説明

線毛運動活性化剤及びそれを含む飲食品

【課題】線毛運動活性化剤として気道から生産される粘液を輸送排出する能力を高め、結果として体内に吸入された細菌、異物等に対する生体防御能力を増強することを目的とする線毛運動活性化剤及びそれを含む飲食品を提供する。
【解決手段】バショウ科バショウ属(Musaceae Musa)植物、ニクズク(Myristica fragrans)、ミカン科ミカン属(Rutaceae Citrus)植物、スカンクキャベッジ(Symplocarpus foetidus)、セキショウ(Acorus gramineus)、プリックリーアッシュ(Zanthoxylum americanum)、クコ(Lycium chinense)、ネトル(Urtica dioica)、ハス(Nelumbo nucifera)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、クマザサ(Sasa veitchii)及びセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)からなる群並びにメントール、メントール誘導体及びメントール異性体からなる群より選択される1種又は2種以上を有効成分とする線毛運動活性化剤及びそれを含む飲食品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線毛運動活性化剤として気道から生産される粘液を輸送排出する能力を高め、結果として体内に吸入された細菌、異物等に対する生体防御能力を増強することを目的とする線毛運動活性化剤及びそれを含む飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や気道に曝露される化学物質の増加により気道が慢性的に傷害され、気道上皮の排出能力が低下して喀痰の困難を訴える人が増加している。特に高齢者においては喀痰、嚥下能力が低下しており大きな問題となっている。
【0003】
特に、気管は粒子、ガス、粉塵、細菌、ウィルスといった異物に常に曝されている。これらの異物に対応するために気管の管腔側最表面に位置する気道粘膜上皮は異物排出機能を有し、気道腔を保護し、そして正常な呼吸機能を保存している。気道粘膜上皮は様々なタイプの細胞からなるが、その中で特に重要なものは粘液を産生する杯細胞と、線毛を有する線毛細胞である。粒子、ガス、粉塵、細菌、ウィルスなどの異物が気管に到達した際には杯細胞から生産される粘液がその異物を捉え、線毛細胞が有する線毛による能動的な運動(以下、線毛運動)により咽頭部分に運ばれ、痰としての体外排出もしくは嚥下により処理される。
【0004】
線毛運動と粘液輸送の関係は流体力学的見地から公式(粘液輸送速度=粘液密度×線毛運動速度×線毛の丈/粘稠度)により導き出され、線毛運動が活発になると粘液輸送が亢進するものと考えられる。
【0005】
これまでの医療現場では咳と痰はマイナスの症状として捉えられてきた。特に咳に対しては呼吸の障害や体力消耗の元凶として安易に鎮咳剤を投与して異物排出の為の生理的反応である咳を抑え込む処置がとられる事が多かった。しかし、咳そのものを強硬に止めるのではなく、生理的な痰の排出を促し結果として咳を鎮める方が好ましいとの考え方が提唱され始めている。
【0006】
従来、痰の排出を促進する方法としては気道粘液を溶解して痰の粘稠度を下げる方法が採られ、カルボシステイン、塩酸ブロムヘキシン等の気道粘液溶解剤が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。しかし、化学合成品である気道粘液溶解剤そのものには発疹、湿疹、下痢、腹痛等の副作用が起こることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
上記の気道粘液溶解剤とは作用機序が異なり、気道上皮の線毛運動を活性化させる物質にも粘液輸送を亢進することで異物排出能力を高める効果があることは知られている。安全性に問題が少ないという点から天然物である植物から線毛運動活性化効果を有する抽出物の探索が行われており、ナツメ(例えば、非特許文献2参照)、クロマメ(例えば、非特許文献3参照)等が開示されているが、十分な線毛運動活性化効果を有する抽出物は未だ得られていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開平8−337532号公報
【非特許文献1】ポケット医薬品集(2001年版)、白文社、p.362
【非特許文献2】エクスペリメンタル ラング リサーチ(Experimental Lung Research)、22、P.255−266、1996年
【非特許文献3】月刊フードケミカル p.88−89、2001年4月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、安全かつ効果の高い線毛運動活性化剤及びそれを含む飲食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らは、広く線毛運動活性化効果を示す物質のスクリーニングを行った結果、バショウ科バショウ属(Musaceae Musa)植物、ニクズク(Myristica fragrans)、ミカン科ミカン属(Rutaceae Citrus)植物、スカンクキャベッジ(Symplocarpus foetidus)、セキショウ(Acorus gramineus)、プリックリーアッシュ(Zanthoxylum americanum)、クコ(Lycium chinense)、ネトル(Urtica dioica)、ハス(Nelumbo nucifera)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、クマザサ(Sasa veitchii)及びセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)並びにメントール、メントール誘導体及びメントール異性体が線毛運動活性化効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、バショウ科バショウ属(Musaceae Musa)植物、ニクズク(Myristica fragrans)、ミカン科ミカン属(Rutaceae Citrus)植物、スカンクキャベッジ (Symplocarpus foetidus)、セキショウ(Acorus gramineus)、プリックリーアッシュ(Zanthoxylum americanum)、クコ(Lycium chinense)、ネトル(Urtica dioica)、ハス(Nelumbo nucifera)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、クマザサ(Sasa veitchii)及びセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)からなる群並びにメントール、メントール誘導体及びメントール異性体からなる群より選択される1種又は2種以上を有効成分とする線毛運動活性化剤及びそれを含む飲食品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の線毛運動活性化剤は古くから生薬や民間伝承的に用いられている植物の抽出物及び/又は一般的に飲食品に配合されているメントール、メントール誘導体、メントール異性体等を使用するものであるから、呈味に優れ、かつ安全性の点で問題はない。そのため、本発明の線毛運動活性化剤及びそれを含む飲食品は、化学合成品からなる気道粘液溶解剤のような副作用を伴わずに、外来の細菌、ウィルス、異物等に由来する感染症(気管支炎、気管支拡張症、副鼻腔炎、気管支喘息、肺炎等)の疾患を予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で使用する植物、バショウ科バショウ属(Musaceae Musa)植物、ニクズク(Myristica fragrans)、ミカン科ミカン属(Rutaceae Citrus)植物、スカンクキャベッジ(Symplocarpus foetidus)、セキショウ(Acorus gramineus)、プリックリーアッシュ(Zanthoxylum americanum)、クコ(Lycium chinense)、ネトル(Urtica dioica)、ハス(Nelumbo nucifera)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、クマザサ(Sasa veitchii)及びセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)は、その全体、葉、仁、胚芽、内果皮、外果皮、成熟果実、未熟果実、果皮、種皮、仮種皮、花、材、樹皮、根、根茎等の部位を使用することができるが、ニクズクに関しては仮種皮(メース)を、スカンクキャベッジに関しては根茎を、セキショウに関しては根を、プリックリーアッシュに関しては樹皮を、クコ、ネトル及びクマザサに関しては葉を、ハスに関しては胚芽を、セイヨウニワトコに関しては花を、セイヨウサンザシについては実を用いるのが好ましい。
【0014】
バショウ科バショウ属植物については、本種属に含まれていれば特に植物の種類は限定しないが、バナナ(Musa paradisiaca)、リョウリバナナ(Musa sapientum)、マライヤマバショウ(Musa acuminata)を使用する事が好ましい。またバショウ科バショウ属において抽出に供する為の植物部位については、果実、果皮を使用する事が好ましい。
【0015】
ミカン科ミカン属植物については、本種属に含まれていれば特に植物の種類は限定しないが、ダイダイ(Citrus aurantium)、キシュウミカン(Citrus kinokuni)、ネーブルオレンジ(Citrus sinensis)、レモン(Citrus limon)、ニッポンタチバナ(Citrus tachibana)を使用する事が好ましい。またミカン科ミカン属において抽出に供する為の植物部位については、果実、果皮、花、葉を使用する事が好ましい。
【0016】
本発明の線毛運動活性化剤としては、各植物をそのまま有効成分として含有させても良いが、乾燥させたもの、更に乾燥物を粉末化したものを有効成分として含有させても良い。また、各植物より抽出された抽出物を有効成分として含有させても良い。この植物抽出物とは、各種溶剤で抽出された液状エキスであっても良いが、更にこの液状エキスを通常の乾燥方法(例えば、減圧乾燥、凍結乾燥等)や濃縮方法等により乾固又は濃縮したものであっても良い。溶剤の種類は特に限定されず、水(熱水)の他にエタノール、メタノール、プロパノール、グリセリン、プロピレングリコール等のアルコール類や、エーテル、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ヘキサン等の有機溶剤またはこれらを適宜混合した溶剤を用いることができるが、線毛運動活性化剤として経口摂取する場合を考慮すると、安全性の面から水、エタノールもしくはその混合溶液を用いて抽出することが望ましい。また更に、この植物抽出物に対し、必要に応じてその効果に影響が無い範囲で脱臭、脱色等の精製処理を施しても良い。
【0017】
上記植物より抽出物を得るための抽出条件としては、特に制限はないが、50〜100℃で1〜5時間程度が好ましい。抽出液はさらに濾過し、抽出溶剤を留去したあと、減圧下において濃縮または凍結乾燥したものを使用することができる。また、これらの抽出物を有機溶剤分画、カラムクロマトグラフィー等により分画精製したものを使用することもできる。
【0018】
本発明で使用するメントール、メントール誘導体及びメントール異性体としてはL−メントール、D−メントール、メンチルアセテート、イソメントール等が含まれるがこれらに限定されるものではない。メントール、メントール誘導体及びメントール異性体はカプセル化(マイクロカプセル化)されたものあるいはサイクロデキストリン等により包接化されたものであってもよい。また、これらを含有する精油又は調合香料等を使用しても良く、例えばペパーミント油(薄荷油)等の精油を使用することも可能である。
【0019】
本発明の線毛運動活性化剤は、必要により適当な液体単体に溶解するか或いは分散させ、または適当な粉末単体と混合するか或いはこれに吸着させ、場合によっては、さらにこれに乳化剤、安定剤、分散剤、矯味剤、保存剤、芳香剤、着色剤、コーティング剤等を添加して、錠剤、液剤、注射剤、軟膏、クリーム、ローション、スプレー剤、エアゾール剤、座剤等の所望の剤型にして、経口剤、外用剤、注射剤、吸入剤、点鼻・点眼剤等として使用してもよい。この場合の添加量としては、剤に対して植物抽出物及び/又は化合物を0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上使用するのが好適である。
【0020】
また、本発明の線毛運動活性化剤は、香り、呈味性に優れ、安全性が高いことから、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、スープ、ジャム等の飲食品に配合して日常的に利用することが可能である。
【0021】
本発明の飲食品への線毛運動活性化剤添加量としては、特に嗜好性の面を考慮すると約0.001〜5重量%、好ましくは約0.01〜3重量%の割合になるように添加するのが好適である。
【0022】
本発明で使用するバショウ科バショウ属(Musaceae Musa)植物、ニクズク(Myristica fragrans)、ミカン科ミカン属(Rutaceae Citrus)植物、スカンクキャベッジ (Symplocarpus foetidus)、セキショウ(Acorus gramineus)、プリックリーアッシュ(Zanthoxylum americanum)、クコ(Lycium chinense)、ネトル(Urtica dioica)、ハス(Nelumbo nucifera)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、クマザサ(Sasa veitchii)及びセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)は、いずれも生薬、食品素材、ハーブティーとして古くから用いられているものであり、これらの抽出物並びにこれを配合した飲食品の安全性について全く問題がない。また、メントール、メントール誘導体及びメントール異性体は一般的に飲食品に配合されているものであるので安全性について全く問題がない。
【0023】
以下、試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【試験例1】
【0024】
本試験は、植物体より得られた植物抽出物の線毛運動活性化効果を調べるために、行なった。
【0025】
1)供試試料
以下に述べる方法にて植物抽出物を調製した。
【0026】
〔試料調製例1〕
乾燥し破砕したリョウリバナナの果皮、ニクズクの仮種皮、プリックリーアッシュの樹皮、クマザサの葉、セイヨウサンザシの実それぞれ10gに100mlの50%エタノールを加え、2時間、70℃で還流抽出を行った。得られた各抽出液を個別に濾過し、濃縮、凍結乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。ニクズク抽出物は2.1g、リョウリバナナ抽出物は4.2g、プリックリーアッシュ抽出物は0.6g、クマザサ抽出物は0.7g、セイヨウサンザシ抽出物は1.3g得られた。
【0027】
〔試料調製例2〕
乾燥し破砕したバナナの果皮、ニクズクの仮種皮、プリックリーアッシュの樹皮、クマザサの葉、セイヨウサンザシの実それぞれ10gに100mlの水を加え、2時間、70℃で還流抽出を行った。得られた各抽出液を個別に濾過し、濃縮、凍結乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。ニクズク抽出物は2.1g、バナナ抽出物は2.8g、プリックリーアッシュ抽出物は0.5g、クマザサ抽出物は0.7g、セイヨウサンザシ抽出物は0.9g得られた。
【0028】
〔試料調製例3〕
乾燥し破砕したスカンクキャベッジの根茎、セキショウの根、マライヤマバショウの実、ハスの胚芽、セイヨウニワトコの花それぞれ10gに100mlの50%エタノールを加え、2時間、70℃で還流抽出を行った。得られた各抽出液を個別に濾過し、濃縮、凍結乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。スカンクキャベッジ抽出物は2.3g、セキショウ抽出物は0.6g、マライヤマバショウ抽出物は4.0g、ハス抽出物は2.4g、セイヨウニワトコ抽出物は2.3g得られた。
【0029】
〔試料調製例4〕
乾燥し破砕したスカンクキャベッジの根茎、セキショウの根、バナナの実、ハスの胚芽、セイヨウニワトコの花、キシュウミカンの果皮、レモンの葉それぞれ10gに100mlの水を加え、3時間、70℃で還流抽出を行った。得られた抽出液を個別に濾過し、濃縮、凍結乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。スカンクキャベッジ抽出物は2.3g、セキショウ抽出物は1.5g、バナナ抽出物は4.0g、ハス抽出物は2.7g、セイヨウニワトコ抽出物は2.1g、キシュウミカン抽出物は3.1g、レモン抽出物は2.6g得られた。
【0030】
〔試料調製例5〕
乾燥し破砕したネーブルオレンジの花、クコの葉、ネトルの葉それぞれ30gに300mlの50%エタノールを加え、1時間、90℃で抽出を行った。得られた各抽出液を個別に濾過し、濃縮、凍結乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。ネーブルオレンジ抽出物は6.9g、クコ抽出物は8.4g、ネトル抽出物は3.3g得られた。
【0031】
〔試料調製例6〕
乾燥し破砕したニッポンタチバナの果実、クコの葉、ネトルの葉それぞれ30gに300mlの水を加え、1時間、90℃で抽出を行った。得られた抽出液を濾過し、濃縮、凍結乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。ニッポンタチバナ抽出物は7.8g、クコ抽出物は8.4g、ネトル抽出物は5.4g得られた。
【0032】
〔試料調製例7〕
乾燥し破砕したリョウリバナナの果皮、ニクズクの仮種皮それぞれ10gに100mlの100%メタノールを加え、3時間、70℃で抽出を行った。得られた抽出液を濾過し、濃縮、減圧乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。リョウリバナナ抽出物は1.0g、ニクズク抽出物は1.4g得られた。
【0033】
〔試料調製例8〕
乾燥し破砕したバナナの果皮、セキショウの根茎、ダイダイの果実それぞれ10gに100mlの100%エタノールを加え、3時間、70℃で抽出を行った。得られた抽出液を濾過し、濃縮、減圧乾燥することにより、本発明である線毛運動活性化剤を得た。バナナ抽出物は1.2g、セキショウ抽出物は0.5g、ダイダイ抽出物は1.9g得られた。
【0034】
〔比較試料1〕
乾燥し破砕したナツメの果実30gに300mlの水を加え、1時間、90℃で還流抽出を行った。得られた抽出液を濾過し、濃縮、凍結乾燥することによりナツメ抽出物15.3gを得た。
【0035】
〔比較試料2〕
乾燥し破砕したクロマメの果実30gに300mlの水を加え、2時間、70℃で還流抽出を行った。得られた抽出液を濾過し、濃縮、凍結乾燥することにより黒豆抽出物11.1gを得た。
【0036】
2)試験法
試料調製例1〜8で示した本発明品である線毛運動活性化剤及び比較例1、2で示した比較抽出物を試料として、線毛運動活性化効果を調べた。
【0037】
本試験は、ウサギの気管より摘出した線毛細胞の線毛運動を測定し、植物抽出物が線毛運動を活性化する効果を確認するものである。
【0038】
日本白色種ウサギ(2.0〜2.3kg)をペントバルビタールナトリウム麻酔下に、気管を摘出し、気管から線毛細胞を含む気道粘膜上皮を剥離し、1〜3mmの小片に細断した後Medium199(ペニシリン50U/ml、ストレプトマイシン50μg/ml、ファンギゾン2.5μg/mlを含有)で満たしたシャーレ内のカバーグラスに置いた。
【0039】
37℃条件下にCOインキュベーター(95%空気、5%CO)で7日間培養を行った。組織は約30度傾斜させたカバーグラスの気相面に貼付し、48時間後にシャーレを水平にして培養を継続した。次いでこれを逆さまにしてMedium199で満たしたローズチャンバー内に固定、マイクロフォトオシレーション法で線毛運動周波数(以下「CBF」と省略する)を測定した(岡沢光芝ら 線毛運動の解析法、呼吸5:1345〜1350、1986年)。
【0040】
測定は37℃の恒温槽内で実施した。まずMedium199でローズチャンバー内を灌流してCBFを15分連続して測定、次いでほぼ同一部位のCBFを試料添加Medium199で灌流してCBFを15分連続して測定、前者を基礎値として変化率を以下の式に従って算出した。
【0041】
線毛運動活性化率(%)=(A/B−1)×100
但し、A:試料添加Medium199で灌流した後15分間のCBFの平均値
B:Medium199で灌流した後15分間のCBFの平均値(基礎値)
【0042】
3)試験結果
それぞれの試料の1mg/mlでの線毛運動活性化率を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果より、本発明のバナナ、リョウリバナナ、ニクズク、マライヤマバショウ、プリックリーアッシュ、スカンクキャベッジ、セキショウ、ダイダイ、キシュウミカン、ネーブルオレンジ、レモン、ニッポンタチバナ、クコ、ネトル、ハス、セイヨウニワトコ、クマザサ、セイヨウサンザシから調製された抽出物は、強い線毛運動活性化作用を示したが、比較例であるナツメ抽出物及びクロマメ抽出物の線毛運動活性化作用については、弱いものであった。
【試験例2】
【0045】
本試験は、メントール、メントール誘導体及びメントール異性体の線毛運動活性化効果を調べるために、行なった。
1)供試試料
L−メントール、D−メントール、イソメントール及びメンチルアセテートを用いた。
2)試験方法
本試験は試験例1と同じ試験方法で行なった。
3)試験結果
各試料の50μg/mlでの線毛運動活性化率を表2に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果より、L−メントール、D−メントール、イソメントール、メンチルアセテート何れも強い線毛運動活性化作用を示した。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
試料調製例1乃至8で調製した植物抽出物、乾燥させた植物を粉砕して調製した植物粉末、メントール、メントール誘導体及びメントール異性体を用いて、錠剤、散剤、吸入剤、点鼻薬、チューインガム、キャンディ、チョコレート、ビスケット、グミゼリー、錠菓、アイスクリーム、シャーベット、飲料を常法にて調製した。以下にその処方を示した。
【実施例1】
【0050】
下記処方にしたがって錠剤を調製した。
D−マンニトール 42.6%
乳糖 42.6
結晶セルロース 8.5
ヒドロキシプロピルセルロース 4.3
試料調製例4のスカンクキャベッジ抽出物 2.0
100.0%
【0051】
上記と同じ配合比率で、スカンクキャベッジ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合した錠剤をそれぞれ同様に調製した。これらは錠剤としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例2】
【0052】
下記処方にしたがって散剤を調製した。
乳糖 62.5%
馬鈴薯でんぷん 25.0
試料調製例6のネトル抽出物 12.5
100.0%
【0053】
上記と同じ配合比率で、ネトル抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合した散剤をそれぞれ同様に調製した。これらは散剤としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例3】
【0054】
下記処方にしたがって吸入剤を調製した。
エタノール 5.0%
試料調製例1のプリックリーアッシュ抽出物 0.5
試料調製例5のネーブルオレンジ抽出物 0.5
L−メントール 2.0
水 92.0
100.0%
【0055】
上記と同じ配合比率で、プリックリーアッシュ抽出物、ネーブルオレンジ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合した吸入剤をそれぞれ同様に調製した。これらは吸入剤としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例4】
【0056】
下記処方にしたがって点鼻薬を調製した。
サリチル酸メチル 0.03g
マレイン酸クロルフェニラミン 0.3
dl―塩酸メチルエフェドリン 0.3
ポリソルベート80 0.2
塩化ベンザルコニウム 0.01
塩化ナトリウム 0.6
1N水酸化ナトリウム 適量
試料調製例2のニクズク抽出物 1.0
水 適量
100.0ml(pH6.5)
【0057】
上記と同じ配合比率で、ニクズク抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合した点鼻薬をそれぞれ同様に調製した。これらは点鼻薬としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例5】
【0058】
下記処方にしたがってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%
砂糖 54.7
グルコース 15.0
水飴 9.3
香料 0.5
試料調製例2のバナナ抽出物 0.5
100.0%
【0059】
上記と同じ配合比率で、バナナ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したチューインガムをそれぞれ同様に調製した。これらはチューインガムとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例6】
【0060】
下記処方にしたがってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%
砂糖 54.5
グルコース 10.0
水飴 13.0
香料 0.5
試料調製例4のバナナ抽出物 1.0
試料調製例4のセキショウ抽出物 1.0
100.0%
【0061】
上記と同じ配合比率で、バナナ抽出物、セキショウ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したチューインガムをそれぞれ同様に調製した。これらはチューインガムとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例7】
【0062】
下記処方にしたがってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%
砂糖 50.5
グルコース 14.0
水飴 13.0
香料 0.5
試料調製例8のダイダイ抽出物 2.0
100.0%
【0063】
上記と同じ配合比率で、ダイダイ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したチューインガムをそれぞれ同様に調製した。これらはチューインガムとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例8】
【0064】
下記処方にしたがってキャンディを調製した。
砂糖 50.0%
水飴 33.0
クエン酸 1.0
香料 0.2
L−メントール 1.0
試料調製例2のバナナ抽出物 0.4
水 14.4
100.0%
【0065】
上記と同じ配合比率で、バナナ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したキャンディをそれぞれ同様に調製した。これらはキャンディとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例9】
【0066】
下記処方にしたがってキャンディを調製した。
砂糖 38.0%
水飴 41.0
クエン酸 1.0
香料 0.2
粉末バナナ(皮) 1.4
水 18.4
100.0%
【0067】
上記と同じ配合比率で、粉末バナナ(皮)の代わりに粉末ニクズク及び/又は粉末レモンを配合したキャンディをそれぞれ同様に調製した。これらはキャンディとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例10】
【0068】
下記処方にしたがってキャンディを調製した。
砂糖 38.0%
水飴 32.0
キシリトール 10.0
クエン酸 1.0
香料 0.2
試料調製例4のキシュウミカン抽出物 0.4
水 18.4
100.0%
【0069】
上記と同じ配合比率で、キシュウミカン抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したキャンディをそれぞれ同様に調製した。これらはキャンディとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例11】
【0070】
下記処方にしたがってチョコレートを調製した。
カカオビター 20.0 %
全脂粉乳 20.0
カカオバター 17.0
粉糖 41.85
レシチン 0.45
香料 0.1
試料調製例4のハス抽出物 0.6
100.0 %
上記と同じ配合比率で、ハス抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したチョコレートをそれぞれ同様に調製した。これらはチョコレートとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例12】
【0071】
下記処方にしたがってビスケットを調製した。
砂糖 31.7%
小麦粉 26.8
片栗粉 26.8
バター 3.2
卵 10.7
重曹 0.3
試料調製例1のリョウリバナナ抽出物 0.5
100.0%
【0072】
上記と同じ配合比率で、リョウリバナナ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したビスケットをそれぞれ同様に調製した。これらはビスケットとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例13】
【0073】
下記処方にしたがってグミゼリーを調製した。
ポリデキストロース水溶液 40.0%
ソルビトール水溶液 8.0
パラチノース水溶液 9.0
マルトース水溶液 20.0
トレハロース水溶液 11.0
ゼラチン 10.0
酒石酸 1.0
試料調製例8のセキショウ抽出物 1.0
100.0%
【0074】
上記と同じ配合比率で、セキショウ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したグミゼリーをそれぞれ同様に調製した。これらはグミゼリーとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例14】
【0075】
下記処方にしたがって錠菓を調製した。
砂糖 76.1%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
香料 0.2
試料調製例7のリョウリバナナ抽出物 0.5
水 4.0
100.0%
【0076】
上記と同じ配合比率で、リョウリバナナ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合した錠菓をそれぞれ同様に調製した。これらは錠菓としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例15】
【0077】
下記処方にしたがって錠菓を調製した。
砂糖 74.7 %
乳糖 18.9
ショ糖脂肪酸エステル 0.15
試料調製例1のセイヨウサンザシ抽出物 1.0
試料調製例4のレモン抽出物 1.0
水 4.25
100.0 %
【0078】
上記と同じ配合比率で、セイヨウサンザシ抽出物、レモン抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合した錠菓をそれぞれ同様に調製した。これらは錠菓としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例16】
【0079】
下記処方にしたがってアイスクリームを調製した。
卵黄 11.0%
砂糖 14.0
牛乳 37.0
生クリーム 37.0
バニラビーンズ 0.5
試料調製例2のクマザサ抽出物 0.5
100.0%
【0080】
上記と同じ配合比率で、クマザサ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したアイスクリームをそれぞれ同様に調製した。これらはアイスクリームとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例17】
【0081】
下記処方にしたがってシャーベットを調製した。
オレンジ果汁 16.0%
砂糖 32.0
試料調製例3のマライヤマバショウ抽出物 2.0
水 50.0
100.0%
【0082】
上記と同じ配合比率で、マライヤマバショウ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合したシャーベットをそれぞれ同様に調製した。これらはシャーベットとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例18】
【0083】
下記処方にしたがって飲料を調製した。
オレンジ果汁 30.0 %
異性化糖 15.24
クエン酸 0.1
ビタミンC 0.04
香料 0.1
試料調製例6のクコ抽出物 0.1
水 54.42
100.0 %
【0084】
上記と同じ配合比率で、クコ抽出物の代わりに試料調製例1乃至試料調製例8の各抽出物を配合した飲料をそれぞれ同様に調製した。これらは飲料としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例19】
【0085】
下記処方にしたがって錠剤を調製した。
D−マンニトール 43.0%
乳糖 43.0
結晶セルロース 9.0
ヒドロキシプロピルセルロース 4.0
L−メントール 1.0
100.0%
【0086】
上記と同じ配合比率で、L−メントールの代わりにD−メントール、メンチルアセテート、イソメントールのうちの何れかを配合した錠剤をそれぞれ同様に調製した。これらは錠剤としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例20】
【0087】
下記処方にしたがって散剤を調製した。
乳糖 67.5%
馬鈴薯でんぷん 30.0
L−メントール 2.5
100.0%
【0088】
上記と同じ配合比率で、L−メントールの代わりにD−メントール、メンチルアセテート、イソメントールのうちの何れかを配合した散剤をそれぞれ同様に調製した。これらは散剤としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例21】
【0089】
下記処方にしたがって吸入剤を調製した。
エタノール 5.0%
L−メントール 1.5
D−メントール 1.5
水 92.0
100.0%
【0090】
上記と同じ配合比率で、L−メントール、D−メントールの代わりにメンチルアセテート、イソメントールのうちの何れかを配合した吸入剤をそれぞれ同様に調製した。これらは吸入剤としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例22】
【0091】
下記処方にしたがってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%
砂糖 55.0
グルコース 15.0
水飴 9.4
香料 0.5
L−メントール 0.1
100.0%
【0092】
上記と同じ配合比率で、L−メントールの代わりにD−メントール、メンチルアセテート、イソメントールのうちの何れかを配合したチューインガムをそれぞれ同様に調製した。これらはチューインガムとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例23】
【0093】
下記処方にしたがってキャンディを調製した。
砂糖 39.0%
水飴 41.2
クエン酸 1.0
香料 0.2
メンチルアセテート 0.1
水 18.5
100.0%
【0094】
上記と同じ配合比率で、メンチルアセテートの代わりにL−メントール、D−メントール、イソメントールのうちの何れかを配合したキャンディをそれぞれ同様に調製した。これらはキャンディとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例24】
【0095】
下記処方にしたがってキャンディを調製した。
砂糖 38.0%
水飴 32.0
キシリトール 10.0
クエン酸 1.0
香料 0.2
L−メントール 0.2
メンチルアセテート 0.2
水 18.4
100.0%
【0096】
上記と同じ配合比率で、L−メントール、メンチルアセテートの代わりにD−メントール、イソメントールのうちの何れかを配合したキャンディをそれぞれ同様に調製した。これらはキャンディとしての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。
【実施例25】
【0097】
下記処方にしたがって飲料を調製した。
オレンジ果汁 30.00%
異性化糖 15.26
クエン酸 0.10
ビタミンC 0.07
香料 0.10
メンチルアセテート 0.05
水 54.42
100.0 %
【0098】
上記と同じ配合比率で、メンチルアセテートの代わりにL−メントール、D−メントール、イソメントールのうちの何れかを配合した飲料をそれぞれ同様に調製した。これらは飲料としての性質を損なうことなく線毛運動活性化効果を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バショウ科バショウ属(Musaceae Musa)植物、ニクズク(Myristica fragrans)、ミカン科ミカン属(Rutaceae Citrus)植物、スカンクキャベッジ(Symplocarpus foetidus)、セキショウ(Acorus gramineus)、プリックリーアッシュ(Zanthoxylum americanum)、クコ(Lycium chinense)、ネトル(Urtica dioica)、ハス(Nelumbo nucifera)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、クマザサ(Sasa veitchii)及びセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)からなる群より選択される1種又は2種以上を有効成分とする線毛運動活性化剤。
【請求項2】
メントール、メントール誘導体及びメントール異性体からなる群より選択される1種又は2種以上を有効成分とする線毛運動活性化剤。
【請求項3】
バショウ科バショウ属(Musaceae Musa)植物、ニクズク(Myristica fragrans)、ミカン科ミカン属(Rutaceae Citrus)植物、スカンクキャベッジ(Symplocarpus foetidus)、セキショウ(Acorus gramineus)、プリックリーアッシュ(Zanthoxylum americanum)、クコ(Lycium chinense)、ネトル(Urtica dioica)、ハス(Nelumbo nucifera)、セイヨウニワトコ(Sambucus nigra)、クマザサ(Sasa veitchii)及びセイヨウサンザシ(Crataegus oxyacantha)からなる群並びにメントール、メントール誘導体及びメントール異性体からなる群より選択される1種又は2種以上を有効成分とする線毛運動活性化剤。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の線毛運動活性化剤を含む飲食品。

【公開番号】特開2007−204408(P2007−204408A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23975(P2006−23975)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(390002990)株式会社ロッテホールディングス (24)
【Fターム(参考)】