説明

締付トルクレンチ

【課題】ボルト・ナットの締付トルクが精度よく設定トルク値にでき、しかも消耗品が安価で且つ正確に設定トルク値になるように製造できる、締付トルクレンチを提供する。
【解決手段】締付トルクレンチはレンチ本体とソケット2と係止部材3とからなり、ソケット2にはレンチ本体の回動軸の軸端部1bを脱着自在に嵌入できる軸穴2bと、締付けるボルト・ナットを嵌入する嵌合穴2aと、軸穴2bに対して直角に貫通した連通孔2cとがあり、レンチ本体の回動軸の軸端部1bに直角に貫通する連通孔1eを設け、係止部材3の左右には小径の小断面積部分3aを設けていて、ソケット2の軸穴2bに挿入した後、各連通孔2c,1eに係止部材3を挿入し、回動軸が回転して設定トルク値となると係止部材3の小断面積部分3aが破断して締付けを設定トルク値でもって終了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械・車両等で広く使用されているボルト・ナットを、設定トルクになるまで締付けるトルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト・ナットは、連結器具として広く使用されているが、連結強度・耐久性が強く要求される個所に使用されるボルト・ナットは、所定の設定トルクで締付けがなされるように設定又は義務付けられていることが多い。
【0003】
従来の締付トルクレンチとしては、トルクレンチの締付トルクを計測する機構・センサーを設け、その締付トルクを表示する機能を設けたトルクレンチがある。又設定トルクに達するとクラッチが働いてトルク伝達がなくなる機構を備えたトルクレンチもある。これらの締付トルクレンチはその機構があるため高価となっていた。又狭い場所での締付け作業においては、その表示を見ることができず使えない場合があった。更に表示があっても設定トルク以上、又は不足して締付ける場合も発生していた。締付トルクにバラツキがあって信頼性が低いものとなっていた。
【0004】
これに代わる設定トルクに締付けるトルクレンチとして、実開平5−19783号公報で知られているものがある。これは、締付ける連結ボルトのボルト頭部に角穴を設け、同角穴に角軸を嵌入するとともに、角軸の先端にはボルト頭を形成し、又角軸の中間に小径にしたくびれ部を設け、トルクレンチで角軸のボルト頭部を回動させて連結ボルトを締めていき、トルクレンチが設定トルクとなると角軸の中間のくびれ部から破断して設定トルクで締付けられるようにするものである。
【0005】
しかしながら、この角軸は一回で使用済みとなるものであるが、その先端にはボルト頭部を整形し、又中間には設定トルクで破断するくびれ部を形成するため、角軸の製造コストが嵩み高価になるとともに、くびれ部の破断トルクに製造上からくるバラツキが生じ易いという問題点がある。
【特許文献1】実開平5−19783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解決し、締付トルクが精度よく設定トルク値にでき、しかも消耗品が安価で且つ正確に設定トルク値になるように製造できる、締付トルクレンチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 人力又は駆動源を用いたレンチ本体と、同レンチ本体の回動軸の軸端部に脱着自在に取付けられるソケットと、設定トルクを定める係止部材とからなる設定トルクに締付ける締付トルクレンチであって、ソケットには締付けるナット又はボルト頭を嵌入させる嵌合穴と同嵌合穴の反対側のソケット部分にレンチ本体の軸端部を挿入する軸穴とを設け、同軸穴に挿入したレンチ本体の回動軸の軸端部及び軸穴の周辺のソケット部分に回動軸の軸方向と直交する方向に貫通する連通孔を設け、同連通孔に係止部材を挿入するとともに、軸端部外周と軸穴内周壁との間の間隙部分の係止部材の位置に断面積を小さくした小断面積部分を設け、回動軸に設定トルクが働くとこの係止部材の小断面積部分が破断するように係止部材の材質・寸法を設定したことを特徴とする、締付トルクレンチ
2) 係止部材の連通孔からの脱落を防止する係止部材の抜け防止手段を設けた、前記1)記載の締付トルクレンチ
3) 抜け防止手段が、係止部材の中央部に小さい環状溝を設け、回動軸の軸端部の中央に小鋼球を係止部材の環状溝に向けて出没自在に設け、同小鋼球を係止部材に向けて付勢するスプリングを設けた構造とした、前記2)記載の締付トルクレンチ
4) 連通孔が断面円形状で、係止部材が断面円形の細長のピンでその左右それぞれに小径の小断面積部分を設けたものである、前記1)〜3)何れか記載の締付トルクレンチ
5) 連通孔が軸方向に長いスリットで、係止部材の断面が縦長の板材で左右それぞれに縦巾が短くした小断面積部分を設けた、前記1)〜3)何れか記載の締付トルクレンチ
にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、レンチ本体の回動軸のトルクは連通孔内に挿入された係止部材を介してソケットに伝達し、ソケットの嵌合孔に嵌入された締付けるボルト又はナットに伝達され、そのボルト・ナットが回動される。そしてレンチ本体の出力トルクが設定トルクとなると、係止部材の小断面積部分に曲げモーメント又は剪断力が作用し、設定トルク値でこの小断面積部分が破断し、ボルト・ナットの締付けを設定トルクでもって終了させる。
従って、設定トルクの締付回毎に係止部材は破断するが、その係止部材は、小断面積部分がある細長のピン又は板材で小さいもの等であり、しかも破断させるトルクの設計は小断面積部分の径又は巾等の決定の計算又は試験だけで済むので容易であり、又その製造コストは極めて安価にでき、多数回の使用にもコストを増大させることが少なくできる。又計算・試験が容易で再現性もよくできるので設定トルク値に正確に締付けられるものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、ソケットの軸穴の内径とレンチ本体の回動軸の外径との間には小さな間隙を設け、係止部材の伸びを吸収できるものが好ましい。又、係止部材の素材としては、伸びが小さく設定トルク又は所定荷重になると瞬間的に破断する素材が好ましい。又その形状としては、断面が円形の細長のピン又は断面が軸方向に長い縦長の板体がよい。又小断面積部分は直径を小径にする方法、板体の巾を短くすることによる方法が代表例である。この小断面積部分は上記の回転軸外周とソケットの軸穴内面との間の間隙を臨む位置に設けられる。
【0010】
又、係止部材が連通孔の所定位置に挿入された状態を保持し、係止部材が連通孔から脱落しないようにする係止部材の抜け防止手段を設けることが好ましい。この一例として、溝とこれに付勢されたボールのノッチ構造が有効に使える。
【実施例1】
【0011】
図1〜図5に示す実施例1は、係止部材を細長のピンにし、小断面積部分として小径の部分を左右それぞれ設け、更にピンの中央に小さな環状溝を設け、同溝に押し付けるボールと同ボールを溝方向に付勢するスプリングとをレンチ本体の回動軸の軸端部の中央にボールを出没自在に設ける構造とした実施例である。
【0012】
図1は、実施例1の説明図である。
図2は、実施例1の縦断面図である。
図3は、図1のA−A断面図である。
図4は、実施例1の係止ピンの斜視図である。
図5は、本発明の係止部材と連通孔の他の形状例を示す説明図である。
図6は、図5の係止部材を示す斜視図である。
【0013】
図中、1はモータの駆動源で回動軸1aを回転させるレンチ本体、1aは回動軸、1bは同回動軸の軸端部、1cは回動軸1aの軸端部1bの軸端の中央に出没自在に設けた小鋼球、1dは同小鋼球を係止部材方向に付勢するスプリング、1eは軸端部1b側に形成した連通孔、2は鋼製ソケット、2aは六角形状をした嵌合穴、2bは断面円形状の軸穴、2cはソケット2側に形成した連通孔、3は断面円形状の細長のピンを用いた係止部材、3aは小径にして形成した小断面積部分、3bは中央に周設した小さな環状溝、4は締付けるボルト頭である。
【0014】
この実施例では、まずレンチ本体1の回動軸1aの軸端部1bをソケット2の軸穴2bに挿入し、その後係止部材3を連通孔2c,1eに挿入する。挿入されると係止部材3の環状溝3bに回動軸1aの軸端部1bの端面中央にある小鋼球1cがスプリング1dで押し当てて係止部材3の連通孔2c,1eからの離脱を防止する。又係止部材3を連通孔2cの所定位置まで挿入して位置決めする。次にレンチ本体1を作動させると、回動軸1aにはモータによってトルクが出力される。この回動軸1aのトルクは、その軸端部1bがソケット2の軸穴2bに挿入されて係止部材3によってソケット2に連結されているので、係止部材3を介してソケット2は回動し、ソケット2の嵌合穴2aに嵌入したボルト頭4を回転して締付ける。そして、ボルト頭4の締付トルクが設定トルク値に達すると、ソケット2と回動軸1aとの間の係止部材3に設定トルクが作用し、係止部材3には設定トルクによる曲げモーメント・剪断力が働いて強度が弱い小断面積部分3aで破断する。係止部材3の破断によってボルト頭4への締付けが終了し、ボルト頭4は設定トルクで締付けられる。
【0015】
設定トルクに達して破断した係止部材3は、ソケット2の連通孔2cから軸材(図示せず)を圧入させると、圧入されてくる軸材が破断した係止部材3を連通孔2c,1eから押し出す。その後、レンチ本体1、ソケット2をボルト頭4から外し、次のボルト頭、ナットの締付け作業に入る。係止部材3は次のボルト頭、ナットの設定トルク値で破断する形状・寸法・素材の係止部材を使用する。
【0016】
このように、一回のナット・ボルト頭の設定トルク値の締付け作業で1個の細長のピン状の係止部材3の消耗で済み、この係止部材3の製造は形状がシンプルであるので容易で且つ安価にでき、作業のランニングコストが安くなる。又設定トルク値で破断させるようにするにも、寸法変更又は素材変更でよく、正確な設定トルクによる破断を可能とし、精度よい設定トルク値で締付けがなされる。
【0017】
図6に示す例は、係止部材3が板状で、左右それぞれに板巾を狭くして小断面積部分3aを形成し、又連通孔2c,1eの断面が軸方向に縦長のスリット状となるものである。他の構成・作用効果は図1〜図5に示す実施例1と同様のものである。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の締付トルクレンチは、広範囲のボルト・ナットの締付けに使用できるものであるが、特に設定トルク値が高く且つ厳しく要求される。タイヤの車軸との取付ハブのボルト取付作業、荷役機械の強度部材のボルト取付作業、強い振動を受ける大型加振機のボルト取付作業に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の説明図である。
【図2】実施例1の縦断面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】実施例1の係止ピンの斜視図である。
【図5】本発明の係止部材と連通孔の他の形状例を示す説明図である。
【図6】図5の係止部材を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
1 レンチ本体
1a 回動軸
1b 軸端部
1c 小鋼球
1d スプリング
1e 連通孔
2 ソケット
2a 嵌合穴
2b 軸穴
2c 連通孔
3 係止部材
3a 小断面積部分
3b 環状溝
4 ボルト頭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力又は駆動源を用いたレンチ本体と、同レンチ本体の回動軸の軸端部に脱着自在に取付けられるソケットと、設定トルクを定める係止部材とからなる設定トルクに締付ける締付トルクレンチであって、ソケットには締付けるナット又はボルト頭を嵌入させる嵌合穴と同嵌合穴の反対側のソケット部分にレンチ本体の軸端部を挿入する軸穴とを設け、同軸穴に挿入したレンチ本体の回動軸の軸端部及び軸穴の周辺のソケット部分に回動軸の軸方向と直交する方向に貫通する連通孔を設け、同連通孔に係止部材を挿入するとともに、軸端部外周と軸穴内周壁との間の間隙部分の係止部材の位置に断面積を小さくした小断面積部分を設け、回動軸に設定トルクが働くとこの係止部材の小断面積部分が破断するように係止部材の材質・寸法を設定したことを特徴とする、締付トルクレンチ。
【請求項2】
係止部材の連通孔からの脱落を防止する係止部材の抜け防止手段を設けた、請求項1記載の締付トルクレンチ。
【請求項3】
抜け防止手段が、係止部材の中央部に小さい環状溝を設け、回動軸の軸端部の中央に小鋼球を係止部材の環状溝に向けて出没自在に設け、同小鋼球を係止部材に向けて付勢するスプリングを設けた構造とした、請求項2記載の締付トルクレンチ。
【請求項4】
連通孔が断面円形状で、係止部材が断面円形の細長のピンでその左右それぞれに小径の小断面積部分を設けたものである、請求項1〜3何れか記載の締付トルクレンチ。
【請求項5】
連通孔が軸方向に長いスリットで、係止部材の断面が縦長の板材で左右それぞれに縦巾が短くした小断面積部分を設けた、請求項1〜3何れか記載の締付トルクレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−802(P2009−802A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166899(P2007−166899)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(507212595)
【出願人】(390032746)東洋企画株式会社 (3)
【Fターム(参考)】