説明

線形弁結合型二次元分離装置、及び方法

【課題】線形弁結合型二次元分離装置、分離マトリクス、及び方法を提供する。
【解決手段】二次元分離装置は、それぞれ第一次元と第二次元において試料量を分離するよう動作する第一、第二のモジュールを含む。弁構造により、第一分離モジュールが第二分離モジュールから制御可能に隔離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子分離技術に関し、特に生体分子を弁制御により二次元分離するための装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、核酸等の生体分子を分離してそれらを分析するための現在の技術には、当業者に知られている中でもとりわけ、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、サイズ排除分離、親和結合、塩析沈殿、及びHPLC分離がある(たとえば、Thorsenらによる、マイクロ流体LSI(大規模集積回路)、Science、Vol.298、580乃至584頁、2002年10月18日を参照。本明細書に参照として取り込む)。分析目的では、生体試料中のタンパク質はサイズ、表面電荷、親水性のいずれかに基づいて分離することが多い。多様なタンパク質が似通ったサイズ及び/又は親水性を有しているので、このような一次元的な分離は満足できるものでない場合が多い。
【0003】
類似したタンパク質を識別することを目的として、二次元分離技術が用いられることがある。たとえば、まず、装置内でタンパク種をタンパク質の一つの特性(たとえば、イソエレクトロ点(iso‐electro point)、第一次元の分離)に基づいて分離し、次に別の特性(たとえば、サイズ、第二次元の分離)に基づいて再び分離する。しかし、この例における二次元分離手続きには、一般的に、少なくともいくつかの瑣末な手作業が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1A−1B】図1Aと1Bは、本発明の実施形態に従った線形弁結合型二次元分離装置を概略的に示す。
【0005】
【図2A−2B】図2Aと2Bは、本発明の実施形態に従った柱状体/ピラーマトリクスを含む第一分離モジュールを概略的に示す。
【0006】
【図3A−3B】図3Aと3Bは、本発明の実施形態に従った電極アレイマトリクスを含む第二次元分離モジュールを概略的に示す。
【0007】
【図4A−4C】図4A乃至4Cは、本発明の実施形態に従った分離マトリクスとしての多孔チャネルを概略的に示す。
【0008】
【図5A】図5Aは、最初に第一分離モジュールを第二分離モジュールから隔離するために閉じられる線形弁を含む、好適実施形態に従った二次元分離マトリクスの側面図を概略的に示す。
【0009】
【図5B】図5Bは、図5Aの二次元分離マトリクスの弁が開いた状態における側面図を概略的に示す。
【0010】
【図5C】図5Cは、図5Aと5Bの二次元分離マトリクスの上面図を概略的に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下は、本発明の一以上の好適実施形態と代替的実施形態についての記載である。これらの実施形態を図1A乃至5Cを参照して記載する。生体分子を二次元分離するために有利な装置を提供する。装置には、第一、第二のモジュールが含まれており、それぞれ第一次元と第二次元において生体分子を分離するよう動作する。第一分離モジュールと第二分離モジュールとが制御可能に隔離されるような構造となっている。この構造には好ましくは弁が含まれる。弁は線形弁であってよい。好ましくは、その幅はその長さよりも実質的に小さい。線形弁の幅は、長さの1/10未満であってよい。構造には、二以上の弁を含めてよく、それらは線形弁であってよい。
【0012】
好適実施形態においては、通常、二以上の分離装置はストリップ状の線形弁により結合される。一般的に用いられる弁もしくは独特な円盤形状の弁を改造あるいは製造してストリップ状の線形弁としてよい。この有利な構造を用いて二以上の分離モジュールを結合してよい。
【0013】
生体分子の二次元分離のための好適実施形態に従った装置には、基体、マトリクス層、及びシール層が含まれる。マトリクス層は基体上に形成され、第一分離構成を有する第一領域と第二分離構成を有する第二領域とが含まれる。装置には、第一領域と第二領域との間での物質の移動を調節するための構造も含まれる。
【0014】
好適実施形態に従った二次元生体分子分離装置用のモジュールには、生体分子を分離するための構造が含まれる。構造には生体分子に接触する柱状体のマトリクスを含めてよい。構造には物質の選択した特性に接触するための形状を有した面を有するマイクロチャネル(たとえば、10ミクロン乃至10mm幅と1cm乃至50cm長の寸法を有する)を含めてよい。マイクロチャネルは、孔の大きさが選択された(たとえば、10nm乃至100ミクロン)多孔性の面を有してよい。
【0015】
線形弁結合型分離モジュール
少なくとも二つの異なる次元において生体分子を分離するための少なくとも第一及び第二の分離モジュールを含む二次元生体分子分離装置には、一般的に弁が設けられる。弁は、第一分離モジュールを第二分離モジュールから隔離制御するための弁構造を有する。弁は、線形弁であってよく、線形弁の幅は好ましくはその長さよりも実質的に小さく、たとえば、幅は長さの1/10未満である。弁構造には単一の弁(unitary valve)を含めてよい。弁構造には線形状であってよい二つの弁を含めてよい。弁構造には二つの線形弁を含めてよい。弁構造には、第一位置と第二位置との間で移動可能な細長いセグメントを含めてもよい。弁構造には線形アレイ状に配置される弁のアレイを含めてもよい。
【0016】
好適実施形態に従うと、線形弁は二次元分離モジュールを結合して単一装置とするために用いられる。図1Aと1Bは、例示的である。線形弁2と4が示されており、これらは閉じられているときには物質を第一方向に(たとえば、図1Aについては紙面の上から紙面の下へ、図1Bについては紙面から飛び出す方向へ)流し、開かれたときには第二方向に(たとえば、図1Aと1Bにおいて弁2と4の左から右へ)流す。弁2と4は、図1Bにおいて上方へ移動させることにより開かれ、図1Bにおいて下方へ移動させることにより閉じられるよう示されている。閉じられたとき、物質は弁2と4との間の第一次元分離マトリクス6を流れる。開かれたとき、物質はマトリクス6のいずれかの側の第二次元分離マトリクス8を流れる。
【0017】
線形弁2と4は、長寸法構造である。好ましくは、それらの長さはそれらの幅よりも実質的に大きい。たとえば、弁2の長さは幅の十倍超であってよい。弁2と4の開閉を制御する構造が設けられている。二つの平行な線形弁2と4は、図1Aと1Bに示す装置の中央に位置する。弁2と4とが閉じられると、チャネル状分離モジュール6(第一次元分離モジュール6)が形成される。圧力変化もしくはその他の電気的あるいは機械的な手段により弁を操作してよい。たとえば、圧力により操作するためには、PDMS(ポリジメチルシリコン)チャネルを用いてよい。電気的操作の例としては金属片を用いてよく、熱膨張(及び収縮)に基づいて弁を操作してよい。
【0018】
使用可能な代替的方法が多数あり、たとえば、弁2と4を開くことによりチャネル形状の分離モジュールが形成されるシステム、または閉じられたときに、第一次元における流れと実質的に直交するか、もしくは少なくともそれとは異なるある一つの方向における流れを禁じる単一の弁を用いるシステムを設けること、等がある。弁の幅は、長さ方向に一定であることが好ましいが、変化させてもよい。物質を最初に第二次元分離マトリクスに流し次に第一次元に流してよいが、物質をまず二つの隣接した弁2と4との間に形成されたチャネルに集中させ、次に物質をこのチャネル6から第二次元マトリクス8へと膨張させるほうが好ましい。
【0019】
図1Bを参照して、装置には好ましくは主な層が三層含まれており、それらは、基体12、第一次元マトリクス6と第二次元マトリクス8とが含まれるマトリクス層、及び上面シール14である。基体12は好ましくはプラスチック、ガラス、もしくはPDMS等の導電性でない物質から形成されている。シール層内に調節構造を形成してよく、調節構造にはMEMS(微小電気機械システム)弁を含めてよい。調節構造には、第一領域と第二領域との間に形成された細長い構造を含めてもよく、当該細長構造にはシール構造を受け取る形状の部分と、シール構造が該形状の部分に受け取られる第一位置とシール構造と上記形状の部分との間にパスが形成される第二位置との間でシール構造を移動させる駆動部とを含めてよい。
【0020】
マトリクスは分離媒体6と8である。マトリクスには、柱状体を均等にまたは勾配を設けて分布させてよい。たとえば、1乃至1000ミクロン高さ、かつ0.1乃至100ミクロン径の寸法を有する構造をシリコンにより形成して金もしくは白金等の金属により被覆してよい。マトリクスは、マトリクスの一端における密度がマトリクスの他方端における密度よりも高い分布を有してもよい。たとえば、柱状体の密度は平方cm当たり104乃至1010個まで増大させてよい。柱状体は、生体分子の分離を促進するコーティング面を有してよい。生体分子の分離を促進するゲル内に柱状体を埋設してよい。電気泳動により生体分子の分離を促進するための電極アレイを柱状体に含めてよい。
【0021】
上面シール14によりマトリクス空間が閉じられる。上面シールは、特に弁2と4の領域においては、好ましくは透明で可撓性である。
【0022】
第一次元分離モジュール6の両側には、好ましくは二つの平坦な第二次元分離モジュール8がある。一実施形態においては、電極15が第一モジュール6に平行に設けられる。第一次元における分離の後、弁2と4が開いているときに、この実施形態における分子を電気泳動により弁2と4を介して横方向に第二マトリクス8へと移動させる。
【0023】
分離マトリクス
線形構造2と4と共にあるいは線形弁構造2と4とは独立に用いることができるマトリクス構造は数種存在する。標準的なフォトリソグラフィ技術により異なる弁構造及び/又は分離マトリクスを製造することができる。第一例を図2Aと2Bに示す。線形弁2と4が再び示されており、これらは最初は閉じられており、開かれて、本例においてはチャネル6のどちらかの側の第二分離マトリクス8内に物質を流す前においては物質を第一分離マトリクス6内に隔離する。柱状体16もしくはピラー16のマトリクスが第一分離マトリクス6内に設置されている。
【0024】
当該柱状体/ピラー16の実施形態に従った分離マトリクス6及び/又は8は、好ましくは基体12から形成される柱状体16もしくはピラー16を有している。図2Aに示すマトリクスの柱状体/ピラー16の表面をたとえば炭化水素鎖C18のような有機ポリマーにより被覆することができる。試料中の分子は、液体クロマトグラフィもしくはその他の分離メカニズム(たとえば、電気泳動)によりマトリクス表面と表面接触させることにより分離してよい。
【0025】
ナノ構造をゲル状マトリクスに埋設してもよい。有機ポリマーに埋設されるナノ構造(柱状体もしくはピラー16)により分離マトリクス6及び/又は8を形成することもできる。あるいは、第一分離モジュール6近傍において密度が低くなるようにマトリクス密度に勾配を設ける。ゲル状マトリクスは、当業者に知られているゲルの中でも、アクリルアミドの線形ゲル、アクリルアミドのクロスリンクゲル、アガロースゲル、もしくは光重合により形成されるゲルであってよい。
【0026】
バッファチャンバー21内の電極アレイマトリクスを図3Aと3Bに示す。装置には、基体絶縁層22と、その上の導体層24とが含まれる。金属もしくは導体をコーティングしたピラー26のマトリクスが、絶縁・導体層と上面シール14との間に示されている。分子分離の前に、柱状体/ピラー26の表面を導電性の金属(銀、金)または半導体材料によりコーティングしてよい。図1Aにおいて既に示したように、電極15は好ましくはモジュール6と8の周縁部(第一分離モジュール6から隔離して)に設置してよい。または、図3Bに示すように、多くの平行導体27を金属をコーティングした柱状体26に接続してよい。図3Bの電力制御器28と柱状体/ピラー26との間に多数の導体が示されている。電極アレイは、その表面から分子を一掃し、及び/又はその表面へと分子を引き付けるように用いることができる。
【0027】
図4A乃至4Cに多孔性チャネルマトリクスを示す。ナノチャネルから形成された、多孔性壁面を有するマトリクスである。チャネル32に沿って分子を移動させるとき、小さい分子ほど側壁のナノ孔に入り込む可能性が高く、それゆえ分離方向における移動が遅い。つまり、不規則な孔を有する側壁を備えたサブミクロン大のチャネル32は、好ましくはガラスもしくはシリカのウェハ上に形成される。小さい分子が大きい分子よりもゆっくり移動するのは、それらがナノ孔との接触により減速する可能性が大きいからである。
【0028】
図5Aは、線形弁が最初は閉じて第一分離モジュールを第二分離モジュールから隔離する好適実施形態に従った二次元分離マトリクスの側面図を示す。モジュールには、第一次元分離マトリクス6を第二次元分離マトリクス8から選択的に隔離する線形弁2と4とが含まれる。ガラス、プラスチック、もしくは用いている特定の試料と分離マトリクス6及び8にとって良性であると当業者に知られている別の材料を好ましくは含んでいる一対のプレート12と14との間を試料マトリクスは流れる。本実施形態における物質は、それゆえプレート12と14との間の平面領域だけを移動するよう物理的に規制され、物質は外部環境から少なくともいくらか保護される。図5Aの弁2と4とは、それらを閉じるために増圧されている状態が示されており、図5Bの弁2と4とは、それらを開くために減圧されている状態が示されている。たとえば、図5Aの図示にしたがって弁2と4とを閉じるために大気圧を超える、たとえば100psi等の圧力を弁2と4の上面に印加してよく、弁2と4とは圧力から解放されたときに(つまり、圧力が減圧されて大気圧へと戻るか、又は約14psiとなったときに)自動的に開くか、もしくは弁は10psi以下等の大気圧未満等の減圧が印加されて開く。このプロセスを反転させてよく、弁2と4の上面において圧力を減圧して弁を開き、増圧して弁を閉じる。弁の上面と弁の下面との間の相対圧力が制御できる限りにおいて、上面もしくは下面において圧力を変化させてよい。
【0029】
あるいは、弁2と4を機械操作してよく、たとえば、レバーを下げたり、線形弁に接続されバネが取り付けられた線形片を押し込んでよく、この線形片は、所定位置に嵌合したときに弁2と4を閉じ、バネ力により持ち上げられて容易に放出されて弁2と4を開く。
【0030】
たとえばソレノイド型構成等の電池式もしくはプラグイン式の電気的構成を用いてよい。電流を選択的に印加して磁界を生成し、それにより弁2と4を閉じる。電流を遮断あるいは逆流させたときに、弁2と4は開く。その逆もある。ソレノイド磁石もしくは磁石(不図示)を分離モジュールの面に対して直交するように配置して線形弁2と4に取り付けてよい。本例においては、好ましくは少なくとも二つのソレノイドを用いて動作を安定させる。弁2と4を開閉するためのその他の機械的、電気的、光学的な構成やその他の構成が当業者には理解されているであろう。
【0031】
図5Bにおいては、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等のエラストマー42により上面と下面のプレート12と14とを離間してよいことが示されている。エラストマー42は、弁2と4が摺動的に内部を移動する一対の線形チャネルを有する。離間幅は、試料の粘性と試料の量により、好ましくは1ミリメータの1/10以下もしくは数ミリメータまでであってよい。異種の試料と離間を許容可能とするためには、離間を調節可能としてよく、弁2と4が十分な大きさを有している。弁2と4を形成もしくは収容するチャネルの幅はこのましくは十ミクロン乃至数ミリメータであってよい。
【0032】
図5Cは、図5Aと5Bの二次元分離マトリクスの上面図を概略的に示す。本図には、弁2と4及び分離マトリクス6と8が示されており、さらに試料取り込み窓46が三つ示されている。試料取り込み窓46の数は変えてもよい。弁2と4を閉じた状態で窓46を介して試料が取り込まれると、試料は第一分離マトリクスに沿って広がり第一分離マトリクスのメカニズムに従った分離が生じる。圧力、電力、もしくは磁力により、ある種の状況においては重力により、それ以外では物質の特性に従って(たとえば、磁性試料ならば磁界に反応し、大容量の試料ならば単純に重力に反応する、等)試料が流れるようにしてよい。バッファ槽48を設けてよく、これは単槽もしくは二重槽であってよく、たとえば両次元に対して一つ、あるいは各次元に一つ設けてよい。
【0033】
試料
装置により分離することができる分子には、タンパク質、タンパク質誘導体(糖タンパク質、リンタンパク質、及びリピドタンパク質(lipidprotein))、又は核酸がある。非共有結合により形成されるタンパク質複合体もしくは核酸含有複合体を用いることもできる。
【0034】
一例によると、ナノバーコードをプローブとする対象複合体または光学バーコードをプローブとする対象複合体を装置により分離することができる。ナノバーコードとは、一般的に組成体の大きさもしくは形状に対するシグニチャーであり、光学バーコードとは一般的に光子スペクトルに対するシグニチャーである。これらの用語を同一組成体について記載するために用いることができる。光学及びナノバーコードをプローブとする対象複合体にはDNA、タンパク質、及び/又は分子錯体がある。これらの複合体の特性を蛍光発光もしくはラマン顕微鏡法により、または走査トンネル顕微鏡(STM)もしくは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することができる。複合体をある特定の方法で選択、配置、構成すると、これらのいずれか、もしくは当業者に知られたその他の技術を用いて複合体を測定したときに独特のスペクトルもしくはその他のシグニチャーが生成される。プローブは、通常は複合体の一部であり、DNAまたは抗体を含んでよい。
【0035】
装置により分離してよいその他の生体分子試料には、自然発生化合物、自然発生化合物と合成化合物の複合体がある。自然発生化合物の例としては、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸(DNA/RNA)、砂糖、多糖、糖タンパク質、脂質、リピドタンパク質、代謝産物、ホルモン、ステロイド、及びビタミンがある。自然発生化合物の複合体の例には、細胞、バクテリア、ウイルス、及び上に挙げたような自然発生化合物により形成される抗原性物質がある。合成化合物の例には、上記のものを遺伝子操作したもの、あるいは化学修飾したものがあり、たとえば合成ペプチドと合成オリゴヌクレオチドがある。
【0036】
試料
装置により分離することができる分子には、タンパク質、タンパク質誘導体(糖タンパク質、リンタンパク質、及びリピドタンパク質)、又は核酸がある。非共有結合により形成されるタンパク質複合体もしくは核酸含有複合体を用いることもできる。たとえば、ナノバーコードをプローブとする対象複合体または光学バーコードをプローブとする対象複合体を装置により分離することができる。装置により分離してよいその他の生体分子試料には、自然発生化合物、自然発生化合物と合成化合物の複合体がある。自然発生化合物の例としては、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸(DNA/RNA)、砂糖、多糖、糖タンパク質、脂質、リピドタンパク質、代謝産物、ホルモン、ステロイド、及びビタミンがある。自然発生化合物の複合体の例には、細胞、バクテリア、ウイルス、及び上に挙げたような自然発生化合物により形成される抗原性物質がある。合成化合物の例には、上記のものを遺伝子操作したもの、あるいは化学修飾したものがあり、たとえば合成ペプチドと合成オリゴヌクレオチドがある。
【0037】
検出
分離の後、以下の原理の一つもしくは組み合わせに基づき、及び/又は原理群に基づき、生体分子を光学的技術により検出することができる。第一に、吸収、反射、偏光、及び/又は屈折を利用してよい。第二に、蛍光発光もしくはラマン法と表面増感ラマン分光法(SERS)を用いてよい。第三に、共鳴光散乱(RLS)原理を用いてよい。第四に、格子結合表面プラズモン共鳴(grating−coupled surface plasmon resonance:GCSPR)を用いてよい。
【0038】
本発明の模範図と特定の実施形態を示してきたが、本発明の範囲は記載した特定の実施形態に限定されないことが理解されよう。それゆえ、実施形態は制限的なものでなく例示的であると見做されるべきであり、当業者により、添付の請求項に記載する本発明とその構成的・機能的均等物の範囲から逸脱することなくこれらの実施形態が変更され得ることが理解されよう。たとえば、可撓性高分子膜を弁素材として用いてよく、たとえばマイクロ流体システムにおいて用いられる可撓性高分子膜、もしくはそれを変更したものを用いてよい。さらに多くの光学的検出技術を用いることができ、それらを本発明の統合型二次元分離装置と方法に適用してよい。用途としては、本発明の装置と方法を用いて臨床的用途と生物学的研究用途の装置を作成することができる。
【0039】
好適実施形態に従う二次元分離技術により分離装置を統合して小型化することができる。当該技術により二次元分離手続きの統合と自動化が可能になる。当該技術は生体分子(たとえばタンパク質)の分離には特に有利である。当該技術により試薬が節約され、検出及び/又は診断時間が短縮される。生物学的試料を質的・量的分析のために個々の分子種に分離することが迅速かつ自動的に実行可能となったという意味において、臨床化学と生物学的研究においては多大な利益が実現される。
【0040】
また、本明細書の好適実施形態に従って実施してよい上記の方法において、選択された編集順序に従って操作を記載した。しかし、この順序は編集上の利便性を考慮して選択され当該順序とされたのであり、特定の順序が明示された場合と当業者により特定の順序が必要であると認められる場合を除いては操作を実行するための特定の順序を示すことを意図したものでない。
【0041】
たとえば、生体分子を二次元分離するための統合型装置を製造する、好適実施形態に従った方法には、二以上の分離モジュールを互いに結合することが含まれる。結合には、弁制御により生体分子を第一次元と第二次元において分離するための弁を結合することが含まれる。また、生体分子の二次元分離方法を提供する。この方法においては弁により結合される少なくとも二つの分離モジュールのシステムが用いられており、当該少なくとも二つの分離モジュールは制御可能に隔離される。この方法には、当該少なくとも二つの分離モジュールが弁結合されたことに対応する第一次元において生体分子を分離することが含まれる。生体分子は、第一次元とは異なる第二次元において分離され、第一及び第二次元での分離は弁制御される。好適実施形態に従った方法もしくは装置のいずれにおいても、第一または第二次元においての、またはその両方においての分離には、生体分子の流れを促進することを目的として、圧力、電位差、及び/又は電気泳動を利用することを含めてよく、または試料の寸法が適度に大きいのであれば重力を利用することを含めてよい。
【0042】
本発明をその詳細の記載に連動させて記載したが、前出の記載は本発明を例示することを意図しており添付の請求項の範囲により定義される本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。その他の側面、利点、変更が以下の請求項の範囲に含められる。
【図1AB】

【図2AB】

【図3AB】

【図4ABC】

【図5AB】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の生体分子を二次元分離するための統合型の複数の装置を製造するための方法であって、一の第一次元と、該第一次元とは異なる一の第二次元とにおいて弁制御により前記複数の生体分子を分離するための一の弁結合を用いて二以上の分離モジュールを結合することを含む、方法。
【請求項2】
前記第一次元における前記分離は、一の電位差を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一次元における前記分離は、電気泳動を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一次元における前記分離は、圧力を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第二次元における前記分離は、一の電位差を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第二次元における前記分離は、電気泳動を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第二次元における前記分離は、圧力を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
複数の生体分子を二次元分離するための装置であって、
前記複数の生体分子を一の第一次元において分離するよう動作する一の第一モジュールと、
前記複数の生体分子を前記第一次元とは異なる一の第二次元において分離するよう動作する一の第二モジュールと、
前記第一分離モジュールを前記第二分離モジュールから制御可能に隔離するための一の構造と
を含む、装置。
【請求項9】
前記第一モジュールは、圧力を用いることにより前記第一次元における物質の流れを促進するよう構成されて、生体分子の流れを促進する、
請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記第二モジュールは、圧力を用いることにより前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項9までのいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記第二モジュールは、一の電位差を用いることにより前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項9までのいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記第二モジュールは、電気泳動により前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項9までのいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記第一モジュールは、一の電位差を用いることにより前記第一次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項8に記載の装置。
【請求項14】
前記第二モジュールは、圧力を用いることにより前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項13までのいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記第二モジュールは、一の電位差を用いることにより前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項13までのいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記第二モジュールは、電気泳動により前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項13までのいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記第一モジュールは、電気泳動により前記第一次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項8に記載の装置。
【請求項18】
前記第二モジュールは、圧力を用いることにより前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項17までのいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記第二モジュールは、一の電位差を用いることにより前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項17までのいずれかに記載の装置。
【請求項20】
前記第二モジュールは、電気泳動により前記第二次元における物質の流れを促進するよう構成されている、
請求項17までのいずれかに記載の装置。
【請求項21】
前記構造は、一の弁を含む、
請求項8に記載の装置。
【請求項22】
前記構造は、一つに線形弁を含む、
請求項8に記載の装置。
【請求項23】
前記線形弁の幅は、実質的に、その長さより小さい、
請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記線形弁の幅は、その長さの1/10未満である、
請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記構造は、二つの弁を含む、
請求項8に記載の装置。
【請求項26】
前記構造は、二つの線形弁を含む、
請求項8に記載の装置。
【請求項27】
少なくとも二つの分離モジュールが弁結合され、該少なくとも二つの分離モジュールを制御可能に隔離するための一のシステムを用いて、複数の生体分子を二次元分離するための方法であって、
前記少なくとも二つの分離モジュールの前記弁結合に対応した一の第一次元において、前記複数の生体分子を分離することと、
前記第一次元とは異なる一の第二次元において前記複数の生体分子を分離することと
を含み、
前記第一と第二の複数の次元における前記分離は弁制御される、
方法。
【請求項28】
前記第一と第二の複数の次元の少なくとも一つにおける前記分離は、一の電位差を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第一と第二の複数の次元の少なくとも一つにおける前記分離は、電気泳動を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記第一と第二の複数の次元の少なくとも一つにおける前記分離は、圧力を用いて生体分子の流れを促進することを含む、
請求項27に記載の方法。
【請求項31】
複数の生体分子を二次元分離するための装置であって、
一の基体と、
前記基体上に形成され、一の第一分離構成の複数の第一領域と一の第二分離構成の複数の第二領域とを含む一のマトリクス層と、
一のシール層と、
前記複数の第一領域と前記複数の第二領域との間の物質移動を調節する一の構造と
を含む、装置。
【請求項32】
前記基体は、一の非導電性材料を含む、
請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記調節構造は、前記シール層内に形成される、
請求項31に記載の装置。
【請求項34】
前記調節構造は、一のMEMS弁を含む、
請求項31に記載の装置。
【請求項35】
前記調節構造は、前記複数の第一領域と前記複数の第二領域との間に形成された一の細長い構造を含む、
請求項31に記載の装置。
【請求項36】
前記細長い構造は、一のシール構造を受け取るような形状の一の部分を含む、
請求項35に記載の装置。
【請求項37】
前記細長い構造は、前記シール構造が前記形状の部分に受け取られる一の第一位置と、前記シール構造と前記形状の部分との間に一のパスが形成される一の第二位置との間で前記シール構造を移動させる一の駆動部を更に含む、
請求項36に記載の装置。
【請求項38】
一の二次元生体分子分離装置のためのモジュールであって、複数の生体分子を一の第一次元において分離するための一の構造を含み、該構造は、前記複数の生体分子と接触する複数の柱状体の一のマトリクスを含む、モジュール。
【請求項39】
前記マトリクスは、前記複数の柱状体の一の均等分布を有する、
請求項38に記載のモジュール。
【請求項40】
前記マトリクスは、前記複数の柱状体の一の勾配分布を有する、
請求項38に記載のモジュール。
【請求項41】
前記マトリクスは、該マトリクスの一端における一の密度が該マトリクスの他方端におけるよりも高い一の分布を有する、
請求項38に記載のモジュール。
【請求項42】
前記複数の柱状体は、前記複数の生体分子の前記分離を促進する一のコーティングされた面を有する、
請求項38に記載のモジュール。
【請求項43】
前記複数の柱状体は、前記複数の生体分子の前記分離を促進する一のゲル内に埋設される、
請求項38に記載のモジュール。
【請求項44】
前記複数の柱状体は、電気泳動により前記複数の生体分子の前記分離が促進されるように、一の電極アレイを有する、
請求項38に記載のモジュール。
【請求項45】
一の二次元生体分子分離装置のためのモジュールであって、該モジュールは一の第一次元において複数の生体分子を分離するための一の構造を含み、該構造は複数の物質の選択した複数の特性に接触するような形状の複数の面を有する複数のマイクロチャネルを含む、モジュール。
【請求項46】
前記複数のマイクロチャネルは、選択した孔サイズの複数の多孔性面を有する、
請求項45に記載のモジュール。
【請求項47】
少なくとも二つの異なる次元において複数の生体分子を分離するための少なくとも第一と第二の複数の分離モジュールを含む一の二次元生体分子分離装置のための弁であって、該弁は、前記第一分離モジュールを前記第二分離モジュールから制御可能に分離するための一の弁構造を有する、弁。
【請求項48】
前記弁構造は、一の線形弁を含む、
請求項47に記載の弁。
【請求項49】
前記線形弁の幅は、実質的にその長さより小さい、
請求項48に記載の弁。
【請求項50】
前記線形弁の幅は、その長さの1/10未満である、
請求項48に記載の弁。
【請求項51】
前記弁構造は、二つの弁を含む、
請求項47に記載の弁。
【請求項52】
前記弁構造は、二つの線形弁を含む、
請求項47に記載に弁。
【請求項53】
前記弁構造は、一の単一弁(unitary valve)を含む、
請求項47に記載の弁。
【請求項54】
前記弁構造は、一の第一位置と一の第二位置との間を移動可能な一の細長いセグメントを有する、
請求項47に記載の弁。
【請求項55】
前記弁構造は、一の線形アレイに配置された複数の弁を含む、
請求項47に記載の弁。
【請求項56】
前記弁構造は、複数の弁の一のアレイを含む、
請求項47に記載の弁。

【図5C】
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【公開番号】特開2012−177708(P2012−177708A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−111805(P2012−111805)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【分割の表示】特願2008−513815(P2008−513815)の分割
【原出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(591003943)インテル・コーポレーション (1,101)