説明

線状材への液付着方法

【課題】生産性を低下させることなく、線状材に均一に液体を付着させる。
【解決手段】線状材20を液体30に浸漬した後に上方に引き上げるように走行させる線状材20への液付着方法である。表面に液体30が付着して上方に走行する線状材20に対し、その斜め上方からガスを吹き付けて線状材20の表面に付着した余分な液体30を線状材20に沿って下方に落とすと共に、線状材20に沿って下方に落ちた余分な液体30によって線状材20の表面に形成された液溜まり31に対し、その側方から液溜まり31の液体30を吸引除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線状材を液体に浸漬した後に上方に引き上げるように走行させる線状材への液付着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導体線を絶縁被覆する方法として、導体線にワニスを通過させて電着塗装した後、加熱することにより被膜を形成させるものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、平角状導体線の上に水分散ワニスを電着塗装した後、その電着層を焼付け処理し、その平角状導体の平坦部において絶縁層を連続的に形成する平角状超薄膜絶縁電線の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−320573号公報
【特許文献2】特開2005−209416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、導体線をワニスに浸漬した後に上方に引き上げるように走行させ、それによって導体線の表面にワニスを付着させる方法では、ワニスの粘度や表面張力の影響により導体線によるワニスの持ち出し、つまり、導体線へのワニスの付着が過剰となる箇所が生じる場合がある。そして、このようなワニスが過剰に付着した箇所では加熱の際に発泡する虞がある。また、このようなワニスの不均一な付着は線速度が速い程顕著となることから、線速度を遅くすることにより抑制可能であるが、それでは生産性の低下を招いてしまう。
【0006】
本発明の課題は、生産性を低下させることなく、線状材に均一に液体を付着させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、線状材を液体に浸漬した後に上方に引き上げるように走行させる線状材への液付着方法であって、
表面に液体が付着して上方に走行する線状材に対し、その斜め上方からガスを吹き付けて該線状材の表面に付着した余分な液体を該線状材に沿って下方に落とすと共に、該線状材に沿って下方に落ちた余分な液体によって該線状材の表面に形成された液溜まりに対し、その側方から該液溜まりの液体を吸引除去するものである。
【発明の効果】
【0008】
線状材にガスを吹き付けて線状材の表面に付着した余分な液体を線状材に沿って下方に落とし、それによって線状材への液体の付着の均一化を図ったとしても、落ちた液体で形成される液溜まりが一定量を超えると、線状材に過剰な液体が付着して持ち上げられる虞があるが、本発明によれば、線状材に沿って下方に落ちた余分な液体によって線状材の表面に形成された液溜まりの液体を吸引除去するので、かかる液溜まりが一定量を超えるのを防止でき、結果として、生産性を低下させることなく、線状材に均一に液体を付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る絶縁被覆装置を示すブロック図である。
【図2】電着塗装機を示す説明図である。
【図3】(a)及び(b)は複数の吹出ノズルの位置関係を示す説明図である。
【図4】(a)〜(c)は吹出ノズルと吸引ノズルとの位置関係を示す説明図である。
【図5】(a)及び(b)は複数の吸引ノズルの位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は本実施形態に係る絶縁被覆装置10を示す。この本実施形態に係る絶縁被覆装置10は、導体線20(線状材)にワニス30(液体)を電着塗装して絶縁被覆するのに用いられるものである。
【0012】
本実施形態に係る絶縁被覆装置10は、送出機11を備え、その側方に第1のシーブ12、その斜め下方に第2のシーブ12、その上方に第3のシーブ12、その斜め下方に回転駆動機13、その下方に第4のシーブ12、及びその側方に巻取機14がそれぞれ設けられた構成を有する。そして、本実施形態に係る絶縁被覆装置10は、送出機11及び巻取機14のそれぞれが導体線用のボビンの取付が可能に構成されており、送出機11に加工対象の導体線20が巻き付けられたボビンが取り付けられ、そこから引き出された導体線20が、第1〜第3のシーブ12、回転駆動機13、及び第4のシーブ12に順に巻き掛けられて走行し、巻取機14に取り付けられたボビンに巻き付けられるように構成されている。
【0013】
本実施形態に係る絶縁被覆装置10は、送出機11と第1のシーブ12との間に焼鈍炉15、第2のシーブ12と第3のシーブ12との間に電着塗装機16及び焼付炉17、並びに回転駆動機13と第4のシーブ12との間に絶縁検査機18がそれぞれ設けられている。そして、本実施形態に係る絶縁被覆装置10は、導体線20が、焼鈍炉15では横方向に、電着塗装機16及び焼付炉17では上方に、及び荷電用電極では下方にそれぞれ走行するように構成されている。また、本実施形態に係る絶縁被覆装置10は、走行する導体線20を電極(例えば陽極)に接続する手段が設けられている。
【0014】
図2は電着塗装機16を示す。
【0015】
この電着塗装機16は、筒状の電極(例えば陰極)が設けられた電着バス161を有し、そして、その電着バス161にワニス30が満たされ、ワニス30中の電極を通過した導体線20が液面から上方に走行するように構成されている。導体線20の走行方向は、鉛直方向に対する傾斜角度が15°以内であることが好ましく、0°であることが最も好ましい。また、この電着塗装機16は、電着バス161の上方に、上から順に導体線20の走行方向に沿って設けられた吹付ノズル162及び吸引ノズル163を有する。なお、吹付ノズル162はコンプレッサー等に接続され、また、吸引ノズル163は真空ポンプ等に接続されている。
【0016】
吹付ノズル162は、ノズル口が、上方に走行する導体線20に対し、その斜め上方からガスを吹き付けるように向き設定されている。導体線20に対するガスの吹き付け角度θは0°以上60°未満であることが好ましく、5〜20°であることがより好ましい。吹付ノズル162は、ノズル口が電着バス161に満たされたワニス30の液面から100〜1000mm上方に位置付けられていることが好ましく、200〜600mm上方に位置付けられていることがより好ましい。吹付ノズル162は、走行する導体線20の線振れ(約1mm)を考慮すると、ノズル口が上方に走行する導体線20の側方5〜50mmの位置に位置付けられていることが好ましく、側方10〜30mmの位置に位置付けられていることがより好ましい。吹付ノズル162は、単数だけが設けられていてもよく、また、複数が設けられていてもよい。後者の場合には、複数の吹付ノズル162は、図3(a)に示すように、導体線20を挟んだ両側からガスの吹き付けを行うように設けられていることが好ましい。複数の吹付ノズル162は、図3(b)に示すように、導体線20を挟んだ両側からのガスの吹き付けを段違いで行うように上下にオフセットして設けられていることが好ましい。吹付ノズル162のノズル口径は例えばφ2〜φ10mmである。なお、ノズル口は幅2mm以上のスリット等であってもよい。
【0017】
吸引ノズル163は、ノズル口が、上方に走行する導体線20に対し、その斜め下方から吸引するように向き設定されていてもよく、また、その側方から吸引するように向き設定されていてもよく、さらに、その斜め上方から吸引するように向き設定されていてもよい。吸引ノズル163は、ノズル口が吹付ノズル162のノズル口から5〜50mm下方に位置付けられていることが好ましく、10〜40mm下方に位置付けられていることがより好ましい。吸引ノズル163は、走行する導体線20の線振れ(約1mm)を考慮すると、ノズル口が上方に走行する導体線20の側方1〜10mmの位置に位置付けられていることが好ましく、側方1.5〜4.0mmの位置に位置付けられていることがより好ましい。図2に示すように先端が上下方向に円弧を構成するような形状に形成された吸引ノズル163の場合、ノズル口が、円弧中心から上方に走行する導体線20への最近接位置までを結ぶ線と円弧中心からノズル口までを結ぶ線とのなす角度θが0〜45°となるように設けられていることが好ましい。吸引ノズル163のノズル口から走行する導体線20までの距離は、吹付ノズル162のノズル口から走行する導体線20までの距離よりも短いことが好ましい。吸引ノズル163は、平面視で、図4(a)に示すように、吹付ノズル162と同じ位置に設けられていてもよく、図4(b)に示すように、例えば90°回転した位置に設けられていてもよく、図4(c)に示すように、吹付ノズル162と導体線20を挟んだ反対側の位置に設けられていてもよい。吸引ノズル163は、単数だけが設けられていてもよく、また、複数が設けられていてもよい。後者の場合には、複数の吸引ノズル163は、図5(a)に示すように、導体線20を挟んだ両側から吸引を行うように設けられていることが好ましい。また、複数の吹付ノズル162は、図5(b)に示すように、吸引を段違い行うように上下にオフセットして設けられていてもよい。吸引ノズル163のノズル口径は例えばφ1〜φ5mmである。
【0018】
以上のような電着塗装機16は、従来から使用されている既存装置に吹付ノズル162及び吸引ノズル163を後付することによって容易に構成することができる。
【0019】
次に、本実施形態に係る絶縁被覆装置10を用いた導体線20の絶縁被覆方法(液付着方法を含む)について説明する。
【0020】
加工対象である導体線20としては、例えば、断面が直径0.1〜3.0mmの円形導体線、断面が一辺0.1〜1.0mmの方形導体線、幅0.1〜5.0mm、厚さ0.5mm以下(好ましくは0.01〜0.2mm)、及びそれらの比(アスペクト比)が3:1〜100:1である平板状導体線等が挙げられる。導体線20の材質としては、例えば、通常の電気銅(JIS C3101の電気用硬銅線)、電気用アルミニウム、銅合金、銅クラッドアルミニウム、ニッケルめっき銅等が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る絶縁被覆装置10を稼働させると、導体線20が、送出機11に取り付けられたボビンから引き出され、第1〜第3のシーブ12、回転駆動機13、及び第4のシーブ12を順に経由して走行し、巻取機14に取り付けられたボビンに巻き取られる。導体線20の線速度は例えば4〜40m/minである。
【0022】
このとき、焼鈍炉15では、導体線20が加熱されて焼鈍される。加熱温度は例えば100〜600℃であり、加熱時間は例えば2〜30秒である。
【0023】
電着塗装機16では、導体線20が電着バス161内のワニス30に浸漬され、電極バス内の電極との間の電界によって走行する導体線20の表面にワニス30が付着して被膜を形成した後、液面から上方に引き上げられる。ここで、ワニス30としては、例えば、ポリアクリルワニス、エポキシエステルワニス等の水分散型樹脂ワニスが挙げられる。ワニス30の温度は例えば10〜50℃である。ワニス30の固形分濃度(樹脂製分濃度)は例えば1〜40質量%である。電極バス内の電極と導体線20との間の電圧は例えば10〜100Vである。電着時間は例えば0.5〜10秒である。
【0024】
そして、液面から引き上げられた導体線20に対し、その斜め上方から吹付ノズル162からのガスが吹き付けられる。これにより導体線20の表面に付着した余分なワニス30が導体線20に沿って下方に落ち、それによって導体線20へのワニス30の付着が均一化する。吹付ノズル162から高圧のガスを吹き付ければ、流速の速いダウンフローを得ることができるが、それでは絶縁被膜形成に必要なワニス30まで落としてしまう虞があるが、図2に示すように、吸引ノズル163のノズル口から走行する導体線20までの距離が吹付ノズル162のノズル口から走行する導体線20までの距離よりも短い場合には、吹付ノズル162から低圧のガスを吹き付けても流速の速いダウンフローを得ることができ、効率よくワニス30の付着の均一化を図ることができる。ここで、ガスとしては、典型的には空気が挙げられ、その他に例えば窒素ガス、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス等が挙げられる。ガス温度は例えば5〜35℃である。ガス吹付量は例えば10〜80L/minである。
【0025】
また、導体線20に沿って下方に落ちた余分なワニス30によって導体線20の表面に形成された液溜まり31に対し、その側方から吸引ノズル163からの吸引がなされて液溜まり31のワニス30が吸引除去される。導体線20にガスを吹き付けて導体線20の表面に付着した余分なワニス30を導体線20に沿って下方に落とし、それによって導体線20へのワニス30の付着の均一化を図ったとしても、落ちたワニス30で形成される液溜まり31が一定量を超えると、導体線20に過剰なワニス30が付着して持ち上げられる虞があるが、このように、導体線20に沿って下方に落ちた余分なワニス30によって導体線20の表面に形成された液溜まり31のワニス30を吸引除去すれば、かかる液溜まり31が一定量を超えるのを防止でき、結果として、生産性を低下させることなく、導体線20に均一にワニス30を付着させることができる。吸引ノズル163からの吸引位置は液滴が側方に最も突出する位置であることが望ましい。ここで、吸引量は例えば10〜100L/minである。
【0026】
さらに、複数の吹付ノズル162により導体線20を挟んだ両側からガスの吹き付けを行う場合には、効率的な液切りを行うことができる。複数の吹付ノズル162により導体線20を挟んだ両側からのガスの吹き付けを段違いで行う場合には、吹き付けガスの相互影響による線振れを防止でき、また、細かい条件設定や調整ができ、より効果的に液切りを行うことができる。
【0027】
また、導体線20が平板状導体線の場合には、余分なワニス30を効率的に導体線20に沿って下方に落とし、液溜まり31のワニス30を効率的に吸引除去する観点から、吹付ノズル162からのガスの吹き付け及び吸引ノズル163からの吸引を平板状導体線20の板面に対して行うことが望ましい。
【0028】
焼付炉17では、導体線20に付着したワニス30の乾燥及び硬化による絶縁被膜の形成がなされる。加熱温度は例えば100〜400℃であり、加熱時間は例えば10〜120秒である。絶縁被膜の厚さは1.5〜35μmである。
【0029】
絶縁検査機18では、絶縁被覆された導体線20の外が電極に接触し、絶縁されているか否かが検査される。
【0030】
なお、本実施形態では、導体線20を線状材としたが、特にこれに限定されるものではなく、細径や小サイズの角形の導体を撚り合わせたり、或いは集合させて線状材としたもの等であってもよい。
【0031】
また、本実施形態では、ワニス30を液体としたが、特にこれに限定されるものではなく、ポリエステル、ホルマール、ポリウレタンなどの有機樹脂やポリアミド、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂等を加熱或いは溶剤に溶解させて液体としたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は線状材を液体に浸漬した後に上方に引き上げるように走行させる線状材への液付着方法について有用である。
【符号の説明】
【0033】
10 絶縁被覆装置
11 送出機
12 シーブ
13 回転駆動機
14 巻取機
15 焼鈍炉
16 電着塗装機
17 焼付炉
18 絶縁検査機
161 電着バス
162 吹付ノズル
163 吸引ノズル
20 導体線(線状材)
30 ワニス(液体)
31 液溜まり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状材を液体に浸漬した後に上方に引き上げるように走行させる線状材への液付着方法であって、
表面に液体が付着して上方に走行する線状材に対し、その斜め上方からガスを吹き付けて該線状材の表面に付着した余分な液体を該線状材に沿って下方に落とすと共に、該線状材に沿って下方に落ちた余分な液体によって該線状材の表面に形成された液溜まりに対し、その側方から該液溜まりの液体を吸引除去する液付着方法。
【請求項2】
請求項1に記載された液付着方法において、
上記線状材へのガスの吹き付けを、該線状材を挟んだ両側から行う液付着方法。
【請求項3】
請求項2に記載された液付着方法において、
上記線状材を挟んだ両側からのガスの吹き付けを段違いで行う液付着方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された液付着方法において、
上記線状材が導体線であり且つ上記液体がワニスである液付着方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された液付着方法において、
上記線状材が平板状線状材である液付着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−247088(P2010−247088A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100038(P2009−100038)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】