説明

編物およびそれを用いたレースカーテン

【課題】広範囲に優れた反射特性を持つ編物を提供する。
【解決手段】断面扁平率が1.3〜2.5であり、多葉断面を有するポリエステル繊維を使用した編物であって、該多葉断面を有するポリエステル繊維は以下の式(1)において3≦D≦50を満たし、かつ、該編物の目空き率が10%以上、30%以下、反射率が受光範囲20°〜70°の範囲内で平均23%以上であることを特徴とする編物。D={(b1−b2)/b1}×100式(1)ここで、該多葉断面を有するポリエステルは短辺方向(最も長い長辺の長さに対して直行する辺の方向)に1つの円周部があり、かつ、長辺方向(最も長い長辺の長さ方向)に2個以上の円周部があり、長辺方向の各円周部の頂点から短辺を2分する中心線Xまでの距離の最大値をb1、最小値をb2と言う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範囲に優れた反射特性を持つ編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年居住環境が悪化の一途をたどり、一般住宅にも防犯設備や、カーテンの種類も暗幕カーテンなど外部から住宅内が見えないものが選ばれるようになってきている。
【0003】
そのため、住宅内に太陽光を差し込ませるためには、外部から住宅内が見えにくく且つ太陽光の透過性の高いカーテンが求められている。これらの観点から防視性を有するインテリア用品に関して種々提案されている。例えば特許文献1では断面形状において2個所以上くびれ部を有する断面扁平度が2〜6のフィラメントを用いた織物からなるインテリア用品について提案されている。しかしながら、断面形状が多葉断面でないため1方向からの反射特性には優れているが多方向からの反射特性には劣るという問題があった。
【特許文献1】特許第4065764
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、採光性を損なうことなく広範囲に優れた反射特性を持つ編物およびそれを用いたカーテンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述の課題を解決達成するために、下記の構成を有する。
【0006】
(1) 断面扁平率が1.3〜2.5であり、多葉断面を有するポリエステル繊維を使用した編物であって、該多葉断面を有するポリエステル繊維は以下の式(1)において3≦D≦50を満たし、かつ、該編物の目空き率が10%以上、30%以下、反射率が受光範囲20°〜70°の範囲内で平均23%以上であることを特徴とする編物。
【0007】
D={(b1−b2)/b1}×100 式(1)
ここで、該多葉断面を有するポリエステルは短辺方向(最も長い長辺の長さに対して直行する辺の方向)に1つの円周部があり、かつ、長辺方向(最も長い長辺の長さ方向)に2個以上の円周部があり、長辺方向の各円周部の頂点から短辺を2分する中心線Xまでの距離の最大値をb1、最小値をb2と言う。
【0008】
(2) 該編物の採光性が100lx以上であることを特徴とする上記(1)記載の編物。
【0009】
(3) 該編物の防視認性が2.2級以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の編物。
【0010】
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかに記載の編物を用いたことを特徴とするレースカーテン。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、広範囲に優れた反射特性を持つ編物およびカーテンを得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる繊維である。なかでも実質的にポリエチレンテレフタレートからなるものが耐光性の点から好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で共重合物が含まれていても良い。一般に使用される艶消し剤、安定剤、制電剤等を含んでも良い。
【0014】
本発明におけるポリエステル繊維の断面形状は反射率、採光性、防視認性の観点から断面扁平率が1.3〜2.5であることが重要である。断面扁平率が1.3未満であると反射率が低下し、防視認性も低下することによって、外部から住宅内を見えにくくできない。また、断面扁平率が2.5を越えると広範囲で優れた反射特性を得ることができない。更に好ましくは断面扁平率が1.5〜1.9が良い。
【0015】
ここで、断面扁平率とは、フィラメントの横断面において、最も長い長辺の長さ(A)と、(A)に対して直行する辺のうち、最も長い辺の長さ(B)との比(A/B)である。
【0016】
ポリエステル繊維の断面の形状は、多葉であることが必要である。ここで、多葉であるとは、短辺方向(最も長い長辺の長さに対して直行する辺の方向)に1つの円周部があり、かつ、長辺方向(最も長い長辺の長さ)に2個以上の円周部があり、長辺方向の各円周部の頂点から短辺を2分する中心線Xまでの距離の最大部b1と最小部b2において、次式で表すDが5以上、30以下であることを言う。なお、D>0であると長辺方向の円周部は中心線Xに対して高低差を有している事を表し、Dが5以上、30以下の範囲の時、広範囲に優れた反射特性を有する。中でも断面形態が楕円八葉であると広範囲により優れた反射特性が得られる点で好ましい。
【0017】
D={(b1−b2)/b1}×100
本発明ポリエステル繊維の多葉断面は、八葉以上であり、楕円八葉、楕円十葉、楕円十二葉等の断面形状を有するものが好ましく用いられる。楕円八葉、楕円十葉、楕円十二葉の代表的な形態を図1〜図3に示す。
【0018】
本発明におけるポリエステル繊維の繊維形態としては特に限定されず、長繊維でも短繊維でもよく、仮撚り捲縮加工や、タスラン加工やインターレース加工などの空気加工が施されたものでもよい。
【0019】
本発明のポリエステル繊維の総繊度、単糸繊度については特に限定されないが、総繊度30〜500dtex、より好ましくは50〜250dtex、単糸繊度0.1〜5dtex、より好ましくは0.5〜3dtexの範囲であるものが風合いの観点からよい。
【0020】
本発明におけるカーテン編物において目空き率は10%〜30%であることが好ましい。該目空き率が10%未満であると採光性が損なわれ、住宅内への太陽光の差し込みが期待できない。また、該目空き率が30%を越えると反射率が低下し、防視認性も低下するため、外部から住宅内を見えにくくできない。ここで目空き率とは、マイクロスコープを用い倍率25倍で生地を撮影し、画像処理ソフトを用いて空隙部を黒、繊維部分を白の2色に色分けした後、黒と白の部分の割合を画像処理ソフトにて数値として算出し、黒部の割合を目空き率とした。
【0021】
本発明編物の反射率は受光範囲20°〜70°の範囲内で平均23%以上であることが好ましい。本発明においては、上記の断面扁平率、目空き率を満たし、さらに、多葉断面を有するポリエステル繊維を用いることにより、この性能を有することとできる。ここで反射率の平均値は、受光範囲20°〜70°の反射率を1°ごとに測定することにより求める。
【0022】
また本発明の編物は、採光性が100lx以上であることが好ましく、防視認性は2.2級以下であることが好ましい。
【0023】
以下に本発明の編物の製造方法を示す。
【0024】
編物の組織は本発明の特徴を阻害しない限り特に限定はされないが、カーテンに使用するのであればレース編であることが好ましい。
【0025】
製編後に、糸についている油剤を除去する糊抜き精練を行う。糊抜き精練は、オープンソーパー等を用いて常法に従って行えばよい。また、一般に行われている120〜180℃の温度範囲で乾燥、プレセットを行っても良い。
【0026】
染色は特に機械は選ばないが液流染色機もしくはオーバーマイヤー染色機を用いる。染色液流染色機の温度条件は通常のポリエステル編物の染色温度であればよいが一般的には90℃以上、135℃以下が好ましく、さらに好ましくは120〜135℃である。また、染色操作において染色助剤とその濃度、染色液のpH、浴比、染色時間などは通常ポリエステル編物で用いられている条件であればよい。
【0027】
染色処理後の製品品質安定化のため幅出し、シワ除去などの目的で通常実施されている仕上げセットを施しても良い。一般にピンテンターを使用し、セット温度は160〜200℃である。また、必要に応じて、セット前に熱シリンダーやネット乾燥機などによる乾燥を施しても良い。
【0028】
本発明の編物は、優れた採光性と防視認性とを有するため、特に高い安全性が確保されたカーテンとして好適に用いられる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明について実施例をもって詳細に説明する。
【0030】
本発明で使用した評価方法は次の通りである。
1.目空き率
マイクロスコープを用い倍率25倍で生地を撮影し、画像処理ソフトを用いて空隙部を黒、繊維部分を白の2色に色分けした後、黒と白の部分の割合を画像処理ソフトにて数値として算出し、黒部の割合を目空き率とした。
2.反射率
島津製作所分光光度計で入射角60°、波長を可視光領域に設定し入射光源と試料を固定し受光部を20°〜70°まで回転させたときの反射率を測定した。平均値は受講範囲20°〜70°の反射率を1°ごとに測定した値の平均値とした。
3.採光性
室内の照明を消した後、試料部以外光が入らないように暗幕で覆い、試料から100cmのところに蛍光灯を設置して試料外部の照度が600lxになるように調整した。その後、照度計を試料後方20cm、高さ10cmの位置に設置し、照度を測定した。
4.防視認性
室内を500〜600lxの状態にし、評価者から100cm離れた位置にカーテンを設置した。その後方70cmの位置にJIS−L−0804の変退色用グレースケールを設置し、その前方の空間70cm四方をシルクスクリーンの布で囲い、その布越しに蛍光灯を設置し、さらに、その外部を暗幕で覆った。その際に変退色用のグレースケール前方の70cm四方の照度は1300lxに調整したのち、目視判定を行った。判定基準は変退色用グレースケールが視認できたところの階級を判定結果とする。
(実施例1)
単糸繊度84dtex、単糸数36本、楕円八葉断面で断面扁平率1.6、D値が19.8%のポリエステル繊維を用いてレース編を作成し、精練染色後、乾燥/熱処理を施して目空き率が13%のレースカーテンを作成した。
【0031】
該編物の反射率が受光範囲20°〜70°の範囲で平均28%、採光性110lx、防視認性1.6級であった。
(実施例2)
単糸繊度84dtex、単糸数36本、楕円八葉断面で断面扁平率1.6、D値が19.8%のポリエステル繊維を用いてレース編を作成し、精練染色後、乾燥/熱処理を施して目空き率が26%のレースカーテンを作成した
該編物の反射率が受光範囲20°〜70°の範囲で平均25%、採光性132lx、防視認性2.0級であった。
(実施例3)
単糸繊度125dtex、単糸数72本、楕円八葉断面で断面扁平度1.8、D値が18.8%のポリエステル繊維を用いてレース編を作成し、精練染色後、乾燥/熱処理を施して目空き率が15%のレースカーテンを作成した。
【0032】
該編物の反射率が受光範囲20°〜70°の範囲で平均27%、採光性115lx、防視認性1.7級であった。
(比較例1)
単糸繊度84dtex、単糸数36本、丸断面で断面扁平度1.0のポリエステル繊維を用いてレース編を作成し、精練染色後、乾燥/熱処理を施して目空き率29%のレースカーテンを作成した。
【0033】
該編物の反射率が受光範囲20°〜70°の範囲で平均8%、採光性239lx、防視認性3.2級であった。
(比較例2)
単糸繊度84dtex、単糸数30本、楕円十葉断面で断面扁平度4.5、D値が0%のポリエステル繊維を用いてレース編を作成し、精練染色後、乾燥/熱処理を施して目空き率21%のレースカーテンを作成した。
【0034】
該編物の反射率が受光範囲20°〜70°の範囲で平均18%、採光性132lx、防視認性2.6級であった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明繊維の八葉断面図の一例である。
【図2】本発明繊維の十葉断面図の一例である。
【図3】本発明繊維の十二葉断面図の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面扁平率が1.3〜2.5であり、多葉断面を有するポリエステル繊維を使用した編物であって、該多葉断面を有するポリエステル繊維は以下の式(1)において3≦D≦50を満たし、かつ、該編物の目空き率が10%以上、30%以下、反射率が受光範囲20°〜70°の範囲内で平均23%以上であることを特徴とする編物。
D={(b1−b2)/b1}×100 式(1)
ここで、該多葉断面を有するポリエステルは短辺方向(最も長い長辺の長さに対して直行する辺の方向)に1つの円周部があり、かつ、長辺方向(最も長い長辺の長さ方向)に2個以上の円周部があり、長辺方向の各円周部の頂点から短辺を2分する中心線Xまでの距離の最大値をb1、最小値をb2と言う。
【請求項2】
該編物の採光性が100lx以上であることを特徴とする請求項1記載の編物。
【請求項3】
該編物の防視認性が2.2級以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の編物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の編物を用いたことを特徴とするレースカーテン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−133064(P2010−133064A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311822(P2008−311822)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】