説明

線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物

【課題】線維筋痛症の新たな治療薬、特に、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物。
【解決手段】ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有する、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物を提供する。塩に加えて、さらに、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
線維筋痛症(Fibromyalgia syndrome ; FMS)は原因不明の疼痛性疾患であり、日本では約200万人の患者が存在する。この病気の最大の特徴は、痛み等の自覚症状があるのに通常の検査では異常が見られないことである。そのため、確定的な診断が困難であり、治療ができない、あるいは病気として認められないといった状況に陥ることがある。
【0003】
線維筋痛症の診断は、1990年に発表された米国リウマチ学会(ACR)のFMS分類基準を参考にした方法で行われる(非特許文献1)。その概略を述べると、1)全身性の疼痛が3ヶ月以上持続すること、2)通常の検査で異常が認められないこと、3)所定の18箇所の圧痛点のうち4kg以下の圧力で11箇所以上に疼痛が存在すること、が診断項目に挙げられている。また、FIQ(Fibromyalgia Impact Questionnaire)と呼ばれる指標を用いて病勢を評価することも行われている。
【0004】
線維筋痛症が呈する症状としては、疼痛症状、身体症状、神経症状及び精神的症状が挙げられる。疼痛症状の具体的態様としては、こわばり感、関節・筋肉の痛み、目の奥の痛み、口腔の痛み、頭痛等が挙げられる。また、身体症状としては、不眠、疲労感、倦怠感、乾燥性角結膜炎(ドライアイ)、口腔乾燥症、頻尿、下痢便秘、腸炎、間質性膀胱炎、月経困難、生理不順等が挙げられる。また、神経症状としては、四肢の感覚障害、しびれ、めまい、耳鳴り、胃部不快感等が挙げられる。また、精神的症状としては、不安感、焦燥感、抑うつ、睡眠障害、集中力・注意力の低下等が挙げられる。このように線維筋痛症は痛み以外にも多彩な症状を呈する。
【0005】
線維筋痛症の治療薬としては、抗うつ剤、精神安定剤、および抗炎症剤(痛み止め)等が挙げられる。しかしながら、これらの治療薬には治療効果の点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wolfe F. et al., Arthritis Rheum, Feb. 1990,33 (2), 160-172
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の下、線維筋痛症の新たな治療薬が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を含む医薬組成物が線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善することに有用であること等の知見に基づき完成された。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善する線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物を提供する。
(1) ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有する、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物。
(2) 前記その薬理的に許容される塩が塩酸ピロカルピンである、上記(1)に記載の組成物。すなわち、ピロカルピンまたは塩酸ピロカルピンを有効成分として含有する、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物。
(3) 前記「ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩」が、塩酸ピロカルピンである、上記(1)に記載の組成物。すなわち、塩酸ピロカルピンを有効成分として含有する、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物。
(4) ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を、更に有する、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物等が提供される。本発明の組成物等は線維筋痛症の治療などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】口の乾燥症状に関する質問票である(実施例2)。
【図2】眼・鼻・皮膚・膣の乾燥症状に関する質問票である(実施例2)。
【図3】塩酸ピロカルピンの鎮痛効果を示すグラフである(実施例3)。データは、平均値±S.E.M(n=4〜9)で示した。*p<0.05(vehicle群と比較)。 A:コントロール群(非ストレス処置)における塩酸ピロカルピン(サラジェン(商品名))(0.3、0.1、0.01mg/kg、経口投与)の鎮痛効果の時間変化を示すグラフである。 B:コントロール群における塩酸ピロカルピン(サラジェン(商品名))(0.3、0.1、0.01mg/kg、経口投与)の用量依存的鎮痛効果を示すグラフである(データはAUCで示した)。 C:ICSモデル群(ストレス処置)における塩酸ピロカルピン(サラジェン(商品名))(0.3、0.1、0.01mg/kg、経口投与)の鎮痛効果の時間変化を示すグラフである。 D:ICSモデル群における塩酸ピロカルピン(サラジェン(商品名))(0.3、0.1、0.01mg/kg、経口投与)の用量依存的鎮痛効果を示すグラフである(データはAUCで示した)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2008-130140号の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
【0013】
1.本発明の概要
本発明の線維筋痛症治療用医薬組成物は、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を含有する。好ましくは、薬理的に許容される塩は塩酸ピロカルピンである。塩酸ピロカルピンは、ムスカリン受容体を刺激する作用を有すること、頭頸部の放射線治療にともなう口腔乾燥症やシェグレー症候群患者の口腔乾燥症などを改善することなどが知られている。本発明者らが塩酸ピロカルピンを線維筋通症の患者に投与したところ、痛み、口腔乾燥症状、乾燥性角結膜炎、間質性膀胱炎、および過敏性腸炎などからなる少なくとも1つの症状が緩和した。このことから、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を含む組成物が線維筋痛症の治療に有用であることがわかった。本発明の組成物は、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩に加えて、さらに、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有するのが好ましい。
【0014】
2.線維筋痛症
線維筋痛症は、その発症機序がよく分かっていないだけでなく、その治療方法も確立されていない。これは、線維筋痛症は疼痛症状以外にも様々な症状(身体症状、神経症状、および精神的症状など)を呈することに起因する。すなわち、線維筋痛症は、原因不明の疼痛性疾患であり、疼痛症状、身体症状、神経症状及び精神的症状を呈する。疼痛症状の具体的態様としては、こわばり感、関節・筋肉の痛み、目の奥の痛み、口腔の痛み、頭痛等が挙げられる。また、身体症状としては、不眠、疲労感、倦怠感、乾燥性角結膜炎(ドライアイ)、口腔乾燥症、頻尿、下痢便秘、腸炎、間質性膀胱炎、月経困難、生理不順等が挙げられる。また、神経症状としては、四肢の感覚障害、しびれ、めまい、耳鳴り、胃部不快感等が挙げられる。また、精神的症状としては、不安感、焦燥感、抑うつ、睡眠障害、集中力・注意力の低下等が挙げられる。このように線維筋痛症は痛み以外にも多彩な症状を呈する。
【0015】
線維筋痛症の診断は、例えば、1990年に発表された米国リウマチ学会(ACR)のFMS分類基準を参考にした方法で行う(Wolfe F. et al., Arthritis Rheum, Feb. 1990, 33 (2), 160-172)。具体的には、1)全身性の疼痛が3ヶ月以上持続すること、2)通常の検査で異常が認められないこと、および、3)所定の18箇所の圧痛点のうち4kg以下の圧力で11箇所以上に疼痛が存在すること、を診断項目として挙げることができる。
【0016】
3.ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩
ピロカルピンの化学名は(3S,4R)−3−エチル−4−(1−メチル−1H−イミダゾール−5−イルメチル)−4,5−ジヒドロフラン−2(3H)オンである。ピロカルピンの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩もしくは硝酸塩など)、または有機酸塩(酢酸塩もしくはメタンスルホン酸塩)などが挙げられる。好ましくは、無機酸塩(塩酸塩もしくは硝酸塩など)であり、さらに好ましくは、塩酸塩である。
【0017】
ピロカルピンは、常法にしたがって製造することができる。ピロカルピンの製造方法は、例えば、An
improved synthesis of pilocarpine, J.I. DeGraw, Tetrahedron Vol. 28, Issue 4, 1972などに記載されている。
【0018】
ピロカルピンの薬理的に許容される塩も、常法にしたがって製造してもよいし、市販のものを入手するようにしても良い。市販のものとしては、例えば、Sigma-Aldrich社の、ピロカルピン塩酸塩およびピロカルピン硝酸塩などがある。
【0019】
このようにして入手したピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩は、下記のような本発明の線維筋痛症治療用医薬組成物などの有効成分となる。
【0020】
4.医薬組成物
本発明の線維筋痛症治療用医薬組成物は、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を含有する。また、本発明は、線維筋痛症治療用医薬組成物を製造するための、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩の使用を含む。本発明の好ましい態様の医薬組成物を線維筋痛症患者に投与することにより、疼痛症状(こわばり感、関節・筋肉の痛み、目の奥の痛み、口腔の痛みおよび頭痛等)、身体症状(不眠、疲労感、倦怠感、乾燥性角結膜炎(ドライアイ)、口腔乾燥症、頻尿、下痢便秘、腸炎、間質性膀胱炎、月経困難、および生理不順等)、神経症状(四肢の感覚障害、しびれ、めまい、耳鳴り、および胃部不快感等)、ならびに精神的症状(不安感、焦燥感、抑うつ、睡眠障害、および集中力・注意力の低下等)からなる群から選択される少なくとも1つの症状を緩和させることができる。さらに好ましくは、痛み、口腔乾燥症状、乾燥性角結膜炎、間質性膀胱炎、および過敏性腸炎などからなる少なくとも1つの症状を緩和させることができる。
【0021】
本発明の医薬組成物は、経口投与および非経口投与のいずれの剤形でもよい。好ましくは、経口投与である。
【0022】
これらの剤形は常法にしたがって製剤化することができ、医薬的に許容される担体や添加物を含むものであってもよい。このような担体及び添加物として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0023】
上記添加物は、本発明の医薬組成物の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれる。剤形としては、経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等として、または適当な剤型により投与が可能である。非経口投与の場合は、注射剤型等が挙げられる。注射剤型の場合は、例えば点滴等の静脈内注射等により全身又は局部的に投与することができる。
【0024】
ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を含有する医薬組成物として、市販製剤を使用することもできる。市販製剤としては、サラジェン錠(商品名、有効成分:塩酸ピロカルピン、キッセイ薬品工業株式会社)等を挙げることができる。
【0025】
ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、および剤型によって異なる。投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.1mg〜1000mg、1mg〜100mg、または2.5mg〜60mg(例えば、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、または60mg)などである。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択する。投与は、例えば1日当たり、1回または2〜4回に分けてもよい。
【0026】
また、本発明の医薬組成物は、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩に加えて、さらに、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有しても良い。ここで、「含有」とは、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩とを同一製剤とすることを意味する。
【0027】
あるいは、本発明の医薬組成物は、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩とを組み合わせてなるものでも良い。ここで、「組み合わせてなる」とは、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩とを別製剤とすることを意味する。ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から少なくとも2つの成分を選択する場合、それらの成分は同一製剤であってもよいし、別製剤であってもよい。好ましくは、別製剤である。
【0028】
あるいは、本発明の医薬組成物は、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有する組成物の投与患者を対象とする、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有する、医薬組成物であっても良い。
【0029】
ガバペンチンの化学名は(1−アミノメチルシクロヘキシル)酢酸である。ガバペンチンの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩など)、無機塩基塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、および有機酸塩(酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩など)などが挙げられる。ガパペンチンまたはその薬理的に許容される塩は常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。市販のものとしては、ガパペン錠(商品名、有効成分:ガバペンチン、ファイザー株式会社)などが挙げられる。
【0030】
プリギャバリンの化学名は(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸である。プリギャバリンの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩など)、無機塩基塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、および有機酸塩(酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩など)などが挙げられる。プリギャバリンまたはその薬理的に許容される塩は常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。市販のものとしては、Lyrica(商品名、有効成分:プリギャバリン、ファイザー株式会社)などが挙げられる。
【0031】
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は、常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。市販のものとしては、ノイロトロピン錠(商品名、有効成分:ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、日本臓器製薬株式会社)などが挙げられる。
【0032】
クロナゼパムまたはその薬理的に許容される塩は、常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。クロナゼパムの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩など)、無機塩基塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、および有機酸塩(酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩など)などが挙げられる。市販のものとしては、リボトリール(商品名、有効成分:クロナゼパム、中外製薬株式会社)などが挙げられる。
【0033】
ミルナシプランは、常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。ミルナシプランの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩など)、無機塩基塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、および有機酸塩(酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩など)などが挙げられ、より具体的には、塩酸ミルナシプランなどが挙げられる。市販のものとしては、トレドミン(商品名、有効成分:塩酸ミルナシプラン、旭化成ファーマ株式会社)などが挙げられる。
【0034】
パロキセチンは、常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。パロキセチンの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩など)、無機塩基塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、および有機酸塩(酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩など)などが挙げられ、より具体的には、パロキセチン塩酸塩などが挙げられる。市販のものとしては、パキシル(商品名、有効成分:パロキセチン塩酸塩水和物、グラクソ・スミスクライン株式会社)などが挙げられる。
【0035】
アミトリプチリンは、常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。アミトリプチリンの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩など)、無機塩基塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、および有機酸塩(酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩など)などが挙げられ、より具体的には、アミトリプチン塩酸塩などが挙げられる。市販のものとしては、トリプタノール(商品名、有効成分:アミトリプチン塩酸塩、万有製薬株式会社)などが挙げられる。
【0036】
ミアンセリンは、常法にしたがって製造しても良いし、市販のものを入手するようにしても良い。ミアンセリンの薬理的に許容される塩としては、特に限定されないが、無機酸塩(塩酸塩、硫酸塩など)、無機塩基塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)、および有機酸塩(酢酸塩、安息香酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩など)などが挙げられ、より具体的には、塩酸ミアンセリンなどが挙げられる。市販のものとしては、テトラミド錠(商品名、有効成分:塩酸ミアンセリン、日本オルガノン株式会社)などが挙げられる。
【0037】
ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、若しくはミアンセリン、またはそれらの薬理的に許容される塩を併用する場合、その投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なる。ガパペンチンまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり1mg〜360g、10mg〜36g、または50mg〜7200mgなどである。プレギャバリンまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.2mg〜60g、2mg〜6g、または10mg〜1200mgなどである。ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の投与量は、ノイロトロピン錠(商品名)の場合、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.1ノイロトロピン単位〜3200ノイロトロピン単位、1ノイロトロピン単位〜320ノイロトロピン単位、または4ノイロトロピン単位〜64ノイロトロピン単位などである。クロナゼパムまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.005mg〜600mg、0.05mg〜60mg、または0.25mg〜12mgなどである。ミルナシプランまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.3mg〜10g、3mg〜1g、または15mg〜200mgなどである。パロキセチンまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.1mg〜4g、1mg〜400mg、または5mg〜80mgなどである。アミトリプチリンまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.1mg〜30g、1mg〜3g、または5mg〜600mgなどである。ミアンセリンまたはその薬理的に許容される塩の投与量は、例えば成人(60kg)の場合、1日当たり0.3mg〜6g、3mg〜600mg、または15mg〜120mgなどである。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択する。投与は、例えば1日当たり、1回または2〜4回に分けてもよい。
【0038】
ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分の投与量は、特に限定されず、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩との個々の組み合わせによって異なるが、例えば、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩の約0.001〜10000倍(重量比)、または約0.003〜5000倍(重量比)などである。
【0039】
ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩とが別製剤の場合、これらの製剤は、同時に投与しても良いし、いずれか一方を先に、他方を後に投与するようにしても良い。
【0040】
この他、本発明の医薬組成物と併用可能な薬剤としては、線維筋痛症の治療のために処方され得る薬剤を挙げることができる。そのような薬剤としては、マイスリー錠(商品名、有効成分:ゾルピデム酒石酸塩、アステラス製薬株式会社)、ガスター錠(商品名、有効成分:ファモチジン、アステラス製薬株式会社)、デパス錠(商品名、有効成分:エチゾラム、田辺三菱製薬株式会社)などを具体的に挙げることができる。
【0041】
5.キット
本発明の線維筋痛症治療用キットは、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有する組成物と、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有する組成物とを含む。
本発明のキットは、上記組成物の他に、包装容器、取扱説明書、添付文書等を含んでいてもよい。包装容器、取扱説明書、添付文書等には、上記組成物を併用するための、用法、用量などを記載することができる。用法、用量は、上記医薬組成物についての説明を参照して記載することができる。
【0042】
6.治療方法
本発明は、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を投与することを含む、線維筋痛症の治療方法を含む。この場合、薬理的に許容される塩を塩酸ピロカルピンとするのが好ましい。また、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩に加え、さらに、ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を投与するのが好ましい。本発明の線維筋痛症の治療方法において、ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩などの投与経路および投与方法は特に限定されないが、上記医薬組成物についての記載を参照することができる。
【0043】
本発明の好ましい態様の治療方法を線維筋痛症患者に施すことにより、疼痛症状(こわばり感、関節・筋肉の痛み、目の奥の痛み、口腔の痛みおよび頭痛等)、身体症状(不眠、疲労感、倦怠感、乾燥性角結膜炎(ドライアイ)、口腔乾燥症、頻尿、下痢便秘、腸炎、間質性膀胱炎、月経困難、および生理不順等)、神経症状(四肢の感覚障害、しびれ、めまい、耳鳴り、および胃部不快感等)、ならびに精神的症状(不安感、焦燥感、抑うつ、睡眠障害、および集中力・注意力の低下等)からなる群から選択される少なくとも1つの症状を緩和させることができる。さらに好ましくは、痛み、口腔乾燥症状、乾燥性角結膜炎、間質性膀胱炎、および過敏性腸炎などからなる少なくとも1つの症状を緩和させることができる。
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
アメリカリウマチ学会の診断基準(Wolfe F. et al., Arthritis Rheum, Feb.
1990, 33 (2), 160-172)を満たす線維筋痛症患者22人(男性2人、女性20人)にキッセイ薬品工業株式会社製のサラジェン錠5mg(商品名)(有効成分:塩酸ピロカルピン)を所定期間投与し、その効果を確認した。投与した22例のうち4例を具体的に下記に示す。
【0046】
1.線維筋痛症患者A(52歳、女性)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与前、患者には、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥症、過敏性腸炎、および間質性膀胱炎の各症状がみられた。
患者には、サラジェン錠5mg(商品名)を1日2錠、投与した(10mg/日)。尚、この患者は、サラジェン錠5mgに加え、トレドミン錠25(商品名)、ガバペン錠200mg(商品名)、およびリボトリール錠1mg(商品名)を投与した。一日あたりの投与量は、それぞれ、次の通りである。
トレドミン錠25(商品名):1日3錠(75mg/日)
ガパペン錠200mg(商品名):1日5錠(1000mg/日)
リボリール錠1mg(商品名):1日1錠(1mg/日)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与開始から14日後に患者を診察したところ、口腔乾燥症と過敏性腸炎の各症状に改善が見られた。具体的には、口腔乾燥症が改善し食べ物が食べやすくなった。また、過敏性腸炎が改善し下痢が少なくなった。
【0047】
2.線維筋痛症患者B(52歳、女性)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与前、この患者には、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥症、および皮膚乾燥症の各症状がみられた。
この患者には、サラジェン錠5mg(商品名)を1日半錠、取ってもらった(2.5mg/日)。尚、この患者には、サラジェン錠5mg(商品名)を半錠(2.5mg)に加え、ガパペン錠200mg(商品名)、マイスリー錠5mg(商品名)、およびガスター錠10mg(商品名)を投与した、一日の投与量は、それぞれ、次の通りである。
ガパペン錠200mg(商品名):1日3錠(600mg/日)
マイスリー錠5mg(商品名):1日1錠(5mg/日)
ガスター錠10mg(商品名):1日2錠(20mg/日)
サラジェン錠(商品名)の投与開始から28日後にこの患者を診察したところ、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥症、および過敏性腸炎の各症状に改善が見られた。具体的には、乾燥性角結膜炎が改善し頻回の点眼が1日1回ですむようになった。また、口腔乾燥症が改善し唾液が口角から流れるぐらいでるようになった。さらに、皮膚乾燥症が改善し皮膚がしっとりするようになったためヒルドイド(商品名)を皮膚に塗布する必要が無くなった。
【0048】
3.線維筋痛症患者C(71歳、女性)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与前、この患者には、全身の痛み、乾燥性角結膜炎、および口腔乾燥症の各症状が見られた。
この患者には、サラジェン錠5mg(商品名)を1日1錠とってもらった(5mg/日)。
サラジェン錠5mg(商品名)の投与開始から28日後にこの患者を診察したところ、乾燥性角結膜炎、および口腔乾燥症の各症状に改善が見られた。一方、全身の痛みは改善しなかった。
【0049】
4.線維筋痛症患者D(29歳、女性)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与前、この患者には、疼痛症状に加えて、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥症、過敏性腸炎および間質性膀胱炎の各症状が見られた。
この患者には、サラジェン錠5mg(商品名)を1日2錠とってもらった(10mg/日)。尚、この患者には、サラジェン錠5mg(商品名)に加え、トレドミン錠25(商品名)、ガパペン錠200mg(商品名)、およびデパス錠0.5mg(商品名)を投与した、一日の投与量は、それぞれ、次の通りである。
トレドミン錠25(商品名):1日2錠(50mg/日)
ガパペン錠300mg(商品名):1日4錠(1200mg/日)
デパス錠0.5mg(商品名):1日1錠(0.5mg/日)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与開始から14日後に患者を診察したところ、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥症、過敏性腸炎、および間質性膀胱炎の各症状に改善が見られた。具体的には、乾燥性角結膜炎が改善し点眼の回数が減った。また、過敏性腸炎が改善しお腹の痛みがなくなった。さらに、間質性膀胱炎が改善し、排尿時の痛みがなくなり、排尿回数も減った。
【0050】
上記のように、塩酸ピロカルピンを線維筋痛症患者に投与することで、痛み、口腔乾燥症状、乾燥性角結膜炎、または間質性膀胱炎などのうち少なくとも1つの症状を改善できることがわかった。
【0051】
尚、サラジェン錠5mg(商品名)を投与した22例(男性2例、女性20例)の概略は次の通りである。
有効:6例(6例中4例は上に示した。)
無効で中止:7例
副作用で中止:2例(発汗著明:1例、発疹:1例)
効果判定中:7例
【0052】
[実施例2]
アメリカリウマチ学会の診断基準(Wolfe F. et al., Arthritis Rheum, Feb.
1990, 33 (2), 160-172)を満たす以下の線維筋痛症患者にキッセイ薬品工業株式会社製のサラジェン錠5mg(商品名)(有効成分:塩酸ピロカルピン)を所定期間投与し、その効果を確認した。
【0053】
線維筋痛症患者E(54歳、女性)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与前に、図1の「口の乾燥症状に関する質問票」および図2の「眼・鼻・皮膚・膣の乾燥症状に関する質問票」の各質問について、この患者に回答してもらった。具体的には、各質問について、「全くない」から「非常に強い」の間に引いた線(長さ:95mm)上で現在の状態を示す位置にタテ線を引いてもらうことにより、回答してもらった。質問票を回収後、「全くない」から現在の状態を示す位置に引いてもらったタテ線までの長さ(mm)を各回答について測定し、その測定結果を、下記表1に示した。表1に示すように、この患者には、サラジェン錠5mgの投与前に、疼痛症状に加えて、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥症、および皮膚乾燥症などの各症状が見られた。
そこで、この患者には、サラジェン錠5mg(商品名)を1日2錠とってもらった(10mg/日)。尚、この患者には、サラジェン錠5mg(商品名)に加え、デパス(商品名)、モービック(商品名)、ガバペン(商品名)およびノイロトロピン(商品名)を投与した、一日の投与量は、それぞれ、次の通りである。
デパス(商品名):1日1錠(0.5mg/日)
モービック(商品名):1日1錠(10mg/日)
ガバペン(商品名):1日1錠(300mg/日)
ノイロトロピン(商品名):1日4錠(16単位/日)
サラジェン錠5mg(商品名)の投与開始から7日後に患者に、再び、図1の「口の乾燥症状に関する質問票」および図2の「眼・鼻・皮膚・膣の乾燥症状に関する質問票」の各質問に再び回答してもらった。その回答結果を、下記表1に併記する。また、表1には、投与前の数値を投与後の数値で割って求めた値を改善率として併記した。表1に示すように、サラジェン錠5mg(商品名)の投与前と投与後の患者の状態を比較したところ、乾燥性角結膜炎、口腔乾燥症、および皮膚乾燥症などの各症状に改善が見られた。
【0054】
【表1】

【0055】
[実施例3]
I.方法
1.実験動物および実験環境
実験には全て、6〜14週齢のC57BL/6J雄性マウスを使用した。マウスは、恒温(24±2℃)、恒湿(55±5%)の部屋で明/暗12時間(明8時〜20時)にて飼育し、一般実験用の固形飼料(MF,オリエンタル、東京)および飲用水を自由に摂取させた。
実験環境としては研究室の一室を使用し、恒温(24±2℃)、恒湿(55±5%)の状態で行った。実験に使用するマウスは実験開始24時間前までに部屋に運び入れ、実験まで明/暗12時間(明8時〜20時)にて飼育し、一般実験用の固形飼料(MF,オリエンタル、東京)および飲料水を自由に摂取させた。
また、実験は午前10時から午後5時の間に行った。薬物投与実験は、ICSストレスによる疼痛過敏が安定して持続している、ストレス終了後5日目から14日目の間に行った。
すべての実験は、長崎大学動物実験指針ならびに疼痛実験に対する国際委員会で定める方法に準じて行った(動物実験許可番号:0706130596)。
【0056】
2.薬物投与
塩酸ピロカルピン錠(サラジェン(商品名))は、キッセイ薬品工業株式会社のものを使用した。また、塩酸ピロカルピンは和光から購入したものを使用した。滅菌精製水にそれぞれの薬物を溶解したものを経口単回投与した。濃度は0.03 mg/kg、0.1 mg/kg、0.3 mg/kgの3用量を用いた。対照群として滅菌精製水を経口投与した。
腹腔内投与、経口投与には体重10 gあたり0.1 mlを投与した。
【0057】
3.マウスモデル作製
Intermittent cold stress (ICS)モデル
(寒冷刺激の繰り返しによる慢性疼痛モデル)
線維筋痛症の動物実験モデルとして、ICSモデルを使用した。本モデルでは、ストレス後から長期的に痛覚過敏が生じることが明らかになっており、ヒトでの臨床症状と大変類似している。
ICSマウスモデルの飼育環境温度は、昼間は30分毎に室温(24℃)と低温(4℃)を繰り返し、夜間は低温とした。飼育環境は、湿気をさけるためケージを上下反転させたものをケージの網の上に置き、ケージと網の間には一般実験用の固形飼料(MF,オリエンタル、東京)のかけらを使用して隙間をつくった。また、固形飼料および水分として滅菌性精製水を寒天(朝日株式会社)で固め(100 mlに対して寒天1 g)約1cm角に切ったものを自由に摂取させ恒湿(55±5%)で明/暗12時間(明8時〜20時)条件化にて飼育した。
0日目に、16:30に低温条件下である冷蔵庫内へ使用するマウスを移動し、翌日の10:00まで飼育する。
翌日(1日目)の10:00に室温に移し以後16:30まで30分ごとに低温条件下と室温条件で交互に飼育する。
2日目も1日目と同様に飼育し、3日目の10:00に室温に移し終了とする。
対照群(Control)は3日間終始室温で飼育した。
【0058】
4.疼痛関連行動評価法
Hargreaves試験(Thermal paw-withdrawal 試験):熱性刺激疼痛試験法
使用するマウスを、ガラス板の上に置いたプラスチックのケージの中に置き、30分以上同じ環境下において適応化させた。熱刺激をガラス板の下から後肢足蹠の中心に投射し、マウスが後肢の逃避反応を示すまでの潜時(Paw Withdrawal Latency PWL)を測定し評価した。実験には正常な動物で10-12秒の潜時になる程度の刺激を行い、組織損傷を防ぐためにCut off timeを20秒に設定した。
【0059】
5.ICSマウスモデルにおける閾値測定と疼痛過敏に対する薬物効果
I)疼痛過敏の経日的評価
閾値測定の検定法はHargreaves試験法にて測定した。ICSストレスを与え始める日を0日目、ICSストレスを与え終わった日をpost
stress 1日目(P1)とし、その後P15まで疼痛閾値を測定した。潜時および強さは3回以上測定し、平均値を採用した。また、次の閾値を測定するまでに10分間の間隔をあけた。その理由は、前に測定した熱刺激の影響をふせぐためである。
【0060】
II)塩酸ピロカルピンの鎮痛効果
測定はHargreaves試験法を用い評価した。一定時間のアダプテーションのあと、塩酸ピロカルピン錠を溶かした薬液を経口単回投与し逃避反応を示すまでの潜時を測定した。潜時は薬物投与後から10分おきに60分間測定した。対照群として滅菌精製水を投与した。塩酸ピロカルピンの鎮痛効果は、経時的反応曲線から曲線下面積(AUC)を算出し、薬物投与前の閾値においてx軸の方向に平行線を引いた場合における曲線下面積を差し引いて算出した。
【0061】
6.統計処理
経日的データおよび鎮痛効果のAUCについては、独立2群のt検定を用いて分析した。AUCについては、ICS ストレスマウス群において、薬物投与群と非投与群とを比較した。統計は、*印が危険率5%と定め、すべての結果は平均値±S.E.Mで表した。
経時的データの統計学上の分析にはSheffe's F testを用いた。これは、独立多群のすべての群間で比較を行うもので、まず一元配置分散分析法を行い、群間に有意差が存在すると判定されたら、どの群間に差があるのかを多重検定法を用いて判定するものである。これは、同じ時点における個々の塩酸ピロカルピン錠の用量の鎮痛効果をvehicle群と比較している。統計は、*印1つが危険率5%と定め、すべての結果は平均値±S.E.Mで表した。
【0062】
II.結果
塩酸ピロカルピン錠(サラジェン)よる疼痛閾値の変化
塩酸ピロカルピンの薬物効果は0.3 mg/kg、0.1
mg/kg、0.03 mg/kgの3つの濃度において熱侵害試験法を用いて評価した(図3)。
【0063】
治療開始前ではすべての群において有意な差は無く過敏状態は同程度であった(対照群 5.6±0.9秒、塩酸ピロカルピン錠(0.3 mg/kg)群4.2±0.9秒、塩酸ピロカルピン錠(0.1
mg/kg)群4.7±0.4秒、塩酸ピロカルピン錠(0.03 mg/kg)群5.9±0.7秒
)。しかし、薬物投与によって有意にその鎮痛効果が確認された(図3C)。AUCにおいても顕著な差として確認された(対照群 8.0±33.9、塩酸ピロカルピン錠(0.3
mg/kg)群460.2±130.4、塩酸ピロカルピン錠(0.1 mg/kg)群356.2±59.2、塩酸ピロカルピン錠(0.03 mg/kg)群14.9±38.3)(図3D)。なお図3AおよびBは非ストレス処置群であり、薬物投与による影響はいずれの用量においても認められていない。
【0064】
また、鎮痛効果のAUCは用量依存的に増加していた(図3D)。なお、1時間において持続していた鎮痛効果は投与後3時間を経過すると元の値に戻っていた(データ非表示)。
【0065】
2.ICSストレスマウスにおける塩酸ピロカルピンの鎮痛効果
線維筋痛症患者は交感神経系の過緊張などを契機として自律神経系のバランスが崩れている傾向にある。その結果、症状として全身の痛みだけでなくドライマウスなどのシェーグレン症候群に類似した症状を現す。今回、用いた塩酸ピロカルピンは非選択的ムスカリンレセプター作用薬であり、その唾液分泌促進作用からシェーグレン症候群に使用されている。今回、塩酸ピロカルピンのもつ鎮痛効果についてさらに検討するためICSモデルを用い評価した。結果、塩酸ピロカルピン錠0.3 mg/kg、0.1 mg/kgの経口投与においてHargreaves試験法において有意に疼痛過敏の改善を示していた(図3)。
【0066】
その治療の作用点として副交感神経を活性化させることで自律神経のバランスを調節する以外にも、脳内や脊髄におけるアセチルコリンレセプターに対する作用が考えられる。以前より、脊髄くも膜腔内に投与したムスカリン作動薬やコリンエステラーゼ阻害薬が鎮痛作用を持つことは動物実験において明らかになっている(Zhuo,M.and Gebhart,G.F.,Tonoc cholinergic inhibition of spinal
mechanical transmission,Pain 46(1991) 221-222;およびScatton,B., Dubois,A.,Javoy-Agid,F. and Camus,A.,
Autoradiographic localication
of musucarinc cholinergic receptors at various segmentral levels of the human spinal cord, neurosic. Lett., 49(1984) 239-245)。作用点として考えられるムスカリンレセプターは脊髄後角第二層(膠様質)に集中しており(Todd,A.J. and Sullican,A.C., Light microscope study of the coexistence of
GABA-lile and glycine-like immunoreactications in the spinal cord of the rat,J. Comp. Neurol., 296(1990) 496-505;Kumazawa,T. and Perl,E.R., Excitation of marginal and substatia
gelationsa neurons in the primate spinal cord :
indications of their place in dorsal horn functional orignization,J.
Comp. Neurol.,177(1978) 417-434;およびYoshimura,M. and Jessell, T.M., Primary
afferent-evoked synaptic responses and slow potential generation in rat substantia gelationsa neurons in vitro,J. Neurophysiol., 62(1989)
96-108)、この場所はGABAを含む細胞が多数存在していることから(The role of supraspina1 muscrinic receptor
and GABAnergic system in neuropathic pain PAIN RESEARCH Vol.23 No.2 2008)、特にGABAニューロンのムスカリンレセプターに作用した可能性が示唆されている。これは合成コリンエステルであるカルバコールがGABAの放出を促進する方向に働いていることからも示唆される。また膠様質は末梢からの侵害情報を統合し、視床投射ニューロンに伝え、その出力をコントロールしている部位と考えられている事からも(Yoshimura,M. and Jessell,
T.M., Primary afferent-evoked synaptic responses and slow potential generation
in rat substantia gelationsa
neurons in vitro,J. Neurophysiol.,
62(1989) 96-108;およびFacilitation of GABA Release by Carbachol and Neostigmine in Substatia Gelatinosa of Rat
Spinal Cord. Pine research 12(1997) 65-72)、痛みの伝達と深く関係していると示唆される。このことから、GABAに存在するムスカリンレセプター活性化によってGABAの放出が増加し、GABAA受容体が活性化されることが鎮痛に働くと考えられる。すなわち、GABAA活性化によるCl-チャネルの開口、さらにそれに続く膜電位の過分極、膜抵抗性の減少が生じ,このことによって膠様質ニューロンの膜電位が安定化し、その興奮性が減少する可能性である。これは塩酸ピロカルピンの作用点とも合致しており、今回これらの作用によって鎮痛効果を示したと考えられる。
【0067】
また、塩酸ピロカルピンのようなコリン作動薬は,用量依存的に中枢神経系に作用する可能性があることから(The
role of supraspina1 muscrinic receptor and GABAnergic system in neuropathic pain PAIN
RESEARCH Vol.23 No.2 2008)、脳に対する作用も考えられる。神経因性疼痛モデルを用いた実験において機械刺激に対するアロディニアが,ムスカリン受容体作動薬McN−A−343の側脳室内(i.c.v.)投与により抑制されたとの報告があり、この作用点として,脳内ムスカリンM1受容体の活性化によるGABAB受容体が示唆されている。今回経口投与した塩酸ピロカルピンは、脊髄、脳両方に作用する可能性があり、GABA神経の活性化を介した鎮痛効果が示唆される。
【0068】
今回の実験においてさらに興味深いところは改善を示した薬物用量は実際臨床で用いられている用量(成人に対し一回量として5mg投与)と近く、またその用量では正常マウスに対して鎮痛効果を示さなかったことである。このことは病気において見られる痛覚過敏が、ピロカルピンの作用する副交感神経の異常によって生じている可能性が示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有する、線維筋痛症に伴う口腔乾燥症を改善するための線維筋痛症に伴う口腔乾燥症改善用医薬組成物。
【請求項2】
前記その薬理的に許容される塩が塩酸ピロカルピンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記「ピロカルピンまたはその薬理的に許容される塩」が、塩酸ピロカルピンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ガバペンチン、プレギャバリン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液クロナゼパム、ミルナシプラン、パロキセチン、アミトリプチリン、およびミアンセリン、ならびにそれらの薬理的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を、更に有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−121976(P2011−121976A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21423(P2011−21423)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【分割の表示】特願2010−512034(P2010−512034)の分割
【原出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(510028143)AXIS株式会社 (4)
【Fターム(参考)】