説明

編地の接合方法、および編地

【課題】独立して編成される二つの編地のウエール方向端部同士を突き合わせた状態で伏目処理により接合しても、その接合部の伸縮性を十分に確保することができる編地の接合方法を提供する。
【解決手段】第一編地100と第二編地200との境界から両編地100,200の接合を開始するにあたり、第一編地100と第二編地200のそれぞれで伏目P1,P2を形成することを繰り返す。そして、第一編地100における伏目P1の形成と、第二編地200における伏目P2の形成との間に、前後いずれかの針床の空針に掛け目Rを形成し、後に針床から外すことで、第一伏目P1と第二伏目P2との間を繋ぐ糸長を稼ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて、独立して編成された編幅方向に並ぶ二つの編地のウエール方向端部同士を突き合わせた状態で伏目処理により繋ぎ合わせる編地の接合方法、およびその接合方法を適用して得られた編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機で独立して二つの編地を編成し、それら編地のウエール方向端部同士を付き合わせた状態で伏目処理により繋ぎ合わせることが行われている。例えば、図8(A)に示す身頃2と袖3,4を有するセーター1を編成する場合、図8(B)に示すように、衿ぐりの位置まで編成した身頃2と、この身頃2とは独立して編成した衿20と、を接合することがある。その他、図8(C)に示すように、右袖口部30から筒状に編成を開始し、左袖4の端部まで編成すると共に、この編地とは独立して編成した左袖口部40を編成し、これらを接合することもある。これは、一般に、編地の編み出し部の方が、編み終わり部よりも伸縮性に優れるという特性があるため、セーター1のネックホールや袖口を編み出し部により形成したいというニーズがあるからである。
【0003】
独立して編成した二つの編地を伏目処理により接合する技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。この特許文献1の技術では、まず二つの編地の編目同士を重ね合わせ、その2重の重ね目に続く新たな編目を形成する。そして、その新たな編目と、新たな編目の近傍で二つの編地の編目同士を重ねた2重の重ね目と、を重ね合わせ、その3重の重ね目に続く新たな編目を形成することを繰り返す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2538406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、編成に使用する編糸の種類によっては、二つの編地の接合部において十分な伸縮性が得られない恐れがある。それは、上述したように、接合部で3重の編目が形成されることになるからである。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、独立して編成される二つの編地のウエール方向端部同士を突き合わせた状態で伏目処理により接合しても、その接合部の伸縮性を十分に確保することができる編地の接合方法、およびその方法を適用して編成された編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、独立して編成された編幅方向に並ぶ第一編地と第二編地のウエール方向端部同士を突き合わせた状態で伏目処理により繋ぎ合わせる編地の接合方法に係る。そして、本発明編地の接合方法では、第一編地と第二編地との境界から両編地の接合を開始するにあたり、次の[1]、[2]を同一の編糸を利用して交互に繰り返す。
[1]第一編地において前記境界側端部に並ぶ二つの編目のうち、境界側の編目が第一編地に形成される第一伏目となるように、これら二つの編目を重ね合わせ、その重ね目に続いて次の第一伏目となる新たな編目を形成すること。
[2]第二編地において前記境界側端部に並ぶ二つの編目のうち、境界側の編目が第二編地に形成される第二伏目となるように、これら二つの編目を重ね合わせ、その重ね目に続いて次の第二伏目となる新たな編目を形成する。
そして、本発明編地の接合方法では、その繰り返しの過程で第一伏目の形成と第二伏目の形成との間に、前後いずれかの針床の空針に掛け目を形成し、その掛け目を後に針床から外すことで、第一伏目と第二伏目との間を繋ぐ糸長を稼ぐ。
【0008】
本発明編地の接合方法によれば、第一伏目→第二伏目→第一伏目→第二伏目…というように、第一伏目と第二伏目が交互に形成される。また、掛け目の形成は、第一伏目の形成と第二伏目の形成との間に行っても良いし、第二伏目の形成と第一伏目の形成との間に行っても良いし、それら両方の間で行っても良い。一方、掛け目を針床から外す動作は、編成を継続する上で掛け目から延びる編糸が邪魔となるのであればその前に行えば良いし、邪魔とならないのであれば両編地の接合が終了した後に行っても良い。詳しくは、後述する実施形態で説明する。
【0009】
本発明編地の接合方法の一形態として、第一編地と第二編地との接合に弾性糸を用いることが好ましい。当該接合には弾性糸のみを用いても良いし、弾性糸と通常の編糸とを引き揃えたものを用いても良い。
【0010】
本発明編地の接合方法の一形態として、第一伏目と第二伏目を裏目としても良い。その場合、繰り返しの過程で、第一伏目または第二伏目を形成した後、次の伏目を形成する前に、給糸口を移動させることで、先に形成した伏目から給糸口に延びる編糸を、その先に形成した伏目(裏目)の表側に交差させてから次の伏目を形成することが好ましい。具体的には、繰り返しの過程で以下の工程を行うと良い。
[工程A]給糸口を第二編地の側に逃がした状態としてから、第一編地が係止される針床に対向する針床で、第一編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる。
[工程B]第二編地の側に逃がしておいた給糸口を第一編地の側に向かって、工程Aで形成した重ね目を超える位置まで移動させ、再び給糸口を第二編地の側に向かって移動させる間に重ね目に続く第一伏目を形成する。
[工程C]給糸口を第二編地の側に配置したまま、第二編地が係止される針床に対向する針床で、第二編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる。
[工程D]給糸口を第一編地の側に向かって移動させる間に工程Cで形成した重ね目に続く第二伏目を形成する。
【0011】
なお、裏目は、一方の針床(例えば、前針床とする)に係止される旧編目を他方の針床(後針床)に目移しして、この旧編目にニットすることで形成される。この形成された新たな編目を前針床側から見れば、前針床側から後針床側に向かって旧編目から引き出される裏目となる。本明細書における「裏目の表側」は、上記例の場合、新たに形成される編目(裏目)よりも前針床側のことである。
【0012】
本発明編地の接合方法の一形態として、第一伏目と第二伏目を表目としても良い。その場合、繰り返しの過程で、第一伏目または第二伏目を形成した後、次の伏目を形成する前に、給糸口を移動させることで、先に形成した伏目から給糸口に延びる編糸を、その先に形成した伏目(表目)の裏側に交差させてから次の伏目を形成することが好ましい。具体的には、繰り返しの過程で以下の工程を行うと良い。
[工程A´]給糸口を第二編地の側に逃がした状態としてから、第一編地が係止される針床で、第一編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる。
[工程B´]第二編地の側に逃がしておいた給糸口を第一編地の側に向かって、工程A´で形成した重ね目を超える位置まで移動させ、再び給糸口を第二編地の側に向かって移動させる間に重ね目に続く第一伏目を形成する。
[工程C´]給糸口を第一編地の側に向かって移動させ、給糸口を第一編地の側に逃がした状態としてから、第二編地が係止される針床で、第二編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる。
[工程D´]給糸口を第一編地の側に向かって、工程C´で形成した重ね目を超える位置まで移動させ、再び給糸口を第二編地の側に向かって移動させる間に重ね目に続く第二伏目を形成する。
【0013】
ここで、「表目」および「表目の裏側」の意味は、既述の「裏目」および「裏目の表側」と逆の考え方をすれば良い。
【0014】
また、本発明編地は、少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて編成された編地であって、独立して編成された編地からなる第一編地部および第二編地部と、両編地部を伏目処理にて接合する伏目処理部と、を備える。この本発明編地の伏目処理部は、同じ編糸で交互に連続して形成される第一伏目と第二伏目とからなる。第一伏目は、第一編地のウエール方向端部の編目に重ねられ、第二伏目は、第二編地のウエール方向端部の編目に重ねられる。そして、本発明編地では、第一伏目と第二伏目とを繋ぐ渡り糸により第一編地部と第二編地部のウエール方向端部同士が突き合わせた状態で接合されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明編地の編成方法によれば、第一編地のウエール方向端部と第二編地のウエール方向端部とに交互に形成される伏目同士を繋ぐ渡り糸で、第一編地と第二編地とが接合された本発明編地を編成することができる。このような構成の本発明編地を編地のウエール方向に引っ張った場合、第一編地に形成される第一伏目と第二編地に形成される第二伏目が変形し、両伏目から渡り糸に向かって編糸が繰り出され、第一編地と第二編地との接合部である伏目処理部が伸びる。そのため、本発明編地における伏目処理部は、従来の伏目処理部よりも優れた伸縮性を発揮する。さらに、本発明編地の編成方法では、一方の伏目の形成から他方の伏目の形成までの間に掛け目を設け、後にその掛け目を針床から外すことで、伏目間を繋ぐ渡り糸の糸長を稼いでいる。渡り糸の糸長を稼ぐことで、両伏目が変形した際に、渡り糸に向かって十分な長さの編糸を繰り出せる大きさに第一伏目と第二伏目を形成できる。
【0016】
ここで、第一編地と第二編地との接合に弾性糸を利用すれば、第一伏目と第二伏目の間で糸長を稼いでも、弾性糸の伸縮性により伏目処理部において孔が空くことを防止できる。また、弾性糸自身の伸縮性により、伏目処理部の伸縮性を向上させることもできる。
【0017】
また、本発明編地の接合方法において、第一伏目と第二伏目を裏目とすると共に、それら伏目を繋ぐ編糸を伏目の表側に交差させることで、当該伏目からなる伏目処理部を編地の表側から見え難くすることができる。この伏目処理部を編地の表側から見ると、繋ぎ目がなく編成されたように見えるので、非常に見栄えが良い。特に、上記工程A〜Dを行うことで、伏目同士を繋ぐ渡り糸を、編地の表側で編目のように見せることができる。
【0018】
また、本発明編地の接合方法において、第一伏目と第二伏目を表目とすると共に、それら伏目を繋ぐ編糸を伏目の裏側に交差させることで、当該伏目を編地の表側に整列させた伏目処理部を形成することができる。この伏目処理部は、編地のデザインとして利用することができる。特に、上記工程A´〜D´を行うことで、編地の表側に配置される伏目処理部の見栄えを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る編地の接合手順を示す模式図である。
【図2】第一実施形態に示す接合工程の第一部分を示す編成工程図である。
【図3】第一実施形態に示す接合工程の第二部分を示す編成工程図である。
【図4】第一実施形態に示す接合工程の第三部分を示す編成工程図である。
【図5】第一実施形態に示す接合工程で接合した編地における伏目処理部の拡大ループ図である。
【図6】第二実施形態に示す接合工程の前半部分を示す編成工程図である。
【図7】第二実施形態に示す接合工程の後半部分を示す編成工程図である。
【図8】(A)は、独立して編成した編地を接合することで得られるセーターの概略図、(B)は独立して編成した身頃と衿部とを接合する手順を模式的に示す説明図、(C)は独立して編成した身頃と袖口部とを接合する手順を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明編地の接合方法の一例として、図8(B)に示すように、身頃2と衿部20とを独立して編成し、身頃2の首周りの開口部と、図面上の上方側にある衿部20の開口部とを伏目処理により接合する手順を説明する。これらの実施形態に記載の編成はいずれも、左右方向に延び、かつ前後方向に互いに対向する前後一対の針床を有し、後針床が左右にラッキング可能な2枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。もちろん、使用する横編機は4枚ベッド横編機であっても良い。
【0021】
図1には、身頃2の前側編地部の編目A〜Fと、衿部20の前側編地部の編目α〜ζとが前針床(以下、FB)に係止され、身頃2の後側編地部の編目G〜Lと衿部20の後側編地部の編目η〜μとが後針床(以下、BB)に係止される様子が示されている。身頃2と衿部20とは別々の給糸口から給糸される通常の編糸が編成される。この状態から、身頃2と衿部20の前編地部同士を身頃2や衿部20で使用した給糸口とは別の給糸口から給糸される弾性糸により接合すると共に、その給糸口とは異なる給糸口から給糸される弾性糸により身頃2と衿部20の後編地部同士を接合する。接合の順番は、丸の中に示される数字の順番に従う。なお、図1中の『P+数字』、『Q+数字』は、重ね目に続いて新たに形成される編目を示す。
【0022】
身頃2と衿部20との接合手順を具体的に説明すると、まず身頃2の編目Aと衿部20の編目αとを重ね合わせ、その重ね目に続いて編目P0を新たに形成する。次に、身頃2の編目Gと衿部20の編目ηとを重ね合わせ、その重ね目に続いて編目Q0を新たに形成する。以降は、編目βと編目γとからなる重ね目に編目P1を形成する、編目Hと編目Iとからなる重ね目に編目Q1を形成する、編目P0と編目Bとからなる重ね目に編目P2を形成する、というように丸囲みの数字に従って身頃2と衿部20とを接合していく。
【0023】
図1を用いて説明したように、FBにおける編地同士の接合工程とBBにおける編地同士の接合工程とは、交互に行われるものの、独立した給糸口を用いて行われる独立した接合工程であり、両接合工程は全く同様の接合工程である。そこで、以下の実施形態1および2では、代表してFBに係止される二つの編地同士を接合する接合工程を説明する。
【0024】
[第一実施形態]
第一実施形態では、FBの編幅方向に隣接して係止される編目α〜ζからなる衿部20の前側編地(以下、第一編地100とする)と、編目A〜Fからなる身頃2の前側編地(以下、第二編地200とする)とを、裏目からなる伏目により接合する例を図1〜3に基づいて説明する。図2〜3の「S+数字」は編成工程の番号を、矢印は給糸口の移動方向や目移しの方向を、「K」は給糸口の移動に伴いニットを行うことを示す。また、図中の○は針床に係止される編目を、V字は掛け目を、●は各編成工程において編成される編目を、◎は重ね目を、▼は給糸口を、×は掛け目を針床から外すことを意味する。また、図中の重ね目に対する符合は、『A/α』のように表す。この場合、編目AがBB側に、編目αがFB側となるように重ねられた重ね目を示す。なお、説明の便宜上、編地は天竺とした。
【0025】
図2のS1には、第一編地100の編目α〜ζと、第二編地200の編目A〜FとがFBに係止された状態が示されている。このS1における編地100,200の境界の位置を、S1を含む以降の工程図において太線で示す。
【0026】
S1の状態からS2,S3により第一編地100と第二編地200との接合を開始する。なお、S2,S3の接合開始部分の編成は、S4以降に示す本発明編地の接合方法とは若干異なる工程である。
【0027】
まずS2では、第二編地の編目AをBBに目移しした後、第一編地の編目α〜ζをBBに目移しすることで、第二編地200の編目Aと第一編地100の編目αとを重ね合わせる。そして、S3では、給糸口を紙面左側に移動させる間に、S2で形成した重ね目A/αに続く新たな編目P0を形成する(S3)。編目P0は、BBで編成されるので裏目となる。
【0028】
続いて、本発明編地の接合方法に従うS4以降の編地の接合方法により、第一編地100と第二編地200とを、両編地100,200の境界側から接合していく。境界側では両編地100,200の編目が針床から外れていくので、適宜BBをラッキングして、両編地100,200の境界側端部の距離が離れすぎないようにする。
【0029】
S4では、BBを紙面左方向にラッキングして、S3で形成した編目P0をFBの編目Bの隣に目移しすると共に、第一編地100と第二編地200との境界側端部に並ぶ第一編地100の編目β,γのうち、境界側にある編目βが第一伏目となるように編目βと編目γとをBB上で重ね合わせる。このとき、給糸口は第二編地200の側に退避しているので、編目βと編目γとの間に給糸口から延びる編糸が挟み込まれることがない。このS4は、本発明工程Aに相当する。
【0030】
S5では給糸口を紙面右方向の第一編地100の側に向かって、重ね目β/γを超える位置まで移動させる。S5に続いて、S6では給糸口を紙面左方向の第二編地200に向かって移動させる間に、重ね目β/γに続く新たな編目P1を形成する。この編目P1はBBで形成されるため、裏目となる。またS6では、編目P1から二針分だけ第二編地200の側にあるBBの空針に掛け目Rを形成する。掛け目Rを形成する位置は、図中の点線のV字で示すように編目P1から一針〜六針分離れた位置であればどこでも良い。なお、S5,S6は、本発明工程Bに相当する。
【0031】
続くS7では、P1をFBに目移し、S8では、給糸口を第二編地200の側に残したまま、第二編地200における第一編地100と第二編地200との境界側端部に並ぶ編目P0,Bのうち、境界側にある編目P0が第二伏目となるように、BBにおいて編目P0と編目Bとを重ね合わせる。その際、BBを紙面左方向にラッキングして、編目P0をBBに目移ししてから、編目Bを編目P0に重ね合わせる。そしてS9では、給糸口を紙面右方向の第一編地100に向かって移動させる間にS8で形成した重ね目P0/Bに続く新たな編目P2を形成し、S10では、S6で形成した掛け目RをBBから外す。なお、S7,S8は、本発明工程Cに、S9は本発明工程Dに相当する。
【0032】
ここで、S6で掛け目Rを形成し、S10でその掛け目Rを針床から外すことによって、編目P1と編目P2とを繋ぐ編糸の糸長を稼ぐことができる。後述するように、S6で掛け目Rを形成する位置によって、第一伏目と第二伏目との間を繋ぐ編糸の長さを変化させることができる。なお、掛け目Rは、後述する工程の邪魔とならない位置にあるため、必ずしもS10で針床から外す必要はなく、第一編地100と第二編地200との接合が終了した後に針床から外してもかまわない。本実施形態のS10で掛け目Rを針床から外しているのは、接合過程での不慮の編糸の巻き込みを確実に防止するために過ぎない。
【0033】
以降、S4〜S10で示した接合の手順を踏襲したS11〜S17に示す接合工程を実施することで、第一編地100と第二編地200とを接合することができる。以下、簡単にS11〜S17の編成を説明する。
【0034】
S11では、S9で形成した編目P2をFBの編目Cの隣に戻すと共に、S6で形成した編目P1を新たな第一伏目と規定して、BB上で編目P1と編目δと重ね合わせる。続く、S12では、その重ね目P1/δを超える位置まで給糸口を第一編地100の側に移動させておく。そして、S13では、給糸口を第二編地200の側に移動させる間に、重ね目P1/δに続く新たな編目P3を形成すると共に、その編目P3から第二編地200の側に三針分離れたBBの空針に掛け目Rを形成する。
【0035】
続くS14では、S13で形成した編目P3をFBに目移しし、S15では、給糸口を第二編地200の側に残したまま、S9で形成した編目P2を新たな第二伏目と規定して、BB上で編目P2と編目Cとを重ね合わせる。そして、S16で重ね目P2/Cに続く新たな編目P4を形成し、S17で掛け目Rを針床から外す。
【0036】
S17以降は、S13で重ね目P1/δに形成した編目P3を次の第一伏目とすると共に、S16で重ね目P2/Cに形成した編目P4を次の第二伏目として、第一編地100と第二編地200との接合を行えば良い。その結果として得られる編地のループ図を、図5に示す。
【0037】
図5に示すループ図から分かるように、第一実施形態の編地では、第一編地100と第二編地200のウエール方向端部に交互に形成される伏目P1〜P4を有する伏目処理部5により、第一編地100と第二編地200とが接合されている。伏目処理部5における第一伏目P1,P3と第二伏目P2,P4とは一連の編糸からなるため、第一伏目P1,P3と第二伏目P2,P4とは渡り糸で繋がれている。このように第一伏目P1,P3と第二伏目P2,P4とが直接渡り糸で繋がれていることにより、伏目処理部5の伸縮性が確保されている。当該伸縮性は、渡り糸の糸長に応じて変化する。図2〜4を参照する本実施形態の接合工程では、図5中の黒塗り矢印で示す第一伏目P1(P3)と第二伏目P2(P4)との間で糸長を稼いでいる。
【0038】
また、本実施形態の伏目P1〜P4は、裏目として編地2,20の裏側(紙面奥側)に配置されているため、編地の表側から見たときに伏目P1〜P4が見えず、伏目処理部5の見栄えが良い。さらに、本実施形態における伏目同士を繋ぐ渡り糸は、編地2,20を表側から見たときに、伏目P1〜P4よりも表側に配置されている。そのため、当該渡り糸が編目のように見えるので、伏目処理部5の見栄えが良い。
【0039】
[変形実施形態]
第一実施形態では、第一伏目P1を形成した後、第二伏目P2を形成する間に、掛け目Rにより渡り糸の糸長を稼いだ。これに対して、図5の白抜き矢印に示すように、第二伏目P2を形成した後、次の第一伏目P3を形成する間に、掛け目Rにより渡り糸の糸長を稼いでも良い。その場合、例えば図3のS5(図4のS12)で給糸口を紙面右方向に移動させる間にFBの空針に掛け目を形成し、図3のS7やS8(図4のS14やS15)で掛け目を針床から外せば良い。その他、図3のS5(図4のS12)ではなくS6(図4のS13)で給糸口を紙面左方向に移動させるときに、編目P1の編成前にFBの空針に掛け目Rを形成しても良い。その場合、掛け目Rは捻られることになるが、その掛け目Rは後工程で針床から外されるため、捻られた掛け目Rであっても何ら問題ない。
【0040】
[第二実施形態]
第二実施形態では、表目からなる伏目により第一編地と第二編地とを繋ぐ編地の接合方法を図6,7に基づいて説明する。なお、第一実施形態では、第一編地の編目と第二編地の編目とを重ね合わせて両編地の接合を開始したが、第二実施形態では、本発明編地の接合方法を利用して第一編地の境界側端部の2目を重ね合わせると共に、第二編地の境界側端部の2目を重ね合わせて、両編地の接合を開始する。そのため、本実施形態では、紙面左側の編目A〜Fを第一編地100とし、紙面右側の編目α〜ζを第二編地200として説明を行う。
【0041】
T1には、第一編地100のウエール方向端部の編目A〜Fと、第二編地200のウエール方向端部の編目α〜ζとがFBに係止された状態が示されている。この状態から、T2では編目α〜ζを対向するBBに目移しする。そしてT3では、給糸口を第二編地200の側に逃がした状態としてから、第一編地100の編目Aを対向するBBに目移しする。
【0042】
続くT4では、BBを紙面左方向にラッキングして、T3でBBに目移しした編目AをFBの編目Bに重ね合わせた後、給糸口を紙面左方向の第一編地100の側に移動させる間にBBの空針に掛け目Rを形成する。そして、T5では、給糸口を紙面右方向の第二編地200の側に移動させる間に、T4で形成した重ね目B/Aに続く編目P1を新たに形成し、給糸口を第一編地100の側に反転させる。ここで、T3とT4の前半部分は、本発明工程A´に、T4の後半部分とT5の前半部分は、本発明工程B´に相当する。
【0043】
図7のT6では、第二編地200の編目αをFBに戻し、T7では、BBを紙面左方向にラッキングして、その編目αに編目βを重ね合わせた後、給糸口を紙面右方向の第二編地200の側に移動させる。そして、T8では、給糸口を紙面左方向の第一編地100の側に移動させる間に、T7で形成した重ね目β/αに続く新たな編目P2を形成し、給糸口を第二編地200の側に反転させる。給糸口を反転させる際、掛け目Rを針床から外しておく。ここで、T5後半部分とT6とT7の前半部分は、本発明工程C´に、T7の後半部分とT8の前半部分は、本発明工程D´に相当する。
【0044】
次いで、T9では、FBの編目C,P1,P2を対向するBBに目移し、T10でBBを紙面左方向にラッキングしてから編目P1,P2をFBに戻し、そしてT11で編目Cを編目P1に重ね合わせる。T11ではさらに、給糸口を紙面左方向の第一編地100の側に移動させる間に、BBの空針に掛け目Rを形成する。
【0045】
最後に、T12では、給糸口を紙面右方向の第二編地200の側に移動させる間に、重ね目C/P1に続く新たな編目P3を形成し、その後、給糸口を反転させて、第一編地100の側に逃がしておく。このT12の編目と給糸口の配置状態を見ると、T6の状態から両編地100,200の境界の編目が1目ずつ減った状態と同様の状態になっている。従って、以降はT7〜T12と同様の工程で第一編地100と第二編地200の接合を接合していけば良い。
【0046】
以上説明した第二実施形態の接合工程によれば、図5を参照した第一実施形態のループ図を裏側から見たような伏目処理部により第一編地100と第二編地200とを接合することができる。そのため、第二実施形態の編地も、第一実施形態の編地と同様に、伸縮性に優れた伏目処理部により両編地100,200が接合された編地となる。ここで、第二実施形態における伏目処理部では、編地の表側に伏目が整列することになるので、それら伏目を編地のデザインとして利用すると良い。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、伏目処理部5の形成は、弾性糸と通常の編糸とを引き揃えたものであっても良い。また、接合する第一編地と第二編地はリブ組織であっても良い。
【符号の説明】
【0048】
FB 前針床 BB 後針床
A〜L,α〜μ,P0〜P8,Q0〜Q7 編目
R 掛け目
100 第一編地
200 第二編地
1 セーター
2 身頃 20 衿部
3 右袖 30 右袖口部
4 左袖 40 左袖口部
5 伏目処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、独立して編成された編幅方向に並ぶ第一編地と第二編地のウエール方向端部同士を突き合わせた状態で伏目処理により繋ぎ合わせる編地の接合方法であって、
第一編地と第二編地との境界から両編地の接合を開始するにあたり、
第一編地において前記境界側端部に並ぶ二つの編目のうち、境界側の編目が第一編地に形成される第一伏目となるように、これら二つの編目を重ね合わせ、その重ね目に続いて次の第一伏目となる新たな編目を形成することと、
第二編地において前記境界側端部に並ぶ二つの編目のうち、境界側の編目が第二編地に形成される第二伏目となるように、これら二つの編目を重ね合わせ、その重ね目に続いて次の第二伏目となる新たな編目を形成することと、
を同一の編糸を利用して交互に繰り返し、
その繰り返しの過程で第一伏目の形成と第二伏目の形成との間に、前後いずれかの針床の空針に掛け目を形成し、その掛け目を後に針床から外すことで、第一伏目と第二伏目との間を繋ぐ糸長を稼ぐことを特徴とする編地の接合方法。
【請求項2】
第一編地と第二編地との接合に弾性糸を用いることを特徴とする請求項1に記載の編地の接合方法。
【請求項3】
前記繰り返しの過程で、第一伏目と第二伏目を裏目として形成すると共に、
第一伏目または第二伏目を形成した後、次の伏目を形成する前に、給糸口を移動させることで、先に形成した伏目から給糸口に延びる編糸を、その先に形成した伏目の表側に交差させてから次の伏目を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の編地の接合方法。
【請求項4】
前記繰り返しの過程は、
給糸口を第二編地の側に逃がした状態としてから、第一編地が係止される針床に対向する針床で、第一編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる工程Aと、
第二編地の側に逃がしておいた給糸口を第一編地の側に向かって、工程Aで形成した重ね目を超える位置まで移動させ、再び給糸口を第二編地の側に向かって移動させる間に重ね目に続く第一伏目を形成する工程Bと、
給糸口を第二編地の側に配置したまま、第二編地が係止される針床に対向する針床で、第二編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる工程Cと、
給糸口を第一編地の側に向かって移動させる間に工程Cで形成した重ね目に続く第二伏目を形成する工程Dと、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の編地の接合方法。
【請求項5】
前記繰り返しの過程で、第一伏目と第二伏目を表目として形成すると共に、
第一伏目または第二伏目を形成した後、次の伏目を形成する前に、給糸口を移動させることで、先に形成した伏目から給糸口に延びる編糸を、その先に形成した伏目の裏側に交差させてから次の伏目を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の編地の接合方法。
【請求項6】
前記繰り返しの過程は、
給糸口を第二編地の側に逃がした状態としてから、第一編地が係止される針床で、第一編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる工程A´と、
第二編地の側に逃がしておいた給糸口を第一編地の側に向かって、工程A´で形成した重ね目を超える位置まで移動させ、再び給糸口を第二編地の側に向かって移動させる間に重ね目に続く第一伏目を形成する工程B´と、
給糸口を第一編地の側に向かって移動させ、給糸口を第一編地の側に逃がした状態としてから、第二編地が係止される針床で、第二編地における前記境界側端部の二つの編目を重ね合わせる工程C´と、
給糸口を第一編地の側に向かって、工程C´で形成した重ね目を超える位置まで移動させ、再び給糸口を第二編地の側に向かって移動させる間に重ね目に続く第二伏目を形成する工程D´と、
を備えることを特徴とする請求項5に記載の編地の接合方法。
【請求項7】
少なくとも前後一対の針床を有し、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて編成された編地であって、
独立して編成された編地からなる第一編地部および第二編地部と、
両編地部を伏目処理にて接合する伏目処理部と、を備え、
前記伏目処理部は、同じ編糸で交互に連続して形成される第一伏目と第二伏目とからなり、
前記第一伏目は、第一編地のウエール方向端部の編目に重ねられ、
前記第二伏目は、第二編地のウエール方向端部の編目に重ねられ、
第一伏目と第二伏目とを繋ぐ渡り糸により第一編地部と第二編地部のウエール方向端部同士が突き合わせた状態で接合されていることを特徴とする編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−117175(P2012−117175A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269034(P2010−269034)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】