説明

線材の溶融めっき方法

【課題】めっき厚の均一性に優れ、安定的に20%以下の偏肉度を達成することが可能な線材の溶融めっき方法を提供する。
【解決手段】溶融めっき液Lに、低融点金属よりも酸化しやすい添加元素を添加すると共に、所定濃度の酸素が添加された不活性ガス雰囲気に添加元素を晒して添加元素の酸化膜12を溶融めっき液Lの湯面S上に形成し、不活性ガス雰囲気中で溶融めっき液Lの湯面Sから線材3を上方へ引出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線材の溶融めっき方法に係り、特に、線材の表面に付着させる溶融めっき層の偏肉を小さくすることが可能な線材の溶融めっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、線材の溶融めっき方法として、図3に示す溶融めっき装置30を用いて溶融めっき線を製造する方法がある。
【0003】
この方法では、溶融めっき材料として用いる低融点金属を溶融した溶融めっき液Lをめっき浴槽31にて溶融保持し、めっき対象となる線材33をめっき浴槽31内に導入すると共に、めっき浴槽31内に固定したシンカーロール32により線材33を上方に引出し、溶融めっき液Lの湯面(めっき浴槽湯面)Sに適当な支持具で固定もしくは浮遊させた適当な穴径の絞りダイス34を通すことにより、めっき厚を調整して溶融めっき線35を製造する。
【0004】
この線材の溶融めっき方法では、高速でめっきができる反面、線材33と絞りダイス34の偏心、あるいは線材33および絞りダイス34の振動により、図4に示すように、溶融めっき層41の長手方向の外径が一定でも、めっき厚さが不均一となる偏肉が生じやすいという問題がある。
【0005】
そこで、偏肉を低減するために、絞りダイス34を用いない溶融めっき方法がある。
【0006】
絞りダイス34を用いない溶融めっき方法では、溶融めっき液Lの湯面Sから線材33を引出す引出し部において、図5に示すように、線材33を取巻く溶融めっき液Lからなる凹面の円錐表面を有する引出し円錐51が形成される。溶融めっき液Lと線材33の濡れ性や線材33の走行速度により、この引出し円錐51の形や大きさは変化するが、めっき厚の長手方向均一性向上や、偏肉低減のためには、この引出し円錐51の形状が溶融めっき線35の製造中に乱れないようにする必要がある。このため、溶融めっき液Lの湯面Sや線材33が振動しないようにすることが必要である。
【0007】
溶融めっき液Lの湯面Sや線材33が振動しないようにする方法として、特許文献1〜3には、線材33の引出し部を管あるいは筒状体等で、シンカーロール32が回転することにより引き起こされる溶融めっき液Lの揺れから隔離する方法や、外部の溶融めっき液Lの湯面Sの波立ちから隔離する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献1〜3には、この管あるいは筒状体の中を非酸化性ガスあるいは還元性ガスで満たし、内部の湯面の酸化を抑えることや、管を加熱することにより、引出し部において線材33と溶融めっき液Lの濡れ性を向上させることも効果があることも記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平5−32466号公報
【特許文献2】特許第2749694号公報
【特許文献3】特許第2967328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、絞りダイス34を用いない線材の溶融めっき方法では、線材33を溶融めっき液Lの湯面Sから上方に引出す部分を比較的径の大きな石英管等の筒状体で隔離し、筒状体内部を酸素濃度を調整した非酸化性雰囲気で満たし、内部の湯面Sの酸化を抑えることで、溶融めっき液Lの流動性を安定させ、引出し円錐51の形状を安定化させている。
【0011】
しかしながら、この方法では、めっき厚の長手方向均一性は比較的優れるものの、偏肉度を安定的に20%以下にすることは困難であった。ここで偏肉度とは、溶融めっき線35の断面において、次式で表される数値である。
偏肉度(%)=((最大めっき厚さ)−(最小めっき厚さ))/(最小めっき厚さ)×100
【0012】
また絞りダイス34を用いない線材の溶融めっき方法では、走行する線材33の線速によりめっき厚を調整(線速を速くするとめっきが厚くなる)するが、一般に絞りダイス34を用いる場合の線速が数百m/分であるのに対し、数m〜数十m/分と線速が遅い。線速を速くするために、溶融めっき液Lの温度を高くする方法があるが、この方法では、線材33の金属成分が溶融めっき液Lへ溶出する量が多くなるなどの不具合が生じる。
【0013】
なお、電解めっき法によれば、溶融めっき法に比し、偏肉の少ないめっき線材を得ることができるが、製造装置が高コストであること、廃液処理が必要であること、めっきできる金属元素に限りがあること、2種以上の元素からなる合金めっきにおいてはめっき浴の管理が煩雑であること等の問題があった。
【0014】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、電解めっき法よりも低コストである溶融めっき方法において、めっき厚の均一性に優れ、安定的に20%以下の偏肉度を達成することが可能な線材の溶融めっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、低融点金属を溶融させた溶融めっき液を溶融保持するめっき浴槽内に、金属からなる線材を連続して導入すると共に、該線材を不活性ガス雰囲気中で前記溶融めっき液の湯面から上方へ引出して、前記線材の表面に溶融めっき層を形成する線材の溶融めっき方法であって、前記溶融めっき液に、前記低融点金属よりも酸化しやすい添加元素を添加すると共に、所定濃度の酸素が添加された不活性ガス雰囲気に前記添加元素を晒して該添加元素の酸化膜を前記溶融めっき液の湯面上に形成し、前記不活性ガス雰囲気中で前記溶融めっき液の湯面から前記線材を上方へ引出した線材の溶融めっき方法である。
【0016】
前記低融点金属がSnであり、前記添加元素として、Snより酸化しやすい元素を0.01mass%以上、飽和濃度以下添加するようにしてもよい。
【0017】
前記不活性ガス雰囲気中の酸素濃度を5〜1000Vol・ppmの範囲内としてもよい。
【0018】
前記線材を上方に引出す線速を、前記酸化膜を破らない速度に設定してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電解めっき法よりも低コストである溶融めっき方法において、めっき厚の均一性に優れ、安定的に20%以下の偏肉度を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る線材の溶融めっき方法に用いる溶融めっき装置を示す概略図であり、(b)は、引出し円錐の途中まで酸化膜を形成したときの溶融めっき液の引出し部の状態を示す模式図である。
【図2】本発明において、酸化膜のフローティングダイス効果を説明する図である。
【図3】従来の線材の溶融めっき方法に用いる溶融めっき装置を示す概略図である。
【図4】図3の溶融めっき装置で製造した溶融めっき線の溶融めっき層の偏肉状態を示す横断面図である。
【図5】絞りダイスを用いない場合の溶融めっき液の引出し部の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0022】
図1(a)は、本実施の形態に係る線材の溶融めっき方法に用いる溶融めっき装置を示す概略図である。
【0023】
図1(a)に示すように、溶融めっき装置1は、溶融めっき材料として用いる低融点金属からなる溶融めっき液Lを溶融保持するめっき浴槽2と、めっき浴槽2内に回転自在に設けられ、銅線や銅合金線からなる線材3を案内するシンカーロール4と、シンカーロール4の上方で、かつ溶融めっき液Lの湯面Sの上方に設けられた引き上げロール5とを備えている。
【0024】
本実施の形態では、低融点金属としてSnを用い、Snからなる溶融めっき液Lに、Snより酸化しやすい添加元素を、0.01mass%以上飽和濃度以下添加するようにした。Snより酸化しやすい添加元素としては、Zn、Ti、Cr、Al、Mg等が挙げられる。添加元素の添加量を0.01mass%以上とするのは、添加量が0.01mass%未満であると、後述する酸化膜が形成されないか、形成されても薄く、ちぎれやすくなってしまうためである。
【0025】
より具体的には、添加元素としてZnまたはCrを用いる場合は0.01mass%以上飽和濃度以下、Ti、Al、Mgを用いる場合は0.1mass%以上飽和濃度以下添加することが望ましい。なお、280℃での飽和濃度は、Znは20mass%、Alは1mass%、Mgは4mass%、Crは0.1mass%である。
【0026】
シンカーロール4と引き上げロール5との間には、線材3を覆うように、かつ、その下端が溶融めっき液Lに浸り、その上端が溶融めっき液Lの湯面Sから上方に突出するように筒状体6が設けられる。筒状体6は、例えば、石英管等で形成される。
【0027】
筒状体6を線材3の引出し部に設けることにより、線材3の引出し部を、シンカーロール4が回転することによる溶融めっき液Lの揺れや、筒状体6の外部の溶融めっき液Lの湯面Sの波立ちから隔離することが可能となり、後述する引出し円錐の流動性を向上させ、安定化させることが可能となる。
【0028】
この筒状体6の上部には、筒状体6の上部空間を覆うようにガス室7が設けられ、そのガス室7には、所定濃度の酸素を添加した不活性ガス(例えば、窒素)を供給するためのガス供給管8が接続される。これにより、筒状体6の内部は、多少の酸素が含まれるものの不活性ガス雰囲気(非酸化性雰囲気)となる。
【0029】
酸素の添加濃度としては、低融点金属(ここではSn)が酸化しない程度の濃度で、かつ、添加元素が酸化する濃度とすればよく、酸素濃度が5から1000Vol・ppmの範囲内とするのが好ましい。酸素濃度が5Vol・ppm未満の場合、湯面酸化膜が形成されない、または形成される速度が遅く、フローティングダイスの効果が得られないからである。また、酸素濃度が1000Vol・ppmを超えると、不活性ガス雰囲気中でめっき表面が酸化してしまい外観が悪くなるおそれがあるからである。
【0030】
めっき浴槽2上には、溶融めっき液Lに浸る前の線材3の外径を測定する外径測定器9aが設けられ、また、引き上げロール5の下方には、線材3の表面に溶融めっき層を形成した溶融めっき線10の外径を測定する外径測定機9bが設けられている。
【0031】
次に、本実施の形態に係る線材の溶融めっき方法について説明する。
【0032】
線材3は、外径測定器9aで外径が測定されて、めっき浴槽2内の溶融めっき液Lに連続して導入され、シンカーロール4で上方に反転され、筒状体6の中心を通り、溶融めっき液Lの湯面Sから上方へ引出される。このとき、図1(b)に示すように、線材3の周囲の溶融めっき液Lが線材3に伴って上方に引き上げられ、引出し円錐11が形成される。
【0033】
上述のように、溶融めっき層の偏肉は、線材3の微小な振動により、引出し円錐11が左右非対称になってしまうことが原因である。
【0034】
この引出し円錐11を左右対称に保つべく本発明者らが鋭意研究した結果、線材3の引出し部に形成される引出し円錐11を、酸化膜12が途中まで形成された状態にすることで、この酸化膜12が線材3の微振動に完全に追随し、引出し円錐11の形状を左右対称に保つ効果を発揮すること、すなわち、酸化膜12がフローティングダイスの効果を発揮し、これにより偏肉度を安定的に20%以下にすることが可能となることを突き止めた。
【0035】
本実施の形態に係る線材の溶融めっき方法では、めっき浴槽2内に溶融保持されたSnからなる溶融めっき液Lに、Snよりも酸化しやすい添加元素を添加しておき、ガス供給管8から所定濃度の酸素が添加された不活性ガスを供給して、線材3を所定濃度の酸素が添加された不活性ガス雰囲気中で溶融めっき液Lの湯面Sから上方へ引出すようにした。
【0036】
筒状体6内の湯面Sでは、雰囲気中に含まれた酸素により、溶融めっき液Lに添加された添加元素が酸化し、溶融めっき液Lの湯面Sに酸化膜12が形成される。本実施の形態では、添加元素としてZn、Ti、Cr、Al、Mg等を用いるが、これら添加元素の酸化物はSnからなる溶融めっき液Lよりも比重が軽いため、溶融めっき液Lの湯面Sに酸化膜12が形成される。酸化膜12は、引出し円錐11の途中まで、すなわち、引出し円錐11の下方から引出し円錐11の表面の一部を覆うように形成される。
【0037】
図2に示すように、引出し円錐11の図示左側の部分をa部分、図示右側の部分をb部分とし、a部分およびb部分における酸化膜12と線材3との距離をXaおよびXbとし、線材3の振動によりXa<Xbとなって引出し円錐11が線材3に対して左右非対称になった場合を考える。
【0038】
溶融めっき液Lの浴中および引出し円錐11の線材3の極近傍では、線材3の進行方向に沿って、図中矢印で示される溶融めっき液Lの流動があるが、線材3との距離が小さいa部では、線材3との距離が大きいb部より溶融めっき液Lの圧力が高まり、その結果、軽い酸化膜12が動いて、距離Xaは大きくなろうとする。常にこのような力が酸化膜12に働くため、線材3の周囲で溶融めっき液Lの圧力が一定の状態、すなわちXa=Xbとなるように酸化膜12が動くことになる。すなわち、酸化膜12と線材3の距離(ギャップ)が常に一定に保たれ、引出し円錐11の形状は、どの方向から見ても線材3に対して左右対称に保たれる。つまり、酸化膜12は線材3の微振動に完全に追随し、フローティングダイスとして機能することになる。
【0039】
線材3を湯面Sから上方に引出す線速については、酸化膜12を破らない程度の速度、すなわち、線材3が酸化膜12を巻き込まない程度の速度に設定するとよい。これは、線材3の線速が速すぎると、線材3の進行方向に沿う溶融めっき液Lの流動量が多くなりすぎ、酸化膜12が連続的に線材3に付着してしまうおそれがあるためである。線材3の径が大きくなるとこの傾向が強まり、より低い線速でも酸化膜12が付着してしまうため、線材3の線速は、線材3の径で決まる酸化膜付着線速よりも低くすることが必要である。例えば、線材3の径がφ0.6mmである場合、線速は15m/分未満、好ましくは12m/分以下に設定されることが望ましい。
【0040】
溶融めっき液Lの湯面Sから引き上げられた線材3の表面には溶融めっき層が形成され、溶融めっき線10が形成される。溶融めっき線10は、外径測定器9bで外径が測定され、引き上げロール5からキャプスタン(図示せず)を介して巻取りボビン(図示せず)に巻き取られる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態に係る線材の溶融めっき方法では、Snからなる溶融めっき液Lに、Snよりも酸化しやすい添加元素を添加すると共に、所定濃度の酸素が添加された不活性ガス雰囲気中で線材3を溶融めっき液Lの湯面Sから上方へ引出すようにして、溶融めっき液Lの湯面Sに添加元素の酸化膜12を形成し、その酸化膜12を引出し円錐11の途中まで形成するようにしている。
【0042】
これにより、湯面Sに形成された添加元素の酸化膜12が、線材3の微振動に完全に追随するフローティングダイスとして機能し、引出し円錐11を線材3に対してどの方向から見ても左右対称に保ち、溶融めっき層の偏肉を抑制することが可能となる。その結果、めっき厚の均一性に優れ、偏肉度が20%以下の溶融めっき線10を安定的に製造することが可能となる。
【0043】
従来より、絞りダイスを用いた方法でフローティングダイスの効果を狙って、溶融めっき液より比重の小さいダイスを溶融めっき液に浮かべ、自由に動くようにする方法があるが、ダイスが動くときに溶融めっき液の抵抗があり、μm単位の線材の振動に完全に追従することは不可能であった。また、製造中に、大きな振動が線材に加わったときなどに、ダイスが線材と一緒に引き上げられてしまうという問題もあった。
【0044】
本実施の形態では、フローティングダイスとして機能する酸化膜12が非常に軽く、また動くときに溶融めっき液Lの抵抗もないので、μm単位の線材3の振動であっても追従することが可能である。また、大きな振動が線材3に加わったときでも、酸化膜12の一部がちぎれ、線材3の表面に付着するのみであり、酸化膜12が付着した部分は、外観(目視)もしくは外径測定器9bにより容易に検出できるので、後で取り除くことが可能である。また、ちぎれた酸化膜12は湯面Sにて再生されるので、ラインを止める必要がない。
【0045】
さらに、酸化膜12は絞りダイスとしても機能するため、引出し円錐11に酸化膜12が形成されていないときと比較して、めっき厚を薄くすることができる。したがって、所望のめっき厚を得るために、線速を速くできるという利点があり、コスト低減に役立つ。
【0046】
また、本実施の形態では、低融点金属がSnであり、添加元素として、Snより酸化しやすい元素を0.01mass%以上、飽和濃度以下添加するようにしている。
【0047】
溶融めっき材料の低融点金属としてSnを用いた溶融Snめっきでは、何も添加しなければ、雰囲気中に少量の酸素が添加されていたとしても、不活性ガス雰囲気中(非酸化性雰囲気中)では酸化膜は形成されない。しかし、Zn、Ti、Cr、Al、Mg等のSnより酸化しやすい添加元素を、0.01mass%以上添加することにより、それらの元素の酸化膜12を徐々に形成させることができ、形成した酸化膜12にフローティングダイス効果を発揮させることができる。上述の添加元素の酸化物はいずれも溶融Snよりも比重が軽いので、フローティングダイスの役目を果たす。
【0048】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【実施例】
【0049】
めっき浴槽2で錫(Sn)を溶融して温度280℃に保ち、φ0.6mmのCuからなる線材3を前処理後、めっき浴槽2へ導入し、シンカーロール4にて鉛直上方に引き上げる溶融めっき装置1にて溶融めっきを行った。
【0050】
線材3の引出し部は石英管からなる筒状体6で囲み、N2ガス(50Vol・ppmのO2添加)により、N2を1リットル/分で導入した。溶融めっき液Lには、あらかじめ1mass%(実施例1)、0.1mass%(実施例2)、0.01mass%(実施例3)の濃度のZnを添加剤として添加し、線速12m/分で溶融めっき線10を試作した。
【0051】
同様にして、Znの添加濃度を0.005mass%とした比較例1、Znを添加しない比較例2、Znを添加せず線速を5m/分とした比較例3、Znの添加濃度を0.1mass%とし線速を15m/分とした比較例4、Znの添加濃度を0.1mass%としN2ガス中の酸素濃度を0.5Vol・ppmとした比較例5の溶融めっき線をそれぞれ試作した。
【0052】
試作した実施例1〜3および比較例1〜5の溶融めっき線をそれぞれ長手方向10箇所にて断面研磨を行い、各箇所の偏肉度を評価し、電解式膜厚計により各箇所のめっき厚を測定した。得られた10箇所の偏肉度およびめっき厚の平均値を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、添加Zn濃度が0.01mass%以上の実施例1〜3では、筒状体6(石英管)内の湯面Sおよび引出し円錐11の途中まで酸化膜12が形成され、それに伴い溶融めっき層の偏肉が小さくなり、偏肉度は20%より小さくなることが分かる。また、実施例1〜3では、線材3の表面への酸化膜12の付着は無かった。
【0055】
これに対して、添加Zn濃度が0.005%の比較例1、Znを添加しない比較例2,3、および比較例5では酸化膜12が形成されず、溶融めっき層の偏肉が20%を超えて高くなった。また、比較例1,2では、めっき厚が厚くなっており、例えば、めっき厚を4μmにする場合は、比較例3のように線速を落とす必要があり、コスト的に不利である。さらに、線速を15m/分と速くした比較例4では、酸化膜が破れて、酸化膜の破片が線材の表面に付着してしまった。
【0056】
他に、Ti、Al、Mg、Crを添加した場合について同条件で試作、評価したところ、添加量が0.1mass%以上飽和濃度以下(Crについては0.01mass%以上飽和濃度以下)であれば、Znと同効果が得られた。280℃での飽和濃度は、Znは20mass%、Alは1mass%、Mgは4mass%、Crは0.1mass%である。
【0057】
以上より、溶融Snめっきでは、Snより酸化しやすい元素であるZn、Ti、Al、Mg、Crを、0.01mass%以上飽和濃度以下添加することで、フローティングダイスとして機能する酸化膜が形成され、偏肉度を20%より小さくできる。また、線速を速くしすぎると、酸化膜が破れて線材に付着するため、線速は酸化膜を破らない速度に設定するとよい。
【符号の説明】
【0058】
1 溶融めっき装置
2 めっき浴槽
3 線材
4 シンカーロール
5 引き上げロール
6 筒状体
7 ガス室
8 ガス供給管
9a,9b 外径測定器
10 溶融めっき線
11 引出し円錐
12 酸化膜
L 溶融めっき液
S 湯面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点金属を溶融させた溶融めっき液を溶融保持するめっき浴槽内に、金属からなる線材を連続して導入すると共に、該線材を不活性ガス雰囲気中で前記溶融めっき液の湯面から上方へ引出して、前記線材の表面に溶融めっき層を形成する線材の溶融めっき方法であって、
前記溶融めっき液に、前記低融点金属よりも酸化しやすい添加元素を添加すると共に、所定濃度の酸素が添加された不活性ガス雰囲気に前記添加元素を晒して該添加元素の酸化膜を前記溶融めっき液の湯面上に形成し、前記不活性ガス雰囲気中で前記溶融めっき液の湯面から前記線材を上方へ引出したことを特徴とする線材の溶融めっき方法。
【請求項2】
前記低融点金属がSnであり、前記添加元素として、Snより酸化しやすい元素を0.01mass%以上、飽和濃度以下添加するようにした請求項1記載の線材の溶融めっき方法。
【請求項3】
前記不活性ガス雰囲気中の酸素濃度を5〜1000Vol・ppmの範囲内とした請求項1または2記載の線材の溶融めっき方法。
【請求項4】
前記線材を上方に引出す線速を、前記酸化膜を破らない速度に設定する請求項1〜3いずれかに記載の線材の溶融めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58051(P2011−58051A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209251(P2009−209251)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】