説明

線材操出装置

【課題】線材操出装置において、設置スペースの大きな増大を伴わずに、線材の擦れ合いによる線材の傷及びほつれの発生を防止すること。
【解決手段】線材操出装置は、線材保持部(3)の回転軸の方向において前記線材保持部の位置を変化させる変位機構(30)と、前記線材保持部(3)から繰り出された前記線材の前記回転軸の方向における変位を検出する変位検出部(41)と、前記変位検出部(41)の検出結果に応じて前記変位機構(30)を制御することにより前記線材保持部(3)の位置を変更する制御部(52)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材保持部を回転させることにより、前記線材保持部に巻かれた線材を繰り出す線材操出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅又はアルミニウムなどの導電性材料からなる線材の周囲に絶縁被覆がなされた電線を製造する場合、線材操出装置が用いられる。前記線材操出装置は、前記線材を保持するボビンを回転させることにより、前記ボビンに巻かれた線材を繰り出す装置である。前記線材操出装置から繰り出された前記線材は、後段の被覆工程へ引き込まれ、その被覆工程において、周囲に絶縁材が被覆される。
【0003】
図3は、従来の一般的な線材操出装置100の概略構成図である。図3(a)及び図(b)は、それぞれ前記線材操出装置100の側面図及び平面図である。図3に示されるように、従来の線材操出装置100は、ボビン支持機構4、繰り出しモータ5、第1従動ローラ11及び固定ローラ機構20を備えている。
【0004】
前記ボビン支持機構4は、線材2が巻かれたボビン3を回転自在に支持する機構である。前記繰り出しモータ5は、前記ボビン支持機構4により支持された前記ボビン3を一定方向へ回転駆動するモータである。前記繰り出しモータ5は、後工程での前記線材2の引き込み速度に応じた速度で回転するよう制御される。これにより、繰り出された前記線材2に適度の張力が加わる。以下、前記繰り出しモータ5の回転軸の方向、即ち、前記繰り出しモータ5の回転中心線に平行な方向をボビン回転軸方向92と称する。また、上方から見たときの、線材操出装置から後工程へ送り出される線材2に沿う線を、後工程送出ライン91と称する。通常、前記ボビン回転軸方向92と前記後工程送出ライン91とは直交する。
【0005】
前記第1従動ローラ11は、不図示の支持機構により、前記ボビン回転軸方向92において前記線材2に従動して変位可能に支持されている。また、前記第1従動ローラ11は、前記ボビン3から繰り出された前記線材2に対して付勢され、前記線材2に従動して回転する。
【0006】
前記固定ローラ機構20は、前記第1従動ローラ11を経た前記線材2に従動して回転する第2従動ローラ21と、その第2従動ローラ21を回転自在に支持するローラ支持軸22とを含む機構である。前記ローラ支持軸22は所定の固定部に固定されている。前記固定ローラ機構20を経た線材2は、後工程へ引き込まれる。そのため、前記第2従動ローラ21は、上方から見た場合に、前記後工程送出ライン91に対し、その回転軸が直交し、その幅方向の中心が一致するように配置される。また、前記ボビン3も、上方から見た場合に、前記後工程送出ライン91に対し、その回転軸が直交し、その幅方向の中心が一致するように配置される。
【0007】
図3において、太い波線の円の中心の位置は、前記ボビン3における前記線材2の繰り出し位置である。前記線材2が前記ボビン3から順次繰り出されると、前記ボビン3における前記線材2の繰り出し位置は、前記ボビン回転軸方向92において変化する。前記線材2の繰り出し位置が、前記ボビン回転軸方向92において変化すると、前記線材2から前記第1従動ローラ11に対して前記ボビン回転軸方向92の力が加わる。これにより、前記第1従動ローラ11は、前記ボビン回転軸方向92において、前記線材2に従動して変位する。前記第1従動ローラ11は、前記後工程送出ライン91に対する前記固定ローラ機構20への前記線材2の進入角度を小さくするために設けられている。
【0008】
前記線材2の繰り出し位置が、前記後工程送出ライン91上にある場合、前記ボビン回転軸方向92と前記ボビン3からの前記線材2の繰り出し方向とのなす角度である繰り出し角度が90度となる。そして、前記線材2の繰り出し位置が、前記後工程送出ライン91から遠ざかるほど前記繰り出し角度は90度から大きくずれる。前記繰り出し角度が90度から大きくずれると、繰り出される線材2が、これに隣接して前記ボビン3に巻かれている線材2と擦れ合う。
【0009】
前記線材2の擦れ合いは、線材2の傷及び撚られた線材2のほつれの原因となる。特に、前記線材2がアルミニウムなどの比較的柔らかい導体である場合、線材2の傷及びほつれの問題がより顕著となる。また、傷又はほつれが生じた線材2は、後段の被覆工程において断線することもある。
【0010】
また、前記ボビン3と前記固定ローラ機構20とが、前記ボビン3の幅に対して十分に長い距離を隔てて配置されれば、前記繰り出し位置の変化に対する前記繰り出し角度の変動が小さくなり、前記線材2の擦れ合いは回避できる。しかしながら、その場合、操出装置の設置スペースが非常に大きくなるという新たな問題が生じる。
【0011】
一方、特許文献1に示される線材操出装置は、前記線材2の擦れ合いを回避するため、前記繰り出し方向のずれを検出し、そのずれを修正するように、前記第1従動ローラ11に相当するトラバースローラをモータによって前記ボビン回転軸方向92に能動的に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−296969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に示される線材操出装置は、線材が前記トラバースローラにおいて大きく屈曲し、線材と前記トラバースローラとの擦れ合いが発生するという問題を有している。そのため、特許文献1に示される線材操出装置は、線材の傷及びほつれの問題を十分に解決できない。
【0014】
本発明は、線材操出装置において、設置スペースの大きな増大を伴わずに、線材の擦れ合いによる線材の傷及びほつれの発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る線材操出装置は、線材保持部を回転させることにより、前記線材保持部に巻かれた線材を繰り出す装置であり、以下に示す各構成要素を備える。第1の構成要素は、前記線材保持部の回転軸の方向において前記線材保持部の位置を変化させる変位機構である。第2の構成要素は、前記線材保持部から繰り出された前記線材の前記回転軸の方向における変位を検出する変位検出部である。第3の構成要素は、前記変位検出部の検出結果に応じて前記変位機構を制御することにより前記線材保持部の位置を変更する制御部である。
【0016】
また、本発明に係る線材操出装置が、さらに、前記線材保持部から繰り出された前記線材に従動して回転し、前記回転軸の方向において前記線材に従動して変位可能に支持された従動ローラを備えることが考えられる。この場合、前記変位検出部は、前記従動ローラ又は前記従動ローラに連動する部材の前記回転軸の方向における変位を検出する。
【0017】
また、本発明に係る線材操出装置において、前記変位検出部は、前記線材が前記回転軸の方向における所定の基準範囲からその基準範囲の両外側各々へ逸脱して変位したことを検出することが考えられる。この場合、前記制御部は、前記変位検出部により前記線材が前記基準範囲から逸脱したことが検出されるごとに、前記線材が前記基準範囲から逸脱した方向の反対方向へ前記線材保持部が所定量変位するよう前記変位機構を制御する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前記線材保持部から繰り出された前記線材の前記回転軸の方向における変位に応じて、前記線材の繰り出し角度が90度に近い状態に維持されるように、前記回転軸の方向における前記線材保持部の位置が調節される。さらに、線材に従動して前記回転軸の方向に変位可能な前記従動ローラが存在する場合に、前記線材はその従動ローラにおいて大きく屈曲しない。その結果、前記線材の擦れ合いによる線材の傷及びほつれの発生を防止することが可能となる。しかも、本発明に係る線材操出装置の設置スペースは、従来の線材操出装置のそれと比較して、前記線材保持部をその回転軸方向に移動させるための若干のスペースが加わるだけに過ぎない。
【0019】
また、前記変位検出部が、前記従動ローラ又は前記従動ローラに連動する部材の前記回転軸の方向における変位を検出する場合、細い線材の変位を直接検出する場合よりも比較的感度の低いセンサを採用できる。その結果、装置コストの低減効果が得られる。
【0020】
また、前記変位検出部により、前記線材が前記基準範囲の両側各々へ逸脱して変位したこと検出し、その検出結果に応じて所定量だけ前記線材保持部を変位させる制御は、ごく簡易なシーケンス制御によって実現できる。その結果、装置コストが低減され、制御パラメータの調整が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る線材操出装置1の概略構成図。
【図2】線材操出装置1におけるスライドモータの制御に関連する主要部のブロック図。
【図3】従来の線材操出装置100の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0023】
<第1実施形態>
まず、図1を参照しつつ、本発明の実施形態に係る線材操出装置1の構成について説明する。本発明の実施形態に係る線材操出装置1は、銅又はアルミニウムなどの材料からなる線材2を保持するボビン3を回転させることにより、前記ボビン3に巻かれた線材2を後工程へ繰り出す装置である。
【0024】
図1に示されるように、前記線材操出装置1は、ボビン支持機構4、繰り出しモータ5、トラバースローラ機構10、固定ローラ機構20、スライド変位装置30、変位センサユニット41,42,43、及び制御盤50を備えている。
【0025】
前記ボビン支持機構4は、線材2が巻かれた前記ボビン3を回転自在に支持する機構である。前記繰り出しモータ5は、前記ボビン支持機構4により支持された前記ボビン3を一定方向へ回転駆動するモータである。前記繰り出しモータ5は、前記線材2に生じる張力が許容範囲内に収まるように回転速度が制御される。前記制御盤50には、前記線材2に生じる張力の検出結果に応じて前記繰り出しモータ5の回転速度を制御する繰り出しモータ制御回路51が収容されている。これにより、繰り出された前記線材2に適度の張力が加わる。なお、前記線材2に生じる張力を検出する張力センサは、前記線材操出装置1の後工程に設けられている。
【0026】
以下の説明においても、図3の説明のときと同様に、前記繰り出しモータ5の回転軸の方向、即ち、前記繰り出しモータ5の回転中心線に平行な方向をボビン回転軸方向92と称する。また、上方から見たときの、線材操出装置から後工程へ送り出される線材2に沿う線を、後工程送出ライン91と称する。前記ボビン回転軸方向92と前記後工程送出ライン91とは直交する。
【0027】
前記トラバースローラ機構10は、第1従動ローラ11と、その第1従動ローラ11を前記ボビン回転軸方向92において前記線材2に従動して変位可能に支持し、かつ、前記第1従動ローラ11を回転自在に支持する機構とを備えている。前記第1従動ローラ11は、前記ボビン3から繰り出された前記線材2に対して付勢され、前記線材2に従動して回転する。図1に示される例では、前記第1従動ローラ11は、上方から下方へ向けて前記線材2に対して圧接されている。
【0028】
前記トラバースローラ機構10は、前記第1従動ローラ11、ローラ支持軸12、アーム部材13及び支柱14を備えている。前記アーム部材13は、鉛直方向に対して斜めに傾けて固定された前記支柱14によって支持されている。より具体的には、前記アーム部材13は、前記支柱14により、水平面に対して鋭角をなす傾斜面内において回動自在に支持されている。前記ローラ支持軸12は、前記アーム部材13の回動端の部分に設けられ、前記第1従動ローラ11を回転自在に支持する。
【0029】
前記第1従動ローラ11は、前記支柱14を中心とし、前記ボビン回転軸方向92に対して概ね平行な円弧に沿って回動可能である。従って、前記第1従動ローラ11は、前記支柱14及び前記アーム部材13により、前記ボビン回転軸方向92に変位可能に支持されている。
【0030】
前記固定ローラ機構20は、前記第1従動ローラ11を経た前記線材2に従動して回転する第2従動ローラ21と、その第2従動ローラ21を回転自在に支持するローラ支持軸22とを含む機構である。前記ローラ支持軸22は所定の固定部に固定されている。前記固定ローラ機構20を経た線材2は、後工程へ引き込まれる。そのため、前記第2従動ローラ21は、上方から見た場合に、前記後工程送出ライン91に対し、その回転軸が直交し、その幅方向の中心が一致するように配置される。また、前記ボビン3も、上方から見た場合に、前記後工程送出ライン91に対し、その回転軸が直交し、その幅方向の中心が一致するように配置される。
【0031】
図1において、太い波線の円の中心の位置は、前記ボビン3における前記線材2の繰り出し位置である。前記線材操出装置1において、前記線材2の繰り出し位置が、前記ボビン回転軸方向92において変化すると、前記線材2から前記第1従動ローラ11に対して前記ボビン回転軸方向92の力が加わる。これにより、前記第1従動ローラ11は、前記ボビン回転軸方向92において、前記線材2に従動して変位する。前記トラバースローラ機構10は、前記後工程送出ライン91に対する前記固定ローラ機構20への前記線材2の進入角度を小さくするために設けられている。
【0032】
ところで、前記線材操出装置1において、前記ボビン3の位置が固定されたままで前記線材2が前記ボビン3から順次繰り出されると、前記ボビン3における前記線材2の繰り出し位置は、前記ボビン回転軸方向92において大きく変化してしまう。しかしながら、前記線材操出装置1は、前記ボビン3における前記線材2の繰り出し位置の変動を抑えるため、前記スライド変位装置30、前記変位センサユニット41,42,43、及び前記制御盤50に収容されたスライドモータ制御回路52を備えている。
【0033】
前記スライド変位装置30は、線材保持部である前記ボビン3の前記ボビン回転軸方向92における位置を変化させる変位機構である。前記スライド変位装置30は、駆動源であるスライドモータ31及びボビンスライド機構32を備える。前記ボビンスライド機構32は、前記スライドモータ31を駆動源として、前記ボビン支持機構4及び前記繰り出しモータ5を支持する台車6を、前記ボビン回転軸方向92に往復移動させる機構である。
【0034】
図1に示される例では、前記台車6は、その下方に固定された台座7の上面に平行に設けられた複数のレール8の上に、前記台車6の車輪が嵌合するように載置されている。複数の前記レール8は、前記ボビン回転軸方向92に伸びて形成されている。前記ボビン支持機構4は、例えばラック・アンド・ピニオンなどの歯車機構により、前記スライドモータ31の回転力を、前記ボビン回転軸方向92の直線の駆動力に変換する。
【0035】
なお、図1における前記スライドモータ31は、前記台車6に搭載されているが、例えば、前記スライドモータ31は、前記台座7に設置されることも考えられる。もちろん、前記ボビンスライド機構32は、前記スライドモータ31が前記台車6に搭載される場合と前記台座7に設置される場合とで異なる構造が採用される。
【0036】
前記変位センサユニット41,42,43は、2つの近接センサ411,412からなる近接センサ対41と、保持部42と、被検出部43とを含む。前記保持部42は、所定の固定部であり、2つの前記近接センサ411,412を相互に対向した状態で保持する。以下、2つの近接センサのうちの一方を第1近接センサ411、他方を第2近接センサ412と称する。なお、近接センサは、所定範囲内に物体が存在するか否かを検出するセンサである。
【0037】
前記被検出部43は、前記アーム部材13における前記第1従動ローラ11に近い部分に固定され、前記第1従動ローラ11に連動して前記ボビン回転軸方向92において変位する部材である。即ち、前記ボビン回転軸方向92において、前記第1従動ローラ11の位置が、前記後工程送出ライン91を中心とする所定範囲内で変化すると、前記被検出部43の位置は、前記第1従動ローラ11の変位範囲に対応する所定範囲内で変化する。
【0038】
前記線材操出装置1において、前記線材2が通過する前記第1従動ローラ11の変位は、前記ボビン3から繰り出された前記線材2の前記第1従動ローラ11の位置における変位であるとみなせる。また、前述したように、前記被検出部43は、前記第1従動ローラ11の動きに連動する。従って、前記線材操出装置1において、前記ボビン回転軸方向92における前記被検出部43の変位量は、前記ボビン3から繰り出された前記線材2の前記第1従動ローラ11の位置における変位量に比例する。但し、前記被検出部43の変位量と前記線材2の変位量との対応関係は、前記第1従動ローラ11の周面の幅、即ち、前記第1従動ローラ11における前記線材2の通過面の幅に相当する誤差を含む。
【0039】
また、繰り出された前記線材2の前記ボビン回転軸方向92における位置は、前記線材2の繰り出し角度の大きさを表す。即ち、繰り出された前記線材2の位置が、前記後工程送出ライン91に一致する場合、前記線材2の繰り出し角度は90度である。また、前記線材2の位置が前記後工程送出ライン91から大きくずれるほど、前記線材2の繰り出し角度は90度から大きくずれる。
【0040】
ここで、前記第1従動ローラ11の周面の前記ボビン回転軸方向92における位置が、前記後工程送出ライン91を基準とする所定の第1基準範囲r1内に収まれば、前記線材2の擦れに起因する前記線材2の傷及びほつれの問題が生じないという場合を考える。この場合において、前記第1従動ローラ11の周面の変位範囲が前記第1基準範囲r1であるとき、前記被検出部43の前記ボビン回転軸方向92における変位範囲は、所定の第2基準範囲r2であるとする。
【0041】
前記近接センサ対41は、前記被検出部43が前記ボビン回転軸方向92における前記第2基準範囲r2からその両外側各々へ逸脱して変位したことを検出するセンサである。図1に示される例では、前記第1近接センサ411は、前記被検出部43が前記第2基準範囲r2から線材2の繰り出し方向に向かって右側へ逸脱して変位したことを検出する。前記第2近接センサ412は、前記被検出部43が前記第2基準範囲r2から線材2の繰り出し方向に向かって左側へ逸脱して変位したことを検出する。
【0042】
前述したように、前記被検出部43の前記第2基準範囲r2内での変位は、前記線材2の前記第1基準範囲r1内での変位に相当する。従って、前記近接センサ対41は、前記第1従動ローラ11を通過する前記線材2が、前記ボビン回転軸方向92における前記第1基準範囲r1その両外側各々へ逸脱して変位したことを検出するセンサである。
【0043】
図2は、前記線材操出装置1における前記スライドモータ31の制御に関連する主要部のブロック図である。図2に示されるように、前記スライドモータ制御回路52は、前記第1近接センサ411及び前記第2近接センサ412各々の検出信号を入力する。さらに、前記スライドモータ制御回路52は、両近接センサの検出結果に応じて、前記スライドモータ31に対して正回転、逆回転又は停止の駆動信号を出力する。前記スライドモータ制御回路52による前記スライドモータ31に対する駆動信号の出力により、前記台車6に搭載された前記ボビン3の位置は、前記ボビン回転軸方向92において変化する。
【0044】
より具体的には、前記スライドモータ制御回路52は、前記近接センサ対41により、前記線材2が前記第1基準範囲r1から逸脱したことが検出されるごとに、前記線材2が前記第1基準範囲r1から逸脱した方向の反対方向へ前記ボビン3が所定量変位するように前記スライドモータ31を制御する。1回当たりの前記ボビン3の変位量(移動距離)は、その1回の制御によって前記第1基準範囲r1から逸脱した前記線材2が前記後工程送出ライン91に戻る程度に予め調整される。なお、前記線材2の前記第1基準範囲r1からの逸脱及びその逸脱の方向の検出は、前記近接センサ対41により、前記被検出部43の前記第2基準範囲r2からの逸脱及びその逸脱の方向を検出することによって代替される。
【0045】
前記スライドモータ制御回路52の制御により、前記第1従動ローラ11の位置における前記線材2の変位は、概ね、前記第1基準範囲r1内に収まる。従って、前記線材操出装置1においては、前記第1基準範囲r1が予め適切な範囲に設定されることにより、前記線材2の擦れに起因する前記線材2の傷及びほつれの問題は生じない。しかも、前記線材操出装置1の設置スペースは、従来の前記線材操出装置100のそれと比較して、前記ボビン3を前記ボビン回転軸方向92に移動させるための若干のスペースが加わるだけに過ぎない。
【0046】
また、前記線材操出装置1においては、常に前記線材の繰り出し角度が90度に近い状態に維持される。即ち、前記第1従動ローラ11及び前記第2従動ローラ21各々への前記後工程送出ライン91を基準とする前記線材2の入射角度は、常にごく狭い角度範囲内に維持される。即ち、前記線材2は、前記第1従動ローラ11及び前記第2従動ローラ21各々において大きく屈曲しない。従って、前記線材操出装置1においては、前記線材2が前記第1従動ローラ11又は前記第2従動ローラ21と擦れるという問題も生じない。
【0047】
また、前記線材操出装置1においては、前記線材2の変位の検出が、前記線材2に連動する比較的大きな部材である前記被検出部43の変位の検出によって代替される。これにより、比較的感度の低い前記近接センサ対41が採用された場合でも、前記被検出部43の変位が確実に検出される。その結果、装置コストの低減効果が得られる。
【0048】
また、前記近接センサ対41により、前記線材2が前記第1基準範囲r1の両側各々へ逸脱して変位したこと検出し、その検出結果に応じて所定量だけ前記ボビン3を変位させる制御は、ごく簡易なシーケンス回路によって実現できる。その結果、装置コストが低減され、制御パラメータの調整が容易となる。
【0049】
以上に示した実施形態では、前記線材2の変位の検出は、前記線材2の動きに連動する前記被検出部43の変位の検出によって代替された。しかしながら、前記ボビン回転軸方向92における前記線材2の変位の検出は、近接センサ等の非接触センサにより、前記線材2自体の変位を直接検出することによっても実現可能である。その場合、予め想定される前記線材2の軌道の変動範囲において、前記線材2の位置が非接触センサにより検出される。但し、その非接触センサは、細い前記線材2を検出できる程度に高感度である必要がある。例えば、前記線材操出装置1が前記トラバースローラ機構10を備えていない場合、前記線材2自体の変位を直接検出することが必要となる。
【0050】
また、前記ボビン回転軸方向92における前記線材2の変位の検出は、前記線材2に従動する前記第1従動ローラ11の変位の検出によって代替されてもよい。
【0051】
また、前記線材2の変位の検出は、線材又は線材に連動する部材が基準範囲の両側各々へ逸脱して変位したこと検出する方法以外の方法によっても実現可能である。例えば、前記線材操出装置1が、前記近接センサ対41に代えて、設置された位置から前記被検出部43までの距離を検出する距離センサを備えることが考えられる。この場合、前記距離センサが、前記ボビン回転軸方向92における前記被検出部43の変位量を検出する。
【0052】
前記距離センサのセンシング方式は、例えば、レーザ方式、渦電流方式、超音波方式など各種考えらえる。このように、前記線材2の変位が定量的に検出された場合、前記スライドモータ制御回路52は、前記線材2の変位量及び変位の方向に応じて、前記ボビン3の移動量及び移動方向を制御する。これにより、より円滑な前記ボビン3の位置制御が可能となる。
【0053】
また、前記線材2の変位の検出が、前記線材2の動きに連動する前記被検出部43の変位の検出によって代替される場合、前記被検出部43の変位は、リミットスイッチなどの接触式のセンサで検出されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、線材操出装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 線材操出装置
2 線材
3 ボビン
4 ボビン支持機構
5 繰り出しモータ
6 台車
7 台座
8 レール
10 トラバースローラ機構
11 第1従動ローラ
12 ローラ支持軸
13 アーム部材
14 支柱
20 固定ローラ機構
21 第2従動ローラ
22 ローラ支持軸
30 スライド変位装置
31 スライドモータ
32 ボビンスライド機構
41 近接センサ対
42 保持部
43 被検出部
50 制御盤
51 繰り出しモータ制御回路
52 スライドモータ制御回路
91 後工程送出ライン
92 回転軸方向
100 従来の線材操出装置
411 第1近接センサ
412 第2近接センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材保持部を回転させることにより、前記線材保持部に巻かれた線材を繰り出す線材操出装置であって、
前記線材保持部の回転軸の方向において前記線材保持部の位置を変化させる変位機構と、
前記線材保持部から繰り出された前記線材の前記回転軸の方向における変位を検出する変位検出部と、
前記変位検出部の検出結果に応じて前記変位機構を制御することにより前記線材保持部の位置を変更する制御部と、を備えることを特徴とする線材操出装置。
【請求項2】
前記線材保持部から繰り出された前記線材に従動して回転し、前記回転軸の方向において前記線材に従動して変位可能に支持された従動ローラを備え、
前記変位検出部は、前記従動ローラ又は該従動ローラに連動する部材の前記回転軸の方向における変位を検出する、請求項1に記載の線材操出装置。
【請求項3】
前記変位検出部は、前記線材が前記回転軸の方向における所定の基準範囲から該基準範囲の両外側各々へ逸脱して変位したことを検出し、
前記制御部は、前記変位検出部により前記線材が前記基準範囲から逸脱したことが検出されるごとに、前記線材が前記基準範囲から逸脱した方向の反対方向へ前記線材保持部が所定量変位するよう前記変位機構を制御する、請求項1又は請求項2に記載の線材操出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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