説明

締付装置

【課題】締め付け対象物の形状等に制限されずに、締め付け時に発生する反力を打ち消すことができる締付装置を提供すること。
【解決手段】締付装置1は、被締付部材に係合可能な係合部21、及び第1回転軸を中心に係合部21を回転可能な第1回転駆動部22を有する締付部2と、第1回転軸とは異なる第2回転軸を中心に回転可能なフライホイール44、及び第2回転軸を中心にフライホイール44を所定の回転速度で回転させる第2回転駆動部45を有するジャイロ部4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナット等の被締付部材を締め付ける際に用いられる締付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトやナットの締め付けは、ボルトやナットにソケットを係合させて、このソケットを回転させて行っている。これらボルトやナットの締め付け時には、ソケットに反力が生じる。この反力は、締め付けトルクの大きさに比例して大きくなるため、ナットランナ等の締付装置を使用して大きなトルクでの締め付けを行う場合には、発生する反力も大きくなる。
従って、作業者がナットランナを使用してボルトやナットの締め付けを行う場合には、反力によって作業者の手首等に大きな負担がかかってしまうという問題があった。
【0003】
そこで、ボルトやナットを締め付けるときに発生する反力を受けるための反力受け部材を備えた締緩装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1で提案された締緩装置では、反力受け部材を、ボルトやナットを締め付ける締め付け対象物に当接させることで、発生する反力を逃がしている。
【特許文献1】特開平5−42485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された締緩装置では、反力受け部材を締め付け対象物に当接させて使用するため、ボルトやナットの締め付け箇所が変わるたびに、反力受け部材の位置の調整を行う必要があった。また、締め付け対象物の形状や、締め付け対象物におけるボルトやナットの配置によっては、反力受け部材を当接させることができず、締緩装置の使用条件に制限があった。
【0005】
従って、本発明は、締め付け対象物の形状等に制限されずに、締め付け時に発生する反力を打ち消すことのできる締付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の締付装置は、被締付部材に係合可能な係合部、及び第1回転軸を中心に前記係合部を回転可能な第1回転駆動部を有する締付部と、前記第1回転軸とは異なる第2回転軸を中心に回転可能なフライホイール、及び前記第2回転軸を中心に前記フライホイールを所定の回転速度で回転させる第2回転駆動部を有するジャイロ部と、を備える。
【0007】
また、締付装置は、前記フライホイールの姿勢を調整する調整部と、前記ソケットが受ける反力を検出する反力検出部と、前記反力検出部により検出された前記反力の大きさに応じて、前記調整部に前記フライホイールの姿勢を調整させる制御部と、を更に備えることが好ましい。
【0008】
また、前記調整部は、前記フライホイールのホイール面の前記第1回転軸を中心軸とした傾きを調整する第1サーボ機構と、前記ホイール面の前記第1回転軸に直交する第3回転軸を中心軸とした傾きを調整する第2サーボ機構と、を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の締付装置によれば、締め付け対象物の形状等に制限されずに、締め付け時に発生する反力を打ち消すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の締付装置の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の締付装置1を示す斜視図である。図2は、図1のII矢視図である。図3は、ジャイロ部4を示す斜視図である。図4は、図3のIV矢視図であり、図5は、図3のV矢視図である。
【0011】
本実施形態の締付装置1は、図1に示すように、締付部材であるボルトB又はナットを締め付け対象物に締め付ける締付部としてのナットランナ2と、このナットランナ2がボルトB又はナットを締め付けるときに受ける反力を検出する反力検出部3と、ナットランナ2に所定のジャイロモーメントを与えるジャイロ部4と、これらを制御する制御部5と、を備える。
【0012】
ナットランナ2は、図1及び図2に示すように、係合部としてのソケット21と、このソケット21に連結され第1回転軸としてのZ軸を中心にソケット21を回転可能な第1回転駆動部としてのソケット回転駆動部22と、を備える。
ソケット21は、ボルトB又はナット(図示せず)に係合して、ボルトB又はナットを締め付け対象物に締め付ける。このソケット21の先端部には図示しない凹部(例えば、六角柱状の凹部)が形成されており、この凹部にボルトBの頭部が係合するよう構成されている。
【0013】
ソケット回転駆動部22は、ソケット21の基端側に連結されており、円柱状の筐体221と、この筐体221の内部に収容される駆動モータ(図示せず)と、この駆動モータに連結されZ軸を中心に回転可能な回転出力軸(図示せず)と、を備える。ソケット21は、回転出力軸の先端側に連結されている。ソケット回転駆動部22は、駆動モータにより回転出力軸を回転させることによりソケット21を回転駆動させる。
尚、ソケット21が回転しても筐体221は回転しないように構成されている。
【0014】
ジャイロ部4は、図1及び図2に示すように、ナットランナ2の基端側に連結される。このジャイロ部4は、図1及び図3に示すように、第1枠体41と、この第1枠体41の内側に配置される第2枠体42と、この第2枠体42の内側に配置される第3枠体43と、この第3枠体43の内側に配置されるフライホイール44と、このフライホイール44を回転駆動させる第2回転駆動部としてのフライホイール駆動モータ45と、フライホイール44の姿勢を調整する調整部6と、を備える。
【0015】
第1枠体41は、略コの字形状を有しており(図4参照)、ソケット回転駆動部22の基端側に連結される。この第1枠体41は、略コの字形状における一対の先端部がZ軸上に位置するように配置されている。
【0016】
第2枠体42は、略ロの字形状を有しており(図5参照)、Z軸を中心として第1枠体41に対して回動自在に支持される。この第2枠体42は、対向する一対の枠部それぞれの中心がZ軸上に位置するように配置されている。
【0017】
第3枠体43は、略ロの字形状を有しており、Z軸に直交する第3回転軸としてのY軸を中心として第2枠体42に対して回動自在に支持される。この第3枠体43は、対向する一対の枠部それぞれの中心(第3枠体43を構成している4つの枠部のうちで対向している短い方の一対の枠部の各中心)がY軸上に位置するように配置されている。
【0018】
フライホイール44は、円板状であり、軸部材441を介して第3枠体43の内側でこの第3枠体43に支持されている。このフライホイール44は、Y軸に直交する第2回転軸としてのX軸を中心にして第3枠体43に対し回転自在に連結されている。
軸部材441は、第3枠体43の中心(第3枠体43を構成している4つの枠部のうちで対向している長い方の一対の平板状部位の各中心)を通っており、X軸上に位置するように配置されている。
【0019】
フライホイール駆動モータ45は、第3枠体43の外側に配置されており、軸部材441及びフライホイール44を所定方向に回転させる。
【0020】
調整部6は、図3〜図5に示すように、Z軸を中心として第2枠体42を回動させる第1サーボ機構61と、Y軸を中心として第3枠体43を回動させる第2サーボ機構62と、を備える。
【0021】
第1サーボ機構61は、図3及び図4に示すように、第1サーボモータ611と、この第1サーボモータ611の駆動軸612に連結された小歯車613と、この小歯車613に噛合すると共に第2枠体42に連結される大歯車614と、を備える。
第1サーボ機構61は、第1サーボモータ611を駆動させることにより、小歯車、及びこの小歯車に噛合する大歯車を回転させ、この大歯車の回転によりZ軸を中心として第2枠体を回動させる。これにより、フライホイール44のホイール面442のZ軸を中心軸とした傾きが調整される。
【0022】
第2サーボ機構62は、図3及び図5に示すように、第2サーボモータ621と、この第2サーボモータ621の駆動軸622に連結された小歯車623と、この小歯車623に噛合すると共に第3枠体43に連結される大歯車624と、を備える。
第2サーボ機構62は、第2サーボモータ621を駆動させることにより、小歯車623、及びこの小歯車623に噛合する大歯車624を回転させ、この大歯車624の回転によりY軸を中心として第3枠体43を回動させる。これにより、ホイール面442のY軸を中心軸とした傾きが調整される。
【0023】
以上のジャイロ部4は、フライホイール44を回転させることにより、所定方向にジャイロモーメントを発生させる。また、第1サーボ機構61及び第2サーボ機構62によってフライホイール44の姿勢を調整することで、ジャイロモーメントの大きさ及び向きを調整できる。
【0024】
反力検出部3は、図1及び図2に示すように、第1板状部材31と、第2板状部材32と、一対のロードセル33と、を備える。
第1板状部材31及び第2板状部材32は、互いに所定間隔をあけて積層されており、これら第1板状部材31及び第2板状部材32には、ソケット回転駆動部22が厚さ方向に挿通されている。
第1板状部材31は、ソケット回転駆動部22に固定されている。第2板状部材32は、図2に示すように、ベアリング34を介してソケット回転駆動部22を支持している。この第2板状部材32は、図1に示すように、締付装置1が設置される架台10に支持されている。
第1板状部材31には、平面方向に突出する第1凸状部311が形成されている。第2板状部材32には、厚さ方向における第1板状部材31側に突出する一対の第2凸状部321が形成されている。一対の第2凸状部321は、第1凸状部311を挟み込むように設けられている。
【0025】
一対のロードセル33は、第1凸状部311と一対の第2凸状部321との間に形成された隙間にそれぞれ配置されている。
【0026】
以上の反力検出部3では、第1板状部材31は、ソケット回転駆動部22の筐体221に固定されている。そのため、ナットランナ2が受ける反力により筐体221が回転すると、この筐体221の回転に伴い第1板状部材31も回転する。
一方、第2板状部材32は、ベアリング34を介してソケット回転駆動部22の筐体221を支持している。そのため、筐体221が回転しても第2板状部材32は回転しない。
これにより、筐体221がZ軸まわりのトルク(締め付け反力)を受けると、一対のロードセル33のうちの一方のロードセル33が第1板状部材31により押圧されて、トルクの大きさと向きとが検出される。
【0027】
制御部5は、図6に示すように、第1サーボモータ611、第2サーボモータ621及びフライホイール駆動モータ45を制御して、ジャイロモーメントの大きさ及び向きを決定すると共に、ナットランナ2のソケット回転駆動部22を制御する。
具体的には、制御部5は、反力検出部3で検出された締め付け反力に応じて、第1サーボモータ611によりフライホイール44のZ軸に所定の角速度を与えてホイール面442のZ軸を中心軸とした傾きを制御すると共に、第2サーボモータ621により、フライホイール44のY軸に所定の角速度を与えてホイール面442のY軸を中心軸とした傾きを制御する。また、フライホイール駆動モータ45によりフライホイール44の回転数を制御する。
これにより、反力検出部3で検出された締め付け反力を打ち消す方向及び大きさのジャイロモーメントを発生させる。
【0028】
次に、締付装置1の動作について説明する。
【0029】
先ず、図1に示す状態から締付装置1を下降させてソケット21をボルトBの頭部に係合させる。次に、ソケット21を矢印A1方向に回転させて、ボルトBを締め付け対象物に締め付ける。すると、ナットランナ2のソケット回転駆動部22は、矢印A1で示す方向の締め付け反力を受ける。
【0030】
このソケット回転駆動部22が受ける締め付け反力は、反力検出部3において検出される。すると、制御部5は、反力検出部3において検出された締め付け反力の向き及び大きさに応じて、フライホイール44の姿勢を調整して、反力検出部3で検出された締め付け反力を打ち消す方向(図1に示すA3方向)及び大きさのジャイロモーメントを発生させる。
具体的には、制御部5は、反力検出部3で検出された締め付け反力に応じて、第1サーボモータ611によりフライホイール44のZ軸に所定の角速度を与えてホイール面442のZ軸を中心軸とした傾きを制御すると共に、第2サーボモータ621により、フライホイール44のY軸に所定の角速度を与えてホイール面442のY軸を中心軸とした傾きを制御する。また、制御部は、フライホイール駆動モータ45によりフライホイール44を所定の回転数で所定方向(この場合では、図1及び図3に示す矢印A2方向)に回転させる。
【0031】
次に、第1サーボモータ611及び第2サーボモータ621を駆動しているにもかかわらず、反力検出部3が検出するトルクの値が所定の閾値に達したときには、制御部5は、ボルトBの締め付けが終了したものとして、第1サーボモータ611、第2サーボモータ621及びフライホイール駆動モータ45を停止させる。また、制御部5は、ソケット回転駆動部22の駆動モータを停止させ、ソケット21の回転を停止させる。
【0032】
以上の締付装置1によれば、以下のような効果を奏する。
ジャイロ部4を用いてナットランナ2が受ける反力を低減した。これにより、締め付けるボルトBの位置が異なっても、反力受け部材の多様な支持形態に対応する必要がなくなり、多品種少量生産に容易に対応できる。また、反力受け部材を設置する箇所が存在しない場合でも使用することができる。つまり、締め付け対象物の形状等に制限されずに、締め付け時に発生する反力を打ち消すことができる。
その結果、ボルトBやナットの締め付け作業に係る負荷を軽減できる。
【0033】
また、別途設置を必要とする反力受け部材を用いていないので、装置の構成が簡素化されており製造コストを低減できる。
【0034】
また、制御部5に、反力検出部3が検出した反力の値に応じてフライホイール44の姿勢を調整させた。これにより、ボルトBを締めるときにナットランナ2が受ける反力を正確に軽減できる。
【0035】
また、第1サーボ機構61及び第2サーボ機構62により、フライホイール44の姿勢を調整した。これにより、Z軸まわりに発生した反力を打ち消すためのジャイロモーメントを正確に発生させることができ、ナットランナ2に不必要な方向のトルクが発生することを防止できる。
【0036】
以上、本発明の好ましい一実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、本発明をボルトBの締め付けに適用したが、これに限らない。即ち、本発明をナットやネジの締め付けに適用してもよい。また、本発明をボルト、ナット又はネジを緩める場合に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の締付装置を示す斜視図である。
【図2】図1のII矢視図である。
【図3】ジャイロ部を示す斜視図である。
【図4】図3のIV矢視図である。
【図5】図3のV矢視図である。
【図6】制御部による制御動作を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
1 締付装置
2 ナットランナ(締付部)
3 反力検出部
4 ジャイロ部
5 制御部
6 調整部
21 ソケット(係合部)
22 ソケット回転駆動部(第1回転駆動部)
44 フライホイール
45 フライホイール駆動モータ(第2回転駆動部)
61 第1サーボ機構
62 第2サーボ機構
442 ホイール面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締付部材に係合可能な係合部、及び第1回転軸を中心に前記係合部を回転可能な第1回転駆動部を有する締付部と、
前記第1回転軸とは異なる第2回転軸を中心に回転可能なフライホイール、及び前記第2回転軸を中心に前記フライホイールを所定の回転速度で回転させる第2回転駆動部を有するジャイロ部と、を備える締付装置。
【請求項2】
前記フライホイールの姿勢を調整する調整部と、
前記締付部が受ける反力を検出する反力検出部と、
前記反力検出部により検出された前記反力の大きさに応じて、前記調整部に前記フライホイールの姿勢を調整させる制御部と、を更に備える請求項1に記載の締付装置。
【請求項3】
前記調整部は、
前記フライホイールのホイール面の前記第1回転軸を中心軸とした傾きを調整する第1サーボ機構と、
前記ホイール面の前記第1回転軸に直交する第3回転軸を中心軸とした傾きを調整する第2サーボ機構と、を備える請求項2に記載の締付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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