説明

線維筋痛症を治療するための医薬組成物

【課題】線維筋痛症の治療薬を提供すること。
【解決手段】八味地黄丸を線維筋痛症の治療薬として用いる。本発明の医薬組成物は、線維筋痛症の疼痛を改善させるだけでなく、線維筋痛症の睡眠障害や疲労感、抑うつ状態も改善させることができるため、線維筋痛症の治療薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維筋痛症を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
線維筋痛症は、中高年の女性を中心に発症する全身的慢性疼痛疾患である。多くの場合、体幹部や肩関節などで疼痛が始まり、次第に全身の筋肉や関節などに疼痛の範囲が拡大する。このとき、疼痛の範囲の拡大に対応して疼痛の程度も激しくなることが多い。米国リウマチ学会で提唱された診断基準では、全身18箇所の特徴的な圧痛点を指圧して11箇所以上で疼痛を感じた場合に線維筋痛症と診断される。また、線維筋痛症は、筋骨格筋の痛みを主体とした多様な慢性疼痛に加えて、不眠や抑うつ状態などの様々な精神症状を伴うことが多い。したがって、この病気が進行すると、QOLの低下のみならず生活機能障害をも引き起こすことになる。
【0003】
線維筋痛症は、血液検査などの各種検査では異常を見出すことができず、その原因がまだ解明されていない病気である。したがって、その治療方法もまだ確立されていない。線維筋痛症の治療薬としては、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(非特許文献1)、SSRIやSNRI、アミトリプチンなどの抗うつ薬(非特許文献2)、ドーパミン受容体作動薬であるプラミペキソール(非特許文献3)、抗てんかん薬であるプレガバリン(非特許文献4)などがある程度有効であると報告されている。しかしながら、これらの薬は、すべての患者に効果を有するわけではなく、また副作用を生じさせることがあった。
【0004】
一方、八味地黄丸は、漢時代の「金匱要略」という古典書に記載されている中年以後の老化現象に伴う病態に用いられることが多い漢方の処方であり、ジオウ(地黄)、サンシュユ(山茱萸)、サンヤク(山薬)、タクシャ(沢瀉)、ブクリョウ(茯苓)、ボタンピ(牡丹皮)、ケイヒ(桂皮)およびブシ(附子)を含む。八味地黄丸は、腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧などに効果があるといわれている。
【非特許文献1】「線維筋痛症に対するワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(ノイロトロピン)の治療効果」、厚生労働科学研究研究費補助金特別研究事業:線維筋痛症の実態調査に基づいた疾患概念の確立に関する研究:平成15年後総括・分担研究報告書、2003年、p.13〜15
【非特許文献2】RaoS.G. and Clauw D.J., "The management of fibromyalgia", Drugs Today (Barc), (2004), Vol.40, p.539-554.
【非特許文献3】Holman A.J. and Myers R.R. "A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of pramipexole, a dopamine agonist, in patients with fibromyalgia receiving concomitant medications", (2005), Arthritis Rheum., Vol.52, p.2495-2505.
【非特許文献4】Crofford L.J., Rowbotham M.C., MeaseP.J., "Pregabalin for the treatment of fibromyalgia syndrome: results of a randomized, double-blind, placebo-controlled trial", (2005), Arthritis Rheum., Vol.52, p.1264-1273.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、従来の線維筋痛症の治療薬は、すべての患者に効果を有するわけではないことから、現在もさらなる治療薬が切望されている。例えば、米国における大規模な疫学調査によると、症状が4年以上継続している症例が75.5%であると報告されており、線維筋痛症の特効薬がなく、その治療が現在も困難であることがわかる(Bennett R.M., Jones J., Turk D.C., Russell I.J. and Matallana L., "An internet survey of 2,596 people with fibromyalgia", (2007), BMC Musculoskelet Disord., Vol.8, 27.)。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、線維筋痛症の新規治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、ジオウ(地黄)、サンシュユ(山茱萸)、サンヤク(山薬)、タクシャ(沢瀉)、ブクリョウ(茯苓)、ボタンピ(牡丹皮)、ケイヒ(桂皮)およびブシ(附子)からなる混合生薬の粉砕物または抽出エキスが線維筋痛症の治療に効果を有することを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の線維筋痛症を治療するための医薬組成物に関する。
[1]八味地黄丸を含む、線維筋痛症を治療するための医薬組成物。
[2]さらに抗うつ薬を含む、[1]に記載の医薬組成物。
[3]さらに抗不安薬を含む、[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4]さらにワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を含む、[1]〜[3]に記載の医薬組成物。
[5]さらに睡眠薬を含む、[1]〜[4]に記載の医薬組成物。
[6]八味地黄丸からなる、線維筋痛症を治療するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医薬組成物は、線維筋痛症の疼痛を改善させるだけでなく、線維筋痛症の睡眠障害や疲労感、抑うつ状態も改善させることができる。すなわち、本発明の医薬組成物は、副作用を最小限にとどめつつ線維筋痛症を治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の線維筋痛症を治療するための医薬組成物は、ジオウ(地黄)、サンシュユ(山茱萸)、サンヤク(山薬)、タクシャ(沢瀉)、ブクリョウ(茯苓)、ボタンピ(牡丹皮)、ケイヒ(桂皮)およびブシ(附子)からなる混合生薬の粉砕物または抽出エキスを含むことを特徴とし、その他任意の成分を含むことができる。この混合生薬における各生薬の比率は、線維筋痛症を改善させる効果を示すものであれば特に限定されない。このような混合生薬の粉砕物または抽出エキスの例には、八味地黄丸が含まれる。ここで「八味地黄丸」とは、ジオウ(5.0〜6.0)、サンシュユ(3.0)、サンヤク(3.0)、タクシャ(3.0)、ブクリョウ(3.0)、ボタンピ(3.0)、ケイヒ(1.0)およびブシ(0.5〜1.0)を括弧内の質量比で含む混合生薬の粉砕物または抽出エキスを意味する。
【0011】
本発明の医薬組成物に含まれる混合生薬の粉砕物または抽出エキスは、当業者に知られる方法を用いて原料生薬から製造してもよいが、市販の漢方製剤を利用してもよい。このような漢方製剤の例には、株式会社ツムラの「ツムラ八味地黄丸エキス顆粒(医療用)」、クラシエ薬品株式会社の「クラシエ八味地黄丸料エキス細粒」、小太郎漢方製薬株式会社の「コタロー八味丸料エキス細粒」、帝國漢方製薬株式会社の「テイコク八味丸エキス顆粒」、本草製薬株式会社の「本草八味丸料エキス顆粒」、大杉製薬株式会社の「オースギ八味地黄丸料エキスG」、剤盛堂薬品株式会社の「ホノミ八味地黄丸料エキス顆粒」、ジェーピーエス製薬株式会社の「JPS八味地黄丸料エキス顆粒〔調剤用〕」などが含まれる。
【0012】
本発明の医薬組成物の剤形は、特に限定されず、錠剤や顆粒剤、細粒剤、丸剤、散剤、カプセル剤など、常用される任意の剤形とすることができる。例えば、錠剤の場合には、1日あたり約9〜12錠を経口投与することで1日当たりの投与量が満足できるように混合生薬の粉砕物または抽出エキス(例えば、八味地黄丸)の1錠当たりの含量を設定し、セルロースや還元麦芽糖などの結合剤、ショ糖脂肪酸エステルなどの潤沢剤、その他香料などを加えて常法通り打錠すればよい。
【0013】
本発明の医薬組成物の1日当たりの投与量は、線維筋痛症を改善させうる量であって副作用の少ない量の混合生薬の粉砕物または抽出エキス(例えば、八味地黄丸)を投与しうる量であれば特に限定されない。例えば、本発明の医薬組成物が市販の八味地黄丸の顆粒剤を含む場合は、この顆粒剤を1日当たり7.5g程度投与しうる量であればよい。また、本発明の医薬組成物が市販の八味地黄丸の細粒剤を含む場合は、この細粒剤を1日当たり6.0g程度投与しうる量であればよい。本発明の医薬組成物全量に対する混合生薬の粉砕物または抽出エキス(例えば、八味地黄丸)の配合量(割合)は特に限定されず、例えば100%(混合生薬の粉砕物または抽出エキスのみからなる)であってもよい。
【0014】
本発明の医薬組成物の用法は、線維筋痛症を改善させることができれば特に限定されない。例えば、上記1日当たりの投与量(例えば、八味地黄丸を6.0g〜7.5g程度含む量)の本発明の医薬組成物を2〜3回に分けて、食前、食間または食後に経口投与すればよい。このように本発明の医薬組成物を投与することで、線維筋痛症の疼痛を改善させるだけでなく、線維筋痛症の睡眠障害や疲労感、抑うつ状態も改善させることができる(実施例参照)。
【0015】
また、本発明の医薬組成物は、線維筋痛症の治療薬として知られている抗うつ薬をさらに含んでいてもよい。このような抗うつ薬の例には、SSRI(パロキセチン、フルボキサミン、サートラリンなど)、SNRI(ミルナシプランなど)、アミトリプチン、スルピリドなどが含まれる。本発明の医薬組成物に含まれるこれらの抗うつ薬の量は、投与する患者の症状などに応じて適宜設定すればよい。これらの抗うつ薬は、混合生薬の粉砕物または抽出エキス(例えば、八味地黄丸)と同時に投与するようにしてもよいし、別個に投与するようにしてもよい。
【0016】
また、本発明の医薬組成物は、線維筋痛症の治療薬として知られている抗不安薬をさらに含んでいてもよい。このような抗不安薬の例には、ベンゾジアゼピン受容体アゴニスト(アルプラゾラム、ロラゼパム、ロフラゼプ酸エチル、ジアゼパム、クロルジアゼポキシド、フルジアゼパム、エチゾラム、フルトプラゼパムなど)、5−HT1Aアゴニスト(クエン酸タンドスピロン、塩酸ブスピロンなど)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(塩酸フルオキセチン、塩酸セルトラリン、塩酸パロキセチンなど)、抗てんかん薬(クロナゼパム、ガバペンチンなど)、CRF(corticotropinreleasing factor)受容体拮抗剤(TS−041、DPC−368など)などが含まれる。本発明の医薬組成物に含まれるこれらの抗不安薬の量は、投与する患者の症状などに応じて適宜設定すればよい。これらの抗不安薬は、混合生薬の粉砕物または抽出エキス(例えば、八味地黄丸)と同時に投与するようにしてもよいし、別個に投与するようにしてもよい。
【0017】
また、本発明の医薬組成物は、線維筋痛症の治療薬として知られているワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液をさらに含んでいてもよい。このようなワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の例には、ノイロトロピン(登録商標)などが含まれる。本発明の医薬組成物に含まれるこれらのワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の量は、投与する患者の症状などに応じて適宜設定すればよい。これらのワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は、混合生薬の粉砕物または抽出エキス(例えば、八味地黄丸)と同時に投与するようにしてもよいし、別個に投与するようにしてもよい。
【0018】
また、本発明の医薬組成物は、線維筋痛症の治療の際に用いられている睡眠薬をさらに含んでいてもよい。このような睡眠薬の例には、アモバルビタール、アルプラゾラム、エスタゾラム、塩酸フルラゼパム、塩酸リルマザホン、オキサゾラム、ガンマーオリザノール、クアゼパム、クエン酸タンドスピロン、クロキサゾラム、クロラゼプ酸ニカリウム、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、トフィパム、トリアゾラム、ニトラゼパム、ブロチゾラム、ロフラゼプ酸エチル、ホップ、カノコソウ、チョウトウコウ、アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロムワレリル尿素、ゾピクロン、酒石酸ゾルピデム、ブロチゾラム、ロルメタゼパム、フルニトラゼパム、塩酸リルマザホンなどが含まれる。本発明の医薬組成物に含まれるこれらの睡眠薬の量は、投与する患者の症状などに応じて適宜設定すればよい。これらの睡眠薬は、混合生薬の粉砕物または抽出エキス(例えば、八味地黄丸)と同時に投与するようにしてもよいし、別個に投与するようにしてもよい。
【0019】
一方、疼痛を改善する代表的な漢方薬として牛車腎気丸が知られている。本発明者は、八味地黄丸と同様に牛車腎気丸にも線維筋痛症を改善させる効果があるかどうかを調べた。その結果、驚くべきことに、牛車腎気丸は、含まれる生薬の種類およびその比率や適応病態が八味地黄丸に類似しているものの、牛車腎気丸には線維筋痛症を改善させる効果が八味地黄丸ほどは認められなかった。このことから、本発明の医薬組成物は、牛車腎気丸には含まれるが八味地黄丸には含まれないゴシツ(牛膝)またはシャゼンシ(車前子)を含まないほうが好ましいと考えられる。このように、数多くの漢方薬の中でも特に八味地黄丸が線維筋痛症に有効であると考えられる。
【0020】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例1】
【0021】
実施例1では、他の薬剤の治療では全身の疼痛が改善しなかった線維筋痛症の患者(37歳、男性)に本発明の医薬組成物(八味地黄丸)を投与した例を示す。
【0022】
八味地黄丸の投与1年前に腰部から両下肢にかけて、および頚部から両上肢にかけて針で刺されるような激痛が出現した。背部から腰部にかけて全体的に鈍痛が持続した。歩行も困難となり、休職することになった。大学病院の整形外科で受診したが、XpおよびMRIでは異常を見出せなかった。また、総合内科でも受診したが、血液検査、MRI(頚部、腰部)では異常を見出せなかった。ジアゼパム(抗不安薬)6mg/日、パロキセチン(抗うつ薬)40mg/日を投与したが効果がなかった。
【0023】
クリニックを受診し、米国リウマチ学会の診断基準で線維筋痛症と診断された。ミルナシプラン(抗うつ薬)75mg/日、ノイロトロピン(登録商標:鎮痛薬)24U/日を1年以上投与したが全身の疼痛が軽快しなかった。
【0024】
ブロチゾラム(睡眠薬)0.25mgおよびアルプラゾラム(睡眠薬)0.4mgを睡眠前に投与した。このときの疼痛のスコアは、最小感知電流値:9.2、痛み対応電流値:33.2、痛み度:262.8であった。また、J−FIQ(Japanese version of FIBROMYALGIA IMPACT QUESTIONNAIRE)スコアは、57.24であった。
【0025】
ここで疼痛のスコアについて説明する。本実施例では、Aβ線維およびAδ線維を伝わる疼痛の程度を知覚・痛覚定量分析装置(PainVision PS-2100:ニプロ株式会社)を用いて数値化した。最小感知電流値とは、被験者が知覚しうる最小の電流値であり、知覚閾値を数値化したものである。痛み対応電流値とは、疼痛の痛みと同程度の痛みを与える電流値であり、実際に感じている痛みの程度を数値化したものである。痛み度とは、「痛み度=(痛み対応電流値−電流知覚閾値)/電流知覚閾値×100」で算出される値であり、実際に感じている痛みの程度を痛みに慣れた部分を差し引いて数値化したものである。これらのスコアの中では、痛み度が実際に感じている疼痛の程度に最もよく相関している。
【0026】
次いで、J−FIQスコアについて説明する。J−FIQは、米国で標準化されている線維筋痛症患者のQOL評価法であるFIQ(FIBROMYALGIA IMPACT QUESTIONNAIRE)を日本語に翻訳したものである(FIQについては「Burckhardt C.S., Clark S.R. and Bennett R.M. "The Fibromyalgia Impact Questionnaire: Development and validation", (1991), Journal of Rheumatology, Vol.18, p.728-734.」を参照)。J−FIQスコアは、日常生活のQOLや身体の疼痛の程度だけでなく、抑うつ状態なども含めた線維筋痛症の総合的症状の程度を示しており、最低点(症状が全くない状態)が0点で、最高点(症状が強く、寝たっきりの状態)が100点である。
【0027】
ブロチゾラム0.25mgおよびアルプラゾラム0.4mgを睡眠前に投与するとともに、八味地黄丸(株式会社ツムラ:ツムラ八味地黄丸エキス顆粒(医療用))7.5g/日を1日3回の食事の後にさらに投与するようにした。
【0028】
八味地黄丸投与開始から約2ヵ月後、疼痛が減少し、アロデニアも消失した。疼痛のスコアは、最小感知電流値:7.6、痛み対応電流値:23.0、痛み度:201.3であった。また、J−FIQスコアは、25.72に低下した。
【0029】
八味地黄丸投与開始から約4ヵ月後、疼痛が軽快しただけでなく、途中覚醒、早朝覚醒および全身倦怠感も改善した。疼痛のスコアは、最小感知電流値:7.5、痛み対応電流値:11.4、痛み度:51.9であった。この患者は、発病初期には疼痛のため歩行もできず、仕事に行くこともできなかったが、八味地黄丸投与後は疼痛がほとんど消失し、以前の仕事に復帰することができた。
【0030】
以上のように、本症例では、ミルナシプランやノイロトロピンの投与だけでは疼痛の改善が見られなかったが、八味地黄丸は有効であった。また、八味地黄丸は、疼痛だけでなく途中覚醒、早朝覚醒および全身倦怠感も改善させ、患者のADLを改善させることができた。
【表1】

【実施例2】
【0031】
実施例2では、様々な治療法を用いても全身の疼痛が改善しなかった線維筋痛症の患者(65歳、女性)に本発明の医薬組成物(八味地黄丸および抗うつ薬)を投与した例を示す。
【0032】
八味地黄丸の投与20年前に上下肢、手掌および足裏に疼痛が出現し、数分間しか立つことができなくなり、退職することになった。その後、大学病院などで血液検査などを行ったが、異常を見出せなかった。また、針治療、マッサージ、他の薬物療法を行うも効果がなかった。
【0033】
ミルナシプラン(抗うつ薬)50mg/日、スルピリド(抗うつ薬)100mg/日を投与するとともに、ゾルピデム(睡眠薬)10mgを睡眠前に投与した。このときの疼痛のスコアは、最小感知電流値:7.5、痛み対応電流値:45.8、痛み度:511.5であった。
【0034】
ミルナシプラン(抗うつ薬)50mg/日、スルピリド(抗うつ薬)100mg/日、ゾルピデム(睡眠薬)10mgを前述のように投与するとともに、八味地黄丸(株式会社ツムラ:エキス顆粒)7.5g/日を1日3回の食事の後にさらに投与するようにした。
【0035】
八味地黄丸投与開始から約1ヵ月後、疼痛が減少した。疼痛のスコアは、最小感知電流値:8.5、痛み対応電流値:27.6、痛み度:223.9であった。また、J−FIQスコアは、66.95であった。
【0036】
八味地黄丸投与開始から約3ヵ月後、疼痛がさらに減少した。特に、顎関節痛およびアロデニアが顕著に改善しただけでなく、入眠困難、熟眠感、抑うつ状態も改善した。疼痛のスコアは、最小感知電流値:8.2、痛み対応電流値:20.5、痛み度:150.5であった。
【0037】
八味地黄丸投与開始から約6ヵ月後、疼痛が顕著に改善した。最後まで残っていた顎関節痛もほとんど消失し、通常の生活を送れるようになった。疼痛のスコアは、最小感知電流値:12.1、痛み対応電流値:22.9、痛み度:89.8であった。また、J−FIQスコアは、51.61に低下した。
【0038】
以上のように、本症例では、ミルナシプランやスルピリドの投与だけでは疼痛の改善が見られなかったが、八味地黄丸をミルナシプランおよびスルピリドと組み合わせて投与することで疼痛の改善が見られた。また、八味地黄丸は、入眠困難、熟眠感および抑うつ状態も改善させ、患者のADLを改善させることができた。
【表2】

【実施例3】
【0039】
実施例3では、様々な治療法を用いても全身の疼痛が改善しなかった線維筋痛症の患者(43歳、男性)に本発明の医薬組成物(八味地黄丸)を投与した例を示す。
【0040】
八味地黄丸の投与15年前に背部痛、頚部痛、頭痛、全身疲労感が出現した。ペインクリニックでブロック治療、針治療、マッサージなどの治療を受けたが効果がなかった。ミルナシプラン(抗うつ薬)の投与を開始したが、嘔気が生じたため投与を中止した。また、アミトリプチリン(抗うつ薬)の投与を開始したが、便秘になったため投与を中止した。
【0041】
ノイロトロピン(鎮痛薬)16U/日を投与するとともに、アルプラゾラム(睡眠薬)0.4mgおよびフルニトラゼパム(睡眠薬)2mgを睡眠前に投与した。このときの疼痛のスコアは、最小感知電流値:9.2、痛み対応電流値:31.1、痛み度:238.2であった。また、J−FIQスコアは、64.99であった。
【0042】
八味地黄丸(株式会社ツムラ:エキス顆粒)7.5g/日を1日3回の食事の後に投与するようにした。
【0043】
八味地黄丸投与開始から1ヵ月後、疼痛が顕著に改善しただけでなく、入眠困難、途中覚醒および全身倦怠感も改善した。疼痛のスコアは、最小感知電流値:12.4、痛み対応電流値:17.1、痛み度:38.6であった。
【0044】
八味地黄丸投与開始から2ヵ月後、J−FIQスコアは、53.5に低下した。
【0045】
以上のように、本症例では、ミルナシプランやアミトリプチリンの投与では疼痛の改善が見られなかっただけでなく副作用が発現し、抑うつ状態すら改善しなかったが、八味地黄丸は有効であった。また、八味地黄丸は、疼痛だけでなく入眠困難、途中覚醒および全身倦怠感も改善させ、患者のADLを改善させることができた。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の医薬組成物は、線維筋痛症の疼痛を改善させるだけでなく、線維筋痛症の睡眠障害や疲労感、抑うつ状態も改善させることができるため、線維筋痛症の治療薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
八味地黄丸を含む、線維筋痛症を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
さらに抗うつ薬を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
さらに抗不安薬を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
さらにワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
さらに睡眠薬を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
八味地黄丸からなる、線維筋痛症を治療するための医薬組成物。

【公開番号】特開2009−51739(P2009−51739A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216968(P2007−216968)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】