説明

締め付け工具

【課題】ボルト頭部等の頂角部のつぶれ変形を防止できるとともに、最薄肉部である収容凹部の頂角部におけるクラック発生および破損を防止または抑制できる締め付け工具を提供する。
【解決手段】正六角形の外形を有するボルト頭部14を、対応する略正六角形の内側面を有する収容凹部12内に嵌合させて、前記ボルト頭部14にトルクを伝達することによりボルトを締め付ける又は緩めるソケットレンチであって、
前記収容凹部12の互いに隣接する2つの頂角部20の間の内側面が、前記収容凹部12の中心C側に向かって略く字状に突出するように連結された2つの平面24,26で構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナットなどの被締め付け部材を締め付けたり緩めたりするために用いられるソケットレンチ等の締め付け工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被締め付け部材であるボルトやナットを締め付けたり緩めたりするための工具として、ソケットレンチが知られている。ソケットレンチは、例えば正六角形の外形形状をするナットやボルトの頭部を収容する例えば正六角形の内側面を有する収容凹部を有している。
【0003】
前記ソケットレンチは、前記収容凹部にボルト頭部やナットを収容した状態でトルクをかけることによって、前記ナットや前記ボルトを締め付けるものである。ここで、ボルト頭部やナットを製造寸法誤差にかかわらず無理なく収容できるようにするため、ソケットレンチの収容凹部はナットやボルト頭部よりも少し大きく形成されることがJIS等の規格によって規定されている。これにより、前記収容凹部にナットやボルト頭部を収容したときに、前記収容凹部の内側面とボルト頭部等の外周面との間に隙間が形成されることになる。
【0004】
前記隙間が形成されることによって、ソケットレンチにトルクをかけてボルト等を締め付けようとするときに、前記収容凹部内においてボルト頭部が僅かに傾くことになる。より詳細には、ソケットレンチからボルト等にトルクが伝達されるとき、前記隙間があることによって、ボルト頭部の頂角部が収容凹部内の頂角部にぴったりと位置するのではなく、ボルト頭部の頂角部が収容凹部内の頂角部から少しずれた内側面に接触することになる。このときの接触は、前記収容凹部の開口面に沿った平面的に見れば点接触状態(三次元的に見れば線接触状態)にあり、トルク伝達が平面的には一点に集中してなされることになる。
【0005】
このようにトルク伝達が収容凹部の頂角部近傍の内側面上で一点に集中してなされることで、前記収容凹部の頂角部に応力集中が発生し、その結果、外周形状が円柱状をなすソケットレンチにおいて肉厚が最も薄くなる前記頂角部にクラックが発生して、ソケットレンチが破損するおそれがある。
【0006】
一方、ソケットレンチの外周直径を大きくして(すなわち最小肉厚部を厚くして)、破損しないように強度を上げることが考えられるが、ソケットレンチは狭いスペースで使用され得ることを考慮すると、できるだけ小径なものにすることが望まれる。
【0007】
また、上述したようにボルト頭部等が収容凹部の内側面に点接触した状態でトルクがかかると、ボルト頭部等の頂角部がつぶれて変形するという問題もある。この問題に対処するため、特許文献1,2には、収容凹部の互いに隣接する2つの頂角部の間の内側面を曲率をもった湾曲面として形成するか、または、湾曲面と平面との組み合わせで構成することが開示されている。これらの先行技術は、ボルト頭部等の頂角部のつぶれ変形防止の点において一定の効果が認められるものの、一点集中状態でトルク伝達がなされていることには変わりなく、最薄肉部である収容凹部の頂角部におけるクラック発生および破損の問題は解消されていない。
【特許文献1】特開平11−333736号公報
【特許文献2】実開昭61−117669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、ボルト頭部等の頂角部のつぶれ変形を防止でき、ボルト頭部等へのトルク伝達が確実かつ効率的に行えるとともに、最薄肉部である収容凹部の頂角部におけるクラック発生および破損を防止または抑制できる締め付け工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の締め付け工具は、正多角形の外形を有する被締め付け部材を、対応する略正多角形の内側面を有する収容凹部内に嵌合させて、前記被締め付け部材にトルクを伝達することにより前記被締め付け部材を締め付ける又は緩める締め付け工具であって、
前記収容凹部の互いに隣接する2つの頂角部の間の内側面が、前記収容凹部の中心側に向かって略く字状に突出するように連結された2つの平面で構成されていることを特徴とするものである。
ここで、正多角形には、正六角形、正方形等が含まれる。
【0010】
本発明の締め付け工具において、前記収容凹部の内側面の基準となる基準正多角形線に対する前記平面の傾きは、前記収容凹部内に前記被締め付け部材を収容してトルクをかけたときに前記収容凹部の内側面と前記被締め付け部材の外周面との間に形成される隙間に起因して生じる前記被締め付け部材の傾きに一致することが好ましい。
【0011】
また、本発明の締め付け工具において、前記傾きは、約5〜10度であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の締め付け工具において、前記収容凹部の頂角部が円弧面として形成されていてもよい。この場合、前記円弧面は、前記収容凹部の内側面の基準となる基準正多角形線の頂角部よりも僅かに内側に設定されていることが好ましい。さらに、前記収容凹部の互いに隣接する2つの頂角部間の内側面を構成する前記2つの平面は、前記頂角部を構成する前記円弧面の接線方向にそれぞれ延設されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の締め付け工具によれば、正多角形の外形を有する被締め付け部材を収容する収容凹部の互いに隣接する2つの頂角部の間の側面が、前記収容凹部の中心側に向かって略く字状に突出するように連結された2つの平面で構成されている。これにより、前記収容凹部内に前記被締め付け部材を収容してトルクをかけたときに、前記収容凹部の内側面と前記被締め付け部材の外周面との間に形成される隙間に起因して前記被締め付け部材が傾いた状態で、被締め付け部材の外周面と前記収容凹部の頂角部間の内側面を構成する略く字状に突出するように連結された2つの平面の一方とが、面接触状態で接触することになる。その結果、被締め付け部材の頂角部のつぶれ変形を防止できるとともに、ボルト頭部等へのトルク伝達が確実かつ効率的に行える。また、面接触状態でトルク伝達が分散してされることで、点接触または線接触状態で同じ大きさのトルク伝達が行われる場合に比べて、収容凹部の頂角部における応力集中の度合が軽減され、収容凹部の頂角部でのクラック発生および破損が起こりにくい。
【0014】
また、本発明の締め付け工具において、前記収容凹部の頂角部が円弧面として形成されていれば、前記頂角部における応力集中を軽減でき、前記頂角部におけるクラック発生および破損がさらに起こりにくくなる。さらに、前記円弧面が前記収容凹部の内側面の基準となる基準正多角形線の頂角部よりも僅かに内側に設定されていれば、同一外周直径の締め付け工具に比べて、最薄肉部である収容凹部の頂角部の肉厚を厚くすることができ、これにより収容凹部の頂角部の強度が増して、収容凹部の頂角部でのクラック発生および破損がまたさらに起こりにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるソケットレンチ10を収容凹部12の開口部側から見た平面図である。ソケットレンチ10は、略正六角形の内側面を有する収容凹部12を有している。ソケットレンチ10の収容凹部12が設けられている部分の外形形状は、円柱状をなしている。
【0016】
収容凹部12には、正六角形の外形を有するボルトの頭部(またはナット)14が収容されるようになっている。ボルト頭部14を製造寸法誤差にかかわらず無理なく収容できるようにするため、ソケットレンチ10の収容凹部12はボルト頭部14よりも少し大きく形成されている。これにより、収容凹部12にボルト頭部14を収容したときに、収容凹部12の内側面とボルト頭部14の外周面との間に隙間16が形成されことになる。
【0017】
前記隙間16があるために、ソケットレンチ10にトルクをかけてボルトを締め付けようとするとき、ボルト頭部14は収容凹部12内において実線18で示すように傾く。すなわち、ボルト頭部14の頂角部が、収容凹部12の頂角部にぴったりと位置するのではなく、収容凹部12の頂角部近傍の内側面に接触することになる。
【0018】
図2は、ソケットレンチ10の収容凹部12の内側面を部分的に拡大して示す。図2において一点鎖線22は、収容凹部12の内側面の基準となる基準正六角形線である。前記収容凹部12の内側面において、互いに隣接する2つの頂角部20,20の間の内側面が、前記収容凹部12の中心C側に向かって略く字状に突出するように連結された2つの平面24,26で構成されている。
【0019】
これらの平面24,26の基準正六角形線22に対する傾きθは、収容凹部12内にボルト頭部14を収容してトルクをかけたときに収容凹部12の内側面とボルト頭部14の外周面との間に形成される隙間16に起因して生じるボルト頭部14の傾きに一致するように設定されている。具体的には、前記傾きθは、例えば約5〜10度に設定される。
【0020】
前記2つの平面24,26の連結部28は、基準正六角形線22の一辺を2等分する中央点30と収容凹部12の中心Cとを結んだ直線32上に位置している。なお、連結部28は、湾曲面として形成されてもよいし、または、幅の狭い平面として形成されてもよい。
【0021】
図示するように、収容凹部12の内側面の頂角部20は、円弧面として形成されている。この円弧面は、前記基準正六角形線22の頂角部34と、ボルトを締め付ける又は緩めるためにソケットレンチ10にトルクをかけたときにボルト頭部14の頂角部が収容凹部12の内側面に当接する点36,38との3点を通る円弧面よりも僅かに内側に設定されている。また、 収容凹部12の互いに隣接する2つの頂角部20,20間の内側面を構成する前記2つの平面24,26は、前記頂角部20を構成する円弧面の接線方向にそれぞれ延設されている。
【0022】
続いて、前記構成からなるソケットレンチ10の作用効果について説明する。
ボルトを締め付けるために、収容凹部12内にボルト頭部14を嵌合させてソケットレンチ10にトルクをかけると、上述したように収容凹部12の内側面とボルト頭部14の外周面との間に形成される隙間16に起因してボルト頭部14が収容凹部12内において傾く。このように傾いた状態で、ボルト頭部14の各外周平面は収容凹部12の内側面を構成する前記平面24と面接触状態でそれぞれ接触することになる。
【0023】
このようにソケットレンチ10の収容凹部12の内側面がボルト頭部14に対して面接触状態になることで、ソケットレンチ10からボルト頭部14へのトルク伝達が確実かつ効率的に行われるとともに、ボルト頭部14の頂角部のつぶれ変形を防止することができる。また、面接触状態でトルク伝達が分散してされることで、点接触または線接触状態で同じ大きさのトルク伝達が行われる場合に比べて、収容凹部12の頂角部20における応力集中の度合が軽減され、収容凹部12の頂角部20でのクラック発生および破損が起こりにくい。
【0024】
また、本実施形態のソケットレンチ10では、収容凹部12の頂角部20が円弧面として形成されているので、頂角部20における応力集中をより軽減でき、頂角部20におけるクラック発生および破損がさらに起こりにくくなる。さらに、前記頂角部20の円弧面が収容凹部12の内側面の基準となる基準正六角形線22の頂角部34よりも僅かに内側に設定されているため、同一外周直径のソケットレンチに比べて、最薄肉部である収容凹部12の頂角部20での肉厚t(図1参照)を厚くすることができ、これにより収容凹部12の頂角部20の強度が増して、収容凹部12の頂角部20でのクラック発生および破損がより一層起こりにくくなる。
【0025】
なお、一旦締め付けられたボルトをソケットレンチ10で緩める際には、ボルト頭部14は収容凹部14の内側面を構成する平面26と面接触状態になり、上記締め付け時と同様の作用効果を奏することになる。
【0026】
また、本発明の締め付け工具は、正六角形のボルトやナットに適用されるだけでなく、他の正多角形(例えば正方形)の外形を有する被締め付け部材についても適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】収容凹部の開口部側から見たソケットレンチの平面図。
【図2】収容凹部の内側面の部分拡大図。
【符号の説明】
【0028】
10…ソケットレンチ
12…収容凹部
14…ボルト頭部
16…隙間
20…収容凹部の頂角部
22…基準正六角形線
24,26…平面
28…連結部
34…基準正六角形線の頂角部
36,38…収容凹部の内側面に対するボルト頭部の頂角部の当接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正多角形の外形を有する被締め付け部材を、対応する略正多角形の内側面を有する収容凹部内に嵌合させて、前記被締め付け部材にトルクを伝達することにより前記被締め付け部材を締め付ける又は緩める締め付け工具であって、
前記収容凹部の互いに隣接する2つの頂角部の間の内側面が、前記収容凹部の中心側に向かって略く字状に突出するように連結された2つの平面で構成されていることを特徴とする締め付け工具。
【請求項2】
前記収容凹部の内側面の基準となる基準正多角形線に対する前記平面の傾きは、前記収容凹部内に前記被締め付け部材を収容してトルクをかけたときに前記収容凹部の内側面と前記被締め付け部材の外周面との間に形成される隙間に起因して生じる前記被締め付け部材の傾きに一致することを特徴とする請求項1に記載の締め付け工具。
【請求項3】
前記傾きは、約5〜10度であることを特徴とする請求項2に記載の締め付け工具。
【請求項4】
前記収容凹部の頂角部が円弧面として形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の締め付け工具。
【請求項5】
前記円弧面は、前記収容凹部の内側面の基準となる基準正多角形線の頂角部よりも僅かに内側に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の締め付け工具。
【請求項6】
前記収容凹部の互いに隣接する2つの頂角部の間の内側面を構成する前記2つの平面は、前記頂角部を構成する前記円弧面の接線方向にそれぞれ延設されていることを特徴とする請求項4に記載の締め付け工具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−283427(P2007−283427A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112210(P2006−112210)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(593097203)長堀工業株式会社 (8)