説明

編物及び洗浄具

【課題】使用者の好みに応じて洗浄面を選択できる浴用ボディタオルを提供する。
【解決手段】編地Aと編地Bとを積層し、編地A及び編地Bにおける左右の縁部に沿った所定箇所を連結糸Tによって互いに連結することにより、浴用ボディタオルを、編地Aと編地Bとが一体化された筒状のものとした。編地A及び編地Bのそれぞれには、パイル糸Tを編み込んで、編地Aの内面及び編地Bの内面に複数のパイルP,Pを形成した。一方、編地Aの外面及び編地Bの外面には、パイルP,Pが形成されないようにした。この浴用ボディタオルは、その内外を裏返すことにより、外側に露出する洗浄面を、パイルP,Pが形成された面と、パイルP,Pが形成されていない面とで切り替えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体を洗う際に使用する浴用ボディタオルなど、洗浄具として好適に採用することのできる編物に関する。また、この編物で形成した洗浄具に関する。
【背景技術】
【0002】
風呂場で身体を洗う際に使用する浴用ボディタオルには、洗浄に使用する面(洗浄面)が柔らかめに形成されたものと、硬めに形成されたものとがある。
【0003】
柔らかめの浴用ボディタオルとしては、その洗浄面にパイルが形成されたものや、その素材に天然繊維を採用したものなどが例示される。この種の浴用ボディタオルは、肌触りが優しく、肌を傷つけにくいため、女性や肌の弱い人を中心に人気がある。しかし、柔らかめの浴用ボディタオルは、垢すり効果やマッサージ効果が得られにくく、物足りないと感じる者も多い。
【0004】
一方、硬めの浴用ボディタオルとしては、その洗浄面を形成する糸の素材に化学繊維を用いたものなどが例示される。硬めの浴用ボディタオルは、垢すり効果やマッサージ効果を得やすく、洗浄後に爽快感を得ることができるため、それを好んで使用する者も多い。しかし、硬めの浴用ボディタオルは、肌触りが硬く、肌を傷つけるおそれがあったため、女性や肌の弱い人の中には敬遠する者も多かった。
【0005】
このように、柔らかめの浴用ボディタオルと硬めの浴用ボディタオルは、一長一短であるため、使用者は、その好みに応じて、柔らかめの浴用ボディタオルを購入するか、硬めの浴用ボディタオルを購入するかを決めていたが、近年は、1枚で、ソフトな感触とハードな感触の両方を得ることができるようにした浴用ボディタオルも提案されるようになっている。
【0006】
例えば、特許文献1には、表面側が天然繊維で形成され、裏面側が化学繊維で形成された浴用ボディタオルが記載されている。特許文献1の浴用ボディタオルは、肌触りの柔らかさを重視する場合には、天然繊維で形成された表面側で身体を洗い、垢すり効果やマッサージ効果を重視する場合には、化学繊維で形成された裏面側で身体を洗うものとなっている。
【0007】
また、特許文献2には、表裏両面にパイルを形成し、一方の面から露出するパイルを無撚糸で形成し、他方の面から露出するパイルを結束糸で形成した浴用ボディタオルが提案されている。特許文献2の浴用ボディタオルは、肌触りの柔らかさを重視する場合には、無念糸でパイルが形成された面で身体を洗い、垢すり効果やマッサージ効果を重視する場合には、結束糸でパイルが形成された面で身体を洗うものとなっている。
【0008】
このように、特許文献1や特許文献2の浴用ボディタオルでは、使用者がその好みに応じて、洗浄面を使い分けることができる。しかし、特許文献1や特許文献2の浴用ボディタオルは、その表と裏とがひっくり返るだけで洗浄面が入れ替わるものであったため、それで身体を洗っている間や、それを手から離した間に、その表と裏とが入れ替わってしまい、そのうち、どちらの面で身体を洗っているのかが分からなくなりやすいという欠点を有していた。また、浴用ボディタオルを丸めた状態で身体を洗う人も多いが、特許文献1や特許文献2の浴用ボディタオルを丸めた状態で使用していると、その一方の面だけを使用して洗っているつもりでも、他方の面が身体に当たってしまうおそれもあった。
【0009】
これに対して、特許文献3には、外面が天然繊維で形成され、内面が化学繊維で形成され、その内面が外面となるように裏返すことにより、洗浄面を切替えることができるようにした袋状の浴用ボディタオルが記載されている。特許文献3の浴用ボディタオルは、洗浄面を切り替える際に、袋の中に手を挿入するという操作が必要となるため、それで身体を洗っている間や、それを手から離した間に、洗浄面が入れ替わる心配がないものとなっている。
【0010】
しかし、特許文献3の浴用ボディタオルは、天然繊維で編成された天然繊維部と化学繊維で編成された化学繊維部とがウェール方向に繰り返し形成された筒状の編物を、隣り合う1組の天然繊維部と化学繊維部とが1つの単位になるように裁断することにより製造されるもの(特許文献2における[0031]、[0032]及び図3を参照。)であったため、裁断する長さを後から変更することができなかった。
【0011】
加えて、特許文献3の浴用ボディタオルは、裁断されたそれぞれの編物に対して、折り返しと縫着とを繰り返し行うもの(特許文献2における[0033]〜[0036]及び図3を参照。)となっていたため、その製造工程が非常に複雑で、製造コストを削減しにくいものとなっていた。
【0012】
また、特許文献2の浴用ボディタオルのように、洗浄面にパイルが形成されたものは、柔らかな肌触りだけでなく、泡立ちや泡持ちの良さも期待できるものの、特許文献1の浴用ボディタオルや特許文献3の浴用ボディタオルにはパイルが形成されておらず、泡立ちや泡持ちに関しては特段優れた効果は奏されないものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−271036号公報
【特許文献2】特開2000−079072号公報
【特許文献3】特開2005−279189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、使用者の好みに応じて洗浄面を選択できるにもかかわらず、使用時に洗浄面が意図せずに入れ替わるおそれもなく、泡立ちや泡持ちも良好で、浴用ボディタオルとして好適に採用することができるだけでなく、裁断する長さを事後的に決定することができ、製造コストを削減することも容易な編物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、編地Aと編地Bとが積層され、編地A及び編地Bにおける左右の縁部に沿った所定箇所が互いに連結されることにより、編地Aと編地Bとが一体化されて筒状又は袋状に形成された編物であって、編地A及び編地Bにパイル糸が編み込まれることにより、編地Aの内面及び編地Bの内面に複数のパイルが形成される一方で、編地Aの外面及び編地Bの外面には前記パイルが形成されず、内外を裏返すことにより、外側に露出する洗浄面を前記パイルが形成された面と形成されていない面とで切り替えることができるようにしたことを特徴とする編物を提供することによって解決される。
【0016】
このように、筒状又は袋状の編物における内面(内周面)のみに複数のパイルを形成するとともに、編物を内外に裏返すことが可能な形態とすることによって、編物における外側に露出する洗浄面の肌触りを切り替えることが可能になる。したがって、使用者の好みに応じて洗浄面を選択できる浴用ボディタオルを提供することも可能になる。
【0017】
例えば、前記複数のパイルが形成されていない面を洗浄面として使用した場合には、編地Aや編地Bを編成した糸の素材などに応じた硬めの肌触りを得ることができる。一方、前記複数のパイルが形成された面を洗浄面として使用した場合には、パイルを形成する糸の素材などに応じた柔らかめ肌触りを得ることができる。また、パイルによって良好な泡立ちと泡持ちを実現することもできる。さらに、編物を筒状又は袋状としたことによって、その洗浄面を切り替える際には、編物の開口縁から編物の内部に手を挿入するという操作が必要となるため、それを使用している間に意図せず洗浄面が入れ替わる心配もなくなる。
【0018】
本発明の編物において、編地Aや編地Bを編成する糸の素材や、パイル糸の素材は、特に限定されないが、編地A及び編地Bを天然繊維によって編成し、パイル糸を化学繊維によって形成すると好ましい。これにより、前記複数のパイルが形成された面の肌触りを柔らかくなりすぎずない適度な範囲に保つとともに、前記複数のパイルが形成されていない面の肌触りを硬すぎない適度な範囲に保つことが可能になる。また、パイル糸を化学繊維で形成することによって、前記複数のパイルが形成された面を洗浄面として使用する場合は勿論のこと、前記複数のパイルが形成されていない面を洗浄面として使用する場合の泡立ちや泡持ちをさらに良好にすることが可能になる。
【0019】
ところで、本明細書において、「天然繊維」という語は、特に断りが無い限り、一般的な概念の天然繊維(植物や動物などの天然素材を原料とする繊維)だけでなく、天然繊維に近い肌触りを有する一部の化学繊維をもその概念に含むものとする。本明細書における「天然繊維」としては、綿や麻などのセルロース系天然繊維や、絹や羊毛などのタンパク質系天然繊維や、セルロースなどの天然素材を融かして作ったレーヨンやキュプラやテンセルなどの再生繊維(一般的な概念では、再生繊維は化学繊維に分類される。)などが例示される。
【0020】
一方、本明細書において「化学繊維」という語は、一般的な概念の化学繊維(化学的な合成や加工によって作られる繊維)から、本明細書において「天然繊維」の概念に含まれるとした一部の化学繊維(再生繊維など)を除いたものを意味するものとする。本明細書における「化学繊維」としては、ポリアミド系合成繊維やポリエステル系合成繊維やポリオレフィン系合成繊維などの合成繊維や、セルロース系半合成繊維やタンパク質系半合成繊維などの半合成繊維などが例示される。
【0021】
具体的には、ポリアミド系合成繊維としては、ナイロン6やナイロン66などが例示され、ポリエステル系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどが例示され、ポリオレフィン系合成繊維としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどが例示される。また、セルロース系半合成繊維としては、ジアセテートやトリアセテートなどが例示され、タンパク質系半合成繊維としては、プロミックスなどが例示される。レーヨンやキュプラなどの再生繊維は、本明細書における化学繊維の概念には含まれない。
【0022】
また、本発明の編物において、編地Aと編地Bとを連結する前記所定箇所は、編地A及び編地Bにおける左右の縁部に沿った少なくとも一部分であれば特に限定されないが、編地Aと編地Bとの連結の強度を高くするためには、編地A及び編地Bにおける左右の縁部の全長に亘って設けると好ましい。編地Aと編地Bとを連結する前記所定箇所は、点状や破線状に設けてもよいが、連続線状に設けると好ましい。これにより、表面地と裏面地との連結の強度をさらに高めることが可能になる。編物を袋状とする場合には、編地A及び編地Bにおける左右の縁部に加えて、他の縁部に沿った箇所を連結してもよい。
【0023】
さらに、本発明の編物において、編地A及び編地Bの編目長は、特に限定されないが、ある程度長くしておくと、前記パイルが形成されていない面を洗浄面として使用する場合であっても、編物の内面の前記パイルで発生した泡が外面に到達しやすくなり、編物の洗浄効果を高めることが可能になる。このため、編地A及び編地Bの編目長(ウェール方向とコース方向とで編目長が異なる場合には短い方の編目長)は、0.2mm以上確保しておくと好ましい。編地A及び編地Bの編目長は、0.5mm以上であるとより好ましく、0.8mm以上であるとさらに好ましく、1mm以上であると最適である。
【0024】
しかし、編地A及び編地Bの編目長を長くしすぎると、前記複数のパイルが、それらが形成されていない反対側の面に飛び出しやすくなるおそれがある。また、編地Aや編地Bの強度を保ちにくくなるおそれもある。このため、編地A及び編地Bの編目長(ウェール方向とコース方向とで編目長が異なる場合には短い方の編目長)は、通常、10mm以下とされる。編地A及び編地Bの編目長は、9mm以下であると好ましく、8mm以下であるとより好ましく、7mm以下であるとさらに好ましい。本明細書において、「編目長」とは、「JIS L 1018 8.10」に準拠した方法で求めた編目長を意味している。
【0025】
さらにまた、本発明の編物において、編地Aと編地Bは、縁取り部材などを介して縫着することなどにより互いに連結してもよいが、この場合には、編地Aと編地Bとの境界部に肌触りの異なる部分が存在するようになり、この編物を浴用ボディタオルなどとして使用する際に違和感が生じるおそれがある。また、編地A及び編地Bにおける左右の縁部に沿った箇所が硬くなり、編物を内外に裏返しにくくなるおそれもある。さらに、編物の製造工程が複雑になり、製造コストが増大するおそれもある。
【0026】
このため、前記複数のパイルのそれぞれをループパイルで形成し、該ループパイルのうち前記所定箇所に配されたループパイルを編地A及び編地Bの両方に編み込み、前記所定箇所以外に配されたループパイルを編地A又は編地Bのいずれか一方のみに編み込むようにすると好ましい。これにより、編地Aと編地Bとの境界部の肌触りを他の部分の肌触りと同等にして、編物を浴用ボディタオルなどとして使用する際に違和感が生じないようにすることが可能になる。また、編地A及び編地Bにおける左右の縁部に沿った箇所が硬くなることもないので、編物を裏返しにくくなることもない。
【0027】
そして、編物を編成する編機として、ダブルラッシェル機(ダブルラッセル機とも呼ばれる。)などを用いることにより、編地Aの編成と、編地Bの編成と、パイルの形成(パイル糸によるループパイルの編み込み)と、編地Aと編地Bとの連結とを、一つの工程(ワンショット)で行うことも可能になる。したがって、編地Aと編地Bとを別個に編成して、その後、編地Aと編地Bとを後で連結するといった複数の工程を経なくても、本発明の編物を製造することが可能になる。したがって、編物の製造コストを抑えることが可能になる。
【0028】
ところで、本発明の編物において、前記ループパイルは、編地Aの内面及び編地Bの内面における実質的に全体に設けてもよい。しかし、本発明の編物を上述したダブルラッシェル機で編成するような場合には、編地Aに、前記ループパイルが形成された区画αと前記ループパイルが形成されていない区画α’とを形成するとともに、編地Bに、前記ループパイルが形成された区画βと前記ループパイルが形成されていない区画β’とを形成し、区画αに対向する位置に区画βが配されないようにすると好ましい。
【0029】
これにより、本発明の編物をダブルラッシェル機などで用いてワンショットで編成する場合であっても、編地A及び編地Bにおける左右の縁部の全長に亘って編地Aと編地Bとを連結することが容易となり、編物の強度を高めることが可能になる。また、編物の見た目に変化をもたせて、編物のデザイン性を高めることも可能になる。区画αに対向する位置に区画βが配されないようにした具体例としては、編地Aの内面に区画αと区画α’とを縞状に形成するとともに、編地Bの内面に区画βと区画β’とを縞状に形成し、編地Aにおける区画αと編地Bにおける区画βとを互い違いに配した場合などが挙げられる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によって、使用者の好みに応じて洗浄面を選択できるにもかかわらず、使用時に洗浄面が意図せずに入れ替わるおそれもなく、泡立ちや泡持ちも良好で、浴用ボディタオルとして好適に採用することができるだけでなく、裁断する長さを事後的に決定することができ、製造コストを削減することも容易な編物を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】パイルが形成されていない面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)の断面を模式的に表した断面図である。
【図2】パイルが形成された面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)の断面を模式的に表した断面図である。
【図3】パイルが形成された面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)を示した斜視図である。
【図4】パイルが形成された面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)を側方から見た状態を示した拡大図である。
【図5】パイルが形成されていない面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)の端面を撮影した拡大写真である。
【図6】パイルが形成されていない面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)の側面を撮影した拡大写真である。
【図7】パイルが形成されていない面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)の上面(編地B)を撮影した拡大写真である。
【図8】パイルが形成された面を外側に露出させて洗浄面とした場合における本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)の上面(編地B)を撮影した拡大写真である。
【図9】本発明の浴用ボディタオル(洗浄具)の編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の編物の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。本発明の編物は、浴用ボディタオル、化粧落とし、食器洗い具又は清掃用タオルなどの洗浄具を始めとする各種用途に用いることができ、その用途を特に限定されるものではないが、以下においては、本発明の編物の特性を最も活かすことのできる浴用ボディタオルを例に挙げて説明する。図1〜図9に、本発明の編物を利用した浴用ボディタオルの好適な実施態様を示す。図5〜図8における黒色の生地は、各写真において本発明の浴用ボディタオルの各部を浮き立たせるために配したものであり、本発明の浴用ボディタオルを構成するものではない。また、図7と図8において、編地Aは、編地Bの下側に隠れており、特に符号を付していないが、本実施態様の浴用ボディタオルは、後述するように、編地Aと編地Bとを同一の編み組織によって形成しているため、編地Aの外観は、図7と図8における編地Bと同様である。
【0033】
1.浴用ボディタオルの概要
本実施態様の浴用ボディタオルは、図1に示すように、編地Aと編地Bとが積層されたものとなっている。編地A及び編地Bにおける左右の縁部は、連結糸Tによって互いに連結されている。このため、本実施態様の浴用ボディタオルは、編地Aと編地Bとが一体化されて筒状に形成されたものとなっている。編地A及び編地Bには、それぞれパイル糸Tが編み込まれており、編地Aの内面及び編地Bの内面には複数のパイルP,Pが形成されている。一方、編地Aの外面及び編地Bの外面には、パイルP,Pが形成されていない。このため、本実施態様の浴用ボディタオルは、図1と図2に示すように、その内外を裏返すことにより、外側に露出する洗浄面を、パイルP,Pが形成された面と、パイルP,Pが形成されていない面とで切り替えることができるようになっている。
【0034】
浴用ボディタオルの寸法は、特に限定されない。しかし、浴用ボディタオルの幅(編地Aの内面と編地Bの内面とが全体的に密着するように浴用ボディタオルを扁平に押し潰した際における浴用ボディタオルの開口端(浴用ボディタオルを内外に裏返す際には、通常、この開口端から浴用ボディタオルの内部へ手を挿入する。)の幅。本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、編地A及び編地Bをコース方向に亘る長さに略一致する。)を狭くしすぎると、その内部に手を挿入しにくくなり、浴用ボディタオルを内外に裏返しにくくなるおそれがある。このため、浴用ボディタオルの幅は、通常、10cm以上とされる。浴用ボディタオルの幅は、11cm以上であると好ましく、12cm以上であるとより好ましい。一方、浴用ボディタオルの幅を広くしすぎると、身体を洗う際に浴用ボディタオルを取り扱いにくくなるおそれがある。このため、浴用ボディタオルの幅は、通常、30cm以下とされる。浴用ボディタオルの幅は、25cm以下であると好ましく、20cm以下であるとより好ましい。本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、その幅が約15cmとなっている。
【0035】
また、浴用ボディタオルの長さ(編地Aの内面と編地Bの内面とが全体的に密着するように浴用ボディタオルを扁平に押し潰した際における浴用ボディタオルの開口端に垂直な方向の長さ。本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、編地A及び編地Bをウエール方向に亘る長さに略一致する。)は、想定する仕様形態などによっても異なり、特に限定されない。例えば、浴用ボディタオルを、その内部に手を挿入した状態で使用する手袋タイプとする場合には、通常、10〜50cm、好ましくは、15〜30cmとされる。また、浴用ボディタオルを、その両端を掴んで背中を洗うことのできるロングタイプとする場合には、通常、50〜120cm、好ましくは、70〜100cmとされる。本実施態様の浴用ボディタオルは、長さが約80cmのロングタイプとなっている。
【0036】
2.編地A及び編地B
編地Aと編地Bは、異なる編み組織によって形成されていてもよいが、本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、同一の編み組織によって形成されている。具体的には、編地A及び編地Bは、いずれも縦編みによるつづれ編み構造をなしており、経糸(ウエール糸)と緯糸(コース糸、挿入糸)とをメッシュ状に編成したものとなっている。これら編地Aと編地Bの編成は、後述する編み機を用いることにより、パイルP,Pの形成(パイル糸Tの編み込み)や、編地Aと編地Bの連結(連結糸Tの編み込み)などと、同時に行うことができる。
【0037】
編地A及び編地Bを編成する経糸や緯糸の種類は、特に限定されないが、上述した天然繊維の範疇に属する素材で形成された糸を使用すると好ましい。本実施態様の浴用ボディタオルは、後述するようにパイル糸Tを化学繊維で形成しており、図7に示すように、パイルP,Pが形成されていない面にもパイル糸Tが連鎖状に現れるようになっているため、編地A及び編地Bの両方を天然繊維で形成しても、パイルP,Pが形成されていない面の肌触りを硬めにすることができる。編地A及び編地Bを編成する経糸や緯糸には、採用した天然繊維の種類などによっては、フィラメント糸を採用することもできるが、通常、短繊維を梳いて撚りをかけた紡績糸が用いられる。編地A及び編地Bを編成する経糸や緯糸は、異なる種類の短い天然繊維や化学繊維を混紡した混紡糸であってもよい。本実施態様の浴用ボディタオルにおいて、編地A及び編地Bを編成する経糸や緯糸は、いずれも綿(天然繊維)からなる紡績糸としている。
【0038】
編地A及び編地Bを編成する経糸や緯糸の太さは、編地Aや編地Bに所望の肌触りや引張強さを付与できるのであれば特に限定されないが、通常、10〜100テックスとされる。本実施態様の浴用ボディタオルにおいて、編地A及び編地Bを編成する経糸の太さは綿番手で20(約30テックス)となっており、緯糸の太さは綿番手で10(約60テックス)となっている。経糸を緯糸よりも細くしているのは、後述するように、それぞれの経糸に沿ってパイル糸Tを編み込んでいるため、経糸を細くしても、編地Aの編地Bの経方向(ウエール方向)の引張強さを確保することができるからである。編地A及び編地Bの編目長も、特に限定されないが、本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、経方向(ウエール方向)の編目長が約1.7mmとなっており、緯方向(コース方向)の編目長が約4mmとなっている。
【0039】
3.パイル糸及び連結糸
本実施態様の浴用ボディタオルにおいて、パイル糸Tと連結糸Tは、いずれもループパイルを形成している。これらのループパイルのうち、編地A及び編地Bにおける左右の縁部付近に形成されたループパイルは、編地A及び編地Bの両方に編み込まれ、編地A及び編地Bを連結するのに寄与している。換言すると、編地A及び編地Bにおける左右の縁部付近に編み込まれるパイル糸Tを編地Aと編地Bの両方に編み込んで連結糸Tとしている。一方、編地A及び編地Bにおける左右の縁部以外に形成されたループパイル(図1におけるパイルP,P)は、編地A又は編地Bのいずれか一方のみに編み込まれている。パイルP,Pの形成(パイル糸Tの編み込み)は、後述する編み機を用いることにより、編地Aの編成や、編地Bの編成や、編地Aと編地Bの連結(連結糸Tの編み込み)などと、同時に行うことができる。パイル糸T(連結糸T以外のパイル糸T)と連結糸Tは、異なる種類の糸を用いてもよいが、本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、同種の糸を用いている。
【0040】
パイル糸Tや連結糸Tには、上述した化学繊維の範疇に属する素材で形成された糸を使用すると好ましい。これにより、浴用ボディタオルの泡立ちや泡持ちを良好にするだけでなく、編地Aと編地Bとの連結強度を高めることも可能になるからである。また、上述したとおり、パイル糸Tは、パイルP,Pが形成されていない面にも連鎖状に現れるため(図7を参照)、パイルP,Pが形成されていない面の肌触りを適度に硬くすることもできる。パイル糸Tや連結糸Tは、採用した化学繊維の種類などによっては、モノフィラメント糸や紡績糸を採用することもできるが、通常、複数本のモノフィラメント糸を束ねたマルチフィラメント糸が用いられる。なかでも、ポリエステルやナイロン6などからなる複数本のモノフィラメント糸を束ねたマルチフィラメントを好適に採用することができる。パイル糸Tや連結糸Tとして用いるマルチフィラメント糸を構成するモノフィラメント糸の本数は、特に限定されないが、通常、5〜100本、好ましくは、7〜70本とされる。パイル糸Tや連結糸Tは、異なる種類の化学繊維からなる異種のモノフィラメント糸を束ねた混繊糸であってもよい。本実施態様の浴用ボディタオルにおいて、パイル糸T及び連結糸Tは、ポリエステルからなる複数本の糸を束ねたマルチフィラメントとしている。パイル糸Tや連結糸Tには、捲縮加工(クリンプ加工)などの加工を施すと好ましい。これにより、パイルP,Pが形成された面の肌触りをより柔らかくするだけでなく、泡立ちや泡持ちをさらに向上させることも可能になる。
【0041】
パイル糸Tや連結糸Tの太さは、特に限定されないが、通常、10〜200テックス、好ましくは、15〜100テックスとされる。パイル糸Tを太くすると、浴用ボディタオルにボリューム感を出して、浴用ボディタオルの使用感を向上させることができる。パイル糸Tによって形成されるループパイル(パイルP,P)や、連結糸Tによって形成されるループパイルのパイル長も特に限定されない。しかし、これらのパイル長を短くしすぎると、パイルP,Pが形成された面を外側に露出させて洗浄面とした場合における浴用ボディタオルの肌触りが十分に柔らかくならないおそれがあるし、反対に長くしすぎると、パイルP,Pが絡まりやすくなるおそれがある。このため、これらのパイル長は、通常、2〜20mm、好ましくは、3〜15mmとされる。本実施態様の浴用ボディタオルにおいて、これらのパイル長は、いずれも約6mmとしている。
【0042】
パイルPとパイルPは、それぞれ編地Aと編地Bにおける略全体に設けてもよいが、本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、図4に示すように、編地Aには、パイルPが形成された区画αと、パイルPが形成されていない区画α’とを交互に設けており、編地Bにも、パイルPが形成された区画βと、パイルPが形成されていない区画β’とを交互に設けている。区画αと区画α’は、それぞれ、編地Aのコース方向に沿って設けられた帯状のものとなっており、編地Aの左側の縁部近傍から右側の縁部近傍までを横断するように設けられている。一方、区画βと区画β’は、それぞれ、編地Bのコース方向に沿って設けられた帯状のものとなっており、編地Bの左側の縁部近傍から右側の縁部近傍までを横断するように設けられている。このため、本実施態様の浴用ボディタオルは、図3に示すように、パイルP,Pが形成された面を外側に露出させた場合には、パイルP,Pが設けられた部分が縞状の模様となって見えるようになっている。このようにすることで、浴用ボディタオルのデザイン性を高めるだけでなく、その肌触りに変化を持たせることも可能になり、パイルP,Pが形成されていない面を洗浄面とした場合であっても、垢すり効果やマッサージ効果を得ることができるようになる。
【0043】
このとき、編地Aにおける区画αと、編地Bにおける区画βは、互いに対向する位置(編地Aの内面と編地Bの内面とが全体的に密着するように浴用ボディタオルを扁平に押し潰した際に重なる位置)に配してもよい。しかし、このように配置すると、本実施態様の浴用ボディタオルのように、編地A及び編地Bにおける左右の縁部付近に編み込まれるパイル糸Tを編地Aと編地Bの両方に編み込んで連結糸Tとする場合に、編地AにおけるパイルPが形成されない区画α’の左右の縁部と、編地BにおけるパイルPが形成されない区画β’の左右の縁部とを、連結糸Tによって互いに連結することができなくなる。したがって、編地Aの左右の縁部と編地Bの左右の縁部とに、互いに連結されない区間が存在するようになり、その部分から浴用ボディタオルが破れやすくなるなどの不具合が生じるおそれがある。
【0044】
このため、本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、図4に示すように、編地Aにおける区画αと編地Bにおける区画βとを互い違いに配しており、区画αと区画βとが互いに対向しない位置(編地Aの内面と編地Bの内面とが全体的に密着するように浴用ボディタオルを扁平に押し潰した際に重ならない位置)となるようにしている。これにより、編地A及び編地Bにおける左右の縁部付近に編み込まれるパイル糸Tを連結糸Tとして利用する場合であっても、編地Aにおける区画αの左右の縁部と編地Bにおける区画βの左右の縁部だけでなく、編地Aにおける区画α’の左右の縁部と編地Bにおける区画β’の左右の縁部も、連結糸Tで連結することができるようになる。
【0045】
ところで、パイル糸Tや連結糸Tの色は、特に限定されないが、編地Aや編地Bを編成する経糸や緯糸と異なる色にすると好ましい。これにより、浴用ボディタオルの外側に露出している洗浄面が、パイルP,Pが形成された面なのか、パイルP,Pが形成されていない面なのかを目視によってさらに容易に識別することが可能になる。本実施態様の浴用ボディタオルにおいては、編地A及び編地Bを編成する経糸及び緯糸を黄緑色とし、パイル糸T及び連結糸Tを白色としている。このため、パイルP,Pが形成されていない面(図7を参照)を目視した場合には、全体的に黄緑色に見え、パイルP,Pが形成された面(図8を参照)を目視した場合には、黄緑色と白色との太目の縞模様が見えるようになっている。
【0046】
4.編み機
本発明の浴用ボディタオルは、別個に編成した編地Aと編地Bとを重ね合わせてその側縁を連結糸Tによって連結することなどにより一体化したものであってもよい。しかし、この場合には、浴用ボディタオルの製造に必要な工程数が増大して、浴用ボディタオルの製造コストを抑えることが困難になる。このため、本実施態様の浴用ボディタオルは、編み機として、コンパウンドニードル型のダブルラッシェル機を用いることにより、編地Aの編成と、編地Bの編成と、パイル糸Tの編み込み(パイルP,Pの形成)と、連結糸Tの編み込み(編地Aと編地Bとの連結)とを、一つの工程で同時に行うことにより編成している。このため、本実施態様の浴用ボディタオルは、製造コストを抑えることが可能なものとなっている。
【0047】
図9に、本実施態様の浴用ボディタオルの編成図を示す。本実施態様の浴用ボディタオルは、図9に示すように、編地A(図9におけるL5及びL6)を編成する連鎖編み用のフロントニードルFにパイル糸T(図9におけるL4)をオーバーラップさせることにより、パイル糸Tを編地Aに編み込むようになっている。編地B(図9におけるL1及びL2)を編成する連鎖編み用のフロントニードルFには、編地Aに編み込まれたパイル糸Tを隔回オーバーラップさせて、パイル糸Tが編地Bに編み込まれないようにする。これにより、図1に示すように、編地Aの内面にループパイル(パイルP)を形成することができる。
【0048】
一方、編地B(図9におけるL1及びL2)を編成する連鎖編み用のバックニードルBにパイル糸T(図9におけるL4)をオーバーラップさせることにより、パイル糸Tを編地Bに編み込む。編地A(図9におけるL5及びL6)を編成する連鎖編み用のフロントニードルFには、編地Bに編み込まれたパイル糸Tを隔回オーバーラップさせて、パイル糸Tが編地Aに編み込まれないようにする。これにより、図1に示すように、編地Bの内面にループパイル(パイルP)を形成することができる。編地A及び編地Bの左右の縁部においては、パイル糸T(連結糸T)を編地Aと編地Bとの両方に編み込むようにすれば、図1に示すように、編地A及び編地Bの左右の縁部に沿った所定箇所を連結することができる。
【0049】
上述の編み機を用いれば、これらの工程を同時に行うことができる。浴用ボディタオルは、図1に示すように、パイルP,Pが形成されていない面が外側に露出した状態で編み機から送り出される。編み機から送り出された浴用ボディタオルは、その後、任意の長さに裁断することができる。浴用ボディタオルの裁断部は、ほつれ防止のために、かがり縫いやまつり縫いなどの端部処理を施してもよい。このようにして得られた浴用ボディタオルは、その内外を裏返すことにより、外側に露出する面を、パイルP,Pが形成された面と、パイルP,Pが形成されていない面とで自由に切り替えることができる。
【符号の説明】
【0050】
A 編地
B 編地
パイル
パイル
連結糸
パイル糸
α 編地Aにおけるパイルが形成された区画
α’ 編地Aにおけるパイルが形成されていない区画
β 編地Bにおけるパイルが形成された区画
β’ 編地Bにおけるパイルが形成されていない区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編地Aと編地Bとが積層され、編地A及び編地Bにおける左右の縁部に沿った所定箇所が互いに連結されることにより、編地Aと編地Bとが一体化されて筒状又は袋状に形成された編物であって、
編地A及び編地Bにパイル糸が編み込まれることにより、編地Aの内面及び編地Bの内面に複数のパイルが形成される一方で、編地Aの外面及び編地Bの外面には前記パイルが形成されず、内外を裏返すことにより、外側に露出する洗浄面を前記パイルが形成された面と形成されていない面とで切り替えることができるようにしたことを特徴とする編物。
【請求項2】
前記複数のパイルのそれぞれがループパイルを形成し、該ループパイルのうち前記所定箇所に配されたループパイルが編地A及び編地Bの両方に編み込まれ、前記所定箇所以外に配されたループパイルが編地A又は編地Bのいずれか一方のみに編み込まれた請求項1記載の編物。
【請求項3】
編地Aに前記ループパイルが形成された区画αと前記ループパイルが形成されていない区画α’とが形成され、編地Bに前記ループパイルが形成された区画βと前記ループパイルが形成されていない区画β’とが形成され、区画αに対向する位置に区画βが配されないようにした請求項2記載の編物。
【請求項4】
編地Aと編地Bとを連結する前記所定箇所が、編地A及び編地Bにおける左右の縁部の全長に亘って設けられた請求項1〜3いずれか記載の編物。
【請求項5】
編地A及び編地Bの編目長が0.2〜10mmである請求項1〜4いずれか記載の編物。
【請求項6】
編地A及び編地Bが天然繊維によって編成され、パイル糸が化学繊維によって形成された請求項1〜5いずれか記載の編物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された編物で形成された洗浄具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−196199(P2010−196199A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42414(P2009−42414)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】