説明

締付けトルク測定装置

【課題】簡単な構造で、オイルパルスレンチによる締付けトルクをより精度良く測定することができる締付けトルク測定装置を提供すること。
【解決手段】ばね部30が、入力部20をその回転方向とは反対方向に付勢し、測定トルク設定部40が、上述の締付けトルクの測定を行う前に、所望のトルク値に応じた回転角だけ入力部20をばね部30による付勢力に抗して回転させることによって、締付けトルクの値が所望のトルク値以上である場合にのみ、入力部20を、締付けトルクを受けて回転可能な状態とする。そして、トルク判定部50が、締付けトルクを受けて入力部20が回転したか否かを判断し、入力部20が回転したと判断された場合には、トルク判定部50のトルク判定ランプ54が点灯してその旨を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルパルスレンチによる締付けトルクを簡単に測定するための締付けトルク測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の機械製品の組立ラインにおいては、オイルパルスレンチ等の衝撃トルクを発生させる締付け工具(以下、オイルパルスレンチ等という)を用いてねじ類の締め付けが行われることが多い。オイルパルスレンチ等は、エアモータ等のモータの連続的な回転力をパルス発生機によって断続的なトルクに変換し、短時間にトルクを立ち上げて衝撃トルクを発生させることにより、小型で大きな締付けトルクを得ることができる。
【0003】
また、機械製品の組立においては、ねじ類の締付けトルクが規定されている部位があり、このような部位のねじの締付けにおいては、締付けトルクが規定値に達しているかどうかを判定する必要がある。そこで、従来、ねじ類をオイルパルスレンチ等によってある程度締付けた後、さらに、手動式のトルクレンチを用いて規定トルクまで締付けるようにしていた。
【0004】
しかしながら、上記従来の手動式のトルクレンチを用いて締付ける方法では、締付作業が煩雑であり、作業効率が低い。そこで、締付けトルク検出装置を用いてオイルパルスレンチ等の締付けトルクを測定し、予め規定の締付けトルクが得られるよう調整したオイルパルスレンチ等を用いる方法、あるいは、締付けトルク検出装置を内蔵したオイルパルスレンチ等を用いて規定の締付けトルクを得る方法が採用されている。
【0005】
オイルパルスレンチ等の締付けトルクを測定するための締付けトルク検出装置は、例えば、ひずみゲージ等のひずみ検出素子を用いてトルク伝達部材のひずみ(捻れ)を電気信号として検出し、この電気信号を電気回路によって処理することにより、締付けトルクを直接得るようにしている。
【0006】
しかしながら、上述のような電気的に締付けトルクを検出する締付けトルク検出装置を用いる場合、締付けトルク検出装置は、構造が複雑であり、さらに、電気回路等を用いるため高価である。また、このように高価であるために、例えば作業する人やグループなどの作業単位ごとに締付けトルク検出装置を保有することができずに共有する場合には、例えば組立ラインの外に締付けトルクのチェックスペースを配置してそのスペースに1台の締付けトルク検出装置を設置し、各作業者が作業を中断してチェックスペースに移動し、オイルパルスレンチ等の締付けトルクをチェックすることとなり、作業効率が低下することになる。
【0007】
そこで、次のように構成された締付けトルク測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、積層された皿ばねをはさんでボルトとT字ナットとを螺合させ、T字ナットをクランプブロック及びボルトによってベース板に固定し、ボルトに入力軸を取付けた締付けトルク測定装置が知られている。このように構成された締付けトルク測定装置では、次のように締付けトルクを測定することができる。すなわち、オイルパルスレンチ等の出力軸を入力軸の結合凹部に結合する。そして、オイルパルスレンチ等を作動させて、入力軸を回転させてボルトをT字ナットに締め込んで皿ばねを圧縮する。このことにより、ボルトの回転によるボルトとT字ナットとの軸方向の相対変位に対して、その変位に応じた皿ばねの弾性力が付与されてボルトの回転に抵抗力が生じ、オイルパルスレンチ等の締付けトルクと皿ばねの弾性力による抵抗力(入力軸との摩擦力)とが釣り合ったところでボルトの回転が停止する。このとき、締付けトルクを測定することができる。また、締付けトルクを測定した後、オイルパルスレンチ等を逆回転させて、ボルトおよび指針を初期位置に戻す。このようにして、オイルパルスレンチ等の締付けトルクを簡単に測定することができる。
【特許文献1】特開2004−239681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような締付けトルク測定装置においては、オイルパルスレンチ等の先端に連結された入力軸と皿バネとの摩擦力がいつも一定とは限らず、同一条件下であっても測定する度に締付けトルクの値が異なるといった具合にその締付けトルクの測定精度が良くなかった。その要因としては、気温・室温等による周囲環境の変化や、繰り返しの測定により、入力軸の先端との摩擦による摩耗などによる皿バネのばね定数の変化が考えられる。
【0009】
また、上述のような締付けトルク測定装置においては、測定対象の実トルクが確実に再現されにくく、測定時の安定性および信頼性が得られにくい、などの問題があった。
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構造で、オイルパルスレンチによる締付けトルクをより精度良く測定することができる締付けトルク測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る締付けトルク測定装置(1:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための最良の形態」欄で用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)は、締付け工具による締付けトルクを受けて回転可能な入力軸(21)と、前記入力軸をその回転方向とは反対方向に付勢可能な付勢手段(30)と、所望のトルク値に応じた回転角だけ前記入力軸を前記付勢手段による付勢力に抗して回転させることによって、前記締付けトルクの値が前記トルク値以上である場合にのみ、前記入力軸を、前記締付けトルクを受けて回転可能な状態とする初期設定手段(40)と、前記締付けトルクを受けて前記入力軸が回転したか否かを判断する判断手段(50)と、前記判断手段によって前記入力軸が回転したと判断された場合にはその旨を報知する報知手段(50)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このように構成された本発明の締付けトルク測定装置によれば、付勢手段が、入力軸をその回転方向とは反対方向に付勢し、初期設定手段が、上述の締付けトルクの測定を行う前に、所望のトルク値に応じた回転角だけ入力軸を付勢手段による付勢力に抗して回転させることによって、締付けトルクの値がトルク値以上である場合にのみ、入力軸を、締付けトルクを受けて回転可能な状態とする。そして、判断手段が、締付けトルクを受けて入力軸が回転したか否かを判断し、判断手段によって入力軸が回転したと判断された場合には、報知手段がその旨を報知する。つまり、本発明の締付けトルク測定装置によれば、所望のトルク値に応じた回転角だけ入力軸を回転させることで、測定時の基準回転角度を予め設定し、入力軸が回転した際にはその旨を報知する。
【0012】
このことにより、次の(イ)〜(ホ)のような効果を奏する。
(イ)測定対象の実トルクが確実に再現されるので、測定時の安定性および信頼性が得られる。
【0013】
(ロ)測定値の検出用の複雑な演算回路の設定や信号増幅用のアンプが不要となり、判断手段が簡単な構造でよい。
(ハ)トルク値が数値「0」の状態から立ち上がって測定対象のトルク値まで実働するトルク計に比べて、測定時の変動トルクが少なくて済み、トルク外力の入力を支える架台(骨組み)のガタ詰めのための高精度の加工や組み立てが不要となる。
【0014】
(ニ)付勢手段には、実際のねじ締付作業時の条件に近い角度と、トルクからなるばね特性(トルク/角度)を、持たせることができる。
(ホ)瞬間的な動作トルクを測定する場合でも速度特性を考慮しなくてもよく、簡単な構造でよい。
【0015】
(ヘ)締付けトルクを複数回チェックする際に、初期状態に戻す必要がない。
つまり、本発明の締付けトルク測定装置によれば、簡単な構造で、オイルパルスレンチによる締付けトルクをより精度良く測定することができる。また、上述のように簡単な構造とすることができるので、従来の締付けトルク測定装置に比べて、低コスト且つ小型化することができる。また、上述のように締付け工具による1回の打撃による最大変位を測定するので、従来の締付けトルク測定装置に比べて、締付けトルクを測定する測定時間が短くて済み、利用者の利便性を向上させることができる。また、上述の測定を繰り返し行っても再現性が高い。
【0016】
この場合、前述の付勢手段がトーションバーであり、その上端部が入力軸に連結されるとともに、その下端部が初期設定手段に連結されていることが考えられる(請求項2)。このように構成すれば、トーションバーについては、同等の大きさである他の種別のバネを用いた場合に比べて、ばね定数の値のばらつきを小さくすることができることから、例えば皿バネなどの他の種別のバネを用いた場合に比べて、装置の精度を向上させることができる。また、各種のばねに比べてコンパクトに設計できるのでサイズを節約でき、省スペース化を図ることができる。
【0017】
また、初期設定手段が、ウォームと、ウォームに噛み合うウォームホイールと、を有し、ウォームホイールにはトーションバーの下端部が連結されており、ウォームが回転する際には、その回転に伴ってウォームホイールが回転してトーションバーの下端部に捻り力を作用させることが考えられる(請求項3)。このように構成すれば、初期設定手段を、簡単な構造で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1(a)は第一実施形態の締付けトルク測定装置の外観を示す斜視図である。また、図1(b)は第一実施形態の締付けトルク測定装置の内部を示す斜視図である。また、図2は第一実施形態の締付けトルク測定装置を示す説明図であり、図2(a)が平面図であり、図2(b)が正面図である。また、図3は第一実施形態の締付けトルク測定装置のB―B断面図である。また、図4(a)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のC―C断面図であり、図4(b)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のD―D断面図である。また、図5(a)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のE―E断面図(1)であり、図5(b)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のE―E断面図(2)である。
【0019】
なお、以降、この締付けトルク測定装置1において、ケース10の底板11に対してケース本体12が配されている側を「上側」とし、その反対側を「下側」とする。また、締付けトルク測定装置1において、ケース本体12に対して測定トルク変更ダイヤル42が配されている側を「前側」とし、測定トルク変更ダイヤル42に対してケース本体12が配されている側を「後側」とする。また、締付けトルク測定装置1の前側から後側を見た場合における締付けトルク測定装置1の右側、左側をそれぞれ「右側」、「左側」とする。
【0020】
[締付けトルク測定装置1の構成の説明]
図1に示すように、締付けトルク測定装置1は、ケース10と、オイルパルスレンチによる締付けトルクを受けて回転可能な入力部20と、入力部20をその回転方向とは反対方向に付勢可能な付勢手段としてのばね部30(図3参照)と、測定トルク設定部40(図3参照)と、トルク判定部50(図3参照)と、を備える。
【0021】
以下、各構成について具体的に説明する。
[ケース10の構成の説明]
図3に示すように、ケース10は、底板11と、ケース本体12と、カバー13と、軸受14,16,17,18と、ウォームホイール15と、を備える。
【0022】
[底板11の構成の説明]
底板11は金属材料で構成された板材である。また、底板11における中央部の左側の部分には上下方向に貫通する貫通孔11aが形成されている。そして、底板11の貫通孔11aの内部には軸受14が上方から取り付けられている。具体的には、底板11の貫通孔11aの内部には軸受14を載置するための載置面11bが形成されており、この載置面11bに軸受14が載置されている。さらに、軸受14の内部には後述するウォームホイール15のホイール本体15aの下端部15cが取り付けられており、ウォームホイール15は、軸受14を介して底板11に対して回転可能となっている。
【0023】
[ケース本体12の構成の説明]
ケース本体12は、その一方が開口する略円柱形の箱形状に形成された第一の箱状体12aと、その一方が開口する略方形の箱形状に形成された第二の箱状体12bと、を有し、第一の箱状体12aの右側部に形成された開口部と第二の箱状体12bの左側部に形成された開口部とを連結した構造を有している。そして、ケース本体12は、底板11に取り付けられている。具体的には、ケース本体12は、その開口が下側を向く姿勢で、その開口の縁部12eと底板11の周縁部11cとを当接させて連結することで底板11に取り付けられている。
【0024】
また、第一の箱状体12aの上部における中央部分には上下方向に貫通する貫通孔12fが形成されている。なお、この貫通孔12fは、ケース本体12を底板11に取り付けた際に、底板11の貫通孔11aと対向するように形成されている。そして、第一の箱状体12aの内部には軸受16が下方から取り付けられている。さらに、軸受16の内部には後述する入力部20の回転体23が取り付けられており、入力部20は、軸受16を介してケース本体12の第二の箱状体12bに対して回転可能となっている。
【0025】
また、第一の箱状体12aの上部における右側部には開口部12gが形成されている。また、第二の箱状体12bの上部については、トルク判定部50が載置される載置面12hとなっており、この載置面12hにはトルク判定部50が載置されている。そして、トルク判定部50の接触体56,57が、第一の箱状体12aの開口部12gから第一の箱状体12aの内部にそれぞれ挿入され、接触体56,57の先端部が、後述する入力部20の回転体23の凹部23e内に配置されている。
【0026】
また、第一の箱状体12aにおける左側の部分からは、突起部12cがその内部に向けて突出している。この突起部12cの先端部は、後述する回転体23の凹部23fの内部に配置されており、回転体23の回転を止める機能を有する。
【0027】
また、第二の箱状体12bには、ウォーム41が回転可能に取り付けられている。具体的には、第二の箱状体12bにおける前側の壁部の左側部分には、前後方向に貫通する貫通孔12iが形成されており、第二の箱状体12bにおける後側の壁部の左側部分には、前後方向に貫通する貫通孔12jが、貫通孔12iと対向するよう形成されている。また、貫通孔12iの内部には軸受17が内側から取り付けられている。具体的には、貫通孔12iの内部には軸受17を載置するための載置面12kが形成されており、この載置面12kに軸受17が載置されている。また、貫通孔12jの内部には軸受18が内側から取り付けられている。具体的には、貫通孔12jの内部には軸受18を載置するための載置面12lが形成されており、この載置面12lに軸受18が載置されている。そして、貫通孔12iに取り付けられた軸受17の内部にはウォーム41の前側の端部41cが挿入されており、貫通孔12jに取り付けられた軸受18の内部にはウォーム41の後側の端部41dが挿入されている。
【0028】
[カバー13の構成の説明]
カバー13は、その一方が開口する略円柱形の箱形状に形成された第一の箱状体13aと、その一方が開口する略方形の箱形状に形成された第二の箱状体13bと、を有し、第一の箱状体13aの右側部に形成された開口部と第二の箱状体13bの左側部に形成された開口部とを連結した構造を有している。そして、カバー13は、ケース本体12に取り付けられている。具体的には、カバー13は、その開口が下側を向く姿勢で、その開口の縁部13eとケース本体12の上部の周縁部12mとを当接させて連結することでケース本体12に取り付けられている。
【0029】
また、第一の箱状体13aの上部における中央部分には上下方向に貫通する貫通孔13fが形成されている。なお、この貫通孔13fは、カバー13をケース本体12に取り付けた際に、ケース本体12の貫通孔12fおよび底板11の貫通孔11aと対向するように形成されている。
【0030】
また、図1に示すように、第二の箱状体13bの上部における中央部の前側の部分には上下方向に貫通する貫通孔13gが形成されている。この貫通孔13gには、トルク判定部50のトルク判定ランプ54の先端部が挿入されている。また、第二の箱状体13bの上部における中央部の後側の部分には上下方向に貫通する貫通孔13hが形成されている。この貫通孔13hには、トルク判定部50の電源スイッチ53の先端部が挿入されている。
【0031】
また、カバー13における後述する測定トルク設定部40の測定トルク変更ダイヤル42の上方の部分には、矢印および「測定トルク」との表示13iが印刷されている(図1および図2参照)。また、カバー13における後述するトルク判定部50の電源スイッチ53の周囲の部分には、「ON OFF」との表示13jが印刷されている(図1および図2参照)。また、カバー13におけるトルク判定部50のトルク判定ランプ54の周囲の部分には、「測定トルク」との表示13kが印刷されている(図1および図2参照)。
【0032】
[ウォームホイール15の構成の説明]
図3に示すように、ウォームホイール15は、円筒状に形成されたホイール本体15aと、ホイール本体15aの上部の円周部に形成された歯車15bと、を有している。また、ウォームホイール15のホイール本体15aの下端部15cは、底板11の貫通孔11aに取り付けられた軸受14の内部に取り付けられている。このことにより、ウォームホイール15は、軸受14を介して底板11に対して回転可能となっている。さらに、ホイール本体15aの上部における中央部分には、後述するばね部30の下端部30aを取り付けるための四角孔15dが形成されている。そして、ウォームホイール15の四角孔15dには、後述するばね部30の下部が挿入されている。
【0033】
[入力部20の構成の説明]
入力部20は、オイルインパルスレンチの先端部を差込可能な円筒形状を有する入力軸21と、入力軸21を外挿可能なリング22と、円筒形状を有する回転体23と、を備える。
【0034】
入力軸21は、円筒形状に形成された金属材料によって構成されている。この入力軸21における上端部には、オイルインパルスレンチの先端部を差込可能な挿入口21aが形成されている。また、入力軸21には、円筒形状を有するリング22が外挿されている。このリング22は、円筒形状に形成された金属材料によって構成されている。さらに、リング22には、円筒形状を有する回転体23が外挿されている。
【0035】
回転体23は、円筒形状に形成された金属材料によって構成されている。この回転体23の下端部23aには、後述するばね部30の上端部30bを挿入するための四角孔23bが形成されており、四角孔23bには、ばね部30の上端部30bが挿入されている。また、回転体23の上端部23cは、その径寸法が他の部分の径寸法よりも小さく形成されており、この回転体23の上端部23cには、ケース本体12の第二の箱状体12bに取り付けられた軸受16が外挿されている。このことにより、回転体23は、軸受16によって回転可能に支持されている。さらに、回転体23の上端部23cには、リング22を挿入するための挿入孔23dが形成されており、挿入孔23dにはリング22が挿入されている。
【0036】
また、回転体23の下端部23aにおける右側の部分には凹部23eが形成されている。この凹部23eによって形成された空間には、ケース10内に収容されたケース本体12の載置面12hに載置されたトルク判定部50の二つの接触体56,57の先端部が配置されている。
【0037】
また、回転体23の下端部23aにおける左側の部分には凹部23fが形成されている。この凹部23fによって形成された空間には、ケース10内に収容されたケース本体12の第一の箱状体12aの突起部12cが配置されている。
【0038】
[ばね部30の構成の説明]
図3に示すように、ばね部30は、いわゆるトーションバーであり、その端末部のねじり負荷に対して反力を発生させるばね要素である。このばね部30の下端部30aおよび上端部30bは、円柱に四つの平面を形成した四角軸形状にそれぞれ形成されている。そして、ばね部30は、上述のようにその下端部30aがケース10のウォームホイール15の四角孔15dに挿入されるとともに、その上端部30bが入力部20の回転体23の四角孔23bに挿入されている。このことにより、ばね部30は、入力部20が回転する際にはその基部30cが捻れ、この捻れを解消しようとするために入力部20をその回転方向とは反対方向へ付勢する機能を有する。なお、ばね部30は付勢手段に該当する。
【0039】
[測定トルク設定部40の構成の説明]
測定トルク設定部40は、ケース10のウォームホイール15と噛み合うよう配置されて回転可能なウォーム41と、ウォーム41と同軸上に回転可能な測定トルク変更ダイヤル42と、を有する。
【0040】
図4に示すように、ウォーム41は、軸状の軸部41aと、軸部41aの周囲に形成された歯車41bと、を有し、軸部41aの中心軸が前後方向に平行となる姿勢で、底板11によって回転可能に支持されている。また、ウォーム41の軸部41aにおける前側の端部41cは、ケース本体12の貫通孔12iに軸受17を介して取り付けられ、ウォーム41の軸部41aにおける後側の端部41dは、ケース本体12の貫通孔12jに軸受18を介して取り付けられている。このことにより、ウォーム41は、ケース10に回転可能に支持されている。
【0041】
さらに、ウォーム41の軸部41aにおける前側の端部41cの先端部には、円盤状に形成された測定トルク変更ダイヤル42が取り付けられている。また、この測定トルク変更ダイヤル42の側面には、トルク値を示す表示42aが印刷されている(図1および図2参照)。
【0042】
以上のように構成された測定トルク設定部40は、利用者によって測定トルク変更ダイヤル42が回転されると、ウォーム41が測定トルク変更ダイヤル42と同一方向に回転し、この回転するウォーム41がウォームホイール15を回転させる。なお、測定トルク設定部40のウォーム41の歯車数およびケース10のウォームホイール15の歯車数については、カバー13の表示13iに示される矢印と、測定トルク変更ダイヤル42の側面に表示される表示42aの表示内容(トルク値)とが接近する際に、そのトルク値に応じた回転角だけウォームホイール15を基準角度から順方向(図2における時計回り方向)へ回転させるよう設定されている。
【0043】
なお、測定トルク設定部40は初期設定手段に該当する。
[トルク判定部50の構成の説明]
図1に示すように、トルク判定部50は、略直方体形状に形成されたケース51と、回路基板(図示省略)と、電源スイッチ53と、トルク判定ランプ54と、各構成に電気を供給する電源部(図示省略)と、二つの接触体56,57と、を有する。また、上述の回路基板(図示省略)、電源スイッチ53、トルク判定ランプ54、電源部および接触体56,57は、ケース51に収納されている。また、上述の電源スイッチ53、トルク判定ランプ54、電源部および接触体56,57は、回路基板に接続されている。
【0044】
ケース51は、第二の箱状体12bの上部の載置面12hに載置されている(図3参照)。
電源スイッチ53は、いわゆるシーソースイッチであり、ケース10のカバー13の貫通孔13hからその操作部が露出するよう配置されている(図2参照)。そして、電源スイッチ53は、利用者による操作によって電源部から回路基板へ電源供給を行う状態と電源供給を行わない状態とで切り替える機能を有する。
【0045】
トルク判定ランプ54は、LEDを有しており、ケース10のカバー13の貫通孔13gからその先端部が露出するよう配置されている。
図3に示すように、接触体56,57は、導電性を有する金属材料で構成された板材である。これら接触体56,57は、互いに平行となる姿勢に配置され、さらに、ケース10の第一の箱状体12aの開口部12gから第一の箱状体12aの内部にそれぞれ挿入され、それぞれの先端部が、入力部20の回転体23の凹部23e内に配置されている。
【0046】
回路基板は、各部を制御する機能を有する。また、回路基板は、電源スイッチ53の操作によって電源部から電力供給を受けている場合に、接触体56および接触体57が回転体23に接触したときには、トルク判定ランプ54を点灯させる機能を有する。
【0047】
以上のように構成されたトルク判定部50は、電源スイッチ53の操作によって電源部から電力供給を受けている際に、接触体56および接触体57が回転体23に接触した場合には、入力部20から入力されたトルク値が測定トルク設定部40によって設定された基準トルク値よりも大きいと判断してトルク判定ランプ54を点灯させる機能を有する。
【0048】
なお、トルク判定部50は判断手段および報知手段に該当する。
[締付けトルク測定装置1の動作の説明]
次に、締付けトルク測定装置1の動作を、図5を参照しながら説明する。なお、図5は第一実施形態の締付けトルク測定装置1の動作を示す概略説明図である。
【0049】
まず、測定トルク設定部40の測定トルク変更ダイヤル42を回転させて測定したいトルク値を設定する。具体的には、カバー13の表示13iに示される矢印と、測定トルク変更ダイヤル42の側面に表示される表示42aの表示内容(トルク値)のうち所望のトルク値の表示とが接近するよう測定トルク変更ダイヤル42を回転させる。この際、回転体23の凹部23fがケース10の突起部12cに当接する状態となる。この際、測定対象トルクである所要のトルク値とほぼ同じトルク値が、トーションバーであるばね部30に発生する。また、ウォームホイール15は、適切なギヤ比が設定されており、ウォームホイール15側からの外力はロックされる。
【0050】
次に、図示しないオイルパルスレンチの先端を入力部20に取り付ける。具体的には、オイルパルスレンチの先端を入力部20の入力軸21の挿入口21aに挿入する。そして、オイルパルスレンチを作動させる。すると、オイルパルスレンチが発生させた打撃による入力トルクの方向が右回りの場合、入力部20に時計周りに回転しようとする力が作用する。
【0051】
ここで、オイルパルスレンチが発生させた打撃によるトルクの値が、測定トルク設定部40によって設定されたトルク値よりも大きい場合には入力部20が時計周りに回転する。なお、オイルパルスレンチが発生させた打撃によるトルクの値が、測定トルク設定部40によって設定されたトルク値よりも小さい場合には入力部20は回転しない。入力部20が時計周りに回転すると、ばね部30の基部30cが捻れ、この捻れを解消しようとするために入力部20をその回転方向とは反対方向へ付勢する。
【0052】
なお、オイルパルスレンチの作動とは断続的な打撃力によって構成されるため、上述のばね部30による付勢力により、入力部20が反時計回りに回転して元の位置に戻る。つまり、オイルパルスレンチが作動している間には、オイルパルスレンチが断続的な打撃力を発生させた際には上述のように入力部20が時計回りに回転し(図5(b)参照)、一方、オイルパルスレンチが断続的な打撃力を発生させていない際には上述のようにばね部30の付勢力によって入力部20が反時計回りに回転する(図5(a)参照)、という動作を繰り返すこととなる。
【0053】
また、上述のように入力部20が時計周りに回転すると、回転体23の凹部23fがケース10の突起部12cから離間し、入力部20の回転体23がトルク判定部50の接触体56,57に接触する(図5(b)参照)。すると、トルク判定部50が、入力部20から入力されたトルク値が測定トルク設定部40によって設定された基準トルク値(目標トルク値)よりも大きいと判断してトルク判定ランプ54を点灯させる。この際、トルク判定部50は、オイルパルスレンチによる締付けトルクが目標トルク値以上を満足していると評価する。
【0054】
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態の締付けトルク測定装置1によれば、ばね部30が、入力部20をその回転方向とは反対方向に付勢し、測定トルク設定部40が、上述の締付けトルクの測定を行う前に、所望のトルク値に応じた回転角だけ入力軸をばね部30による付勢力に抗して回転させることによって、締付けトルクの値が所望のトルク値以上である場合にのみ、入力部20を、締付けトルクを受けて回転可能な状態とする。そして、トルク判定部50が、締付けトルクを受けて入力部20が回転したか否かを判断し、入力部20が回転したと判断された場合には、トルク判定部50のトルク判定ランプ54が点灯してその旨を報知する。つまり、第一実施形態の締付けトルク測定装置1によれば、所望のトルク値に応じた回転角だけ入力部20を回転させることで、測定時の基準回転角度を予め設定し、入力部20が回転した際にはその旨を報知する。
【0055】
このことにより、次の(イ)〜(ホ)のような効果を奏する。
(イ)測定対象の実トルクが確実に再現されるので、測定時の安定性および信頼性が得られる。
【0056】
(ロ)測定値の検出用の複雑な演算回路の設定や信号増幅用のアンプが不要となり、判定手段が簡単な構造でよい。
(ハ)トルク値が数値「0」の状態から立ち上がって測定対象のトルク値まで実働するトルク計に比べて、測定時の変動トルクが少なくて済み、トルク外力の入力を支える架台(骨組み)のガタ詰めのための高精度の加工や組み立てが不要となる。
【0057】
(ニ)ばね部30には、実際のねじ締付作業時の条件に近い角度と、トルクからなるばね特性(トルク/角度)を、持たせることができる。
(ホ)瞬間的な動作トルクを測定する場合でも速度特性を考慮しなくてもよく、簡単な構造でよい。
【0058】
(ヘ)締付けトルクを複数回チェックする際に、初期状態に戻す必要がない。
つまり、第一実施形態の締付けトルク測定装置1によれば、簡単な構造で、オイルパルスレンチによる締付けトルクをより精度良く測定することができる。また、上述のように簡単な構造とすることができるので、従来の締付けトルク測定装置に比べて、低コスト且つ小型化することができる。また、上述のように締付け工具による1回の打撃による最大変位を測定するので、従来の締付けトルク測定装置に比べて、締付けトルクを測定する測定時間が短くて済み、利用者の利便性を向上させることができる。また、上述の測定を繰り返し行っても再現性が高い。
【0059】
(2)また、第一実施形態の締付けトルク測定装置1によれば、ばね部30がトーションバーであり、その上端部が入力部20に連結されるとともに、その下端部がウォームホイール15に連結されている。このことにより、トーションバーについては、同等の大きさである他の種別のバネを用いた場合に比べて、ばね定数の値のばらつきを小さくすることができることから、例えば皿バネなどの他の種別のバネを用いた場合に比べて、装置の精度を向上させることができる。また、各種のばねに比べてコンパクトに設計できるのでサイズを節約でき、省スペース化を図ることができる。
【0060】
(3)また、第一実施形態の締付けトルク測定装置1によれば、初期設定手段が、ウォームと、前記ウォームに噛み合うウォームホイールと、を有し、ウォームホイール15にはばね部30の下端部が連結されており、ウォーム41が回転する際には、その回転に伴ってウォームホイール15が回転してばね部30の下端部に捻り力を作用させる。このように構成すれば、所望のトルク値に応じた回転角だけ入力部20をばね部30による付勢力に抗して回転させることによって、締付けトルクの値が所望のトルク値以上である場合にのみ、入力部20が締付けトルクを受けて回転可能な状態とする初期設定手段を、簡単な構造で実現することができる。
【0061】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように様々な態様にて実施することが可能である。
【0062】
(1)上記実施形態では、ばね部30としていわゆるトーションバーを採用しているが、これには限られず、その端末部のねじり負荷に対して反力を発生させるばね要素であれば他の構成をばね部30として採用してもよい。一例を挙げると、渦巻ばねやねじりコイルばねなどをばね部30として採用するといった具合である。
【0063】
(2)上記実施形態では、ケース10がウォームホイール15を備え、測定トルク設定部40が、ケース10のウォームホイール15と噛み合うよう配置されて回転可能なウォーム41を有しており、ウォーム41と同軸上に回転可能な測定トルク変更ダイヤル42の回転を、ウォーム41を介してウォームホイール15に伝達するよう構成されているが、これには限られず、ウォームホイール15およびウォーム41の代わりにスクリューギヤタイプのジャッキを用いてもよい。このようにすれば、比較的軽い入力で高い出力トルクを得るとともに、セルフロック機構を確保することができる。
【0064】
また、その他複数段のギヤを組み合わせて高いギヤ比を実現するとともに、セルフロック機構を別途備える構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は第一実施形態の締付けトルク測定装置の外観を示す斜視図であり、(b)は第一実施形態の締付けトルク測定装置の内部を示す斜視図である。
【図2】第一実施形態の締付けトルク測定装置を示す説明図であり、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
【図3】第一実施形態の締付けトルク測定装置のB―B断面図である。
【図4】(a)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のC―C断面図であり、(b)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のD―D断面図である。
【図5】(a)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のE―E断面図(1)であり、(b)は第一実施形態の締付けトルク測定装置のE―E断面図(2)である。
【符号の説明】
【0066】
1…締付けトルク測定装置、10…ケース、11…底板、11a…貫通孔、11b…載置面、11c…周縁部、12…ケース本体、12a…第一の箱状体、12b…第二の箱状体、12c…突起部、12e…縁部、12f,12i,12j…貫通孔、12g…開口部、12h,12k,12l…載置面、12m…周縁部、13…カバー、13a…第一の箱状体、13b…第二の箱状体、13e…縁部、13f,13g,13h…貫通孔、13i,13j,13k…表示、14,16,17,18…軸受、15…ウォームホイール、15a…ホイール本体、15b…歯車、15c…下端部、15d…四角孔、20…入力部、21…入力軸、21a…挿入口、22…リング、23…回転体、23a…下端部、23b…四角孔、23c…上端部、23d…挿入孔、23e,23f…凹部、30…ばね部、30a…下端部、30b…上端部、30c…基部、40…測定トルク設定部、41…ウォーム、41a…軸部、41b…歯車、41c,41d…端部、42…測定トルク変更ダイヤル、42a…表示、50…トルク判定部および報知部、51…ケース、53…電源スイッチ、54…トルク判定ランプ、56,57…接触体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付け工具による締付けトルクを受けて回転可能な入力軸と、
前記入力軸をその回転方向とは反対方向に付勢可能な付勢手段と、
所望のトルク値に応じた回転角だけ前記入力軸を前記付勢手段による付勢力に抗して回転させることによって、前記締付けトルクの値が前記トルク値以上である場合にのみ、前記入力軸を、前記締付けトルクを受けて回転可能な状態とする初期設定手段と、
前記締付けトルクを受けて前記入力軸が回転したか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記入力軸が回転したと判断された場合にはその旨を報知する報知手段と、
を備えることを特徴とする締付けトルク測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の締付けトルク測定装置において、
前記付勢手段とはトーションバーであり、その上端部が前記入力軸に連結されるとともに、その下端部が前記初期設定手段に連結されていることを特徴とする締付けトルク測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の締付けトルク測定装置において、
前記初期設定手段は、
ウォームと、前記ウォームに噛み合うウォームホイールと、を有し、
前記ウォームホイールには前記トーションバーの下端部が連結されており、
前記ウォームが回転する際には、その回転に伴って前記ウォームホイールが回転して前記トーションバーの下端部に捻り力を作用させること
を特徴とする締付けトルク測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−122331(P2008−122331A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309340(P2006−309340)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000210986)中央発條株式会社 (173)
【Fターム(参考)】