説明

線溶亢進剤及び線溶亢進効果を有する食品

【課題】本発明は、大豆成分の線溶亢進効果について確認することを課題とする。
【解決手段】ゲニステインあるいはその類縁体を口から摂ると、体内のプラスミノーゲンアクチベーター量が数倍に増え、線溶亢進効果が生じる。また、ゲニステインあるいはその類縁体に、主に女性で問題になる皮膚のかさつき、くすみ、しわなどの老化を防止する効果が期待できる。更に、50歳前後に発症する更年期障害(ほてりなど)を緩和する、更年期以降に起こる高脂血漿、骨代謝マーカーを改善する効果も期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中のplasminogen activator(プラスミノーゲンアクチベーター)の濃度を上昇させる物質に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の主な死亡要因である心筋梗塞と脳卒中の発症は血管内に血栓が形成されることが直接的な原因となっている。血栓の形成を予防するために血中のplasminogen activator(プラスミノーゲンアクチベーター)の濃度を上昇させることによって形成された血栓を速やかに溶解させる必要がある。
【0003】
ところで、エストロゲン様作用を持つ大豆イソフラボンが「抗老化素材」として期待されている。大豆にはゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインの3種のイソフラボンアグリコンと、それらにグルコースが1分子結合した配糖体、さらに配糖体のアセチル化体とマロニル化体の計12種類のイソフラボン化合物が約0.3%含まれる。大豆や豆腐、豆乳、納豆などにはほとんど配糖体型で存在するが、味噌や醤油などの発酵食品では約半分がアグリコン型で存在する(非特許文献1)。
【0004】
3種のアグリコンの中で、ゲニステインはエストロゲン様作用が最も強いと言われている(非特許文献2)。その作用は、加齢に伴う、いわゆる老化現象の遅延、予防、あるいは改善に役立つ。すなわち、皮膚老化防止、更年期障害、体脂肪、骨代謝マーカーを改善するなどである。
【0005】
【非特許文献1】Wang H、Murphy P、 Isoflavone content in commercial soybean foods. J. Agri. Food Chem.、42:1666-1673、 1994
【非特許文献2】小幡明雄、大豆イソフラボンの効用、NEW FOOD INDUSTRY、41(7)、1-6、1999
【非特許文献3】Waller EK、Schleuning WD、 Induction of fibrinolytic activity in HeLa cells by phorbolmyristate acetate. Tissue-type plasminogen activator antigen and mRNA augmentationrequire intermediate protein biosynthesis. J. Biol. Chem.、 260(10)、 6354-6360、1985
【非特許文献4】Arts J、Herr I、 Lansink M、 Angel P、 Kooistra T 、 Cell-type specific DNA-proteininteractions at the tissue-type plasminogen activator promoter in human endothelialand HeLa cells in vivo and in vitro. Nucleic Acids Res.、 25(2):311-317、 1997
【非特許文献5】vanden Eijnden-Schrauwen Y、 Kooistra T、 de Vries RE、 Emeis JJ、 Studies on theacute release of tissue-type plasminogen activator from human endothelial cellsin vitro and in rats in vivo: evidence for a dynamic storage pool. Blood、85(12)、 3510-3517、 1995
【非特許文献6】Abou-Agag LH、Aikens ML、 Tabengwa EM、 Benza RL、 Shows SR、 Grenett HE、 Booyse FM、Polyphyenolics increase t-PA and u-PA gene transcription in cultured humanendothelial cells. Alcohol Clin. Exp. Res.、 25(2)、 155-62、 2001
【非特許文献7】Sumi H、Hamada H、 Tsushima H、 Mihara H、 Muraki H、 A novel fibrinolytic enzyme(nattokinase) in the vegetable cheese Natto; a typical and popular soybean foodin the Japanese diet. Experientia、 43(10):1110-1111、 1987
【非特許文献8】Sumi H、Hamada H、 Tsushima H、 Mihara H、Urokinase-like plasminogen activator increasedin plasma after alcohol drinking. Alcohol Alcohol.、 23(1)、 33-43、 1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大豆成分の線溶亢進効果について確認することを課題としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ゲニステインあるいはその類縁体を口から摂ると、体内のプラスミノーゲンアクチベーター量が数倍に増え、線溶亢進効果が生じることを確認した。また、ゲニステインあるいはその類縁体に、主に女性で問題になる皮膚のかさつき、くすみ、しわなどの老化を防止する効果が期待できる。また、50歳前後に発症する更年期障害(ほてりなど)を緩和する、更年期以降に起こる高脂血漿、骨代謝マーカーを改善する効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。ここでは、plasminogen
activator産生細胞であるHeLa細胞あるいは血管内皮細胞を用いて、8種の大豆イソフラボンあるいはその類縁体の線溶活性への影響を実験によって確認した。
【0009】
(材料および方法)
試薬:daidzein、genistein、glycitein、biochanin A、formononetin、daidzin、genistin、glycitin、6”-O-Acetyldaidzin、6”-O-Acetylgenistin、6”-O-Acetylglycitin、6”-O-malonyldaidzin、6”-O-malonylgenistin、6”-O-malonylglycitinの14種類をSigma社より購入した。
【0010】
(細胞培養)
培養液を回収後、プレートに残った細胞はtripsinを用いて遊離させ、培養液とPBS-で懸濁した後、Abs600nmで細胞数を計測した。
ヒト子宮頸癌由来の株化細胞であるHeLa S3(大日本製薬(株))を用いた(非特許文献3、4)。ヒト子宮頸癌細胞HeLa S3(以下HeLa)は、Eagle Minimum Essential Medium(E-MEM)に子牛胎児血清(FBS)、アミノ酸培地、L-gultamin、重炭酸ナトリウムを加えた培地で37℃、5%CO2分圧下でプラスチック培養器(25ml、75ml)で培養した。増殖したHeLa細胞をtripsinで遊離させ、新鮮な培養液で懸濁して24wellプレートに2×105cells/wellずつ分注した。24時間培養後、プラスチック底面を細胞が一重層で満たされている状態をコンフルエント歳、新鮮な培養液と試薬を9:1容になるように加えた。さらに24時間培養後に回収した培養液を1stメデュームとし、その後細胞をPBS-500μlで2度洗浄し、新しい培養液を加えてさらに24時間培養後に回収した培養液を2ndメデュームとした。また、サンプル添加から24時間後の培養液の交換を行わずに合計48時間の培養を行った培養液を3rdメデュームとした。培養液は回収後、4,000rpm、10min、4℃で遠心分離し、各試験に用いるまで−30℃で保存した。
【0011】
ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECの培養液は、Endothelial Cell Basal Medium及びEndothelial Cell Growth Supplementの混合物であるEndothelial Cell Growth Medium(東洋紡績(株))を用いた(非特許文献5、6)。細胞をファルコン製48ウェルプレートに移し、コンフルエント状態になるまで培養し、培養液をアスピレーターで吸出した。その後、新しい培養液135μl及び試料15μlを添加し37℃、5% CO2の条件下で24時間培養を行った。試料は、添加前に0.2μm Cellulose Acetateフィルター(ADVANTEC DISMIC-13cp)で濾過滅菌したものを用いた。24時間培養後、サンプリングして得られた培養液は、1stメデュームとして−30℃で保存した。サンプリング後の細胞は培養液をアスピレーターで除いた後、PBS(-)150μlで2回洗浄し、培養液150μlを加えさらに24時間培養を行った。培養後の培養液は2ndメデュームとして−30℃で保存した。培養後の細胞数は、Hela S3と同様にPBS(-)で2回洗浄し、トリプシン-EDTAと培養液を加え分光光度計でAbs600nmを測定し、検量線を用いて算出した。
【0012】
(標準フィブリン平板法)
フィブリン平板は、10cm×14cm角型シャーレ内にフィブリノーゲンをホウ酸緩衝液(pH7.80)で0.5%に溶解した20mlと50U/mlのトロンビン200μlを用いて作製した。そこに、サンプリングしたHeLa S3及びHUVECの培養液を各々30μlのせ、37℃でインキュベーションし、48時間後に生じる溶解面積(mm2)を測定した(非特許文献7)。また、納豆菌培養液のNK活性は各々30μlのせ、37℃でインキュベーションし、24時間後に生じる溶解面積(mm2)を測定した。
【0013】
(ザイモグラフィー法)
SDS-ポリアクリルアミド電気泳動は、7.5%ゲルスラブを作製し、その上に濃縮ゲルを作製した(非特許文献8)。得られた培養液に等量のサンプルバッファーを加え混合し、20μlずつウェルに注入し、30mAで約2時間泳動した。ザイモグラフィーは泳動後、2.5%トリトンX-100を用いてゲル内のSDSを除去した。フィブリノーゲンを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し0.8%とした溶液と寒天を0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液を100U/mlトロンビン50μl加え作製したフィブリン−寒天平板にゲルを重層し、37℃でインキュベーション後生じたたんぱく帯より血栓溶解活性及び分子量測定を行った。
【0014】
(結果)
イソフラボンアグリコンであるgenisteinと、その類縁体を加えた2nd mediumに高いフィブリン溶解活性があることが分かった(図1)。他の類にはgenisteinとその類縁体であるbiochanin A(genistein-4’-methylether)、genistein、6”-O-Acetylgenistin 、6”-O-malonylgenistinを添加した培養液にフィブリン溶解活性がみられた(図2)。特にイソフラボンアグリコンのgenisteinに関しては、最高はコントロールの約17倍、genisteinの類縁体の一つであるBiochanin Aに関しても2〜3倍のフィブリン溶解活性を示した(図3、4)。また、培養液の細胞数の計測より、genistein、biochanin Aは、濃度依存的に細胞数を減少さすことを確認した。ザイモグラフィー法を用いてplasminogen
activatorの分子フォームを決定した。すなわち、生産されたのは分子量68,000であり、そこには強いフィブリン溶解活性を持つたんぱく帯を確認した(図5、図6)。
また、同量のgenisteinを用いてHUVECの培養細胞の2ndメデュームの活性への影響を調べた。0、10、100mMとgenistein濃度が上がるにつれて溶解面積(比率)は約2.8、3.3、そして7.6倍と高まることが分かった。
【0015】
以上のような実験の結果から、ゲニステインあるいはその類縁体は、老化抑制、更年期障害緩和、更年期以降に起こる高脂血漿、骨代謝マーカーを改善する効果の他に、体内のプラスミノーゲンアクチベーター量が数倍に増え、線溶亢進効果が生じることが確認された。
【0016】
従って、ゲニステインあるいはその類縁体は、医薬品として活用する他、種々の食品に添加することにより、線溶亢進などの効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、ゲニステインのフィブリン溶解活性を示すグラフであり、黒丸が 1st medium、白丸が 2nd medium、四角が 3rd medium を表す。
【図2】図2は、本発明に係る各サンプル50μMをHeLa S3の培養液へ添加した時のフィブリン溶解能を示すグラフであり、黒塗りつぶしが1st medium、白抜きが 2nd mediumを示し、数値は5回の平均±標準偏差で表す。
【図3】図3は、ゲニステインのフィブリン溶解活性と細胞数への影響を示すグラフであり、黒丸が溶解面積(比率)、白丸が細胞数を表す。
【図4】図4は、Biochanin Aのフィブリン分解活性と細胞数への影響を示すグラフであり、黒丸が溶解面積(比率)、白丸が細胞数を表す。
【図5】図5は、ザイモグラフィーの測定結果を示す写真であり、ゲニスティンによりt-plaminogen activator の帯が増えているのが確認できる。
【図6】図6は、ザイモグラフィーの測定結果を示す写真であり、biochanin A は共により高分子量のものは、PAI-1 とのcomplex が存在すると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフラボンアグリコンであるゲニスティン又はその類縁体を含むことを特徴とする線溶亢進剤。
【請求項2】
イソフラボンアグリコンであるゲニスティン又はその類縁体を含むことを特徴とする食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−81464(P2008−81464A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265427(P2006−265427)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(599064339)株式会社 ホンダ トレーディング (5)
【出願人】(592197061)
【Fターム(参考)】