説明

編地およびその製造方法

【課題】寸法安定性に優れ、伸縮性を有し、かつ強度を維持しつつ柔らかい風合いを有する編地およびその製造方法の提供。
【解決手段】本発明の編地は、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維からなり、曲げ剛性が0.020gf・cm/cm以下、破裂強さが200kPa以上である。本発明の編地の製造方法は、アクリル短繊維を含むアクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維とを編成してなる生機を180〜200℃、30〜90秒の条件でプレセットする方法であって、アクリル短繊維は単繊維繊度が0.3〜2.2dtex、引張強さが2.0cN/dtex以上、乾熱処理(190℃×60秒)後の引張強さの低下率が20%以下であり、生機はアクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径比が1.3〜4.0、アクリル繊維糸条の割合が91〜99質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が1〜9質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル短繊維を用いた編地およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細繊度であるアクリル繊維は、保温性と肌触りの良さからインナー用素材として広く使用されている。
例えば特許文献1には、アクリル繊維とポリウレタン弾性繊維とを編成して得られる編地に伸縮性を付与して、装着感を向上させた成形肌着が開示されている。
【0003】
ところで、伸縮性を付与した編地には、寸法安定性を持たせることを目的として、染色工程に先立ってセットとよばれる乾熱処理が施される場合がある。
しかしながら、特許文献1に記載のように、ポリウレタン弾性繊維を使用した編地をセットして寸法安定性を持たせるためには、編地を180℃以上の高温でセットする必要があるが、従来のアクリル繊維を用いた編地では、アクリル繊維の黄変や編地の強度低下が問題となっていた。特に、細繊度のアクリル短繊維を用いた薄地では、繊維が収縮し硬化して風合いが硬くなりやすいため、伸縮性を有し、かつ風合いを満足する編地を得ることは困難であった。
【0004】
そこで、アクリル繊維とポリウレタン弾性繊維からなり、風合いが柔らかい伸縮性編地を得る方法として、例えば特許文献2には、低温セット性のポリウレタン弾性繊維を使用する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載のように低温での熱セットでは、セット性が必ずしも十分ではなく、編地の切断部分がカールするなど寸法安定性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−88515号公報
【特許文献2】特開平9−291444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような実情を鑑み、寸法安定性に優れ、伸縮性を有し、かつ強度を維持しつつ柔らかい風合いを有する編地およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の編地は、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維とからなり、曲げ剛性が0.020gf・cm/cm以下、かつ破裂強さが200kPa以上である。
ここで、前記アクリル繊維糸条が、単繊維繊度が0.3〜2.2dtex、引張強さが2.0cN/dtex以上、かつアクリロニトリル単位を94質量%以上含むアクリロニトリル系共重合体からなるアクリル短繊維であることが好ましい。
さらに、前記アクリル繊維糸条の繊維径と前記ポリウレタン弾性繊維の繊維径の比(アクリル繊維糸条の繊維径/ポリウレタン弾性繊維の繊維径)が1.3〜4.0であり、かつアクリル繊維糸条の割合が91〜99質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が1〜9質量%であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の編地の製造方法は、アクリル短繊維を含むアクリル繊維糸条と、ポリウレタン弾性繊維とを編成してなる生機を乾熱処理温度180〜200℃、乾熱処理時間30〜90秒の条件でプレセットする編地の製造方法であって、前記アクリル短繊維は、単繊維繊度が0.3〜2.2dtex、引張強さが2.0cN/dtex以上、190℃で60秒間乾熱処理したときの引張強さの低下率が20%以下であり、前記生機は、アクリル繊維糸条の繊維径とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比(アクリル繊維糸条の繊維径/ポリウレタン弾性繊維の繊維径)が1.3〜4.0であり、かつ、アクリル繊維糸条の割合が91〜99質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が1〜9質量%である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の編地は、寸法安定性に優れ、伸縮性を有し、かつ強度を維持しつつ柔らかい風合いを有する。
また、本発明の編地の製造方法によれば、寸法安定性に優れ、伸縮性を有し、かつ強度を維持しつつ柔らかい風合いを有する編地が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[編地]
本発明の編地は、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維とからなり、曲げ剛性が0.020gf・cm/cm以下、かつ破裂強さが200kPa以上である。
編地の曲げ剛性が0.020gf・cm/cmを超えると、編地の風合いが硬くなる。編地の曲げ剛性は0.015gf・cm/cm以下であることが好ましく、その値が小さくなるほど編地の風合いが良好、すなわち柔らかい風合いとなる。
なお、編地の曲げ剛性は、カトーテック株式会社製の純曲げ試験機「KES−FB2」を測定機として使用し、布1cm幅当りの曲げ剛性を測定することで求められる。
【0011】
一方、編地の破裂強さが200kPa未満であると、編地の耐久性が低くなり、寸法安定性が低下する。編地の破裂強さは220kPa以上であることが好ましく、その値が大きくなるほど編地の寸法安定性が良好となる。
なお、編地の破裂強さは、JIS L 1018に記載の破裂強さA法(ミューレン形法)に準拠して測定される値である。
【0012】
また、上述したように、本発明の編地は柔らかい風合いを有するが、編地の破裂強さが200kPa以上であるため、強度も維持できる。すなわち、本発明の編地は強度を維持しつつ、柔らかい風合いを有し、強度と風合いの両方を兼ね備える。
【0013】
また、本発明の編地は、ポリウレタン弾性繊維を含むので伸縮性を有する。
ここで、編地を構成するアクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維について、具体的に説明する。
【0014】
<アクリル繊維糸条>
本発明に用いるアクリル繊維糸条は、アクリル短繊維を含むことが好ましい。アクリル繊維としてアクリル短繊維を含むことで、柔らかな風合いと、かさ高さによる空気層の保持によって温かさの両方を編地に付与することができる。
【0015】
(アクリル短繊維)
アクリル短繊維は、単繊維繊度が0.3〜2.2dtexであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.9dtexである。単繊維繊度が0.3dtex未満であると、紡績加工しにくくなる。一方、単繊維繊度が2.2dtexを超えると、得られる編地に柔らかい風合いを付与しにくくなる。
なお、アクリル短繊維の単繊維繊度は、JIS L 1015に準拠して測定される値である。
【0016】
また、アクリル短繊維は、引張強さが2.0cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは2.2cN/dtex以上である。引張強さが2.0cN/dtex未満であると、得られる編地の破裂強さが低下しやすくなる。アクリル短繊維の引張強さの上限値については特に制限されないが、3.0cN/dtex以下が好ましい。
なお、アクリル短繊維の引張強さは、JIS L 1015に準拠して測定される値である。また、ここでいう引張強さとは、後述する乾熱処理前のアクリル短繊維の引張強さのことである。
【0017】
また、アクリル短繊維は、190℃で60秒間乾熱処理したときの引張強さの低下率が20%以下であることが好ましい。引張強さの低下率が20%以下であれば、編地の引張強さが低下するのを抑制できると共に、強度を維持しつつ柔らかい風合いを有する編地が得られやすくなる。
引張強さの低下率は、以下のようにして求める。すなわち、アクリル短繊維を190℃で60秒間乾熱処理し、乾熱処理前後において、JIS L 1015に準拠して引張強さを測定し、下記式(1)より算出する。なお、S0は乾熱処理前の引張強さであり、S1は乾熱処理後の引張強さである。
低下率(%)=(S0−S1)/S0×100 ・・・(1)
【0018】
アクリル短繊維は、アクリロニトリルと、該アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体とを共重合してなるアクリロニトリル系共重合体を紡糸して得られる。
不飽和単量体としては特に限定されないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸ナトリウム、アクリルアミドメチルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸ナトリウム、アクリルアミドメチルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0019】
ここで、アクリル短繊維を構成するアクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリル単位を94質量%以上含むことが好ましい。アクリル短繊維として、アクリロニトリル単位の割合が94質量%以上のアクリロニトリル系共重合体を用いて編地を製造すると、詳しくは後述するが180℃以上の乾熱処理温度でプレセットしたときに、アクリル繊維糸条が黄変したり、編地の風合いが硬くなったりするのを抑制しやすい。
【0020】
また、アクリロニトリル単位の割合が94質量%以上であると、得られる編地の破裂強さが低下するのを抑制できると共に、強度を維持しつつ柔らかい風合いを有する編地が得られやすくなる。かかる理由は以下のように考えられる。
上述したアクリル短繊維の引張強さの低下率は、プレセットを想定して190℃で60秒間乾熱処理したときの引張強さの低下率である。アクリル短繊維として、アクリロニトリル単位の割合が94質量%以上のアクリロニトリル系共重合体を用いた場合、アクリル短繊維の引張強さの低下率が20%以下になりやすい。その結果、編地の引張強さが低下するのを抑制できると共に、強度を維持しつつ柔らかい風合いを有する編地が得られやすくなる。
【0021】
ここで、アクリル短繊維の製造方法の一例について説明する。
まず、アクリロニトリル系共重合体を溶剤に溶解して紡糸原液を調製する。紡糸原液の濃度は15〜30質量%が好ましい。紡糸原液の濃度が15質量%以上であれば、アクリル短繊維の引張強さが向上する。一方、紡糸原液の濃度が30質量%以下であれば、曳糸性を良好に維持できるので、紡糸糸切れを抑制できる。
溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これら中でも、ジメチルアセトアミドは溶剤の加水分解による性状の悪化が少なく、良好な紡糸性を与えるので、好適に用いられる。
【0022】
ついで、得られた紡糸原液を紡糸口金から水と溶剤が混合された紡浴中へ押出して、凝固し繊維化する。紡浴に用いる溶剤としては特に制限されないが、紡糸原液に用いる溶剤と同じ溶剤を用いるのが好ましい。
紡浴の濃度は25〜70質量%が好ましく、より好ましくは25〜60質量%である。紡浴の濃度が25質量%以上であれば、凝固が均一に進行しやすく、アクリル短繊維の引張強さが向上する。紡浴の濃度が70質量%以下であれば、凝固の進行が遅くなりすぎるのを抑制でき、繊維間での接着を防げる。
また、紡浴の温度は30〜60℃が好ましく、より好ましくは30〜50℃である。紡浴の温度が30℃以上であれば、曳糸性を良好に維持できるので、紡糸糸切れを抑制できる。一方、紡浴の温度が60℃以下であれば、凝固の進行が速くなりすぎるのを抑制でき、アクリル短繊維の引張強さが向上する。
【0023】
ついで、紡浴中で凝固して繊維状になった糸条を、70℃以上の熱水が循環している熱水槽の中へ連続的に供給し、溶剤を除去しながら通過させる。このとき熱水槽の前後に配置したローラーの回転速度を変えることで糸条を延伸(以下、「紡糸熱延伸」と略す。)しながら通過させる。
紡糸熱延伸倍率は4.0倍以上が好ましく、より好ましくは4.5倍以上である。紡糸熱延伸倍率が4.0倍以上であれば、アクリル短繊維の引張強さが向上する。紡糸熱延伸倍率の上限値については特に制限されないが、6倍以下が好ましい。
【0024】
ついで、紡糸熱延伸後の糸条を湿式紡糸法で通常行われる方法で、油剤付与、乾燥、捲縮付与、蒸気緩和処理を行い、アクリル短繊維を得る。
なお、アクリル短繊維の単繊維繊度、引張強さは、アクリル短繊維の紡糸条件、例えばアクリロニトリル系共重合体中のアクリロニトリル単位の含有量、紡糸原液の濃度、紡浴の濃度や温度、紡浴滞在時間、紡糸熱延伸倍率等を調整することで調節できる。具体的には、単繊維繊度を大きくするには、紡浴滞在時間を長くしたり、紡糸熱延伸倍率を高くしたりすればよい。また、引張強さを小さくするには、アクリロニトリル単位の含有量を少なくしたり、紡糸原液の濃度、紡浴濃度や紡浴温度を低くしたりすればよい。
【0025】
アクリル繊維糸条は、上述したアクリル短繊維を40〜100質量%含有することが好ましく、より好ましくは70〜100質量%であり、特に好ましくはアクリル短繊維100質量%である。アクリル短繊維の含有量が40質量%以上であれば、得られる編地の保温性や風合い(特に洗濯後の風合い)を良好に維持できる。
アクリル繊維糸条に含まれるアクリル短繊維以外の他の繊維としては、例えばポリエステル、ナイロン、再生セルロース等の繊維が挙げられ、これら他の繊維を編地の使用目的に応じて選択して用いればよい。
アクリル繊維糸条は、短繊維のみから構成されていてもよいし、短繊維と長繊維とから構成されていてもよいが、特に保温性に優れる観点から短繊維のみから構成されることが好ましい。
【0026】
<ポリウレタン弾性繊維>
ポリウレタン弾性繊維は、得られる編地に優れた伸縮性を付与する役割を果たす。
ここで、ポリウレタン弾性繊維とは、通常、一般的に市販されているポリウレタン弾性繊維をいい、引張伸度が100%以上の長繊維であって、ポリウレタン弾性繊維100質量%、またはポリウレタン弾性繊維を芯糸として巻糸にナイロンやポリエステル等の合成繊維の長繊維を用いたものを指す。
【0027】
本発明の編地は、上述したアクリル繊維糸条の繊維径とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比(アクリル繊維糸条の繊維径/ポリウレタン弾性繊維の繊維径)が1.3〜4.0となるような組み合わせで構成されるのが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0である。繊維径の比が1.3以上であれば、十分な保温性を有する編地が得られる。一方、繊維径の比が4.0以下であれば、得られる編地が地厚になりにくく、風合いが良好となる。
なお、アクリル繊維糸条およびポリウレタン弾性繊維の繊維径は、以下のようにして求めることができる。すなわち、それぞれ任意に100本サンプリングした繊維の断面を、Philips社製の走査型電子顕微鏡「XLシリーズ」を用いて撮影して各繊維の繊維径を測定し、その平均値を求める。
【0028】
また、本発明の編地は、アクリル繊維糸条の割合が91〜99質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が1〜9質量%となる構成が好ましい。アクリル繊維糸条の割合が91質量%以上、ポリウレタン弾性繊維の割合が9質量%以下であれば、十分な保温性を有する編地が得られる。一方、アクリル繊維糸条の割合が99質量%以下、ポリウレタン弾性繊維の割合が1質量%以上であれば、十分な伸縮性を有する編地が得られる。各繊維の割合は、アクリル繊維糸条が92〜95質量%、ポリウレタン弾性繊維が5〜8質量%であることが好ましい。
【0029】
以上説明したように、本発明の編地は、曲げ剛性が0.020gf・cm/cm以下となるようにすることにより柔らかい風合いを有する。また、破裂強さが200kPa以上となるようにすることにより寸法安定性に優れると共に、強度も維持できる。さらに、ポリウレタン弾性繊維を含むので、優れた伸縮性をも有する。
【0030】
[編地の製造方法]
本発明の編地の製造方法は、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維とを編成してなる生機をプレセットすることを特徴とする。
【0031】
<編成>
アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維とを編成して得られる生機は、アクリル繊維糸条の繊維径とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比(アクリル繊維糸条の繊維径/ポリウレタン弾性繊維の繊維径)が1.3〜4.0であり、好ましくは2.0〜3.0である。繊維径の比が1.3以上であれば、十分な保温性を有する編地が得られる。一方、繊維径の比が4.0以下であれば、得られる編地が地厚になりにくく、風合いが良好となる。
なお、生機における繊維径の比は、編地における繊維径の比に反映される。
【0032】
また、生機は、アクリル繊維糸条の割合が91〜99質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が1〜9質量%である。アクリル繊維糸条の割合が91質量%以上、ポリウレタン弾性繊維の割合が9質量%以下であれば、十分な保温性を有する編地が得られる。一方、アクリル繊維糸条の割合が99質量%以下、ポリウレタン弾性繊維の割合が1質量%以上であれば、十分な伸縮性を有する編地が得られる。
各繊維の割合は、アクリル繊維糸条が92〜95質量%、ポリウレタン弾性繊維が5〜8質量%であることが好ましい。
なお、生機における各繊維の割合は、編地における各繊維の割合に反映される。
【0033】
生機を編成する方法としては、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維をプレーティングによって編成する方法;ポリウレタン弾性繊維を芯糸にし、アクリル繊維糸条を巻糸とするシングルカバリング糸によって編成する方法;ポリウレタン弾性繊維を芯糸、アクリル繊維糸条を巻糸にし、さらにナイロンやポリエステル等の長繊維あるいはアクリル短繊維等の非伸縮性糸条を巻き付けるダブルカバリング法によって編成する方法;アクリル繊維糸条の紡績中にポリウレタン弾性繊維を芯糸として挿入し、アクリル繊維糸条の中心にポリウレタン弾性繊維を配置するコアスパンヤーンによって編成する方法等が挙げられる。
これらの中でも、編地の外観やコストの面で、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維をプレーティングによって編成する方法、およびアクリル繊維糸条の中心にポリウレタン弾性繊維を配置するコアスパンヤーンによって編成する方法が好ましい。
【0034】
<プレセット>
上述した生機は、プレセットされて編地となる。
プレセット条件は、乾熱処理温度が180〜200℃であり、乾熱処理時間が30〜90秒である。
乾熱処理温度が180℃以上であれば、寸法安定性および収縮特性に優れた編地が得られる。また、得られる編地が地厚になりにくく、柔らかい風合いを有するようになる。一方、乾熱処理温度が200℃以下であれば、アクリル短繊維が物性変化して引張強さが低下するのを抑制でき、得られる編地の破裂強さが低下しにくくなる。
また、乾熱処理時間が30秒以上であれば、寸法安定性および収縮特性に優れた編地が得られる。また、得られる編地が地厚になりにくく、柔らかい風合いを有するようになる。一方、乾熱処理時間が90秒以下であれば、アクリル短繊維が物性変化して引張強さが低下するのを抑制でき、得られる編地の破裂強さが低下しにくくなる。乾熱処理時間は30〜60秒が好ましい。
【0035】
このようにして得られる編地は、曲げ剛性が0.020gf・cm/cm以下、破裂強さが200kPa以上となり、寸法安定性に優れ、柔らかい風合いと強度の両方を兼ね備える。
【0036】
以上説明したように、本発明の編地の製造方法によれば、特定のアクリル短繊維を含むアクリル繊維糸条と、ポリウレタン弾性繊維とを、特定の繊維径の比および割合にて編成した生機をプレセットするので、180℃以上の高温でプレセットしても、得られる編地の風合いが低下しにくい。
また、本発明の編地の製造方法によれば、上述した生機を用いるので、寸歩安定性に優れ、強度を維持した編地が得られる。さらに、ポリウレタン弾性繊維を用いるので、伸縮性に優れた編地が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例において実施した測定方法、評価方法は以下の通りである。
【0038】
<アクリル短繊維の単繊維繊度の測定>
アクリル短繊維の単繊維繊度は、JIS L 1015に準拠して測定した。
【0039】
<アクリル短繊維の引張強さ、および引張強さの低下率の測定>
アクリル短繊維の引張強さは、JIS L 1015に準拠して測定した。この値を乾熱処理前の引張強さ(処理前[S0])とした。
また、引張強さの低下率は以下のようにして求めた。すなわち、アクリル短繊維をヤマト科学株式会社製の電気炉「Muffle Furnace FO300」を使用して、190℃で60秒間乾熱処理した。乾熱処後のアクリル短繊維の引張強さをJIS L 1015に準拠して測定し、これを乾熱処理後の引張強さ(処理後[S1])とした。そして、下記式(1)より引張強さの低下率を算出した。
低下率(%)=(S0−S1)/S0×100 ・・・(1)
【0040】
<繊維径の測定>
アクリル繊維糸条およびポリウレタン弾性繊維の繊維径は以下のようにして求めた。すなわち、それぞれ任意に100本サンプリングした繊維の断面を、Philips社製の走査型電子顕微鏡「XLシリーズ」を用いて撮影して各繊維の繊維径を測定し、その平均値を求めた。
【0041】
<アクリル短繊維の紡糸性の評価>
アクリル短繊維の紡糸性について、以下の評価基準にて評価した。
○:紡糸糸切れ、および繊維同士の接着が発生せず、安定して紡糸できた。
×:紡糸糸切れ、または繊維同士の接着が頻発し、安定して紡糸するのが困難であった。
【0042】
<曲げ剛性の測定>
編地の曲げ剛性は、純曲げ試験機(カトーテック社製、製品名:KES−FB2)を用い、試料(20cm×1cm)を最大曲率±2.5cm−1 の条件で測定した。曲げ剛性は、布1cm幅当りの曲げ剛さであり、1cm幅当りの曲げモーメントM(gf・cm/cm)、曲率K(cm−1 )のとき、Kが0.5〜15の間の平均傾斜dM/dK(gf・cm /cm)で表される。
【0043】
<破裂強さの測定>
編地の破裂強さは、JIS L 1018に記載の破裂強さA法(ミューレン形法)に準拠して測定した。なお、編地の破裂強さは編地の寸法安定性の指標であり、破裂強さが200kPa以上であれば寸法安定性が良好とする。
【0044】
<風合いの評価>
Tシャツに縫製した編地を10名の判定員に着用させ、感触がソフトであると判定した場合を「良好」、ガサガサして硬いと判定した場合を「不良」とし、以下の評価基準にて評価した。
○:判定員全員が「良好」と判定した。
×:10名の判定員のうち、1名以上が「不良」と判定した。
【0045】
<保温性の評価>
Tシャツに縫製した編地を10名の判定員に着用させ、温度20℃、湿度40%RHの環境下で1時間座位にて安静にした後の保温性について官能評価を行い、以下の評価基準にて評価した。
○:判定員全員が「暖かい」と判定した。
×:10名の判定員のうち、1名以上が「寒い」と判定した。
【0046】
[実施例1]
<アクリル短繊維の製造>
アクリロニトリル単位を95質量%、酢酸ビニル単位を5質量%含有するアクリロニトリル系共重合体を、濃度が24質量%になるようにジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液を調製した。
ついで、紡糸原液を丸孔形のノズルから、ジメチルアセトアミド水溶液が充填された紡浴中へ押出して凝固し繊維化した。紡浴のジメチルアセトアミド水溶液の濃度は56質量%、紡浴温度は45℃とし、ノズルから吐出され、紡浴から引き出されるまでの紡浴滞在時間は0.8秒とした。
凝固・繊維化した糸条は、熱水槽へ供給して洗浄しながら、紡糸熱延伸倍率が4.5倍になるように延伸した後、湿式紡糸法で通常行われる方法で、油剤付与、乾燥、捲縮付与、蒸気緩和処理を行った後、繊維をカットし、アクリル短繊維を得た。アクリル短繊維を紡糸する際の紡糸性に問題はなく、安定して紡糸できた。
得られたアクリル短繊維の単繊維繊度は0.8dtex、引張強さ(処理前[S0])は2.5cN/dtex、乾熱処理後の引張強さ(処理後[S1])は2.4cN/dtex、引張強さの低下率は4%であった。
【0047】
<編地の製造>
得られたアクリル短繊維を毛番手で1/60の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用いた。
別途、単繊維繊度22dtexのポリウレタン弾性繊維のモノフィラメントを用意した。
これらアクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比(アクリル繊維糸条の繊維径/ポリウレタン弾性繊維の繊維径)は2.7であった。
アクリル繊維糸条の割合が92質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が8質量%になるように、これら繊維を丸編機に仕掛け、編組織を1:1の平編として編成し、生機を得た。
得られた生機を乾熱処理温度180℃、乾熱処理時間60秒の条件でプレセットし編地を得た。プレセットには、ヤマト科学株式会社製の電気炉「Muffle Furnace FO300」を使用した。
得られた編地は、染色工程としてカチオン染料、緩染剤、均染剤などを用いて98℃で90分間染色した。ついで、脱水および乾燥した後、140℃で60秒間ファイナルセットを行い、Tシャツに縫製した。
得られた編地について、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
[実施例2]
紡糸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル短繊維を紡糸した。
得られたアクリル短繊維を毛番手で1/64の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
[実施例3]
紡糸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル短繊維を紡糸した。
得られたアクリル短繊維を毛番手で1/85の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の割合、およびプレセット条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
[実施例4]
紡糸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル短繊維を紡糸した。
得られたアクリル短繊維を70質量%と、1.0dtexのレーヨン繊維を30質量%用い、毛番手で1/64の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維70質量%)として用いた。
得られたアクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比を表2に示すように変更し、さらに染色工程としてカチオン染料、緩染剤、均染剤などを用いて98℃で90分間染色した後、降温、抜液してから、反応染料、pH調整剤などを用いて60℃で90分間染色した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
[比較例1]
紡糸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル短繊維を紡糸した。
得られたアクリル短繊維を毛番手で1/60の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の割合、およびプレセット条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例2]
紡糸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル短繊維を紡糸した。
得られたアクリル短繊維を毛番手で1/64の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比、およびプレセット条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
[比較例3、4]
紡糸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル短繊維を紡糸したが、紡糸性が不良であり、繊維同士が接着して不良糸が発生し、紡糸糸切れが頻発して安定生産が不可能であった。そのため、編地を製造することができなかった。
【0054】
[比較例5〜7]
紡糸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル短繊維を紡糸した。
得られたアクリル短繊維を毛番手で1/64の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
[比較例8]
実施例1と同様にして紡糸したアクリル短繊維を毛番手で1/140の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の割合、およびプレセット条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
[比較例9]
実施例1と同様にして紡糸したアクリル短繊維を毛番手で1/40の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、11dtexのポリウレタン弾性繊維のモノフィラメントを用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の割合、およびプレセット条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
[比較例10]
実施例1と同様にして紡糸したアクリル短繊維を毛番手で1/140の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、55dtexのポリウレタン弾性繊維のモノフィラメントを用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の割合、およびプレセット条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
[比較例11〜14]
実施例1と同様にして紡糸したアクリル短繊維を毛番手で1/64の紡績糸を紡糸し、これをアクリル繊維糸条(アクリル短繊維100質量%)として用い、アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比、およびプレセット条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして編地を得た。得られた編地について各評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1から明らかなように、各実施例で得られた編地は曲げ剛性が0.020gf・cm/cm以下であり、風合いが良好であった。また、破裂強さが200kPa以上であり、寸法安定性に優れ、かつ強度を維持していることが示唆された。さらに、保温性も良好であった。また、各実施例で得られた編地は、ポリウレタン弾性繊維を含むので、優れた伸縮性をも有していた。
【0062】
一方、単繊維繊度が4.4dtexであるアクリル短繊維を用いた比較例1の編地は、曲げ剛性が0.032gf・cm/cmであり、風合いが悪かった。
引張強さの低下率が25%であるアクリル短繊維を用いた比較例2の編地は、破裂強さが150kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。
引張強さが1.8cN/dtexであるアクリル短繊維を用いた比較例5の編地は、破裂強さが175kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。
引張強さが1.8cN/dtexであり、かつ引張強さの低下率が28%であるアクリル短繊維を用いた比較例6の編地は、破裂強さが160kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。
引張強さが1.9cN/dtexであり、かつ引張強さの低下率が21%であるアクリル短繊維を用いた比較例7の編地は、破裂強さが172kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。
アクリル繊維糸条の割合が45%、ポリウレタン弾性繊維の割合が55質量%となるように編成した比較例8の編地は、破裂強さが180kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。また、保温性も悪かった。
アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比が4.7であった比較例9の編地は、曲げ剛性が0.030gf・cm/cmであり、風合いが悪かった。
アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比が1.1であった比較例10の編地は、破裂強さが182kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。また、保温性も悪かった。
乾熱処理温度140℃でプレセットした比較例11の編地は、曲げ剛性が0.029gf・cm/cmであり、風合いが悪かった。
乾熱処理温度220℃でプレセットした比較例12の編地は、破裂強さが164kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。
乾熱処理時間15秒でプレセットした比較例13の編地は、曲げ剛性が0.030gf・cm/cmであり、風合いが悪かった。
乾熱処理時間180秒でプレセットした比較例14の編地は、破裂強さが179kPaであり、十分な寸法安定性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル繊維糸条とポリウレタン弾性繊維とからなり、曲げ剛性が0.020gf・cm/cm以下、かつ破裂強さが200kPa以上である編地。
【請求項2】
前記アクリル繊維糸条が、単繊維繊度が0.3〜2.2dtex、引張強さが2.0cN/dtex以上、かつアクリロニトリル単位を94質量%以上含むアクリロニトリル系共重合体からなるアクリル短繊維である、請求項1に記載の編地。
【請求項3】
前記アクリル繊維糸条の繊維径と前記ポリウレタン弾性繊維の繊維径の比(アクリル繊維糸条の繊維径/ポリウレタン弾性繊維の繊維径)が1.3〜4.0であり、かつアクリル繊維糸条の割合が91〜99質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が1〜9質量%である、請求項1または2に記載の編地。
【請求項4】
アクリル短繊維を含むアクリル繊維糸条と、ポリウレタン弾性繊維とを編成してなる生機を乾熱処理温度180〜200℃、乾熱処理時間30〜90秒の条件でプレセットする編地の製造方法であって、
前記アクリル短繊維は、単繊維繊度が0.3〜2.2dtex、引張強さが2.0cN/dtex以上、190℃で60秒間乾熱処理したときの引張強さの低下率が20%以下であり、
前記生機は、アクリル繊維糸条の繊維径とポリウレタン弾性繊維の繊維径の比(アクリル繊維糸条の繊維径/ポリウレタン弾性繊維の繊維径)が1.3〜4.0であり、かつ、アクリル繊維糸条の割合が91〜99質量%、ポリウレタン弾性繊維の割合が1〜9質量%である編地の製造方法。

【公開番号】特開2012−67398(P2012−67398A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210769(P2010−210769)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】