説明

線維化抑制のための薬物担体および薬物担体キット

【課題】 星細胞を標的とするドラッグデリバリーシステムを提供する。
【解決手段】 レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを構成成分とする、星細胞特異的薬物担体、これを利用した薬物送達方法、これを含む医薬、およびこの医薬を利用した治療方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、星細胞へのドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いる薬物担体、これを含む医薬および当該医薬の調製キット、特に、有効成分が星細胞の活性または増殖を制御する薬物、とりわけ星細胞によって分泌される細胞外マトリクス構成分子を標的とする、または細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子のうち1つまたはそれ以上を標的とする薬物である、医薬およびその調製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の線維化は、限定するものではないが、たとえばB型もしくはC型肝炎ウイルス等に原因するウイルス性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、栄養障害糖尿病、寄生虫、結核もしくは梅毒などの感染症、心臓病などによる肝臓内のうっ血、または胆汁の通過障害などに伴う肝臓内の組織傷害などに対する創傷治癒機転の結果、肝星細胞(HSC)が活性化され、過剰に産生・分泌された複数種のコラーゲン分子およびファイブロネクチンなどの細胞外マトリクス(ECM)が間質に沈着することによりもたらされる。肝線維化の終末像は肝硬変であり、肝不全や肝細胞癌などを生じることから、これらを未然に防ぐため、および/またはこれらの進行を抑制するため、少なくとも肝線維化を抑制する薬物担体および薬物担体キットの開発が望まれる。
【0003】
また、膵臓においても肝線維化と同様な機序による膵線維化によって慢性膵炎が発症する(Madro Aら、Med Sci Monit. 2004 Jul;10(7):RA166-70.;Jaster R, Mol Cancer. 2004 Oct 06;3(1):26.)。しかしながら、膵線維化または慢性膵炎などの進行を抑制する有効な手段についても、未だ見出されていない。
【0004】
肝臓または膵臓の線維化を抑制する有効な手段として、星細胞が重要な標的候補の1つとなる可能性がある(Fallowfield JA, Iredale JP、Expert Opin Ther Targets. 2004 Oct;8(5):423-35;Pinzani M, Rombouts K. Dig Liver Dis. 2004 Apr;36(4):231-42.)。線維化過程において、星細胞はクッパー細胞や浸潤細胞からのサイトカインにより活性化され活性化細胞へと形質転換し細胞外マトリクス(ECM)を著明に産生する。星細胞は、ビタミンAの貯蔵細胞として知られており、筋線維芽細胞ファミリーに属する。一方、星細胞は、マトリックス分解酵素(MMP)、その抑制因子(TIMP)、TGF−β、PDGFなどのサイトカイン、およびHGFなどの増殖因子を産生し、肝線維化における中心的な役割を果す。活性化された星細胞は、収縮能が亢進して血流の調節に関与する他、各種サイトカイン受容体の発現をも増加し、サイトカインに対して高感受性になる。
【0005】
線維化に対する治療方法として、現在までのところ試みられている方法としては、コラーゲン代謝の制御、コラーゲン分解系の促進、または星細胞の活性化の抑制などが挙げられる。これらには、truncated TGFβ type II receptor(Qi Zら, Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Mar 2;96(5):2345-9.)もしくは、soluble TGFβ type II receptor(George Jら、Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Oct 26;96(22):12719-24.)、またはHGF(特表平5-503076号公報;Ueki Kら、Nat Med. 1999 Feb;5(2):226-30.)などを用いた(星細胞を活性化し細胞外マトリクス(ECM)産生を促進する因子として知られる)TGFβの抑制、HGFもしくはMMP遺伝子含有ベクターによるマトリックス分解酵素(MMP)の産生促進(Iimuro Yら、Gastroenterology 2003; 124:445-458.)、MMP阻害因子であるTIMPのアンチセンスRNAなどによる抑制(Liu WBら、World J Gastroenterol. 2003 Feb;9(2):316-9)、PPARγリガンド(Marra Fら、Gastroenterology. 2000 Aug;119(2):466-78)もしくはangiotensin-II type I receptor antagonist(Yoshiji Hら、Hepatology. 2001 Oct;34(4 Pt 1):745-50.)による星細胞活性化の制御、PDGFチロシンキナーゼ阻害剤などによるPDGF作用の抑制(Liu XJら、World J Gastroenterol. 2002 Aug;8(4):739-45.)およびアミロライドによるナトリウムチャンネル阻害(Benedetti Aら、Gastroenterology. 2001 Feb;120(2):545-56)などを介した星細胞の増殖抑制、compound 861(Wang L,ら、World J Gastroenterol 2004 October 1;10(19):2831-2835)、gliotoxin(Orr JGら、Hepatology. 2004 Jul;40(1):232-42.)などによる星細胞のアポトーシス誘導などが含まれる。しかしながら、いずれの場合も作用特異性および/または臓器特異性が低いため、効果および副作用の点に問題がある。
【0006】
コラーゲンのタンパク質合成については、代謝経路が不明な点が多く、これを抑制する薬剤による治療方法については、副作用の点などから効率的かつ生体に安全な治療方法としては確立されていない。すなわちコラーゲン産生に関わる分子を標的にする方法においては、それらの分子が有する多様な機能のために標的の特異性を高めることができず、副作用を生ずる可能性が高い。最終産物であるコラーゲンを直接抑制することができれば、線維化過程に対する共通の治療方法として理にかなうことになるが、そのためには、タイプI〜IVに代表される様々なタイプのコラーゲンを一網打尽に制御することが必要である。
【0007】
コラーゲンに対する特異性を失わずに、多種類存在するコラーゲン分子の合成を同時に抑制する有効な手段のひとつとして、HSP47の機能を制御する方法が考えられる。HSP47は、様々なタイプのコラーゲンの合成過程で共通する細胞内輸送および分子成熟化に必須であるコラーゲン特異的分子シャペロンである。したがって、星細胞においてHSP47の機能を特異的に制御することができれば、肝線維化の抑制の可能性が考えられるが、そうした治療方法の試みについては、いまだ報告はない。
【0008】
発明者らは、細胞の系において、HSP47の機能を特異的に制御するリボザイムを作製し、これによってコラーゲン産生分泌を一度に抑制できることを示した(Sasaki H, et al. Journal of Immunology, 2002, 168: 5178-83; Hagiwara S, et al. J Gene Med. 2003,5:784-94)。HSP47の合成を特異的に抑制するためには、リボザイムより最適化の容易なsiRNAが適用され得る。本明細書において用いられるsiRNA(small interfering RNAs)とは、RNAi(RNA interference)で用いる二本鎖RNAの総称である。RNAiとは、ある遺伝子と相同な、センスRNAおよびアンチセンスRNAからなる二本鎖RNA(double-strand RNA;dsRNA)が、その遺伝子の転写産物(mRNA)の相同部分を破壊する現象で、当初線虫を用いた実験に示されたが(Fire A,et al: Nature (1998)391:806-811)、哺乳動物細胞にも同様な誘導機構が存在することが明らかにされている(Ui-Tei K,et al:FEBS Lett(2000) 479:79-82)。また、Elbashirらによって、長さとして21〜23bp程度の短いdsRNAが、哺乳動物細胞系でも細胞毒性を示さずにRNAiを誘導できることが示されている(Elbashir SM,et al:Nature(2001)411:494-498)。しかしながら、これらの分子の効果を有効に発揮させるためには、標的臓器に特異的な方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平5-503076号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Madro Aら、Med Sci Monit. 2004 Jul;10(7):RA166-70
【非特許文献2】Jaster R、 Mol Cancer. 2004 Oct 06;3(1):26
【非特許文献3】Fallowfield JA, Iredale JP、Expert Opin Ther Targets. 2004 Oct;8(5):423-35
【非特許文献4】Pinzani M, Rombouts K. Dig Liver Dis. 2004 Apr;36(4):231-42
【非特許文献5】Qi Zら、 Proc Natl Acad Sci USA. 1999 Mar 2;96(5):2345-9
【非特許文献6】George Jら、Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Oct 26;96(22):12719-24
【非特許文献7】Ueki Kら、Nat Med. 1999 Feb;5(2):226-30
【非特許文献8】Iimuro Yら、Gastroenterology 2003; 124:445-458
【非特許文献9】Liu WBら、World J Gastroenterol. 2003 Feb;9(2):316-9
【非特許文献10】Marra Fら、Gastroenterology. 2000 Aug;119(2):466-78
【非特許文献11】Yoshiji Hら、Hepatology. 2001 Oct;34(4 Pt 1):745-50
【非特許文献12】Liu XJら、 World J Gastroenterol. 2002 Aug;8(4):739-45
【非特許文献13】Benedetti Aら、 Gastroenterology. 2001 Feb;120(2):545-56
【非特許文献14】Wang Lら、 World J Gastroenterol 2004 October 1;10(19):2831-2835
【非特許文献15】Orr JGら、 Hepatology. 2004 Jul;40(1):232-42
【非特許文献16】Sasaki Hら、 Journal of Immunology, 2002, 168: 5178-83
【非特許文献17】Hagiwara Sら、 J Gene Med. 2003,5:784-94
【非特許文献18】Fire Aら:Nature(1998)391:806-811
【非特許文献19】Ui-Tei Kら:FEBS Lett(2000) 479:79-82
【非特許文献20】Elbashir SMら:Nature(2001)411:494-498
【非特許文献21】田端泰彦、ドラッグデリバリーシステムDDS技術の新たな展開とその活用法−生物医学研究・先進医療のための最先端テクノロジーメディカルドゥ社、ISBN:4944157932、2003
【非特許文献22】橋田充、ドラッグデリバリーシステム−創薬と治療への新たなる挑戦、新バイオサイエンスシリーズ、化学同人、ISBN:4759803858、1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
組織および/または臓器を標的とするために、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の応用が有効な手段のひとつである(田端泰彦、ドラッグデリバリーシステムDDS技術の新たな展開とその活用法−生物医学研究・先進医療のための最先端テクノロジーメディカルドゥ社、ISBN: 4944157932、2003;橋田充、ドラッグデリバリーシステム−創薬と治療への新たなる挑戦、新バイオサイエンスシリーズ、化学同人、ISBN:4759803858、1995)。ドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いる薬物担体には、高分子ミセル、リポソーム、マイクロエマルジョンなどを応用したものなどが存在する。これらの担体の標的臓器に対する特異性を高めるために、臓器および/または組織特異的な抗原またはリセプターに対する抗体および/またはリガンドなどを該担体に混入または結合させる技術、および担体の物理化学的性質を利用する技術などが知られているが、特に星細胞を標的とする技術については、いまだ知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、診断および/または治療用薬物を星細胞へ特異的に運搬することを可能とする薬物担体および薬物担体キットに関する。本発明における薬物担体は、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球のうちのいずれの形態でもよく、これらにビタミンA(VA)もしくはレチノイド誘導体、たとえばトレチノイン、アダパレン、パルミチン酸レチノールなど、またはビタミンAアナログ、たとえばFenretinide(4−HPR)などを結合させるかまたは包含させることにより、治療用薬物を肝星細胞特異的に運搬することを可能にする。さらに、該薬物担体にtruncated TGFβ type II receptor、およびsoluble TGFβ type II receptorなどのTGFβ活性阻害剤、HGFなどの成長因子製剤、MMP遺伝子含有アデノウイルスベクターなどのMMP産生促進剤、PPARγ−ligand、angiotensin-II type I receptor antagonist、PDGFチロシンキナーゼ阻害剤、およびアミロライドなどのナトリウムチャンネル阻害剤を含む細胞活性化抑制剤および/または増殖抑制剤、ならびに、compound 861、およびgliotoxinなどのアポトーシス誘導剤のうちから選択される1つまたは複数の分子を包含するものを作製し、線維化のリスクにあるかもしくは線維化の症状を有する患者、または線維化にともなう各種疾患、たとえば肝硬変、肝不全、肝臓癌、もしくは慢性膵炎を有する患者に経口投与または非経口投与、たとえば静脈もしくは腹腔内投与することによって、星細胞の活性化を抑え、線維化および/または線維化にともなう該各疾患状態を予防、抑制または改善することができる。あるいは、またはこれに加えて、コラーゲン特異的分子シャペロンであるHSP47もしくはMMP阻害因子であるTIMPを特異的に抑制するリボザイム、アンチセンスRNA、またはsiRNAを該薬物担体に封入して用いることにより、それぞれI型〜IV型コラーゲンの分泌を同時に抑制し、その結果線維形成を効果的に抑制することができる。
【0013】
したがって、本発明は、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを構成成分とする、星細胞特異的薬物担体に関する。
本発明はまた、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログの少なくとも一部が、遅くとも星細胞に到達するまでに製剤の外部に露出する、上記薬物担体に関する。
本発明はさらに、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを含むことにより、星細胞への特異的な運搬が可能となっている、上記薬物担体に関する。
本発明はまた、レチノイド誘導体がビタミンAを含むことを特徴とする上記薬物担体に関する。
本発明はさらに、0.2〜20重量%のレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを含むことを特徴とする上記薬物担体に関する。
本発明はさらにまた、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球のうちのいずれかの形態である上記薬物担体に関する。
本発明はさらに、上記薬物担体を含む星細胞特異的製剤に関する。
また、本発明は、上記の薬物担体と、星細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、星細胞に関連する疾患を処置するための医薬に関する。
さらに、本発明は、疾患が肝炎、肝線維症、肝硬変、肝癌、膵炎、膵線維症、膵癌、声帯瘢痕形成、声帯粘膜線維症および喉頭の線維化からなる群から選択される、上記医薬に関する。
さらにまた、本発明は、星細胞の活性または増殖を制御する薬物が、TGFβ活性阻害剤、HGF活性製剤、MMP産生促進剤、TIMP産生阻害剤、PPARγリガンド、アンジオテンシン活性阻害剤、PDGF活性阻害剤、ナトリウムチャンネル阻害剤、アポトーシス誘導剤、ならびに、星細胞によって産生される細胞外マトリクス構成分子を標的とする、または該細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子のうちの1つまたはそれ以上を標的とするsiRNA、リボザイム、アンチセンス核酸、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドおよびこれらを発現するベクターからなる群から選択される、上記医薬に関する。
本発明はまた、細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子がHSP47である上記医薬に関する。
本発明はさらに、薬物と、薬物担体とを、医療の現場またはその近傍で混合してなる、上記医薬に関する。
【0014】
本発明はさらにまた、星細胞の活性または増殖を制御する薬物、薬物担体構成物質、ならびにレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログのうちの1つまたはそれ以上を含む1つまたはそれ以上の容器を含む、上記医薬の調製キットに関する。
また、本発明は、上記の医薬の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、星細胞に関連する疾患を処置するための方法に関する。
さらに、本発明は、疾患が肝炎、肝線維症、肝硬変、肝癌、膵炎、膵線維症、膵癌、声帯瘢痕形成、声帯粘膜線維症および喉頭の線維化からなる群から選択される、上記方法に関する。
さらにまた、本発明は、医薬が非経口投与される、上記方法に関する。
本発明はまた、上記薬物担体の、星細胞に関連する疾患を処置するための医薬の製造への使用に関する。
また、本発明は、上記薬物担体を利用した、星細胞への薬物送達方法に関する。
【0015】
本発明は、さらに、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを構成成分とする、星細胞の活性または増殖を制御する薬物を星細胞に特異的に運搬する線維化抑制のための薬物担体、レチノイド誘導体がビタミンAを含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体、0.2%〜20%のレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球のうちのいずれかの形態である前記線維化抑制のための薬物担体、星細胞の活性または増殖を制御する薬物が、TGFβ活性阻害剤、HGF活性製剤、MMP産生促進剤、TIMP産生阻害剤、PPARγリガンド、アンジオテンシン活性阻害剤、PDGF活性阻害剤、ナトリウムチャンネル阻害剤、およびアポトーシス誘導剤のうちから選択される1つまたはそれ以上の薬物を含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体、星細胞の活性または増殖を制御する薬物が、星細胞によって産生される細胞外マトリクス構成分子を標的とする、または該細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子のうちの1つまたはそれ以上を標的とするsiRNA、リボザイム、またはアンチセンスRNAもしくはこれらを発現するベクターを含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体、そして、細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子がHSP47である前記線維化抑制のための薬物担体にも関する。
【0016】
本発明は、さらにまた、星細胞の活性または増殖を制御する薬物、薬物担体構成物質、ならびにレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログのうちの1つまたはそれ以上を含む1つまたはそれ以上の容器からなる線維化抑制のための薬物担体キット、レチノイド誘導体がビタミンAを含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体キット、0.2%〜20%のレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体キット、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球のうちのいずれかの形態である前記線維化抑制のための薬物担体キット、星細胞の活性または増殖を制御する薬物が、TGFβ活性阻害剤、HGF活性製剤、MMP産生促進剤、TIMP産生阻害剤、PPARγリガンド、アンジオテンシン活性阻害剤、PDGF活性阻害剤、ナトリウムチャンネル阻害剤、およびアポトーシス誘導剤のうちから選択される1つまたはそれ以上の薬物を含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体キット、星細胞の活性または増殖を制御する薬物が、星細胞によって分泌される細胞外マトリクス構成分子を標的とする、または細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子のうち1つまたはそれ以上を標的とするsiRNA、リボザイム、もしくはアンチセンスRNAまたはこれらを発現するベクターを含むことを特徴とする前記線維化抑制のための薬物担体キット、そして、細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子がHSP47である線維化抑制のための薬物担体キットにも関する。
【発明の効果】
【0017】
線維化および/またはそれに伴う各種疾患を予防、抑制または改善する有効な手段として、診断および/または治療用薬物を星細胞へ特異的に運搬することを可能とする本発明の薬物担体および薬物担体キットを用いることによって、実施例に見るような画期的な治療効果を提供することができる。すなわち、本発明による薬物担体および薬物担体キットは、星細胞を特異的な標的とするため、星細胞が中心となって発現する病態、たとえば線維化などを効率的かつ効果的に、さらには最小限の副作用で抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】NRK細胞を用いた、gp46−siRNAのin vitroでの効果判定、および至適配列、時期、濃度の決定に関するプロトコールを示した図である。
【図2】gp46およびActinのウエスタンブロットの結果を示した写真図である(24時間培養、至適配列の検討)。
【図3】gp46およびActinのウエスタンブロットの結果を示した写真図である(24時間培養、至適濃度の検討)。
【図4】gp46およびActinのウエスタンブロットの結果を示した写真図である(濃度50nM、至適培養時間の検討)。
【図5】NRK細胞においてgp46−siRNAによるcollagenの発現の抑制を評価するためのプロトコールを示した図である。
【図6】siRNAによるcollagen合成の抑制を示したグラフである。
【図7】HSC特異的なsiRNAの導入を示した写真図である。
【図8】HSC特異的なsiRNAの導入率を評価した写真図である。
【図9】siRNAによるgp46の発現抑制を評価した写真図である。
【0019】
【図10】DMN投与ラット肝のAzan染色を示した写真図である。
【図11】LC ratの処置プロトコールを示した図である。
【図12】VA−Lip−gp46siRNA投与LCラット肝のAzan染色を示した写真図である。
【図13】NIH imageによる被染色部分の抽出方法を示した図である。Azan染色像からランダムに6ヶ所撮影を行なった。
【図14】肝組織像における線維化部分の占める面積比(Collagen面積比、%)を示したグラフである。
【図15】肝組織中のヒドロキシプロリンの量を示したグラフである。
【図16】VA−Lip−gp46siRNAを門脈内投与した肝硬変ラットの生存曲線を示したグラフである。
【図17】VA−Lip−gp46siRNAを門脈内投与した肝硬変ラットの肝組織のAzan染色を示した写真図である。
【図18】VA−Lip−gp46siRNAを門脈内投与した肝硬変ラットの生存曲線を示したグラフである。
【図19】VA−Lip−gp46siRNAを門脈内投与した肝硬変ラットの肝組織のAzan染色を示した写真図である。
【0020】
【図20】VA−Lip−gp46siRNAを静脈内投与した肝硬変ラットの生存曲線を示したグラフである。
【図21】VA−Lip−gp46siRNAを静脈内投与した肝硬変ラットの生存曲線を示したグラフである。
【図22】VA−Lip−gp46siRNAを静脈内投与した肝硬変ラットの肝組織のAzan染色を示した写真図である。
【図23】RBPによる、VA−Lip−gp46siRNAの導入効率の改善を示した図である。
【図24】抗RBP抗体による、VA−Lip−gp46siRNA導入の抑制を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明におけるレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログは、ビタミンAを含むとともに、これを溶解または保持することができる媒体に溶解させるか混入させた状態におけるレチノイド誘導体またはビタミンAアナログをも含む。
本発明におけるレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログは、星細胞によって積極的に蓄積されるものであれば何れのものでもよく、たとえばレチノイド誘導体としては、限定するものではないが、トレチノイン、アダパレン、パルミチン酸レチノール、または特にビタミンA(レチノール酸)などを用いることができ、またビタミンAアナログとしては、限定するものではないが、たとえばFenretinide(4−HPR)などを用いることができる。本発明は、星細胞がレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを積極的に取り込む性質を利用するものであり、これらのレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを薬物担体として用いるか、またはこれ以外の薬物担体構成成分に結合させるかまたは包含させることによって、所望の物質や物体を星細胞に特異的に運搬させ得るようにしたものである。
【0022】
したがって、本発明の薬物担体は、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログ以外の薬物担体構成成分を含んでいてもよい。かかる成分は特に限定されずに、医薬および薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。このような成分としては、脂質、たとえば、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、リポソームを構成し得るもの、たとえば、レシチンなどの天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などの半合成リン脂質、コレステロールなどが好ましい。
また、本発明の薬物担体は、星細胞への取り込みを改善させる物質、たとえば、レチノール結合タンパク質(RBP)などを含んでいてもよい。
【0023】
本発明の薬物担体へのレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログの結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを薬物担体の他の構成成分に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。または、本発明の薬物担体へのレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログの結合または包含は、該薬物担体の作製時に、基本的な薬物担体構成成分とともに形成親和性のあるレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを薬物担体の構成成分中に混入させることによっても可能となる。本発明の薬物担体に結合させるかまたは包含させるレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログの量は、薬物担体構成成分中の重量比で0.01%〜100%、好ましくは0.2%〜20%、さらに好ましくは1〜5%とすることが可能である。
【0024】
本発明の薬物担体の形態は、所望の物質や物体を、標的とする星細胞に運搬できればいずれの形態でもよく、たとえば、限定するものではないが、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などのうちいずれの形態をとることもできる。また、本発明の薬物担体は、これに含まれるレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログが、遅くとも星細胞に到達するまでに、製剤の外部に少なくとも部分的に露出していれば、運搬物を内部に含んでも、運搬物の外部に付着して存在しても、また、運搬物と混合されていてもよい。
【0025】
本発明の薬物担体は、星細胞を特異的な標的とするものであり、所望の物質や物体、たとえば星細胞の活性または増殖を制御する薬物等を星細胞に効率的に運搬することによって、最大の効果および最小の副作用において、所望の効果、たとえば線維化の抑制または予防を可能にする。本薬物担体が送達する物質や物体は特に制限されないが、投与部位から星細胞が存在する肝臓や膵臓などへ、生物の体内を物理的に移動できるような大きさであることが好ましい。したがって、本発明の薬物担体は、原子、分子、化合物、タンパク質、核酸等の物質はもとより、ベクター、ウイルス粒子、細胞、1以上の要素で構成された薬物放出システム、マイクロマシン等の物体をも運搬することができる。前記物質または物体は、好ましくは星細胞に何らかの影響を与える性質を有し、たとえば、星細胞を標識するものや、星細胞の活性または増殖を制御するものを含む。
【0026】
したがって、本発明の一態様においては、薬物担体が送達するものは「星細胞の活性または増殖を制御する薬物」であり、これは、線維化促進に関係する星細胞の物理化学的な作用を直接または間接に抑制する何れの薬物であってもよく、限定するものではないが、たとえばtruncated TGFβ type II receptor、およびsoluble TGFβ type II receptorなどのTGFβ活性阻害剤、HGFなどの増殖因子製剤およびそれらの発現ベクター、MMP遺伝子含有アデノウイルスベクターなどのMMP産生促進剤、アンチセンスTIMP核酸などのTIMP産生阻害剤、PPARγリガンド、アンジオテンシン活性阻害剤、PDGF活性阻害剤、ナトリウムチャンネル阻害剤を含む細胞活性化抑制剤および/または細胞増殖抑制剤、ならびにcompound 861、gliotoxinなどのアポトーシス誘導剤、アディポネクチン(特開2002-363094号公報参照)、(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(4−ピリジルカルバモイル)シクロヘキサンなどのRhoキナーゼ阻害活性を有する化合物(国際公開WO 00/64478号パンフレット参照)を包含する。また、本発明における「星細胞の活性または増殖を制御する薬物」は、線維化抑制に直接または間接に関係する星細胞の物理化学的な作用を直接または間接に促進する何れの薬物であってもよく、限定するものではないが、たとえばコラーゲン分解系を促進する薬物、たとえばMMP発現ベクターなどのMMP産生促進剤、およびHGF、HGFアナログ、またはこれらの発現ベクターなどのHGF様の活性を有する薬物を包含する。
【0027】
本発明における「星細胞の活性または増殖を制御する薬物」の別の例としては、細胞外マトリクス、たとえばコラーゲンの代謝を制御する薬物、たとえば星細胞によって産生される細胞外マトリクス構成分子を標的とする、または該細胞外マトリクス構成分子の産生もしくは分泌に機能する分子のうちの1つまたはそれ以上を標的とする、siRNA、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの標的分子の発現を抑制する効果を有する物質、もしくはドミナントネガティブ効果を有する物質、またはこれらを発現するベクターなどが挙げられる。
siRNAは、mRNAなどの標的分子に特異的な配列を有する2本鎖RNAであり、標的分子の分解を促進することにより、それによって形成される物質、たとえばタンパク質の発現を抑制する(RNA干渉)。Fireらによってその原理が発表されて以来(Nature, 391:806-811,1998)、siRNAの最適化に関してはすでに広範な研究がなされており、当業者はかかる技術に精通している。また、siRNA以外の、RNA干渉またはその他の遺伝子発現阻害反応をもたらす物質についても精力的な研究がなされており、現在ではこのような物質も数多く誕生している。
【0028】
たとえば、特開2003-219893号公報には、標的遺伝子の発現を阻害するDNAとRNAとからなる2本鎖ポリヌクレオチドが記載されている。このポリヌクレオチドは、2本鎖の一方がDNAで、他方がRNAであるDNA/RNAハイブリッドであっても、同じ鎖の一部がDNAで、他の部分がRNAであるDNA/RNAキメラであってもよい。かかるポリヌクレオチドは、好ましくは19〜25、より好ましくは19〜23、さらに好ましくは19〜21ヌクレオチドからなり、DNA/RNAハイブリッドの場合は、センス鎖がDNAであり、アンチセンス鎖がRNAであるものが好ましく、また、DNA/RNAキメラの場合は、2本鎖ポリヌクレオチドの上流側の一部がRNAであるものるものが好ましい。かかるポリヌクレオチドは、自体公知の化学合成法により定法に従って、任意の配列を有するものを作製することが可能である。
【0029】
前記標的分子としては、たとえば細胞外マトリクス構成分子の分泌を一網打尽に抑制できるような分子が好ましく、そのような分子の例として、限定するものではないが、HSP47が含まれる。HSP47またはそのホモログの遺伝子配列は、たとえば、GenBank accession No. AB010273(ヒト)、X60676(マウス)、M69246(ラット、gp46)として開示されている。
従って、本発明の薬物担体が運搬する好ましい物質としては、たとえば、HSP47を標的とするsiRNAや、DNA/RNAハイブリッドもしくはキメラポリヌクレオチド、アンチセンス核酸などが挙げられる。
本発明の薬物担体の送達物としてはまた、線維化を抑制する薬剤、たとえば、G−CSF(WO 2005/082402参照)、トロンボモジュリン様タンパク質(特開2002-371006号参照)、ケラタン硫酸オリゴ糖(特開平11-269076号参照)などを挙げることができる。
【0030】
本発明の薬物担体が送達する物質や物体は、標識されていてもいなくてもよい。標識化により、運搬の成否や、星細胞の増減などをモニタリングすることが可能となり、特に試験・研究レベルでは有用である。標識は、当業者に公知な任意のもの、たとえば、任意の放射性同位体、標識化物質に結合する物質(たとえば抗体)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、および酵素などから選択することができる。
【0031】
本発明はまた、前記薬物担体と、前記星細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、星細胞に関連する疾患を処置するための医薬、ならびに、前記薬物担体の、星細胞に関連する疾患を処置するための医薬の製造への使用に関する。ここで、星細胞に関連する疾患とは、星細胞が、疾患の過程、すなわち疾患の発症、増悪、改善、寛解、治癒などに直接的または間接的に関与している疾患を指し、たとえば、肝炎、特に慢性肝炎、肝線維症、肝硬変および肝癌等の肝疾患、膵炎、特に慢性膵炎、膵線維症および膵癌等の膵疾患が含まれる。また、最近の報告によると声帯にも星細胞が存在するため(たとえば、Fuja TJ ら、Cell Tissue Res. 2005;322(3):417-24参照)、上記疾患には声帯瘢痕形成、声帯粘膜線維症、喉頭の線維化などの声帯・喉頭の疾患も含まれる。
【0032】
本発明の医薬においては、薬物担体に含まれるレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログの少なくとも一部が、遅くとも星細胞に到達するまでに製剤の外部に露出していれば、薬物担体が薬物を内部に含んでも、薬物含有体の外部に付着して存在しても、また、薬物と混合されていてもよい。したがって、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記医薬を、適切な材料、たとえば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。
本発明の医薬は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、たとえば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(たとえば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
たとえば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0033】
本発明の薬物担体または医薬は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、好ましくは用時調製可能な形態、たとえば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供される。この場合、本発明の薬物担体または医薬は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、たとえば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
したがって、本発明はまた、薬物担体構成物質、およびレチノイド誘導体および/もしくはビタミンAアナログ、および/または薬物のうちの1つまたはそれ以上を含む1つまたはそれ以上の容器を含む薬物担体または医薬の調製キットを含み、そのようなキットの形で提供される薬物担体または医薬の必要構成要素をも含む。本発明のキットは、上記のほか、本発明の薬物担体および医薬の調製方法や投与方法などが記載された説明書等を含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の薬物担体または医薬を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、たとえば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0034】
本発明はさらに、前記医薬の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、星細胞に関連する疾患を処置するための方法に関する。ここで、有効量とは、対象疾患の発症を低減し、症状を軽減し、または進行を防止する量であり、好ましくは、対象疾患の発症を予防し、または対象疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。
本発明の方法において投与する医薬の用量は、使用する薬物や、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログの種類によって異なるが、たとえば、薬物としてHSP47に対するsiRNAを用いる場合においては、薬物の重量として、たとえば0.01〜45mg/kg/日、好ましくは0.1〜30mg/kg/日、より好ましくは1〜20mg/kg/日、最も好ましくは4〜6mg/kg/日である。また、レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログとしてビタミンAを用いる場合においては、ビタミンAが、典型的には、10〜20mg/kg/日の用量で投与されるようにする。薬物担体に含まれるレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログ、および本発明の方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。
【0035】
本発明の方法において投与する医薬の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、たとえば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得るため、上記の典型的用量と異なることもあるが、かかる場合であっても、これらの方法はなお本発明の範囲に含まれる。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、たとえば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる医薬の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、たとえば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0036】
本発明の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、疾患の処置が企図される場合には、典型的には同疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全てのタイプの予防的および/または治療的介入を包含するものとする。たとえば、疾患が肝線維症の場合、「処置」の用語は、線維化の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、線維症発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0037】
本発明はまた、上記薬物担体を利用した、星細胞への薬物送達方法に関する。この方法は、限定されずに、たとえば、上記薬物担体に送達物を担持させる工程と、送達物を担持した薬物担体を星細胞を含む生物や媒体、たとえば培養培地などに投与または添加する工程とを含む。これらの工程は、公知の任意の方法や、本明細書中に記載された方法などにしたがって適宜達成することができる。上記送達方法はまた、別の送達方法、たとえば、星細胞が存在する臓器を標的とする他の送達方法などと組み合わせることもできる。
[実施例]
【0038】
以下の実施例は、本発明を説明することのみを目的とするものであり、本発明が視野とする範囲は実施例に示された具体的数値および手順に限定されるものではない。
【0039】
実施例1 gp46に対するsiRNAの作製
collagen(I〜IV型)の共通分子シャペロンであるHSP47の塩基配列を標的とするsiRNA認識至適配列のうち、配列AおよびBは、株式会社iGENEのsiRNAオリゴ用プログラムデザインに従い作成した。また配列Cは、インターネット上でAmbion社製のsiRNA Target Finder(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)を用いて、rat gp46(ヒトHSP47ホモログ、GenBank Accession No. M69246)に対するtargetとなる19塩基配列を選び検索し作成した。設計においては、1)開始コドンから75〜100塩基下流から開始すること、2)最初のAAダイマーを位置付けること、および3)GC含有率が30%〜70%であること、に留意した。本実施例においては、以下の配列を有するsiRNAを作製した。
A:GUUCCACCAUAAGAUGGUAGACAAC(配列上の757番目から始まる25塩基の正方向鎖siRNA、配列番号1)
B:CCACAAGUUUUAUAUCCAAUCUAGC(配列上の1626番目から始まる25塩基の正方向鎖siRNA、配列番号2)
C:GAAACCUGUAGAGGCCGCA(配列上の64番目から始まる19塩基の正方向鎖siRNA、配列番号3)
【0040】
実施例2 作製したsiRNA によるgp46発現の抑制
ratのgp46を持っており、なおかつcollagenを産生する線維芽細胞であるNormal rat kidney細胞(NRK細胞)に、0.1nM〜50nMの各siRNAをそれぞれtransfectionし、12〜48時間培養した(図1)。gp46の発現量は、Western blot法で確認した(図2〜4、上のバンドがgp46、下がコントロールのactin)。いずれのsiRNAも、vehicleに比べて顕著にgp46タンパク質の発現を抑制した(図2)。以下の実験では、このうち最も効果が強かった配列Aを有するsiRNAを用いた。siRNAによる抑制は濃度依存的であり(図3)、gp46の蛋白発現は50nMのsiRNAにて48時間後には約90%抑制された(図4)。
【0041】
実施例3 作製したsiRNA によるcollagen合成の抑制
前述のとおりの条件(siRNAの濃度は50nM、時間は48時間で処理)で、コラーゲンの合成量を検討するためラット線維芽細胞(NRK細胞)の培養上清に3H-prolineを加え、transfection後の分泌蛋白中のH量を検討した(図5)。コラーゲン合成量は、Peterkofskyらの報告(Peterkofskyら、Biochemistry. 1971 Mar 16;10(6):988-94)を元に、gp46siRNA導入線維芽細胞を3H-proline存在下に培養し、上清中に分泌された蛋白量とcollagenaseで分解された蛋白量の比から算定した。
【数1】

ラット線維芽細胞におけるコラーゲン合成率はcontrol群と比較して約40%低下した(図6)。
【0042】
実施例4 核酸の肝星細胞(HSC)特異的な導入
10%VAとリポソームを混合しVAを被包化したリポソームとGFP発現plasmidとを混合したエマルジョン(VA−Lip−GFP)を作製し、ラット門脈内へ投与後、肝組織を回収固定した。エマルジョンは、200gのラットの血漿量を約10mlと想定し、門脈血中のVAおよびGFP濃度が10μMとなるように作製した。具体的には、まずall-trans-retinol(VA)25mgをDMSO87μlで溶解し、100mMのstock solutionを作製した。このVA stock solution 1μlにlipofectamine10μl、PBS179μlを加えて、さらにGFP発現plasmid10μgを添加しtotalで200μlとし、3分間vortexしVA−Lip−GFPとした。SDラットを開腹し、VA−Lip−GFPを末梢門脈内にゆっくり注入した。注入の48時間後に肝組織を採取した。中間径フィラメントのデスミンは、他の肝細胞と比較して肝星細胞(HSC)に特異的に発現しているので、固定肝組織をAlexa Fluor568標識抗デスミン抗体で染色し、GFPとの蛍光二重像を観察したところ、肝星細胞(HSC)内でGFPが発現していることが確認された(図7)。無処置対照やGFP発現plasmid vector単独投与群ではラット肝星細胞での発現は認めなかったが、VA−Lip−GFPを投与した群では、星細胞特異的にGFPの発現を認めた。
【0043】
実施例5 核酸導入率の定量
GFP発現plasmidの代わりにFITC標識gp46siRNAを用いた以外は、実施例4と同様にして、VAを被包化したリポソームとFITC標識gp46siRNAとを含むエマルジョン(VA−Lip−gp46siRNA(FITC))を作製し、SDラットに門脈内投与した(siRNAの量として10μg/200μl)。投与の48時間後に肝組織を採取し、他の肝細胞と比較してHSCに特異的に発現しているαSMA(平滑筋アクチン)をAlexa Fluor568標識抗αSMA抗体で、細胞核をDAPIでそれぞれ染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM)で蛍光象を観察した。図8左側に示すとおり、VA−Lip−gp46siRNA(FITC)投与群では、FITCによる緑色蛍光とAlexa Fluor568による赤色蛍光の両方を発する細胞が多く見られ、NIH imageによって定量したところ(x1000の蛍光顕微鏡写真を任意の10視野選び上記細胞数を検定した)、導入効率は77.6%(10視野平均)であった。これに対して、VAを含まないLip−gp46siRNA(FITC)投与群においては、導入効率は14.0%と低く、しかも、星細胞以外の細胞への導入が3.0%見られた(図8右側参照)。以上の結果から、VAを包含させることにより、星細胞への導入効率が劇的に高まることが分かる。
【0044】
実施例6 VA−Lip−gp46siRNAによるgp46の発現抑制
実施例5で採取した組織の別の切片において、gp46をAlexa Fluor568標識抗HSP47抗体で、細胞核をDAPIでそれぞれ染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で蛍光象を観察した。図9に示すとおり、VA−Lip−gp46siRNA投与群において、赤色蛍光として認められるgp46の発現(同図右側)が、gp46に特異的でないrandom siRNAを含むVA−Lip−random siRNAを投与した対照群(同図左側)に比べて顕著に低減していることが認められた。対照群の6視野平均に対する発現抑制率は、実施例7と同様にNIH imageによりx1000の蛍光顕微鏡写真を任意の10視野選びgp46陰性細胞数を検定したところ、75%と極めて高いものであった。
【0045】
実施例7 LC ratの治療(門脈内投与1)
Jezequelら(Jezequel AMら、J Hepatol. 1987 Oct;5(2):174-81)の報告に従い、Dimethylnitrosamine(DMN)を使用して、LC model ratを作製した(図10)。具体的には、5週齢のSD rat(male)に1%Dimethylnitrosamine(DMN)を1ml/kg(腹腔内投与)の分量において週3回連日投与した。既報の如く2週目より線維の増加を認め4週目には著明な線維化、肝小葉構築の破壊、再生結節形成を伴う所見を認めた(図11)。そこで、実施例4と同様な方法によってgp46siRNAをリポソーム化し、これに10%VAを混合したエマルジョン(VA−Lip−gp46siRNA)を投与した。十分に線維化の認められる3週目よりVA−Lip−gp46siRNAの投与を開始し、4週目と5週目で評価を行った。実施例2によりインビトロにて48時間まで効果が認められることを確認しているので、投与は週に2回とした(図11)。投与量はsiRNAをdirect injectionした既報(McCafferyら、Nature. 2002 Jul 4;418(6893):38-9)に基づきsiRNAを総量で40μgとした。siRNA投与後の肝臓のazan染色では、4週目では生食投与群、siRNA(random)投与群、およびsiRNA(gp46)投与群の間で明らかな差を認めなかったが、5週目ではgp46siRNA投与群にて線維量の低下が見られた(図12)。線維の量を定量化するためにNIH imageを使用して被染色部分を抽出し、その面積を計測した(図13)ところ、gp46siRNA投与群において有意にcollagen面積の低下が認められた(図14)。また、別の尺度で線維化の程度を評価するために、線維化の指標となるヒドロキシプロリンの定量を定法により行った。具体的には、凍結乾燥した肝組織20mgをHClで24時間加水分解した後、反応液を遠心分離し、上清をEhrlich’s solution等の試薬にて処理し、遠心分離した。上清を回収し、560 nmにおける吸光度を測定することで、肝組織中のヒドロキシプロリン量を測定した(Hepatology 1998 Nov; vol.28:1247-1252)。図15に示すとおり、gp46siRNA投与群では、ヒドロキシプロリンの量が極めて少なくなっていた。
【0046】
実施例8 LC ratの治療(門脈内投与2)
さらに、本発明の医薬の投与による生存率の変化を検討するため、Qi Zらの方法(Proc Natl Acad Sci U S A. 1999 Mar 2;96(5):2345-9.)に基づき、通常より20%増量したDimethylnitrosamine(DMN)を使用して、LC model ratを作製した。本モデルでは、1週目と2週目に計4回の門脈内投与を行った。投与内容は、PBS、Lip−gp46siRNA、VA−Lip−random siRNAおよびVA−Lip−gp46siRNAとした(各群ともn=7)。3週後では、control(PBS投与群、VA−Lip−random siRNA投与群およびLip−gp46siRNA投与群)が全例死亡したのに対し、VA−Lip−gp46siRNA投与群では7匹中6匹が生存していた(図16)。また、21日目の肝臓のazan染色では、gp46siRNA投与群にて線維量の明らかな低下が見られた(図17)。
【0047】
実施例9 LC ratの治療(門脈内投与3)
別な実験では、前記Qi Zらの方法およびUeki Tらの方法(Nat Med. 1999 Feb;5(2):226-30)に基づいて作製したLC model rat(1%DMN1mg/kgを週3回腹腔内投与)に、3週目から下表に示す内容の門脈内投与を行った(各群ともn=6)。なお、各投与物にはPBSを加えて総体積が200μlとなるようにして投与し、投与回数は週1回とした。
【表1】

この結果、本発明の医薬を投与された群(処置群9−4)以外は、DMNの投与開始から45日後までに6匹すべてが死亡したが、本発明の医薬を投与された群は、36日目に死亡した1例を除き、全個体がDMNの投与開始から70日を超えて生存を続けた(図18)。なお、死亡個体について肝の線維量を実施例7と同様にCollagen面積に基づいて定量したところ、VA−Lip−gp46siRNAの投与により肝線維量の増加が顕著に抑制されていた(図19)。
【0048】
実施例10 LC ratの治療(静脈内投与)
実施例9と同様に作製したLC model rat(1%DMN1μg/BW(g)を週3回腹腔内投与)に、3週目から下表に示す内容の静脈内投与を行った(各群ともn=6)。なお、各投与物にはPBSを加えて総体積が200μlとなるようにして投与した。また、投与期間は、10−4群は7週目まで、10−10群は6週目までそれぞれ投与した以外は、死亡するまで投与した。
【表2】

この結果、本発明の医薬を投与された群(処置群10−4および10−10)以外は、DMNの投与開始から45日後までに6匹すべてが死亡したが、本発明の医薬を投与された群は、処置群10−4において45日目に2匹が死亡したのを除き、全個体がDMNの投与開始から70日を超えて生存を続けた(図20および21)。なお、死亡個体について肝の線維量を実施例7と同様に定量したところ、VA−Lip−gp46siRNAの投与により肝線維量の増加が顕著に抑制されていた(図22)。
以上の結果は、本発明の医薬が星細胞が関与する線維化の予防および治療に極めて有効であることを示すものである。
【0049】
実施例11 RBP(レチノール結合タンパク質)による効果の改善
ヒト肝星細胞由来の細胞系であるLI90を用いて、RBPがVA−Lip−gp46siRNA導入効率にもたらす影響について検討した。まず、実施例5で作製したVA−Lip−gp46siRNA(FITC)100nMを、種々の濃度(すなわち、0、0.1、0.5、1、2、4または10%)のFBS(ウシ胎仔血清)と共に、培養中のLI90に加え、48時間インキュベートした後、蛍光像をLSMで観察し、個々の細胞に取り込まれたsiRNAの量をFACSにて定量した。なお、FBSには、RBPが約0.7mg/dl含まれている。図23に示すとおり、FBS(RBP)は濃度依存的にsiRNAの導入量を増加させた。次に、100nMのVA−Lip−gp46siRNA(FITC)と、4%のFBSと共に、10μg(21.476 nmol)の抗RBP抗体を、培養中のLI90に加え、同様にsiRNAの導入効率を評価した。図24に示すとおり、RBPにより増大した導入量が、抗RBP抗体の添加により顕著に減少していることが分かる。以上の結果は、RBPが本発明の医薬の導入をさらに向上させるのに有効であることを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを構成成分とする、星細胞特異的薬物担体。
【請求項2】
レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログの少なくとも一部が、遅くとも星細胞に到達するまでに製剤の外部に露出する、請求項1に記載の薬物担体。
【請求項3】
レチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを含むことにより、星細胞への特異的な運搬が可能となっている、請求項1または2に記載の薬物担体。
【請求項4】
レチノイド誘導体がビタミンAを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薬物担体。
【請求項5】
0.2〜20重量%のレチノイド誘導体および/またはビタミンAアナログを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薬物担体。
【請求項6】
高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球のうちのいずれかの形態である請求項1〜5のいずれかに記載の薬物担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−100350(P2013−100350A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−25037(P2013−25037)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2011−102395(P2011−102395)の分割
【原出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】