入持続時間は、約50ミリ秒(ms)未満である。種々の実施形態では、ガス注入持続時間は、約30,000Daを超える質量を有するイオンでは、約50ミリ秒を上回り、約5,000Da未満の質量を有するイオンでは、約50ミリ秒未満である。
【0042】
種々の実施形態では、器具の時間効率の良い動作に関する曲線610について2つの側面、つまり、圧力が事前所望の冷却圧力Pc632を超える持続時間と、圧力がそのピーク値から事前所望の動作圧力Pd634に回復するのにかかる持続時間とが存在する。圧力が事前所望の冷却圧力を超えている持続時間は、線622と線624との間の時間間隔として示すことが可能である。種々の実施形態における器具の時間効率の良い動作では、圧力が事前所望の冷却圧力を超えている持続時間は、イオンがその過剰運動エネルギーの事前所望量を損失するのに必要な時間に実質的に一致するように選択される。例えば、種々の実施形態では、図6Aの線622と線624との間の間隔により示される持続時間は、イオン運動エネルギーが、環境値、例えば、図4の線430aよりも約15%大きくなる時間の量に実質的に同等になるように選択されることが可能である。続けて本例を参照すると、圧力上昇の持続時間は、約30ミリ秒である。
【0043】
圧力回復持続時間、すなわち、事前所望の動作圧力Pd634の復元に必要な時間を、図6Aにおける曲線610のピーク圧力値と線626との間の時間間隔により示すことが可能である。この回復時間は、例えば、器具における感圧検出器が作動した後の注入後遅延、イオンがトラップから放出されたこと等を表す。種々の実施形態では、器具の待機時間を可能な限り回避するために、この遅延を最小化することが望ましい。
【0044】
LIT内の圧力ダイナミクスも発明者により研究された。チャンバにおける非定常状態圧力展開は、数式
【0045】
【数3】
により表され、式中、P(t)は、時間の関数としての圧力であり、Qは、注入ノズルのスループットであり、Sは、ポンプのポンプ速度であり、Vは、チャンバの体積であり、P0は、チャンバの背景圧力である。図2Aにおける弁230が真空チャンバにおける圧力を閉鎖する場合、数式
【0046】
【数4】
により説明することが可能であり、式中、Poffは、弁の閉鎖時におけるチャンバの瞬間圧力である。
【0047】
Q=0.136トールL/s、S=250L/s、V=10L、およびP0=3.7x10−5トールの条件についての、数式(3)および(4)に従って計算された3つの圧力プロファイルを図6Bに示す。ノズルにおける背圧は、150トールとされた。3つの曲線は、パルス弁230が10ミリ秒、20ミリ秒、および50ミリ秒開放する場合にもたらされ得る予測圧力プロファイルを表す。ガス注入時即時間が長くなると、ピークチャンバ圧力が高くなり、回復時間が長くなる。
【0048】
図6C〜図6Dは、ポンプ速度に対する圧力プロファイルの依存(図6C)と、チャンバ体積に対する圧力プロファイルの依存(図6D)を示す。チャンバ圧力は、ポンプ速度が増加するにつれて、およびチャンバ体積が減少するにつれてより急速に回復し、圧力は、体積の小さいチャンバについてより急速に上昇する。図6Cの条件では、弁は、10ミリ秒間開放され、背圧は150トールであり、チャンバの体積は、10Lに設定された。図6Dの条件では、弁は、10ミリ秒間開放され、背圧は150トールであり、ポンプ速度は、250L/sに設定された。
【0049】
ガス注入ノズル230のスループットは、圧力プロファイルの形状に寄与する因子であることが可能である。スループットは、ノズルのオリフィス直径およびその背圧から決定可能である。図6Eは、ノズルの背圧の関数としての圧力プロファイルを示す。この場合、弁は、10ミリ秒間開放し、チャンバ体積は、10Lに設定され、ポンプ速度は、250L/sであった。
【0050】
図3A、図3Bおよび図6B〜図6Eから、LIT領域のイオン閉じ込め領域における圧力が、ノズルの位置、ノズルの開口のサイズ、背圧、ポンプ速度、およびチャンバ体積に依存することが分かる。種々の実施形態では、LITロッドの幾何学的形状およびそのガス伝導性も、イオン閉じ込め領域205内における時間変動および空間変動圧力プロファイルに影響を及ぼし得る。例えば、種々の実施形態では、4重極ロッドのサイズを使用して、イオンがトラップされる領域250に対しパルス弁およびノズルをどの程度近づけるかを決定する。
【0051】
種々の実施形態では、圧力回復持続時間は、例えば、任意の感圧構成要素の安全動作を可能にする器具内における圧力Pdの復元、LITからのイオンの効率的な放出等に必要な時間によって、決定可能である。種々の実験では、イオン放出は、質量選択軸方向放出(MSAE)の方法を使用して実行された。図7は、LIT圧力の関数としてのMSAE抽出効率に関するグラフである。本データセットは、MSAE処理の抽出効率が、約2x10−5トールを超え、かつ最大約5.5x10−5トールである圧力において約30%を超えることを示す。種々の実施形態では、MSAEのための圧力上限は、圧力回復持続時間を決定する支配因子であることが可能である。真空チャンバをこの圧力までポンプで下げるのに必要な時間量は、例えば、注入ノズルからチャンバに導入されるガス負荷、LITチャンバに使用されるポンプのポンプ速度、および真空チャンバの体積の関数である。
【0052】
特許、特許出願、論説、書籍、論文、およびウェブページを含むがこれらに限定されない本出願に引用する全ての文献および類似の資料は、このような文献および類似の資料の形式にかかわらず、参照によりその全体が明示的に組み込まれる。定義された用語、用語の用法、説明する技法、またはその同等物を含むがこれらに限定されない組み込まれた文献および類似の資料のうちの1つ以上が本出願とは異なるか、または本出願に矛盾する場合、本出願が支配する。
【0053】
本明細書に使用する項の表題は、構成目的のためだけのものであり、説明する主題を限定するものとして決して解釈されない。
【0054】
種々の実施形態および実施例に関連して本教示について説明したが、本教示をこのような実施形態および実施例に限定することを意図しない。逆に、本教示は、当業者が理解する種々の代替、修正、および同等物を包含する。
【0055】
請求項は、その趣旨について記述がない限り、説明する順番または要素に限定されるものとして読まれるべきではない。添付の請求項の精神および範囲から逸脱することなく、形式および詳細における種々の変更を当業者が加えてもよいことを理解されたい。以下の請求項の精神および範囲内で生じる全ての実施形態およびその同等物は、請求される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン閉じ込め装置におけるイオンの運動エネルギーを減少させるための方法であって、
保持時間の間、該イオン閉じ込め装置において該イオンを保持するステップと、
該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約8x10−5トールの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップと、
該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップと
該保持時間の終了時に、該イオン閉じ込め装置から該イオンを放出するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記イオン閉じ込め装置は、4重極線形イオントラップを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力は、前記所定の持続時間の間、約1.5x10−4トールを超えて上昇する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力は、前記所定の持続時間中、約8x10−5トールと約2.5χ10−4トールとの間の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の持続時間は、約50ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の持続時間は、約30ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の持続時間は、約10ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の持続時間は、約5,000Daと約30,000Daとの間の範囲の質量を有するイオンについて、約50ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記所定の持続時間は、約500Daと約5,000Daとの間の範囲の質量を有するイオンについて、約25ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記所定の持続時間は、第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第1の時間は、前記イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギーの約1%未満まで減少する時間間隔を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記所定の持続時間は、第2の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第2の時間は、前記イオン閉じ込め装置における前記イオンの平均運動エネルギーが、前記イオン閉じ込め装置におけるイオンの環境値よりも約15%大きい値未満まで減少する時間間隔を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記冷却ガスには、水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、キセノン、クリプトン、およびメタンのうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記イオン閉じ込め装置における圧力は、前記線形イオントラップからのイオンの放出中に、約2x10−5トールと5.5x10−5トールとの間の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記冷却ガスは、高速パルス弁から供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記冷却ガスは、複数の高速パルス弁から供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
質量スペクトルを生成するために、前記イオン閉じ込め装置から放出されたイオンを質量分析することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項1】
イオン閉じ込め装置におけるイオンの運動エネルギーを減少させるための方法であって、
保持時間の間、該イオン閉じ込め装置において該イオンを保持するステップと、
該イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力を、該イオン保持時間未満の所定の持続時間の間、約8x10−5トールの事前に設定された冷却ガス圧力を超えて上昇させるために、該保持時間中に、冷却ガスを該イオン閉じ込め装置内に供給するステップと、
該保持時間の少なくとも一部分の間、該イオン閉じ込め装置において非定常状態圧力を生成するステップと
該保持時間の終了時に、該イオン閉じ込め装置から該イオンを放出するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記イオン閉じ込め装置は、4重極線形イオントラップを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力は、前記所定の持続時間の間、約1.5x10−4トールを超えて上昇する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン閉じ込め装置の少なくとも一部分における圧力は、前記所定の持続時間中、約8x10−5トールと約2.5χ10−4トールとの間の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の持続時間は、約50ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の持続時間は、約30ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の持続時間は、約10ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の持続時間は、約5,000Daと約30,000Daとの間の範囲の質量を有するイオンについて、約50ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記所定の持続時間は、約500Daと約5,000Daとの間の範囲の質量を有するイオンについて、約25ミリ秒未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記所定の持続時間は、第1の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第1の時間は、前記イオン閉じ込め装置におけるイオンの平均運動エネルギーが、該イオン閉じ込め装置内の前記保持時間中に達成されるイオンのピーク平均運動エネルギーの約1%未満まで減少する時間間隔を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記所定の持続時間は、第2の時間の約85%から約115%の間の範囲にあるように選択され、該第2の時間は、前記イオン閉じ込め装置における前記イオンの平均運動エネルギーが、前記イオン閉じ込め装置におけるイオンの環境値よりも約15%大きい値未満まで減少する時間間隔を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記冷却ガスには、水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、キセノン、クリプトン、およびメタンのうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記イオン閉じ込め装置における圧力は、前記線形イオントラップからのイオンの放出中に、約2x10−5トールと5.5x10−5トールとの間の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記冷却ガスは、高速パルス弁から供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記冷却ガスは、複数の高速パルス弁から供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
質量スペクトルを生成するために、前記イオン閉じ込め装置から放出されたイオンを質量分析することを含む、請求項2に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【公表番号】特表2011−511400(P2011−511400A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544542(P2010−544542)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000085
【国際公開番号】WO2009/094757
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000085
【国際公開番号】WO2009/094757
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
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