編物の編成方法と経編機
【課題】緯糸ガイドの加速度及び速度の増加を伴うことなく、編地の編成速度を増加させることができる緯挿入経編地の編成方法と経編機を提供する。
【解決手段】編幅全体にわたって緯糸ガイド3を往復させて緯糸1を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸1を経糸4によって拘束して編成する緯糸1を有する編地を製造する。その装置は、緯糸1の折り返し端部に、緯糸ガイド3を緯糸の折り返し端部に配された経糸針8の前部を通したのち同経糸針8の後部へと経糸ガイド3のスイング動作と同期して反転させたのち走行させる反転機構を有している。この反転機構は折り返しガイドを含み、緯糸1の折り返し端部において、緯糸ガイド3を経糸針8の前部に通したのち経糸針8の後部へと反転して走行させて、緯糸1を経糸組織に挿入する。
【解決手段】編幅全体にわたって緯糸ガイド3を往復させて緯糸1を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸1を経糸4によって拘束して編成する緯糸1を有する編地を製造する。その装置は、緯糸1の折り返し端部に、緯糸ガイド3を緯糸の折り返し端部に配された経糸針8の前部を通したのち同経糸針8の後部へと経糸ガイド3のスイング動作と同期して反転させたのち走行させる反転機構を有している。この反転機構は折り返しガイドを含み、緯糸1の折り返し端部において、緯糸ガイド3を経糸針8の前部に通したのち経糸針8の後部へと反転して走行させて、緯糸1を経糸組織に挿入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編糸、特に中空糸膜を編糸に使った中空糸膜編物に好適な編成方法とそのための経編機に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ラッセル編機では、多数の経糸ガイドを有するガイドハンガーが経糸針列の方向に往復する運動(ショギング)と経糸針の前後方向に揺動する運動(スイング)とを行って多数の経糸針に対してショギング動作及びスイング動作を行い、経編編成が行われる。この経編編成中の経糸針の上下運動により経編目を形成するが、このとき緯糸ガイドが経糸針列に沿って移動すると、緯糸ガイドが経糸針と干渉してしまう。そのため、ガイドハンガーが経糸針の後部側にスイングしたとき、緯糸ガイドと経糸針との干渉を回避するため、緯糸ガイドの移動を折り返し点において一旦停止させ、その移動を制限しなければならなかった。すなわち、緯糸ガイドを経糸針列に沿って走行(横振り)させて緯糸を挿入する工程は、前後方向に揺動する運動(スイング)によって緯糸ガイドが経糸針より後部側に位置している間、緯糸ガイドを停止させておく必要がある。その結果、編機稼動時間に対して、緯糸を挿入する工程に割かれる時間の割合は50%でしかなかった。
【0003】
上述のような全編幅にわたり緯糸が挿入できるラッセル編機にあっても、その編成速度を高めることが要求されている。例えば、特許第2576002号公報(特許文献1)に開示されたラッセル編機も、上記ガイドハンガーに多数の経糸針と単一の緯糸ガイドとを並設するとともに、緯糸ガイドの横振り運動を、経糸針のショギング運動から切り離して、横振り動作を独立して制御している。かかる構成を備えた特許文献1のラッセル編機にあっては、従来のラッセル編機以上に編成速度を高めるために、ガイドハンガーのスイング時に経糸針との干渉を避けんがため、上述と同様に緯糸ガイドを一旦停止させることなく、横振り速度を横糸ガイドの折り返し点において大幅に減速させて、緯糸ガイドに略コの字状の複合運動をさせるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2576002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来の緯挿入経編機にあって、編地の生産量を増加するために編成速度を増加させるには、必然的に緯糸ガイドの折り返し部近傍における正負の加速度及び中間部における移動速度自体を増加させざるを得ない。さらに、緯糸を挿入する工程は割り当てられた時間で編幅全体に緯糸を挿入する必要があるため、緯糸を挿入する工程の時間が短ければ短いほど、全体の編成速度が高められる。
【0006】
また、上記特許文献1のラッセル編機においても、従来と同様に、緯糸の折り返し端部において緯糸ガイドに必ず1スイング(往復)動作を行わせている。すなわち、従来のラッセル編機と同様に、緯糸ガイドを編幅端部の折り返し点で緯糸挿入方向に直交する方向に一旦往復動させて、緯糸を同折り返し点の端部経糸針を中心として反転させて、経糸針列の鉤が突出していない前部側に沿って横振りを行わせ、緯糸ガイドを、経糸針のスイング動作に合わせてスイング動作を行わせている。その結果、緯糸ガイドの前述のような加速度の増加に加えて、スイング動作により、緯糸に強い張力を発生させることとなり、緯糸として使用できる材質が制限を受けるようになる。
【0007】
例えば、中空糸膜のように表面に微細な孔を持つ構造では、膜に損傷を与えやすくなるため、編成速度の増加にも限度が生じる。仮に中空糸膜の極く一部が損傷しても、中空糸膜編物としては全体が不良品となってしまう。このように従来の緯挿入経編機にあっては、経編地の編成速度を増加させることが製品品質を低下させるという問題につながっていた。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、緯糸ガイドの加速度及び速度の増加を伴うことなく、編地の編成速度を増加させることができる緯挿入経編地の編成方法と経編機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的は、本発明の第1の基本構成を備えた経編物の編成方法と第2の基本構成を備えた経編機とによって達成される。
本発明の第1の基本構成によれば、編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する編地の製造方法であって、編幅の少なくとも緯糸の一方の折り返し端部において、緯糸ガイドを経糸針の前部に通したのち経糸針の後部へと反転して走行させ、緯糸を経糸組織に挿入する、編物の編成方法にある。
【0010】
好適な態様によると、緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、同折り返しガイドを経糸針と同期して同一動作をさせることを含んでいる。本発明の編成方法には、緯糸の折り返し端部にそれぞれ配された経糸針により経編目を形成して、同経編目により緯糸の各折り返し端をそれぞれ拘束する場合と、緯糸の折り返し端部の一方にのみ経編目を形成するとともに、他方の緯糸折り返し端部に経編目を形成せず、前記一方の折り返し端のみを前記経編目により拘束する場合とがある。
【0011】
すなわち、緯糸の折り返し端部のそれぞれに経糸針を配し、各経糸針により経編目を形成して、同経編目により緯糸の各折り返し端をそれぞれ拘束し、或いは緯糸の折り返し端部のそれぞれに経糸針及び緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを配し、その一方の経糸針により経編目を形成するとともに、他方の経糸針により経編目を形成せずに、前記一方の経編目により一方の折り返し端のみを拘束してもよい。
【0012】
或いは、他の方法として、緯糸の折り返し端部の一方に経糸針を配し、緯糸の折り返し端部の他方に緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、前記経糸針により経編目を形成し、又緯糸の折り返し端部の一方に経糸針と緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドとを設け、緯糸の折り返し端部の他方に緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、前記経糸針により経編目を形成して、前記経編目により一方の折り返し端のみを拘束するようにしてもよい。
【0013】
更には、緯糸の折り返し端部の一方に経糸針と緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドとを設け、緯糸の折り返し端部の他方に緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、前記経糸針により経編目を形成して、経編目により一方の折り返し端のみを拘束することもできる。
ここで、使用する緯糸の種類などは従来と同様に特に限定するものではないが、特に中空糸膜などのように強力な張力によって損傷しやすい糸条であっても使用が可能である。
【0014】
本発明の第2の基本構成は、編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する経編地の経編機であって、緯糸の折り返し端部において、緯糸ガイドを緯糸の折り返し端部に配された経糸針の前部を通したのち同経糸針の後部へと経糸ガイドのスイング動作と同期して反転走行させる反転機構を有している、経編機にある。
【0015】
前記反転機構が、緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して配される緯糸の折り返しを案内するための折り返しガイドを有していることが好ましい。この場合、緯糸の折り返しガイドを経糸針の編成動作に合わせて同時に同一動作をさせる作動機構を有していることが肝要である。緯糸を折り返す折り返しガイドが円形又は楕円計の断面を有するピン部材とすることができる。本発明が対象とする代表的な経編機は、ラッセル編機である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、編成部における編幅の左右端部に経糸針と一緒に上下動する緯糸の折り返しガイドを設けることにより、緯糸を端部の経糸針の前部を通したのち、経糸ガイドと緯糸ガイドが後方へとスイングしながら経糸針の後部へと移動し、緯糸を折り返しガイドに巻き回しながら逆方向へと走行させる。次いで、経糸ガイドと緯糸ガイドを前方にスイングしながら、折返しガイドと経糸針を一緒に下降させる。このとき、経糸は経編目を形成し、経糸針の前部に挿入された緯糸を同経編目により拘束する。その後、折返しガイドと経糸針を上昇させる。経糸ガイドと緯糸ガイドが前方にスイングすることにより、緯糸の走行路は他端側の折り返しガイドと経糸針の前部へと導かれ、緯糸が他端側の折り返しガイドと経糸針の前部を通過したのち、緯糸ガイドは上述の動作と同様に後部へと移動し、緯糸を折り返しガイドに巻き回しながら逆方向へと走行(横振り)を開始する。
【0017】
これらの動作において、緯糸は格別に停止したり速度を落としたりすることなく、この一連の連続動作の間にあって、緯糸は経糸針などと干渉せず、緯糸の動作の殆どが緯糸の挿入動作に費やされるばかりでなく、緯糸自体に強力な張力がかかることもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を実施する緯糸挿入経編機の一例を示す概略構成図である。
【図2】ガイドハンガー(緯糸ガイド、経糸ガイド)と経糸針、編地との動きを説明する側面図である。
【図3】従来の編成部における各構成部材の動作を説明する概略説明図である。
【図4】従来の編成部における各構成部材の動作タイミングを表すグラフである。
【図5】従来の編機の緯糸ガイドの移動軌跡を示す概略説明図である。
【図6】本発明の編成部における各構成部材の動作を説明する概略説明図である。
【図7】本発明の編成部における各構成部材の動作タイミングを表すグラフである。
【図8】本発明の緯糸ガイドの移動軌跡を示す概略説明図である。
【図9】本発明における、編成時間と緯糸ガイド位置と相関を表すグラフである。
【図10】従来の編機における、編成時間と緯糸ガイド位置の相関を表すグラフである。
【図11】本発明の緯糸ガイドの移動軌跡の一例を示す概略説明図である。
【図12】本発明の緯糸ガイドの移動軌跡の他例を示す概略説明図である。
【図13】両側を経糸で拘束した編地を用いて作製した中空糸膜モジュールの概略図である。
【図14】片側を経糸で拘束した編地を用いて作製した中空糸膜モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図3は、緯糸挿入が可能な代表的な経編機と、その編成時における経糸ガイド及び緯糸ガイドの前後振り動作と、緯糸反転時の緯糸ガイドの反転動作とを模式的に示している。これらの図において、緯糸ガイド3及び経糸ガイド9は同一のガイドハンガー7に取り付けられているが、緯糸ガイド3はガイドハンガー7に対して横振り往復動可能に設けられており、緯糸1を編幅全体に挿入できる。ガイドハンガー7に多数の経糸ガイド9が並列して固定されており、図2a及び図2bに示すように、ガイドハンガー7がその回動軸7aを中心に前後に揺動(スイング)することにより、多数の前記経糸ガイド9が同経糸ガイド9に対応する数の経糸針8の列を挟んで前後にスイングする。このとき、緯糸ガイド3もガイドハンガー7の前記回転軸7aを中心として同様にスイングする。また、このスイング時に多数の経糸針8は針板12に形成された多数の図示せぬ針溝に沿って上下に動き、そのガイドハンガー7の動きに合わせて前記経糸ガイド9は一斉に編幅方向に横振り運動(ショギング)を行う。経糸針8の上下動と、経糸ガイド9のスイングとショギングの複合した動作を行い、経糸4の編目を形成し、これを繰り返すことにより編成が進む。しかしながら、この経糸4の編目が形成されるときに、緯糸ガイド3に対して緯糸挿入のための横振り動作を同時にさせると、緯糸ガイド3と経糸針8とが干渉するため、緯糸ガイド3が経糸針8より後部側に位置している間は、緯糸ガイド3を編幅端部から横振り運動をさせないようにしておく必要がある。
【0020】
すなわち、経糸ガイド9のショギング時(経編目形成時)には緯糸ガイド3を経糸針8の後部側で待機させ、その横振り動作を停止させておく。しかして、前方へのスイング動作によって緯糸ガイド3が経糸針8より前部側の位置に移ると、次回の緯糸挿入のため緯糸ガイド3は横振り動作を開始し、経糸針8の鉤の突出していない前部を編幅全体にわたって移動する。緯糸ガイド3が編幅端部に達すると、そこで横振り動作は一旦停止し、経糸針8の上下動と、経糸ガイド9のスイングとショギングの複合した動作を行い、先に挿入されている緯糸1を、そのとき形成される経編目に挿入して編み込む。緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9が以上の動作を繰り返して編成が進行する。
【0021】
これらの緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9の従来の動きを、図1及び図2に基づいて具体的に説明する。
【0022】
図1に示すように、単一の上記ガイドハンガー7は編成部の全幅にわたって延設されている。このガイドハンガー7は長尺の円筒軸7bを有し、その中心に上記回転軸7aが挿入され、回転軸7aの回転とともに前記円筒軸7bを回転させる。前記回転軸7aは緯糸ガイド駆動装置6と連動して、図示せぬ駆動部により所定の角度の間を正逆回転する。前記円筒軸7bには、図2に示すように、その長さ方向に所定の間隔をおいて平行に固設されたブラケット7cを有しており、ブラケット7cには、緯糸ガイド3の走行を案内するガイドレール7dと、このガイドレール7dと所要の角度で長さ方向に交差するように配された多数の経糸ガイド9を支持する経糸ガイド支持部材7eとが固設されている。
【0023】
緯糸ガイド3は、図1及び図2に示すように、上下方向の中央部でく字状に前方に屈曲する板部材3aと、同板部材3aの上半部前面に配され上記ガイドレール7dを上下から挟んで転動する4個の転動ロール3bと、前記板部材3aの下半部後面に配され、左右ロール対の間において緯糸1をガイドする左右一対の緯糸ガイドロール3cと有している。前記経糸ガイド9は直線状のピン部材からなり、その下端には経糸を案内する目孔9aが形成されている。前記緯糸ガイド3の下半部後面の下方延長面と多数の前記経糸針8の針列により形成される前面の下方延長面とが交差する。経糸ガイド9は細長い円筒部材であってもよく、その場合には経糸を円筒内部を挿通させてガイドする。
【0024】
ガイドハンガー7を介してガイドレール7dとガイド支持部材7eとを前後方向に揺動(スイング)させるための図示せぬ駆動機構と、緯糸ガイド3を横振りさせるためのエンドレスベルト5を駆動する緯糸ガイド駆動装置6とは連動しており、緯糸ガイド3は、両機構により伝達される運動を複合した複合運動をするようになっている。本発明における緯糸ガイド3は、経糸ガイド9のスイング運動とショギング運動に同期して同じくスイングとショギングを行う。そのときの経糸ガイド9の一回のスイング、すなわち緯糸ガイド3の一回のスイング時間は緯糸ガイド3の片道の横振り時間に一致している。
【0025】
以上の従来の構成に対して、本発明にあっては、図6Aに示すように、上記針板12上に配列された多数の経糸針のうち、編幅方向左右の最端部にある経糸針8の外側(折り返し端側)に隣接させて、本発明の特徴部の一つである緯糸折り返しガイド11を設けている。この緯糸折り返しガイド11は経糸針8と同等の長さをもつピン部材からなることが好ましく、その断面は円形又は楕円形であって、更には上端に向けてその断面積が漸減するような形状であることが望ましい。かかるピン部材からなる緯糸折り返しガイド11が、前記針板12の図示せぬガイド溝に上下動可能に嵌着されている。この緯糸折り返しガイド11の上下駆動は、上記経糸針8の駆動源によりなされ、緯糸折り返しガイド11と全ての経糸針8とが同じタイミングで同一の行程を上下動する。
【0026】
前述のような緯糸折り返しガイド11を備えた本発明に係る緯糸挿入経編機と、緯糸折り返しガイド11を備えていない従来の緯糸挿入経編機とによる、編成部における緯入れ時の緯糸ガイド3、経糸針8、経糸ガイド9及び緯糸折り返しガイド11の複合運動の差異について詳しく説明する。
【0027】
図3は、従来の代表的な緯糸挿入経編機の編成部における緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9の動きを示している。
いま、図3Aに示すように、経糸針8が図示せぬ針溝から押し上げられて、針板12の上面から上方に向けて起立状態にあり、経糸ガイド9は経糸4の経編目を形成すべく、経糸4を先に挿入された緯糸1を跨ぐようにして経糸針8の前部右側にガイドしている。この状態から図3Bに示すように経糸ガイド9は経糸針8の右側を通ってその後側に回り込むスイング動作及びショギング動作の複合した動きをして、経糸4を経糸針8に巻き回す。このとき、緯糸ガイド3もまた経糸ガイド9と同じ動きをする。すなわち、緯糸ガイド3もまた、経糸ガイド9と同様に、経糸針8の左斜め後方に位置するようになる。
【0028】
ここで、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3がスイング動作により経糸針8の後部側から前部側へと移動しながら、経糸針8が針溝を下降して経編目を形成する。このとき緯糸1は、図3Cに示すように、前記経編目により拘束される。スイング動作により後方から前方へ移動中に、緯糸ガイド3の位置が経糸針8よりも前部側になると、緯糸ガイド3は前記経編目を中心に経糸針8の前部にて折り返し、経糸針8列の前面を通過して右方向へと走行する。
【0029】
緯糸ガイド3が右方向に走行して編幅の右端に達すると、緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9は緯糸ガイド3の折り返し方向を逆にする以外、同様の動きをして、左端部にて右方向に走行してきた緯糸1を拘束しつつ経編目を形成したのち緯糸ガイド3を反転させる。その後、緯糸ガイド3は右端の経糸針8の前部を通過して左方向へと走行する。この走行中の左端部の経糸針8と経糸ガイド9とは図3Dに示す位置関係にある。ここで、右側から経糸針8列の前面を走行してきた緯糸1が左端部に達すると、図3A〜Cに示す動きをして、新たな緯糸挿入経編目を形成する。
【0030】
以上の説明から理解できるとおり、この従来の緯糸挿入編機による緯糸挿入経編編成機構では、その緯糸ガイド3の運動軌跡は、図5に示すように、編幅の左右端部において経糸針8と干渉しない外側の位置にて、経糸針8の前後を一旦往復するスイングをして経糸針8の前部へと戻り、そこから経糸針8列の前面を移動する、全体にコ字状を描く。すなわち、緯糸ガイド3は、その移動両端において横振り動作を停止して、経糸針8の下降運動と経糸ガイド9のスイング及びショギングの複合動作とからなる経糸編成の動作を待ったのちに緯糸ガイド3を横振りさせることが必要であった。この停止時間は緯糸1の挿入時間の短縮を阻害する要因となっている。かかる要因は、経糸ガイド9が経糸針8の後部までスイングしショギングを行って経糸編成を行う必要があることと、さらに、経糸針8は後部に向かって突出する鉤状とされており、経糸ガイド9が経糸針8の後部にあるとき、緯糸ガイド3が経糸針8の後部を移動して緯糸1を経糸針8の後ろに挿入しようとすると、緯糸1が経糸針8に引っ掛かってしまい、編地2を編成することが出来ないことによる。
【0031】
本実施形態では、図6に示し、既述したとおり、経糸針8の緯糸反転側に隣接させて、新たに緯糸1を折り返すときに案内する折り返しガイド11を設けている。その他の構成は上記従来の緯糸挿入経編機と実質的に変わるところがない。従って前記折り返しガイド11以外は、図3に示した従来編機と同じ部材名及び引用符号を用いている。
【0032】
本実施形態において、前記折り返しガイド11の形状は真っ直ぐな円柱形状とした。なお、前記折り返しガイド11の形状は、折り返しガイド11を下降させるときに、折り返しガイド11を支点に折り返した緯糸1が折り返しガイド11から抜ければよいので、局部的に摩擦抵抗が生じない楕円形の柱状形状や、上下で太さを変化させた柱状形状など種々選択が可能である。前記折り返しガイド11を支点に緯糸1を折り返し、緯糸ガイド3を経糸針8の後方を走行させて、経糸編成中も緯糸ガイド3を移動させるようにしている。また、本実施形態では緯糸ガイド3は中空糸膜(緯糸1)の損傷をより小さくするためにロールを用いているが、これに限定されるものではなく、例えばリングの中に糸を通してガイドするリングガイドを用いることも可能である。
【0033】
かかる構成を備えた本発明の緯糸挿入経編機の編成部における各構成部材間の編成動作を図6及び図8に基づいて具体的に説明する。
【0034】
図6Aに示すように、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3は経糸針8よりも前方にあり、同図の右側から走行してきた緯糸ガイド3は、経糸針8及び折り返しガイド11の前方を通過して、緯糸1を経糸針8及び折り返しガイド11の前部に挿入する。このときは、緯糸1が経糸針8列の前面を通過し、緯糸ガイド3は経糸針8の鉤の突出側とは反対側を通過するため、緯糸1も緯糸ガイド3も経糸針8と干渉することがない。経糸ガイド9及び緯糸ガイド3は、緯糸1が折り返しガイド11を通過するとき、後方へスイングを開始し、緯糸ガイド3を移動端まで移動させる。次いで、図6Bに示すように、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3を更に後方へスイングさせ続けると同時に反転させて、緯糸ガイド3に反対方向(同図の右方向)の移動を開始させる。すなわち、緯糸1は折り返しガイド11を支点に折り返し、緯糸ガイド3を折り返しガイド11及び経糸針8の後方を通過させて、緯糸1を経糸針8の後方において挿入を開始する。
【0035】
このとき、経糸ガイド9は、図6Cに示すように、ショギング動作により経糸4を経糸針8に掛け回しながら、同時に前方にスイングしたのち、経糸針8が下降して経編目を形成し、既に経糸針8の前部に緯入れされた緯糸1を経糸4の経編目によって拘束する。このときの経糸針8の下降位置は、図6Cに示すとおり、既に挿入されて拘束されている緯糸1よりも低い位置となる。経糸針8の下降とともに折り返しガイド11も同様に下降して、折り返しガイド11が緯糸1の折り返し端から抜け出す。この折り返し端から折り返しガイド11が抜かれると、経糸針8もまた下方に位置するため、経糸針8の後方位置を右方向へと走行する緯糸1は、経糸針8により干渉されない。ここで、経糸ガイド9とともに緯糸ガイド3が、針板12の針溝内に退避している経糸針8の前方へとスイングする間に、緯糸1は前記緯糸ガイド3に導かれて経糸針8より前方へと移動する。この移動時に、折り返しガイド11にて反転した緯糸1の折り返し位置は、折り返し側端部の経糸針8の位置、すなわち経糸4の位置に移っている。ここで、図6Dに示すように、経糸針8と折り返しガイド11が一緒に上昇して、次回の経糸編みの準備が整う。
【0036】
以上の説明から理解できるとおり、本発明による緯糸挿入経編機では、緯糸1は左右の編み幅の一端部において経糸針8の前方を通過して、その後方を折り返しガイド11に案内されて反転した後に、経糸針8及び折り返しガイドが下降して先に挿通されている緯糸を拘束しながら経編目を形成する。折り返しガイド11に案内されて反転した緯糸ガイド3は、そのまま停止することなく、或いは折り返し点で一時的に瞬時停止状態になり、編幅方向の他端側に向かって走行を開始する。この経糸針8が下降している間に、ガイドハンガー7は後方から前方へとスイングするため、それまで経糸針8の後方にあった緯糸1は、経糸針8と折返しガイド11が下降限まで下降して、折返しガイド11が緯糸1の折返し端から抜け出したとき、経糸針8列の前方へと移ることになる。すなわち、前方及び後方へのガイドハンガー7のスイングの運動と左右への緯糸ガイド3の横振り移動の複合運動により、緯糸ガイド3は図8に示すような左右に配された折り返しガイド11を巡って8の字状の軌跡を描く。ここで、図8に示す実施形態では、経糸針8と折り返しガイド11が同一直線上に隣接して配されているが、経糸針8を折り返しガイド11よりも僅かに前方に変位させて配することもできる。
【0037】
経糸針8を上下させる駆動機構と折り返しガイド11を上下させる駆動機構は異なる機構で構成することも可能であるが、同一の機構を用いる方が装置構成が簡単になり好ましい。緯糸ガイド3は折り返しガイド11の外側を通過する必要があるが、経糸針8から折り返しガイド11までの緯糸ガイド3の移動は緯糸挿入工程に直接寄与しない動作であるため、折り返しガイド11は経糸針8に可能な限り近づけて設置するのが好ましい。
【0038】
本発明により、編幅方向左右の緯糸折り返し端部にて緯糸1を経編目により拘束するにあたって、図8に示すように、緯糸1を左右に配された折り返しガイド11を巡って8の字状の軌跡を描くように移動させる場合に限らず、ある程度、編成速度の低下や張力変動を容認する場合、例えば、図11に示すように左右に配された折り返しガイド11の一方を排除し、その折り返し端部では従来と同様の経糸針8による経編目を編成するとともに、折り返しガイド11が残された他方の折り返し端部において、緯糸ガイド3を折り返しガイド11を巡らせるようにして緯糸1を巡らせながら経糸針8により経編目を編成し、編幅方向左右の緯糸折り返し端部にて緯糸1を経編目により拘束するようにしてもよい。
【0039】
こうして、編幅方向左右の緯糸折り返し端部にて緯糸1を経編目により拘束して得られる編地2は、例えば図13に示すように、ハウジング14と中空糸膜編地13とからなる中空糸膜モジュール15を作製する場合に用いられる。この場合、中空糸膜編地13の両端をハウジング14に固定するにあたって、中空糸膜編地13の両端が経糸4によって拘束されているため、その緯糸1(中空糸膜)の折り返し端を切断しやすく、ハウジング14への固着もしやすい。
【0040】
更に本発明の編成方法によれば、編地2を編成するにあたり、編地2の編成速度を増加させる観点からは、上記実施形態のように、緯糸1を編幅方向左右の折り返し端部の折り返しガイド11を巡らせて、図8に示すように8の字状の軌跡を描くように走行させて、編幅方向左右の折り返し端部において緯糸1を経編目により拘束することが好ましいが、ある程度の編成速度の低下や張力変動を犠牲してもよい場合は、緯糸1の片側の折り返し端部のみを経編目により拘束することもできる。しかして、この片側のみによる拘束の場合であっても、従来以上に編成速度を高めるには、本発明における上記折り返しガイド11を設置して、本発明による上述のような緯糸1の移動動作を行わせることが好ましい。本発明方法を使って、片側のみにて緯糸1を拘束する編成方法として最も簡単な方法は、例えば上記実施形態にあって編幅方向左右の緯糸折り返し端部に配される一方の経糸針8に経糸4を供給せずに編成を行うだけでも、編幅方向左右の緯糸折り返し端部の片側のみにて緯糸1を拘束することができる。
【0041】
他の方法としては、例えば図12に示すように、緯糸1の編幅方向左右の折り返し端部の一方のみに、本発明の編成方法における折り返しガイド11を配し、他方の折り返し端部は従来と同様の編成機構を使い、その折り返し端部を経編目により拘束するようにする。そのため、同図に示すように、折り返しガイド11を設置した端部には経糸針8を併設せず、他方の折り返し端部には折り返しガイド11を設置せずに経糸針8のみを配している。
【0042】
片側のみ経糸で拘束する編地2は、例えば、図14に示すハウジング14と中空糸膜編地13からなる、中空糸膜の片側が拘束されていない自由端とする中空糸膜モジュール15を作製する場合に用いられる。中空糸膜編地13の拘束しない側は、例えば、その側で経糸を使用しないことで作製される。このように作製された自由端はループ状となっており、先端は開口していない。そのため、圧着や、熱または超音波による融着などをして封止する必要が無く、中空糸膜の片端を自由端とする中空糸膜モジュールを容易に作成することが出来る。
【0043】
次に、実施例1及び比較例1をもって本発明及び従来の緯糸挿入経編機における緯糸挿入に要する時間と経編編成に要する時間との配分割合を具体的に説明する。
【実施例1】
【0044】
折り返しガイド11を設置し、緯糸ガイド3を経糸針8の前部と後部を走行するようにして、図8に示すような軌跡を描かせるようにし、緯糸1を経糸針8の前部と後部に挿入するようにした。折り返しガイド11を上下に駆動させる機構は、経糸針8を上下に駆動させる機構と同じものを使用して、折り返しガイド11と経糸針8とを同時に上下に駆動するようにした。図9は、時間に対する緯糸ガイド3の位置を表すグラフである。経編機の全稼働時間に対する緯糸1の挿入工程の時間の割合は、87.5%であった。
【比較例1】
【0045】
編機の速度、すなわち編地2の編成速度を実施例1と同一とした。折り返しガイド11を設置せず、緯糸ガイド3を、従来と同様に経糸針8の前部のみを走行するようにして、図5に示すようなコ字状の軌跡を描かせるようにした。 図10は、比較例1における時間に対する緯糸ガイド3の位置を表すグラフである。経編機の全稼働時間に対する緯糸1の挿入工程の時間の割合は、50%であった。
【0046】
図4及び図7から、実施例1にあっては、比較例1と同一の編地編成速度において、緯糸の挿入工程に要する時間が著しく増加していることが理解できる。つまり、全編成速度に対する緯糸ガイドの加速度及び速度を相対的に低下させることができた。すなわち、本実施例1の構成において、緯糸ガイドの加速度及び速度を比較例1と同一とした場合に、編地の編成速度を比較例1の87.5/ 50=1.75倍にすることができる。
【0047】
なお、図11及び図12に示す本発明の実施形態にあっても、比較例1と比較すると、比較例は、例えば経編機の全稼働時間に対する緯糸1の停止時間の割合は、50%であるのに対して、図11及び図12に示す本発明の実施形態では、緯糸1の停止時間の割合が、50%×(1/2)に短縮され、それだけ緯糸1の挿入時間が確保でき、上記実施例1と比較すると編地の編成速度は低くなるとは言え、比較例よりも編成速度を高めることができる。
【0048】
以上、具体的に説明したとおり、本発明によれば、緯糸ガイドの加速度及び速度を増加させることなく、編地2の編成速度のみを増加することが出来る。
【符号の説明】
【0049】
1 緯糸
2 編地
3 緯糸ガイド
3a 板部材
3b 転動ロール
3c 緯糸ガイドロール
4 経糸
5 エンドレスベルト
6 緯糸ガイド駆動装置
7 ガイドハンガー
7a 回転軸
7b 円筒軸
7c ブラケット
7d ガイドレール
7e 経糸ガイド支持部材
8 経糸針
9 経糸ガイド
9a 目孔
10 緯糸ガイドの移動軌跡
11 折り返しガイド
12 針板
13 中空糸膜編地
14 ハウジング
15 中空糸膜モジュール
【技術分野】
【0001】
本発明は、編糸、特に中空糸膜を編糸に使った中空糸膜編物に好適な編成方法とそのための経編機に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ラッセル編機では、多数の経糸ガイドを有するガイドハンガーが経糸針列の方向に往復する運動(ショギング)と経糸針の前後方向に揺動する運動(スイング)とを行って多数の経糸針に対してショギング動作及びスイング動作を行い、経編編成が行われる。この経編編成中の経糸針の上下運動により経編目を形成するが、このとき緯糸ガイドが経糸針列に沿って移動すると、緯糸ガイドが経糸針と干渉してしまう。そのため、ガイドハンガーが経糸針の後部側にスイングしたとき、緯糸ガイドと経糸針との干渉を回避するため、緯糸ガイドの移動を折り返し点において一旦停止させ、その移動を制限しなければならなかった。すなわち、緯糸ガイドを経糸針列に沿って走行(横振り)させて緯糸を挿入する工程は、前後方向に揺動する運動(スイング)によって緯糸ガイドが経糸針より後部側に位置している間、緯糸ガイドを停止させておく必要がある。その結果、編機稼動時間に対して、緯糸を挿入する工程に割かれる時間の割合は50%でしかなかった。
【0003】
上述のような全編幅にわたり緯糸が挿入できるラッセル編機にあっても、その編成速度を高めることが要求されている。例えば、特許第2576002号公報(特許文献1)に開示されたラッセル編機も、上記ガイドハンガーに多数の経糸針と単一の緯糸ガイドとを並設するとともに、緯糸ガイドの横振り運動を、経糸針のショギング運動から切り離して、横振り動作を独立して制御している。かかる構成を備えた特許文献1のラッセル編機にあっては、従来のラッセル編機以上に編成速度を高めるために、ガイドハンガーのスイング時に経糸針との干渉を避けんがため、上述と同様に緯糸ガイドを一旦停止させることなく、横振り速度を横糸ガイドの折り返し点において大幅に減速させて、緯糸ガイドに略コの字状の複合運動をさせるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2576002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来の緯挿入経編機にあって、編地の生産量を増加するために編成速度を増加させるには、必然的に緯糸ガイドの折り返し部近傍における正負の加速度及び中間部における移動速度自体を増加させざるを得ない。さらに、緯糸を挿入する工程は割り当てられた時間で編幅全体に緯糸を挿入する必要があるため、緯糸を挿入する工程の時間が短ければ短いほど、全体の編成速度が高められる。
【0006】
また、上記特許文献1のラッセル編機においても、従来と同様に、緯糸の折り返し端部において緯糸ガイドに必ず1スイング(往復)動作を行わせている。すなわち、従来のラッセル編機と同様に、緯糸ガイドを編幅端部の折り返し点で緯糸挿入方向に直交する方向に一旦往復動させて、緯糸を同折り返し点の端部経糸針を中心として反転させて、経糸針列の鉤が突出していない前部側に沿って横振りを行わせ、緯糸ガイドを、経糸針のスイング動作に合わせてスイング動作を行わせている。その結果、緯糸ガイドの前述のような加速度の増加に加えて、スイング動作により、緯糸に強い張力を発生させることとなり、緯糸として使用できる材質が制限を受けるようになる。
【0007】
例えば、中空糸膜のように表面に微細な孔を持つ構造では、膜に損傷を与えやすくなるため、編成速度の増加にも限度が生じる。仮に中空糸膜の極く一部が損傷しても、中空糸膜編物としては全体が不良品となってしまう。このように従来の緯挿入経編機にあっては、経編地の編成速度を増加させることが製品品質を低下させるという問題につながっていた。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、緯糸ガイドの加速度及び速度の増加を伴うことなく、編地の編成速度を増加させることができる緯挿入経編地の編成方法と経編機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的は、本発明の第1の基本構成を備えた経編物の編成方法と第2の基本構成を備えた経編機とによって達成される。
本発明の第1の基本構成によれば、編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する編地の製造方法であって、編幅の少なくとも緯糸の一方の折り返し端部において、緯糸ガイドを経糸針の前部に通したのち経糸針の後部へと反転して走行させ、緯糸を経糸組織に挿入する、編物の編成方法にある。
【0010】
好適な態様によると、緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、同折り返しガイドを経糸針と同期して同一動作をさせることを含んでいる。本発明の編成方法には、緯糸の折り返し端部にそれぞれ配された経糸針により経編目を形成して、同経編目により緯糸の各折り返し端をそれぞれ拘束する場合と、緯糸の折り返し端部の一方にのみ経編目を形成するとともに、他方の緯糸折り返し端部に経編目を形成せず、前記一方の折り返し端のみを前記経編目により拘束する場合とがある。
【0011】
すなわち、緯糸の折り返し端部のそれぞれに経糸針を配し、各経糸針により経編目を形成して、同経編目により緯糸の各折り返し端をそれぞれ拘束し、或いは緯糸の折り返し端部のそれぞれに経糸針及び緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを配し、その一方の経糸針により経編目を形成するとともに、他方の経糸針により経編目を形成せずに、前記一方の経編目により一方の折り返し端のみを拘束してもよい。
【0012】
或いは、他の方法として、緯糸の折り返し端部の一方に経糸針を配し、緯糸の折り返し端部の他方に緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、前記経糸針により経編目を形成し、又緯糸の折り返し端部の一方に経糸針と緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドとを設け、緯糸の折り返し端部の他方に緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、前記経糸針により経編目を形成して、前記経編目により一方の折り返し端のみを拘束するようにしてもよい。
【0013】
更には、緯糸の折り返し端部の一方に経糸針と緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドとを設け、緯糸の折り返し端部の他方に緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、前記経糸針により経編目を形成して、経編目により一方の折り返し端のみを拘束することもできる。
ここで、使用する緯糸の種類などは従来と同様に特に限定するものではないが、特に中空糸膜などのように強力な張力によって損傷しやすい糸条であっても使用が可能である。
【0014】
本発明の第2の基本構成は、編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する経編地の経編機であって、緯糸の折り返し端部において、緯糸ガイドを緯糸の折り返し端部に配された経糸針の前部を通したのち同経糸針の後部へと経糸ガイドのスイング動作と同期して反転走行させる反転機構を有している、経編機にある。
【0015】
前記反転機構が、緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して配される緯糸の折り返しを案内するための折り返しガイドを有していることが好ましい。この場合、緯糸の折り返しガイドを経糸針の編成動作に合わせて同時に同一動作をさせる作動機構を有していることが肝要である。緯糸を折り返す折り返しガイドが円形又は楕円計の断面を有するピン部材とすることができる。本発明が対象とする代表的な経編機は、ラッセル編機である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、編成部における編幅の左右端部に経糸針と一緒に上下動する緯糸の折り返しガイドを設けることにより、緯糸を端部の経糸針の前部を通したのち、経糸ガイドと緯糸ガイドが後方へとスイングしながら経糸針の後部へと移動し、緯糸を折り返しガイドに巻き回しながら逆方向へと走行させる。次いで、経糸ガイドと緯糸ガイドを前方にスイングしながら、折返しガイドと経糸針を一緒に下降させる。このとき、経糸は経編目を形成し、経糸針の前部に挿入された緯糸を同経編目により拘束する。その後、折返しガイドと経糸針を上昇させる。経糸ガイドと緯糸ガイドが前方にスイングすることにより、緯糸の走行路は他端側の折り返しガイドと経糸針の前部へと導かれ、緯糸が他端側の折り返しガイドと経糸針の前部を通過したのち、緯糸ガイドは上述の動作と同様に後部へと移動し、緯糸を折り返しガイドに巻き回しながら逆方向へと走行(横振り)を開始する。
【0017】
これらの動作において、緯糸は格別に停止したり速度を落としたりすることなく、この一連の連続動作の間にあって、緯糸は経糸針などと干渉せず、緯糸の動作の殆どが緯糸の挿入動作に費やされるばかりでなく、緯糸自体に強力な張力がかかることもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を実施する緯糸挿入経編機の一例を示す概略構成図である。
【図2】ガイドハンガー(緯糸ガイド、経糸ガイド)と経糸針、編地との動きを説明する側面図である。
【図3】従来の編成部における各構成部材の動作を説明する概略説明図である。
【図4】従来の編成部における各構成部材の動作タイミングを表すグラフである。
【図5】従来の編機の緯糸ガイドの移動軌跡を示す概略説明図である。
【図6】本発明の編成部における各構成部材の動作を説明する概略説明図である。
【図7】本発明の編成部における各構成部材の動作タイミングを表すグラフである。
【図8】本発明の緯糸ガイドの移動軌跡を示す概略説明図である。
【図9】本発明における、編成時間と緯糸ガイド位置と相関を表すグラフである。
【図10】従来の編機における、編成時間と緯糸ガイド位置の相関を表すグラフである。
【図11】本発明の緯糸ガイドの移動軌跡の一例を示す概略説明図である。
【図12】本発明の緯糸ガイドの移動軌跡の他例を示す概略説明図である。
【図13】両側を経糸で拘束した編地を用いて作製した中空糸膜モジュールの概略図である。
【図14】片側を経糸で拘束した編地を用いて作製した中空糸膜モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図3は、緯糸挿入が可能な代表的な経編機と、その編成時における経糸ガイド及び緯糸ガイドの前後振り動作と、緯糸反転時の緯糸ガイドの反転動作とを模式的に示している。これらの図において、緯糸ガイド3及び経糸ガイド9は同一のガイドハンガー7に取り付けられているが、緯糸ガイド3はガイドハンガー7に対して横振り往復動可能に設けられており、緯糸1を編幅全体に挿入できる。ガイドハンガー7に多数の経糸ガイド9が並列して固定されており、図2a及び図2bに示すように、ガイドハンガー7がその回動軸7aを中心に前後に揺動(スイング)することにより、多数の前記経糸ガイド9が同経糸ガイド9に対応する数の経糸針8の列を挟んで前後にスイングする。このとき、緯糸ガイド3もガイドハンガー7の前記回転軸7aを中心として同様にスイングする。また、このスイング時に多数の経糸針8は針板12に形成された多数の図示せぬ針溝に沿って上下に動き、そのガイドハンガー7の動きに合わせて前記経糸ガイド9は一斉に編幅方向に横振り運動(ショギング)を行う。経糸針8の上下動と、経糸ガイド9のスイングとショギングの複合した動作を行い、経糸4の編目を形成し、これを繰り返すことにより編成が進む。しかしながら、この経糸4の編目が形成されるときに、緯糸ガイド3に対して緯糸挿入のための横振り動作を同時にさせると、緯糸ガイド3と経糸針8とが干渉するため、緯糸ガイド3が経糸針8より後部側に位置している間は、緯糸ガイド3を編幅端部から横振り運動をさせないようにしておく必要がある。
【0020】
すなわち、経糸ガイド9のショギング時(経編目形成時)には緯糸ガイド3を経糸針8の後部側で待機させ、その横振り動作を停止させておく。しかして、前方へのスイング動作によって緯糸ガイド3が経糸針8より前部側の位置に移ると、次回の緯糸挿入のため緯糸ガイド3は横振り動作を開始し、経糸針8の鉤の突出していない前部を編幅全体にわたって移動する。緯糸ガイド3が編幅端部に達すると、そこで横振り動作は一旦停止し、経糸針8の上下動と、経糸ガイド9のスイングとショギングの複合した動作を行い、先に挿入されている緯糸1を、そのとき形成される経編目に挿入して編み込む。緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9が以上の動作を繰り返して編成が進行する。
【0021】
これらの緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9の従来の動きを、図1及び図2に基づいて具体的に説明する。
【0022】
図1に示すように、単一の上記ガイドハンガー7は編成部の全幅にわたって延設されている。このガイドハンガー7は長尺の円筒軸7bを有し、その中心に上記回転軸7aが挿入され、回転軸7aの回転とともに前記円筒軸7bを回転させる。前記回転軸7aは緯糸ガイド駆動装置6と連動して、図示せぬ駆動部により所定の角度の間を正逆回転する。前記円筒軸7bには、図2に示すように、その長さ方向に所定の間隔をおいて平行に固設されたブラケット7cを有しており、ブラケット7cには、緯糸ガイド3の走行を案内するガイドレール7dと、このガイドレール7dと所要の角度で長さ方向に交差するように配された多数の経糸ガイド9を支持する経糸ガイド支持部材7eとが固設されている。
【0023】
緯糸ガイド3は、図1及び図2に示すように、上下方向の中央部でく字状に前方に屈曲する板部材3aと、同板部材3aの上半部前面に配され上記ガイドレール7dを上下から挟んで転動する4個の転動ロール3bと、前記板部材3aの下半部後面に配され、左右ロール対の間において緯糸1をガイドする左右一対の緯糸ガイドロール3cと有している。前記経糸ガイド9は直線状のピン部材からなり、その下端には経糸を案内する目孔9aが形成されている。前記緯糸ガイド3の下半部後面の下方延長面と多数の前記経糸針8の針列により形成される前面の下方延長面とが交差する。経糸ガイド9は細長い円筒部材であってもよく、その場合には経糸を円筒内部を挿通させてガイドする。
【0024】
ガイドハンガー7を介してガイドレール7dとガイド支持部材7eとを前後方向に揺動(スイング)させるための図示せぬ駆動機構と、緯糸ガイド3を横振りさせるためのエンドレスベルト5を駆動する緯糸ガイド駆動装置6とは連動しており、緯糸ガイド3は、両機構により伝達される運動を複合した複合運動をするようになっている。本発明における緯糸ガイド3は、経糸ガイド9のスイング運動とショギング運動に同期して同じくスイングとショギングを行う。そのときの経糸ガイド9の一回のスイング、すなわち緯糸ガイド3の一回のスイング時間は緯糸ガイド3の片道の横振り時間に一致している。
【0025】
以上の従来の構成に対して、本発明にあっては、図6Aに示すように、上記針板12上に配列された多数の経糸針のうち、編幅方向左右の最端部にある経糸針8の外側(折り返し端側)に隣接させて、本発明の特徴部の一つである緯糸折り返しガイド11を設けている。この緯糸折り返しガイド11は経糸針8と同等の長さをもつピン部材からなることが好ましく、その断面は円形又は楕円形であって、更には上端に向けてその断面積が漸減するような形状であることが望ましい。かかるピン部材からなる緯糸折り返しガイド11が、前記針板12の図示せぬガイド溝に上下動可能に嵌着されている。この緯糸折り返しガイド11の上下駆動は、上記経糸針8の駆動源によりなされ、緯糸折り返しガイド11と全ての経糸針8とが同じタイミングで同一の行程を上下動する。
【0026】
前述のような緯糸折り返しガイド11を備えた本発明に係る緯糸挿入経編機と、緯糸折り返しガイド11を備えていない従来の緯糸挿入経編機とによる、編成部における緯入れ時の緯糸ガイド3、経糸針8、経糸ガイド9及び緯糸折り返しガイド11の複合運動の差異について詳しく説明する。
【0027】
図3は、従来の代表的な緯糸挿入経編機の編成部における緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9の動きを示している。
いま、図3Aに示すように、経糸針8が図示せぬ針溝から押し上げられて、針板12の上面から上方に向けて起立状態にあり、経糸ガイド9は経糸4の経編目を形成すべく、経糸4を先に挿入された緯糸1を跨ぐようにして経糸針8の前部右側にガイドしている。この状態から図3Bに示すように経糸ガイド9は経糸針8の右側を通ってその後側に回り込むスイング動作及びショギング動作の複合した動きをして、経糸4を経糸針8に巻き回す。このとき、緯糸ガイド3もまた経糸ガイド9と同じ動きをする。すなわち、緯糸ガイド3もまた、経糸ガイド9と同様に、経糸針8の左斜め後方に位置するようになる。
【0028】
ここで、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3がスイング動作により経糸針8の後部側から前部側へと移動しながら、経糸針8が針溝を下降して経編目を形成する。このとき緯糸1は、図3Cに示すように、前記経編目により拘束される。スイング動作により後方から前方へ移動中に、緯糸ガイド3の位置が経糸針8よりも前部側になると、緯糸ガイド3は前記経編目を中心に経糸針8の前部にて折り返し、経糸針8列の前面を通過して右方向へと走行する。
【0029】
緯糸ガイド3が右方向に走行して編幅の右端に達すると、緯糸ガイド3、経糸針8及び経糸ガイド9は緯糸ガイド3の折り返し方向を逆にする以外、同様の動きをして、左端部にて右方向に走行してきた緯糸1を拘束しつつ経編目を形成したのち緯糸ガイド3を反転させる。その後、緯糸ガイド3は右端の経糸針8の前部を通過して左方向へと走行する。この走行中の左端部の経糸針8と経糸ガイド9とは図3Dに示す位置関係にある。ここで、右側から経糸針8列の前面を走行してきた緯糸1が左端部に達すると、図3A〜Cに示す動きをして、新たな緯糸挿入経編目を形成する。
【0030】
以上の説明から理解できるとおり、この従来の緯糸挿入編機による緯糸挿入経編編成機構では、その緯糸ガイド3の運動軌跡は、図5に示すように、編幅の左右端部において経糸針8と干渉しない外側の位置にて、経糸針8の前後を一旦往復するスイングをして経糸針8の前部へと戻り、そこから経糸針8列の前面を移動する、全体にコ字状を描く。すなわち、緯糸ガイド3は、その移動両端において横振り動作を停止して、経糸針8の下降運動と経糸ガイド9のスイング及びショギングの複合動作とからなる経糸編成の動作を待ったのちに緯糸ガイド3を横振りさせることが必要であった。この停止時間は緯糸1の挿入時間の短縮を阻害する要因となっている。かかる要因は、経糸ガイド9が経糸針8の後部までスイングしショギングを行って経糸編成を行う必要があることと、さらに、経糸針8は後部に向かって突出する鉤状とされており、経糸ガイド9が経糸針8の後部にあるとき、緯糸ガイド3が経糸針8の後部を移動して緯糸1を経糸針8の後ろに挿入しようとすると、緯糸1が経糸針8に引っ掛かってしまい、編地2を編成することが出来ないことによる。
【0031】
本実施形態では、図6に示し、既述したとおり、経糸針8の緯糸反転側に隣接させて、新たに緯糸1を折り返すときに案内する折り返しガイド11を設けている。その他の構成は上記従来の緯糸挿入経編機と実質的に変わるところがない。従って前記折り返しガイド11以外は、図3に示した従来編機と同じ部材名及び引用符号を用いている。
【0032】
本実施形態において、前記折り返しガイド11の形状は真っ直ぐな円柱形状とした。なお、前記折り返しガイド11の形状は、折り返しガイド11を下降させるときに、折り返しガイド11を支点に折り返した緯糸1が折り返しガイド11から抜ければよいので、局部的に摩擦抵抗が生じない楕円形の柱状形状や、上下で太さを変化させた柱状形状など種々選択が可能である。前記折り返しガイド11を支点に緯糸1を折り返し、緯糸ガイド3を経糸針8の後方を走行させて、経糸編成中も緯糸ガイド3を移動させるようにしている。また、本実施形態では緯糸ガイド3は中空糸膜(緯糸1)の損傷をより小さくするためにロールを用いているが、これに限定されるものではなく、例えばリングの中に糸を通してガイドするリングガイドを用いることも可能である。
【0033】
かかる構成を備えた本発明の緯糸挿入経編機の編成部における各構成部材間の編成動作を図6及び図8に基づいて具体的に説明する。
【0034】
図6Aに示すように、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3は経糸針8よりも前方にあり、同図の右側から走行してきた緯糸ガイド3は、経糸針8及び折り返しガイド11の前方を通過して、緯糸1を経糸針8及び折り返しガイド11の前部に挿入する。このときは、緯糸1が経糸針8列の前面を通過し、緯糸ガイド3は経糸針8の鉤の突出側とは反対側を通過するため、緯糸1も緯糸ガイド3も経糸針8と干渉することがない。経糸ガイド9及び緯糸ガイド3は、緯糸1が折り返しガイド11を通過するとき、後方へスイングを開始し、緯糸ガイド3を移動端まで移動させる。次いで、図6Bに示すように、経糸ガイド9及び緯糸ガイド3を更に後方へスイングさせ続けると同時に反転させて、緯糸ガイド3に反対方向(同図の右方向)の移動を開始させる。すなわち、緯糸1は折り返しガイド11を支点に折り返し、緯糸ガイド3を折り返しガイド11及び経糸針8の後方を通過させて、緯糸1を経糸針8の後方において挿入を開始する。
【0035】
このとき、経糸ガイド9は、図6Cに示すように、ショギング動作により経糸4を経糸針8に掛け回しながら、同時に前方にスイングしたのち、経糸針8が下降して経編目を形成し、既に経糸針8の前部に緯入れされた緯糸1を経糸4の経編目によって拘束する。このときの経糸針8の下降位置は、図6Cに示すとおり、既に挿入されて拘束されている緯糸1よりも低い位置となる。経糸針8の下降とともに折り返しガイド11も同様に下降して、折り返しガイド11が緯糸1の折り返し端から抜け出す。この折り返し端から折り返しガイド11が抜かれると、経糸針8もまた下方に位置するため、経糸針8の後方位置を右方向へと走行する緯糸1は、経糸針8により干渉されない。ここで、経糸ガイド9とともに緯糸ガイド3が、針板12の針溝内に退避している経糸針8の前方へとスイングする間に、緯糸1は前記緯糸ガイド3に導かれて経糸針8より前方へと移動する。この移動時に、折り返しガイド11にて反転した緯糸1の折り返し位置は、折り返し側端部の経糸針8の位置、すなわち経糸4の位置に移っている。ここで、図6Dに示すように、経糸針8と折り返しガイド11が一緒に上昇して、次回の経糸編みの準備が整う。
【0036】
以上の説明から理解できるとおり、本発明による緯糸挿入経編機では、緯糸1は左右の編み幅の一端部において経糸針8の前方を通過して、その後方を折り返しガイド11に案内されて反転した後に、経糸針8及び折り返しガイドが下降して先に挿通されている緯糸を拘束しながら経編目を形成する。折り返しガイド11に案内されて反転した緯糸ガイド3は、そのまま停止することなく、或いは折り返し点で一時的に瞬時停止状態になり、編幅方向の他端側に向かって走行を開始する。この経糸針8が下降している間に、ガイドハンガー7は後方から前方へとスイングするため、それまで経糸針8の後方にあった緯糸1は、経糸針8と折返しガイド11が下降限まで下降して、折返しガイド11が緯糸1の折返し端から抜け出したとき、経糸針8列の前方へと移ることになる。すなわち、前方及び後方へのガイドハンガー7のスイングの運動と左右への緯糸ガイド3の横振り移動の複合運動により、緯糸ガイド3は図8に示すような左右に配された折り返しガイド11を巡って8の字状の軌跡を描く。ここで、図8に示す実施形態では、経糸針8と折り返しガイド11が同一直線上に隣接して配されているが、経糸針8を折り返しガイド11よりも僅かに前方に変位させて配することもできる。
【0037】
経糸針8を上下させる駆動機構と折り返しガイド11を上下させる駆動機構は異なる機構で構成することも可能であるが、同一の機構を用いる方が装置構成が簡単になり好ましい。緯糸ガイド3は折り返しガイド11の外側を通過する必要があるが、経糸針8から折り返しガイド11までの緯糸ガイド3の移動は緯糸挿入工程に直接寄与しない動作であるため、折り返しガイド11は経糸針8に可能な限り近づけて設置するのが好ましい。
【0038】
本発明により、編幅方向左右の緯糸折り返し端部にて緯糸1を経編目により拘束するにあたって、図8に示すように、緯糸1を左右に配された折り返しガイド11を巡って8の字状の軌跡を描くように移動させる場合に限らず、ある程度、編成速度の低下や張力変動を容認する場合、例えば、図11に示すように左右に配された折り返しガイド11の一方を排除し、その折り返し端部では従来と同様の経糸針8による経編目を編成するとともに、折り返しガイド11が残された他方の折り返し端部において、緯糸ガイド3を折り返しガイド11を巡らせるようにして緯糸1を巡らせながら経糸針8により経編目を編成し、編幅方向左右の緯糸折り返し端部にて緯糸1を経編目により拘束するようにしてもよい。
【0039】
こうして、編幅方向左右の緯糸折り返し端部にて緯糸1を経編目により拘束して得られる編地2は、例えば図13に示すように、ハウジング14と中空糸膜編地13とからなる中空糸膜モジュール15を作製する場合に用いられる。この場合、中空糸膜編地13の両端をハウジング14に固定するにあたって、中空糸膜編地13の両端が経糸4によって拘束されているため、その緯糸1(中空糸膜)の折り返し端を切断しやすく、ハウジング14への固着もしやすい。
【0040】
更に本発明の編成方法によれば、編地2を編成するにあたり、編地2の編成速度を増加させる観点からは、上記実施形態のように、緯糸1を編幅方向左右の折り返し端部の折り返しガイド11を巡らせて、図8に示すように8の字状の軌跡を描くように走行させて、編幅方向左右の折り返し端部において緯糸1を経編目により拘束することが好ましいが、ある程度の編成速度の低下や張力変動を犠牲してもよい場合は、緯糸1の片側の折り返し端部のみを経編目により拘束することもできる。しかして、この片側のみによる拘束の場合であっても、従来以上に編成速度を高めるには、本発明における上記折り返しガイド11を設置して、本発明による上述のような緯糸1の移動動作を行わせることが好ましい。本発明方法を使って、片側のみにて緯糸1を拘束する編成方法として最も簡単な方法は、例えば上記実施形態にあって編幅方向左右の緯糸折り返し端部に配される一方の経糸針8に経糸4を供給せずに編成を行うだけでも、編幅方向左右の緯糸折り返し端部の片側のみにて緯糸1を拘束することができる。
【0041】
他の方法としては、例えば図12に示すように、緯糸1の編幅方向左右の折り返し端部の一方のみに、本発明の編成方法における折り返しガイド11を配し、他方の折り返し端部は従来と同様の編成機構を使い、その折り返し端部を経編目により拘束するようにする。そのため、同図に示すように、折り返しガイド11を設置した端部には経糸針8を併設せず、他方の折り返し端部には折り返しガイド11を設置せずに経糸針8のみを配している。
【0042】
片側のみ経糸で拘束する編地2は、例えば、図14に示すハウジング14と中空糸膜編地13からなる、中空糸膜の片側が拘束されていない自由端とする中空糸膜モジュール15を作製する場合に用いられる。中空糸膜編地13の拘束しない側は、例えば、その側で経糸を使用しないことで作製される。このように作製された自由端はループ状となっており、先端は開口していない。そのため、圧着や、熱または超音波による融着などをして封止する必要が無く、中空糸膜の片端を自由端とする中空糸膜モジュールを容易に作成することが出来る。
【0043】
次に、実施例1及び比較例1をもって本発明及び従来の緯糸挿入経編機における緯糸挿入に要する時間と経編編成に要する時間との配分割合を具体的に説明する。
【実施例1】
【0044】
折り返しガイド11を設置し、緯糸ガイド3を経糸針8の前部と後部を走行するようにして、図8に示すような軌跡を描かせるようにし、緯糸1を経糸針8の前部と後部に挿入するようにした。折り返しガイド11を上下に駆動させる機構は、経糸針8を上下に駆動させる機構と同じものを使用して、折り返しガイド11と経糸針8とを同時に上下に駆動するようにした。図9は、時間に対する緯糸ガイド3の位置を表すグラフである。経編機の全稼働時間に対する緯糸1の挿入工程の時間の割合は、87.5%であった。
【比較例1】
【0045】
編機の速度、すなわち編地2の編成速度を実施例1と同一とした。折り返しガイド11を設置せず、緯糸ガイド3を、従来と同様に経糸針8の前部のみを走行するようにして、図5に示すようなコ字状の軌跡を描かせるようにした。 図10は、比較例1における時間に対する緯糸ガイド3の位置を表すグラフである。経編機の全稼働時間に対する緯糸1の挿入工程の時間の割合は、50%であった。
【0046】
図4及び図7から、実施例1にあっては、比較例1と同一の編地編成速度において、緯糸の挿入工程に要する時間が著しく増加していることが理解できる。つまり、全編成速度に対する緯糸ガイドの加速度及び速度を相対的に低下させることができた。すなわち、本実施例1の構成において、緯糸ガイドの加速度及び速度を比較例1と同一とした場合に、編地の編成速度を比較例1の87.5/ 50=1.75倍にすることができる。
【0047】
なお、図11及び図12に示す本発明の実施形態にあっても、比較例1と比較すると、比較例は、例えば経編機の全稼働時間に対する緯糸1の停止時間の割合は、50%であるのに対して、図11及び図12に示す本発明の実施形態では、緯糸1の停止時間の割合が、50%×(1/2)に短縮され、それだけ緯糸1の挿入時間が確保でき、上記実施例1と比較すると編地の編成速度は低くなるとは言え、比較例よりも編成速度を高めることができる。
【0048】
以上、具体的に説明したとおり、本発明によれば、緯糸ガイドの加速度及び速度を増加させることなく、編地2の編成速度のみを増加することが出来る。
【符号の説明】
【0049】
1 緯糸
2 編地
3 緯糸ガイド
3a 板部材
3b 転動ロール
3c 緯糸ガイドロール
4 経糸
5 エンドレスベルト
6 緯糸ガイド駆動装置
7 ガイドハンガー
7a 回転軸
7b 円筒軸
7c ブラケット
7d ガイドレール
7e 経糸ガイド支持部材
8 経糸針
9 経糸ガイド
9a 目孔
10 緯糸ガイドの移動軌跡
11 折り返しガイド
12 針板
13 中空糸膜編地
14 ハウジング
15 中空糸膜モジュール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する編地の製造方法であって、
編幅の少なくとも一方の緯糸の折り返し端部において、緯糸ガイドを経糸針の前部を通したのち経糸針の後部へと反転して走行させ、緯糸を経糸組織に挿入する、編物の編成方法。
【請求項2】
緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、同折り返しガイドを経糸針と同期して同一動作をさせることを含んでなる、請求項1に記載の編物の編成方法。
【請求項3】
緯糸の折り返し端部のそれぞれに経糸針を配し、各経糸針により経編目を形成して、同経編目により緯糸の各折り返し端をそれぞれ拘束する、請求項1又は2に記載の編物の編成方法。
【請求項4】
編幅方向の両端における一方の緯糸の折り返し端部に経編目を形成し、他方の緯糸の折り返し端部に経編目を形成せずに、前記一方の緯糸の折り返し端部のみを経編目により拘束する、請求項1又は2に記載の編物の編成方法。
【請求項5】
緯糸が中空糸膜である、請求項1〜4のいずれかに記載の編物の編成方法。
【請求項6】
編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する経編地の製造装置であって、
緯糸の折り返し端部において、緯糸ガイドを緯糸の折り返し端部に配された経糸針の前部を通したのち同経糸針の後部へと経糸ガイドのスイング動作と同期して反転させて走行させる反転機構を有してなる、経編機。
【請求項7】
緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して配される緯糸の折り返しを案内するための折り返しガイドを有してなる、請求項6に記載の経編機。
【請求項8】
前記経糸針が緯糸の折り返し端部の一方の折り返し端部にのみ配されてなる、請求項6又は7に記載の経編機。
【請求項9】
緯糸を折り返す折り返しガイドを経糸針の編成動作に合わせて同時に同一動作をさせる作動機構を有してなる、請求項6〜8のいずれかに記載の経編機。
【請求項10】
緯糸を折り返す折り返しガイドが円形又は楕円計の断面を有するピン部材からなる、請求項6〜9のいずれかに記載の経編機。
【請求項11】
経編機がラッセル編機である、請求項10に記載の経編機。
【請求項1】
編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する編地の製造方法であって、
編幅の少なくとも一方の緯糸の折り返し端部において、緯糸ガイドを経糸針の前部を通したのち経糸針の後部へと反転して走行させ、緯糸を経糸組織に挿入する、編物の編成方法。
【請求項2】
緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して緯糸の折り返しを案内する折り返しガイドを設け、同折り返しガイドを経糸針と同期して同一動作をさせることを含んでなる、請求項1に記載の編物の編成方法。
【請求項3】
緯糸の折り返し端部のそれぞれに経糸針を配し、各経糸針により経編目を形成して、同経編目により緯糸の各折り返し端をそれぞれ拘束する、請求項1又は2に記載の編物の編成方法。
【請求項4】
編幅方向の両端における一方の緯糸の折り返し端部に経編目を形成し、他方の緯糸の折り返し端部に経編目を形成せずに、前記一方の緯糸の折り返し端部のみを経編目により拘束する、請求項1又は2に記載の編物の編成方法。
【請求項5】
緯糸が中空糸膜である、請求項1〜4のいずれかに記載の編物の編成方法。
【請求項6】
編幅全体にわたって緯糸ガイドを往復させて緯糸を経糸組織に折り返し挿入し、前記緯糸を経糸によって拘束して編成する緯挿入糸を有する経編地の製造装置であって、
緯糸の折り返し端部において、緯糸ガイドを緯糸の折り返し端部に配された経糸針の前部を通したのち同経糸針の後部へと経糸ガイドのスイング動作と同期して反転させて走行させる反転機構を有してなる、経編機。
【請求項7】
緯糸の折り返し端部に配された経糸針の折り返し端部側に隣接して配される緯糸の折り返しを案内するための折り返しガイドを有してなる、請求項6に記載の経編機。
【請求項8】
前記経糸針が緯糸の折り返し端部の一方の折り返し端部にのみ配されてなる、請求項6又は7に記載の経編機。
【請求項9】
緯糸を折り返す折り返しガイドを経糸針の編成動作に合わせて同時に同一動作をさせる作動機構を有してなる、請求項6〜8のいずれかに記載の経編機。
【請求項10】
緯糸を折り返す折り返しガイドが円形又は楕円計の断面を有するピン部材からなる、請求項6〜9のいずれかに記載の経編機。
【請求項11】
経編機がラッセル編機である、請求項10に記載の経編機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−59596(P2010−59596A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105436(P2009−105436)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】
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