説明

編地、およびその編成方法、ならびにデザイン装置

【課題】 割増やしを利用して渡り糸を確実に捕捉しても、捕捉後に編糸に弛みを生じないようにして、編成に不具合が生じないようにすることができる編地、およびその編成方法、ならびにデザイン装置を提供する。
【解決手段】 (a)のようにべら針10a,10b,10cに編目11a,11b,11cを1コース分形成している状態から、(b)のように、保持編針となるべら針10bに掛かっている編目11bを、対向するべら針13に目移しする。(c)のように、渡り糸15を糸入れする際に、割増やし16を行って、捕捉を容易にする。(d)のように、べら針13に形成した編目15aをべら針10bに目移しして、重ね目20を形成する。(e)のように、編地22の編成後に、破線で示す渡り糸15を、図の横方向15xに引抜いて除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機で編成され、異なる編糸を使用して編成する領域を有し、領域の編成に使用する編糸が他の領域では渡り糸となる編地、およびその編成方法、ならびにデザイン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機では、歯口を挟んで対向する少なくとも一対の針床を備え、針床に沿って往復走行するキャリッジに搭載するカムシステムで、針床に並設される編針を駆動している。歯口の上方には糸道レールが架設され、糸道レールに沿って移動するヤーンキャリアをキャリッジが連行して、カムシステムで駆動される編針に、編糸を供給すると編地が編成される。ヤーンキャリアから編糸が供給される給糸口は、編針との干渉を避けるために、歯口の直上の方向に関して、編目形成のために編針が駆動されて先端のフックが移動する範囲よりも高い位置となっている。このような高い位置から編糸が供給されても、供給される編糸の先端は、編針に掛かっていたり、既に編成された編地の編目に連なっていたり、針床の側方に配置される端糸把持装置で把持されているので低い位置にある。したがって、編糸が歯口から浮いている渡り糸となる区間が短ければ、編糸の高さは低くなり、編目形成時の編針のフックに編糸を捕捉することが容易となる。
【0003】
編糸が編地に編目として編込まれない渡り糸となる距離が長くなると、編目形成時の編針のフックで捕捉することができない高さに浮いてしまう。目移しで編目を渡す側の編針は、編目形成時よりも編針を歯口に進出させる。編針としてべら針を使用する場合、べらが閉じる際に編糸をフック内に引込むので、目移しを応用して編目形成も行う割増やしの動作を利用すれば、高い位置の渡り糸も新ループの編目として捕捉することができる(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
図5は、特許文献1に開示されている技術を適用し、インターシャ編成時の糸入れで、歯口から高い位置の渡り糸となる編糸1dに対し、割増やしを利用して捕捉した後、捕捉した編糸1dによる編目を払う一例を示す。編地の編成は、前針床で行うものとする。(a)は、編成する編地2を示す。編地2は、A領域2a,B領域2b,C領域2cおよびD領域2dが組合わされている。D領域2dは、少ないコース数のC領域2cの前後に編成される。前半のD領域2dの編成が終了すると、編成に使用する編糸1dを供給するヤーンキャリア3dは編幅の外部に出る。
【0005】
(b)は、A領域2aおよびB領域2bをヤーンキャリア3a,3bから供給する編糸1a,1bでそれぞれ編成して前針床の編針に編目4a,4bを形成し、C領域2cでも編目4cを形成している状態を示す。B領域2bの右端の編目4bに続いてタック5をC領域2cの左端の編目4cに掛け、B領域2bとC領域2cとの間を接続している。A領域2aとB領域2bとの間も、同様に接続される。(c)は、C領域2cの編成が終了し、ヤーンキャリア3dから供給する編糸1dで後半のD領域2dの編成を開始する状態を示す。(d)に示すように、編糸1dの糸入れでは、たとえばA領域2aの編目4aの一つを後針床に目移しして割増やし6を行う。割増やし6では、後針床の編針に目移しした編目6aを旧ループとし、新たに編糸1dで新ループとなる編目6bを形成して渡り糸の浮きを防止する。割増やし6による中継によって、D領域2dの左端の編針で編糸1dが確実に捕捉され、編目4dが形成されるようにしている。なお、割増やし6の際には、前針床の編針に編目6cが目移しされる。後針床の編針に形成した編目6bは、後工程の便宜のために、編針から払う。払われた編目6bは、渡り糸となって編地と縁が切れる。
【0006】
ただし、編糸1dの伸びや摩擦などに関する特性によっては、(e)に示すように、前針床の編針に残る編目6cの付近で、編目6bであった編糸1dが編目6aから抜けきらずに弛み7が生じたり、抜けたとしても歯口上で弛んで停留する可能性があることが判明している。
【0007】
図6は、インターシャ編成時の糸入れで、歯口から高い位置の編糸1dに対し、割増やし6を利用して後針床の編針に新ループの編目6bとして捕捉した後、編目6bを払う際に生じる現象の他の例を示す。(d)までは、図5(a)〜(d)と同様であるので、(a)〜(c)は省略する。このように複数のヤーンキャリア3a,3b,3dを使用する場合、相互に干渉しないで、図の横方向に移動可能であるためには、前後に異なるトラックに沿って移動する必要がある。この前後関係を、前側から、ヤーンキャリア3a,3d,3bの順序である場合を想定すると、B領域2bの左端で、編糸1b,1d間に交差が生じる。割増やし6で後針床の編針に形成した編目6bを払うと、(e)に示すように、編糸1dが下方に引張られ、交差している編糸1bも下方に引張られて、B領域2bの編端の編目からヤーンキャリア3bに連なる部分の編糸1bが過大に延びて弛み8が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】再表2007/119272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のように、割増やしを利用して、渡り糸となる編糸1dを途中でべら針のフックに捕捉すれば、高さを低くすることができ、編糸1dを使用して編成する領域2dの最初の編目を確実に形成することができる。しかしながら、編目形成後に捕捉したフックから編目を払ってしまうと、図5や図6に示すような弛み7,8が生じる可能性がある。図5に示すような弛み7が生じると、この弛み7もA領域2aの編成の際に糸喰いされ、編込まれて、製品不良となるおそれがある。また、ヤーンキャリア3b,3dの前後関係に基づいて、図6に示すような弛み8が生じると、製品不良となる。多くのヤーンキャリアを使用する場合、前後関係による交差を避けることができない場合がある。
【0010】
本発明の目的は、割増やしを利用して渡り糸を確実に捕捉しても、捕捉後に編糸に弛みを生じないようにして、編成に不具合が生じないようにすることができる編地、およびその編成方法、ならびにデザイン装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、べら針による割増やしが可能な横編機で編成され、少なくとも編地中の特定の領域では編目を形成しないで渡り糸となる編糸を、該領域中の一部の編目を利用して該領域に留めながら編成される編地であって、
該渡り糸となる編糸は、該利用する編目で割増やしを行う際に捕捉された状態で、該利用する編目に重ねて留められている、
ことを特徴とする編地である。
【0012】
さらに本発明は、少なくとも前後一対の針床が歯口で対向するように設けられ、各針床にはそれぞれ多数のべら針が編針として配設される横編機で編地を編成する際に、編目の形成に使用する編糸とは異なって渡り糸となる編糸を、編地中の一部の編目を利用して編地に留める処理を含む編地の編成方法において、
該渡り糸となる編糸は、該一部を利用する編目を保持する保持編針と、該保持編針と歯口で対向する対向編針との間での割増やしを行う際に、該割増やしで目移し側となる編針のフックに、新たに形成する編目として捕捉してから、該対向編針に掛かる編目を該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しして、重ねた編目の一方として編地に留める、
ことを特徴とする編地の編成方法である。
【0013】
また本発明は、前記割増やしを行う前に、前記保持編針に掛かる編目を前記対向編針に目移ししておき、
該対向編針を前記目移し側となる編針として、フックに前記渡り糸となる編糸を捕捉して新たな編目を形成するように割増やししてから、該新たな編目を該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しする、
ことを特徴とする。
【0014】
また本発明で、前記割増やしは、前記保持編針を前記目移し側となる編針として行って、前記渡り糸となる編糸を新たに形成する編目として該保持編針のフックに捕捉してから、前記対向編針に掛かる編目を、該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しする、
ことを特徴とする。
【0015】
また本発明で、前記渡り糸となる編糸は、既に編成されて歯口の下方に垂下している編地の領域から編幅外に引出されて待機している状態から、編幅内に糸入れされる際に、他の領域の編成に使用する編糸と交差する、
ことを特徴とする。
【0016】
さらに本発明は、少なくとも前後一対の針床が歯口で対向するように設けられ、各針床にはそれぞれ多数のべら針が編針として配設される横編機で編地を編成する際に、編目の形成に使用する編糸とは異なって渡り糸となる編糸を、編地中の一部の編目を利用して編地に留める処理を含む編地の編成方法において、
該渡り糸となる編糸は、該一部を利用する編目を保持する保持編針と、該保持編針と歯口で対向する対向編針との間での割増やしを行う際に、該割増やしで目移し側となる編針のフックに、新たに形成する編目として捕捉してから、該対向編針に掛かる編目を該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しして、重ねた編目の一方として編地に留めるように、編成データを生成する手段を含む、
ことを特徴とするデザイン装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、編地は、べら針による割増やしが可能な横編機で編成され、渡り糸となる編糸を、割増やしを行う際に捕捉して、編地から浮く渡り糸となる領域で、編目を重ねる状態で留めている。編成後の後工程では、渡り糸となっている部分を編地から引抜くことができ、渡り糸の引抜きによって、割増やしした編目を、割増やし前の状態に近く戻すことができる。編地の編成中は、渡り糸を編地に留めているので、渡り糸に弛みを生じることがなく、弛みに起因する不具合を防ぐことができる。
【0018】
さらに本発明によれば、横編機で編地を編成する際に、渡り糸となる編糸を、保持編針が保持する編目に対して割増やしを行う際に、確実に捕捉することができる。渡り糸は、対向編針に掛かる編目を保持編針に掛かる編目に重なるように目移しして、重ねた編目の一方として編地に留めるので、編成中に弛みを生じるような不具合の発生を防止することができる。編成後には、渡り糸を引抜いて編地から除去することができ、割増やしの影響も編地から除去することができる。
【0019】
また本発明によれば、渡り糸の大部分を編地の一方側に留めるので、編成後の除去作業を容易にすることができる。
【0020】
また本発明によれば、渡り糸を捕捉するために必要な割増やしを、保持編針から対向編針へ目移しするように行うので、編成の工程を短縮することができる。
【0021】
また本発明によれば、渡り糸が下方から編幅内に糸入れされて他の編糸と交差しても、捕捉後の渡り糸を編地に留めておくので、交差している他の編糸を下方に引張らないようにすることができる。
【0022】
さらに本発明によれば、編針には掛かりにくい編糸が歯口から浮いて渡り糸となるような場合に、割増やしで編針のフックに確実に捕捉され、捕捉後に弛みに起因するような不具合の発生もない編成データを、生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の一実施例である編成方法の主要部分の編目の構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、図1の編成方法を利用して、編地を編成する手順の一例を示す編成図である。
【図3】図3は、本発明の他の実施例である編成方法の主要部分の編目の構成を模式的に示す図である。
【図4】図4は、本発明のさらに他の実施例であるデザイン装置30の概略的な構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、渡り糸が捕捉後に弛む状態の一例を示す簡略化した編成図である。
【図6】図6は、渡り糸が捕捉後に弛む状態の他の例を示す簡略化した編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1および図2で、本発明の一実施例としての編成方法について説明する。図3では、本発明の他の実施例としての編成方法について説明する。これらの編成方法は、歯口を挟んで対向する前針床と後針床に編針としてべら針が備えられ、前針床のべら針で編地を編成する場合について説明する。編成には多くのべら針を使用するけれども、説明の簡略化のために、3本のみ示す。目移しや割増やしの相手となる後針床のべら針は、1本のみ示す。図4では、本発明のさらに他の実施例であるデザイン装置30について説明する。各図で、先に説明してある部分と対応する部分に同一の参照符を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の一実施例である編成方法の主要部分の編目の構成を模式的に示す。(a)は、たとえば図5の前針床のべら針10a,10b,10cに編目11a,11b,11cを1コース分形成している状態を示す。(b)は、(a)でべら針10a,10b,10cのうちで保持編針となるべら針10bが保持している一つの編目11bを、べら針10bに歯口12で対向する後針床のべら針13に目移しして、編目14aが掛かっている状態を示す。(c)は、渡り糸15となる編糸を糸入れする際に、前後の針床のべら針10b、13間で割増やし16を行っている状態を示す。割増やし16は、(b)で目移しした編目14aについて行い、対向編針である後針床のべら針13のフックに渡り糸15を捕捉して新ループの編目15aを形成し、目移しされた編目14aを旧ループとしてノックオーバさせる。保持編針である前針床のべら針10bには割増やし16の際の目移しで編目14bを形成する。特許文献1に示すように、割増やし16を利用すると、渡り糸15の捕捉が容易になる。
【0026】
(d)は、(c)で後針床のべら針13に形成した編目15aを、前針床のべら針10bに目移しして、べら針10bに掛かっている編目14bに重ねて、重ね目20を形成ている状態を示す。(e)は、重ね目20を含むコースに続くコースの編目21a,21b,21cを編成している状態を示す。以下同様に、後続のコースでも編目を編成し、編目を前針床のべら針10a,10b,10cにそれぞれ編成することを続けた後の編地22では、破線で示す渡り糸15を、図の横方向15xに引抜いて除去することができる。渡り糸15を引抜くと、(c)で旧ループとなった編目14aは、周囲の編目に吸収され、元の編目11b,11c間のシンカーループに戻る。この編地22を前針床で編成する場合、渡り糸15は後針床側で編地22の裏側に留まるので、引抜きが容易となる。
【0027】
図2は、編地を編成する手順の一例を示す。キャリッジには、3組のカムシステムS1,S2,S3が搭載される。各カムシステムS1,S2,S3で同様に、ニット、タック、ミスの編成動作と、目移し動作とが可能で、少なくとも中間のカムシステムS2では割増やしも可能である場合について説明する。なお、3組のカムシステムは、キャリッジの走行方向に応じて、先行側をS1、後行側をS3とする。編成する編地は、図5に示す編地2を想定し、A領域2a、B領域2b、C領域2c、D領域2dに対応する各領域を、A,B,C,Dでそれぞれ示す。また、各領域で使用するヤーンキャリアもA,B,C,Dで示す。図の左側に示す1〜12の数値は、キャリッジの行程を示す。図の右側に示すS1,S2,S3は、使用するカムシステムを示す。
【0028】
行程1では、キャリッジが右へ移動し、カムシステムS1で領域A,C、カムシステムS2で領域Bをそれぞれ編成する。行程2では、キャリッジが左へ移動し、カムシステムS1で領域C,A、カムシステムS2で領域Bをそれぞれ編成する。領域間は、タックで接続する。行程1および行程2をリピートして、領域A,B,Cを編成する。行程3では、領域Cの編成に使用した編糸を右へ糸出しするために、キャリッジを右へ移動し、ヤーンキャリアCを右方に移動させながら、カムシステムS1で前針床から後針床への目移し、カムシステムS2で後針床から前針床への割増やし、カムシステムS3で後針床から前針床への目移しによる重ね目形成を行う。カムシステムS2による割増やしの際に、右へ糸出しする領域Cの編糸は、後針床に新ループとして捕捉され、カムシステムS3による重ね目形成で、前針床に移される。
【0029】
行程4では、キャリッジのみを左へ移動させる。行程5では、ヤーンキャリアDを左方から移動させて、領域Dの編成に使用する編糸を左方から糸入れする。まず、カムシステムS1で前針床から後針床に目移しし、カムシステムS2で割増やししながら渡り糸の後針床の編針への捕捉による新ループ形成と、前針床への目移しとを行う。カムシステムS3では、後針床から前針床への新ループの目移しを行い、前針床の編針には重ね目を形成する。このような割増やしを伴う処理は、渡り糸を確実に捕捉するために、糸入れする距離に応じて、複数箇所で行うことが好ましい。
【0030】
行程6では、キャリッジを領域Dから領域Bに移動させ、行程5で領域Dに移動したヤーンキャリアDを蹴り返して、領域Bに移動させる。以下、行程7と行程8とをリピートして、領域A,B,Dを編成する。ただし、最初の行程7では、破線で示す領域Dの左端をミスにする。行程5で編成済みだからである。リピートする2回目以降の行程7では、破線で示す左端も含めて領域Dの編目を編成する。行程9では、キャリッジを領域Bから領域Dに移動させ、行程8で領域Bに移動したヤーンキャリアDを蹴り返して、領域Dに移動させる。行程10で、ヤーンキャリアDを左方に移動させて、領域Dの編成に使用する編糸を左方に糸出しする。この糸出しの際にも、距離に応じて、複数箇所で割増やしによる渡り糸の捕捉を行う。行程11では、キャリッジのみ右に移動させ、行程12では、ヤーンキャリアCを右方から移動させて、領域Cの編成に使用する編糸を右から糸入れする。
【0031】
以上のように、糸入れや糸出しの際に生じる渡り糸は、割増やしを利用して捕捉し、編目を重ねて保持しておくので、図5(e)に示すような弛み7が生じて、糸喰いされるような不具合を避けることができる。また、使用するヤーンキャリアが移動するトラックの前後関係で交差が生じ、糸入れする編糸が図6のように、下方に引張られるような条件になっても、割増やしの編目15aを払うことはないので、図6(e)に示すような弛み8が生じる不具合を防止することができる。
【実施例2】
【0032】
図3では、本発明の他の実施例としての編成方法の主要部分の編目の構成を模式的に示す。(a)は、図1の(a)と同様に、前針床のべら針10a,10b,10cに編目11a,11b,11cを1コース分形成している状態を示す。(b)は、渡り糸15となる編糸を糸入れする際に、割増やし23で、保持編針となるべら針10bのフックに渡り糸15を捕捉して編目15aを新ループとして形成するとともに保持していた編目11bの一部を旧ループの編目14aとしてノックオーバさせ、対向編針となるべら針13には目移しで編目14bを形成している状態を示す。(c)は、(b)の割増やし23でべら針13に目移しした編目14bを、元のべら針10bに目移しして戻し、べら針10bに掛かっている編目15aに重ねて、重ね目24を形成している状態を示す。(d)は、重ね目24を含むコースに続くコースの編目21a,21b,21cを編成している状態を示す。以下同様に、後続のコースで編目21a,21b,21cに続く編目を編成し、編地25を編成後に、破線で示す渡り糸15を、図の横方向15xに引抜いて除去することができる。渡り糸15を引抜くと、(b)で形成される編目14aは、周囲の編目に吸収され、元の編目10b,10c間のシンカーループに戻る。本実施例は、割増やし23の前に目移しを行わないので、図1の実施例に比較して、渡り糸15を捕捉する工程を短縮することができる。
【実施例3】
【0033】
図4は、本発明のさらに他の実施例であるデザイン装置30の概略的な構成を示す。デザイン装置30は、前針床および後針床のように、少なくとも前後一対の針床が歯口12で対向するように設けられ、各針床にはそれぞれ多数のべら針10a,10b,10c;13が編針として配設される横編機で編地を編成する際に必要な編成データを生成する。デザイン装置30は、汎用のコンピュータ31に、編地のデザインを行うソフトウエアをインストールして実現される。コンピュータ31に対しては、入力装置32を使用して各種入力操作を行い、表示装置33を介して操作結果や処理結果の表示などを行わせることができる。通信装置34は、ソフトウエアのダウンロードや、データの通信に利用することができる。記録装置35は、ソフトウエアやデータの記録に利用することができる。デザイン装置30で生成する編成データは、通信装置34や記録装置35で記録可能な記録媒体を介して、横編機に送ることができる。
【0034】
この編成データでは、渡り糸15を、編目11bを保持しているべら針10bを保持編針として利用して編地22,25に留める処理を含む。渡り糸15となる編糸は、保持編針となるべら針10bに歯口12で対向するべら針13との間での割増やし16,23を行う際に、割増やし16,23で目移し側となるべら針のフックに、新たに形成する編目15aとして捕捉する。編成データは、対向編針に掛かる編目を保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しして、重ねた編目の一方として編地に留めるように生成する。
【符号の説明】
【0035】
10a,10b,10c、13 べら針
11a,11b,11c,14a,14b,15a,21a,21b,21c 編目
15 渡り糸
16,23 割増やし
22,25 編地
30 デザイン装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
べら針による割増やしが可能な横編機で編成され、少なくとも編地中の特定の領域では編目を形成しないで渡り糸となる編糸を、該領域中の一部の編目を利用して該領域に留めながら編成される編地であって、
該渡り糸となる編糸は、該利用する編目で割増やしを行う際に捕捉された状態で、該利用する編目に重ねて留められている、
ことを特徴とする編地。
【請求項2】
少なくとも前後一対の針床が歯口で対向するように設けられ、各針床にはそれぞれ多数のべら針が編針として配設される横編機で編地を編成する際に、編目の形成に使用する編糸とは異なって渡り糸となる編糸を、編地中の一部の編目を利用して編地に留める処理を含む編地の編成方法において、
該渡り糸となる編糸は、該一部を利用する編目を保持する保持編針と、該保持編針と歯口で対向する対向編針との間での割増やしを行う際に、該割増やしで目移し側となる編針のフックに、新たに形成する編目として捕捉してから、該対向編針に掛かる編目を該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しして、重ねた編目の一方として編地に留める、
ことを特徴とする編地の編成方法。
【請求項3】
前記割増やしを行う前に、前記保持編針に掛かる編目を前記対向編針に目移ししておき、
該対向編針を前記目移し側となる編針として、フックに前記渡り糸となる編糸を捕捉して新たな編目を形成するように割増やししてから、該新たな編目を該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しする、
ことを特徴とする請求項2記載の編地の編成方法。
【請求項4】
前記割増やしは、前記保持編針を前記目移し側となる編針として行って、前記渡り糸となる編糸を新たに形成する編目として該保持編針のフックに捕捉してから、前記対向編針に掛かる編目を、該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しする、
ことを特徴とする請求項2記載の編地の編成方法。
【請求項5】
前記渡り糸となる編糸は、既に編成されて歯口の下方に垂下している編地の領域から編幅外に引出されて待機している状態から、編幅内に糸入れされる際に、他の領域の編成に使用する編糸と交差する、
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一つに記載の編地の編成方法。
【請求項6】
少なくとも前後一対の針床が歯口で対向するように設けられ、各針床にはそれぞれ多数のべら針が編針として配設される横編機で編地を編成する際に、編目の形成に使用する編糸とは異なって渡り糸となる編糸を、編地中の一部の編目を利用して編地に留める処理を含む編地の編成方法において、
該渡り糸となる編糸は、該一部を利用する編目を保持する保持編針と、該保持編針と歯口で対向する対向編針との間での割増やしを行う際に、該割増やしで目移し側となる編針のフックに、新たに形成する編目として捕捉してから、該対向編針に掛かる編目を該保持編針に掛かる編目に重ねるように目移しして、重ねた編目の一方として編地に留めるように、編成データを生成する手段を含む、
ことを特徴とするデザイン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−190555(P2011−190555A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58245(P2010−58245)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】