説明

編み物の糸尻始末方法とそれに用いる綴じ針

【課題】綴じ針の耳孔に毛糸を通し易くし、かつ、糸尻の毛糸を編み目の中に引き込むのも容易な方法を提供する。
【解決手段】編み終わった糸尻を、編み目内に引き込んで編み面を整える編み物の糸尻始末方法において、綴じ針10の耳部外側片辺14aから針先方向で、かつ、耳孔15に至る傾斜スリット16を形成した綴じ針10を、編み目Nに差し込みまたは引き抜くとき、始末すべき糸尻Wを、傾斜スリット16を経て耳孔15に挿入するものであり、上記傾斜スリット16の入口は糸尻Wを受け入れ得る大きさに開口し、傾斜スリット16の最奥部対向面間は糸尻Wが押えられて通過し得る微小隙間とした綴じ針10を用いることが望ましく、さらに、上記綴じ針10の耳部14の外幅を綴じ針本体の外径と同等とし、その耳部14に耳孔15を設けた綴じ針10を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、老眼や弱視の人でも容易に行いうる編み物の糸尻始末方法と、それに用いる綴じ針に関する。
【背景技術】
【0002】
編み物の糸尻の毛糸(以下「糸尻」という)は、そのままでは見苦しいものであり、短く切り縮め過ぎると編み目が解けて編み物に孔が開いてしまうこととなる。従って、糸尻は必要最小限の長さにする必要があり、この糸尻は編み目の中に引き込んで見苦しくないように整えられるものである。
【0003】
上記糸尻の始末は、図3(a)のように、綴じ針20の耳部24に糸尻Wを二つ折りにして引っ掛けて矢印の方向に滑らしながら移動し、糸尻Wを二つ折りの癖をつけた状態(毛糸の繊維がそろった状態)にして同図(b)の要領で糸尻Wを耳孔25に通すようにしていたが、この方法は、一定の熟練が必要で老眼や弱視の人には苦痛で難しい作業となっている。
【0004】
上記問題の解決策として、横編機やフライス編機の部品であるベラ針を用いることが考えられるが、このベラ針は非常に繊細なもので手編みなど手芸の領域にはなじまないものである。
【0005】
また、一般的な綴じ針を見ると、耳孔に毛糸を通し易くするために耳部となる部分を鍛延して幅を広げ、その部分に耳孔を設けることとなるので製造コストが嵩むこと、耳部の幅が広くなっているので糸尻の始末の際、編み目に通し難くなること、耳孔を大きくすることによって強度が低下するなどの問題がある。
【0006】
また、毛糸を通しやすくした綴じ針として特許文献1のものが提案されているが、この提案では、糸尻を耳孔に通すのは容易になるが、その綴じ針を編み目に引き込むのは困難で、編み目を広げてしまうなどの問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2004−60132号公報(特許請求の範囲および図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術の問題に鑑み、この発明は綴じ針の耳孔に糸尻を通し易くし、かつ、糸尻を編み目の中に引き込むのも容易な方法とそれに用いる綴じ針を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためにこの発明は、編み終わった糸尻Wを、編み目N内に引き込んで編み面を整える編み物の糸尻始末方法において、綴じ針10の耳部外側片辺14aから針先方向で、かつ、耳孔15に至る傾斜スリット16を形成した綴じ針10を、編み目Nに差し込み、または引き抜くとき、始末すべき糸尻Wを、傾斜スリット16を経て耳孔15に挿入するものであり、上記傾斜スリット16の入口は糸尻Wを受け入れ得る大きさに開口し、傾斜スリット16の最奥部対向面間は糸尻Wが押えられて通過し得る微小隙間とした綴じ針10を用いることが望ましく、さらに、上記綴じ針10の耳部14の外幅を綴じ針本体の外径と同等とし、その耳部14に耳孔15を設けた綴じ針10を用いることができる。また、編み終わった編み物の糸尻Wに近い編み目Nに綴じ針10を差込んだ状態で、編み物の糸尻Wを上記綴じ針10の傾斜スリット16を経て耳孔15に導入し、その綴じ針10を、上記編み目Nを通り抜けさせるならば数多くの糸尻Wの始末をするのに便利である。
【0010】
また、上記方法で用いる綴じ針10は、先端部分11を半球状とし、その半球状部分に続いて緩いテーパー部12をなし、続いて一定の長さで平行部13があって、その平行部13の他端に同一幅の耳部14を形成し、その耳部14に耳孔15を開け、その耳部14の外側片辺14aから針先方向で、かつ、耳孔に至る傾斜スリット16を形成してなるもので、さらに、上記傾斜スリット16の入口は、糸尻を受け入れ得る大きさに開口し、傾斜スリット16の最奥部対向面間は、糸尻Wが押えられて通過し得る微小隙間としたものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成するこの発明によれば、糸尻を綴じ針の耳孔に通しやすく、綴じ針は編み物の編み目に容易に差し通すことができるので糸尻を編み目内に簡単に綺麗に引き込むことができる。とりわけ各色の毛糸を使い分けて柄物に編み上げた編み物では、多数の糸尻ができて始末が大変であるが、本発明によれば、糸尻に近い編み目に、上記綴じ針を差込みながら傾斜スリットを経て糸尻を耳孔に導入し、その綴じ針を、編み目を通り抜けさせるだけで糸尻を始末することができる。
【0012】
また、綴じ針の製造工程での鍛延が不要になって製造コストの削減に繋がり、糸尻の始末がスムーズにできるようになり綴じ針の強度も大きくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次にこの発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)に示すように綴じ針10は、その先端部分11が半球状をしており、半球状の先端部分11に続いて緩いテーパー部12をなし、続いて一定の長さで平行部13があって耳部14が形成され、この耳部14には耳孔15が開けられている。なお、上記半球状部分11からテーパー部、テーパー部12から平行部13に移る部分は角がなく滑らかになって毛糸の滑りをよくしている。
【0014】
耳部14には、外側の片辺14aから針先方向で、かつ、耳孔15に至る傾斜スリット16を形成し、この傾斜スリット16を通じて糸尻Wを耳孔15に滑り込ませるようになっている。なお、上記傾斜スリット16は、図1(c)に示すように、傾斜スリット16の入口を糸尻Wが滑り込むのに十分な隙間16aとし、最奥部の対向面の隙間は糸尻Wが押えられて通過し得る微小隙間16bにして、糸尻Wを滑り込ませるときは内側先端部17が撓んで糸尻が入り易くし、入った糸尻Wは簡単に外れないようにすることができる。
【0015】
なお、上記実施例では綴じ針10の耳部14を鍛延して幅広にし、その部分に耳孔15と傾斜スリット16を設けたが、本発明では糸尻Wが通し易くなるので耳孔15を大きくする必要がなく、従って、鍛延により綴じ針10の端を幅広にする必要もなく耳孔15も狭くてよいことになる。
【0016】
上記綴じ針10を用いて糸尻Wを編み目Nに引き込むには、図1(b)に示すように糸尻Wを耳部14に沿わせて矢印の方向に滑らせ糸尻Wを耳孔15に滑り込ませる。このような状態にして綴じ針10を図2に示すように編み物の編み目Nに差し込み引き抜くと糸尻Wは編み目Nの中に引き込まれて綺麗に始末される。
【0017】
とりわけ各色の毛糸を使い分けて柄物に編み上げた編み物では多数の糸尻ができて始末が大変であるが、本発明によれば、糸尻に近い編み目に、上記綴じ針を差込みながら傾斜スリットを経て糸尻を耳孔に導入し、その綴じ針を上記編み目を通り抜けさせるだけで糸尻を始末することができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上説明したようにこの発明によれば、老眼や弱視の人でも糸尻の毛糸を簡単に始末できるようになった。また、綴じ針の製造工程での鍛延が不要になって製造コストの削減に繋がり、始末の際の針通しがスムーズになり、綴じ針の強度が大きくなった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明で使用する綴じ針の(a)正面図、(b)糸尻を耳孔に滑り込ませる状態の正面図、(c)他の綴じ針の部分正面図
【図2】糸尻を編み目に引き込む動作の説明図
【図3】従来の綴じ針の糸尻差し込み動作説明図で(a)糸尻を整える動作説明図、(b)整えた糸尻を耳孔に通す動作説明図
【符号の説明】
【0020】
10,20 綴じ針
11 先端部分
12 テーパー部
13 平行部
14,24 耳部
14a 耳部外側片辺
15,25 耳孔
16 傾斜スリット
16a 隙間
16b 微小隙間
17 内側先端部
N 編み目
W 糸尻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編み終わった糸尻(W)を、編み目(N)内に引き込んで編み面を整える編み物の糸尻始末方法において、綴じ針(10)の耳部外側片辺から針先方向で、かつ、耳孔(15)に至る傾斜スリット(16)を形成した綴じ針(10)を、編み目(N)に差し込み、または引き抜くとき、始末すべき糸尻(W)を、傾斜スリット(16)を経て耳孔(15)に挿入することを特徴とする編み物の糸尻始末方法。
【請求項2】
上記傾斜スリット(16)の入口は糸尻(W)の毛糸を受け入れ得る大きさに開口し、傾斜スリット(16)の最奥部対向面間は糸尻(W)の毛糸が押えられて通過し得る微小隙間とした綴じ針(10)を用いることを特徴とする請求項1に記載の編み物の糸尻始末方法。
【請求項3】
上記綴じ針(10)の耳部(14)の外幅を綴じ針(10)の本体の外径と同等とし、その耳部(14)に耳孔(15)を設けた綴じ針(10)を用いることを特徴とする請求項1に記載の編み物の糸尻始末方法。
【請求項4】
編み終わった編み物の糸尻(W)に近い編み目(N)に綴じ針(10)を差込んだ状態で、編み物の糸尻(W)を上記綴じ針(10)の傾斜スリット(16)を経て耳孔(15)に導入し、その綴じ針(10)を、上記編み目(N)を通り抜けさせることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の編み物の糸尻始末方法。
【請求項5】
先端部分(11)を半球状とし、その半球状部分に続いて緩いテーパー部(12)をなし、続いて一定の長さで平行部(13)があって、その平行部(13)の他端に同一幅の耳部(14)を形成し、その耳部(14)に耳孔(15)を開け、その耳部(14)の外側片辺(14a)から針先方向で、かつ、耳孔(15)に至る傾斜スリット(16)を形成してなる編み物用綴じ針。
【請求項6】
上記傾斜スリット(16)の入口は、糸尻(W)の毛糸を受け入れ得る大きさに開口し、傾斜スリット(16)の最奥部対向面間は、糸尻(W)の毛糸が押えられて通過し得る微小隙間としてなる請求項5に記載の編み物用綴じ針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−231450(P2007−231450A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54325(P2006−54325)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(306008687)
【Fターム(参考)】