線電流検出装置および電力変換システム
【課題】誤差を低減して線電流を得ることができる線電流検出装置を提供する。
【解決手段】二相線電流取得部33は、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンが変化するタイミングよりも前又は後の第1時点において検出された直流電流を、第1時点でのスイッチングパターンによって決定される第1相の線電流として推定し、当該タイミングに対して第1時点とは反対側であって前記第1時点との差が第1時間である第2時点において検出された直流電流を、第2時点でのスイッチングパターンによって決定される第2相の線電流として推定する。線電流補正部34は、第1相の線電流を補正して第3時点における第1相の線電流と、第3時点との差が第1時間よりも短い第2時間である第4の時点における第2相の線電流とを出力し、第1相の線電流のみを補正するときには第4時点として第2時点が採用される。
【解決手段】二相線電流取得部33は、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンが変化するタイミングよりも前又は後の第1時点において検出された直流電流を、第1時点でのスイッチングパターンによって決定される第1相の線電流として推定し、当該タイミングに対して第1時点とは反対側であって前記第1時点との差が第1時間である第2時点において検出された直流電流を、第2時点でのスイッチングパターンによって決定される第2相の線電流として推定する。線電流補正部34は、第1相の線電流を補正して第3時点における第1相の線電流と、第3時点との差が第1時間よりも短い第2時間である第4の時点における第2相の線電流とを出力し、第1相の線電流のみを補正するときには第4時点として第2時点が採用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線電流検出装置および電力変換システムに関し、特に直流電流を線電流として検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には三相インバータが記載されている。三相インバータは入力された直流電圧を交流電圧に変換する。この変換はインバータが有するスイッチング素子の導通/非導通を適宜に切り替えることで実現される。
【0003】
また特許文献1では三相インバータの入力側を流れる直流電流を用いて、三相インバータの出力側を流れる電流、即ち3相の相電流を検出する。この検出は、インバータが採用する通電パターンに基づいて母線電流と相電流とを対応させることで行われる。例えば所定周期において、異なる2つの通電パターンが採用される期間の各々で母線電流を検出し、これらを当該2つの通電パターンに基づいて決定される2相の相電流として検出する。そして、3相の相電流の総和が零であるという関係に基づいて残りの1相の相電流を算出している。
【0004】
本発明に関連する技術として特許文献2〜7が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4429338号公報
【特許文献2】特許第4578500号公報
【特許文献3】特開2004−48868号公報
【特許文献4】特開2011−67023号公報
【特許文献5】特開2004−64093号公報
【特許文献6】特開2007−312511号公報
【特許文献7】特許第3611492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、互いに異なる2つの時点における母線電流を、互いに異なる相の相電流として検出している。そして、この2つの時点における相電流を同じ時点における線電流であると見なして、残りの1相の線電流を算出している。よって、得られる3相の線電流には誤差が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、誤差を低減して線電流を得ることができる線電流検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる線電流検出装置の第1の態様は、誘導性負荷(2)に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)とを備える電力変換装置において、前記3つの交流線を流れる3相の線電流(iu,iv,iw)を検出する線電流検出装置であって、前記第1及び前記第2のスイッチング素子へスイッチング信号(S)を出力して前記第1及び前記第2のスイッチング素子のスイッチングパターンを制御するスイッチング制御部(31)と、前記第1又は前記第2の直流線を流れる直流電流(Idc)を検出する電流検出部(4)と、前記スイッチングパターンが変化するタイミング(t[k])よりも前又は後の第1時点(t1[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第1時点での前記スイッチングパターンによって決定される第1相の線電流として推定し、前記タイミングに対して前記第1時点とは反対側であって前記第1時点との差が第1時間である第2時点(t2[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第2時点での前記スイッチングパターンによって決定される第2相の線電流として推定する二相線電流取得部(33)と、前記二相線電流取得部によって取得された前記第1相及び前記第2相の線電流のうち少なくとも前記第1相の線電流を補正して、第3時点における前記第1相の線電流と、前記第3時点との差が前記第1時間よりも短い第2時間である第4の時点における前記第2相の線電流とを出力し、前記第1相の線電流のみを補正するときには前記第4時点として前記第2時点が採用される線電流補正部(34)と、同じ時点における前記3相の線電流の総和が零であるという関係を用いて、前記第3時点における前記第1相の線電流及び前記第4時点における前記第2相の線電流に基づいて、前記第3時点との差及び前記第4時点との差のいずれもが前記前記第1時間よりも短い第5時点における第3相の線電流を算出する一相線電流算出部(35)とを備える。
【0009】
本発明にかかる線電流検出装置の第2の態様は、第1の態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は、前記誘導性負荷(2)の等価回路の電圧方程式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する。
【0010】
本発明にかかる線電流検出装置の第3の態様は、第2の態様にかかる線電流検出装置であって、前記誘導性負荷(2)はモータであって、前記等価回路において、前記誘導性負荷(2)の抵抗成分(R2)及び誘導成分(L2)が、前記交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧による第1電圧源(E1)と、前記モータの回転に伴って前記誘導成分に生じる誘起電圧による第2電圧源(E2)とに直列に接続される。
【0011】
本発明にかかる線電流検出装置の第4の態様は、第1の態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は、前記第1相の線電流の基本波成分についての波形の式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する。
【0012】
本発明にかかる線電流検出装置の第5の態様は、第4の態様にかかる線電流検出装置であって、前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、前記線電流補正部(34)は、前記3つの交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(344)と、前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相(θi)を算出する電流位相算出部(345)と、前記電流位相と前記電圧位相との間の位相差(Δθ)を算出し、前記位相差と前記第1時点(t1[k])における前記電圧位相とに基づいて前記第1時点における前記電流位相(θi)を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記第3時点における電流位相と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)とを備える。
【0013】
本発明にかかる線電流検出装置の第6の態様は、第4の態様にかかる線電流検出装置であって、前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、前記線電流補正部(34)は、前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相を算出する電流位相算出部(345)と、前記電流位相算出部からの前記電流位相と前記第1時点における電流位相との間の前記電流位相の差を前記3相の線電流(iu,iv,iw)の角速度(ω)に基づいて算出し、前記電流位相の差を前記電流位相算出部からの前記電流位相に加算して、前記第1時点の電流位相を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)とを備える。
【0014】
本発明にかかる線電流検出装置の第7の態様は、第4の態様にかかる線電流検出装置であって、前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、前記線電流補正部(34)は、前記タイミングより(t[k])も前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出する電流振幅算出部(347)と、前記第1時点における前記第1の線電流と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第1時点における前記3相の線電流についての電流位相を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の前記電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における前記電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)とを備える。
【0015】
本発明にかかる線電流検出装置の第8の態様は、第5から第7の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記3相の線電流についての角速度と前記第1時点から前記第3時点までの期間との積として算出する。
【0016】
本発明にかかる線電流検出装置の第9の態様は、第5から第7の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記相電圧についての電圧位相と前記第3時点における前記電圧位相との差として算出する。
【0017】
本発明にかかる線電流検出装置の第10の態様は、第1から第9の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は前記第1相及び前記第2相の線電流の両方を補正し、前記第4時点は前記第3時点である。
【0018】
本発明にかかる線電流検出装置の第11の態様は、第10の態様にかかる線電流検出装置であって、前記第5時点は前記第3時点である。
【0019】
本発明にかかる線電流検出装置の第12の態様は、第1から第9の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は前記第1相の線電流のみを補正し、前記第3時点(t2[k])は前記第2時点(t2[k])である。
【0020】
本発明にかかる線電流検出装置の第13の態様は、第12の態様にかかる線電流検出装置であって、前記第5時点は前記第2時点である。
【0021】
本発明にかかる電力変換システムの第1の態様は、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、誘導性負荷に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)と、第1から第13の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置(3)とを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる線電流検出装置の第1の態様によれば、線電流補正部は、補正前の時間差たる第1時間よりも短い時間差を有する第3時点および第4時点における第1相及び第2相の線電流を出力する。よって、一相線電流算出部はより近い時点における第1相および第2相の線電流を用いて第3相の線電流を算出する。一相線電流算出部は、同じ時点における3相の線電流の総和が零であるという関係を用いているところ、より近い時点における第1相および第2相の線電流を用いる。しかも、これらに基づいて第3時点との差及び第4時点との差が補正前の時間差たる第1時間よりも短い第5時点における第3相の線電流を算出している。以上のように、第1相から第3相の線電流のそれぞれに対する第3時点から第5時点の相互間の時間が、補正前の第1時間よりも短いので、第3相の線電流の算出精度を向上することができる。
【0023】
本発明にかかる線電流検出装置の第2の態様によれば、等価回路による式を用いているので、高い精度で第3時点における第1相の線電流を算出できる。
【0024】
本発明にかかる線電流検出装置の第3の態様によれば、誘導性負荷として簡易な等価回路を用いているので、比較的簡易な演算で第3時点における第1相の線電流を算出できる。
【0025】
本発明にかかる線電流検出装置の第4の態様によれば、第1の態様にかかる線電流検出装置に実現に資する。
【0026】
本発明にかかる線電流検出装置の第5及び第6の態様によれば、第4の態様にかかる線電流検出装置の実現に資する。
【0027】
本発明にかかる線電流検出装置の第7の態様によれば、第5,6の態様にかかる線電流検出装置に比して簡易な演算で第1時点における電流位相を算出することができる。ひいては簡易な演算で第3時点における線電流を算出することができる。
【0028】
本発明にかかる線電流検出装置の第8及び第9の態様によれば、第5から第7の何れかの態様にかかる線電流検出装置の実現に資する。
【0029】
本発明にかかる線電流検出装置の第10の態様によれば、同じ第3時点における第1相および第2相の線電流に基づいて第3相の線電流を算出しているので、第3相の線電流の算出精度をさらに向上できる。
【0030】
本発明にかかる線電流検出装置の第12の態様によれば、同じ第2時点における第1相および第2相の線電流に基づいて第3相の線電流を算出しているので、第3相の線電流の算出精度をさらに向上できる。しかも、第1相の線電流のみに補正を行えばよいので、演算を簡略化できる。
【0031】
本発明にかかる線電流検出装置の第11,13の態様によれば、第1相から第3相の線電流にそれぞれ対応する時点が、同じ時点であるので、さらに第3相の線電流の算出精度を向上できる。
【0032】
本発明にかかる電力変換システムの第1の態様によれば、高い精度で3相の線電流を検出できる電力変換システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】インバータの概念的な構成の一例を例示する図である。
【図2】相電圧の一例を模式的に示す図である。
【図3】インバータを流れる電流を示す図である。
【図4】インバータを流れる電流を示す図である。
【図5】インバータを流れる電流を示す図である。
【図6】インバータを流れる電流を示す図である。
【図7】インバータを流れる電流を示す図である。
【図8】インバータを流れる電流を示す図である。
【図9】インバータを流れる電流を示す図である。
【図10】インバータを流れる電流を示す図である。
【図11】直流電流の検出タイミングおよび相電流の推定タイミングの一例を模式的に示す図である。
【図12】等価回路を示す図である。
【図13】位相差δを示す図である。
【図14】制御部の概念的な構成の一例を示す図である。
【図15】制御部の概念的な構成の一例を示す図である。
【図16】制御部の概念的な構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<構成>
図1に示すように、電力変換システムは電力変換装置1と制御部3と電流検出部4とを備えている。電力変換装置1は直流線LH,LL及び交流線Pu,Pv,Pwと接続される。電力変換装置1はインバータであって、直流線LH,LLの間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して、当該交流電圧を交流線Pu,Pv,Pwへと出力する。ここでは直流線LLに印加される電位は直流線LHに印加される電位よりも低い。また図1の例示では平滑コンデンサC1が設けられている。平滑コンデンサC1は直流線LH,LLの間の直流電圧を平滑する。ただし平滑コンデンサC1が設けられていなくても構わない。
【0035】
インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。スイッチング素子S1〜S3は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LHとの間に設けられる。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続され、ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ交流線Pu,Pv,Pwに接続される。
【0036】
各スイッチング素子S4〜S6は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LLとの間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続され、ダイオードD4〜D6のアノードは直流線LLに接続される。なお、スイッチング素子S1〜S6がMOS電界効果トランジスタなどのように寄生ダイオードを有する場合には、ダイオードD1〜D6は当該寄生ダイオードであってもよい。
【0037】
これらのスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチング信号Sが与えられる。このスイッチング信号Sにより各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチング信号Sを与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ1の制御については後に詳述する。
【0038】
インバータ1は誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は例えばモータであって交流線Pu,Pv,Pwに接続される。そして、誘導性負荷2に交流電圧が印加されれば、誘導性負荷2に略正弦波状の線電流iu,iv,iwが流れる。これによって誘導性負荷2が駆動される。ここでは、インバータ1から誘導性負荷2へと流れる線電流の方向を正、誘導性負荷2からインバータ1へと流れる線電流の方向を負とそれぞれ定義する。
【0039】
直流線LH,LLに流れる直流電流Idcは電流検出部4によって検出され、制御部3へと出力される。図1の例示では電流検出部4は直流線LLに設けられている。なお電流検出部4は直流線LHに設けられても良い。
【0040】
電流検出部4は例えばシャント抵抗R41と検出部41とを備えている。図1の例示ではシャント抵抗R41は直流線LLに設けられている。検出部41は例えばシャント抵抗R41に印加される電圧を検出して、シャント抵抗R41の抵抗値と、検出した電圧とに基づいて直流電流Idcを得る。検出部41はかかる直流電流Idcの値を制御部3に出力する。なお検出部41がシャント抵抗R41の電圧を検出して制御部3に出力し、制御部3が直流電流Idcを算出しても良い。また電流検出部4はシャント抵抗を用いて検出する必要はなく、任意の直流電流検出センサーが採用され得る。例えばホールCTなどの電流センサーを用いても良い。
【0041】
制御部3はスイッチング制御部31と線電流取得部32とを備えている。スイッチング制御部31はスイッチング信号Sをスイッチング素子S1〜S6へと出力してスイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンを制御する。このスイッチング信号Sは例えば次のように生成される。即ち、例えば交流線Pu,Pv,Pwに印加する相電圧Vu,Vv,Vwについての相電圧指令値V*を線電流取得部32からの線電流iu,iv,iwに基づいて生成し、かかる相電圧指令値とキャリア波形との比較によってスイッチング信号Sを生成する。線電流iu,iv,iwに基づく相電圧指令値の生成および相電圧指令値とキャリア波形との比較に基づくスイッチング信号Sの生成は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
【0042】
線電流取得部32は二相線電流取得部33と線電流補正部34と一相線電流算出部35とを備え、線電流iu,iv,iwを取得する。これらの詳細な動作については後に説明する。
【0043】
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0044】
<インバータ1の制御>
インバータ1はスイッチング信号Sによって例えば以下で述べるように制御される。まず、同じ交流線に接続される上側のスイッチング素子および下側のスイッチング素子は相互に排他的に導通する。即ち、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、直流線LH,LLが短絡して各スイッチング素子S1〜S6に大電流が流れることを防止するためである。
【0045】
一例として交流線Pu,Pv,Pwに印加される相電圧Vu,Vv,Vwが図2に例示する波形を採るように、スイッチング素子S1〜S6を制御する。図2の例示では、相電圧Vu,Vv,Vwの各々はその1周期当たりに1パルスを有している。また図2の例示では、各相電圧Vu,Vv,Vwが高電圧値を採る高電圧期間と低電圧値を採る低電圧期間とが互いにほぼ等しく、相電圧Vu,Vv,Vwの高電圧期間が電気角においてほぼ120度互いにずれている。
【0046】
図2の例示では、相電圧Vu,Vv,Vwの波形は理想的には矩形波であって、それぞれスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通に対応した二値をとる。なぜなら、例えばスイッチング素子S1が導通すれば直流線LHが交流線Puと接続されて相電圧Vuが高電圧値を採り、スイッチング素子S1が非導通すればスイッチング素子S4が導通するので、直流線LLが交流線Puと接続されて相電圧Vuが低電圧値を採るからである。図2では「Vu(S1)」と記載して、相電圧Vuの高電圧値/低電圧値が、それぞれスイッチング素子S1の導通/非導通であることをも示している。
【0047】
スイッチング素子S1〜S3の各々において導通期間と非導通期間とを互いにほぼ等しくし、スイッチング素子S1〜S3の導通期間を互いに120度ずつずらすことで、インバータ1は図2の相電圧Vu,Vv,Vwを出力することができる。
【0048】
また、このような制御によれば、スイッチング素子S1〜S6は次の6つのスイッチパターンのいずれかを採用する。ここで、上側および下側のスイッチング素子が導通することをそれぞれ「1」「0」で示し、各相のスイッチングパターンを並べて表すと、スイッチングパターンは、(001)(010)(011)(100)(101)(110)である。例えば下側のスイッチング素子S4,S5が導通し、上側のスイッチング素子S3が導通するときにはスイッチングパターン(001)が採用される(図2の電気角300度から360度の期間を参照)。
【0049】
また、これらのスイッチングパターンが採用されるときにインバータ1が出力する相電圧についてのベクトルを、上記数字の並びを2進数の数字と把握し、これを10進数で表して、それぞれ電圧ベクトルV1〜V6と表す。例えばスイッチングパターン(001)が採用されているときには電圧ベクトルV1が採用される。これらの電圧ベクトルV1〜V6は図2にも付記されている。
【0050】
なお、本実施の形態でのスイッチング素子S1〜S6の制御方法は上述の例に限らず任意の制御方法が採用され得る。例えば、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンとして、上述の6種類に次の2種類を加えて8種類のスイッチングパターンを採用しても良い。この2種類のスイッチングパターンとは、上側のスイッチング素子S1〜S3の全てが非導通する(000)と、上側のスイッチング素子S1〜S3の全てが導通する(111)とである。よって、この2種類のスイッチングパターンにおいて、交流線Pu,Pv,Pwのいずれもが直流線LHと導通し、または直流線LLと導通する。そしてインバータ1が出力する相電圧Vu,Vv,Vwの近似が例えばより正弦波に近付くように、8種類のスイッチングパターンを適宜に採用してスイッチング素子S1〜S6を制御してもよい。このような制御は従来公知であるので詳細な説明は省略する。
【0051】
<線電流の取得方法>
上述の各スイッチングパターンが採用されているときにインバータ1に流れる電流について考察する。なお上述の通りスイッチングパターンは電圧ベクトルと対応するので、以下では電圧ベクトルをも用いて説明する。図3〜図10はそれぞれ電圧ベクトルV0〜V7が採用されたときにインバータ1に流れる電流を示している。図3,10に示すように零電圧ベクトルV0,V7が採用されている場合は、交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡するので、直流線LH,LLには直流電流Idcが流れない。
【0052】
図4に示すように非零電圧ベクトルV1が採用されるときには上側のスイッチング素子S3と下側のスイッチング素子S4,S5とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcはスイッチング素子S3を経由して線電流iwとして交流線Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iwは誘導性負荷2において分岐する。分岐された2つの電流は線電流iu,ivとしてそれぞれ交流線Pu,Pvを負の方向に流れる。線電流iu,ivはそれぞれスイッチング素子S4,S5を経由して直流線LLにおいて合流し、直流電流Idcとして流れる。したがって、非零電圧ベクトルV1が採用されているときには直流電流Idcは線電流iwと等しい。
【0053】
また図6に示すように非零電圧ベクトルV3が採用されるときには、上側のスイッチング素子S2,S3と下側のスイッチング素子S4とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcは分岐してそれぞれスイッチング素子S2,S3を経由して線電流iv,iwとして交流線Pv,Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iv,iwは誘導性負荷2において合流して線電流iuとして交流線Puを負の方向に流れる。線電流iuはスイッチング素子S4を経由して直流電流Idcとして直流線LLを流れる。したがって、非零電圧ベクトルV3が採用されているときには直流電流Idcは、値が負である線電流iuの絶対値−iuと等しい。以下では、線電流の値が負であるときにその絶対値を表現すべく負号を付記することもある。
【0054】
図5、図7〜図9に示すように、他の非零電圧ベクトルV2,V4〜V6が採用されるときにも直流電流Idcと線電流とが対応付けられる。図2には各非零電圧ベクトルに対応して直流電流Idcとして流れる線電流が付記されている。
【0055】
図2の例示では、任意の時点において非零電圧ベクトルが採用されるので、任意の時点において直流電流Idcは正負を無視すれば線電流iu,iv,iwのいずれかと対応する。したがって、このときの直流電流Idcを、スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流として推定することができる。例えばスイッチングパターン(100)が採用される期間(電気角60度から120度)において直流電流Idcを線電流iuとして検出することができる(図7も参照)。
【0056】
さて図2の例示では、スイッチングパターンは電気角60度毎に切り替わる。図11も参照して、このスイッチングパターンが切り替わるタイミング(以下、時点とも呼ぶ)t[k](kは自然数)の前後の2つの時点t1[k],t2[k]において検出される線電流の相は互いに相違する。例えば時点t[1]の前後の時点t1[1],t2[1]において検出される線電流の相はそれぞれv相とu相である。そこで、二相線電流取得部33は、時点t1[k]において電流検出部4によって検出された直流電流Idcを、時点t1[k]におけるスイッチングパターンによって一つ決定される相の線電流として推定し、時点t2[k]において電流検出部4によって検出された直流電流Idcを、時点t2[k]におけるスイッチングパターンによって一つ決定される相の線電流として推定する。
【0057】
例えば図11を参照して、スイッチングパターンが変化する時点t[1]の前の時点t1[1]において、スイッチングパターン(101)(電圧ベクトルV5)が採用されている。よってこのとき、時点t1[1]における直流電流Idcを、負の値をとるv相の線電流ivの絶対値−ivとして推定する。線電流ivの値は直流電流Idcの符号を負にして得られる値である。また時点t[1]の後の時点t2[1]において、スイッチングパターン(100)(電圧ベクトルV4)が採用される。したがって、時点t2[1]における直流電流Idcを、u相の線電流iuとして推定する。
【0058】
以上のように、二相線電流取得部33は、スイッチングパターンが変化するタイミングt[k]の前後の時点t1[k],t2[k]において互いに異なる相の線電流を検出する。以下では、時点t1[k]における線電流をx相の線電流ixと表し、時点t2[k]における線電流をy相の線電流iyと表す。よってx相は時点t1[k]でのスイッチングパターンによって決定されるu相、v相、w相のいずれかである。y相は時点t2[k]でのスイッチングパターンによって決定されるu相、v相、w相のいずれかであってx相とは異なる。
【0059】
線電流補正部34の具体例については後述し、ここでは概説する。線電流補正部34は線電流ix,iyの少なくとも何れか一方を補正して、第3時点における線電流ixと、第3時点との差(間隔)が第1時点t1[k]と第2時点t2[k]の間の時間より短い第4時点における線電流iyとを出力する。これにより、より時間間隔の短い線電流ix,iyを出力する。なお、線電流ixのみを補正するときには第4時点として第2時点を採用し、線電流iyのみを補正するときには第3時点として第1時点を採用する。例えば線電流補正部34は線電流ixのみを補正して、時点t2[k]との差が時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い時点における線電流ixを算出して出力し、時点t2[k]における線電流iyをそのまま出力する。若しくは線電流補正部34は線電流iyのみを補正して、時点t1[k]との差が時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い時点における線電流iyを算出して出力し、時点t1[k]における線電流ixをそのまま出力する。この算出の具体的な演算方法については後に詳述するものの、これによって互いにより近い時点における線電流ix,iyを得ることができる。
【0060】
一相線電流算出部35は、同じ時点における線電流iu,iv,iwの総和が零であるという関係(iu+iv+iw=0)を用いて、線電流補正部34からの線電流ix,iyに基づいて残りの1相の線電流を算出する。この1相の線電流は、第3時点との差および第4時点との差のいずれもが、時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い時点における線電流である。以上のように、3相の線電流iu,iv,iwを得ることができる。しかも、同じ時点における線電流iu,iv,iwの総和が零であるという関係を用いているところ、線電流補正部34はより近い時点における線電流ix,iyを算出するので、一相線電流算出部35による当該残りの1相の線電流の算出精度を向上することができる。なお、線電流ix,iyに対応する時点と残りの1相の線電流に対応する時点とが全て同じ時点であれば、最も算出精度を向上することができる。
【0061】
<線電流の補正方法の例1>
次に、線電流補正部34の具体的な演算方法の一例について説明する。線電流補正部34は誘導性負荷2の等価回路の電圧方程式を用いて線電流ix,iyの少なくとも何れか一方を補正する。以下では、誘導性負荷2としてモータを採用する。例えばここでいうモータとは永久磁石モータを含む同期モータである。この等価回路においては、図12に例示するように、モータ2の誘導成分L2と抵抗成分R2とが、交流電圧源E1,E2に直列に接続されている。交流電圧源E1はz(zはu,v,wのいずれか)相の相電圧Vzを示し、交流電圧源E2はモータ2の回転によってz相の巻線(誘導成分L2)に生じる誘起電圧を示す。この等価回路によれば、モータ2として簡易的な等価回路が採用されるので、演算処理を比較的簡易にできる。
【0062】
この等価回路において電圧方程式は次式となる。
【0063】
【数1】
【0064】
ここで、izはz相の線電流を示し、Lは誘導成分L2のインダクタンスを示し、Rは抵抗成分R2の抵抗値を示し、ωは相電圧および線電流の角速度を示し、φzはモータ2の永久磁石によるz相電機子鎖交磁束を示す。なお、式(1)において角速度ωと鎖交磁束φzとの乗算はz相の巻線に生じる誘起電圧に相当する。
【0065】
式(1)を変形すると式(2)が導かれる。
【0066】
【数2】
【0067】
ここでは一例として、線電流補正部34が時点t[k]における線電流ixを算出する場合について説明する。式(2)においてz相としてx相を採用し、時点t[k],t1[k]を用いた差分により式(2)を変形して時点t[k]における線電流ix(t)を求めると、次式が導かれる。なお、差分としては任意の差分が用いられてもよいが、一例として前方差分を採用する。
【0068】
【数3】
【0069】
式(3)において、Δtは時点t[k]と時点t1[k]との間の時間である。時間Δtは例えば予め決定され、既知である。線電流ix(t1)は時点t1[k]における線電流ixであり、上述の通り二相線電流取得部33によって取得される。また式(3)における相電圧Vxは時点t1[k]における相電圧Vxである。相電圧Vxは例えば相電圧指令値V*を用いれば既知となり、或いは電圧検出部を設けて相電圧を検出することで既知となる。インダクタンスLおよび抵抗値Rはモータ2に固有の値であって既知である。したがって、時点t1[k]における誘起電圧(角速度ωと鎖交磁束φxとの乗算)が既知となれば、式(3)によって時点t[k]における線電流ixを算出することができる。
【0070】
さて各相の誘起電圧は次式で表される。
【0071】
【数4】
【0072】
【数5】
【0073】
【数6】
【0074】
ここで、φaは鎖交磁束についての鎖交磁束ベクトルの大きさである。鎖交磁束ベクトルの大きさφaはモータ2に固有の値であり既知である。δは、誘起電圧ベクトルと、相電圧の基本波成分についての電圧ベクトルVとの間の位相差である。誘起電圧ベクトルは、モータ2の回転子の磁極中心に相当するd軸と、d軸と直交し回転子の極間に相当するq軸とを有する回転座標系において、q軸に沿う。よって、図13に例示するように、位相差δは回転座標系においてq軸と電圧ベクトルVとの間の位相差である。
【0075】
q軸の回転位置(位相)は任意の公知の手法によって検出できる。例えばモータ2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出部を設けることで検出される。回転子位置検出部は、例えば回転子の回転位置を検出するホールセンサであってもよい。あるいは例えばモータ2の巻線に生じる誘起電圧またはモータ2に流れる線電流などに基づいて公知のセンサレス技術によって回転位置を算出しても良い。これによれば、ホールセンサを用いる必要がないので製造コストが抑制される。
【0076】
また電圧ベクトルVの電圧位相θvも任意の公知の手法によって検出できる。例えば相電圧を検出する電圧検出部を設け、電圧検出部によって検出された相電圧から電圧位相θvを算出しても良く、あるいは相電圧について相電圧指令値V*から電圧位相θvを算出しても良い。
【0077】
以上のとおり、q軸の回転位置(位相)と電圧位相θvとを検出できるので、位相差δを得ることができ、ひいては鎖交磁束φxを算出することができる(式(4)〜式(6)参照)。
【0078】
角速度ωも任意の公知の手法によって取得される。例えば任意の2つの時点における相電圧指令値V*(或いは検出した相電圧)から当該2つの時点における電圧位相θvをそれぞれ算出し、当該2つの時点における電圧位相θv同士の差を、当該2つの時点の間の時間で除算することで、角速度ωを算出する。なお、これに限らず例えば次のようにして角速度ωを算出しても良い。例えば上述した回転位置検出部によって得られる回転子の回転位置から回転子の回転速度(機械角速度)を求め、当該回転速度から角速度ω(電気角速度)を求めてもよい。或いは、任意の2つの時点における電流位相差を、当該2つの時点間の時間で除算することで角速度ωを算出してもよい。また、異なるタイミング(例えばスイッチングパターンが変化するタイミング)で取得した角速度ωの平均値を角速度ωに採用してもよく、或いは角速度ωをローパスフィルタに入力し、その出力を角速度ωに用いても良い。
【0079】
さて、式(1)〜式(6)を用いた時点t[k]における線電流ixの算出は、例えば図14に示す線電流補正部34によって実行される。線電流補正部34は角速度取得部341と鎖交磁束取得部342と演算部343とを備えている。
【0080】
角速度取得部341は上述のようにして角速度ωを取得する。鎖交磁束取得部342は上述のようにして位相差δを算出し、式(4)〜式(6)のうちx相に対応した一つに基づいて鎖交磁束φxを算出する。
【0081】
演算部343は相電圧Vxとして例えば相電圧指令値V*を受け取り、角速度取得部341,鎖交磁束取得部342からそれぞれ角速度ωと鎖交磁束φxとを受け取る。そして式(3)に基づいて時点t[k]における線電流ixを算出する。
【0082】
これによって、線電流補正部34は時点t1[k]よりも時点t2[k]に近い時点t[k]における線電流ixを算出することができる。したがって、一相線電流算出部35において算出される残りの1相の線電流の精度を向上することができる。
【0083】
なお、算出された三相の線電流をどのように用いても良い。例えば三相の線電流と電流指令値との偏差に基づいてインバータを制御してもよい。このとき、三相の線電流をそれぞれ別の時点における線電流であると見なして扱っても良い。例えば線電流ixを時点t[k]における線電流として扱い、線電流iyを時点t2[k]における線電流として扱い、残りの1相の線電流を、第3時点(ここでは時点t[k])との間の時間および第4時点(ここでは時点t2[k])との時間のいずれもが時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い第5時点における、線電流として扱っても良い。なお残りの1相の線電流を第5時点における線電流として扱うことは、一相線電流算出部35が第5時点における残りの1相の線電流を算出することに相当する。また残りの1相の線電流を、第3時点及び第4時点(ここでは時点t[k],t2[k])の間の第6時点における線電流として扱っても良い。これは、一相線電流算出部35が第6時点における残りの1相の線電流を算出することに相当する。またあるいは、三相の線電流を全て同じ時点(第5時点または第6時点)における線電流であると見なして扱っても良い。これらの点は後述する他の態様であっても同様であるので繰り返しの説明を省略する。
【0084】
また線電流補正部34は線電流ixの補正に替えて、あるいは線電流ixの補正と共に線電流iyを補正しても良い。以下、一例として、時点t1[k],t2[k]の差よりも時点t1[k]との差が小さい時点として時点t[k]を採用し、時点t[k]における線電流iyを算出することを企図する。式(2)においてz相としてy相を採用し、時点t[k],t2[k]を用いた差分により式(2)を変形すると、次式が導かれる。なお、差分としては任意の方法が採用され得るが、一例として後方差分を採用する。
【0085】
【数7】
【0086】
式(7)における相電圧Vyは時点t2[k]における相電圧Vyであり、鎖交磁束φyは時点t2[k]における鎖交磁束である。式(7)を変形して時点t[k]における線電流iyについて求めると、次式が導かれる。
【0087】
【数8】
【0088】
演算部343は相電圧Vyとして例えば相電圧指令値V*を受け取り、角速度取得部341,鎖交磁束取得部342からそれぞれ角速度ωと鎖交磁束φyとを受け取る。そして式(8)に基づいて、時点t2[k]よりも時点t1[k]に近い時点t[k]における線電流iyを算出する。よって、一相線電流算出部35において算出される残りの1相の線電流の精度を向上することができる。
【0089】
しかも、線電流ix,iyの両方を補正して同じ時点t[k]における線電流ix,iyを算出すれば、一相線電流算出部35において算出される残りの1相の線電流の精度を更に向上することができる。
【0090】
なお、線電流補正部34は時点t1[k]における線電流ixを補正して例えば時点t2[k]における線電流ixを算出しても良い。これによれば、線電流iyを補正することなく同じ時点における線電流ix,iyを得ることができる。ただしこの場合、時間Δtは時点t1[k]と時点t2[k]との間の時間であり、比較的大きくなる。よって一旦、時点t[k]における線電流ixを算出し、この時点t[k]における線電流ixを用いて上述と同様にして時点t2[k]における線電流ixを算出しても良い。また時点t1[k]から時点t2[k]までの複数の時点における線電流ixを順次に算出して時点t2[k]における線電流ixを算出してもよい。時間Δtを小さくすることで誤差を低減することができるので、線電流ixの算出精度を向上できる。
【0091】
同様に、線電流補正部34は時点t2[k]における線電流iyを補正して例えば時点t1[k]における線電流iyを算出しても良い。
【0092】
<線電流の補正方法の他の例2−1>
線電流iu,iv,iwはその振幅(以下、電流振幅と呼ぶ)Imとその位相(以下、電流位相と呼ぶ)θiとを用いて理想的には次式で表される。
【0093】
iu=Im・sinθi ・・・(9)
iv=Im・sin(θi−2π/3) ・・・(10)
iw=Im・sin(θi+2π/3) ・・・(11)
【0094】
式(9)〜式(11)は線電流の波形の式であり、線電流補正部34は当該波形の式を用いて線電流ix,iyの少なくとも何れか一方を補正する。以下では、まず線電流ixを補正する場合について説明する。ここでは一例として線電流ixを補正して時点t2[k]における線電流ixを算出する。
【0095】
式(9)〜式(11)から理解できるように、時点t2[k]における線電流ixは、電流振幅Imと時点t2[k]における電流位相θiとに基づいて算出することができる。そこで、電流振幅Imと時点t2[k]における電流位相θiとを算出することを企図する。
【0096】
この算出の説明に先立って、まず線電流補正部34の概念的な内部構成の一例について説明する。図15の例示では、線電流補正部34は、角速度取得部341と電圧位相取得部344と電流位相算出部345と演算部346とを備えている。
【0097】
電圧位相取得部344は任意の公知の方法を用いて相電圧についての電圧位相θvを取得する。例えば相電圧についての相電圧指令値V*から電圧位相θvを算出する。或いは、交流線Pu,Pv,Pwに印加される相電圧を検出し、これから電圧位相θvを算出しても良い。
【0098】
電流位相算出部345は、一相線電流算出部35からの3相の線電流iu,iv,iwに基づいて線電流iu,iv,iwについての電流位相θiを算出する。例えば公知の絶対変換を用いて3相の線電流iu,iv,iwを変換して、固定座標系のα軸の線電流iαとβ軸の線電流iβとを算出し、線電流iαと線電流iβとの除算値(iα/iβ)についての逆正接値を算出して電流位相θiを算出する。
【0099】
演算部346は、後述する演算を行って、電流振幅Imと時点t2[k]における電流位相θiとを算出し、これらと波形の式とに基づいて時点t2[k]における線電流ixを算出する。
【0100】
時点t2[k]における電流位相θiを算出すべく、演算部346はまず電流位相θiと電圧位相θvとの間の位相差Δθを次式により算出する。
【0101】
Δθ=θi−θv ・・・(12)
【0102】
位相差Δθの算出に用いられる電流位相θiは電流位相算出部345によって算出される。電流位相算出部345は上述のとおり一相線電流算出部35から受け取った線電流iu,iv,iwに基づいて電流位相θiを算出する。即ち、電流位相算出部345は、時点t[k]よりも前の時点(例えば時点t[k−1])にてスイッチングパターンが変化したときに検出された線電流iu,iv,iwを用いる。ここでは線電流補正部34は時点t2[k]における線電流ixを算出するので、同様にして時点t2[k−1]における線電流ixが算出されており、一相線電流算出部35は時点t2[k−1]における線電流iu,iv,iwを出力する。よって、電流位相算出部345によって算出される電流位相θiは時点t2[k−1]における値である。
【0103】
また位相差Δθの算出に用いられる電圧位相θvは電圧位相取得部344によって取得される。電圧位相取得部344は電流位相θiと同じ時点t2[k−1]における電圧位相θvを取得する。
【0104】
なお、位相差Δθの算出に用いられる電流位相θi及び電圧位相θvとしては実質的に同じ時点における値が採用されればよい。たとえば線電流補正部34が互いに異なる第一時点及び第二時点における線電流ix,iyを算出し、一相線電流算出部35がこれらを用いて残りの1相の線電流を算出する場合について説明する。このときに得られた3相の線電流は第一時点と第二時点との間の任意の時点における値と見なして良い。つまり、電流位相算出部345によって算出された電流位相θiを、第一時点と第二時点との間の任意の時点における値と見なして良い。したがって、演算部346は例えば第一時点から第二時点までの間の任意の時点における電圧位相θvを用いればよい。また、スイッチングパターンが変化するたびに上述のようにして算出された位相差Δθの複数の平均値を位相差Δθとして算出しても良い。或いは算出された位相差Δθをローパスフィルタに入力し、その出力を位相差Δθとして用いても良い。
【0105】
この位相差Δθは時点t1[k]における位相差Δθとほぼ等しい。これは、特にモータを安定した速度で回転させる定常状態において妥当である。よって、次に、電圧位相取得部344は時点t1[k]における電圧位相θvを取得して演算部346に出力する。演算部346は、時点t1[k]における電圧位相θvと、上述のようにして算出した位相差Δθとに基づいて、時点t1[k]における電流位相θiを算出する。より詳細には、式(12)を変形した次式を用いて電流位相θiを算出する。
【0106】
θi=θv+Δθ ・・・(13)
【0107】
次に、演算部346は、角速度取得部341からの角速度ωに基づく時点t1[k]の電流位相θiと時点t2[k]の電流位相θiとの差を、時点t1[k]の電流位相θiに加算して時点t2[k]における電流位相θiを算出する。端的に説明すれば、次式に基づいて時点t2[k]における電流位相θiを算出する。
【0108】
θi(t2)=θi(t1)+ω・Δt2 ・・・(14)
【0109】
ここで、Δt2は時点t1[k]から時点t2[k]までの時点を示し、角速度ωと時間Δt2との乗算が、時点t1[k]における電流位相θiと時点t2[k]における電流位相θiとの差を示す。なお、時点t1[k],t2[k]における電流位相θiの差は時点t1[k],t2[k]における電圧位相θvの差と等しい。よって、角速度ωと時間Δt2との乗算として、時点t1[k]における電圧位相θv(t1)と時点t2[k]における電圧位相θv(t2)の差を採用してもよい。即ち、θi(t2)=θi(t1)+θv(t2)−θv(t1)との式を採用してもよい。この場合、角速度取得部341は不要である。なお、この内容は、角速度ωに基づく時点t1[k],t2[k]の間の電流位相θiの差ω・Δt2として、時点t1[k],t2[k]の電圧位相θvの差を採用する、とも把握できる。またこの内容は以下で述べる他の態様であっても同様であるので、繰り返しの説明を省略する。
【0110】
また時点t2[k]における電流位相θi(t2)を、式(13)に基づいて算出しても良い。即ち、時点t2[k]における電圧位相θvと、算出した位相差Δθとを用いて、式(13)に基づいて電流位相θi(t2)を算出しても良い。なおこの内容も以下で述べる他の態様にも適用可能であるので、繰り返しの説明を省略する。
【0111】
続いて、電流振幅Imの算出について説明する。演算部346は、二相線電流取得部33からの時点t1[k]における線電流ixと、上述のようにして算出した時点t1[k]における電流位相θiとに基づいて、x相に応じた式(9)から式(11)の一つを用いて、電流振幅Imを算出する。例えば演算部346は、時点t1[2]における線電流iuと、時点t1[2]における電流位相θiとに基づいて、式(9)から電流振幅Imを算出する。
【0112】
この電流振幅Imは時点t2[k]における電流振幅Imとほぼ等しい。これは、特にモータを安定した速度で回転させる定常状態において妥当である。よって次に、演算部343は上述のようにして算出した電流振幅Imおよび時点t2[k]における電流位相θiに基づいて、x相に応じた式(9)から式(11)の一つを用いて、時点t2[k]における線電流ixを算出する。例えば演算部346は、電流振幅Imと時点t2[2]における電流位相θiとに基づいて、式(9)から時点t2[2]における線電流iuを算出する。
【0113】
これによって、時点t1[k]よりも時点t2[k]に近い時点における線電流ixを算出することができる。しかも時点t2[k]における線電流ixを算出しているので、線電流iyを補正することなく、同じ時点t2[k]における線電流ix,iyを得ることができる。
【0114】
また線電流補正部34は線電流ixの補正に替えて線電流iyを補正しても良い。より詳細には、線電流補正部34は時点t2[k]よりも時点t1[k]に近い時点(ここでは例えば時点t1[k])における線電流iyを算出してもよい。この場合、演算部346は上述と同様にして位相差Δθを算出する。ただし、ここでは一相線電流算出部35が時点t1[k−1]における線電流iu,iv,iwを算出するので、時点t[k−1]における電流位相θi及び電圧位相θvを用いて位相差Δθを算出する。
【0115】
そして、算出した位相差Δθと、電圧位相取得部344から受け取った時点t2[k]における電圧位相θvとに基づいて、時点t2[k]における電流位相θiを算出する(式(13)参照)。
【0116】
次に、演算部346は、時点t2[k]における電流位相θi(t2)と、角速度取得部341から受け取った角速度ωと、時間Δt2とに基づいて、時点t1[k]における電流位相θi(t1)を算出する。より詳細には、式(14)を変形した次式に基づいて時点t1[k]における電流位相θi(t1)を算出する。
【0117】
θi(t1)=θi(t2)−ω・Δt2 ・・・(15)
【0118】
また演算部346は、算出した時点t2[k]における電流位相θiと、二相線電流取得部33から受け取った時点t2[k]における線電流iyとに基づいて、y相に応じた式(9)から式(11)の一つを用いて電流振幅Imを算出する。
【0119】
次に、演算部346は、電流振幅Imと時点t1[k]における電流位相θiとに基づいて時点t1[k]における線電流iyを算出する(式(9)〜式(11)参照)。これによって、時点t2[k]よりも時点t1[k]に近い時点における線電流iyを得ることができる。しかも時点t1[k]における線電流iyを算出しているので、線電流ixを補正することなく、同じ時点における線電流ix,iyを得ることができる。
【0120】
また線電流補正部34は線電流ix,iyの両方を補正して、それぞれより近い時点における線電流ix,iyを算出しても良い。例えば時点t[k]における線電流ix,iyを算出してもよい。この場合、位相差Δθは、時点t[k−1]における線電流iu,iv,iwから算出される電流位相θiと、時点t[k−1]における電圧位相θvとの差によって算出されるとよい。
【0121】
<線電流の補正方法の他の例2−2>
ここでは例2−1との相違点について述べる。また、線電流補正部34が時点t1[k]における線電流ixを補正して時点t2[k]における線電流ixを算出する場合について説明する。
【0122】
例2−1と比較して、時点t1[k]における電流位相θiの算出方法が相違する。演算部346は、電流位相算出部345からの電流位相θiと時点t1[k]における電流位相θiとの差を角速度ωに基づいて算出し、当該差を電流位相算出部345からの電流位相θiに加算して時点t1[k]における電流位相θiを算出する。端的に説明すれば次式に基づいて時点t1[k]における電流位相θiを算出する。
【0123】
θi(t1)=θi(t2[k−1])+ω・Δt3 ・・・(16)
【0124】
ここで、θi(t2[k−1])は電流位相算出部345によって算出される電流位相θiである。ここでは線電流補正部34は時点t2[k]における線電流ixを算出するので、同様にして時点t2[k−1]における線電流ixが算出されており、一相線電流算出部35は時点t2[k−1]における線電流iu,iv,iwを出力する。よって、電流位相算出部345によって算出される電流位相θiは時点t2[k−1]における値である。Δt3は時点t2[k−1]から時点t1[k]までの時間を示している。
【0125】
これによれば、演算部346は電流位相θiの算出のために電圧位相θvを用いる必要がない。よって図14の例示において演算部346は電圧位相θvを受け取る必要はなく、また角速度取得部341が電圧位相θvを用いなければ電圧位相取得部344自体が不要となる。
【0126】
なお線電流iyの補正についても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0127】
<線電流の補正方法の他の例2−3>
ここでも例2−1との相違点について述べる。また、線電流補正部34が時点t1[k]における線電流ixを補正して時点t2[k]における線電流ixを算出する場合について説明する。
【0128】
例2−1においては、時点t1[k]における電流位相θiを算出し、これと時点t1[k]における線電流ixとに基づいて電流振幅Imを算出した(式(9)〜式(11)参照)。ここでは、まず電流振幅Imを算出する。以下、詳細に説明する。
【0129】
図16の例示では、線電流補正部34は、角速度取得部341と電流振幅算出部347と演算部346とを備えている。電流振幅算出部347は、一相線電流算出部35からの線電流iu,iv,iwに基づいて電流振幅Imを算出する。例えば線電流iu,iv,iwを公知の絶対変換を用いて変換して線電流iα,iβを生成し、次式に基づいて電流振幅Imを算出する。
【0130】
Im=sqrt(2/3)×sqrt(iα^2+iβ^2)・・・(17)
【0131】
ここで、sqrt()は括弧内の値の平方根を示し、A^BはAのB乗を示す。なお、電流振幅Imは、スイッチングパターンが変化する度に算出された複数の電流振幅Imの平均値であってもよく、或いは算出された電流振幅Imをローパスフィルタに入力し、その出力を電流振幅Imとして用いても良い。
【0132】
演算部346は、電流振幅Imと、二相線電流取得部33からの時点t1[k]における線電流ixとに基づいて、時点t1[k]における電流位相θiを算出する(式(9)〜式(11)参照)。例えば演算部346は、電流振幅Imと時点t1[2]における線電流iuとに基づいて、式(9)を用いて時点t1[2]における電流位相θiを算出する。
【0133】
時点t2[k]における電流位相θiの算出(式(14)参照)と、時点t2[k]における線電流ixの算出(式(9)〜式(11)参照)とは上述の例2−1と同様であるので繰り返しの説明を避ける。
【0134】
このような補正方法によれば、例2−1,2−2に比較して、時点t1[k]における電流位相θiを簡易に算出することができる。なお線電流iyの補正についても同様であるので繰り返しの説明を避ける。
【0135】
なお、例2−1〜例2−3にかかる補正方法では、線電流の波形の式(式(9)〜式(11))を用いて線電流を算出している。しかしながら、実際には線電流iu,iv,iwは基本波成分のみならず高調波成分を含んでおり、この高調波成分は式(9)〜式(11)を満足しない。一方、例1にかかる補正方法では等価回路の電圧方程式(式(1))を用いて線電流を算出している。線電流の基本波成分のみならず高調波成分もこの電圧方程式を満足する。したがって、線電流の算出精度という点では、例1にかかる補正方法が例2−1〜例2−3による補正方法に比べて好ましい。
【0136】
<時点t1[k],t2[k]の各々と時点t[k]との間の時間>
次に、時点t1[k],t2[k]の各々と、スイッチングパターンが変化するタイミングt[k]との間の期間をどの程度の期間にするのか、について考慮する。スイッチングパターンが変化した直後では、直流電流Idcは当該変化に伴って過渡的に変動する。このような過渡的な変動が収まる、即ち直流電流Idcの過渡変動が所定の範囲内に収まった状態で、直流電流Idcを検出することが望ましい。よって、スイッチングパターンが変化してから時点t2[k]までの時間Δt1は、直流電流Idcの過渡変動が所定の範囲内に収まるのに要する過渡期間よりも長いことが望ましい。この過渡期間は電力変換装置1及び誘導性負荷2、さらに平滑コンデンサC1の静電容量及び平滑コンデンサC1に直流電圧を供給する電源の電力容量等の回路条件によって決定されるので、予め設計或いは実験によって決定することができる。
【0137】
また例えば電流検出部4が、検出した直流電流Idcのアナログ値をデジタル値に変換する必要がある場合、当該変換に要する期間が経過するまでスイッチングパターンが変化しないことが望ましい。よって時点t1[k]からスイッチングパターンが変化するまでの時間Δtは、電流検出部4がこの変換に要する期間よりも長いことが望ましい。
【符号の説明】
【0138】
1 インバータ
4 電流検出部
31 スイッチング制御部
32 線電流取得部
33 二相線電流取得部
34 線電流補正部
35 一相線電流算出部
341 角速度取得部
342 鎖交磁束取得部
343,346 演算部
344 電圧位相取得部
345 電流位相算出部
LH,LL 入力線
Pu,Pv,Pw 交流線
S1〜S6 スイッチング素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、線電流検出装置および電力変換システムに関し、特に直流電流を線電流として検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には三相インバータが記載されている。三相インバータは入力された直流電圧を交流電圧に変換する。この変換はインバータが有するスイッチング素子の導通/非導通を適宜に切り替えることで実現される。
【0003】
また特許文献1では三相インバータの入力側を流れる直流電流を用いて、三相インバータの出力側を流れる電流、即ち3相の相電流を検出する。この検出は、インバータが採用する通電パターンに基づいて母線電流と相電流とを対応させることで行われる。例えば所定周期において、異なる2つの通電パターンが採用される期間の各々で母線電流を検出し、これらを当該2つの通電パターンに基づいて決定される2相の相電流として検出する。そして、3相の相電流の総和が零であるという関係に基づいて残りの1相の相電流を算出している。
【0004】
本発明に関連する技術として特許文献2〜7が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4429338号公報
【特許文献2】特許第4578500号公報
【特許文献3】特開2004−48868号公報
【特許文献4】特開2011−67023号公報
【特許文献5】特開2004−64093号公報
【特許文献6】特開2007−312511号公報
【特許文献7】特許第3611492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、互いに異なる2つの時点における母線電流を、互いに異なる相の相電流として検出している。そして、この2つの時点における相電流を同じ時点における線電流であると見なして、残りの1相の線電流を算出している。よって、得られる3相の線電流には誤差が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、誤差を低減して線電流を得ることができる線電流検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる線電流検出装置の第1の態様は、誘導性負荷(2)に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)とを備える電力変換装置において、前記3つの交流線を流れる3相の線電流(iu,iv,iw)を検出する線電流検出装置であって、前記第1及び前記第2のスイッチング素子へスイッチング信号(S)を出力して前記第1及び前記第2のスイッチング素子のスイッチングパターンを制御するスイッチング制御部(31)と、前記第1又は前記第2の直流線を流れる直流電流(Idc)を検出する電流検出部(4)と、前記スイッチングパターンが変化するタイミング(t[k])よりも前又は後の第1時点(t1[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第1時点での前記スイッチングパターンによって決定される第1相の線電流として推定し、前記タイミングに対して前記第1時点とは反対側であって前記第1時点との差が第1時間である第2時点(t2[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第2時点での前記スイッチングパターンによって決定される第2相の線電流として推定する二相線電流取得部(33)と、前記二相線電流取得部によって取得された前記第1相及び前記第2相の線電流のうち少なくとも前記第1相の線電流を補正して、第3時点における前記第1相の線電流と、前記第3時点との差が前記第1時間よりも短い第2時間である第4の時点における前記第2相の線電流とを出力し、前記第1相の線電流のみを補正するときには前記第4時点として前記第2時点が採用される線電流補正部(34)と、同じ時点における前記3相の線電流の総和が零であるという関係を用いて、前記第3時点における前記第1相の線電流及び前記第4時点における前記第2相の線電流に基づいて、前記第3時点との差及び前記第4時点との差のいずれもが前記前記第1時間よりも短い第5時点における第3相の線電流を算出する一相線電流算出部(35)とを備える。
【0009】
本発明にかかる線電流検出装置の第2の態様は、第1の態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は、前記誘導性負荷(2)の等価回路の電圧方程式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する。
【0010】
本発明にかかる線電流検出装置の第3の態様は、第2の態様にかかる線電流検出装置であって、前記誘導性負荷(2)はモータであって、前記等価回路において、前記誘導性負荷(2)の抵抗成分(R2)及び誘導成分(L2)が、前記交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧による第1電圧源(E1)と、前記モータの回転に伴って前記誘導成分に生じる誘起電圧による第2電圧源(E2)とに直列に接続される。
【0011】
本発明にかかる線電流検出装置の第4の態様は、第1の態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は、前記第1相の線電流の基本波成分についての波形の式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する。
【0012】
本発明にかかる線電流検出装置の第5の態様は、第4の態様にかかる線電流検出装置であって、前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、前記線電流補正部(34)は、前記3つの交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(344)と、前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相(θi)を算出する電流位相算出部(345)と、前記電流位相と前記電圧位相との間の位相差(Δθ)を算出し、前記位相差と前記第1時点(t1[k])における前記電圧位相とに基づいて前記第1時点における前記電流位相(θi)を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記第3時点における電流位相と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)とを備える。
【0013】
本発明にかかる線電流検出装置の第6の態様は、第4の態様にかかる線電流検出装置であって、前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、前記線電流補正部(34)は、前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相を算出する電流位相算出部(345)と、前記電流位相算出部からの前記電流位相と前記第1時点における電流位相との間の前記電流位相の差を前記3相の線電流(iu,iv,iw)の角速度(ω)に基づいて算出し、前記電流位相の差を前記電流位相算出部からの前記電流位相に加算して、前記第1時点の電流位相を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)とを備える。
【0014】
本発明にかかる線電流検出装置の第7の態様は、第4の態様にかかる線電流検出装置であって、前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、前記線電流補正部(34)は、前記タイミングより(t[k])も前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出する電流振幅算出部(347)と、前記第1時点における前記第1の線電流と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第1時点における前記3相の線電流についての電流位相を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の前記電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における前記電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)とを備える。
【0015】
本発明にかかる線電流検出装置の第8の態様は、第5から第7の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記3相の線電流についての角速度と前記第1時点から前記第3時点までの期間との積として算出する。
【0016】
本発明にかかる線電流検出装置の第9の態様は、第5から第7の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記相電圧についての電圧位相と前記第3時点における前記電圧位相との差として算出する。
【0017】
本発明にかかる線電流検出装置の第10の態様は、第1から第9の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は前記第1相及び前記第2相の線電流の両方を補正し、前記第4時点は前記第3時点である。
【0018】
本発明にかかる線電流検出装置の第11の態様は、第10の態様にかかる線電流検出装置であって、前記第5時点は前記第3時点である。
【0019】
本発明にかかる線電流検出装置の第12の態様は、第1から第9の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置であって、前記線電流補正部(34)は前記第1相の線電流のみを補正し、前記第3時点(t2[k])は前記第2時点(t2[k])である。
【0020】
本発明にかかる線電流検出装置の第13の態様は、第12の態様にかかる線電流検出装置であって、前記第5時点は前記第2時点である。
【0021】
本発明にかかる電力変換システムの第1の態様は、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、誘導性負荷に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)と、第1から第13の何れか一つの態様にかかる線電流検出装置(3)とを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる線電流検出装置の第1の態様によれば、線電流補正部は、補正前の時間差たる第1時間よりも短い時間差を有する第3時点および第4時点における第1相及び第2相の線電流を出力する。よって、一相線電流算出部はより近い時点における第1相および第2相の線電流を用いて第3相の線電流を算出する。一相線電流算出部は、同じ時点における3相の線電流の総和が零であるという関係を用いているところ、より近い時点における第1相および第2相の線電流を用いる。しかも、これらに基づいて第3時点との差及び第4時点との差が補正前の時間差たる第1時間よりも短い第5時点における第3相の線電流を算出している。以上のように、第1相から第3相の線電流のそれぞれに対する第3時点から第5時点の相互間の時間が、補正前の第1時間よりも短いので、第3相の線電流の算出精度を向上することができる。
【0023】
本発明にかかる線電流検出装置の第2の態様によれば、等価回路による式を用いているので、高い精度で第3時点における第1相の線電流を算出できる。
【0024】
本発明にかかる線電流検出装置の第3の態様によれば、誘導性負荷として簡易な等価回路を用いているので、比較的簡易な演算で第3時点における第1相の線電流を算出できる。
【0025】
本発明にかかる線電流検出装置の第4の態様によれば、第1の態様にかかる線電流検出装置に実現に資する。
【0026】
本発明にかかる線電流検出装置の第5及び第6の態様によれば、第4の態様にかかる線電流検出装置の実現に資する。
【0027】
本発明にかかる線電流検出装置の第7の態様によれば、第5,6の態様にかかる線電流検出装置に比して簡易な演算で第1時点における電流位相を算出することができる。ひいては簡易な演算で第3時点における線電流を算出することができる。
【0028】
本発明にかかる線電流検出装置の第8及び第9の態様によれば、第5から第7の何れかの態様にかかる線電流検出装置の実現に資する。
【0029】
本発明にかかる線電流検出装置の第10の態様によれば、同じ第3時点における第1相および第2相の線電流に基づいて第3相の線電流を算出しているので、第3相の線電流の算出精度をさらに向上できる。
【0030】
本発明にかかる線電流検出装置の第12の態様によれば、同じ第2時点における第1相および第2相の線電流に基づいて第3相の線電流を算出しているので、第3相の線電流の算出精度をさらに向上できる。しかも、第1相の線電流のみに補正を行えばよいので、演算を簡略化できる。
【0031】
本発明にかかる線電流検出装置の第11,13の態様によれば、第1相から第3相の線電流にそれぞれ対応する時点が、同じ時点であるので、さらに第3相の線電流の算出精度を向上できる。
【0032】
本発明にかかる電力変換システムの第1の態様によれば、高い精度で3相の線電流を検出できる電力変換システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】インバータの概念的な構成の一例を例示する図である。
【図2】相電圧の一例を模式的に示す図である。
【図3】インバータを流れる電流を示す図である。
【図4】インバータを流れる電流を示す図である。
【図5】インバータを流れる電流を示す図である。
【図6】インバータを流れる電流を示す図である。
【図7】インバータを流れる電流を示す図である。
【図8】インバータを流れる電流を示す図である。
【図9】インバータを流れる電流を示す図である。
【図10】インバータを流れる電流を示す図である。
【図11】直流電流の検出タイミングおよび相電流の推定タイミングの一例を模式的に示す図である。
【図12】等価回路を示す図である。
【図13】位相差δを示す図である。
【図14】制御部の概念的な構成の一例を示す図である。
【図15】制御部の概念的な構成の一例を示す図である。
【図16】制御部の概念的な構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<構成>
図1に示すように、電力変換システムは電力変換装置1と制御部3と電流検出部4とを備えている。電力変換装置1は直流線LH,LL及び交流線Pu,Pv,Pwと接続される。電力変換装置1はインバータであって、直流線LH,LLの間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して、当該交流電圧を交流線Pu,Pv,Pwへと出力する。ここでは直流線LLに印加される電位は直流線LHに印加される電位よりも低い。また図1の例示では平滑コンデンサC1が設けられている。平滑コンデンサC1は直流線LH,LLの間の直流電圧を平滑する。ただし平滑コンデンサC1が設けられていなくても構わない。
【0035】
インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。スイッチング素子S1〜S3は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LHとの間に設けられる。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続され、ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ交流線Pu,Pv,Pwに接続される。
【0036】
各スイッチング素子S4〜S6は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LLとの間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続され、ダイオードD4〜D6のアノードは直流線LLに接続される。なお、スイッチング素子S1〜S6がMOS電界効果トランジスタなどのように寄生ダイオードを有する場合には、ダイオードD1〜D6は当該寄生ダイオードであってもよい。
【0037】
これらのスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチング信号Sが与えられる。このスイッチング信号Sにより各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチング信号Sを与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ1の制御については後に詳述する。
【0038】
インバータ1は誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は例えばモータであって交流線Pu,Pv,Pwに接続される。そして、誘導性負荷2に交流電圧が印加されれば、誘導性負荷2に略正弦波状の線電流iu,iv,iwが流れる。これによって誘導性負荷2が駆動される。ここでは、インバータ1から誘導性負荷2へと流れる線電流の方向を正、誘導性負荷2からインバータ1へと流れる線電流の方向を負とそれぞれ定義する。
【0039】
直流線LH,LLに流れる直流電流Idcは電流検出部4によって検出され、制御部3へと出力される。図1の例示では電流検出部4は直流線LLに設けられている。なお電流検出部4は直流線LHに設けられても良い。
【0040】
電流検出部4は例えばシャント抵抗R41と検出部41とを備えている。図1の例示ではシャント抵抗R41は直流線LLに設けられている。検出部41は例えばシャント抵抗R41に印加される電圧を検出して、シャント抵抗R41の抵抗値と、検出した電圧とに基づいて直流電流Idcを得る。検出部41はかかる直流電流Idcの値を制御部3に出力する。なお検出部41がシャント抵抗R41の電圧を検出して制御部3に出力し、制御部3が直流電流Idcを算出しても良い。また電流検出部4はシャント抵抗を用いて検出する必要はなく、任意の直流電流検出センサーが採用され得る。例えばホールCTなどの電流センサーを用いても良い。
【0041】
制御部3はスイッチング制御部31と線電流取得部32とを備えている。スイッチング制御部31はスイッチング信号Sをスイッチング素子S1〜S6へと出力してスイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンを制御する。このスイッチング信号Sは例えば次のように生成される。即ち、例えば交流線Pu,Pv,Pwに印加する相電圧Vu,Vv,Vwについての相電圧指令値V*を線電流取得部32からの線電流iu,iv,iwに基づいて生成し、かかる相電圧指令値とキャリア波形との比較によってスイッチング信号Sを生成する。線電流iu,iv,iwに基づく相電圧指令値の生成および相電圧指令値とキャリア波形との比較に基づくスイッチング信号Sの生成は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
【0042】
線電流取得部32は二相線電流取得部33と線電流補正部34と一相線電流算出部35とを備え、線電流iu,iv,iwを取得する。これらの詳細な動作については後に説明する。
【0043】
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0044】
<インバータ1の制御>
インバータ1はスイッチング信号Sによって例えば以下で述べるように制御される。まず、同じ交流線に接続される上側のスイッチング素子および下側のスイッチング素子は相互に排他的に導通する。即ち、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、直流線LH,LLが短絡して各スイッチング素子S1〜S6に大電流が流れることを防止するためである。
【0045】
一例として交流線Pu,Pv,Pwに印加される相電圧Vu,Vv,Vwが図2に例示する波形を採るように、スイッチング素子S1〜S6を制御する。図2の例示では、相電圧Vu,Vv,Vwの各々はその1周期当たりに1パルスを有している。また図2の例示では、各相電圧Vu,Vv,Vwが高電圧値を採る高電圧期間と低電圧値を採る低電圧期間とが互いにほぼ等しく、相電圧Vu,Vv,Vwの高電圧期間が電気角においてほぼ120度互いにずれている。
【0046】
図2の例示では、相電圧Vu,Vv,Vwの波形は理想的には矩形波であって、それぞれスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通に対応した二値をとる。なぜなら、例えばスイッチング素子S1が導通すれば直流線LHが交流線Puと接続されて相電圧Vuが高電圧値を採り、スイッチング素子S1が非導通すればスイッチング素子S4が導通するので、直流線LLが交流線Puと接続されて相電圧Vuが低電圧値を採るからである。図2では「Vu(S1)」と記載して、相電圧Vuの高電圧値/低電圧値が、それぞれスイッチング素子S1の導通/非導通であることをも示している。
【0047】
スイッチング素子S1〜S3の各々において導通期間と非導通期間とを互いにほぼ等しくし、スイッチング素子S1〜S3の導通期間を互いに120度ずつずらすことで、インバータ1は図2の相電圧Vu,Vv,Vwを出力することができる。
【0048】
また、このような制御によれば、スイッチング素子S1〜S6は次の6つのスイッチパターンのいずれかを採用する。ここで、上側および下側のスイッチング素子が導通することをそれぞれ「1」「0」で示し、各相のスイッチングパターンを並べて表すと、スイッチングパターンは、(001)(010)(011)(100)(101)(110)である。例えば下側のスイッチング素子S4,S5が導通し、上側のスイッチング素子S3が導通するときにはスイッチングパターン(001)が採用される(図2の電気角300度から360度の期間を参照)。
【0049】
また、これらのスイッチングパターンが採用されるときにインバータ1が出力する相電圧についてのベクトルを、上記数字の並びを2進数の数字と把握し、これを10進数で表して、それぞれ電圧ベクトルV1〜V6と表す。例えばスイッチングパターン(001)が採用されているときには電圧ベクトルV1が採用される。これらの電圧ベクトルV1〜V6は図2にも付記されている。
【0050】
なお、本実施の形態でのスイッチング素子S1〜S6の制御方法は上述の例に限らず任意の制御方法が採用され得る。例えば、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンとして、上述の6種類に次の2種類を加えて8種類のスイッチングパターンを採用しても良い。この2種類のスイッチングパターンとは、上側のスイッチング素子S1〜S3の全てが非導通する(000)と、上側のスイッチング素子S1〜S3の全てが導通する(111)とである。よって、この2種類のスイッチングパターンにおいて、交流線Pu,Pv,Pwのいずれもが直流線LHと導通し、または直流線LLと導通する。そしてインバータ1が出力する相電圧Vu,Vv,Vwの近似が例えばより正弦波に近付くように、8種類のスイッチングパターンを適宜に採用してスイッチング素子S1〜S6を制御してもよい。このような制御は従来公知であるので詳細な説明は省略する。
【0051】
<線電流の取得方法>
上述の各スイッチングパターンが採用されているときにインバータ1に流れる電流について考察する。なお上述の通りスイッチングパターンは電圧ベクトルと対応するので、以下では電圧ベクトルをも用いて説明する。図3〜図10はそれぞれ電圧ベクトルV0〜V7が採用されたときにインバータ1に流れる電流を示している。図3,10に示すように零電圧ベクトルV0,V7が採用されている場合は、交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡するので、直流線LH,LLには直流電流Idcが流れない。
【0052】
図4に示すように非零電圧ベクトルV1が採用されるときには上側のスイッチング素子S3と下側のスイッチング素子S4,S5とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcはスイッチング素子S3を経由して線電流iwとして交流線Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iwは誘導性負荷2において分岐する。分岐された2つの電流は線電流iu,ivとしてそれぞれ交流線Pu,Pvを負の方向に流れる。線電流iu,ivはそれぞれスイッチング素子S4,S5を経由して直流線LLにおいて合流し、直流電流Idcとして流れる。したがって、非零電圧ベクトルV1が採用されているときには直流電流Idcは線電流iwと等しい。
【0053】
また図6に示すように非零電圧ベクトルV3が採用されるときには、上側のスイッチング素子S2,S3と下側のスイッチング素子S4とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcは分岐してそれぞれスイッチング素子S2,S3を経由して線電流iv,iwとして交流線Pv,Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iv,iwは誘導性負荷2において合流して線電流iuとして交流線Puを負の方向に流れる。線電流iuはスイッチング素子S4を経由して直流電流Idcとして直流線LLを流れる。したがって、非零電圧ベクトルV3が採用されているときには直流電流Idcは、値が負である線電流iuの絶対値−iuと等しい。以下では、線電流の値が負であるときにその絶対値を表現すべく負号を付記することもある。
【0054】
図5、図7〜図9に示すように、他の非零電圧ベクトルV2,V4〜V6が採用されるときにも直流電流Idcと線電流とが対応付けられる。図2には各非零電圧ベクトルに対応して直流電流Idcとして流れる線電流が付記されている。
【0055】
図2の例示では、任意の時点において非零電圧ベクトルが採用されるので、任意の時点において直流電流Idcは正負を無視すれば線電流iu,iv,iwのいずれかと対応する。したがって、このときの直流電流Idcを、スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流として推定することができる。例えばスイッチングパターン(100)が採用される期間(電気角60度から120度)において直流電流Idcを線電流iuとして検出することができる(図7も参照)。
【0056】
さて図2の例示では、スイッチングパターンは電気角60度毎に切り替わる。図11も参照して、このスイッチングパターンが切り替わるタイミング(以下、時点とも呼ぶ)t[k](kは自然数)の前後の2つの時点t1[k],t2[k]において検出される線電流の相は互いに相違する。例えば時点t[1]の前後の時点t1[1],t2[1]において検出される線電流の相はそれぞれv相とu相である。そこで、二相線電流取得部33は、時点t1[k]において電流検出部4によって検出された直流電流Idcを、時点t1[k]におけるスイッチングパターンによって一つ決定される相の線電流として推定し、時点t2[k]において電流検出部4によって検出された直流電流Idcを、時点t2[k]におけるスイッチングパターンによって一つ決定される相の線電流として推定する。
【0057】
例えば図11を参照して、スイッチングパターンが変化する時点t[1]の前の時点t1[1]において、スイッチングパターン(101)(電圧ベクトルV5)が採用されている。よってこのとき、時点t1[1]における直流電流Idcを、負の値をとるv相の線電流ivの絶対値−ivとして推定する。線電流ivの値は直流電流Idcの符号を負にして得られる値である。また時点t[1]の後の時点t2[1]において、スイッチングパターン(100)(電圧ベクトルV4)が採用される。したがって、時点t2[1]における直流電流Idcを、u相の線電流iuとして推定する。
【0058】
以上のように、二相線電流取得部33は、スイッチングパターンが変化するタイミングt[k]の前後の時点t1[k],t2[k]において互いに異なる相の線電流を検出する。以下では、時点t1[k]における線電流をx相の線電流ixと表し、時点t2[k]における線電流をy相の線電流iyと表す。よってx相は時点t1[k]でのスイッチングパターンによって決定されるu相、v相、w相のいずれかである。y相は時点t2[k]でのスイッチングパターンによって決定されるu相、v相、w相のいずれかであってx相とは異なる。
【0059】
線電流補正部34の具体例については後述し、ここでは概説する。線電流補正部34は線電流ix,iyの少なくとも何れか一方を補正して、第3時点における線電流ixと、第3時点との差(間隔)が第1時点t1[k]と第2時点t2[k]の間の時間より短い第4時点における線電流iyとを出力する。これにより、より時間間隔の短い線電流ix,iyを出力する。なお、線電流ixのみを補正するときには第4時点として第2時点を採用し、線電流iyのみを補正するときには第3時点として第1時点を採用する。例えば線電流補正部34は線電流ixのみを補正して、時点t2[k]との差が時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い時点における線電流ixを算出して出力し、時点t2[k]における線電流iyをそのまま出力する。若しくは線電流補正部34は線電流iyのみを補正して、時点t1[k]との差が時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い時点における線電流iyを算出して出力し、時点t1[k]における線電流ixをそのまま出力する。この算出の具体的な演算方法については後に詳述するものの、これによって互いにより近い時点における線電流ix,iyを得ることができる。
【0060】
一相線電流算出部35は、同じ時点における線電流iu,iv,iwの総和が零であるという関係(iu+iv+iw=0)を用いて、線電流補正部34からの線電流ix,iyに基づいて残りの1相の線電流を算出する。この1相の線電流は、第3時点との差および第4時点との差のいずれもが、時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い時点における線電流である。以上のように、3相の線電流iu,iv,iwを得ることができる。しかも、同じ時点における線電流iu,iv,iwの総和が零であるという関係を用いているところ、線電流補正部34はより近い時点における線電流ix,iyを算出するので、一相線電流算出部35による当該残りの1相の線電流の算出精度を向上することができる。なお、線電流ix,iyに対応する時点と残りの1相の線電流に対応する時点とが全て同じ時点であれば、最も算出精度を向上することができる。
【0061】
<線電流の補正方法の例1>
次に、線電流補正部34の具体的な演算方法の一例について説明する。線電流補正部34は誘導性負荷2の等価回路の電圧方程式を用いて線電流ix,iyの少なくとも何れか一方を補正する。以下では、誘導性負荷2としてモータを採用する。例えばここでいうモータとは永久磁石モータを含む同期モータである。この等価回路においては、図12に例示するように、モータ2の誘導成分L2と抵抗成分R2とが、交流電圧源E1,E2に直列に接続されている。交流電圧源E1はz(zはu,v,wのいずれか)相の相電圧Vzを示し、交流電圧源E2はモータ2の回転によってz相の巻線(誘導成分L2)に生じる誘起電圧を示す。この等価回路によれば、モータ2として簡易的な等価回路が採用されるので、演算処理を比較的簡易にできる。
【0062】
この等価回路において電圧方程式は次式となる。
【0063】
【数1】
【0064】
ここで、izはz相の線電流を示し、Lは誘導成分L2のインダクタンスを示し、Rは抵抗成分R2の抵抗値を示し、ωは相電圧および線電流の角速度を示し、φzはモータ2の永久磁石によるz相電機子鎖交磁束を示す。なお、式(1)において角速度ωと鎖交磁束φzとの乗算はz相の巻線に生じる誘起電圧に相当する。
【0065】
式(1)を変形すると式(2)が導かれる。
【0066】
【数2】
【0067】
ここでは一例として、線電流補正部34が時点t[k]における線電流ixを算出する場合について説明する。式(2)においてz相としてx相を採用し、時点t[k],t1[k]を用いた差分により式(2)を変形して時点t[k]における線電流ix(t)を求めると、次式が導かれる。なお、差分としては任意の差分が用いられてもよいが、一例として前方差分を採用する。
【0068】
【数3】
【0069】
式(3)において、Δtは時点t[k]と時点t1[k]との間の時間である。時間Δtは例えば予め決定され、既知である。線電流ix(t1)は時点t1[k]における線電流ixであり、上述の通り二相線電流取得部33によって取得される。また式(3)における相電圧Vxは時点t1[k]における相電圧Vxである。相電圧Vxは例えば相電圧指令値V*を用いれば既知となり、或いは電圧検出部を設けて相電圧を検出することで既知となる。インダクタンスLおよび抵抗値Rはモータ2に固有の値であって既知である。したがって、時点t1[k]における誘起電圧(角速度ωと鎖交磁束φxとの乗算)が既知となれば、式(3)によって時点t[k]における線電流ixを算出することができる。
【0070】
さて各相の誘起電圧は次式で表される。
【0071】
【数4】
【0072】
【数5】
【0073】
【数6】
【0074】
ここで、φaは鎖交磁束についての鎖交磁束ベクトルの大きさである。鎖交磁束ベクトルの大きさφaはモータ2に固有の値であり既知である。δは、誘起電圧ベクトルと、相電圧の基本波成分についての電圧ベクトルVとの間の位相差である。誘起電圧ベクトルは、モータ2の回転子の磁極中心に相当するd軸と、d軸と直交し回転子の極間に相当するq軸とを有する回転座標系において、q軸に沿う。よって、図13に例示するように、位相差δは回転座標系においてq軸と電圧ベクトルVとの間の位相差である。
【0075】
q軸の回転位置(位相)は任意の公知の手法によって検出できる。例えばモータ2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出部を設けることで検出される。回転子位置検出部は、例えば回転子の回転位置を検出するホールセンサであってもよい。あるいは例えばモータ2の巻線に生じる誘起電圧またはモータ2に流れる線電流などに基づいて公知のセンサレス技術によって回転位置を算出しても良い。これによれば、ホールセンサを用いる必要がないので製造コストが抑制される。
【0076】
また電圧ベクトルVの電圧位相θvも任意の公知の手法によって検出できる。例えば相電圧を検出する電圧検出部を設け、電圧検出部によって検出された相電圧から電圧位相θvを算出しても良く、あるいは相電圧について相電圧指令値V*から電圧位相θvを算出しても良い。
【0077】
以上のとおり、q軸の回転位置(位相)と電圧位相θvとを検出できるので、位相差δを得ることができ、ひいては鎖交磁束φxを算出することができる(式(4)〜式(6)参照)。
【0078】
角速度ωも任意の公知の手法によって取得される。例えば任意の2つの時点における相電圧指令値V*(或いは検出した相電圧)から当該2つの時点における電圧位相θvをそれぞれ算出し、当該2つの時点における電圧位相θv同士の差を、当該2つの時点の間の時間で除算することで、角速度ωを算出する。なお、これに限らず例えば次のようにして角速度ωを算出しても良い。例えば上述した回転位置検出部によって得られる回転子の回転位置から回転子の回転速度(機械角速度)を求め、当該回転速度から角速度ω(電気角速度)を求めてもよい。或いは、任意の2つの時点における電流位相差を、当該2つの時点間の時間で除算することで角速度ωを算出してもよい。また、異なるタイミング(例えばスイッチングパターンが変化するタイミング)で取得した角速度ωの平均値を角速度ωに採用してもよく、或いは角速度ωをローパスフィルタに入力し、その出力を角速度ωに用いても良い。
【0079】
さて、式(1)〜式(6)を用いた時点t[k]における線電流ixの算出は、例えば図14に示す線電流補正部34によって実行される。線電流補正部34は角速度取得部341と鎖交磁束取得部342と演算部343とを備えている。
【0080】
角速度取得部341は上述のようにして角速度ωを取得する。鎖交磁束取得部342は上述のようにして位相差δを算出し、式(4)〜式(6)のうちx相に対応した一つに基づいて鎖交磁束φxを算出する。
【0081】
演算部343は相電圧Vxとして例えば相電圧指令値V*を受け取り、角速度取得部341,鎖交磁束取得部342からそれぞれ角速度ωと鎖交磁束φxとを受け取る。そして式(3)に基づいて時点t[k]における線電流ixを算出する。
【0082】
これによって、線電流補正部34は時点t1[k]よりも時点t2[k]に近い時点t[k]における線電流ixを算出することができる。したがって、一相線電流算出部35において算出される残りの1相の線電流の精度を向上することができる。
【0083】
なお、算出された三相の線電流をどのように用いても良い。例えば三相の線電流と電流指令値との偏差に基づいてインバータを制御してもよい。このとき、三相の線電流をそれぞれ別の時点における線電流であると見なして扱っても良い。例えば線電流ixを時点t[k]における線電流として扱い、線電流iyを時点t2[k]における線電流として扱い、残りの1相の線電流を、第3時点(ここでは時点t[k])との間の時間および第4時点(ここでは時点t2[k])との時間のいずれもが時点t1[k],t2[k]の間の時間よりも短い第5時点における、線電流として扱っても良い。なお残りの1相の線電流を第5時点における線電流として扱うことは、一相線電流算出部35が第5時点における残りの1相の線電流を算出することに相当する。また残りの1相の線電流を、第3時点及び第4時点(ここでは時点t[k],t2[k])の間の第6時点における線電流として扱っても良い。これは、一相線電流算出部35が第6時点における残りの1相の線電流を算出することに相当する。またあるいは、三相の線電流を全て同じ時点(第5時点または第6時点)における線電流であると見なして扱っても良い。これらの点は後述する他の態様であっても同様であるので繰り返しの説明を省略する。
【0084】
また線電流補正部34は線電流ixの補正に替えて、あるいは線電流ixの補正と共に線電流iyを補正しても良い。以下、一例として、時点t1[k],t2[k]の差よりも時点t1[k]との差が小さい時点として時点t[k]を採用し、時点t[k]における線電流iyを算出することを企図する。式(2)においてz相としてy相を採用し、時点t[k],t2[k]を用いた差分により式(2)を変形すると、次式が導かれる。なお、差分としては任意の方法が採用され得るが、一例として後方差分を採用する。
【0085】
【数7】
【0086】
式(7)における相電圧Vyは時点t2[k]における相電圧Vyであり、鎖交磁束φyは時点t2[k]における鎖交磁束である。式(7)を変形して時点t[k]における線電流iyについて求めると、次式が導かれる。
【0087】
【数8】
【0088】
演算部343は相電圧Vyとして例えば相電圧指令値V*を受け取り、角速度取得部341,鎖交磁束取得部342からそれぞれ角速度ωと鎖交磁束φyとを受け取る。そして式(8)に基づいて、時点t2[k]よりも時点t1[k]に近い時点t[k]における線電流iyを算出する。よって、一相線電流算出部35において算出される残りの1相の線電流の精度を向上することができる。
【0089】
しかも、線電流ix,iyの両方を補正して同じ時点t[k]における線電流ix,iyを算出すれば、一相線電流算出部35において算出される残りの1相の線電流の精度を更に向上することができる。
【0090】
なお、線電流補正部34は時点t1[k]における線電流ixを補正して例えば時点t2[k]における線電流ixを算出しても良い。これによれば、線電流iyを補正することなく同じ時点における線電流ix,iyを得ることができる。ただしこの場合、時間Δtは時点t1[k]と時点t2[k]との間の時間であり、比較的大きくなる。よって一旦、時点t[k]における線電流ixを算出し、この時点t[k]における線電流ixを用いて上述と同様にして時点t2[k]における線電流ixを算出しても良い。また時点t1[k]から時点t2[k]までの複数の時点における線電流ixを順次に算出して時点t2[k]における線電流ixを算出してもよい。時間Δtを小さくすることで誤差を低減することができるので、線電流ixの算出精度を向上できる。
【0091】
同様に、線電流補正部34は時点t2[k]における線電流iyを補正して例えば時点t1[k]における線電流iyを算出しても良い。
【0092】
<線電流の補正方法の他の例2−1>
線電流iu,iv,iwはその振幅(以下、電流振幅と呼ぶ)Imとその位相(以下、電流位相と呼ぶ)θiとを用いて理想的には次式で表される。
【0093】
iu=Im・sinθi ・・・(9)
iv=Im・sin(θi−2π/3) ・・・(10)
iw=Im・sin(θi+2π/3) ・・・(11)
【0094】
式(9)〜式(11)は線電流の波形の式であり、線電流補正部34は当該波形の式を用いて線電流ix,iyの少なくとも何れか一方を補正する。以下では、まず線電流ixを補正する場合について説明する。ここでは一例として線電流ixを補正して時点t2[k]における線電流ixを算出する。
【0095】
式(9)〜式(11)から理解できるように、時点t2[k]における線電流ixは、電流振幅Imと時点t2[k]における電流位相θiとに基づいて算出することができる。そこで、電流振幅Imと時点t2[k]における電流位相θiとを算出することを企図する。
【0096】
この算出の説明に先立って、まず線電流補正部34の概念的な内部構成の一例について説明する。図15の例示では、線電流補正部34は、角速度取得部341と電圧位相取得部344と電流位相算出部345と演算部346とを備えている。
【0097】
電圧位相取得部344は任意の公知の方法を用いて相電圧についての電圧位相θvを取得する。例えば相電圧についての相電圧指令値V*から電圧位相θvを算出する。或いは、交流線Pu,Pv,Pwに印加される相電圧を検出し、これから電圧位相θvを算出しても良い。
【0098】
電流位相算出部345は、一相線電流算出部35からの3相の線電流iu,iv,iwに基づいて線電流iu,iv,iwについての電流位相θiを算出する。例えば公知の絶対変換を用いて3相の線電流iu,iv,iwを変換して、固定座標系のα軸の線電流iαとβ軸の線電流iβとを算出し、線電流iαと線電流iβとの除算値(iα/iβ)についての逆正接値を算出して電流位相θiを算出する。
【0099】
演算部346は、後述する演算を行って、電流振幅Imと時点t2[k]における電流位相θiとを算出し、これらと波形の式とに基づいて時点t2[k]における線電流ixを算出する。
【0100】
時点t2[k]における電流位相θiを算出すべく、演算部346はまず電流位相θiと電圧位相θvとの間の位相差Δθを次式により算出する。
【0101】
Δθ=θi−θv ・・・(12)
【0102】
位相差Δθの算出に用いられる電流位相θiは電流位相算出部345によって算出される。電流位相算出部345は上述のとおり一相線電流算出部35から受け取った線電流iu,iv,iwに基づいて電流位相θiを算出する。即ち、電流位相算出部345は、時点t[k]よりも前の時点(例えば時点t[k−1])にてスイッチングパターンが変化したときに検出された線電流iu,iv,iwを用いる。ここでは線電流補正部34は時点t2[k]における線電流ixを算出するので、同様にして時点t2[k−1]における線電流ixが算出されており、一相線電流算出部35は時点t2[k−1]における線電流iu,iv,iwを出力する。よって、電流位相算出部345によって算出される電流位相θiは時点t2[k−1]における値である。
【0103】
また位相差Δθの算出に用いられる電圧位相θvは電圧位相取得部344によって取得される。電圧位相取得部344は電流位相θiと同じ時点t2[k−1]における電圧位相θvを取得する。
【0104】
なお、位相差Δθの算出に用いられる電流位相θi及び電圧位相θvとしては実質的に同じ時点における値が採用されればよい。たとえば線電流補正部34が互いに異なる第一時点及び第二時点における線電流ix,iyを算出し、一相線電流算出部35がこれらを用いて残りの1相の線電流を算出する場合について説明する。このときに得られた3相の線電流は第一時点と第二時点との間の任意の時点における値と見なして良い。つまり、電流位相算出部345によって算出された電流位相θiを、第一時点と第二時点との間の任意の時点における値と見なして良い。したがって、演算部346は例えば第一時点から第二時点までの間の任意の時点における電圧位相θvを用いればよい。また、スイッチングパターンが変化するたびに上述のようにして算出された位相差Δθの複数の平均値を位相差Δθとして算出しても良い。或いは算出された位相差Δθをローパスフィルタに入力し、その出力を位相差Δθとして用いても良い。
【0105】
この位相差Δθは時点t1[k]における位相差Δθとほぼ等しい。これは、特にモータを安定した速度で回転させる定常状態において妥当である。よって、次に、電圧位相取得部344は時点t1[k]における電圧位相θvを取得して演算部346に出力する。演算部346は、時点t1[k]における電圧位相θvと、上述のようにして算出した位相差Δθとに基づいて、時点t1[k]における電流位相θiを算出する。より詳細には、式(12)を変形した次式を用いて電流位相θiを算出する。
【0106】
θi=θv+Δθ ・・・(13)
【0107】
次に、演算部346は、角速度取得部341からの角速度ωに基づく時点t1[k]の電流位相θiと時点t2[k]の電流位相θiとの差を、時点t1[k]の電流位相θiに加算して時点t2[k]における電流位相θiを算出する。端的に説明すれば、次式に基づいて時点t2[k]における電流位相θiを算出する。
【0108】
θi(t2)=θi(t1)+ω・Δt2 ・・・(14)
【0109】
ここで、Δt2は時点t1[k]から時点t2[k]までの時点を示し、角速度ωと時間Δt2との乗算が、時点t1[k]における電流位相θiと時点t2[k]における電流位相θiとの差を示す。なお、時点t1[k],t2[k]における電流位相θiの差は時点t1[k],t2[k]における電圧位相θvの差と等しい。よって、角速度ωと時間Δt2との乗算として、時点t1[k]における電圧位相θv(t1)と時点t2[k]における電圧位相θv(t2)の差を採用してもよい。即ち、θi(t2)=θi(t1)+θv(t2)−θv(t1)との式を採用してもよい。この場合、角速度取得部341は不要である。なお、この内容は、角速度ωに基づく時点t1[k],t2[k]の間の電流位相θiの差ω・Δt2として、時点t1[k],t2[k]の電圧位相θvの差を採用する、とも把握できる。またこの内容は以下で述べる他の態様であっても同様であるので、繰り返しの説明を省略する。
【0110】
また時点t2[k]における電流位相θi(t2)を、式(13)に基づいて算出しても良い。即ち、時点t2[k]における電圧位相θvと、算出した位相差Δθとを用いて、式(13)に基づいて電流位相θi(t2)を算出しても良い。なおこの内容も以下で述べる他の態様にも適用可能であるので、繰り返しの説明を省略する。
【0111】
続いて、電流振幅Imの算出について説明する。演算部346は、二相線電流取得部33からの時点t1[k]における線電流ixと、上述のようにして算出した時点t1[k]における電流位相θiとに基づいて、x相に応じた式(9)から式(11)の一つを用いて、電流振幅Imを算出する。例えば演算部346は、時点t1[2]における線電流iuと、時点t1[2]における電流位相θiとに基づいて、式(9)から電流振幅Imを算出する。
【0112】
この電流振幅Imは時点t2[k]における電流振幅Imとほぼ等しい。これは、特にモータを安定した速度で回転させる定常状態において妥当である。よって次に、演算部343は上述のようにして算出した電流振幅Imおよび時点t2[k]における電流位相θiに基づいて、x相に応じた式(9)から式(11)の一つを用いて、時点t2[k]における線電流ixを算出する。例えば演算部346は、電流振幅Imと時点t2[2]における電流位相θiとに基づいて、式(9)から時点t2[2]における線電流iuを算出する。
【0113】
これによって、時点t1[k]よりも時点t2[k]に近い時点における線電流ixを算出することができる。しかも時点t2[k]における線電流ixを算出しているので、線電流iyを補正することなく、同じ時点t2[k]における線電流ix,iyを得ることができる。
【0114】
また線電流補正部34は線電流ixの補正に替えて線電流iyを補正しても良い。より詳細には、線電流補正部34は時点t2[k]よりも時点t1[k]に近い時点(ここでは例えば時点t1[k])における線電流iyを算出してもよい。この場合、演算部346は上述と同様にして位相差Δθを算出する。ただし、ここでは一相線電流算出部35が時点t1[k−1]における線電流iu,iv,iwを算出するので、時点t[k−1]における電流位相θi及び電圧位相θvを用いて位相差Δθを算出する。
【0115】
そして、算出した位相差Δθと、電圧位相取得部344から受け取った時点t2[k]における電圧位相θvとに基づいて、時点t2[k]における電流位相θiを算出する(式(13)参照)。
【0116】
次に、演算部346は、時点t2[k]における電流位相θi(t2)と、角速度取得部341から受け取った角速度ωと、時間Δt2とに基づいて、時点t1[k]における電流位相θi(t1)を算出する。より詳細には、式(14)を変形した次式に基づいて時点t1[k]における電流位相θi(t1)を算出する。
【0117】
θi(t1)=θi(t2)−ω・Δt2 ・・・(15)
【0118】
また演算部346は、算出した時点t2[k]における電流位相θiと、二相線電流取得部33から受け取った時点t2[k]における線電流iyとに基づいて、y相に応じた式(9)から式(11)の一つを用いて電流振幅Imを算出する。
【0119】
次に、演算部346は、電流振幅Imと時点t1[k]における電流位相θiとに基づいて時点t1[k]における線電流iyを算出する(式(9)〜式(11)参照)。これによって、時点t2[k]よりも時点t1[k]に近い時点における線電流iyを得ることができる。しかも時点t1[k]における線電流iyを算出しているので、線電流ixを補正することなく、同じ時点における線電流ix,iyを得ることができる。
【0120】
また線電流補正部34は線電流ix,iyの両方を補正して、それぞれより近い時点における線電流ix,iyを算出しても良い。例えば時点t[k]における線電流ix,iyを算出してもよい。この場合、位相差Δθは、時点t[k−1]における線電流iu,iv,iwから算出される電流位相θiと、時点t[k−1]における電圧位相θvとの差によって算出されるとよい。
【0121】
<線電流の補正方法の他の例2−2>
ここでは例2−1との相違点について述べる。また、線電流補正部34が時点t1[k]における線電流ixを補正して時点t2[k]における線電流ixを算出する場合について説明する。
【0122】
例2−1と比較して、時点t1[k]における電流位相θiの算出方法が相違する。演算部346は、電流位相算出部345からの電流位相θiと時点t1[k]における電流位相θiとの差を角速度ωに基づいて算出し、当該差を電流位相算出部345からの電流位相θiに加算して時点t1[k]における電流位相θiを算出する。端的に説明すれば次式に基づいて時点t1[k]における電流位相θiを算出する。
【0123】
θi(t1)=θi(t2[k−1])+ω・Δt3 ・・・(16)
【0124】
ここで、θi(t2[k−1])は電流位相算出部345によって算出される電流位相θiである。ここでは線電流補正部34は時点t2[k]における線電流ixを算出するので、同様にして時点t2[k−1]における線電流ixが算出されており、一相線電流算出部35は時点t2[k−1]における線電流iu,iv,iwを出力する。よって、電流位相算出部345によって算出される電流位相θiは時点t2[k−1]における値である。Δt3は時点t2[k−1]から時点t1[k]までの時間を示している。
【0125】
これによれば、演算部346は電流位相θiの算出のために電圧位相θvを用いる必要がない。よって図14の例示において演算部346は電圧位相θvを受け取る必要はなく、また角速度取得部341が電圧位相θvを用いなければ電圧位相取得部344自体が不要となる。
【0126】
なお線電流iyの補正についても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0127】
<線電流の補正方法の他の例2−3>
ここでも例2−1との相違点について述べる。また、線電流補正部34が時点t1[k]における線電流ixを補正して時点t2[k]における線電流ixを算出する場合について説明する。
【0128】
例2−1においては、時点t1[k]における電流位相θiを算出し、これと時点t1[k]における線電流ixとに基づいて電流振幅Imを算出した(式(9)〜式(11)参照)。ここでは、まず電流振幅Imを算出する。以下、詳細に説明する。
【0129】
図16の例示では、線電流補正部34は、角速度取得部341と電流振幅算出部347と演算部346とを備えている。電流振幅算出部347は、一相線電流算出部35からの線電流iu,iv,iwに基づいて電流振幅Imを算出する。例えば線電流iu,iv,iwを公知の絶対変換を用いて変換して線電流iα,iβを生成し、次式に基づいて電流振幅Imを算出する。
【0130】
Im=sqrt(2/3)×sqrt(iα^2+iβ^2)・・・(17)
【0131】
ここで、sqrt()は括弧内の値の平方根を示し、A^BはAのB乗を示す。なお、電流振幅Imは、スイッチングパターンが変化する度に算出された複数の電流振幅Imの平均値であってもよく、或いは算出された電流振幅Imをローパスフィルタに入力し、その出力を電流振幅Imとして用いても良い。
【0132】
演算部346は、電流振幅Imと、二相線電流取得部33からの時点t1[k]における線電流ixとに基づいて、時点t1[k]における電流位相θiを算出する(式(9)〜式(11)参照)。例えば演算部346は、電流振幅Imと時点t1[2]における線電流iuとに基づいて、式(9)を用いて時点t1[2]における電流位相θiを算出する。
【0133】
時点t2[k]における電流位相θiの算出(式(14)参照)と、時点t2[k]における線電流ixの算出(式(9)〜式(11)参照)とは上述の例2−1と同様であるので繰り返しの説明を避ける。
【0134】
このような補正方法によれば、例2−1,2−2に比較して、時点t1[k]における電流位相θiを簡易に算出することができる。なお線電流iyの補正についても同様であるので繰り返しの説明を避ける。
【0135】
なお、例2−1〜例2−3にかかる補正方法では、線電流の波形の式(式(9)〜式(11))を用いて線電流を算出している。しかしながら、実際には線電流iu,iv,iwは基本波成分のみならず高調波成分を含んでおり、この高調波成分は式(9)〜式(11)を満足しない。一方、例1にかかる補正方法では等価回路の電圧方程式(式(1))を用いて線電流を算出している。線電流の基本波成分のみならず高調波成分もこの電圧方程式を満足する。したがって、線電流の算出精度という点では、例1にかかる補正方法が例2−1〜例2−3による補正方法に比べて好ましい。
【0136】
<時点t1[k],t2[k]の各々と時点t[k]との間の時間>
次に、時点t1[k],t2[k]の各々と、スイッチングパターンが変化するタイミングt[k]との間の期間をどの程度の期間にするのか、について考慮する。スイッチングパターンが変化した直後では、直流電流Idcは当該変化に伴って過渡的に変動する。このような過渡的な変動が収まる、即ち直流電流Idcの過渡変動が所定の範囲内に収まった状態で、直流電流Idcを検出することが望ましい。よって、スイッチングパターンが変化してから時点t2[k]までの時間Δt1は、直流電流Idcの過渡変動が所定の範囲内に収まるのに要する過渡期間よりも長いことが望ましい。この過渡期間は電力変換装置1及び誘導性負荷2、さらに平滑コンデンサC1の静電容量及び平滑コンデンサC1に直流電圧を供給する電源の電力容量等の回路条件によって決定されるので、予め設計或いは実験によって決定することができる。
【0137】
また例えば電流検出部4が、検出した直流電流Idcのアナログ値をデジタル値に変換する必要がある場合、当該変換に要する期間が経過するまでスイッチングパターンが変化しないことが望ましい。よって時点t1[k]からスイッチングパターンが変化するまでの時間Δtは、電流検出部4がこの変換に要する期間よりも長いことが望ましい。
【符号の説明】
【0138】
1 インバータ
4 電流検出部
31 スイッチング制御部
32 線電流取得部
33 二相線電流取得部
34 線電流補正部
35 一相線電流算出部
341 角速度取得部
342 鎖交磁束取得部
343,346 演算部
344 電圧位相取得部
345 電流位相算出部
LH,LL 入力線
Pu,Pv,Pw 交流線
S1〜S6 スイッチング素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性負荷(2)に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)とを備える電力変換装置において、前記3つの交流線を流れる3相の線電流(iu,iv,iw)を検出する線電流検出装置であって、
前記第1及び前記第2のスイッチング素子へスイッチング信号(S)を出力して前記第1及び前記第2のスイッチング素子のスイッチングパターンを制御するスイッチング制御部(31)と、
前記第1又は前記第2の直流線を流れる直流電流(Idc)を検出する電流検出部(4)と、
前記スイッチングパターンが変化するタイミング(t[k])よりも前又は後の第1時点(t1[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第1時点での前記スイッチングパターンによって決定される第1相の線電流として推定し、前記タイミングに対して前記第1時点とは反対側であって前記第1時点との差が第1時間である第2時点(t2[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第2時点での前記スイッチングパターンによって決定される第2相の線電流として推定する二相線電流取得部(33)と、
前記二相線電流取得部によって取得された前記第1相及び前記第2相の線電流のうち少なくとも前記第1相の線電流を補正して、第3時点における前記第1相の線電流と、前記第3時点との差が前記第1時間よりも短い第2時間である第4の時点における前記第2相の線電流とを出力し、前記第1相の線電流のみを補正するときには前記第4時点として前記第2時点が採用される線電流補正部(34)と、
同じ時点における前記3相の線電流の総和が零であるという関係を用いて、前記第3時点における前記第1相の線電流及び前記第4時点における前記第2相の線電流に基づいて、前記第3時点との差及び前記第4時点との差のいずれもが前記前記第1時間よりも短い第5時点における第3相の線電流を算出する一相線電流算出部(35)と
を備える、線電流検出装置。
【請求項2】
前記線電流補正部(34)は、前記誘導性負荷(2)の等価回路の電圧方程式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する、請求項1に記載の線電流検出装置。
【請求項3】
前記誘導性負荷(2)はモータであって、
前記等価回路において、前記誘導性負荷(2)の抵抗成分(R2)及び誘導成分(L2)が、前記交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧による第1電圧源(E1)と、前記モータの回転に伴って前記誘導成分に生じる誘起電圧による第2電圧源(E2)とに直列に接続される、請求項2に記載の線電流検出装置。
【請求項4】
前記線電流補正部(34)は、前記第1相の線電流の基本波成分についての波形の式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する、請求項1に記載の線電流検出装置。
【請求項5】
前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、
前記線電流補正部(34)は、
前記3つの交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(344)と、
前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相(θi)を算出する電流位相算出部(345)と、
前記電流位相と前記電圧位相との間の位相差(Δθ)を算出し、前記第1時点(t1[k])における前記電圧位相に前記位相差を加算して前記第1時点における前記電流位相(θi)を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記第3時点における電流位相と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)と
を備える、請求項4に記載の線電流検出装置。
【請求項6】
前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、
前記線電流補正部(34)は、
前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相を算出する電流位相算出部(345)と、
前記電流位相算出部からの前記電流位相と前記第1時点における電流位相との差を、前記3相の線電流の角速度(ω)に基づいて算出し、前記差を前記電流位相算出部からの前記電流位相に加算して、前記第1時点の電流位相を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)と
を備える、請求項4に記載の線電流検出装置。
【請求項7】
前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、
前記線電流補正部(34)は、
前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出する電流振幅算出部(347)と、
前記第1時点における前記第1の線電流と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第1時点における前記3相の線電流についての電流位相を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の前記電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における前記電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)と
を備える、請求項4に記載の線電流検出装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記3相の線電流についての角速度と前記第1時点から前記第3時点までの期間との積として算出する、請求項5から7の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項9】
前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記相電圧についての電圧位相と前記第3時点における前記電圧位相との差として算出する、請求項5から7の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項10】
前記線電流補正部(34)は前記第1相及び前記第2相の線電流の両方を補正し、前記第4時点は前記第3時点である、請求項1から9の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項11】
前記第5時点は前記第3時点である、請求項10に記載の線電流検出装置。
【請求項12】
前記線電流補正部(34)は前記第1相の線電流のみを補正し、前記第3時点(t2[k])は前記第2時点(t2[k])である、請求項1から7の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項13】
前記第5時点は前記第2時点である、請求項12に記載の線電流検出装置。
【請求項14】
相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、
誘導性負荷に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、
前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、
前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)と、
請求項1から13の何れか一つに記載の線電流検出装置(3)と
を備える、電力変換システム。
【請求項1】
誘導性負荷(2)に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)とを備える電力変換装置において、前記3つの交流線を流れる3相の線電流(iu,iv,iw)を検出する線電流検出装置であって、
前記第1及び前記第2のスイッチング素子へスイッチング信号(S)を出力して前記第1及び前記第2のスイッチング素子のスイッチングパターンを制御するスイッチング制御部(31)と、
前記第1又は前記第2の直流線を流れる直流電流(Idc)を検出する電流検出部(4)と、
前記スイッチングパターンが変化するタイミング(t[k])よりも前又は後の第1時点(t1[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第1時点での前記スイッチングパターンによって決定される第1相の線電流として推定し、前記タイミングに対して前記第1時点とは反対側であって前記第1時点との差が第1時間である第2時点(t2[k])において前記電流検出部によって検出された前記直流電流を、前記第2時点での前記スイッチングパターンによって決定される第2相の線電流として推定する二相線電流取得部(33)と、
前記二相線電流取得部によって取得された前記第1相及び前記第2相の線電流のうち少なくとも前記第1相の線電流を補正して、第3時点における前記第1相の線電流と、前記第3時点との差が前記第1時間よりも短い第2時間である第4の時点における前記第2相の線電流とを出力し、前記第1相の線電流のみを補正するときには前記第4時点として前記第2時点が採用される線電流補正部(34)と、
同じ時点における前記3相の線電流の総和が零であるという関係を用いて、前記第3時点における前記第1相の線電流及び前記第4時点における前記第2相の線電流に基づいて、前記第3時点との差及び前記第4時点との差のいずれもが前記前記第1時間よりも短い第5時点における第3相の線電流を算出する一相線電流算出部(35)と
を備える、線電流検出装置。
【請求項2】
前記線電流補正部(34)は、前記誘導性負荷(2)の等価回路の電圧方程式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する、請求項1に記載の線電流検出装置。
【請求項3】
前記誘導性負荷(2)はモータであって、
前記等価回路において、前記誘導性負荷(2)の抵抗成分(R2)及び誘導成分(L2)が、前記交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧による第1電圧源(E1)と、前記モータの回転に伴って前記誘導成分に生じる誘起電圧による第2電圧源(E2)とに直列に接続される、請求項2に記載の線電流検出装置。
【請求項4】
前記線電流補正部(34)は、前記第1相の線電流の基本波成分についての波形の式を用いて前記少なくとも前記第1相の線電流を補正する、請求項1に記載の線電流検出装置。
【請求項5】
前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、
前記線電流補正部(34)は、
前記3つの交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(344)と、
前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相(θi)を算出する電流位相算出部(345)と、
前記電流位相と前記電圧位相との間の位相差(Δθ)を算出し、前記第1時点(t1[k])における前記電圧位相に前記位相差を加算して前記第1時点における前記電流位相(θi)を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記第3時点における電流位相と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)と
を備える、請求項4に記載の線電流検出装置。
【請求項6】
前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、
前記線電流補正部(34)は、
前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流位相を算出する電流位相算出部(345)と、
前記電流位相算出部からの前記電流位相と前記第1時点における電流位相との差を、前記3相の線電流の角速度(ω)に基づいて算出し、前記差を前記電流位相算出部からの前記電流位相に加算して、前記第1時点の電流位相を算出し、前記第1時点における前記電流位相と前記第1時点における前記第1相の線電流とに基づいて、前記波形の式を用いて前記3相の線電流についての電流振幅を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)と
を備える、請求項4に記載の線電流検出装置。
【請求項7】
前記スイッチング制御部(31)は前記スイッチングパターンを繰り返し変化させ、
前記線電流補正部(34)は、
前記タイミング(t[k])よりも前に前記スイッチングパターンが変化したときに、前記二相線電流取得部(32)と前記線電流補正部(33)と前記一相線電流算出部(34)とによって算出された前記第1相から前記第3相の線電流(iu,iv,iw)に基づいて、前記3相の線電流についての電流振幅(Im)を算出する電流振幅算出部(347)と、
前記第1時点における前記第1の線電流と前記電流振幅とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第1時点における前記3相の線電流についての電流位相を算出し、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記電流位相に加算して前記第3時点の前記電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第3時点における前記電流位相とに基づいて、前記波形の式を用いて前記第3時点における前記第1相の線電流を算出する演算部(346)と
を備える、請求項4に記載の線電流検出装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記3相の線電流についての角速度と前記第1時点から前記第3時点までの期間との積として算出する、請求項5から7の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項9】
前記演算部は、前記第1時点から前記第3時点までの前記電流位相の差を、前記第1時点における前記相電圧についての電圧位相と前記第3時点における前記電圧位相との差として算出する、請求項5から7の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項10】
前記線電流補正部(34)は前記第1相及び前記第2相の線電流の両方を補正し、前記第4時点は前記第3時点である、請求項1から9の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項11】
前記第5時点は前記第3時点である、請求項10に記載の線電流検出装置。
【請求項12】
前記線電流補正部(34)は前記第1相の線電流のみを補正し、前記第3時点(t2[k])は前記第2時点(t2[k])である、請求項1から7の何れか一つに記載の線電流検出装置。
【請求項13】
前記第5時点は前記第2時点である、請求項12に記載の線電流検出装置。
【請求項14】
相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、
誘導性負荷に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、
前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、
前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)と、
請求項1から13の何れか一つに記載の線電流検出装置(3)と
を備える、電力変換システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−115884(P2013−115884A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258511(P2011−258511)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
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