説明

締付け工具

【課題】 締付け工具におけるクラッチ機構の係合性を向上する上で有効な技術を提供する。
【解決手段】 締付け工具は、モータ111と、被動軸117と、クラッチ機構131と、工具ビット119と、を有する。クラッチ機構131は、モータによって回転される駆動側クラッチ体133と、駆動側クラッチ体に対向するように被動軸に設けられ、当該被動軸と共に駆動側クラッチ体に近づく方向へ移動することによって当該駆動側クラッチ体に係合し、駆動側クラッチ体から離れる方向に移動することによって係合が解除される被動側クラッチ体135と、被動側クラッチ体が被動軸と共に駆動側クラッチ体に近づく方向へ移動されたとき、被動側クラッチ体の移動速度を被動軸の移動速度よりも速めて被動側クラッチ体を駆動側クラッチ体に係合させる係合促進機構161と、を有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ネジの締付け作業に用いられる電動スクリュドライバのような締付け工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ネジの締付け作業に用いられる電動スクリュドライバには、モータの回転力をスピンドルに伝達または遮断するクラッチとして、サイレントクラッチと呼ばれるものが用いられている。このサイレントクラッチは、ネジを所定深さまで締付けたときに、モータからの回転力を遮断してねじ締めを停止するとともに、その後モータが回転し続けても空転して騒音を発しないように構成されている。このようなサイレントクラッチを備えた電動スクリュドライバは、例えば特公平3−5952号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1に開示されたサイレントクラッチは、モータによって駆動される駆動側クラッチ体と、スピンドルと一体に回転するスピンドル側クラッチ体との間に、中間クラッチ体を介在し、モータの回転力が駆動側クラッチ体から中間クラッチ体を経てスピンドル側クラッチ体に伝達される構成である。中間クラッチ体は、駆動側クラッチ体およびスピンドル側クラッチ体との双方に噛み合う(係合する)ことで回転力を伝達し、駆動側クラッチ体との噛み合いが解除されることで動力の伝達を遮断する構成とされている。そして駆動側クラッチ体に対する噛み合いが解除されたときに、バネによる付勢力によって中間クラッチ体が当該駆動側クラッチ体から離間されて中間クラッチ体と当該駆動側クラッチ体との間に所定の間隙が確保され、これによって駆動側クラッチ体が空転する構成である。
【0003】
特許文献1に開示された電動スクリュドライバのクラッチは、ねじ締め作業を行うべく、ドライバビットにセットされたネジを被加工材に押し付けたとき、当該ドライバビットと共にスピンドルがスクリュドライバ本体に対して相対的に後退動作し、この後退動作によってスピンドル側クラッチ体および中間クラッチ体が押されて駆動側クラッチ体に噛み合う構成である。このような構成では、駆動側クラッチ体と中間クラッチ体との噛み合い速度が遅いと、クラッチ歯相互の乗り越え回数(歯先端相互の干渉回数)が増え、早期に摩耗するとか、良好な打ち込み感が得られないといった問題が生ずることになり、かかる点でなお改良の余地がある。
【特許文献1】特公平3−5952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、締付け工具におけるクラッチ機構の係合性を向上する上で有効な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、各請求項に記載の発明が構成される。
請求項1に記載の発明によれば、モータと、当該モータからクラッチ機構を介して回転駆動される被動軸と、当該被動軸によって回転駆動される工具ビットと、を有する締付け工具が構成される。締付け工具としては、典型的にはネジの締付け作業に用いられる電動スクリュドライバがこれに該当する。
本発明におけるクラッチ機構は、駆動側クラッチ体と、被動側クラッチ体と、両クラッチ体の係合を促進する係合促進機構を有する構成とされる。駆動側クラッチ体は、モータによって駆動される。被動側クラッチ体は、被動軸と一体に回転するように当該被動軸に設けられており、当該被動軸と共に駆動側クラッチ体に近づく方向に移動して当該駆動側クラッチ体と係合することでモータの回転力を被動軸に伝達し、駆動側クラッチ体から離れる方向に移動して当該駆動側クラッチ体との係合を解除することで被動軸に対する回転力の伝達を遮断する構成とされる。係合促進機構は、被動側クラッチ体が被動軸と共に駆動側クラッチ体に係合するべく当該駆動側クラッチ体に近づく方向に移動されるとき、被動側クラッチ体の移動速度を被動軸の移動速度よりも速めるように構成されている。なお「係合する」とは、駆動側クラッチ体と被動側クラッチ体のクラッチ歯同士が回転方向につき互いに接触して連結する状態をいう。
【0006】
本発明に係るクラッチ機構は、被動側クラッチ体が被動軸と共に駆動側クラッチ体に係合する方向へ移動されたとき、当該被動側クラッチ体の移動速度を被動軸の移動速度よりも速める係合促進機構を有する。本発明における「係合促進機構」とは、被動側クラッチ体を被動軸よりも速い速度で駆動側クラッチ体に向って移動させる機構であり、典型的には、被動軸と被動側クラッチ体との間に、当該被動軸と共に移動しつつ、被動側クラッチ体を被動軸の移動方向と同方向へ更に移動させる係合促進部材を備えることで達成される。
このように、本発明によれば、被動側クラッチ体を被動軸よりも速い速度で駆動側クラッチ体に向って移動させる構成のため、両クラッチ体のクラッチ部が係合し易くなる。その結果、クラッチ部相互の乗り越え回数(クラッチ部端面相互の干渉回数)を減少することが可能となり、クラッチ部の干渉による異音の発生を軽減できるとともに、摩耗を減らして寿命を延ばすことができる。またクラッチ部が係合し易くなることで、例えばネジ締め作業におけるネジの打ち込み感を改善することができる。
【0007】
(請求項2に記載の発明)
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の締付け工具における係合促進機構は、被動側クラッチ体が被動軸と共に駆動側クラッチ体に近づく方向へ移動されるとき、当該被動軸と共に移動しつつ当該被動軸の移動動作に基づき被動軸の移動方向とは異なる方向へと移動される係合促進部材を有し、当該係合促進部材の被動軸の移動方向と異なる方向への移動動作によって被動側クラッチ体の移動速度を被動軸の移動速度よりも速める構成とした。ここで「被動軸の移動動作に基づき移動される係合促進部材」は、被動軸の移動に起因して移動される部材であれば足り、例えばスチールボールや柱状体あるいはレバーを好適に包含する。また「係合促進部材が被動軸の移動方向と異なる方向へと移動される」態様としては、典型的には、当該係合促進部材が、例えばスチールボールや柱状体から構成される場合であれば、当該スチールボールあるいは柱状体が被動軸の軸方向と直交あるいは傾斜する径方向へと移動される態様がこれに該当し、また係合促進部材がレバーによって構成される場合であれば、当該レバーが被動軸の軸方向に揺動する態様がこれに該当する。かかる構成によれば、被動軸の移動動作に基づき被動側クラッチ体を当該被動軸の移動速度よりも速い速度で駆動側クラッチ体に係合させることができる。
【0008】
(請求項3に記載の発明)
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の締付け工具における被動軸は、軸方向の少なくとも一端側に筒部を有し、当該筒部外周に対して被動側クラッチ体が当該被動軸の周方向には固定され、軸方向へは相対移動が許容された状態で嵌合された構成とされる。また係合促進部材は、被動軸の筒部に径方向への移動が許容された状態で保持されたスチールボールによって構成されている。スチールボールは、筒部を貫通して内周側と外周側とにそれぞれ突出されるとともに、内周側では筒部内に相対移動可能に配置された押圧部材に当接され、外周側では被動側クラッチ体の斜面に当接されている。そしてスチールボールは、被動側クラッチ体が被動軸と共に駆動側クラッチ体に近づく方向へ移動されるとき、筒部内の押圧部材によって筒部の外周側へと押し出されて被動側クラッチ体の斜面を押圧し、これによって当該被動側クラッチ体を被動軸の移動方向と同方向へ移動させる構成とされている。
本発明における係合促進機構は、被動軸の移動動作に基づきスチールボールを筒部の外周側へと押し出し、この押し出されたスチールボールによって被動側クラッチ体を被動軸の移動方向へと更に移動させる構成であり、係合促進部材としてスチールボールを利用した転動式のため、低摩擦で円滑に動作する係合促進機構が提供される。
【0009】
(請求項4に記載の発明)
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の締付け工具における被動側クラッチ体は、当該被動側クラッチ体の周方向においてスチールボールと係合する壁面を有し、第2の回転体の回転力がスチールボールを介して被動軸に伝達される構成としている。本発明によれば、スチールボールが、被動側クラッチ体の速度を速める係合促進部材として機能するのみならず、回転力の伝達部材としても機能する構成のため、被動側クラッチ体と被動軸との嵌め合い構造の単純化が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、締付け工具におけるクラッチ機構の係合性を向上する上で有効な技術が提供されることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき、図1〜図13を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態は、作業工具の一例として電動スクリュドライバを用いて説明する。図1には電動スクリュドライバ101の全体構成が示されている。本実施の形態に係る電動スクリュドライバ101は、概括的に見て、本体部103、当該本体部103の先端領域(図示右側)にスピンドル117を介して着脱自在に取付けられたドライバビット119、本体部103におけるドライバビット119の反対側に連接されたハンドグリップ109を主体として構成される。ドライバビット119は、本発明における「工具ビット」に対応する。なお本実施の形態では、説明の便宜上、ドライバビット119側を前側とし、ハンドグリップ109側を後側とする。
【0012】
本体部103は、駆動モータ111を収容するモータハウジング105と、駆動モータ111の回転出力をスピンドル117に伝達し、あるいは回転出力の伝達を遮断するクラッチ機構131を収容するクラッチハウジング107を主体にして構成される。駆動モータ111は、ハンドグリップ109に設けたトリガ121を引き操作することで通電駆動され、トリガ121の引き操作を解除することで停止する。この駆動モータ111は、本発明における「モータ」に対応する。
【0013】
クラッチ機構131の詳細な構成が図2に示される。クラッチ機構131は、駆動モータ111によって回転駆動される駆動側クラッチ部材133と、当該駆動側クラッチ部材133側に配置されるクラッチカム137と、スピンドル117に設けられたスピンドル側クラッチ部材135とを主体にして構成され、それらは全て同軸上に配置される。駆動側クラッチ部材133は、本発明における「駆動側クラッチ体」に対応し、スピンドル側クラッチ部材135は、本発明における「被動側クラッチ体」に対応し、クラッチカム137は、本発明における「補助クラッチ体」に対応する。スピンドル117は、本発明における「被動軸」に対応する。
【0014】
クラッチ機構131は、概略的には、被加工材W(図3参照)にネジSを締付けるべくスピンドル117に保持されたドライバビット119がネジSを介して被加工材Wに押し付けられたときには、スピンドル側クラッチ部材135のクラッチ歯135aがクラッチカム137のクラッチ歯137aおよび駆動側クラッチ部材133のクラッチ歯133aに噛み合い、ドライバビット119が押し付けられていないときには、弾性部材としての圧縮コイルバネ149の付勢力によって上記の噛み合いが解除される構成である。以下の説明では、ドライバビット119がネジSを介して被加工材Wに押し付けられ、スピンドル117に対して本体部103内に押し込む(後退動作する)方向の力が作用した状態を負荷状態または負荷時といい、スピンドル117に上記の力が作用していない状態を無負荷状態または無負荷時という。また駆動側クラッチ部材133のクラッチ歯133aを駆動側クラッチ歯133aといい、スピンドル側クラッチ部材135のクラッチ歯135aを被動側クラッチ歯135aといい、クラッチカム137のクラッチ歯137aを補助クラッチ歯137aという。なお駆動側クラッチ歯133aと被動側クラッチ歯137aとの噛み合いが、本発明における「駆動側クラッチ体と被動側クラッチ体との係合」に対応する。
【0015】
以下、クラッチ機構131の各部の詳細な構成につき説明する。スピンドル117は、軸受141を介してクラッチハウジング107に回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されている。なおスピンドル117の前方への移動は、当該スピンドル117に設けたフランジ部117aが軸受141の軸方向一端面に当接することで規制されている。スピンドル側クラッチ部材135は、スピンドル117の軸方向後端部に嵌合され、噛み合い促進機構161を介して当該スピンドル117と一体となって回転するように取り付けられるとともに、スピンドル117の移動速度よりも速い速度で軸方向に移動される構成とされる。なお噛み合い促進機構161については後述する。
【0016】
駆動側クラッチ部材133は、支持軸143に圧入固定されており、外周面には駆動モータ111の出力軸113に設けたピニオンギア115と噛み合う駆動ギア134を有している。支持軸143は、一端がスピンドル117の後端部に形成された筒部163の筒孔内に挿入されるとともに軸受145を介して当該スピンドル117に対して軸方向に相対移動に支持され、他端がファンハウジング106に支持リング186を介して軸方向に移動可能に支持されている。なおファンハウジング106は、モータハウジング105とクラッチハウジング107との間に介在されて接合されている。駆動側クラッチ部材133の後面側(図2の左側)には、スラスト軸受147が配置され、ネジSの締付作業時において、圧縮コイルバネ149を介して駆動側クラッチ部材133に入力されるスラスト荷重を受ける。このスラスト軸受147は、後述するスチールボール151により軸方向への移動が規制されている。
【0017】
駆動側クラッチ部材133は、前面側中央部に支持軸143の径よりも大径の円形凹部133bを有しており、この円形凹部133bにリング状に形成されたクラッチカム137が配置されている。駆動側クラッチ部材133とクラッチカム137は、言わば同軸上での外輪と内輪の如き関係で配置されることになり、軸方向においては駆動側クラッチ部材133の円形凹部133bの底面(前面)にクラッチカム137の後面が重なるとともに、前面が互いに面一もしくはクラッチカム137が駆動側クラッチ部材133よりも前方に突き出ている。そして駆動側クラッチ部材133とクラッチカム137は、スピンドル側クラッチ部材135に対して対向状に配置され、その対向面間、詳しくはクラッチカム137の前面側内周領域と、スピンドル側クラッチ部材135の後面側内周領域との間に圧縮コイルバネ149が介在されている。この圧縮コイルバネ149によって、駆動側クラッチ部材133は、クラッチカム137を介してスピンドル側クラッチ部材135から離間させる方向に付勢され、その後面133cがスラスト軸受147に押し付けられている。
【0018】
駆動側クラッチ部材133の前面には、図7〜図10の(A)および(C)に示すように、周方向に複数、本実施の形態では3個の駆動側クラッチ歯133aが等間隔(120度間隔)で形成されている。またクラッチカム137の前面には、駆動側クラッチ部材133と同様、周方向に3個の補助クラッチ歯137aが120度間隔で設けられている。一方、スピンドル側クラッチ部材135の後面には、周方向に3個の被動側クラッチ歯135aが等間隔(120度間隔)で設けられている。被動側クラッチ歯135aは、駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aと噛み合うことが可能な径方向長さを有している。なお図7〜図10の(A)には、各クラッチ歯133a,135a,137aが展開図として示され、また図7〜図10の(C)には、各クラッチ歯133a,135a,137aが平面視として示されている。駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aと、被動側クラッチ歯135aとは、常時には、すなわち、ドライバビット119がネジSに押し付けられていない無負荷状態では、前述した圧縮コイルバネ149の付勢力により互いに引き離された噛み合い解除位置(図2に示す状態)に保持されている。上記の駆動側クラッチ歯133aによって「駆動側クラッチ部」が構成され、被動側クラッチ歯135aによって「被動側クラッチ部」が構成され、補助クラッチ歯137aによって「補助クラッチ部」が構成される。
【0019】
ネジSの締付作業を行うべくドライバビット119が当該ネジSを介して被加工材Wに押し付けられた負荷時には、スピンドル117がドライバビット119と共に電動スクリュドライバ101の本体部103に対して相対的に後退動作し、スピンドル側クラッチ部材135が駆動側クラッチ部材133に近づく方向へと移動される。これによって、被動側クラッチ歯135aが駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aに噛み合う構成とされる。このとき、駆動側クラッチ歯133aと補助クラッチ歯137aには、回転方向に角度α(図7の(C)参照)の位相差が与えられている。すなわち、補助クラッチ歯137aがクラッチカム137の回転方向において駆動側クラッチ歯133aよりも角度α分だけ回転方向の前側に位置するように設定されている。このことによって、スピンドル側クラッチ部材135の被動側クラッチ歯135aは、クラッチカム137の補助クラッチ歯137aに先行して噛み合う構成とされる。また駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aは、被動側クラッチ歯135aに対してそれぞれ面当り(平面当り)で噛み合うように噛み合い面の形状が設定されている。すなわち、各クラッチ歯133a,135a,137aは、それぞれが周方向(回転方向)に交差する方向に延びる平面を噛み合い面として備えている。また駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aは、その前面が互いに面一もしくは補助クラッチ歯137aが駆動側クラッチ歯133aよりも前方に突き出ている。
【0020】
駆動側クラッチ部材133とクラッチカム137は、図7〜図10の(A)および(B)に示すように、複数、本実施の形態では3個のスチールボール(鋼球)151を介して周方向の所定範囲について相対移動が許容された状態で連結されている。なお図7〜図10の(A)にはスチールボール151による連結構造が展開図として示され、図7〜図10の(B)にはスチールボール151による連結構造が平面視として示されている。各スチールボール151は、駆動側クラッチ部材133に周方向に等間隔(120度間隔)で設けた周方向に所定長さを有するリード溝153に嵌め込まれている。リード溝153は、駆動側クラッチ部材133の後面側が開放された溝であり、溝底153aの内周側が前述した円形凹部133bに貫通している。したがって、リード溝153に嵌め込まれたスチールボール151は、その一部がクラッチカム137の後面に臨み、当該クラッチカム137に周方向に120度間隔で設けられた凹状のカム面155に係合している。かくして、駆動側クラッチ部材133とクラッチカム137は、リード溝153の周方向長さによって規定される範囲についてスチールボール151を介して周方向の相対移動が許容される構成とされる。
【0021】
各リード溝153の溝底153aは、駆動側クラッチ部材135の回転方向に向って下り斜面とされている。スチールボール151は、無負荷時にはリード溝153の溝底153aの最も深い領域に位置しており、そのときには駆動側クラッチ部材133の後面(スラスト軸受147との当接面)133cと面一となるように設定されている。そしてこの状態、すなわちスチールボール151がリード溝153の溝底153aの最深部に位置した状態のときに、クラッチカム137の補助クラッチ歯137aが駆動側クラッチ部材133の駆動側クラッチ歯133aに対して回転方向につき前述した角度αの位相差を有する構成とされ、ドライバビット119が被加工材Wに押し付けられていない無負荷時には、この状態が保持される。
またクラッチカム137が駆動側クラッチ部材133に対して回転方向とは逆方向(回転が遅れる方向)へ移動されたときには、スチールボール151は当該クラッチカム137のカム面155に押されてリード溝153内を溝底153aの浅い方へと移動され、その一部が駆動側クラッチ部材133の後面133cからスラスト軸受147側に向って突出され、このことによって相対的に駆動側クラッチ部材133が圧縮コイルバネ149に抗して前方(スピンドル側クラッチ部材135に近づく方向)へと移動される構成とされる。なおクラッチカム137の駆動側クラッチ部材133に対する回転が遅れる方向への移動は、クラッチカム137の補助クラッチ歯137aがスピンドル側クラッチ部材135の被動側クラッチ歯135aに噛み合うことによって、当該スピンドル側クラッチ部材135から周方向の荷重を受けることに起因する。このように、スチールボール151は、圧縮コイルバネ149と共同して駆動側クラッチ部材133を軸方向に移動させる軸方向変位手段を構成している。そしてクラッチカム137が駆動側クラッチ部材133に対して回転が遅れる方向へ移動することで、スチールボール151がリード溝153内を溝底153aの浅い方へと移動されたときには、補助クラッチ歯137aと駆動側クラッチ歯133a間に設定された前記角度αの位相差がゼロとなり、駆動側クラッチ歯133aが被動側クラッチ歯135aに噛み合う。この場合の噛み合いの態様としては、駆動側クラッチ歯133aのみが被動側クラッチ歯135aに噛み合って動力を伝達するように構成する態様と、駆動側クラッチ歯133aと補助クラッチ歯137aとの双方が被動側クラッチ歯135aに噛み合って動力を伝達するように構成する態様があり、動力の伝達上からは後者が好適である。
【0022】
スピンドル117の先端側(前端側)には、ドライバビット119が着脱自在に装着される。またクラッチハウジング107の先端部には、アジャスタスリーブ123が軸方向の位置調整可能に装着され、このアジャスタスリーブ123の先端にストッパスリーブ125が着脱自在に装着されている。アジャスタスリーブ123の軸方向の位置を調整することによってストッパスリーブ125先端からのドライバビット119の突出量を調整し、これによってネジSのねじ込み深さを調整することができる。
【0023】
次に、クラッチ機構131の噛み合い促進機構161を説明する。この噛み合い促進機構161は、本発明における「係合促進機構」に対応する。噛み合い促進機構161は、ネジSの締付作業を遂行するべく、ドライバビット119がネジSを介して被加工材Wに押し付けられることでスピンドル117が本体部103に対し相対的に後退移動されるとき、スピンドル側クラッチ部材135の被動側クラッチ歯135aを、当該スピンドル117の移動速度よりも速い速度で補助クラッチ歯137aおよび駆動側クラッチ歯133aに噛み合わせる手段として設けられる。噛み合い促進機構161は、図2および図11〜図13に示すように、スピンドル117とスピンドル側クラッチ部材135との間に、当該スピンドル117とスピンドル側クラッチ部材135とを連結するべく介在される複数、本実施の形態では3個のスチールボール(鋼球)162を主体に構成される。なお図11〜図13は、噛み合い促進機構161の動作態様を示しており、図の右側円内に噛み合い促進機構161のみが拡大図として示されている。スチールボール162は、本発明における「係合促進部材」に対応する。
【0024】
スピンドル117の後端部側は、筒状に形成され、当該筒部163の後端外周にスピンドル側クラッチ部材135が軸方向に相対移動可能に嵌合されている。なおスピンドル側クラッチ部材135の前方向の移動は、当該スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面がクラッチハウジング107に設けたストッパリング127のテーパ面に当接することで規制される。スピンドル117の筒部163とスピンドル側クラッチ部材135の嵌合部において、スピンドル117の筒部163には、径方向に貫通する3個の貫通孔164が周方向に等間隔(120度間隔)で形成され、スピンドル側クラッチ部材135の内周面には、各貫通孔164に対応する位置にそれぞれスチールボール162と係合する係合凹部165が形成されている。各係合凹部165は、前方(図示右方)に向って拡開するように傾斜する略1/4の凹球面状のテーパ面165aを有している。スチールボール162は、各貫通孔164に嵌め込まれた状態で、筒部163の外周側および内周側に突出する大きさ(径)を有し、外周面からの突出部分がスピンドル側クラッチ部材135の係合凹部165に係合され、内周面からの突出部分が当該筒部163内に挿入された前述の支持軸143の外周面に当接されている。これによりスピンドル側クラッチ部材135とスピンドル117は、スチールボール162を介して周方向には一体化されているが、軸方向には相対移動可能とされている。
【0025】
一方、スピンドル177の筒部163に挿入された支持軸143の外周面には、径方向に段差166が設けられ、この段差166は前方(図示右方)に向って収縮するように傾斜するテーパ面166aによって形成されている。すなわち、支持軸143は小径部167と大径部168を有し、当該小径部167と大径部168間の段差166がテーパ面166aによって連続している。スチールボール162は、ドライバビット119が被加工材Wに押し付けられていない無負荷には、スピンドル117の小径部167に当接されており、ドライバビット119が被加工材Wに押し付けられてスピンドル117が後退動作されたときには、段差166を乗り越える構成とされる。このとき、スチールボール162は、筒部163の外周側に突出され、スピンドル側クラッチ部材135の係合凹部165のテーパ面165aを押す。これによって当該スピンドル側クラッチ部材135は、係合凹部165のテーパ面165aに作用する軸方向の分力によって後方へと押されて移動する。その結果、スピンドル側クラッチ部材135は、スピンドル117の後退速度よりも速い速度で後退する。上記の支持軸143は、本発明の請求項3における「押圧部材」に対応し、係合凹部165のテーパ面165aは、本発明の請求項3における「斜面」に対応する。
【0026】
次に、上記のように構成された電動スクリュドライバ101の作用を説明する。図3〜図6は、ねじ締め作業に伴うクラッチ機構131の動作が順に示されている。また図7〜図10はねじ締め作業に伴うクラッチ機構131の各部の動作が順に示されており、図3〜図6に示された動作の順に対応している。更に図11〜図13はクラッチ機構131における噛み合い促進機構161の動作を順に示している。
【0027】
図3はドライバビット119にネジSをセットし、このネジSを被加工材Wのねじ込み位置にあてがった状態であり、電動スクリュドライバ101は、締め込み方向に押し付けられていない無負荷状態を示している。この無負荷状態では、スピンドル側クラッチ部材135は、圧縮コイルバネ149の付勢力によって駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137から引き離され、被動側クラッチ歯135aが、駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aに噛み合っておらず、クラッチ機構131は、遮断された状態にある。この遮断状態では、噛み合い促進機構161のスチールボール162が支持軸143の小径部167に当接し、スピンドル117の筒部163の最も内周寄りに位置している(図11参照)。また補助クラッチ歯137aが駆動側クラッチ歯133aよりも角度α分だけ回転方向の前側に位置するとともに、駆動側クラッチ部材133のリード溝153内のスチールボール151が当該リード溝153の溝底153aの最深部に位置している(図7参照)。このため、スチールボール151は駆動側クラッチ部材133の後面133cから突出しておらず、当該駆動側クラッチ部材133の後面133cがスラスト軸受147に当接されている。そしてクラッチ機構131の遮断状態において、トリガ121を引き操作して駆動モータ111を通電駆動すると、駆動側クラッチ133およびクラッチカム137が空転する。
【0028】
かかる状態において、電動スクリュドライバ101を前方(被加工材W側)へ移動させてドライバビット119にセットされたネジSを被加工材Wに押し付けると、本体部103は移動するが、ドライバビット119およびスピンドル117は移動しない。したがって、ドライバビット119およびスピンドル117は、圧縮コイルバネ149を圧縮しつつ本体部103に対して相対的に後退動作(図示左側へ移動)する。このスピンドル117の後退移動時に当該スピンドル117の筒部163に保持されているスチールボール162が支持軸143の段差166を乗り越えるが、このとき段差166のテーパ面166aによって筒部163の外周面側へと押し出され、と同時にスピンドル側クラッチ部材135の係合凹部165のテーパ面165aを押す。これによって当該スピンドル側クラッチ部材135は、係合凹部165のテーパ面165aに作用する軸方向の分力によって後方へと押されて移動する。その結果、スピンドル側クラッチ部材135は、スピンドル117の後退速度よりも速い速度で後退する(図12参照)。
【0029】
この後退動作によって被動側クラッチ歯135aは、駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137側へと移動し、そして駆動側クラッチ歯133aよりも角度α分だけ回転方向の前側に位置している補助クラッチ歯137aに先に噛み合う。この噛み合いによってクラッチ機構131が連結され、回転力がスピンドル側クラッチ部材135を介してスピンドル117に伝達される(図4、図8および図13参照)。その結果、スピンドル117およびドライバビット119が回転し、ネジSの締付け作業が開始される。このねじ締め作業に伴い、クラッチカム137にはスピンドル側クラッチ部材135を介して周方向に荷重が作用することになり、当該クラッチカム137は駆動側クラッチ部材133に対して回転が遅れる方向に移動する。これによって駆動側クラッチ歯133aと補助クラッチ歯137aとの位相差(角度α)がゼロとなり、被動側クラッチ歯135aが駆動側クラッチ歯133aに噛み合う(図9の(C)参照)。
【0030】
一方、クラッチカム137が駆動側クラッチ部材133に対して周方向に相対移動されるとき、当該駆動側クラッチ部材133のリード溝153に嵌め込まれているスチールボール151は、クラッチカム137のカム面155で押され、リード溝153内を溝底153aの斜面に沿って浅い方(図9における図示上方)へと移動される(図9の(A)および(C)参照)。この移動によりスチールボール151の一部が駆動側クラッチ部材133の後面133cからスラスト軸受147側に向って突出されることとなり、その反作用によって相対的に駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137が圧縮コイルバネ149を圧縮しつつ前方(スピンドル側クラッチ部材135に近づく方向)へと移動される。この前方への移動により、駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aが被動側クラッチ歯135aに深く噛み合う(完全な噛み合い状態になる)とともに、駆動側クラッチ部材133の後面133cとスラスト軸受147の前面との間に間隙Cが発生する(図5、図9の(A)参照)。この間隙Cがねじ締め作業の終了時において、クラッチ機構131の遮断状態を維持して駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137が静かに空転することを許容するための、いわゆるサイレント用の間隙である。したがって、この間隙Cを形成するべく、駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137がスピンドル側クラッチ部材135に向って移動する動作がサイレント作動である。
【0031】
その後、上記のようにクラッチ機構131が完全に噛み合った連結状態でねじ締め作業が進行し、そしてストッパスリーブ125の先端が被加工材Wに当接する。この状態ではクラッチ機構131が連結状態にあるため、スピンドル117およびドライバビット119の回転力によってネジSが更に締め込まれる。その結果、圧縮コイルバネ149によって前方へと付勢されているスピンドル側クラッチ部材135およびスピンドル117は、前方へと移動する。これによって被動側クラッチ歯135aが駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aから徐々に離れて噛み合いが浅くなり、ついには噛み合いが解除され、ネジSの締め込みが終了する。このとき、噛み合いが解除される直前において、噛み合い促進機構161のスチールボール162が支持軸143の大径部168から段差166のテーパ面166aを経て小径部167へと移動する。これによってスピンドル側クラッチ部材135の係合凹部165のテーパ面165aに対するスチールボール162による加圧力が消去されるため、スピンドル側クラッチ部材135は、圧縮コイルバネ149の付勢力によって前方へと移動される。すなわち、スピンドル側クラッチ部材135は、スピンドル117よりも速い速度で前方へと移動されることとなり、これによってクラッチ噛み合いの解除がより素早く行なわれる。この状態が図6および図10に示されている。
【0032】
このようにしてクラッチ機構131の噛み合いが解除されると、それまでクラッチカム137に作用していたねじ締めに基づく周方向の荷重が消去する。このとき、クラッチカム137には、圧縮コイルバネ149の付勢力が、スラスト軸受147に当接されているスチールボール151から当該クラッチカム137のカム面155を介して周方向への力と上記荷重とは反対向きに作用している。このため、当該荷重が消去することに伴い、クラッチカム137は、駆動側クラッチ部材133に対して周方向に相対移動し、これによってスチールボール151がリード溝153の溝底153aを深い方へと移動する。その結果、相対的に駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137がスラスト軸受147側へと移動されて当接される。このときの移動量は、前述したサイレント作動によって形成された間隙Cに相当する。このことによって駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aと、被動側クラッチ歯135aとの間には、干渉回避用としての適正な間隙が発生する。かかる間隙を設けることによって、噛み合い解除後における駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aに対する被動側クラッチ歯135aの噛み合い解除状態を維持することが可能となる。これによってクラッチ機構131は、駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aが被動側クラッチ歯135aに干渉することなく、静かに空転し、いわゆるサイレントクラッチとしての機能を好適に奏することとなる。
【0033】
上記のように、本実施の形態にかかるクラッチ機構131によれば、駆動モータ111によって回転される駆動側クラッチ部材133の駆動側クラッチ歯133aがスピンドル側クラッチ部材135の被動側クラッチ歯135aに噛み合う際に、当該クラッチ歯133a,135a相互の噛み合い動作に先行して、駆動側クラッチ部材133と共に回転するクラッチカム137の補助クラッチ歯137aが被動側クラッチ歯135aに噛み合い、その後、当該クラッチカム137が駆動側クラッチ部材133に対して周方向に相対移動することで、駆動側クラッチ歯133aが被動側クラッチ歯135aに噛み合う構成としている。すなわち、クラッチ機構131の噛み合い時における衝撃荷重を、クラッチカム137の補助クラッチ歯137aで受け、その後、駆動側クラッチ部材133の駆動側クラッチ歯133aがスピンドル側クラッチ部材135の被動側クラッチ歯135aに噛み合う構成である。このことから、クラッチカム137は、駆動側クラッチ部材133とスピンドル側クラッチ部材135との噛み合いに際し、言わばクッション部材として機能する結果、駆動側クラッチ部材133とスピンドル側クラッチ部材135との噛み合い時の衝撃が軽減されることになる。
【0034】
一方、クラッチカム137は、スピンドル側クラッチ部材135の被動側クラッチ歯135aに噛み合った後、当該スピンドル側クラッチ部材135から受ける回転力によって圧縮コイルバネ149を圧縮しつつ回転方向に対して遅れる(後退する)方向に移動する。このため、補助クラッチカム137aと被動側クラッチ歯135aとの噛み合い時の衝撃も緩和されることになる。また駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aは、被動側クラッチ歯135aに対し周方向と交差する方向に延びる平面を噛み合い面として面当りで噛み合う構成としている。このため、噛み合い面における単位接触面積あたりの荷重を軽減することが可能となり、摩耗を減少することができる。
【0035】
またクラッチカム137は、リード溝153の周方向長さによって規定される範囲内で駆動側クラッチ部材133に対し相対移動する構成であり、本実施の形態では駆動側クラッチ歯133aが被動側クラッチ歯135aに噛み合った状態において、回転が遅れる方向に更に移動することが許容されている。このため、クラッチ機構131の噛み合い連結状態においては勿論のこと、噛み合い解除時の荷重は、駆動側クラッチ部材133で受けることができる。すなわち、本実施の形態では、クラッチ噛み合い時の衝撃をクラッチカム137で受けることができ、噛み合い解除時の荷重については駆動側クラッチ部材133で受けることができる。
以上述べたことから、本実施の形態にかかるクラッチ機構131によれば、クラッチ噛み合い時の衝撃を低減することが可能となり、このことによって駆動側クラッチ部材133、クラッチカム137、およびスピンドル側クラッチ部材135の耐久性を向上して延命化を達成することができる。
【0036】
また本実施の形態では、クラッチカム137を駆動側クラッチ部材133の円形凹部133b内に配置するとともに、スピンドル側クラッチ部材135とする対向する前面を、駆動側クラッチ部材133の前面と面一に設定している。このことによって駆動側クラッチ部材133とスピンドル側クラッチ部材135との間にクラッチカム137を介在する構成でありながら、クラッチ機構131の軸方向長さを、クラッチカム137を有しない構成の場合と同等の長さまで短縮することが可能となり、延いては電動スクリュドライバ101の機長を短縮できる。
【0037】
また本実施の形態では、駆動側クラッチ部材133に軸方向の移動動作を行わせるサイレント作動用の軸方向変位手段として、スチールボール151を採用し、駆動側クラッチ部材133に設けたリード溝153の溝底153aの斜面に沿う当該スチールボール151の転動動作を利用して駆動側クラッチ部材133を軸方向に移動させる構成としたので、摩擦抵抗が少なく、円滑な移動動作を得ることができる。
【0038】
また本実施の形態に係るクラッチ機構131は、スピンドル117とスピンドル側クラッチ部材135との間に噛み合い促進機構161を設け、当該スピンドル側クラッチ部材135をスピンドル117の移動速度よりも速い速度で移動できるようにしている。このため、被動側クラッチ歯135aの補助クラッチ歯137aに対する噛み合い速度がアップし、噛み合いに際し、当該被動側クラッチ歯135aと補助クラッチ歯137aとの乗り越え回数(両クラッチ歯135a,137aの軸方向端面の干渉回数)が減少し、噛み合い易くなる。これによって、両クラッチ歯135a,137aの摩耗が減少し、クラッチ機構131としての寿命を延ばすことが可能となる。
【0039】
また本実施の形態では、スピンドル側クラッチ部材135に形成された係合凹部165の周方向のテーパ面165aがスチールボール162に係合する構成としている。このため、スピンドル側クラッチ部材135の回転力は、スチールボール162を介してスピンドル117に伝達される。すなわち、スチールボール162は、スピンドル側クラッチ部材135の移動速度をスピンドル117の速度よりも速める噛み合い促進部材として機能することに加え、回転力の伝達部材としても機能する。このため、スピンドル側クラッチ部材135とスピンドル117との嵌め合いにつき、回転力の伝達が可能な、例えばスプライン嵌合にする必要がなく、嵌め合い構造の単純化が可能となる。上記の係合凹部165の周方向のテーパ面165aは、本発明の請求項4における「壁面」対応する。
【0040】
なお本実施の形態は、締付け工具の一例としてネジSの締付作業に用いられる電動スクリュドライバ101で説明したが、これに限られるものではなく、クラッチ機構を介して駆動モータ111の回転力を工具ビットに伝達する構成の締付け工具であれば適用可能である。また本実施の形態における噛み合い促進機構161は、サイレントクラッチと呼ばれるクラッチ機構131に適用した場合で説明したが、サイレント機能を有しない構成のクラッチに適用してもよい。また噛み合い促進部材としての、スチールボール162は、例えば軸方向の両端部を球面とした円柱状体に変更し、これを筒部163の貫通孔164に貫通状に配置し、スピンドル117の軸方向の移動動作に基づき外側へ突き出させ、これによってスピンドル側クラッチ部材135を軸方向に押圧移動させるように構成してもよい。あるいは筒部163に径方向に貫通する態様でレバーを配置し、スピンドル117の軸方向の移動動作に基づき当該レバーをスピンドル117の軸方向へ揺動させ、これによってスピンドル側クラッチ部材135を軸方向に押圧移動させるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態に係る電動スクリュドライバの全体構成を示す一部断面側面図である。
【図2】ドライバビットの駆動機構部を示す断面図である。
【図3】クラッチ機構の作動態様を示す断面図であり、無負荷時を示す。
【図4】クラッチ機構の作動態様を示す断面図であり、クラッチ連結時を示す。
【図5】クラッチ機構の作動態様を示す断面図であり、サイレント作動時を示す。
【図6】クラッチ機構の作動態様を示す断面図であり、クラッチ遮断時を示す。
【図7】クラッチ機構のスチールボールによる駆動側クラッチ部材とクラッチカムの連結構造および各クラッチ歯の動作を示す図であり、無負荷時を示す。
【図8】クラッチ機構のスチールボールによる駆動側クラッチ部材とクラッチカムの連結構造および各クラッチ歯の動作を示す図であり、クラッチ連結時を示す。
【図9】クラッチ機構のスチールボールによる駆動側クラッチ部材とクラッチカムの連結構造および各クラッチ歯の動作を示す図であり、サイレント作動時を示す。
【図10】クラッチ機構のスチールボールによる駆動側クラッチ部材とクラッチカムの連結構造および各クラッチ歯の動作を示す図であり、クラッチ遮断時を示す。
【図11】クラッチ機構における噛み合い促進機構の動作を示す図であり、無負荷時を示す。
【図12】クラッチ機構における噛み合い促進機構の動作を示す図であり、促進開始時を示す。
【図13】クラッチ機構における噛み合い促進機構の動作を示す図であり、クラッチ連結時を示す。
【符号の説明】
【0042】
101 電動スクリュドライバ(締付け工具)
103 本体部
105 モータハウジング
106 ファンハウジング
107 クラッチハウジング
109 ハンドグリップ
111 駆動モータ(モータ)
113 出力軸
115 ピニオンギア
117 スピンドル(被動軸)
117a フランジ部
119 ドライバビット(工具ビット)
121 トリガ
123 アジャスタスリーブ
125 ストッパスリーブ
127 ストッパリング
131 クラッチ機構
133 駆動側クラッチ部材(駆動側クラッチ体)
133a 駆動側クラッチ歯
133b 円形凹部
133c 後面
134 駆動ギア
135 スピンドル側クラッチ部材(被動側クラッチ体)
135a 被動側クラッチ歯
137 クラッチカム(補助クラッチ体)
137a 補助クラッチ歯
141 軸受
143 支持軸(押圧部材)
145 軸受
147 スラスト軸受
149 圧縮コイルバネ(弾性部材)
151 スチールボール(軸方向変位手段)
153 リード溝
153a 溝底
155 カム面
161 噛み合い促進機構(係合促進機構)
162 スチールボール(係合促進部材)
163 筒部
164 貫通孔
165 係合凹部
165a テーパ面(斜面、壁面)
166 段差
166a テーパ面
167 小径部
168 大径部
186 支持リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータからクラッチ機構を介して回転駆動される被動軸と、
前記被動軸によって回転駆動される工具ビットと、を有する締付け工具であって、
前記クラッチ機構は、
前記モータによって回転駆動される駆動側クラッチ体と、
前記被動軸に設けられて当該被動軸と一体に回転する被動側クラッチ体と、
前記駆動側クラッチ体と前記被動側クラッチ体との係合を促進する係合促進機構と、を有し、
前記被動側クラッチ体は、前記被動軸と共に前記駆動側クラッチ体に近づく方向に移動して当該駆動側クラッチ体と係合することで前記モータの回転力を前記被動軸に伝達し、前記駆動側クラッチ体から離れる方向に移動して当該駆動側クラッチ体との係合を解除することで被動軸に対する前記回転力の伝達を遮断する構成とされており、
前記係合促進機構は、前記被動側クラッチ体が被動軸と共に前記駆動側クラッチ体に係合するべく当該駆動側クラッチ体に近づく方向に移動されるとき、前記被動側クラッチ体の移動速度を前記被動軸の移動速度よりも速めるように構成されていることを特徴とする締付け工具。
【請求項2】
請求項1に記載の締付け工具であって、
前記係合促進機構は、前記被動側クラッチ体が前記被動軸と共に前記駆動側クラッチ体に近づく方向へ移動されるとき、当該被動軸と共に移動しつつ当該被動軸の移動動作に基づき被動軸の移動方向とは異なる方向へと移動される係合促進部材を有し、当該係合促進部材の前記被動軸の移動方向と異なる方向への移動動作によって前記被動側クラッチ体の移動速度を前記被動軸の移動速度よりも速める構成としたことを特徴とする締付け工具。
【請求項3】
請求項2に記載の締付け工具であって、
前記被動軸は、軸方向の少なくとも一端側に筒部を有し、
前記被動側クラッチ体は、前記被動軸の筒部外周に対して当該被動軸の周方向には固定され、軸方向へは相対移動が許容された状態で嵌合され、
前記係合促進部材は、前記被動軸の筒部に当該筒部の径方向への移動が許容された状態で保持されたスチールボールであり、
前記スチールボールは、前記筒部を貫通して内周側と外周側とにそれぞれ突出されるとともに、内周側では当該筒部内に相対移動可能に配置された押圧部材に当接され、外周側では前記被動側クラッチ体の斜面に当接されており、前記被動側クラッチ体が前記被動軸と共に前記駆動側クラッチ体に近づく方向に移動されるとき、前記筒部内の押圧部材によって筒部の外周側へと押し出されて前記被動側クラッチ体の斜面を押圧し、これによって当該被動側クラッチ体を前記被動軸の移動方向と同方向へ移動させる構成としたことを特徴とする締付け工具。
【請求項4】
請求項3に記載の締付け工具であって、
前記被動側クラッチ体は、当該被動側クラッチ体の周方向において前記スチールボールと係合する壁面を有し、前記被動側クラッチ体の回転力が前記スチールボールを介して前記被動軸に伝達される構成としたことを特徴とする締付け工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−116656(P2006−116656A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307459(P2004−307459)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】