説明

線虫を用いた有害物質又は有益物質の試験法、及び線虫を用いた解毒物質の取得法

【課題】簡便な操作によって迅速、経済的且つ正確に評価が可能であり、しかも汎用性の高い、線虫を利用した試験法、及びそれを応用した解毒性試験法等を提供する。
【解決手段】(1)有害物質又は有益物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫を用意するステップ、(2)検体の存在下、前記線虫を培養するステップ、(3)前記レポーター遺伝子の発現量を測定するステップ、及び(4)測定結果を用いて前記検体の影響を評価するステップを有する試験法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線虫を用いた試験法及びその用途に関する。より詳細には、本発明は線虫を用いた試験法、解毒性試験法、及び解毒物質の取得法を提供する。
【背景技術】
【0002】
線虫は、あらゆる生態系に適応した地上でもっとも適応した動物であるといわれる。なかでも、多くの土壌線虫は(1)雌雄同体であること(遺伝的同一性を得やすい)、(2)世代交代及び寿命が短いこと、(3)小さく扱いやすいこと、(4)長期間に亘り生きたまま凍結保存可能であること、(5)体細胞数が少ないこと、(6)3胚葉真正後生動物(ヒトと同じ)であること、(7)簡単な体構造でありながら組織・器官が充実していること、(8)ヒトに近い遺伝子数を有すること、(9)一生を通じて透明であること、などの特性を有し、これまでにモデル生物として様々な研究に利用されてきた。線虫の研究から発展し、現在は一般常識となっている生命現象としてアポトーシスやRNAiがある。また、線虫の研究を基礎として寿命のメカニズムや感染症・肥満・寿命の相互の関係などが解明されることが期待されている。線虫の研究はまた、様々な生物学的又は遺伝子工学的手法の開発にも多大な貢献をしてきた。
【0003】
一方、線虫の用途の一つとしていくつかの毒性(有害性)試験系が報告された。例えば本発明者らにより、化学物質の変異原性、発がん性、催奇形性などに関する毒性試験法が提案された(特許文献1、非特許文献1)。この方法は生きた個体を使用した画期的な方法であったものの、個体レベルの表現型を遺伝子やタンパク質の行動に結び付けて評価することはできなかった。また、ある程度の熟練した操作が要求されるものであった。
また、特に重金属を対象とするものとして、熱ショックタンパク質のプロモーターを利用した毒性試験法が提案された(特許文献2)。この方法は重金属の毒性評価には有効といえるものの、それ以外の有害物質に対しする有効性は不明である。即ち、汎用性が高い方法とはいえないものである。
また、内分泌かく乱物質がエストロゲンレセプターに作用し、これによってビテロジェニンのmRNAの発現量を増加させる事実に基づいた、環境ホルモン活性の評価法が提案されている(特許文献3)。しかしながらこの方法は、エストロゲンレセプターを介して作用する物質の評価に使用できるにとどまり、その汎用性は低い。
さらに、環境ホルモンに高感受性の変異体を利用した毒性評価法が提案されている(特許文献4)。この方法では産子数の計数や生育状況などを観察し、毒性の評価を行う。この方法は特許文献1の方法を応用・敷衍したものであり、特許文献1に関して記述した問題をもっている。また特許文献1の方法を環境ホルモンに応用したものであるため、環境ホルモンに特化した方法でありその汎用性は当然低い。
【特許文献1】特公昭57−29155号公報
【特許文献2】特開平8−116991号公報
【特許文献3】特開2000−69977号公報
【特許文献4】特開2005−10110号公報
【非特許文献1】三輪錠司, 湯川宏, 田伏洋 (1983) 線虫を用いた毒性試験法、トキシコロジーフォーラム 6: 659-670.
【非特許文献2】Hasegawa,K., Miwa,S.,Tsutsumiuchi,K.,Taniguchi,H.and Miwa,J. Transcriptional analysis of acrylamide effects on Caenorhabditis elegans.The Annual Report of the High-Tech Research Center Establishment Project in Chubu University,24-30,2004.
【非特許文献3】Hasegawa,K.,Miwa,S.,Tsutsumiuchi,K.,Taniguchi,H.and Miwa,J.Extremely low dose of acrylamide decreases lifespan in Caenorhabditis elegans.Toxicol.Letters,152(2), 183-189,2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡便な操作によって迅速、経済的且つ正確に評価が可能であり、しかも汎用性の高い、線虫を利用した試験法、及びそれを応用した解毒性試験法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、線虫を利用した毒性評価系を開発したことを過去に報告した(特許文献1、非特許文献1)。そして、これをさらに発展させ、食品中の有害物質(食品危害物質)を個体レベルで検出できるin vivoバイオセンサーの開発を目指し、さらに研究を進めた。即ち、従来神経毒として知られ、発がん性の疑いもあるアクリルアミドが食品中に大量に含まれることに注目して、アクリルアミドをモデル検体として実験を行い、その成果として線虫を利用した試験系が食品危害物質の評価に有効であることを報告した(非特許文献2)。また、線虫全遺伝子(2万余)を搭載したDNAマイクロアレイ解析を利用して、アクリルアミドに応答性の遺伝子を網羅的に解析し、アクリルアミドの曝露によって発現量が変化する遺伝子(発現増強が認められた遺伝子448個、発現抑制が認められた遺伝子382個)を明らかにした(非特許文献3)。発現増強が認められた遺伝子448個のうち、グルタチオントランスフェラーゼ(以下、「GST」と表現する)遺伝子は20以上であった。興味深いことに、曝露するアクリルアミド濃度の高低によって、発現増強(又は抑制)される遺伝子の種類が異なっていた。
【0006】
以上の成果を踏まえて本発明者は、アクリルアミドの曝露によって発現量の変化が認められた遺伝子に注目する一方でプロテオーム解析を行い、発現量の変化が認められる22種のタンパク質を同定することに成功した。同定したタンパク質の内4個がGSTであった。この一連の実験成果を基に鋭意検討した結果、GSTを利用すれば迅速且つ正確に評価が可能であり、しかも汎用性の高い試験系を構築可能であるとの考えに至った。そこで本発明者は、GST遺伝子プロモーターにレポーター遺伝子を連結したDNAコンストラクトを導入した線虫(トランスジェニック線虫)を作製し、これを用いた試験系を構築した。そして、様々な有害物質や有益物質を使った検証実験によって、この試験系の有用性及び汎用性が確認された。
一方、本発明者は、この試験系を応用することによって有害物質の影響を抑制できる物質を見出すことができるのではないかと考えた。即ち、例えばある食品中に有害物質(食品危害物質)が含まれており、当該食品の摂取が生体に悪影響を及ぼすときに、当該食品と同時に摂取することで食品危害物質の悪影響を阻害、抑制ないし打ち消すことができる物質(広義の解毒物質)を見出すための手段として、上記のトランスジェニック線虫を利用した試験系が有用であろうとの考えに至った。そして、アクリルアミドを有害物質とした検証試験によって、当該試験系の有用性を実証することに成功した。
ところで、本発明者が注目したGSTは解毒酵素の一つであるが、発明の経緯に立脚すれば、GST以外の遺伝子産物(タンパク質)、例えばGST遺伝子以外の解毒酵素はもちろんのこと、酵素に限らず、目的の物質(有害物質又は有益物質)が生体に影響を及ぼすことによって先述したDNAマイクロアレイ解析やプロテオーム解析によって発現量の変化する遺伝子のコードするタンパク質であれば、当該物質に対してGST同様の応答性を示すことが予想される。従って、GST遺伝子プロモーターに限らず、他の遺伝子のプロモーターを利用して作製したトランスジェニック線虫によっても、GST遺伝子プロモーターを利用した場合と同様の試験系を構築可能であるといえる。
本発明は主として以上の成果ないし知見に基づき完成されたものであり、以下の試験法などを提供する。
[1]以下のステップを含む、線虫を用いた有害物質又は有益物質の試験法、
(1)有害物質又は有益物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫を用意するステップ、
(2)検体の存在下、前記線虫を培養するステップ、
(3)前記レポーター遺伝子の発現量を測定するステップ、及び
(4)測定結果を用いて前記検体の前記線虫への影響を評価するステップ。
[2]有害物質又は有益物質に応答して発現量が変化する遺伝子が解毒関連遺伝子である、[1]に記載の試験法。
[3]前記解毒関連遺伝子がチトクロムP450遺伝子である、[2]に記載の試験法。
[4]前記解毒関連遺伝子がUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ遺伝子である、[2]に記載の試験法。
[5]前記解毒関連遺伝子がグルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝子である、[2]に記載の試験法。
[6]前記解毒関連遺伝子がカルボキシルエステラーゼ遺伝子である、[2]に記載の試験法。
[7]前記レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である、[1]に記載の試験法。
[8]前記蛍光タンパク質遺伝子がGFP遺伝子である、[7]に記載の試験法。
[9]前記線虫が自由生活性土壌線虫である、[1]に記載の試験法。
[10]前記線虫が自家受精可能な雌雄同体型自由生活性土壌線虫である、[1]に記載の試験法。
[11]前記線虫がC.エレガンス(Caenorhabditis elegans)である、[1]に記載の試験法。
[12]前記検体が、医薬又は医薬候補、化粧品又は化粧品候補、農薬又は農薬候補、除草剤又は除草剤候補、殺虫剤又は殺虫剤候補、殺菌剤又は殺菌剤候補、内分泌かく乱物質、重金属(ニッケル、亜鉛、カドミウム、水銀など)、アクリルアミド、食品(飲料、機能性食品、サプリメント等を含む)、食品添加物、食品危害物質(アレルギー物質、硝酸イオンなど)、調理により生成する食品危害物質、及び環境汚染物質(各種産業廃棄物に含まれる化合物など)からなる群より選択されるいずれかである、[1]〜[11]のいずれかに記載の試験法。
[13]前記ステップ(2)が、
(2−1)予め検体を含有させた培地で前記線虫を培養すること、又は
(2−2)検体を含有しない培地で前記線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ検体を添加すること、
からなる、[1]に記載の試験法。
[14]前記ステップ(4)において、測定結果を基準発現量と比較することによって前記検体の有害性又は有益性を評価する、[1]に記載の試験法。
[15]前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果と基準発現量との比較を行う、[14]に記載の試験法。
[16]前記基準発現量が、前記ステップ(2)の前に測定した前記レポーター遺伝子の発現量、前記検体の非存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量、又は特定の有害物質又は有益物質の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、[14]又は[15]に記載の試験法。
[17]前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果を用いて、前記レポーター遺伝子の発現量が基準発現量以上の値を示すまでに要した時間、又は前記レポーター遺伝子の発現量が基準発現量以上の値を維持した時間を算出し、該時間により前記検体の影響を評価する、[1]に記載の試験法。
[18]前記基準発現量が、特定の有害物質又は有益物質の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、[17]に記載の試験法。
[19]前記ステップ(2)を、前記検体の濃度が異なる複数の条件で行い、
前記ステップ(4)において、各条件についての測定結果を比較して前記検体の影響を評価する、[1]に記載の試験法。
[20]以下のステップを含む、線虫を用いた解毒性試験法、
(1)有害物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫を用意するステップ、
(2)有害物質及び検体の存在下、前記線虫を培養するステップ、
(3)前記レポーター遺伝子の発現量を測定するステップ、及び
(4)測定結果を用いて前記検体の解毒作用を評価するステップ。
[21]有害物質に応答して発現量が変化する遺伝子が解毒関連遺伝子である、[20]に記載の解毒性試験法。
[22]前記解毒関連遺伝子がチトクロムP450遺伝子である、[21]に記載の解毒性試験法。
[23前記解毒関連遺伝子がUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ遺伝子である、[21]に記載の解毒性試験法。
[24]前記解毒関連遺伝子がグルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝子である、[21]に記載の解毒性試験法。
[25]前記解毒関連遺伝子がカルボキシルエステラーゼ遺伝子である、[21]に記載の解毒性試験法。
[26]前記レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である、[20]に記載の解毒性試験法。
[27]前記蛍光タンパク質遺伝子が緑色蛍光タンパク質遺伝子である、[26]に記載の解毒性試験法。
[28]前記線虫が自由生活性土壌線虫である、[20]に記載の解毒性試験法。
[29]前記線虫が自家受精可能な雌雄同体型自由生活性土壌線虫である、[20]に記載の解毒性試験法。
[30]前記線虫がC.エレガンス(Caenorhabditis elegans)である、[20]に記載の解毒性試験法。
[31]前記検体が、食品、食品添加物、医薬又は医薬候補からなる群より選択されるいずれかである、[20]〜[30]のいずれかに記載の解毒性試験法。
[32]前記ステップ(2)が、
(2−1)予め有害物質及び検体を含有させた培地で前記線虫を培養すること、
(2−2)予め有害物質を含有させた培地で前記線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ検体を添加すること、又は
(2−3)予め検体のみを含有させた培地で前記線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ有害物質を添加すること、
からなる、[20]に記載の解毒性試験法。
[33]前記ステップ(4)において、測定結果を基準発現量と比較することによって前記検体の解毒作用を評価する、[20]に記載の解毒性試験法。
[34]前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果と基準発現量との比較を行う、[33]に記載の解毒性試験法。
[35]前記基準発現量が、前記有害物質の非存在下且つ前記検体の非存在下で前記線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量、前記有害物質の非存在下且つ前記検体の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量、又は前記有害物質の存在下且つ前記検体の非存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、[33]又は[34]に記載の解毒性試験法。
[36]前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果を用いて、前記レポーター遺伝子の発現量が基準発現量以下の値を示すまでに要した時間により前記検体の解毒作用を評価する、[20]に記載の解毒性試験法。
[37]前記基準発現量が、前記有害物質の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、[36]に記載の解毒性試験法。
[38]前記ステップ(2)を、前記有害物質及び/又は検体の濃度が異なる複数の条件で行い、
前記ステップ(4)において、各条件についての測定結果を比較して前記検体の解毒作用を評価する、[20]に記載の解毒性試験法。
[39][20]〜[38]のいずれかに記載の解毒性試験法を実施した結果、解毒作用が認められた物質を有効な物質として選択するステップを含む、解毒物質の取得法。
[40][39]の取得法で取得された解毒物質。
[41]アクリルアミドと同時に摂取されることによってアクリルアミドの有害性を解毒する食品又は食品添加物であって、茶もしくはその加工品、又は乳もしくはその加工品を含む、食品又は食品添加物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第1の局面は、線虫を用いた有害物質又は有益物質の試験法に関する。本発明の試験法は次のステップ(1)〜(4)を含む。
(1)有害物質又は有益物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫を用意するステップ、
(2)検体の存在下、前記線虫を培養するステップ、
(3)前記レポーター遺伝子の発現量を測定するステップ、及び
(4)測定結果を用いて前記検体の前記線虫への影響を評価するステップ。
本発明の試験法では、線虫に導入したレポーター遺伝子の発現量を指標として検体の有害性又は有益性(以下、有害性と有益性をまとめて「有害性等」と表現する)を評価する。検体が有害性等を有する場合、線虫の体内において、導入された遺伝子プロモーターが活性化され、レポーター遺伝子を発現させる。有害性等の程度に応じてプロモーターの活性化の程度が変化し、それに伴いレポーター遺伝子の発現量も変化する。このようにレポーター遺伝子の発現量は検体の有害性等を反映する。従って、レポーター遺伝子の発現量を調べれば、検体の有害性等の程度を評価することができる。
【0008】
ステップ(1)では、有害物質又は有益物質(以下、有害物質と有益物質をまとめて「有害物質等」と表現する)に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫(トランスジェニック線虫)を用意する。かかる線虫では当該遺伝子プロモーターの作動状態がレポーター遺伝子の発現状態に反映される。ここで、「有害物質等に応答して発現量が変化する遺伝子」とは、有害物質の曝露によって線虫内で発現量が変化する遺伝子である。特定の有害物質等に対して応答性を示す遺伝子は、アクリルアミドに対してGST遺伝子が応答性を示すことを明らかにした実験手法と同様の手法(非特許文献2、3)によって同定することができる。同定された遺伝子のプロモーターを利用すれば、当該有害物質等に対して有効な試験系を構築できる。
一方、ここでの「レポーター遺伝子がプロモーターの制御下にある」とは、レポーター遺伝子の発現状態が当該プロモーターによって制御されている状態をいい、「レポーター遺伝子がプロモーターに作動可能に連結している」と同義である。通常、プロモーターの3’下流に同一の方向性でレポーター遺伝子が連結される。プロモーターとレポーター遺伝子の間に他の配列が介在していてもよいが、プロモーターによる適切且つ良好な制御のために両者を近接して配置するのが通常である。
【0009】
そのプロモーターが利用される遺伝子の種類は特に限定されない。例えば、チトクロムP450(以下、「CYP」と表現する)、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ(以下、「UDPGT」と表現する)、GST、カルボキシルエステラーゼ等の解毒関連酵素、又はメジャー精子タンパク質、リゾチウム等をコードする遺伝子のプロモーターを利用することができる。後述の実施例に示すように、有害物質の例としてアクリルアミドを用いた試験によって、GSTの良好な応答性がタンパク質レベルで確認された。この知見に基づき本発明では、好ましくはGST遺伝子のプロモーターを採用する。GST遺伝子の具体例としてGST−1、GST−4、GST−7等の遺伝子を挙げることができる。本発明者らの検討によってアクリルアミドを始め様々な有害物質に対してGSTタンパク質が良好な応答性を示すことが明らかになった。従って、GST遺伝子のプロモーターのみを使用することによっても、応答性及び汎用性に優れた試験法を構築できることがわかる。
GST遺伝子プロモーターの配列の例を配列表に示す(配列番号1の塩基配列:GST−1遺伝子プロモーター、配列番号2の塩基配列:GST−4遺伝子プロモーター、配列番号3の塩基配列:GST−7遺伝子プロモーター)(http://www.worm.org/)。
【0010】
ところで、特定の有害物質等に応答して発現量が変化する遺伝子は、後述の実施例に示した方法と同様の方法によるプロテオーム解析によって同定することができる。即ち、二次元電気泳動後のゲル内においてスポットさえ同定できれば、そのスポットを与えるタンパク質、それをコードする遺伝子の順で明らかにすることができる。このようにして同定された遺伝子のプロモーターを使用すれば、特定の有害物質等に応答性の試験系を構築することができる。
【0011】
レポーター遺伝子の種類は特に限定されない。例えば、蛍光タンパク質遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等をレポーター遺伝子として用いることができる。好ましくは、蛍光タンパク質遺伝子をレポーター遺伝子として用いる。蛍光タンパク質遺伝子の中でも、入手の面、操作性の面、検出感度の面などから、緑色蛍光タンパク質遺伝子(以下、GFP遺伝子と表現する)又はその変異体を使用することが好ましい。GFPの変異体としてRFP(Red Fluorescent Protein:赤色蛍光タンパク質)、BFP(Blue Fluorescent Protein:青色蛍光タンパク質)、CFP(Cyan Fluorescent Protein:青緑色蛍光タンパク質)、YFP(Yellow Fluorescent Protein:黄色蛍光タンパク質)等が知られている。尚、モデル線虫のC.エレガンス用として、GFP遺伝子などが挿入された多種多様な発現ベクター(例えばpPD95.67、pPD95.69、pPD95.75、pPD95.77、pPD95.79)が作製されている(ftp://www.ciwemb.edu/pub/FireLabInfo/FireLabVectors)。GFP遺伝子などが挿入された発現ベクターは市販されており、例えばAdgene社(http://www.addgene.org/pgvec1)より入手することができる。
【0012】
レポーター遺伝子の線虫への導入には核酸コンストラクトを利用する。使用する遺伝子プロモーター(即ち、例えば解毒関連酵素の遺伝子プロモーター)の制御下にレポーター遺伝子が配置されるように、核酸コンストラクトを構築する。ここでの核酸はDNA又はRNAである。好ましくは二本鎖DNAからなる核酸コンストラクトが構築される。核酸コンストラクトの形態は特に限定されず、線虫染色体内へのレポーター遺伝子の組み込みを可能とする形態であっても、導入後にそれ自体が線虫染色体外因子として存在する形態であってもよい。市販のプラスミドのクローニングサイトに、使用する遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を挿入することによって、本発明に使用する核酸コンストラクトを容易に構築することができる。市販のプラスミドとしてpGEM-T (Promega)、pDONR221 (Invitrogen)、pUC18/19 (Takara)等を利用することができる。
以上の核酸コンストラクトを線虫に導入して形質転換体を得る。導入法としてはマイクロインジェクション法が一般的であるが、遺伝子銃を用いた方法(Praitis, V. et al.: Genetics, 157:1217-1226, 2001)やエレクトロポレーション(electroporation)法を採用することもできる。
【0013】
C.エレガンス(Caenorhabditis elegans)に代表される自由生活性(自活性)土壌線虫、なかでも雌雄同体線虫を用いることが好ましい。雌雄同体型自由生活性(自活性)土壌線虫の中でも、入手が容易である点、全ゲノムが解読されている、飼育が容易、凍結保存が可能、経済的、統計処理に有利等からC.エレガンスを用いることが好ましい。具体的には例えばC.エレガンスのN2株(Caenorhabditis Genetics Center, University of Minnesota, 6-160 Jackson Hall, 321 Church Street S.E., Minneapolis, MN 55455)などを使用することができる。C.エレガンスの種類、特性、取り扱い方などについては、W.B. WoodらによるThe nematde Caenorhabditis elegans, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)、D.L. RiddleらによるC. ELEGANS II, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1997)、H. Epstein及びD. ShakesによるCaenorhabditis elegans, Modern Biological analysis of an organism, Methods in Cell Biology, Vol 48, 1995、http://www.wormbase.org/を参照することができる。
【0014】
以下、遺伝子導入からトランスジェニック(形質転換)体の取得までの操作の一例を説明する。まず、核酸コンストラクトを線虫の生殖巣にマイクロインジェクション法で導入する。そして、第1世代(F1)の中から、適切に遺伝子導入された形質転換体を選択する。選択マーカーを利用することによって、ここでの選択操作を容易に行うことができる。選択マーカーとしてβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子などを利用することができるが、rol−6遺伝子(Mol. Cell. Biol. 10, 2081(1990))などの、それが導入されたことが線虫の肉眼観察によって容易に把握できるものを利用することが好ましい。例えば、rol−6遺伝子を含むDNAコンストラクトを用意し、これを上記の核酸コンストラクトと同時に線虫に導入し、rol−6遺伝子の発現を指標として形質転換体を選択する。rol−6は体表のクチクラを構成するコラーゲンの一種をコードする遺伝子であり、その優性変異遺伝子su1006をもつ個体はクチクラ構造が体軸に沿って螺旋状に形成される。そのため前進あるいは後退の際には体が体軸を中心に回転し、弧を描くような運動すなわちローラー(roller)表現型を示す。形質転換体は導入操作を受けた雌雄同体から生まれる第一世代(F1)中のローラー個体として検出される。
線虫の場合、生殖巣に導入された核酸コンストラクトは通常、多数結合した大きな分子となり、比較的高い確率で次世代へと引き継がれていく。つまり、F1のみならず次世代(F2等)であっても、導入された核酸コンストラクトを保持するものが現れる。そこで、導入された核酸コンストラクトを保持する限り、F1のみならずF2等の次世代の線虫を本発明の方法に使用できる。よって、こうした形質転換体は一度構築するだけでよい。
【0015】
本発明のステップ(2)では、上記の方法で用意した形質転換体(トランスジェニック線虫:以下、説明の便宜上、「線虫」とする)を検体の存在下で培養する。この培養によって線虫が検体に曝露されることになる。例えば、予め検体を含有させた培地で線虫を培養する。これによって線虫は培地を摂食する際、同時に検体を体内に取り込む。
【0016】
一方、検体を含有しない培地で線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ検体を添加することにしてもよい。この方法によれば線虫は培養途中から検体を体内に取り込むことになる。尚、ここでの「ある時点」とは例えば培養開始後0分〜10時間経過した時点である。
【0017】
このステップの持続時間、即ち培養時間は特に限定されるものではないが、例えば1時間〜2日、好ましくは1時間〜24時間、更に好ましくは1時間〜10時間とする。後述の実施例に示すように本発明の試験法は、応答性に優れたレポーター遺伝子発現系を利用することによって短時間での検出・評価を可能とする。
【0018】
線虫の培養は適当な容器内で行うことができる。容器の例として培養皿(例えば、24ウェルプレート、96ウェルプレート)を挙げることができる。
【0019】
検体には、有害性又は有益性の評価が必要とされる様々な物質が用いられる。例えば、医薬又は医薬候補、化粧品又は化粧品候補、農薬又は農薬候補、除草剤又は除草剤候補、殺虫剤又は殺虫剤候補、殺菌剤又は殺菌剤候補、内分泌かく乱物質、重金属(ニッケル、亜鉛、カドミウム、水銀など)、アクリルアミド、食品(飲料、機能性食品、サプリメント等を含む)、食品添加物、食品危害物質(アレルギー物質、硝酸イオンなど)、調理により生成する食品危害物質、及び環境汚染物質(各種産業廃棄物に含まれる化合物など)からなる群より選択されるいずれかを検体として用いることができる。このように、単一の化学物質に限らず、二種類以上の化学物質の結合体や混合体を検体とすることもできる。また、既知化学物質に限らず、未知化学物質や未知化学物質を含むものを検体としてもよい。
【0020】
本発明の一態様では、検体の濃度が異なる複数の条件でステップ(2)を行う。各条件についての測定結果を比較して検体の有害性等を評価すれば、濃度依存性など、有害性等に関する詳細な情報を得ることが可能となる。
【0021】
ステップ(2)に続くステップ(3)ではレポーター遺伝子の発現量を測定する。レポーター遺伝子の発現量の測定は、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて適切な方法で行われる。例えばGFP又はその変異遺伝子をレポーター遺伝子として使用した場合、励起光の照射によって生じた蛍光を検出する。
【0022】
ステップ(4)では、ステップ(3)の測定結果(即ちレポーター遺伝子の発現量)を用いて検体の有害性等を評価する。上記の通り、レポーター遺伝子の発現量は検体の有害性等を反映する。従ってレポーター遺伝子の発現量を指標として検体の有害性等を評価することができる。本発明の一態様では測定結果を基準発現量と比較することによって検体の有害性等を評価する。
基準発現量として、ステップ(2)の前に測定したレポーター遺伝子の発現量、検体の非存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量、及び特定の有害物質等の存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量からなる群より選択されるいずれかを用いることができる。複数の基準発現量を用いることにしてもよい。
基準発現量の一例として挙げた「ステップ(2)の前に測定したレポーター遺伝子の発現量」及び「検体の非存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量」はいわゆる陰性対照(ネガティブ・コントロール)となる。この基準発現量を用いることによって、検体の有害性等の評価を客観的且つ正確に行うことができる。尚、「検体の非存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量」は原則として、検体が存在しない点以外、検体の測定と同条件で測定される。従って、基準発現量を求めるための測定は、原則、検体の測定と同時に行われる。
【0023】
一方、「特定の有害物質等の存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量」はいわゆる陽性対照(ポジティブ・コントロール)となる。陽性対照を用いることによって、特定の有害物質等の有害性等を基準に検体の有害性又は有益性を評価・把握することが可能となる。ここでの「有害物質」として、有害性が認められている様々な物質を用いることができる。有害物質の例を示せば、アクリルアミド、グラシダミド、カドミウム、ヒ素、鉛、水銀、クロム、アセトクロル、アトラジン、アレスリン、等である。他方、有益物質の例を示せば、スルフォラファンに代表されるイソチオシアネート類、ダイアリルスルフィド、ゴイトリン、クルクミン、アリシン等である。検体中に特定の有害物質が存在するか否か(及びその量)を評価しようとすれば、当該特定の有害物質をここでの「有害物質」として採用する。具体例を示せば、食品中のアクリルアミドの量を評価する場合にはアクリルアミドを有害物質として用いる。同様に、検体中に特定の有益物質が存在するか否か(及びその量)を評価しようとすれば、当該特定の有益物質をここでの「有益物質」として採用する。
【0024】
特定の有害物質等について、その濃度(存在量)とレポーター遺伝子の発現量との関係を予め求めておき、これに対して検体の測定結果を比較することにしてもよい。有害物質等の濃度とレポーター遺伝子の発現量との関係は検量線として、或いは表形式等で与えられる。
【0025】
本発明の一態様では、上記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにする。そしてステップ(4)では、得られた複数の測定結果と基準発現量との比較を行う。このような経時的な測定及び比較を行えば、有害性等の持続時間や有害性等の作用の仕方など、検体の有害性等を評価する上で有益な多くの情報を得ることができる。また、リアルタイムに検体の有害性等を評価することも可能である。
【0026】
本発明の他の一態様では、上記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにする。そしてステップ(4)では、得られた複数の測定結果を用いて以下のいずれかの時間、即ちレポーター遺伝子の発現量が基準発現量以上の値を示すまでに要した時間、又はレポーター遺伝子の発現量が基準発現量以上の値を維持した時間を算出する。算出した時間によって検体の有害性等を評価する。前者の時間によれば、有害性等の作用の仕方についての詳細な情報を得ることができる。後者の時間によれば、有害性等の持続時間についての詳細な情報を得ることができる。ここでの「基準発現量」としては、典型的には、特定の有害物質(又は有益物質)の存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量が用いられる。ここでの「有害物質」として例えば、アクリルアミド、グラシダミド、カドミウム、ヒ素、鉛、水銀、クロム、アセトクロル、アトラジン、アレスリン等が用いられる。「有益物質」としては例えば、スルフォラファンに代表されるイソチオシアネート類、ダイアリルスルフィド、ゴイトリン、クルクミン、アリシン等が用いられる。
【0027】
本発明の試験法は、ある物質自体の有害性等を評価することに使用することができる。また、食品などを検体とした場合には、その食品が有害物質等を含有しているか及び/又はどの程度の有害物質等を含有しているかを評価すること(安全性評価)にも使用され得る。具体的には例えば、食品中の残留農薬量を評価することに本発明の試験法を適用することができる。
【0028】
本発明の第2の局面は、線虫を用いた解毒性試験法に関する。本発明の解毒性試験法では、上記の有害性試験と同様に、解毒酵素のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック線虫を使用する。本発明の解毒性試験法は以下のステップを含む。尚、以下で特に言及しない事項(例えば解毒関連酵素や線虫)については第1の局面における説明が援用される。
(1)有害物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫を用意するステップ、
(2)有害物質及び検体の存在下、前記線虫を培養するステップ、
(3)前記レポーター遺伝子の発現量を測定するステップ、及び
(4)測定結果を用いて前記検体の解毒作用を評価するステップ。
本発明の解毒性試験法では、線虫に導入したレポーター遺伝子の発現量を指標として検体の解毒作用を評価する。検体が解毒作用を有する場合、有害物質による当該遺伝子プロモーターへの影響が無くなる(又は少なくなる)ので、その制御を受けるレポーター遺伝子の発現も無くなる(又は少なくなる)。検体の解毒作用の程度に応じて、このような抑制効果の大きさが変化する。以上のように、検体の解毒作用はレポーター遺伝子の発現量に反映される。従って、レポーター遺伝子の発現量を調べれば、検体の解毒作用の程度を評価することができる。
尚、ここでの「解毒」は、有害物質の分解、抱合、接合、吸着、代謝など広義の意味をもつ
【0029】
本発明の解毒性試験は例えば食品危害物質に対する解毒物質を探索することに利用できる。ここで、食品危害物質に対する解毒物質には、食品中の食品危害物質含量が多いときに特に有効に作用することが望まれる。このことを考慮して本発明の好ましい一態様では、低濃度よりもむしろ高濃度の有害物質によって発現が増強される遺伝子(代表的にはGST遺伝子)のプロモーターを利用した検出系がより有効に構築される。即ち、例えばGST遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入されたトランスジェニック線虫を用いた試験法とする。
【0030】
ステップ(1)では、上記の試験法の場合と同様の方法でトランスジェニック線虫が用意される。但し、有害物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターが使用される。続くステップ(2)では有害物質及び検体の存在下でトランスジェニック線虫(以下、説明の便宜上、「線虫」とする)を培養する。この培養によって線虫が有害物質と検体に曝露されることになる。例えば、予め有害物質及び検体を含有させた培地で線虫を培養する。これによって線虫は培地を摂食する際、同時に有害物質及び検体を体内に取り込むことになる。検体が解毒作用を有すれば、摂食の際、又は摂食後に有害物質の有害性が抑制ないし打ち消される。このような解毒作用は、後述のステップ(3)で得られるレポーター遺伝子の発現量に反映される。
【0031】
一方、予め有害物質のみを含有させた培地で線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ検体を添加することにしてもよい。この方法によれば、線虫は培養途中から検体を体内に取り込むことになる。従って、有害物質の摂取後に摂取されたときに検体が解毒作用を発揮するか否かを評価可能な解毒性試験法となる。つまり、有害物質の摂取後に摂取しても有効な解毒物質を検索することに有効な試験系が構築される。尚、ここでの「ある時点」とは例えば培養開始後0分〜10時間経過した時点である。
ところで以上の方法では、検体が添加される前に有害物質が線虫に取り込まれることよってレポーター遺伝子が発現するおそれがある。その発現産物が分解され難いレポーター遺伝子を使用した場合(例えばGFP遺伝子を使用した場合)にこのような発現が生じれば、検体の解毒作用の有無とは無関係にレポーター遺伝子の発現が検出されることになり、検体の解毒性評価を困難にする。そこで、本発明の好ましい一態様では、予め検体のみを含有させた培地で線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ有害物質を添加する。このように検体を先に培地に添加し線虫に取り込ませておくことによって、検体の解毒作用の有無とは無関係に生ずる上記の如きレポーター遺伝子の発現を抑制でき、その結果、検体の解毒作用を評価し易くできる。
【0032】
ステップ(2)の持続時間、即ち培養時間は特に限定されるものではないが、例えば1時間〜2日、好ましくは1時間〜24時間、更に好ましくは1時間〜10時間とする。後述の実施例に示すように本発明の解毒性試験法は、応答性に優れたレポーター遺伝子発現系を利用することによって短時間での検出・評価を可能とする。
【0033】
検体には例えば、食品(飲料、機能性食品やサプリメントも含む)、食品添加物、医薬又は医薬候補等が用いられる。
【0034】
本発明の一態様では有害物質及び/又は検体の濃度が異なる複数の条件でステップ(2)を行う。各条件についての測定結果を比較して検体の解毒作用を評価すれば、濃度依存性など、解毒作用に関する詳細な情報を得ることが可能となる。
【0035】
ステップ(3)ではレポーター遺伝子の発現量を測定する。レポーター遺伝子の発現量の測定は、上記の試験法と同様の方法で実施される。
【0036】
ステップ(4)では、ステップ(3)の測定結果(即ちレポーター遺伝子の発現量)を用いて検体の有害性を評価する。上記の通り、レポーター遺伝子の発現量は検体の解毒作用を反映する。従ってレポーター遺伝子の発現量を指標として検体の解毒作用を評価することができる。本発明の一態様では、測定結果を基準発現量と比較することによって検体の解毒作用を評価する。
基準発現量として例えば、有害物質の非存在下且つ検体の非存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量、有害物質の非存在下且つ検体の存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量、及び有害物質の存在下且つ検体の非存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量からなる群より選択されるいずれかを用いることができる。複数の基準発現量を用いることにしてもよい。
ここで例示した基準発現量はいずれも、いわゆる陰性対照(ネガティブ・コントロール)となる。この基準発現量を用いることによって、検体の解毒作用の評価を客観的且つ正確に行うことができる。尚、これらの基準発現量は、原則として、有害物質及び検体の存在に関わる条件以外、有害物質及び検体の存在下での測定と同条件で測定される。
【0037】
使用する有害物質に対する解毒物質が入手可能な場合、有害物質の存在下且つ当該解毒物質の存在下で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量をいわゆる陽性対照(ポジティブ・コントロール)として利用することができる。陽性対照を用いることによって、検体の解毒作用を特定の解毒物質と比較・評価することができる。つまり、特定の解毒物質の解毒作用を基準に検体の解毒作用を把握することが可能となる。
【0038】
本発明の一態様では、上記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにする。そしてステップ(4)では、得られた複数の測定結果と基準発現量との比較を行う。このような経時的な測定及び比較を行えば、解毒作用の持続時間や作用機構など、検体の解毒作用を評価する上で有益な多くの情報を得ることができる。また、リアルタイムに検体の解毒作用を評価することも可能である。
【0039】
本発明の他の一態様では、上記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにする。そしてステップ(4)では、得られた複数の測定結果を用いてレポーター遺伝子の発現量が基準発現量以下の値を示すまでに要した時間を算出する。算出した時間によって検体の解毒作用を評価する。このような評価法によれば解毒作用の作用機構などについて詳細な情報を得ることができる。ここでの「基準発現量」としては、典型的には、有害物質の存在下(検体は非存在下)で線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量が用いられる。
【0040】
本発明の解毒性試験法は、特定の有害物質に対して解毒作用を発揮する物質(解毒物質)の探索・同定に利用され得る。具体的には例えば、食べ合わせによって食品中の有害物質を解毒することが可能な食品の探索・同定に本発明を適用することができる。即ち、ある食品中の有害物質(食品危害物質)が問題とされ、その解毒化が要請されている場合に、食べ合わせによって当該食品危害物質を解毒化し、生体への悪影響を抑えることが可能な食品を見出すことに本発明を利用することができる。そこで本発明はさらなる局面として、上記の解毒性試験法を実施した結果、解毒作用が認められた物質を有効な物質として選択するステップを含む、解毒物質の同定・取得法、及び当該取得法で取得された解毒物質を提供する。本発明の取得法で得られた食品を、それが対応する食品危害物質を含有する食品と同時に摂取すれば(食べ合わせ)、食品危害物質の作用を打ち消し、生体への悪影響を抑えたり取り除いたりすることができる。尚、ここでの「同時に」は、体内において、又は体内に取り込む前の調理段階を含む状態において、有害物質と解毒物質の共存状態が形成される程度の同時性を意味し、厳密な同時性を要求するものでない。
【0041】
ところで本発明者は、食品中のアクリルアミドが問題視されていることに鑑み、本発明の解毒試験法によってアクリルアミドに対して有効な解毒物質を検索し、いくつかの有効な物質を見出すことに成功した。本発明の更なる局面はこの成果に基づき、アクリルアミドを含有する食品と同時に摂取されることによってアクリルアミドの有害性を解毒する食品又は食品添加物を提供する。本発明の食品又は食品添加物は、茶もしくはその加工品、又は乳もしくはその加工品を含む。ここでの「茶」は、煎茶、玉露、抹茶、番茶、焙じ茶及び玄米茶等の不発酵茶(緑茶)、烏龍茶及び包種茶等の半発酵茶、紅茶等の完全発酵茶、並びに阿波番茶、だん茶、黒茶、碁石茶及びプーアル茶等の後発酵茶を含む。また、これらの中から任意に選択される二つ以上の茶を混合して得られるブレンド茶も本発明における「茶」に含まれる。また、「(茶の)加工品」とは、茶(又は茶葉)に対して一以上の加工(濃縮、加熱、冷凍、粉砕など)を施して得られるものをいい、例えば粉末茶、茶葉又は茶を添加した各種菓子・パン、あるいはアイスクリームなどが該当する。
一方、「乳」は、牛乳に限らず、ヤギ、羊、水牛、馬等の乳であってもよい。また、「(乳の)加工品」とは、乳に対して一以上の加工(脱水、濃縮、加熱、冷凍、発酵など)を施して得られるものをいい、例えば脱脂粉乳、生クリーム、練乳(加糖練乳を含む)、チーズ、ヨーグルト、アイスクリームなどが該当する。
尚、本発明において用語「食品」は広義の意味で使用し、その概念に飲料やサプリメント(栄養補助食品)や機能性食品も含まれる。サプリメントの場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で本発明の食品を提供することができる。
【0042】
以下、本発明の実施例(実験例を含む)を説明する。尚、特に記載のない限り、本明細書における遺伝子工学的操作は例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)或いはCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参考にして行うことができる。
【実施例】
【0043】
<C.エレガンスにおけるアクリルアミドの作用に関するプロテオーム解析>
(1)方法
(a)二次元電気泳動
線虫(C.エレガンスN2株)を様々な濃度(主には0.5μg/Lから500mg/L)のアクリルアミドを含有する培地を用いて48時間培養した後、凍結粉砕しタンパク質を抽出した。陰性対照としてアクリルアミドのない状態で培養した線虫を用いた。Immobiline DryStrip Gels(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社、東京)にサンプルタンパク質を水和させ常温で一晩静置した後、一次元電気泳動(日本泳動、東京)にかけた。二次元電気泳動はSDS−PAGEを行った。二次元電気泳動後、CBB Stain One(Nacalai Tesque、京都)で染色した。染色したゲルをスキャン(エプソンES-8500)し、イメージアナライザー(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社、東京)で解析した。
(b)タンパク質の同定
電気泳動で同定されたスポットを抽出し、MALDI-TOF MSスペクトロメーター(Bruker Daltonics, Billerica)を使用してペプチド質量フィンガープリンティングを行い、タンパク質を同定した。
【0044】
(2)結果
二次元電気泳動の結果を図1に示す。500mg/Lのアクリルアミド含有培地で培養した線虫から抽出したタンパク質を試料とした場合の結果(右)と、陰性対照の結果(左)が比較される。二次元電気泳動アクリルアミドで発現量の大幅な上昇をみせる遺伝子産物(タンパク質)を22種類同定できた。この内5種類がGSTタンパク質であった(図2の表)。
【0045】
<C.エレガンスを用いた有害性試験>
1.トランスジェニック線虫の作製
GFP遺伝子をコードするDNA断片と、線虫のGST−4プロモーターDNA(配列番号1)とをライゲーションさせ、GST−プロモーターの下流にGFP遺伝子が連結したプラスミドpMJ06.03を得た。
【0046】
直径約1mmのガラス管の先端を1μm以下の太さに細工して得た注射針を使い、プラスミドpMJ06.03をプラスミドpRF4とともに線虫の生殖巣に微量注射した。プラスミドpRF4は遺伝子rol−6(su1006)を含むマーカープラスミドである。rol−6が導入された個体は、前進あるいは後退の際に、体が体軸を中心に回転し、弧を描くような運動すなわちローラー(roller)表現型を示す。従って、当該表現型を指標とすることによって、微量注射を受けた雌雄同体から生まれる第一世代(F1)中から形質転換体を容易に選択することができる。
まず、塩化セシウム密度勾配遠心により調製したプラスミドDNAを緩衝液(2% ポリエチレングリコール6000、20mM リン酸カリウム、3mM クエン酸カリウム、pH7.5)に溶解し、注射針の中に入れた。尚、プラスミドpMJ06.03及びプラスミドpRF4の濃度はそれぞれ50μg/ml及び50μg/mlとした。
一方、純水に溶解した2%アガロースを80〜90℃に保ち、スライドグラス上に1滴のせた。カバーグラスを被せた後、指で中央を押さえ、薄いアガロースパッドを作製した。続いてアガロース面を上にして100℃のオーブン内で1時間乾燥させた。次に、アガロースパッド上にパラフィンオイルを一滴のせ、その中に雌雄同体の若い成虫の線虫(C.エレガンスN2株)を置いた。倒立ノマルスキー微分干渉顕微鏡で観察し、線虫の動きが鈍くなるのを待ち、マイクロマニピュレーターを操作して生殖巣の中に針先を刺入し、圧力によってプラスミドDNA溶液を注入した。微量注射の終了後、速やかにM9緩衝液(1L純水中6gNa2HPO4、3gKH2PO4,5gNaCl、0.5mM MgSO4)を線虫の上に滴下した。ガラスキャピラリーを用いて線虫を取り出し、大腸菌を増殖させたNGプレート(1L純水中3gNaCl、5gBacto−peptone、17g寒天、5mgコレステロール、0.5mMCaCl2、1mM MgSO4、25mMリン酸カリウム[pH6.0])上で飼育した。そして、F1の中からローラー表現型を示すもの(トランスジェニック線虫)を回収し、以下の有害性試験に使用した。通常、微量注射した雌雄同体1個体から約10個体のトランスジェニック線虫が得られる。また、次世代(F2)の約60%もローラー表現型を示した。F2世代以降は、1個体から100個体以上のローラー表現型個体が得られる。
【0047】
2.トランスジェニック線虫を用いた有害性試験
2−1.アクリルアミドの有害性評価
(1)方法
(a)培養法(アクリルアミドによる処理)
L4幼虫に同調化させたトランスジェニック線虫を用意する。アクリルアミド(0.05μg/L〜5μg/L)および大腸菌Escherichia coli OP50(108cell)を含むS medium(以下参照)100μLあたり、線虫100頭となるように調整し、96穴マイクロプレートにて20℃で培養した。
100× Trace metals solution:FeSO4 7H2O 0.346g, Na2EDTA 0.93g, MnCl2 4H2O 0.098g, ZnSO4 7H2O 0.144g, CuSO4 5H2O 0.012g を蒸留水500mlに溶解し、オートクレーブする。遮光保存。
クエン酸カリウム溶液:クエン酸1水和物21.02gを80mlの蒸留水に溶解し,KOHを加えて(約17g)pH 6.0になるよう調節した後、蒸留水で100mlにメスアップした後、オートクレーブする。
S medium(0.5Lスケール):NaCl 2.9g, リン酸バッファー 25ml, 5mg/mlコレステロール(エタノールに溶解)0.5ml,蒸留水475mlを加え、オートクレーブした後に滅菌済みの1M MgSO4 1.5ml,1M CaCl2 1.5ml,100×Trace metals solution 5mL,クエン酸カリウム溶液5mlをそれぞれ加える。
【0048】
(b)評価法
蛍光強度測定装置(Wallac 1420 ARVOsx Multi Label Counter,Perkin Elmer)にて、GFP蛍光強度の経時変化を線虫が生きたまま測定した。ひとつのサンプル(1穴つまり100頭の線虫)の値は、3回測定した値の平均とし、また各濃度の値は、それぞれ3サンプル以上の値を測定した。アクリルアミドを含まないコントロールの蛍光強度と比較・検定を行うことでアクリルアミドの毒性を評価した。
【0049】
(2)結果
濃度の高い300 mg/Lから500 mg /Lにおいては、実体蛍光顕微鏡で3時間後からすでに蛍光をはっきりととらえることができた。蛍光強度測定装置では4から5時間後からコントロールとの有意な差がではじめ、12時間後には4時間時点に比しおよそ9から12倍の強度となった(図3)。また、200 mg/Lの濃度においても5から6時間後に有意な差を検出できた。24時間後には、50 mg/Lの濃度においても差を確認することができた。蛍光顕微鏡観察なら50 mg/Lでも10時間以内に蛍光をとらえることができた。
測定終了後も全ての線虫が生存していた。このように、生きたまま直接毒性評価を行うことが可能であった。また、線虫の齢を揃えることが容易なため、信頼度および再現度の高い結果を得ることが可能であった。線虫への影響をリアルタイムで捉えることが可能であった。これによって、線虫へ影響を及ぼし始める時間や影響を与える最低濃度などを把握することができた。
【0050】
2−2.他の有害物質の有害性評価
(1)方法
2−1.(1)と同様の方法で、カドミウム、グラシダミド、アセトクロル(枯草剤)、アトラジン(枯草剤)、アレスリン(殺虫剤)の有害性を評価した。尚、各有害物質についての飼育条件は次の通りとした。
カドミウム:0.0183g/L (0.1 mM)、0.183 g/L (1 mM)、1.83 g/L (10 mM)、18.3 g/L (100 mM)の4段階の濃度下
グラシダミド:0.05μg/L〜500 mg/Lの11段階の濃度下
アセトクロル:1μg/L、5μg/Lの2段階の濃度下
アトラジン:1μg/L、5μg/Lの2段階の濃度下
アレスリン:1μg/L、5μg/Lの2段階の濃度下
【0051】
(2)結果
カドミウムの場合、1.83 g/Lの濃度下の条件において4時間後から陰性対照との明確な差を認め、検出が可能であった。グラシダミドの場合は50 mg/Lの濃度下の条件において4時間後に、アセトクロル、アトラジン、又はアレスリンの場合は1μg/Lの濃度下の条件において1時間後にそれぞれ陰性対照との差を検出できた。
以上からわかるように、GST−4遺伝子のプロモーターを利用した試験系によって、数多くの物質について生体への影響を迅速且つ容易に検出できた。上記のプロテオーム解析の結果を考慮すれば、GST−4遺伝子以外のGST遺伝子のプロモーターによっても同様の試験系を構築可能と考えられる。従って、約50種類ある線虫のGST遺伝子を利用すれば、非常に多くの化合物について生体への影響を検証することができると予測される。
【0052】
<C.エレガンスを用いた解毒性試験>
(1)方法
L4幼虫に同調化させたトランスジェニック線虫2000〜5000頭を以下の条件としたS medium 10 mlに移し、Escherichia coli OP50 10 9/ mlに調整して培養した。
検体群:
(a)アクリルアミド500 mg /Lを含有するS medium;
(b)アクリルアミド500 mg /L及びこいお茶0.08 g/ 10 mlを含有するS medium;
(c)こいお茶0.08 g/ 10 mlを含有するS medium;
(d)アクリルアミド500 mg /L及びスキムミルク1.14 g/ 10 mlを含有するS medium;
(e)スキムミルク1.14 g/ 10 mlを含有するS medium;
対照群(コントロール):S mediumのみ
【0053】
以上の条件の培地を使用して20℃で培養し、3時間後、6時間後、9時間後に各群3 mlずつ回収した。0.1 M NaClで洗浄し、0.1 M NaCl で100頭/ 100μlとなるよう調整した後、マイクロウェルに移し、蛍光強度を測定した。各ウェルあたり3回測定し、その平均をwellひとつ分の値とした。対照群の蛍光強度と比較・検定を行うことで、各検体群のアクリルアミドの解毒性を評価した。
【0054】
(2)結果
蛍光強度の測定結果を図4の表にまとめた。アクリルアミド含有培地で培養した場合(検体群(a))、6時間後で既に対照群の約1.3倍の蛍光強度を示すまでになったが、お茶又はスキムミルクを加えた場合(検体群(b)、(d))は対照群と同等の蛍光強度であった。9時間後では、アクリルアミド含有培地で培養した場合(検体群(a))は対照群の1.5倍強の蛍光強度を示したのに対し、お茶又はスキムミルクを加えた場合(検体群(b)、(d))は対照群の約1.1倍の蛍光強度であり、お茶又はスキムミルクによってアクリルアミドの毒性が抑えられていることがわかる。なお、ここに示す蛍光強度の比較は対照群のバックグラウンドを差し引かないままの数値であり、バックグラウンドを差し引けば、対照群と検体群の差は著しく大きくなる。
以上のように、アクリルアミドに対する解毒作用がお茶及びスキムミルクに認められた。また、毒性物質と同時に摂取された際、解毒作用を発揮する物質を同定するための手段として本試験系が有効であることが明らかとなった。
【0055】
<C.エレガンスを用いた、有益物質の有益性試験>
(1)方法
L4幼虫に同調化させたトランスジェニック線虫2000〜5000頭を以下の条件としたNG medium(前期NGプレート培地から寒天を除去したもの)10 mlに移し、Escherichia coli OP50 10 9/ mlに調整して培養した。
検体:おろしわさび(万城食品株式会社)20 mg/10ml NG medium
対照:NG mediumのみ
【0056】
(2)結果
図5に示したように、二時間後にはっきりと蛍光を発するようになった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の試験法によれば簡便な操作によって、迅速且つ経済的に評価結果を得ることができ、しかも正確な評価が可能となる。本発明の試験法は様々な物質の評価に利用でき、汎用性が高い。さらには、本発明の試験法では、生きたままの個体を使用することからリアルタイムな評価も可能である。本発明の一態様によれば、同時摂取によって、食品中の有害物質(食品危害物質)を解毒(阻害、抑制あるいは抱合、吸着などによる除去を含む)することが可能な食品等を見出すことができる。また、本発明は、食品中の有効成分を発見する方法として利用することも可能である。このような試験系は、生きた個体を利用した本発明によって初めて可能になるものである。
【0058】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】プロテオーム解析における二次元電気泳動の結果。右:500mg/Lのアクリルアミド含有培地で培養した線虫から抽出したタンパク質を試料として得られたゲルのイメージ、左:陰性対照。
【図2】プロテオーム解析によってアクリルアミド応答性であることが判明した5種類のGSTタンパク質を示す表。
【図3】トランスジェニック線虫を用いた有害性試験の結果を示すグラフ。アクリルアミドの影響による蛍光強度の経時的変化が示される。
【図4】解毒性試験の結果(蛍光強度)をまとめた表。値は対照群(コントロール)の蛍光強度を100としたときの相対値で示した。CV(Coefficiency variance)(%)=(標準偏差/平均値)×100。「N」は計測したウェル数、「AA」はアクリルアミド、「Tea」はこいお茶、「Milk」はスキムミルク。
【図5】有益性試験の結果を示す図。上:微分干渉顕微鏡像、下:蛍光顕微鏡像(処理2時間後)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、線虫を用いた有害物質又は有益物質の試験法、
(1)有害物質又は有益物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫を用意するステップ、
(2)検体の存在下、前記線虫を培養するステップ、
(3)前記レポーター遺伝子の発現量を測定するステップ、及び
(4)測定結果を用いて前記検体の前記線虫への影響を評価するステップ。
【請求項2】
有害物質又は有益物質に応答して発現量が変化する遺伝子が解毒関連遺伝子である、請求項1に記載の試験法。
【請求項3】
前記解毒関連遺伝子がチトクロムP450遺伝子である、請求項2に記載の試験法。
【請求項4】
前記解毒関連遺伝子がUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ遺伝子である、請求項2に記載の試験法。
【請求項5】
前記解毒関連遺伝子がグルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝子である、請求項2に記載の試験法。
【請求項6】
前記解毒関連遺伝子がカルボキシルエステラーゼ遺伝子である、請求項2に記載の試験法。
【請求項7】
前記レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である、請求項1に記載の試験法。
【請求項8】
前記蛍光タンパク質遺伝子が緑色蛍光タンパク質遺伝子である、請求項7に記載の試験法。
【請求項9】
前記線虫が自由生活性土壌線虫である、請求項1に記載の試験法。
【請求項10】
前記線虫が自家受精可能な雌雄同体型自由生活性土壌線虫である、請求項1に記載の試験法。
【請求項11】
前記線虫がC.エレガンス(Caenorhabditis elegans)である、請求項1に記載の試験法。
【請求項12】
前記検体が、医薬又は医薬候補、化粧品又は化粧品候補、農薬又は農薬候補、除草剤又は除草剤候補、殺虫剤又は殺虫剤候補、殺菌剤又は殺菌剤候補、内分泌かく乱物質、重金属、アクリルアミド、食品、食品添加物、食品危害物質、調理により生成する食品危害物質、及び環境汚染物質からなる群より選択されるいずれかである、請求項1〜11のいずれかに記載の試験法。
【請求項13】
前記ステップ(2)が、
(2−1)予め検体を含有させた培地で前記線虫を培養すること、又は
(2−2)検体を含有しない培地で前記線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ検体を添加すること、
からなる、請求項1に記載の試験法。
【請求項14】
前記ステップ(4)において、測定結果を基準発現量と比較することによって前記検体の有害性又は有益性を評価する、請求項1に記載の試験法。
【請求項15】
前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果と基準発現量との比較を行う、請求項14に記載の試験法。
【請求項16】
前記基準発現量が、前記ステップ(2)の前に測定した前記レポーター遺伝子の発現量、前記検体の非存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量、又は特定の有害物質又は有益物質の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、請求項14又は15に記載の試験法。
【請求項17】
前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果を用いて、前記レポーター遺伝子の発現量が基準発現量以上の値を示すまでに要した時間、又は前記レポーター遺伝子の発現量が基準発現量以上の値を維持した時間を算出し、該時間により前記検体の影響を評価する、請求項1に記載の試験法。
【請求項18】
前記基準発現量が、特定の有害物質又は有益物質の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、請求項17に記載の試験法。
【請求項19】
前記ステップ(2)を、前記検体の濃度が異なる複数の条件で行い、
前記ステップ(4)において、各条件についての測定結果を比較して前記検体の影響を評価する、請求項1に記載の試験法。
【請求項20】
以下のステップを含む、線虫を用いた解毒性試験法、
(1)有害物質に応答して発現量が変化する遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子が導入された線虫を用意するステップ、
(2)有害物質及び検体の存在下、前記線虫を培養するステップ、
(3)前記レポーター遺伝子の発現量を測定するステップ、及び
(4)測定結果を用いて前記検体の解毒作用を評価するステップ。
【請求項21】
有害物質に応答して発現量が変化する遺伝子が解毒関連遺伝子である、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項22】
前記解毒関連遺伝子がチトクロムP450遺伝子である、請求項21に記載の解毒性試験法。
【請求項23】
前記解毒関連遺伝子がUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ遺伝子である、請求項21に記載の解毒性試験法。
【請求項24】
前記解毒関連遺伝子がグルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝子である、請求項21に記載の解毒性試験法。
【請求項25】
前記解毒関連遺伝子がカルボキシルエステラーゼ遺伝子である、請求項21に記載の解毒性試験法。
【請求項26】
前記レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項27】
前記蛍光タンパク質遺伝子が緑色蛍光タンパク質遺伝子である、請求項26に記載の解毒性試験法。
【請求項28】
前記線虫が自由生活性土壌線虫である、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項29】
前記線虫が自家受精可能な雌雄同体型自由生活性土壌線虫である、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項30】
前記線虫がC.エレガンス(Caenorhabditis elegans)である、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項31】
前記検体が、食品、食品添加物、医薬又は医薬候補からなる群より選択されるいずれかである、請求項20〜30のいずれかに記載の解毒性試験法。
【請求項32】
前記ステップ(2)が、
(2−1)予め有害物質及び検体を含有させた培地で前記線虫を培養すること、
(2−2)予め有害物質を含有させた培地で前記線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ検体を添加すること、又は
(2−3)予め検体のみを含有させた培地で前記線虫の培養を開始し、ある時点で培地へ有害物質を添加すること、
からなる、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項33】
前記ステップ(4)において、測定結果を基準発現量と比較することによって前記検体の解毒作用を評価する、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項34】
前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果と基準発現量との比較を行う、請求項33に記載の解毒性試験法。
【請求項35】
前記基準発現量が、前記有害物質の非存在下且つ前記検体の非存在下で前記線虫を培養した場合のレポーター遺伝子の発現量、前記有害物質の非存在下且つ前記検体の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量、又は前記有害物質の存在下且つ前記検体の非存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、請求項33又は34に記載の解毒性試験法。
【請求項36】
前記ステップ(3)を経時的に行い、測定時点の異なる複数の測定結果を得ることにし、
前記ステップ(4)において、該複数の測定結果を用いて、前記レポーター遺伝子の発現量が基準発現量以下の値を示すまでに要した時間により前記検体の解毒作用を評価する、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項37】
前記基準発現量が、前記有害物質の存在下で前記線虫を培養した場合の前記レポーター遺伝子の発現量である、請求項36に記載の解毒性試験法。
【請求項38】
前記ステップ(2)を、前記有害物質及び/又は検体の濃度が異なる複数の条件で行い、
前記ステップ(4)において、各条件についての測定結果を比較して前記検体の解毒作用を評価する、請求項20に記載の解毒性試験法。
【請求項39】
請求項20〜38のいずれかに記載の解毒性試験法を実施した結果、解毒作用が認められた物質を有効な物質として選択するステップを含む、解毒物質の取得法。
【請求項40】
請求項39の取得法で取得された解毒物質。
【請求項41】
アクリルアミドと同時に摂取されることによってアクリルアミドの有害性を解毒する食品又は食品添加物であって、茶もしくはその加工品、又は乳もしくはその加工品を含む、食品又は食品添加物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−29220(P2008−29220A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203595(P2006−203595)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】