説明

編地の編成方法、および編地

【課題】増し目の形成箇所近傍に孔が空き難くい編地を編成できる編地の編成方法、およびその編地の編成方法により編成された箇所を有する編地を提供する。
【解決手段】編地の編幅方向に新規編目列の最初の編目が形成される側を始端側LS、その反対側を形成側RSとしたとき、次の工程αと工程βとを行なう。工程αでは、既存編目列を構成する編目の一つである対象編目11よりも形成側RSにある空針に、新規編目列を構成する増し目31を形成する。工程βでは、工程αの後に、対象編目11のウエール方向に続いて、新規編目列を構成する新規編目16を形成する。さらに、工程βの後に、新規編目列を構成する次の編目(増し目32)を形成する際は、新規編目16から給糸口に伸びる編糸を、新規編目列16が引き出される側と同じ側に横切らせてから増し目32を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて、針床に係止される既存編目列に続いて、増し目を含む新規編目列をウエール方向に編成するための編地の編成方法、およびその方法を適用して編成された箇所を有する編地に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機で編地を編成する途中で、編幅方向に並ぶ編目の数を増やすために、増し目を形成する場合がある。このような増し目を形成する方法として、針床に係止される既存編目列の編成領域内の空針に掛け目からなる増し目を形成し、この増し目の分だけ編目の数を増加させる編地の編成方法が知られている。しかし、この編成方法では、前コースの編目が存在しない空針に増し目を形成しているため、その増し目形成箇所に大きな孔が発生し易い。その問題を解決する一手段として、割増やしにより増し目を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2604653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、割増やしを利用しても、例えば、編幅方向に隣接する編目の間に空針を設けた針抜き編成を行なう場合や、通常よりも細い編糸を利用した場合に、増し目の形成箇所に孔が発生してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、増し目の形成箇所近傍に孔が空き難い編地を編成できる編地の編成方法、およびその編地の編成方法により編成された箇所を有する編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明編地の編成方法は、少なくとも前後一対の針床と、これら針床に編糸を給糸する給糸口と、を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、針床に係止される既存編目列に続いて、増し目を含む新規編目列をウエール方向に編成するための編地の編成方法である。この本発明編地の編成方法は、編地の編幅方向に前記新規編目列の最初の編目が形成される側を始端側、その反対側を形成側としたとき、次の工程αと工程βとを備える。
[工程α]…前記既存編目列を構成する編目の一つである対象編目よりも前記形成側にある空針に、前記新規編目列を構成する増し目を形成する。
[工程β]…前記工程αの後に、前記対象編目に続いて、前記新規編目列を構成する新規編目をウエール方向に形成する。
さらに、本発明編地の編成方法では、前記工程βの後に、前記新規編目列を構成する次の編目を形成する際は、前記新規編目から給糸口に伸びる編糸を、前記新規編目列が前記対象編目から引き出される側と同じ側に横切らせてから前記次の編目を形成する。
【0007】
ここで、新規編目から給糸口に伸びる編糸の状態を、後述する図3のループ図を参照して説明すると、対象編目11に続いて形成される新規編目16は対象編目11に対して紙面手前側から奥側に向かって引き出されているので、新規編目16から伸びる編糸は、新規編目16の紙面奥側に横切らせる。
【0008】
本発明編地の編成方法における新規編目と増し目は、給糸口を形成側に移動させたときに形成しても良いし、給糸口を始端側に移動させたときに形成しても良い。また、対象編目に続いて形成される新規編目は、表目であっても裏目であっても良い。ここでいう表目(裏目)は、編地を表面側から見たとき表目(裏目)となる編目である。例えば、編地を表面側から見たときに新規編目が表目となる場合、その新規編目は編地の裏面側から表面側に向かって引き出される。
【0009】
本発明編地の編成方法における工程α,βを一組とする編成は、新規編目列を形成する際に1回だけ行なっても良いし、断続的に複数回行なっても良いし、連続的に複数回行なっても良い。工程α,βを複数回連続して行なう場合、n−1回目の工程βで形成する新規編目の次に編成される編目は、n回目の工程αで形成する増し目となる(nは2以上の自然数)。一方、工程α,βを1回、もしくは断続的に複数回行なう場合、工程βの次に編成される編目は、増し目ではなく、既存編目列のウエール方向に連続する編目となる。
【0010】
本発明編地の編成方法の一形態として、使用される横編機は、前後一対の針床を備える2枚ベッド横編機であり、前記既存編目列は、針抜き編成によって編成されている形態とすることができる。
【0011】
本発明編地の編成方法の一形態として、前記工程α,βを一組とする編成をn回連続して行なう場合、n(n≧2)回目の工程αを行なう際、n−1回目に形成した新規編目から給糸口に伸びる編糸を、n回目の工程αにおける対象編目の表側と裏側のうち、n−1回目の新規編目がn−1回目の対象編目から引き出される側と同じ側に横切らせてから、n回目の工程αを行なうことが好ましい。例えば、後述する図2の編成工程図を参照して説明すると、S2に示すように、1回目(n−1;n=2)の新規編目16は後針床(BB)で編成されるため、新規編目16は、対象編目11(S1参照)の前針床(FB)側からBB側に引き出される。その場合、S3に示すように、新規編目16から給糸口に伸びる編糸をBB側に横切らせてから、S4に示すように、2回目(n−1;n=3)の増し目32を形成する。
【0012】
本発明編地の編成方法の一形態として、前記対象編目のウエール方向に前記新規編目を形成したときに、その新規編目が裏目となる針床を裏目針床とすると、前記新規編目は、前記裏目針床で給糸口を前記始端側に移動させたときに編成し、前記増し目は、前記裏目針床もしくはそれに対向する針床で給糸口を前記始端側に移動させたときに編成することが好ましい。
【0013】
一方、本発明編地は、既存編目列と、増し目を含む編目列であり、かつ前記既存編目列のウエール方向に続く新規編目列と、を備え、少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて編成された編地である。この本発明編地では、編地の編幅方向に、前記新規編目列の最初の編目が形成される側を始端側、その反対側を形成側としたとき、前記増し目の次に形成される編目であり、前記新規編目列を構成する第一編目は、前記増し目よりも始端側にあり、前記第一編目の次に形成される編目であり、前記新規編目列を構成する第二編目は、前記増し目よりも形成側にある。そして、前記第一編目から前記第二編目に繋がる編糸は、前記第一編目が前記既存編目列の編目から引き出される側と同じ側で前記第一編目に交差していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明編地の編成方法によれば、増し目と、増し目の次に形成される第一編目(本発明編地の編成方法における新規編目)と、第一編目の次に形成される第二編目と、を備える本発明編地を編成することができる。この本発明編地を後述する図3のループ図を参照して説明すると、既存編目列の編目(図3では対象編目11,12)に続いて第一編目(図3では新規編目16)と第二編目(図3では増し目32)が形成され、かつ第一編目16と第二編目32とを繋ぐ編糸が、第一編目16が対象編目11から引き出される側(図3では紙面裏側)と同じ側で第一編目16に交差していることがわかる。そして、このような配置関係に各編目が配置されると、第一編目16と第二編目32とを繋ぐ編糸が対象編目11(第一編目16がウエール方向に連続して形成される既存編目列の編目)に巻き付いた状態になる。このように対象編目11に巻き付いた編糸は、編地を編幅方向に引っ張ったときに、増し目(図3では増し目31)近傍における編地の編幅方向の伸びを拘束する。その結果、本発明編地は、増し目の形成箇所近傍に孔が空き難く、当該箇所の見栄えの良い編地となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は実施形態に記載されるカーディガン(編地)の概略図、(B)は(A)のB−B断面図である。
【図2】実施形態に記載の編地の編成方法に係る編成工程図である。
【図3】図2の編成工程図に従って編成された編地の増し目近傍のループ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明編地の編成方法を適用してポケット付きカーディガン(編地)を一本置きの編針を用いた針抜き編成により編成する例を図1〜3に基づいて説明する。この実施形態で用いられる横編機は、左右方向に延び、かつ前後方向に互いに対向する前後一対の針床を有し、後針床が左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目を目移しできる2枚ベッド横編機である。この横編機はそのキャリッジに複数のカムシステムを備えており、キャリッジの一回の移動により複数の編成動作を行なうことができる。もちろん、編成に使用する横編機は4枚ベッド横編機であっても良い。
【0017】
図1(A)に示す本実施形態のカーディガン10では、前編地部1Fと後編地部1Bとからなる筒状の身頃1のうち、前編地部1Fの表面にポケット編地部2Fが無縫製で接合されている。このポケット編地部2Fは、図1(B)のB−B断面図に示すように、前編地部1Fの編幅内に形成される分岐部3から編出される。以下、図2を参照しつつ、前編地部1Fに分岐部3を形成するための編成手順を説明する。
【0018】
図2は、前編地部1Fに分岐部3を形成するための編成工程図である。この図2の左欄に記載される「S+数字」は編成工程の番号を、右欄に記載される左右方向の矢印は給糸口の移動方向を、上下方向の矢印は目移しの方向を示す(『K』が付く矢印は給糸口の移動と共に編成を行なうことを示す)。右欄の編成動作は、紙面左側にあるものが先に行なわれる。また、実際の編成状態が示される中欄の○は針床に係止される編目を、●は各編成工程において編成される編目を、V字は掛け目を、▼は給糸口を示し、各編成工程で行なわれる動作は太線で示す。さらに、図2では、編幅方向に沿った紙面右側を「形成側RS」、紙面左側を「始端側LS」と呼ぶ。なお、図2では、説明の便宜上、編目の数を実際よりも少なくしており、前編地部1Fの大部分と、後編地部1Bの図示を省略している。
【0019】
図2のS0には、前針床(以下、FB)の編針A,C,E,G,Iに前編地部(既存編目列)1Fの編目が係止された状態が示されている。このS0の状態から、FBの編針B,D,F,Hに増し目からなる分岐部3を形成する。
【0020】
S1では、まず前編地部1Fを構成する編目の一つである対象編目11よりも形成側RSの位置に給糸口を移動させた後、対象編目11をFBの編針AからBBの編針Aに目移しする。
【0021】
S2では、給糸口を始端側LSに移動させ、FBの編針Bに掛け目(増し目)31を形成し(1回目(n−1;n=2)の工程α)、次いでBBの編針Aに係止される対象編目11に続く新規編目16を形成する(1回目(n−1;n=2)の工程β)。新規編目16は、編地を表面側から見たときに裏目となる。
【0022】
S3では、S2において形成した新規編目16をBBの編針Aに目移しした後、前編地部1Fを構成する対象編目12よりも形成側RSの位置に給糸口を移動させる。そうすることで、新規編目16から給糸口に伸びる編糸を、新規編目16が引き出される側と同じ側(即ち、図1におけるカーディガン10の裏側)に横切らせることができる。
【0023】
さらにS3では、給糸口の移動の後に、FBの編針Cに係止される対象編目12をBBの編針Cに目移しする。そうすることで、新規編目16から給糸口に伸びる編糸を、対象編目12の表側(ここではFB側)と裏側(ここではBB側)のうち、新規編目16が対象編目11から引き出される側と同じ側(即ち、BB側であって、図1におけるカーディガン10の裏側)に横切らせることができる。
【0024】
なお、S3において、対象編目12の目移しの後に、給糸口の移動を行なっても良い。その場合、新規編目16から給糸口に伸びる編糸は、対象編目12の表側(即ち、FB側であって、新規編目16が引き出される側とは反対側であって、カーディガン10の表面側)を横切ることになる。また、BBからFBへの新規編目16の目移しは、分岐部3の形成が終了してから行なっても良い。
【0025】
S4では、給糸口を始端側LSに移動させ、FBの編針Dの空針に掛け目からなる増し目32を形成し(2回目(n−1;n=3)の工程α)、次いでBBの編針Cの対象編目12に続く新規編目17を形成する(2回目(n−1;n=3)の工程β)。
【0026】
S5では、S3と同様の手順で編目の目移しと給糸口の移動を行なう。即ち、新規編目17をBBからFBに目移しした後、対象編目13を超える位置まで給糸口を形成側RSに移動させ、最後に対象編目13をFBからBBに目移しする。
【0027】
S5より以降は、S4,S5に記載される編成と同様の編成を繰り返す。このように、工程α,βを一組とする編成を複数回連続して行なうことで、S6に示すように、前編地部1Fの各編目の間に増し目からなる分岐部3が形成される。このS6の状態からFBの編針B,D,F,Hの編目で構成される分岐部3のウエール方向に続く編目を形成すれば、図1に示すように、前編地部1Fにポケット編地部2Fを編成することができる。
【0028】
図2の編成工程図に従って編成された分岐部3近傍のループ図を図3に示す。図3に示すように、対象編目11〜13からなる既存編目列のウエール方向に続いて、増し目31,32を含む新規編目列が形成されている。増し目31の次に形成される新規編目(第一編目)16は、増し目31よりも始端側LSにあり、新規編目16の次に形成される増し目(第二編目)32は、増し目31よりも形成側RSにある。また、新規編目16から増し目32に繋がる編糸は、対象編目11に巻き付いており、新規編目16・増し目31・新規編目17・増し目32の編幅方向の伸びを拘束する。そのため、カーディガン10(図1参照)を編幅方向に引っ張っても対象編目11,12の間隔が拡がり難く、その部分の孔が非常に目立ち難くなる。
【0029】
また、図3のループ図では、新規編目16から増し目32に繋がる編糸が、新規編目16・増し目31・新規編目17の裏側(カーディガン10の裏側)に交差している。そのため、当該編糸がカーディガン10の表面側から見え難く、分岐部3近傍の見栄えが良い。
【0030】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、身頃1やポケット編地部2Fをリブ組織などの組織柄にしても良い。その他、二本置きの編針を用いた針抜き編成で身頃1やポケット編地部2Fを編成しても良い。
【符号の説明】
【0031】
10 カーディガン(編地)
1 身頃 1F 前編地部 1B 後編地部
2F ポケット編地部
11,12,13 対象編目
16 新規編目(第一編目) 17 新規編目
3 分岐部
31 掛け目(増し目) 32 掛け目(増し目、第二編目)
A〜I 編針
FB 前針床 BB 後針床
RS 形成側 LS 始端側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床と、これら針床に編糸を給糸する給糸口と、を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、針床に係止される既存編目列に続いて、増し目を含む新規編目列をウエール方向に編成するための編地の編成方法において、
編地の編幅方向に前記新規編目列の最初の編目が形成される側を始端側、その反対側を形成側としたとき、
前記既存編目列を構成する編目の一つである対象編目よりも前記形成側にある空針に、前記新規編目列を構成する増し目を形成する工程αと、
前記工程αの後に、前記対象編目に続いて、前記新規編目列を構成する新規編目をウエール方向に形成する工程βと、
を備え、
前記工程βの後に、前記新規編目列を構成する次の編目を形成する際は、前記新規編目から給糸口に伸びる編糸を、前記新規編目が前記対象編目から引き出される側と同じ側に横切らせてから前記次の編目を形成することを特徴とする編地の編成方法。
【請求項2】
使用される横編機は、前後一対の針床を備える2枚ベッド横編機であり、
前記既存編目列は、針抜き編成によって編成されていることを特徴とする請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項3】
前記工程α,βを一組とする編成をn回連続して行なう場合、
n回目の工程αを行なう際、n−1回目に形成した新規編目から給糸口に伸びる編糸を、n回目の工程αにおける対象編目の表側と裏側のうち、n−1回目の新規編目がn−1回目の対象編目から引き出される側と同じ側に横切らせてから、n回目の工程αを行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の編地の編成方法。
但し、nは2以上の自然数である。
【請求項4】
前記対象編目のウエール方向に前記新規編目を形成したときに、その新規編目が裏目となる針床を裏目針床とすると、
前記新規編目は、前記裏目針床で、給糸口を前記始端側に移動させたときに編成し、
前記増し目は、前記裏目針床もしくはそれに対向する針床で、給糸口を前記始端側に移動させたときに編成することを特徴とする請求項3に記載の編地の編成方法。
【請求項5】
既存編目列と、増し目を含む編目列であり、かつ前記既存編目列のウエール方向に続く新規編目列と、を備え、少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて編成された編地において、
編地の編幅方向に、前記新規編目列の最初の編目が形成される側を始端側、その反対側を形成側としたとき、
前記増し目の次に形成される編目であり、前記新規編目列を構成する第一編目は、前記増し目よりも始端側にあり、
前記第一編目の次に形成される編目であり、前記新規編目列を構成する第二編目は、前記増し目よりも形成側にあり、
前記第一編目から前記第二編目に繋がる編糸は、前記第一編目が前記既存編目列の編目から引き出される側と同じ側で前記第一編目に交差していることを特徴とする編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−36135(P2013−36135A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172848(P2011−172848)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】